汎武 さん プロフィール

  •  
汎武さん: はなし汎武ん
ハンドル名汎武 さん
ブログタイトルはなし汎武ん
ブログURLhttp://hanbu-y.blog.so-net.ne.jp/
サイト紹介文日常のあれこれ、本の事、誰彼の事、合気道の事等々、諸事への思いを整列させることもなく書いております。
自由文写真やイラストなど殆どない、文字だけの地味なブログです。全体のトーンはエッセイ風でありましょうか。ま、ちょっと創作ものも入っていますし、批評めいたものも煩わしくない範囲で書いております。よろしければ覘いてみてください。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供171回 / 365日(平均3.3回/週) - 参加 2009/02/10 14:27

汎武 さんのブログ記事

  • お前の番だ! 595
  • 「まあ、形の上では、それはそうだがな」 是路総士は笑いながら茶を啜るのでありました。「今からお前に親炙せんとする人間が増えると云う事だから、次期宗家としてお前も着々と頼もしくなっておるなあ」 この言葉は是路総士の好意的な笑顔の上に乗っているのでありました。「僕は特段そのような心算はないのですが」 万太郎は頭を掻くのでありました。「しれっとしたそう云うお前の様子がまた、頼もしいところとも云える」 是 [続きを読む]
  • お前の番だ! 594
  • 「いや、オイは未だ弟子ば取る立場じゃなかですけん」 万太郎はそう云って重井少年を見るのでありました。重井魂太は万太郎の言葉にまるでいきなり梯子を外されたように、如何にも情けなさそうな表情を返すのでありました。「折野しぇんしぇいの弟子になられんとなら、東京に行く甲斐のなかごとなるです」 重井魂太はそう云って俯くのでありました。特に意図したわけではなかったにしろ、聞き様に依ってはつれない一言であったか [続きを読む]
  • お前の番だ! 593
  •  万太郎のこのような試合を下座に居並ぶ門弟達の一番隅で、まだ高校生程の歳と思しき一人が、食い入るように見つめているのが万太郎の目の端に映るのでありました。その少年は万太郎の最後の対戦者として、角鼻先生から名前を呼ばれるのでありました。 少年は躍り出てきて万太郎と対峙するとお辞儀の後に木刀を正眼に構えて、剣道試合で身につけたのであろう、甲高い気合の一声を先ず万太郎にぶつけてくるのでありました。やや血 [続きを読む]
  • お前の番だ! 592
  • 「角鼻しぇんしぇいに武道の芽ば育てて貰うたからて思うとります」 万太郎はなかなかそつのない事を云うのでありました。それを聞いて角鼻先生は嬉しそうに何度か頷くのでありました。「この前の日本武道館の古武道演武大会の演武とか、剣道とか合気道の現代武道の大会でお前がゲストで出て、そこでもえらい好評やったらしかね。九州の方にもちゃんと伝わってきとるばい。テレビのニュース番組でちらって出とったとば見たばってん [続きを読む]
  • お前の番だ! 591
  • 「主だった対外行事や会合、演武会等の招待には、宗家代理としてお前が出るように」 是路総士のこの指令は、万太郎を常勝流の新しい顔として売り出そうと云う腹積りからありますし、武道界全体に万太郎が常勝流の正式な継承者さである事を公然化する狙いであります。万太郎自身も武道界に限らず様々な世界の様々な人士と交流して、その交誼を得て次期宗家としての人脈形成に努めよと云う命でもありましょう。 人づきあいが苦手と [続きを読む]
  • お前の番だ! 590
  •  田依里師範は総本部道場で稽古する場合は白帯を締めて稽古に臨むのでありました。是路総士は時々自分の門弟も同道して来る一派の主幹たる田依里師範の体裁に配慮して、黒帯を締めても構わないと云ったのでありましたが、田依里師範はそれでは余りに遠慮がなさ過ぎると自ら固辞して、特に抵抗もなく白帯姿に甘んじるのでありました。 興起会は打撃中心で試合重視の格闘技系会派でありましたから、田依里師範の連れて来る門弟の中 [続きを読む]
  • お前の番だ! 589
  • 「あら、でも、あたしの方が先だと思うわよ」「いやあ、僕の方が先ですね、どう考えても」「そうかしら。屹度そうじゃないと思うんだけど」「どっちでもよろしい」 是路総士が呆れた顔で云い棄ててから残りの茶を飲み干すのでありました。「その辺は後で、二人になってからゆっくり云い争え」 そう云われて万太郎とあゆみは顔を見あわせて笑みあうのでありました。是路総士としては二人の睦みあいにこれ以上つきあうのは馬鹿らし [続きを読む]
  • お前の番だ! 588
