汎武 さん プロフィール

  •  
汎武さん: はなし汎武ん
ハンドル名汎武 さん
ブログタイトルはなし汎武ん
ブログURLhttp://hanbu-y.blog.so-net.ne.jp/
サイト紹介文日常のあれこれ、本の事、誰彼の事、合気道の事等々、諸事への思いを整列させることもなく書いております。
自由文写真やイラストなど殆どない、文字だけの地味なブログです。全体のトーンはエッセイ風でありましょうか。ま、ちょっと創作ものも入っていますし、批評めいたものも煩わしくない範囲で書いております。よろしければ覘いてみてください。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供173回 / 365日(平均3.3回/週) - 参加 2009/02/10 14:27

汎武 さんのブログ記事

  • お前の番だ! 569
  •  指定の鋤焼き屋に着くと万太郎とあゆみは二階十畳間の個室へと招じ入れられるのでありました。そこには既に良平夫婦が座っていて、万太郎はあゆみ共々満面の笑顔で迎え入れられて、上座に揃って着座させられるのでありました。「この度は慎におめでとうございます」 良平夫婦は下座から律義なお辞儀をするのでありました。ざっくばらんな宴の心算で来たので、万太郎は良平の格式張った所作に先ず少しく戸惑うのでありました。「 [続きを読む]
  • お前の番だ! 568
  •  寄敷範士がそう宣すると一同から、異議なし、の声が上がるのでありました。「理事の皆さん、どうも有難うございました。こうなった限りは、あゆみさんを一生かけて大事にしますと伴に、常勝流の発展のために益々微力を尽くす心算であります」 万太郎が立ち上がって云うと、横に座っていたあゆみも一緒に立って、居並ぶ理事連に向かって二人して深々とお揃いにお辞儀をするのでありました。期せずして理事連から、おめでとう、や [続きを読む]
  • お前の番だ! 567
  • 「牛路先生、どうも有難うございます」 是路総士は立った儘、牛路理事にお辞儀するのでありました。「ただし、・・・あゆみちゃんに折野君、こう云う事を聞いて気を悪くしなさんなや」 牛路理事は万太郎とあゆみに済まなさそうな笑いを投げるのでありまいた。「如何せんずっと先の事だから、ひょっとして二人が不仲になって離別したり、或いはそんな事は先ずないと思うのだが折野君が不幸にも早世するとか、まあ、明日をも知れぬ娑 [続きを読む]
  • お前の番だ! 566
  • 「あゆみとの話しではなかなか殊勝に、真摯に、はたまたそれなりの覚悟を持って、常勝流の将来の事を只管考えている感が大いに伝わってきましたよ」 またまた寄敷範士に交代でありますが、まるで芝居の台詞割りのようであります。「あゆみの常勝流の将来を一途に思うその心根に、私なんぞは強く打たれました」 これは寄敷範士の聞き及んだあゆみの了見に対するかなりの修飾的言辞であると云うべきでありますか。実際のところは両 [続きを読む]
  • お前の番だ! 565
  •  万太郎とあゆみの結婚に関しては、万太郎が是路家に養子に入ると云う点を確認出来た時点で、特段の反対意見は出ないのでありました。当人同士がそうしたいのならあゆみの父親たる是路総士が許せば、当然ながら是路家内の問題でありますから、それはそれで理事連のとやこう云うべき筋ではないというのが大方の意見でありましたか。 万太郎が婿養子に入る件は、既に熊本の万太郎の両親及び親族からは快諾が得られているのでありま [続きを読む]
  • お前の番だ! 564
  •  真入増太は翌日からほぼ毎日、稽古に通ってくるのでありました。住んでいるところが相模原のようでありますから、調布の総本部道場に通うにはなかなかの時間がかかるでありましょうが、それを苦にしない意気ごみがその巨体から溢れているのでありました。 最初の頃は夜の一般門下生稽古だけに来ていたのでありましたが、一月ほどして稽古に慣れてくると、その前の時間の専門稽古にも顔を出すようになるのでありました。始めの頃 [続きを読む]
  • お前の番だ! 563
  •  姉弟子の提案、しかも今では、相愛の将来の伴侶たる者の提案でありますから、万太郎としても拒むわけにはいかないのでありました。まあ万太郎も、洞甲斐氏の甥っ子で、昨日捩じこんだ相手側の者がこうして早速に入門しに来たと是路総士に紹介する事に、些か面白味を感じはするのでありましたから敢えて拒む理由もないでありますか。 是路総士の前で横着で不謹慎な真似を働かないか、その点が万太郎としてはやや不安でありました [続きを読む]
  • お前の番だ! 562
