kururik さん プロフィール

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kururikさん: softparanoia
ハンドル名kururik さん
ブログタイトルsoftparanoia
ブログURLhttp://softparanoia.blog53.fc2.com/
サイト紹介文ボーイズラブと一般小説を公開しています。18禁もあります。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供368回 / 365日(平均7.1回/週) - 参加 2010/09/02 17:13

kururik さんのブログ記事

  • 幸せのレベル18
  • 「それはないよ」 考えるよりも先に声が出ていた。自分らしくない強く厳しい声が。「本当にそう言い切れる? 人が良さそうな人に限って――ってこともあるから」 ねっとりした口調で伯母が言う。口から覗く金歯が濁っていた。「石動さんって言ったわよね? たしかに感じの良い人だったけど」「――えっ」 有は思わず声をあげていた。まるで亘本人に会ったことがあるような言い方だった。「会ったことがあるんですか? 石動と [続きを読む]
  • 幸せのレベル17
  •  倉庫部屋の遺品紛失が発覚した二日後――月曜日の夜。 有は仕事を定時で終わらせて、会社から電車で一時間の距離にある伯母の家を訪れた。彼女の住処は十年前から変わらない。築二十年を過ぎた家族向けのアパートの一階だ。 インターホンを押そうとしたが、そこには小さい貼り紙が張ってあった。『故障中。ノックしてください』 有はその通りにした。ややあって、室内から「はーい」と声が飛んできた。「どなた様?」 伯母の [続きを読む]
  • 幸せのレベル16
  •  ベンチでのひと時があってから、有は大学で亘の姿ばかりを探すようになっていた。まだこのときは、彼に対して恋愛感情を抱いているという自覚はなかった。初めて気を許せる友人ができた――そう思うと嬉しくて常にテンションは高くなり、いい意味で亘に対し遠慮がなくなった。彼と話したいと思えば自ら話しかけるし、学食に誘いたかったら誘う。友達なのだからそれは「していいこと」だと思えるようになった。すると、相手の態度 [続きを読む]
  • 幸せのレベル15
  • 「じゃあ俺もちょっと休憩」 亘がベンチに回り込んで、有の隣にどかっと座った。「なんか疲れたなあ」 独り言にしては大きい声を出して、亘がゆっくりと伸びをした。「何かあったの?」 彼の口から「疲れた」とかマイナスの科白を聞いたのはこのときが初めてだった。「あったよ。ディスカッションで立て板に水の如く喋ってたやついただろ? 調整するのが大変だった」 亘が苦笑しながら有の顔を見た。「ああ、たしかに今日はバ [続きを読む]
  • 幸せのレベル14
  •  有はゼミで行われるグループワークが苦手だった。そのなかでも特に嫌だったのが、四五人に分かれて意見を出し合うディスカッションだ。積極的に自分の意見を言わないと、仲間の討論を聞いているだけで時間が終わってしまう。 数回目のディスカッションに挑んだときだった。緊張しながら、話し出すきっかけを窺っていたとき、意見を述べていた亘が、ふと有の顔を見た。「穂村はどう思う?」 さりげなく有に話を振ってくれた。  [続きを読む]
  • 幸せのレベル13
  •  亘と出会った日時を、有ははっきりと覚えている。四年前の四月八日。十時半。場所はC大の体育館。入学式が始まる三十分前に、有はひとりで会場に入った。校歌の練習が始まる五分前だった。 ずらっと並んだパイプ椅子はほとんどがスーツ姿の新入生で埋まっていた。入口付近の、飛び石で空いている椅子に、有は静かに着席した。と、二列前の席から話し声が聞こえてきた。そちらに目をやると、男ふたりが顔を合わせて笑っていた。 [続きを読む]
  • 幸せのレベル12
  •  結局ふたりは、夕食時までずっと物置部屋の片づけを行っていた。有は思い切って、両親の荷物のほとんどを捨てることにした。 残っている段ボール箱の中身は、八割が母親の衣服だ。「どれもブランド品だな」 箱の中身を眺めていた亘が、感心したように呟いた。だが彼の口元は皮肉っぽく歪んでいた。有もそんな気分だった。 突然、人が変わったようにブランドものを買いあさっていた母親。父親も同様だったが、彼はせいぜいスー [続きを読む]
  • 幸せのレベル11