  • 「つまり万太郎は、結局二人の人間を心服させる事に成功したのかも知れないな」 是路総士がまた湯呑を口に持っていくのでありました。勿論もう一人とは、万太郎にぶん投げられて総本部に入門し、今では内弟子になっている真入増太であります。「実際のところ、僕は若先生に対してそんな手応えは全く感じなかったのですがね。まあ、真入に対しても、同じだったのですが」「それは当人としてはそんな実感は持たないのが当たり前だろ [続きを読む]
  • お前の番だ! 587
  • 「真入、今日の風呂は一人で勝手気儘に入らせて貰うから、お前はもう、内弟子部屋の方に下がっていても構わないぞ」 是路総士は居間の廊下側の敷居辺に控える真入に告げるのでありました。「押忍。ではこれで下がらせていただきます」 真入はお辞儀すると襖を静かに閉めてその向こうに消えるのでありました。是路総士は三人分の茶を持ってきた来間にも下がって構わないと告げるのでありました。「押忍。ではお言葉に甘えてそうい [続きを読む]
  • お前の番だ! 586
  • 「どうかな。ご存知じゃないのかも知れないですね。その話しは道分先生からすぐに、なかった事にしてくれと云う申し出がありましたからね」「しかし親子兄弟なんだから、知らない事もないように思うが」「いや、若しご存知だったら返って、若先生に祝電を打て等と指示はされないでしょう。お兄さんはその辺の機微に関しては弁えのある方のようですし」「そうね。それもそうよね。第一お兄さんの指示と云うものも、全くの推察なんだ [続きを読む]
  • お前の番だ! 585
  •  この真入は意外に少年部には人気者なのでありました。さして子供あしらいが上手いと云うのではないのでありますが、子供がどんなに手荒な戯れを仕かけていっても、それをその巨体故に蚊に集られた程度にビクともせず受け止め、何時もニコニコして小言一つも云わない辺りが、子供にとっては大いに懐きやすいのでありましょう。 その顔と風体から真入は子供が嫌いであろうと万太郎は踏んでいたのでありましたが、これも豈図らんや [続きを読む]
  • お前の番だ! 584
  •  さて、新入り内弟子の真入増太の事を少し述べておけば、万太郎が八王子の洞甲斐先生の道場に談判に行って、行きがかりから手酷くぶん投げた翌日、早速に総本部道場を訪って玄関で土下座して入門を請うた程でありますから、門人となる意気ごみの程は充分と云えたでありましょうか。特に万太郎に対しては謹直であるのは云う迄もないのでありましたが、その分来間や準内弟子連中、それに時には鳥枝範士や寄敷範士、当時は花司馬教士 [続きを読む]
  • お前の番だ! 583
  •  万太郎が総務長と云う地位に就いたので、あゆみの道場長と云う役職はなくなるのでありました。依って序列としては是路総士、万太郎、その下に鳥枝範士と寄敷範士、それからあゆみと花司馬範士は同格でそのまた下、最下位に来間、新内弟子の真入増太は新入りだけに前から居る準内弟子の連中よりも格下扱いでありますし、各地に散らばる支部長連はあゆみと花司馬範士と、その下の来間との間に位置する事になるのであります。 万太 [続きを読む]
  • お前の番だ! 582
  •  その大岸先生と是路総士でありますが、この二人の取りあわせなんと云うものは、こうして一緒に過ごす時間が多くなってみると、それは長年添い慣れた夫婦の趣なんぞも、あると云えばあるような具合でありましたか。まあ、惚れた腫れたの感情は別としても、何となくお似あいの二人だと云う風情は万太郎もあゆみも感じているのでありました。「この頃お父さんの顔がやけに柔和になったのは、屹度大岸先生にあれこれ身の回りの世話を [続きを読む]
  • お前の番だ! 581
  •  玄関先で未だ明け遣らぬ空を見上げる万太郎にあゆみが声をかけるのでありました。「今日が愈々最終日ね」「うん。やっと今日で終わりだ」 万太郎は玄関内で見送るあゆみの方に目を向けて笑むのでありました。「お疲れ様でした」 あゆみは何となく畏まった風情でお辞儀をするのでありました。この日で竟に三か月に及ぶ是路総士と万太郎だけの、宗家のみに受け継がれる常勝流秘伝技の伝授稽古が終わるのでありましたが、これは通 [続きを読む]
  • お前の番だ! 580
  • 「僕の言葉を疑わないでください」 万太郎は胸元に艶やかに蟠っているあゆみの髪の奥の耳朶に囁くのでありました。あゆみは頬を万太郎の胸に埋めた儘小さく頷くのでありました。「判ってる。万ちゃんは言葉を弄ばない人だと云う事は」「総本部に入門して以来、僕はあゆみさんにお世話になりっ放し今日まで来ました」 万太郎が静かに云うとあゆみは、今度はすぐに万太郎の懐に埋めた儘の顔を微かに横にふるのでありました。「・・・ [続きを読む]
  • お前の番だ! 579
