汎武 さん プロフィール

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汎武さん: はなし汎武ん
ハンドル名汎武 さん
ブログタイトルはなし汎武ん
ブログURLhttp://hanbu-y.blog.so-net.ne.jp/
サイト紹介文日常のあれこれ、本の事、誰彼の事、合気道の事等々、諸事への思いを整列させることもなく書いております。
自由文写真やイラストなど殆どない、文字だけの地味なブログです。全体のトーンはエッセイ風でありましょうか。ま、ちょっと創作ものも入っていますし、批評めいたものも煩わしくない範囲で書いております。よろしければ覘いてみてください。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供167回 / 365日(平均3.2回/週) - 参加 2009/02/10 14:27

汎武 さんのブログ記事

  • あなたのとりこ 18
  •  そのライトテーブルの奥には製図板をやや斜めにして置いた重役机があって、そこには面接の時に終始不機嫌な顔をして、一言も発する事無く頑治さんを窺っていた片久那狷造制作部長が座っているのでありました。頑治さんは一瞬身構えるのでありました。 ライトテーブルを挟んだ向こう側はブラインドの降りた窓が一面を占め、その下にはこれも小振りの製図板を置いた事務机が三つ並んでいて、手前の机に若い男、真ん中に若い女が座 [続きを読む]
  • あなたのとりこ 17
  •  上の事務所に戻ると、席に座っている土師尾営業部長の横に立っている、土師尾営業部長よりは若く、頑治さんよりは年嵩に見える男が頑治さんの方に顔を向けて手招きするのでありました。男は紺のズボンに紺のネクタイを締めて、黒いカーデガンを羽織っているのでありました。頑治さんは男に近寄って行くのでありました。「下でいきなり梱包を手伝えって、刃葉君に云われたのかい?」 座っている土師尾営業部長の方が男より先に頑 [続きを読む]
  • あなたのとりこ 16
  • 「ええ。前にアルバイトで」「あ、そう。それじゃ俺が商品を出すから、その発送指示書に書いてある品を個数分段ボールに詰めて梱包してくれるか」「ああそうですか。・・・判りました」 刃葉さんが頑治さんをここに連れて来たのは業務仕事の大概を教えてくれるためだと思っていたのでありますが、どうやら仕事の概要も、扱っている商品も良く判らない儘いきなり発送業務を手伝わされるようであります。まあ、先輩社員の云う事であり [続きを読む]
  • あなたのとりこ 15
  •  それより何より、この男の姓が夕美さんと同じだと云う事を頑治さんは甚く不愉快に思うのでありました。何処と無く夕美さんが気の毒にすら思えてくるのであります。「刃葉君、唐目君に業務の仕事を教えて遣ってくれないか」 土師尾営業部長が指示すると羽葉さんはその指示に返事も頷きもする訳ではないけれど、大儀そうに立ち上がって机の隅のスチールの伝票入れから数枚の紙片を取り上げて、それを頑治さんに渡すのでありました [続きを読む]
  • あなたのとりこ 14
  • 「今日からお世話になります唐目頑治です」 頑治さんが頭を下げると甲斐女史は如何にも億劫そうに頑治さんの方を窺い見てから、無愛想な表情で軽く顎を胸元に引いて見せるのでありました。歳の頃は土師尾営業部長と同じ三十代中頃辺り、無精に胸元に引いて見せた顎は二重で、太り肉と云うのではないけれど体幹も肩や腕の肉付きも豊かで、真っ赤な口紅が嫌に目立つ、やや化粧っ気の多いその顔は何となく肌窶れしているように頑治さ [続きを読む]
  • あなたのとりこ 13
  •  頑治さんは夕美さんの確定不能の表情に対して笑って見せるのでありました。「それはまあ、そうよねえ」 夕美さんはコーヒーを一口飲むのでありました。「取り敢えず頑ちゃんがそこで働こうって決めたんだから、働いてみるしかないわよね」「今の段階では、そう云う事だな」「じゃあ、まあ、取り敢えずお目出とう」 夕美さんは持っているコーヒーカップをほんの少し差し上げて、乾杯のような仕草をしてから残ったコーヒーを飲み [続きを読む]
  • あなたのとりこ 12
  •  地下鉄の本郷三丁目駅までは歩いて五分程、JRの御茶ノ水駅へも順天堂病院の前を通って神田川沿いに外堀通りを十分程歩けば到着すると云う交通至便の地で、頑治さんはその至便さに魅かれて大学の三年の時に世田谷の方からここに移り住んだのでありました。当然、頑治さんの通っている大学へも近いと云うのも大いに魅力的でありました。 世田谷の安アパートに比べれば風呂付でもありますから家賃はぐんと跳ね上がるのでありまし [続きを読む]
  • あなたのとりこ 11