  • 「ああ、その事です」 真入増太は居住まいを正して万太郎を縋るような目で見るのでありました。「折野先生、どうか俺を助けると思って、うん、と云ってください」 助ける義理は特に何もないと万太郎は思うのでありましたが、つれなく首を横にふるのも何やら申しわけない思いがするのでありました。しかし、未だ内弟子身分の自分が弟子を取るなんと云うのは、全く以ってあろう筈のない話しであります。「自分の弟子に、と云うのは [続きを読む]
  • お前の番だ! 561
  •  万太郎は真入増太を玄関前の受付兼内弟子控え室に通すのでありました。あゆみと来間も一緒に入るのでありましたが、来間には茶を持ってくるよう命じるのでありました。「一生のお願いですから、どうぞ弟子にしてください」 真入増太は畏まって正坐して、万太郎にもう一度同じ言葉を発して深いお辞儀をするのでありました。万太郎は処置に困じたように隣に座るあゆみを見るのでありました。「いきなりそんな事を云われても。・・・ [続きを読む]
  • お前の番だ! 560
  •  来間が云うように確かに無愛想面で玄関に仁王立ちししている男が誰であるのか、万太郎はすぐにピンとくるのでありました。それは昨日八王子の洞甲斐氏の道場に居た、洞甲斐氏の甥でずんぐりむっくりとノッポ兄弟の、ノッポの方なのでありました。 昨日の今日、こうして早速に万太郎を訪ねるのと云うは一体どういう了見なのでありましょうか。昨日万太郎に手酷く投げられた意趣返しにでも来たのでありましょうや。 そうなら返り [続きを読む]
  • お前の番だ! 559
  • 「しかし適任と云う点に於いて、あゆみさんの方が僕よりは諸条件が数段優っているだろうと思いますよ。それに女性が宗家になった実例も、稀ではあるものの実際あるのですから。あゆみさんが宗家を継いだ暁には、僕が全力でサポートして見せますよ」「万ちゃんにそう云って貰うとそれ以上の心強さはないけれど、でも矢張り、事態がすんなり収まる処に収まるのは、万ちゃんが宗家になる事のような気がどうしてもするわ」「僕はあゆみ [続きを読む]
  • お前の番だ! 558
  •  あゆみは続けるのでありました。「お父さんもその頃そう感じていたらしくて、折野は稽古にのめりこむタイプだし、そうやって精進している内に、常勝流の妙味のようなものを、まあ、端緒に過ぎないだろうが何か掴んだのだろう。精進してもそれを得る事の出来る人間は稀有なのだが、折野は屹度その稀有な内の一人だろう、なんて云っていたわよ」「その頃、稽古が段々面白くなっていったのは、それはまあ確かですが、・・・」 万太郎 [続きを読む]
  • お前の番だ! 557
  • 「困ったわね」 あゆみは口をへの字にするのでありました。こう云うあゆみの顔もなかなか棄て難く可憐であると、万太郎は会話の内容とは全く無関係な感想など抱くのでありました。「鋭意努力はしてみますが、どうぞ長い目でお見守りください」 万太郎が一種の茶目っ気でそう敢えて鯱張った物云いをしているのか、それとも全くの生一本の生真面目からのそんな風にものしているのか、あゆみにはその辺がよく判らないのでありました [続きを読む]
  • お前の番だ! 556
  • 「新宿で何をしますか?」「映画でも見る?」「そう云えば来間が新宿に映画を観に出かけていますから、確率は低いものの、ひょっとしたら向こうで出くわすかも知れませんよ」 まあ、出くわしても別に構わないかと、云った後で万太郎は思うのでありました。しかしあゆみと自分が仲睦まじく寄り添っている姿を見た来間に、経緯を縷々述べると云うのも何となく気が重いと云うのか、きまりが悪いと云うのか。・・・「ああそう。注連ちゃ [続きを読む]
  • お前の番だ! 555
  • 「ああそうだ」 あゆみが急に何か思いついたように云うのでありました。「あたしと万ちゃんは、今日どうしても行かなければならない処があって、だから朝の残りの御御御付けと卵焼きでお父さんのお昼を出したら、すぐに出かける心算だったんです。若し良かったら大岸先生、この料理でお父さんのお昼のお相手をして頂けたらとても嬉しいのですけど」「それは別に構わないけど、でも、不意に来て図々しくないかしら?」「とんでもな [続きを読む]
  • お前の番だ! 554
  • 「ああそうですか」 と云う事は、万太郎はこの儘あゆみと密着して座って、左手を弄ばれ続けなければならないと云う事であります。万太郎としては慎に気づまりな緊張状況と云うものではありましたが、まあしかし、そんなに嫌な状況と云うわけではないのでありました。「万ちゃんの掌って、指のつけ根は剣胼胝で固くなっているいけど、掌全体は意外に柔らかいのね。こうして改めて触ってみて判ったんだけどさ」 あゆみは飽かず万太 [続きを読む]
  • お前の番だ! 553
