汎武 さん プロフィール

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汎武さん: はなし汎武ん
ハンドル名汎武 さん
ブログタイトルはなし汎武ん
ブログURLhttp://hanbu-y.blog.so-net.ne.jp/
サイト紹介文日常のあれこれ、本の事、誰彼の事、合気道の事等々、諸事への思いを整列させることもなく書いております。
自由文写真やイラストなど殆どない、文字だけの地味なブログです。全体のトーンはエッセイ風でありましょうか。ま、ちょっと創作ものも入っていますし、批評めいたものも煩わしくない範囲で書いております。よろしければ覘いてみてください。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供172回 / 365日(平均3.3回/週) - 参加 2009/02/10 14:27

汎武 さんのブログ記事

  • お前の番だ! 581
  •  玄関先で未だ明け遣らぬ空を見上げる万太郎にあゆみが声をかけるのでありました。「今日が愈々最終日ね」「うん。やっと今日で終わりだ」 万太郎は玄関内で見送るあゆみの方に目を向けて笑むのでありました。「お疲れ様でした」 あゆみは何となく畏まった風情でお辞儀をするのでありました。この日で竟に三か月に及ぶ是路総士と万太郎だけの、宗家のみに受け継がれる常勝流秘伝技の伝授稽古が終わるのでありましたが、これは通 [続きを読む]
  • お前の番だ! 580
  • 「僕の言葉を疑わないでください」 万太郎は胸元に艶やかに蟠っているあゆみの髪の奥の耳朶に囁くのでありました。あゆみは頬を万太郎の胸に埋めた儘小さく頷くのでありました。「判ってる。万ちゃんは言葉を弄ばない人だと云う事は」「総本部に入門して以来、僕はあゆみさんにお世話になりっ放し今日まで来ました」 万太郎が静かに云うとあゆみは、今度はすぐに万太郎の懐に埋めた儘の顔を微かに横にふるのでありました。「・・・ [続きを読む]
  • お前の番だ! 579
  • 「万ちゃんさあ」 あゆみが言葉を切って徐に夜空を見上げるのでありました。「婿養子になったり、稽古以外の煩わしい仕事ばかりが多い宗家なんかに将来させられたりとかするんで、本当は今、あたしと結婚するのを少し後悔しているんじゃない?」「後悔、ですか?」 万太郎はそう云ってあゆみの方を見るのでありました。しかしあゆみは夜空を見上げた儘で万太郎の方に顔を向けないのでありました。 万太郎はゆっくりとあゆみから [続きを読む]
  • お前の番だ! 578
  • 「そう云えばその折、香乃子ちゃんからあたし相談を受けたわね」 あゆみが懐かしむような顔つきをするのでありました。「いざとなったら自分が働いて良君との生活を守る、なんて香乃子ちゃんが健気に決意表明していたのを思い出すわ」 香乃子ちゃんはそんな話しを出し抜けにあゆみが持ち出すものだから、何となくはにかむような笑いを両頬に広げるのでありました。「あたしから云わせれば、あゆみ先生と折野さんの結婚も大丈夫だ [続きを読む]
  • お前の番だ! 577
  • 「あ、どうも」 万太郎はニヤけた顔でお辞儀しながら頭を掻いて見せるのでありました。「何だか万ちゃんの宗家継承を激励する調子から、あたしと万ちゃんに対する冷やかしに話しの中身が変わって仕舞ったんじゃない事?」 あゆみは良平に話しの内容が急に変調した事に対して不満を述べるのでありました。「いや、良いんですよ、本来今日はあゆみさんと万さんの冷やかしの会なんですから」 そう云われて仕舞えば、あゆみとしても [続きを読む]
  • お前の番だ! 576
  •  良平が万太郎の意中を察したように威治元宗家の名前を出すのでありました。「あの人には今の万さんに有る威徳も人望も、それに武道家としての資質も何もなかったからなあ。有るとすれば、人一倍の見栄と増長と怠慢くらいだったから、それでは人が心服しないのが当たり前だ。あの人と比較するのは自己卑下にも程があると云うものだ」「あたしもそう思うわ」 あゆみが頷くのでありました。「威治さんと万ちゃんでは全く格が違うと [続きを読む]
  • お前の番だ! 575
  •  良平がまた一献万太郎の猪口に酒を注ぐのでありました。「しかし、実際のところ、僕如きが本当に、将来総士先生の後を継いで常勝流を束ねる役目について良いのでしょうかねえ?」 万太郎が返杯しながら、ふとそんな事を漏らすのでありました。「他に誰が居る?」 そう良平に問われて、万太郎は横のあゆみを窺うような気配を見せるのでありました。しかしそれにはあゆみは気づかないようでありました。「他にも適役が居ると思う [続きを読む]
  • お前の番だ! 574
