kururik さん プロフィール

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kururikさん: softparanoia
ハンドル名kururik さん
ブログタイトルsoftparanoia
ブログURLhttp://softparanoia.blog53.fc2.com/
サイト紹介文ボーイズラブと一般小説を公開しています。18禁もあります。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供413回 / 365日(平均7.9回/週) - 参加 2010/09/02 17:13

kururik さんのブログ記事

  • 幸せのレベル1
  •  穂村有(ほむらゆう)は、一日の間に何度も、自分は幸せだと感じることがある。まずは朝起きてすぐ。洗面所に立ち、アクリルのコップに入った黄色い歯ブラシを取って、残ったもう一本を眺めるときだ。恋人が使っている青い歯ブラシ。少し毛先が広がっている気がする。あとで、そろそろ新しいのに替えた方が良いよと言おう――そんなことを考えられる状況が嬉しい。 鏡に映る自分の顔を見る。自然と口元に笑みが浮かんでいる。  [続きを読む]
  • 恋はタイミングじゃない。
  •  卒業式が終わって皆が早々に下校するなか、僕は君を中庭に呼び出して、告白した。「ずっと好きだったんだ」 頬が熱くなることはなかった。実際顔は赤くなっていないはずだ。 僕は淡々と話した。「同じクラスになってから二年間、ずっと好きだったんだ」 卒業式の日に自分の気持ちを打ち明けようと決めていた。そうでもしないと、この、胸に溜まった君への気持ちを、なかなか昇華させることができない。君に思い切り蔑まれ、気 [続きを読む]
  • トレーサー87 最終回
  •  正午過ぎ。洋一は片瀬のアパートに向かって歩きながら、彼に電話をかけた。「今から椅子を取りに行っていいですか」「――今どこにいる?」「片瀬さんのアパートの近く」 そういった瞬間、しまった、と口を手で押さえた。 椅子を取りに来いと言われたのだ。彼の勤める工房に行くべきだった。自分が記憶を失っている設定ならば。「そっちじゃないよ、バカ。工房に来い」 片瀬が電話越しに笑った。 ――工房って。なんで。 片 [続きを読む]
  • トレーサー86
  •  洋一は病室内で、五月以降の記憶がない振りをした。ロ―タスのヘッドになった事実を忘れている設定だ。相手が誰でも、その姿勢を貫いた。 面会謝絶の札がドアから外れた日、片瀬が見舞いに来た。彼は複雑な表情を浮かべていた。何から話せばいいのか迷っているように、視線を明後日の方向に巡らせたあと、少し責める口調で「どうして言ってくれなかったんだ」と言った。「夏樹にすべて聞いた。あいつがバトーに入ったことも、彼 [続きを読む]
  • トレーサー85
  • ラスト一個の空き箱に教科書と参考書を詰め込んだ。ガムテープで封をして、段ボールの箱の上に座る。これで引っ越しの準備は完了だ。ほっと息を吐く。 換気のため全開にしていた部屋の窓から、暑くなるまえの朝の爽快な風が吹き抜けた。少し開けていたドアが、バタンと音を立てて閉まった。 スマホを手に取り、昨日浅田から来たメッセージを読み返す。『引っ越すって本当か? 昨日担任から聞いた』 浅田の顔の外傷はだいぶ良く [続きを読む]
  • トレーサー84
  • 内部解体が終わった解体現場は、鉄筋とコンクリートしかない空洞だらけの塔だった。エレベーターは消えていた。辛うじて、非常階段は生きていた。洋一は最上階まで階段を駆け上った。一段上る度に、足の重りが増えるように感じた。粉塵が鼻腔に入り込む。咳込んで、また体力を消耗する。だが、立ち止まることはしなかった。一度でも止まったら、もう動けないと思った。七階まで上り、正面玄関側のフロアに向かう。すぐにエイらしき [続きを読む]
  • トレーサー83
  •  仲間のバイクを借りて、洋一はAブロックのマンションへと急いだ。 三時三十分に、マンションの前に着いた。万能塀は誰かの手によって取り払われていた。洋一はバイクから降りて、養生シートで覆われたマンションまで走った。が、玄関まであと数メートル、というところで洋一は立ち止まった。 正面玄関や、個別のバルコニーがある側の最上階の足場が、養生シートごと崩れかけている。いつそれらが倒壊して、足場の部品が地面に [続きを読む]
  • トレーサー82