  • 「万ちゃんさあ」 あゆみが言葉を切って徐に夜空を見上げるのでありました。「婿養子になったり、稽古以外の煩わしい仕事ばかりが多い宗家なんかに将来させられたりとかするんで、本当は今、あたしと結婚するのを少し後悔しているんじゃない?」「後悔、ですか?」 万太郎はそう云ってあゆみの方を見るのでありました。しかしあゆみは夜空を見上げた儘で万太郎の方に顔を向けないのでありました。 万太郎はゆっくりとあゆみから [続きを読む]
  • お前の番だ! 578
  • 「そう云えばその折、香乃子ちゃんからあたし相談を受けたわね」 あゆみが懐かしむような顔つきをするのでありました。「いざとなったら自分が働いて良君との生活を守る、なんて香乃子ちゃんが健気に決意表明していたのを思い出すわ」 香乃子ちゃんはそんな話しを出し抜けにあゆみが持ち出すものだから、何となくはにかむような笑いを両頬に広げるのでありました。「あたしから云わせれば、あゆみ先生と折野さんの結婚も大丈夫だ [続きを読む]
  • お前の番だ! 577
  • 「あ、どうも」 万太郎はニヤけた顔でお辞儀しながら頭を掻いて見せるのでありました。「何だか万ちゃんの宗家継承を激励する調子から、あたしと万ちゃんに対する冷やかしに話しの中身が変わって仕舞ったんじゃない事?」 あゆみは良平に話しの内容が急に変調した事に対して不満を述べるのでありました。「いや、良いんですよ、本来今日はあゆみさんと万さんの冷やかしの会なんですから」 そう云われて仕舞えば、あゆみとしても [続きを読む]
  • お前の番だ! 576
  •  良平が万太郎の意中を察したように威治元宗家の名前を出すのでありました。「あの人には今の万さんに有る威徳も人望も、それに武道家としての資質も何もなかったからなあ。有るとすれば、人一倍の見栄と増長と怠慢くらいだったから、それでは人が心服しないのが当たり前だ。あの人と比較するのは自己卑下にも程があると云うものだ」「あたしもそう思うわ」 あゆみが頷くのでありました。「威治さんと万ちゃんでは全く格が違うと [続きを読む]
  • お前の番だ! 575
  •  良平がまた一献万太郎の猪口に酒を注ぐのでありました。「しかし、実際のところ、僕如きが本当に、将来総士先生の後を継いで常勝流を束ねる役目について良いのでしょうかねえ?」 万太郎が返杯しながら、ふとそんな事を漏らすのでありました。「他に誰が居る?」 そう良平に問われて、万太郎は横のあゆみを窺うような気配を見せるのでありました。しかしそれにはあゆみは気づかないようでありました。「他にも適役が居ると思う [続きを読む]
  • お前の番だ! 574
  • 「習い性と云うのか、竟どうしても下手に出て仕舞うのです」「万ちゃん、何時も云うけどさあこうなったからにはその内屹度、その態度は改めてね」 あゆみが懇願六分に命令四分の口調で云うのでありました。「押忍。鋭意頑張ってみます」 万太郎は生真面目な顔つきで軽くお辞儀するのでありました。「何か、この先もずうっと、ひょっとしたら一生、あゆみさんと万さんはこんな風な調子でいきそうな予感がするなあ、俺としては。」 [続きを読む]
  • お前の番だ! 573
  • 「へえそうですか。先ず武道の上で兜を脱いで、それからそうなると自然に、個人としての気持ちの兜の方も脱ぐ事になったと云うわけだ。成程ねえ」 良平としては少し気の利いた云い回しの心算でありましょうが、然して唸る程の科白とも思えなかったので、万太郎は無表情の儘で自分の猪口を口に運ぶのでありました。干した猪口に香乃子ちゃんがすぐに酒を注いでくれるのでありました。「急に万ちゃんが頼もしく思えてきたし、この人 [続きを読む]
  • お前の番だ! 572
  • 「まあ、要するにそうなんだけど、でも万ちゃんの助太刀と云うのも、考えてみれば烏滸がましい話しよね。あたしより万ちゃんの方が武道の実力は遥かに上なんだから」「しかしそうであっても、切羽つまった心根は理解してくれと、そう云う事ですかね」 良平が心理分析的な評言を述べるのでありました。「で、万さんの方としてはそのあゆみさんの心根に甚く感じ入って、それで話しのトントン拍子に到ったと云うわけだ」「ちょっとげ [続きを読む]
  • お前の番だ! 571
  • 「折野さんも優しいから、屹度すごい愛妻家になると思うわ」 香乃子ちゃんが云うのでありました。「それは確かにそうだろうな。その点に関しては俺も受けあうな」 その良平の言葉を受けてか、あゆみがまた万太郎の顔を見るのでありました。それは本当に愛妻家になってくれるかと訊き質されているようで、万太郎は何となくたじろぎ等を覚えるのでありましたが、まあ、自分はそうなるだろうと思うのでありましたけれど。「ところで [続きを読む]