  •  昼ごはんを食べたあと、ふたりは物置部屋と化した十畳のフローリングに足を踏み入れた。ドアを開けるのも久々だったが、その割に埃っぽくはなかった。 部屋の半分の空間は、段ボールで埋もれていた。高一のときに越してきてからというもの、滅多にこの部屋に入っていなかった。部屋の隅に、両親が生前使っていた桐箪笥が置かれている。 ――部屋を片付ける良い機会かもしれない。 両親が亡くなって七年の月日が経った。そろそ [続きを読む]
  • 幸せのレベル10
  •  有は思わず顔を上げた。 亘の言葉はふざけているのに、声は怒っているように揺れていた。 見上げた先にある顔は、どこかが痛むみたいに歪んでいた。だがすぐに、その表情は営業用のスマイルで打ち消された。「もうちょっと信じてほしいんだけど。俺、同棲するのは有が初めてだよ。こう見えて一人大好き人間だから」「え? そう?」「そうだよ。でも有は特別。いつも一緒にいたい。――そうだ、部屋を一緒にしないか」 いいこ [続きを読む]
  • 幸せのレベル9
  •  クリーニング屋とスーパーをはしごした後、有はマンションに戻った。外に出ている間、ずっと頭のなかは「いちごみるく」でいっぱいになっていた。 気になって仕方がなくなって、有はマンションのエントランス前で立ち止まり、スマホで「ホテルいちごみるく」を検索した。 ビンゴだった。渋谷のいわゆるラブホ街に、「いちごみるく」はあった。休憩も宿泊も、比較的お手頃な価格設定の店だった。 そのこと自体は良いとして。  [続きを読む]
  • 幸せのレベル8
  • 「大丈夫?」 トイレから出てきた亘に、水をなみなみに入れたコップを手渡す。「ありがとう」水を一気に飲んだあと、亘は力なく笑った。「吐いたらスッキリした」 そういって亘が自分の部屋に戻ろうとする。「着替え、手伝おうか」 有がついていこうとすると、亘がそれを拒むように「いいよ、大丈夫」と強い声で言った。「有は先に寝てて。おやすみ」 一方的に話を終わらせて、亘は有の顔をまともに見ることもせずに、部屋に入 [続きを読む]
  • 幸せのレベル7
  •  亘と深いキスを交わすようになって一か月が経った。有はキスのあと、その先を望む衝動を抑え込めるようになった。彼とのセックスレスについて思い悩むこともなくなってきた。 亘の自慰らしき現場に遭遇してからというもの、有の「やりたい」という気持ちは、多少落ち着いた。自分に対して亘がちゃんと性欲を覚えてくれている、という実感が湧いたせいだろう。ずっと抱え込んでいた不安が薄らいでいる。 もうひとつ理由がある。 [続きを読む]
  • 幸せのレベル6 R15
  •  食後、使った食器を洗ったら、あとは自由時間だ。そのままリビングで一緒にテレビを見るときもあれば、各々が自室にこもってやりたいことをやるときもある。今晩は後者を選んだ。「どうしようか」なんて相談することもなく、自然とふたりは自分の部屋に足を向けた。 ウェブで英会話の授業をみっちり一時間受けたあと、有はデスクの上に「社会保険労務士」のテキストを広げた。勤めている会社の人事部で、この資格を取ることを推 [続きを読む]
  • 幸せのレベル5
  •  映画とランチのデートを終えたあと、二人は近所のスーパーで夕飯の食材を買って家路についた。もう夕方の五時を過ぎていた。 家に帰ってすぐ、手洗いうがいを済ませて、有は食事の支度にとりかかった。今日は有が夕食をつくる当番だ。 メニューは焼き魚と肉じゃがと野菜サラダだ。「なにか手伝う?」 ベランダに干していた洗濯物を取り込みながら、亘が聞いてくる。カーテンを開けた窓からは夕日が射してきて、目に眩しい。「 [続きを読む]
  • 幸せのレベル4
  •  土曜日の朝。有はいつもより一時間半遅く起きて洗面所に向かった。途中、キッチンとリビングを突っ切ったが、亘の姿はなかった。まだ彼は起きていないようだ。洗顔し、歯を磨いたあと、廊下を挟んで向かい側にある亘の部屋にノックをしてから入った。四畳半の部屋は、シングルベッドを一台置いているだけで狭くなる。ドアから二歩の距離にベッドがあった。「亘、起きろよ。もう八時半だ」 彼はまだベッドの上で眠っていた。顔は [続きを読む]
  • 幸せのレベル3
  •  昼休が終わる五分前。 会社のデスクに戻ったとたん、隣の席の藤崎が声をかけてきた。「穂村ぁ。さっき俺、見ちゃったぞ」 有の秘密を握ったかのように、彼は得意気な顔をしていた。肘で有の腕を突いてくる。「何をですか」 一応藤崎は、有の一年先輩だ。もったいぶった物言いにイラッとしながらも、口角を上げ、笑みを浮かべて聞き返す。「さっき『カベルナ』で女と一緒にいただろ?  彼女か? かわいい子だった」 興味津 [続きを読む]
  • 幸せのレベル2