  •  Dブロック内に入った。倉庫だらけのブロックだから、マンションがあると目立つ。すぐに辺見らしき人物がいる屋上を捜し当てた。その隣に立つ倉庫の軒下に、しゃがみ込んで待機している仲間の姿を見つける。『近くまで来た。俺が先に屋上に行く。今から四分後に動け。玄関からエレベーターを使って四階まで行け。屋上までは肩車でもして登れ』 仲間にメッセージを送り、洋一は斜め前にあるマンションを見上げた。高い。二階階建 [続きを読む]
  • トレーサー81
  • 空中で前傾姿勢を保ったまま、洋一は狭い座面に両足を着地させた。その瞬間バイクが大きく揺れた。両手をハンドルに伸ばして掴み、股を開いてシートに座り込む。サイドスタンドをすぐに払い、エンジンをかける。 そのときカイが、屋根からランディングした。彼は地面に着地し、前転して足の負荷を散らした。「さっさと乗れ!」 洋一が叫ぶと、、カイはヘルメットを取り、急いでタンデムシートに座った。呆気にとられていた屋根の [続きを読む]
  • トレーサー80
  •  二時十五分。洋一とカイは、Eブロック末端の倉庫街に着いていて、屋根の上から海を眺めていた。かなりきな臭い。ここの近くで花火を打ち上げたのだろう。「ここまで追手ゼロ。不気味だな」 カイが頭を掻きながら、納得がいかないというように口を窄めた。 人の気配はしていた。屋根を跳んで移動するたびに、視線は感じていた。だが、近づいてくることはない。「タイミングを計ってるんだろ。まだ時間はある。後半戦に体力を温 [続きを読む]
  • トレーサー79
  •  静寂に包まれた、S区工場地帯Bブロックのとある五階建てマンションの屋上――。 久々のゲームで、ロータスのメンバーはいつもより浮ついた顔をして、洋一の周りに集まっていた。「とにかくおまえら、落ち着いて行動しろよ。敵に煽られても興奮するな。自分のできる範囲内で対応だ。無理だと思ったらすぐ逃げろ。敵に囲まれたらすぐSNSで仲間を呼べ。Aブロックに待機している奴が助けにくる」 洋一はロータスの地図アプリ [続きを読む]
  • トレーサー78
  •  ずるっと片瀬のものが引き抜かれた瞬間、強烈な排泄感に襲われ、洋一は身震いした。背徳的な快感が、陰部から腰に這いあがった。 無意識に呻いてしまい、洋一の上から退いた片瀬が大丈夫か、と心配そうに声をかけてきた。「大丈夫」「ちょっと待ってろ。水持ってくる」 片瀬がベッドから立ち上がり、居間に向かった。 洋一は少しほっとして、己の股間に視線を向けた。 酷いことになっている。自分の体液で腹部や陰毛が濡れて [続きを読む]
  • トレーサー77 R18
  • この記事はR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮くださいませ。 先に片瀬がシャワーを浴びて、寝室に戻って来た。洋一は彼がバスタオルを腰に巻いていることに、少しほっとした。全裸だったら、自分はどんな態度を取ればいいのか困っただろう。 彼の露になった上半身に、目が引き寄せられた。六月ですでに、肌は日焼けしていた。いや、ただ単に地の肌が黒いだけかもしれないが。 黒い短髪はシャワーを浴びたばかりで湿って [続きを読む]
  • トレーサー76
  •  ジャージからTシャツとジーンズに着替えて、洋一は家を出た。 四十分後に、片瀬のいる工房に着いたが、そこには彼以外にも人がいた。笹田だ。 洋一の膝あたりまで下がったシャッターから、ふたりの話し声が漏れてくる。洋一は自然と駐車場側に少しだけ後ずさった。「なんで急にそんなこと言うの? 明日は私も同行するって話だったよね?」 笹田が興奮したように捲し立てている。いつも温厚な彼女にしては珍しい。「明日の案 [続きを読む]
  • トレーサー75
  •  それからは、テンポよくバトーのヘッドとゲームの話を詰めていった。 ゲーム決行は六月二十五日。二十六時スタート。終了時刻は未定。勝負がつくまでだ。雨天決行。 ルールはシンプルになった。敵のヘッドを捕まえ、敗北宣言と解散宣言をさせたチームが勝ちだ。陣地の取り合いはなくなった。ゲーム中、パルクールで移動するもよし、地面を歩いても走ってもお咎めなし。かなり自由度が上がった。六月十六日から、早朝練習を再開 [続きを読む]
  • トレーサー74
  •  家に帰ったあとも、最低な場面を目撃した。 夫婦喧嘩だ。 洋一はリビングルームのドアを開けてなかに入ろうとしたところで、動きを止めた。 彼らはソファから立ち上がって、言い争いをしていた。母親が珍しく怒りをあらわにして、義父を責め立てていた。「また違う人を見つけたんですか。いい歳してみっともない……!」「おまえこそ独占欲なんてみっともないぞ。いい歳して」 小馬鹿にしたように義父が薄く笑う。 また彼は [続きを読む]
  • トレーサー73