  •  大望や目標があってその仕事に就いたと云うよりは、云ってみれば決まった給金と待遇目当ての就職でありますから、嬉しさも中位、と云った辺りでありましょうか。然して就職するに当たっての意気込みや意欲や、それから不安も気後れの方も大した辺りではないのであります。慎に気楽と云えば気楽な感奮するところの少ない就職決定であります。「じゃあ、明日の昼頃行くね」 夕美さんが気を取り直した口調で云うのでありました。「 [続きを読む]
  • あなたのとりこ 10
  •  そろそろ寝ようかと部屋の片隅の、畳の上に直に置いている、東京に出て来て以来使っている小さな白黒テレビを消した時、これも畳に直に置いている電話がけたたましく鳴るのでありました。こんな時間に電話をしてくるのは羽葉夕美以外にはなかろうと当りを付けて受話器を取れば、果たしてその大学に通っていた時以来の女友達で、頑治さんはこの御明算に、例の卜占の了見から思わず知らずほくそ笑んでいるのでありました。「どうな [続きを読む]
  • あなたのとりこ 9
  •  例えば登校中の路で不意に石に躓くとか教科書を忘れてきたとか、その日に返ってきた先のテストの結果が思いの外悪かったとか、友達と言葉の遣り取りが上手くいかなくて意ならず喧嘩になったとか、考えてみれば何かしらの禍事が起こっているのであります。こうなるともう、左手の松葉が勝てば凶事が起ると断定するべきかも知れません。 然様であるなら、矢張りこれは、吉・凶占い、と云うべきでありましょう。確かに吉・無吉占い [続きを読む]
  • あなたのとりこ 8
  •  まあ確かに、足裏の感触なんぞは慎によろしくはなかったのでありましたが。しかし職安で摺り下がった靴下を引っ張り上げた後から、急に吉凶が逆転したようにも思えるのであります。そうなるとこの何ともイカさない秘かなる修正を境に、凶吉の反転が起ったとも云えるでありましょうか。靴下の摺り下がる無様は、これはもう如何にも目出度くはなかろうと云うものであります。依ってそれは矢張り凶兆であって、靴下を引き上げた事に [続きを読む]
  • あなたのとりこ 7
  •  頑治さんが茶に手を出す前に土師尾部長が訊くのでありました。そう訊かれるのでありますから、つまり採用と相成ったと云いう事でありましょうか。「それは可能ですが、と云う事は、ご採用していただけるわけでしょうか?」 頑治さんが念のためそう訊き返せば土師尾部長は一つ頷くのでありました。終始無言の片久那制作部長の方を見ると、こちらは表情も変えず頷きもせず相変わらず頑治さんを値踏みするような目で見ているのみで [続きを読む]
  • あなたのとりこ 6
  •  頑治さんは取り敢えずそれとなく不快を伝えるために、偉丈夫をさて置いて童顔の方と正面から向かい合う位置に腰をずらすのでありました。こなったら童顔の方とのみこの後の会話を進めるしかないでありましょう。 この後履歴書の提出を催促されて、頑治さんは童顔の土師尾営業部長の前にそれを置くのでありました。土師尾部長は手に取って暫く眺めてから訊くのでありました。「趣味は寄席通いとありますが、寄席にはよく行くので [続きを読む]
  • あなたのとりこ 5
  •  入ってすぐに受付台を兼ねたスチールの棚が置いてあって、その先には四つの事務机が寄せ集められていて、そこには誰も座ってはいないのでありました。その左横のスペースには如何にも安っぽい応接セットが窮屈そうに収まっていて、四たり一団の机を挟んだ右横スペースには長い重役机と二つの事務机が固められているのでありました。 重役机に座っていた歳の頃三十半ばと云った、痩せた体を地味なスーツに包んだ坊や顔の男が立っ [続きを読む]
  • あなたのとりこ 4
  • 「はい。大体に於いてこちらの希望に沿っていると思われますので」「判りました。では電話して面接日を打ち合わせてください。その旨こちらの方からもこの会社に電話を入れておきますよ」「どうぞよろしくお願いします」 頑治さんは会社概要や連絡先を記してある紙片を貰ってから、立ち上がって田隙野氏に深々と頭を下げるのでありました。「田隙野さん、色々有難うございます」「いやいやどういたしまして。首尾の上々なる事を祈 [続きを読む]
  • あなたのとりこ 3
  •  頑治さんは改めてそんな確認をされて何となく恥じ入るように頷くのでありました。考えてみれば己が吐いた事とは云え、何とも虫の良い、職探しをする者としては慎に不埒な戯れ言のような条件を出したものであります。普通なら呆れられて叱りつけられる、或いはその了見違いをこんこんと説教されて当然の、不謹慎窮まる条件でありましょう。「こちらとしてもそんな無闇な条件の就職先をあれこれ探していたところでしたが、竟昨日、 [続きを読む]
  • あなたのとりこ 2
