幸せの基準 ⑧

バス停の方に向かって歩いている時、マルコムが「今日は天気もいいしこのままcityに出ようよ」と提案してきた。きちんと化粧もせず普段着で出てきた私はう～んと考えた挙句「一旦家に戻って化粧とか髪とかちゃんとしてからだったらいいけど・・・」と答えた。「ダーリン、君はそのままで十分ビューティフルなんだからそんな必要ないよ」「こんな格好じゃ、誰かに会った時に恥ずかしいわNO，NO！」絶対にいやだと言い張ると、マルコムはしょんぼりとした表情をして大きな目で悲しそうにじっと私を見つめた。（まったく！そんな顔をしたら私がOKすると思って・・・ムカツク）と思いながらも、「わかったわよ。でも長居はしないからね」と結局しぶしぶ承知するハメになってしまった。「じゃあ、あっちのバスに乗らなきゃ」とたんに明るい表情になった彼は、私の手を引...幸せの基準⑧

幸せの基準 ⑦

「モウッ！先に外に出てるからね」昨夜は、イエ～イ独身最後の夜だ～！なんて言って2人で飲みすぎてしまったマルコムのバッチェラーナイト（独身最後の夜に男同士で騒ぐこと）と私のヘンズナイト（同じく女同士で騒ぐこと）は、自分達2人で騒いで過ごしてしまったのでその伝統的な習慣の意味がまったくなかった。「何してるの」ちょっと二日酔いでボーッとしている私よりもさらにのんびりと、マルコムはあれこれカセットテープを探していた。もうウォ－クマンなんて捨てて少しハイテクなものを使ったら？といくら私が勧めても、僕の好きな曲は全部テープに入っているからそんな必要ないんだと彼の答えはいつも同じだった。。。（さすがに今はipodユーザーだけど）タトゥーやピアスといったアメリカの黒人がよくしているファッションも「僕のスタイルじゃないから」と彼...幸せの基準⑦

幸せの基準 ⑥

マルコムの心情（やっぱり・・・彼女が言ってた通りになってしまった）朝からずっと降り続けている雨の音が急に強くなってきた気がした。ナオミの覚悟を聞いてうれしかった反面、自分達のことが彼女を苦しめることになるんじゃないかと考えると憂鬱でたまらなかった。トシとの結婚の話を破談にして、両親の期待を裏切ってしまったことに彼女がとても罪悪感を感じているのも知っていた。「私はずっとしっかり者のお姉ちゃんだったのにね。。。でも、外国人と結婚なんて話をしたら今度こそ縁を切られちゃうかもしれないね」2週間前にワインを飲みながら涙をこぼしていたナオミの姿を思い出し、マルコムは無力な自分が情けなかった。（僕のせいだ、僕が彼女を家族から引き裂いてしまったんだ）ナオミが楽しそうに家族の話をする時、小さい時に両親が離婚していたマルコムはいつ...幸せの基準⑥

幸せの基準 ⑤

私とマルコムの英会話教室がオープンしてから1年が経ち、私達は参加希望した生徒さんと外国人の友達を呼んでパーティーを開いた。30人分のパーティー料理をたった1人で作ることはすごく大変だったけれど（マルコムは週末なので夜通しバイトだった）、普段はマルコムとしか話したことのない生徒さんたちが恥ずかしがりながらも他の外国人と一生懸命話して楽しい時間を過ごしている姿を見ると思わず感動してしまった。努力の甲斐あってパーティーは大成功だった。「君は昨日大変だったから今日の朝食は僕が作るよ」その翌日私達が目覚めたのは正午前だった。ジュージュー、バタバタ・・・キッチンで忙しそうにしているマルコムと昨日のパーティーの話をしながら私は言った。「ところで、今日パパとママに結婚の話するね」「・・・すごく突然だね」いつも結論から話し始める...幸せの基準⑤

幸せの基準 ④

「ナオ！」大きな声で後ろから呼び止められて我に返った私は少し照れながら振り返った。「ごめん、ボーッとしちゃって」待ち合わせのビルの入り口を思わず通り過ぎてしまうところだった私に、OL時代の友達3人が笑いながら手を振った。「久しぶり～！元気？」5か月ぶりに会った私達は久しぶりねと声をかけながらそのビルの地下にあるイタリアンレストランに入っていった。仲良し4人組の1人だった私がオーストラリアから帰国して2年ちょっとが過ぎたこの頃、後の3人は変わらず銀行に勤めていた。別々にオーダーした4種類のパスタを、いつものようにそれぞれお皿を回して味見をしながら昔の上司や後輩達の近況を聞くこのひとときは、以前の私達に戻ったようで私にとっては皆に会える楽しみの1つだった。けれど同僚の3人はOL歴8年目に突入して色々と大変そうだった...幸せの基準④