  •  意外と冷静な声が出て、洋一はほっとした。「俺には冗談とは思えないけど。片瀬さんだって満更じゃないんだろ」 自分と付き合っているとは言えなくても――せめて、他に好きな人がいるから結婚できないと、彼女に告げてほしかった。それぐらいはできたんじゃないかと思う。「昨日、ここに泊ったんだろ。笹田さんと一緒に」 責める口調にならないように気を付ける。嫉妬していると思われたくない。格好悪いし、重い奴だと決めつ [続きを読む]
  • トレーサー72
  •  七時過ぎに、片瀬と洋一は工房に着いた。案の定、ナツの姿はない。意外なことに、笹田はいた。 手洗いうがいをさせてもらおうと、洗面所に向かったとき、彼女と顔を合わせた。 彼女は洗面台の鏡の前で髪の毛を乾かしていた。ドライヤーの音に負けない大きさで、笹田が声をかけてくる。「ヨウくん、久しぶりだね」 風呂上りのようだった。彼女からフローラル系のシャンプーの匂いがした。「――笹田さん、ここに泊ったんですか [続きを読む]
  • ぶれーくたいむ
  • ぶれいくたいむでは久しぶりです。叶こうえです。トレーサー、だいぶ枚数がかさみ、今、原稿用紙換算444(不吉)枚いってます。いい加減終わらせたいです……だいぶ佳境に入ってます。ラストゲームまでもう少しです。本当はこの作品、公募に出すために書いてたんですけど、なかなか筆が進まずにエタっていたのです。ブログや投稿サイトで連載すれば書けるかなあと思って、ここに連載するようになりました。やっぱり連載にして良 [続きを読む]
  • トレーサー71
  •  スーパーを出てすぐの駐車場で、洋一はナツの手首を掴んだ。ナツは走るスピードもスタミナも、洋一の足元に及ばない。「ナツ、待てって」 すり抜けていこうとする手を、洋一は力を込めて握った。肩で息をして無言でいたナツが、洋一を振り返った。「なんでだよ、なんで兄貴と」 ナツの悲痛な叫びが、広い駐車場に響いた。車は数台止まっている。片瀬の軽トラが近くに駐車してあった。 ナツが不意に、洋一の両肩をぐっと掴んだ [続きを読む]
  • トレーサー70
  • 「ヨウくん」 彼の第一声と、ニュートラルな表情に、洋一の弾んでいた鼓動が静まった。人前では――ナツの前でも――片瀬は自分のことを「洋一」とは呼ばない。誰にもこの関係を知られたくないという、彼の意思表示のように感じた。「――どうも」 だから洋一も、ふだんの何も感じていないような表情を作ろうと努めた。 洋一だって、大々的に二人の関係を発表したいわけではない。だが、必要以上に隠すのも――と、寂しく感じる [続きを読む]
  • トレーサー69
  •  六月十五日、木曜日。洋一は久々に平日に早起きをした。四時半に部屋の窓から外に出て駅まで歩き、五時の始発電車に乗ってS区工場地帯に向かった。洋一がマンション前の歩道に着いたとき、すでにロータスのメンバー十数人が屯していた。「ヨウ」 仲間と話していたナツが、目ざとく洋一の姿に気が付き駆け寄って来る。 彼と平日に会うのは久々だった。練習を土日のみに変更してからは、ナツと会う機会が減ったのだ。 他のメン [続きを読む]
  • トレーサー68
  •  ――カイの奴、余計なことを。 カイは最初から、目的があって浅田に近づいたのだ。 ――おかしいと思ったんだ。カイはもともと自分からフレンドリーな態度をとる奴じゃない。初対面のときは特に。 カイと初めて会ったとき、洋一は彼に何度もバカにされた。 浅田から、顔の腫れと痣が酷くて当分学校には行けないこと、角膜が傷ついているから片目に今、眼帯を付けていることを教えてもらい、最後に、昨日の暴力沙汰は秘密にし [続きを読む]
  • トレーサー67
  •  翌日の朝。洋一はベッドから体を起こしてすぐに、浅田にLINEでメッセージを送った。『今から電話していい?』浅田は昨日、ストレッチャーで保健室に運ばれたあと応急処置をしてもらい、学校に駆けつけた母親とタクシーで病院に向かった。救急車を呼ぶほどの緊急性はないという養護教諭の判断でそうなった。洋一には彼女の診断が不可解だったが、浅田の母親は納得していた。『ごめん、口の中が痛いから話すのは無理。LINE [続きを読む]
  • トレーサー66
  • 洋一は高校の校門を突っ切り、大学の敷地内にある図書館を目指した。近道のだだっ広い校庭を横切る際、部活動中の知り合いに声をかけられる。洋一はその声にこたえる余裕もなく、ひたすら目的地へと急いだ。 疲れた。肩を上下させながら、洋一は目の前に立つ四階建ての図書館に足を踏み入れた。 ふだん浅田が図書館で読んでいる本は――たしか文学系と言っていた。 洋一は図書館に入ってすぐのインフォメーションカウンターに行 [続きを読む]