  •  幸いなことに、有には恋の相談にのってもらえる相手がひとりいた。大学のときに付き合っていたことがある女性――夏堀真紀(なつぼりまき)だ。彼女とは大学を卒業してからも、月に一二回、会社の昼休みにランチを共にしていた。有と真紀の会社が偶然にも目と鼻の先にあったのだ。 オフィスビル街の隙間に埋もれるように立っているレストランで、食後のコーヒーを飲みながら、有はここ数か月の間抱え込んでいる悩みを口にした。 [続きを読む]
  • 幸せのレベル1
  •  穂村有(ほむらゆう)は、一日の間に何度も、自分は幸せだと感じることがある。まずは朝起きてすぐ。洗面所に立ち、アクリルのコップに入った黄色い歯ブラシを取って、残ったもう一本を眺めるときだ。恋人が使っている青い歯ブラシ。少し毛先が広がっている気がする。あとで、そろそろ新しいのに替えた方が良いよと言おう――そんなことを考えられる状況が嬉しい。 鏡に映る自分の顔を見る。自然と口元に笑みが浮かんでいる。  [続きを読む]
  • 恋はタイミングじゃない。
  •  卒業式が終わって皆が早々に下校するなか、僕は君を中庭に呼び出して、告白した。「ずっと好きだったんだ」 頬が熱くなることはなかった。実際顔は赤くなっていないはずだ。 僕は淡々と話した。「同じクラスになってから二年間、ずっと好きだったんだ」 卒業式の日に自分の気持ちを打ち明けようと決めていた。そうでもしないと、この、胸に溜まった君への気持ちを、なかなか昇華させることができない。君に思い切り蔑まれ、気 [続きを読む]
  • トレーサー87 最終回
  •  正午過ぎ。洋一は片瀬のアパートに向かって歩きながら、彼に電話をかけた。「今から椅子を取りに行っていいですか」「――今どこにいる?」「片瀬さんのアパートの近く」 そういった瞬間、しまった、と口を手で押さえた。 椅子を取りに来いと言われたのだ。彼の勤める工房に行くべきだった。自分が記憶を失っている設定ならば。「そっちじゃないよ、バカ。工房に来い」 片瀬が電話越しに笑った。 ――工房って。なんで。 片 [続きを読む]
  • トレーサー86
  •  洋一は病室内で、五月以降の記憶がない振りをした。ロ―タスのヘッドになった事実を忘れている設定だ。相手が誰でも、その姿勢を貫いた。 面会謝絶の札がドアから外れた日、片瀬が見舞いに来た。彼は複雑な表情を浮かべていた。何から話せばいいのか迷っているように、視線を明後日の方向に巡らせたあと、少し責める口調で「どうして言ってくれなかったんだ」と言った。「夏樹にすべて聞いた。あいつがバトーに入ったことも、彼 [続きを読む]
  • トレーサー85
  • ラスト一個の空き箱に教科書と参考書を詰め込んだ。ガムテープで封をして、段ボールの箱の上に座る。これで引っ越しの準備は完了だ。ほっと息を吐く。 換気のため全開にしていた部屋の窓から、暑くなるまえの朝の爽快な風が吹き抜けた。少し開けていたドアが、バタンと音を立てて閉まった。 スマホを手に取り、昨日浅田から来たメッセージを読み返す。『引っ越すって本当か? 昨日担任から聞いた』 浅田の顔の外傷はだいぶ良く [続きを読む]
  • トレーサー84
  • 内部解体が終わった解体現場は、鉄筋とコンクリートしかない空洞だらけの塔だった。エレベーターは消えていた。辛うじて、非常階段は生きていた。洋一は最上階まで階段を駆け上った。一段上る度に、足の重りが増えるように感じた。粉塵が鼻腔に入り込む。咳込んで、また体力を消耗する。だが、立ち止まることはしなかった。一度でも止まったら、もう動けないと思った。七階まで上り、正面玄関側のフロアに向かう。すぐにエイらしき [続きを読む]
  • トレーサー83
  •  仲間のバイクを借りて、洋一はAブロックのマンションへと急いだ。 三時三十分に、マンションの前に着いた。万能塀は誰かの手によって取り払われていた。洋一はバイクから降りて、養生シートで覆われたマンションまで走った。が、玄関まであと数メートル、というところで洋一は立ち止まった。 正面玄関や、個別のバルコニーがある側の最上階の足場が、養生シートごと崩れかけている。いつそれらが倒壊して、足場の部品が地面に [続きを読む]
  • トレーサー82
  •  Dブロック内に入った。倉庫だらけのブロックだから、マンションがあると目立つ。すぐに辺見らしき人物がいる屋上を捜し当てた。その隣に立つ倉庫の軒下に、しゃがみ込んで待機している仲間の姿を見つける。『近くまで来た。俺が先に屋上に行く。今から四分後に動け。玄関からエレベーターを使って四階まで行け。屋上までは肩車でもして登れ』 仲間にメッセージを送り、洋一は斜め前にあるマンションを見上げた。高い。二階階建 [続きを読む]