  •  職安職員内におけるこの田隙野氏の在り様は、云ってみれば頑治さんの趣味にピタリと合っているのでありました。頑治さんにしても、別に胆が据わっているわけではないのでありますが、どこかのんびりしたところがその風情にあるのでありましたから。 別にちゃんと確認し合ったわけではないのでありますが、しかし頑治さんも田隙野氏も、そこは同類を嗅ぎ分ける鼻の穴の細胞のお蔭か、この人物とは会話が出来るとすぐに直感したの [続きを読む]
  • あなたのとりこ 1
  •    松葉 緩やかな下り坂に差しかかると、唐目頑治さんの靴の中でこのところ時折起こる異変が始まるのでありました。それは決まって、それ迄無表情であった頑治さんの眉宇に苦悶の色を浮かしめるのでありました。頑治さんは歩を止めないながらも、舌打ちの音を隠す事もせず、互い違いに前に出る自分の足下に視線を落とすのでありました。 靴の中で靴下が、歩の重なりに同調しながら段々と脱げていくのであります。今朝心急いて [続きを読む]
  • 概25周年合気道演武大会のこと
  •  2017年7月9日の日曜日に合気道錬身会南多摩倶楽部の演武大会を挙行する事と相なりました。この「概25周年」と云うのは、賛同者が数名参集して、今はもう取り壊された東芝府中工場の武道場で、全くインフォーマルに稽古を始めた日から起算しての数字であります。第一回目の稽古日の月日が今となっては曖昧となっていると云うのは、まあ、拙生らしいと云えば拙生らしいずぼらの為すところと云うわけであります。 この間拙生なり [続きを読む]
  • お前の番だ! 600
  • 「よろしくお引き立ての程を」 鳥枝範士の激励に万太郎もお辞儀を返すのでありました。「あゆみの歳を考えたら急がないと、とワシは前から心秘かに思っておったのです。まあワシが焦心したところで、余計なお世話でありましょうがなあ」 そう云う鳥枝範士の顔は実の孫を授かった好々爺のようでありましたか。「実は剣士郎との間に少し間が空きましたが、ウチも二人目を授かりました」 これは万太郎に話しを聞いた花司馬範士の報 [続きを読む]
  • お前の番だ! 599
  • 「ああそう。・・・ふうん」 大岸先生は何やら直感するところのある表情をするのでありました。大岸先生の顔を見た是路総士も、その何やらにピンときたようで、大岸先生と目交ぜするような仕草をしながらニンマリと笑うのでありましたが、迂闊ながら万太郎は、その是路総士の笑みがどう云った意味で笑まれたものなのかを察する事が出来ないのでありました。 五人での朝食を終えて暫くすると、その日当番になっている準内弟子の山田 [続きを読む]
  • お前の番だ! 598
  • 「あれ、あゆみ先生はどうされたのですか?」 迎えに出た来間教士が不思議そうな顔をするのでありました。「ちょっと、体調が優れないようだから、朝一で病院に寄ってから来るそうだ」「珍しくお風邪ですかね?」 これは万太郎の靴を下駄箱に仕舞いながら云う真入の言葉でありました。「多分そんなところだろう。微熱があるようだし」「今日は少年部の稽古もないですから、お休みになられても大丈夫ですよ」 来間が気遣うのであ [続きを読む]
  • お前の番だ! 597
  • 「まあ、長く一派の武道のみをやっていればそう云う事もあろうよ」 是路総士は大らかさの中に万太郎の来間への苦言を包み修めるのでありました。「ところで秘伝の話しに戻りますが、では、代々直系相伝で宗家を継ぐ者が秘伝伝授をしていただく意味は、一体どこに在るのでしょうか」 万太郎の是路総士を見る目に困惑が湧くのでありました。「常勝流が古武道であると云う認識に依るからだ。現代武道なら秘伝なんと云うものはあっさ [続きを読む]
  • お前の番だ! 596
  • 「外連の技、ですか。・・・」 万太郎は何となく納得し難いと云う表情をするのでありました。「常勝流に伝わる天下無敵の必殺技、ではないのですね?」「違うな」 是路総士はあっさりと肯うのでありました。「若しそう云う技があるのなら、その技を門下が習得出来るように稽古体系が編まれる筈だ」「余りにも危険なので、日頃の稽古からは除外されていると云うのでもないのですか?」 万太郎の質問に是路総士は戯れ言に対するの笑 [続きを読む]
  • お前の番だ! 595
  • 「まあ、形の上では、それはそうだがな」 是路総士は笑いながら茶を啜るのでありました。「今からお前に親炙せんとする人間が増えると云う事だから、次期宗家としてお前も着々と頼もしくなっておるなあ」 この言葉は是路総士の好意的な笑顔の上に乗っているのでありました。「僕は特段そのような心算はないのですが」 万太郎は頭を掻くのでありました。「しれっとしたそう云うお前の様子がまた、頼もしいところとも云える」 是 [続きを読む]