  • 「習い性と云うのか、竟どうしても下手に出て仕舞うのです」「万ちゃん、何時も云うけどさあこうなったからにはその内屹度、その態度は改めてね」 あゆみが懇願六分に命令四分の口調で云うのでありました。「押忍。鋭意頑張ってみます」 万太郎は生真面目な顔つきで軽くお辞儀するのでありました。「何か、この先もずうっと、ひょっとしたら一生、あゆみさんと万さんはこんな風な調子でいきそうな予感がするなあ、俺としては。」 [続きを読む]
  • お前の番だ! 573
  • 「へえそうですか。先ず武道の上で兜を脱いで、それからそうなると自然に、個人としての気持ちの兜の方も脱ぐ事になったと云うわけだ。成程ねえ」 良平としては少し気の利いた云い回しの心算でありましょうが、然して唸る程の科白とも思えなかったので、万太郎は無表情の儘で自分の猪口を口に運ぶのでありました。干した猪口に香乃子ちゃんがすぐに酒を注いでくれるのでありました。「急に万ちゃんが頼もしく思えてきたし、この人 [続きを読む]
  • お前の番だ! 572
  • 「まあ、要するにそうなんだけど、でも万ちゃんの助太刀と云うのも、考えてみれば烏滸がましい話しよね。あたしより万ちゃんの方が武道の実力は遥かに上なんだから」「しかしそうであっても、切羽つまった心根は理解してくれと、そう云う事ですかね」 良平が心理分析的な評言を述べるのでありました。「で、万さんの方としてはそのあゆみさんの心根に甚く感じ入って、それで話しのトントン拍子に到ったと云うわけだ」「ちょっとげ [続きを読む]
  • お前の番だ! 571
  • 「折野さんも優しいから、屹度すごい愛妻家になると思うわ」 香乃子ちゃんが云うのでありました。「それは確かにそうだろうな。その点に関しては俺も受けあうな」 その良平の言葉を受けてか、あゆみがまた万太郎の顔を見るのでありました。それは本当に愛妻家になってくれるかと訊き質されているようで、万太郎は何となくたじろぎ等を覚えるのでありましたが、まあ、自分はそうなるだろうと思うのでありましたけれど。「ところで [続きを読む]
  • お前の番だ! 570
  • 「ところで式は来年の何時頃なんですか?」 香乃子ちゃんがあゆみに訊くのでありました。香乃子ちゃんは良平と結婚する前は時々、まあ、良平との逢瀬が目的ではあったのでありましょうが鳥枝建設の愛好会だけではなく総本部へも稽古に来ていて、その頃はまるであゆみの妹分のようでありましたか。「一月の寒稽古が終わった後に予定しているの」「新婚旅行は何方に行くんですか?」「実は未だ決めていないの。寒稽古が終われば年初 [続きを読む]
  • お前の番だ! 569
  •  指定の鋤焼き屋に着くと万太郎とあゆみは二階十畳間の個室へと招じ入れられるのでありました。そこには既に良平夫婦が座っていて、万太郎はあゆみ共々満面の笑顔で迎え入れられて、上座に揃って着座させられるのでありました。「この度は慎におめでとうございます」 良平夫婦は下座から律義なお辞儀をするのでありました。ざっくばらんな宴の心算で来たので、万太郎は良平の格式張った所作に先ず少しく戸惑うのでありました。「 [続きを読む]
  • お前の番だ! 568
  •  寄敷範士がそう宣すると一同から、異議なし、の声が上がるのでありました。「理事の皆さん、どうも有難うございました。こうなった限りは、あゆみさんを一生かけて大事にしますと伴に、常勝流の発展のために益々微力を尽くす心算であります」 万太郎が立ち上がって云うと、横に座っていたあゆみも一緒に立って、居並ぶ理事連に向かって二人して深々とお揃いにお辞儀をするのでありました。期せずして理事連から、おめでとう、や [続きを読む]
  • お前の番だ! 567
  • 「牛路先生、どうも有難うございます」 是路総士は立った儘、牛路理事にお辞儀するのでありました。「ただし、・・・あゆみちゃんに折野君、こう云う事を聞いて気を悪くしなさんなや」 牛路理事は万太郎とあゆみに済まなさそうな笑いを投げるのでありまいた。「如何せんずっと先の事だから、ひょっとして二人が不仲になって離別したり、或いはそんな事は先ずないと思うのだが折野君が不幸にも早世するとか、まあ、明日をも知れぬ娑 [続きを読む]
  • お前の番だ! 566
  • 「あゆみとの話しではなかなか殊勝に、真摯に、はたまたそれなりの覚悟を持って、常勝流の将来の事を只管考えている感が大いに伝わってきましたよ」 またまた寄敷範士に交代でありますが、まるで芝居の台詞割りのようであります。「あゆみの常勝流の将来を一途に思うその心根に、私なんぞは強く打たれました」 これは寄敷範士の聞き及んだあゆみの了見に対するかなりの修飾的言辞であると云うべきでありますか。実際のところは両 [続きを読む]
  • お前の番だ! 565