  • 「これからあたしが万ちゃんを屹度説得するから、お父さんもそう云う方向で考えてみてくれると、あたしとしてはこれ以上の願いはないんだけど」 あゆみは、万太郎が宗家を継ぐと云うアイデアについて考えを廻らしているような是路総士に、懇願の目を一直線に向けるのでありました。是路総士はあゆみのその表情を横目でチラと見てから、すぐにまた念慮の方に視線を内向させるのでありました。「昨夜一晩考えて、どうせ周りがいくら [続きを読む]
  • お前の番だ! 552
  •  是路総士にすればあゆみからその言が出るかも知れないと云うのは、予め想定の内であったようでありますか。是路総士はあゆみから徐に視線を外すのでありました。「ではあゆみは、宗家の継承問題に関してどのような考えを持っているのか?」「古武道の世界は旧態を尊ぶ風習があるから、女のあたしが宗家になるのは、どこか不自然な印象だと思うのよ。例えあたしがお父さんの一人娘であっても」 あゆみはそう云ってから自得するよ [続きを読む]
  • お前の番だ! 551
  •  是路総士は万太郎の目を見据えてそんな事を訊くのでありました。「熊本はその辺は色々煩い土地柄ですが、僕は長男ではありませんから、それは越えられないハードルではありません。僕は実家を屹度説得して見せます」「ああそうか」 是路総士は小さく頷くのでありました。「お前自身も、自分の姓が変わる事、それに養子となる事に対して抵抗はないのかな?」「あゆみさんと一緒になれると云うのに、そんな事には拘っておられまま [続きを読む]
  • お前の番だ! 550
  •  特に急いで取り繕う必要もないのでありましたが、万太郎は文庫本を閉じると同時にガバと上体を起こして、身繕いして正坐してから襖の方に体を向けるのでありました。「ああ、居ます。どうぞ」 すぐに襖が開いてあゆみが顔を覗かせるのでありました。「特に用がないのならお父さんが二人揃って師範控えの間に来いって呼んでいるけど」「押忍。判りました。では」 万太郎はそう云って立ち上がるのでありました。洞甲斐氏の道場で [続きを読む]
  • お前の番だ! 549
  • 「いやどうも、なかなかどうして、目の遣り場に困りますなあ」 花司馬教士の笑い声が後ろから万太郎の肩に軽く当たるのでありました。またふり返ると花司馬教士は、掌で自分の首筋を扇ぐ真似をして見せるのでありました。 花司馬教士の手前これは何とも決まりが悪いし、かと云ってあゆみの腕を断固ふり解く程の勇気もないし、そうするにはちと惜しい、なんと云う助平心もありで、万太郎は体を固くして前を向いてあゆみの歩調に滞 [続きを読む]
  • お前の番だ! 548
  •  万太郎は先程言葉を制せられたあゆみのように、不承々々といった風情でまた正坐に戻るのでありました。万太郎が膝行して障子戸を開けて畏まり、あゆみと花司馬教士が座礼する中を、是路総士は何となく急ぎ足で師範控えの間を出て行くのでありました。「じゃあ、自分もこれで失礼致しましょう」 是路総士の姿が消えてから、花司馬教士が万太郎とあゆみに一礼してから立つのでありました。万太郎とあゆみも少し遅れてゆっくりと立 [続きを読む]
  • お前の番だ! 547
  • 「そう云った話しをするには、私は何の用意もしていない」 是路総士がへの字に曲げた口の端から無愛想に言葉を漏らすのでありました。「どうやらこうして並んで座っていらっしゃる様をお見受けしておりますと、お二人のお気持ちは既に互いに確認済、と云った風情に見えます。恐らく八王子からの帰路、街中を歩いていても電車に並んで座っていても、ずっと、そう云った辺りを、言葉少なながらも互いに見交わす目と目で以って、しっ [続きを読む]
  • お前の番だ! 546
  •  万太郎は困じて唸るのでありました。花司馬教士が云うように確かにここは良い折ではありますが、しかしいざとなるとどうにも腰が引けて仕舞うのでありました。「最初に云っておかなければいけないのは、あたしが後を追って八王妃まで行くなんて、万ちゃんは端から思いも依らなかったと云う事です」 万太郎の方は腰が引けた儘であるのに対して、あゆみがそれまで瞑目していた眼をしっかと見開いて、是路総士に一直線に視線を向け [続きを読む]
  • お前の番だ! 545
  • 「まあ、折野の言葉をどう受け取るかは、威治君の心次第だな」 是路総士は自得するように小さく一つ頷くのでありました。「慎思して感ずるところがあったなら、威治君は何時か総本部道場に屹度やって来るだろうし、相変わらずに受け止めただけなら、現れないだろうよ。それはもう折野の手を離れた問題となろうな」「若し遣って来たなら、少しくらいは見直しても良いすがね」 花司馬教士が多少皮肉っぽく云うのでありました。二人 [続きを読む]