幸せの基準 ③

「Goodmorningダーリン」「Goodmorning」ある朝私が目を覚ますと、すでに起きていたのか目をパッチリ開けたマルコムの顔がこちらを向いていていつものおはようのkissを交わした。手元の目覚ましを確認するとまだ起き上がるには早い時間帯だったので、もう一度寝なおそうと目を閉じようとしたときマルコムが言った。「君の心の準備ができたら教えてね」「何の準備？」「結婚だよ」「それってプロポーズなの？」思わず目を丸くした私に「YES」と彼は真剣な表情で答えた。「プロポーズって床にひざまずいて僕と結婚してくださいって言うんじゃないの？」突然の彼の言葉にテレて話をそらしてしまった私にマルコムは「そんなのは映画の中だけの話だよ」と苦笑をしながら答えた。とにかく僕の方は準備ができているから君の準備ができたら教えてねとも...幸せの基準③

幸せの基準 ②

カフェバースタイルの英会話教室ということで、年配の人や高校生以下の学生達が来ることはあまりなかったけれど、若いOL、近所の会社帰りのサラリーマン、そして知り合いの紹介などでゆっくりと少しずつ生徒が増えていった。その中に週に1回必ず通ってくるサトミという小柄な26才のOLがいた。グループレッスンとはいえ結局彼女1人になることも度々あり、サトミと私達はだんだんプライベートば話をするようになった。「昨日はベストフレンドのウェディングでした」いつもじっくりと考えてから話すサトミがマルコムに週末は何をしていたのと聞かれて答えた。「えっ～と、ハッピーそうな彼女を見てうれしかったけれどちょっと嫉妬しました」彼女の文法の間違いを少し正した後、マルコムがすかさず尋ねた。「But，why？」「私にはBFがいないし、結婚もできないか...幸せの基準②

幸せの基準 ①

「海外ホテルのセクションはなくなることになったから、君たちにはすまないが今月いっぱいで辞めてもらうことになった」取締役の1人にそういわれたときは、私を含める去年採用されたばかりの3人のスタッフは仰天した親会社である不動産会社がホテルを売却することに決めたというのだ。すぐに失業保険が入ってくるように「会社都合の解雇」にするけれど退職金は出せないと横柄な態度で告げられて私達は憤った。新しいパンフレットも半年前に作ったばかりだし、何件かの旅行会社とも「ツアーにうちのホテルを使ってください」と一生懸命交渉している最中だった。赤字が続いていたのは出張に行く度にビジネスクラスを使い、交際費も派手に使っていた経済観念と危機管理意識に欠けた取締役達のせいであって、私達は夢を持って仕事に励んでいたのだ。（このまま黙って辞めるわけ...幸せの基準①

しっぺ返し ⑪

予定通り出発から1ヶ月後にマルコムが帰ってきた。平日だったので私は空港に彼を迎えに行くことができず、朝からやきもきしながら仕事が終わるのをひたすら待っていた。「ハーイ、ダーリンタダイマ！」5時30分ぴったりに会社を出て彼の住む外人ハウスに駆けつけた私に、うれしそうにマルコムがハグとキスをしながらそう言った。しばらく会えなかった彼を久しぶりに見たとき、少し照れくさかったけれどうれしくていとおしくて仕方がなかった。「カナダに行って、君が本当に大切だってことが今まで以上によく分かったよ」6年ぶりに家族に会ったマルコムは、大好きなグランマや他のファミリーに会えたのもすべて君のおかげで日本に来ることができたからだよと言って何度も感謝の言葉を口にした。そしてその言葉どおり、帰国してからのマルコムはグランマから教えてもらった...しっぺ返し⑪

しっぺ返し ⑩

「もしもし？」相手が電話を切ってしまったのかと思ってもう一度言ってみると消え入りそうな声で「ナオ？」と聞こえてきた。「ナオミだけど、誰？」濡れた体を拭きながらせっかちにそう聞くと「チカよ。ごめんね、こんな時間に電話して・・・」と声の主が返事した。「ああ、チカ？いいわよ、でもどうしたの？ちょっと声が遠いみたいで聞き取りにくいんだけど」「大変なの・・・。どうしたらいいか分からなくて、私」「何かあったのチカ？大丈夫？」「私は大丈夫なんだけど・・・ウッ・・・ウッ・・・」必死でこらえようとしているような泣き声が聞こえてきた。受話器を握り締めながら私が何も言わずにその先を待っていると、さらにその泣き声が大きくなった。チカが何も言わなくてもその泣き声で何かひどく恐ろしいことが起こったんだと直感した瞬間、私の目からも涙がこぼれ...しっぺ返し⑩