  •  万太郎とあゆみの結婚に関しては、万太郎が是路家に養子に入ると云う点を確認出来た時点で、特段の反対意見は出ないのでありました。当人同士がそうしたいのならあゆみの父親たる是路総士が許せば、当然ながら是路家内の問題でありますから、それはそれで理事連のとやこう云うべき筋ではないというのが大方の意見でありましたか。 万太郎が婿養子に入る件は、既に熊本の万太郎の両親及び親族からは快諾が得られているのでありま [続きを読む]
  • お前の番だ! 564
  •  真入増太は翌日からほぼ毎日、稽古に通ってくるのでありました。住んでいるところが相模原のようでありますから、調布の総本部道場に通うにはなかなかの時間がかかるでありましょうが、それを苦にしない意気ごみがその巨体から溢れているのでありました。 最初の頃は夜の一般門下生稽古だけに来ていたのでありましたが、一月ほどして稽古に慣れてくると、その前の時間の専門稽古にも顔を出すようになるのでありました。始めの頃 [続きを読む]
  • お前の番だ! 563
  •  姉弟子の提案、しかも今では、相愛の将来の伴侶たる者の提案でありますから、万太郎としても拒むわけにはいかないのでありました。まあ万太郎も、洞甲斐氏の甥っ子で、昨日捩じこんだ相手側の者がこうして早速に入門しに来たと是路総士に紹介する事に、些か面白味を感じはするのでありましたから敢えて拒む理由もないでありますか。 是路総士の前で横着で不謹慎な真似を働かないか、その点が万太郎としてはやや不安でありました [続きを読む]
  • お前の番だ! 562
  • 「ああ、その事です」 真入増太は居住まいを正して万太郎を縋るような目で見るのでありました。「折野先生、どうか俺を助けると思って、うん、と云ってください」 助ける義理は特に何もないと万太郎は思うのでありましたが、つれなく首を横にふるのも何やら申しわけない思いがするのでありました。しかし、未だ内弟子身分の自分が弟子を取るなんと云うのは、全く以ってあろう筈のない話しであります。「自分の弟子に、と云うのは [続きを読む]
  • お前の番だ! 561
  •  万太郎は真入増太を玄関前の受付兼内弟子控え室に通すのでありました。あゆみと来間も一緒に入るのでありましたが、来間には茶を持ってくるよう命じるのでありました。「一生のお願いですから、どうぞ弟子にしてください」 真入増太は畏まって正坐して、万太郎にもう一度同じ言葉を発して深いお辞儀をするのでありました。万太郎は処置に困じたように隣に座るあゆみを見るのでありました。「いきなりそんな事を云われても。・・・ [続きを読む]
  • お前の番だ! 560
  •  来間が云うように確かに無愛想面で玄関に仁王立ちししている男が誰であるのか、万太郎はすぐにピンとくるのでありました。それは昨日八王子の洞甲斐氏の道場に居た、洞甲斐氏の甥でずんぐりむっくりとノッポ兄弟の、ノッポの方なのでありました。 昨日の今日、こうして早速に万太郎を訪ねるのと云うは一体どういう了見なのでありましょうか。昨日万太郎に手酷く投げられた意趣返しにでも来たのでありましょうや。 そうなら返り [続きを読む]
  • お前の番だ! 559
  • 「しかし適任と云う点に於いて、あゆみさんの方が僕よりは諸条件が数段優っているだろうと思いますよ。それに女性が宗家になった実例も、稀ではあるものの実際あるのですから。あゆみさんが宗家を継いだ暁には、僕が全力でサポートして見せますよ」「万ちゃんにそう云って貰うとそれ以上の心強さはないけれど、でも矢張り、事態がすんなり収まる処に収まるのは、万ちゃんが宗家になる事のような気がどうしてもするわ」「僕はあゆみ [続きを読む]
  • お前の番だ! 558
  •  あゆみは続けるのでありました。「お父さんもその頃そう感じていたらしくて、折野は稽古にのめりこむタイプだし、そうやって精進している内に、常勝流の妙味のようなものを、まあ、端緒に過ぎないだろうが何か掴んだのだろう。精進してもそれを得る事の出来る人間は稀有なのだが、折野は屹度その稀有な内の一人だろう、なんて云っていたわよ」「その頃、稽古が段々面白くなっていったのは、それはまあ確かですが、・・・」 万太郎 [続きを読む]
  • お前の番だ! 557
  • 「困ったわね」 あゆみは口をへの字にするのでありました。こう云うあゆみの顔もなかなか棄て難く可憐であると、万太郎は会話の内容とは全く無関係な感想など抱くのでありました。「鋭意努力はしてみますが、どうぞ長い目でお見守りください」 万太郎が一種の茶目っ気でそう敢えて鯱張った物云いをしているのか、それとも全くの生一本の生真面目からのそんな風にものしているのか、あゆみにはその辺がよく判らないのでありました [続きを読む]