kumabe さん プロフィール

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kumabeさん: パニックびとのつぶやき
ハンドル名kumabe さん
ブログタイトルパニックびとのつぶやき
ブログURLhttp://blog.goo.ne.jp/skypaniroom
サイト紹介文昨年、「僕とパニック障害の20年戦争」を出版しました。それを土台とし、大幅に加筆して掲載しています。
自由文高校3年の時にパニック障害を発症し、今年で22年目です。1980年代の終わりからこれまでに至る過程を描いています。パニック障害を抱えながら生きるということはどういうことなのかを出来るだけ具体的に書いていこうと思います。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供196回 / 365日(平均3.8回/週) - 参加 2010/10/17 00:19

kumabe さんのブログ記事

  • 駒花(26)
  • 私は高校卒業と同時に、都内のワンルームマンションで一人暮らしを始めた。森村先生からは、毎日のようにメールが届く。「淋しくないか」「帰ってきてもいいんだぞ」といった事から、将棋のアドバイスまで様々である。そうした生活に慣れ始めた5月下旬、私に大きなチャンスがやってきた。女流三冠の中でも、最も権威のある女流名王戦の挑戦権を得たのだ。菜緒や早田さんとの三つ巴の混戦を制して、初めて得た切符である。やっとあ [続きを読む]
  • 駒花(25)
  • デパートでは、私が先生のスーツやネクタイを選んだ。「これはあなたにはちょっと。もう還暦でしょ」。奥さんが口を挟むと「いいんだよ、さおりが選んでくれたんだから。それに俺はまだ59だ」と譲らない。そして、「さおりの欲しいものは?」と尋ねる。私はモノトーンの服をリクエストした。「いつも、さおりは地味な服ばかり着ているな。もっと菜緒ちゃんみたいに女の子らしいのは駄目なのか?」先生は不満げだ。そういえば、対 [続きを読む]
  • 駒花(24)
  • 感想戦の最中、早田さんはぽつりと言った。「先に仕掛けてくるとは思わなかった」と。前局と同じように、彼女が仕掛ける展開を想定していた。結果的に研究熱心な早田さんの裏を掻くことに成功したようだった。 翌日、地方でタイトル戦の解説の仕事を終え、先生が帰ってきた。私の顔を見るなり、「おお、おめでとう」と静かに言った。先生に合わせて、私も抑えたトーンで「ありがとうございます」と答えた。「結局、さおりは攻める [続きを読む]
  • 駒花(23)
  • 最終局の当日、盤を前にしても私の心はまだ決まらなかった。第4局で成功した守りの将棋を続けるか、自分本来の攻め将棋で指すか?対局10分前。早田さんはまだ現れない。スポンサーが呉服店ということで、天女戦は着物での対局が恒例である。赤い振袖姿の私は、しばらく目を閉じた。その一分程度の瞑想で心の揺れは止まった。流れのままに。状況によって攻めるか、守るかはおのずと決まる。 早田さんが対局室に現れ、振り駒の結 [続きを読む]
  • 駒花(22)
  • その夜、先生は上機嫌だった。「さおりはワンランク、レベルが上がった。あんな演歌の歌詞のような将棋が指せるんだな」「演歌の歌詞ですか?」「うん。耐えて、しのんで、やがて大きな花が咲く」「はあ。でも確かに耐えるのはきついです。勝てたとはいえ」「だけどね、今日の早田戦で、さおりの将棋の幅が広がったのは間違いない」「本当に身についたんですかね?」私にはその自信がない。「負けていたらともかく、勝ったという事 [続きを読む]
  • 駒花(21)
  • 私は4局目までの数日間、過去の早田さんの棋譜、特に自分との対局を徹底的に見直した。繰り返し見ているうちに、気がついた事があった。自分から駒をぶつけにいった時は、大概、負けているのだ。攻め将棋の私は、相手よりも早く仕掛けることで、優位に立とうとする。それで7割方、成功するのだが、早田さんとの対局は例外だった。 迎えた第4局、私は早田さんに先に仕掛けさせる事にエネルギーを注いだ。駒をぶつけたい心を必死 [続きを読む]
  • 駒花(20)
  • しかし、結果は先生の予測が外れた。勝者が天女戦の挑戦者となる一戦で、菜緒は百戦錬磨の早田さんの術中にはまり、敗れた。 私は少し、気が抜けた。勿論、早田さんの実力は一流だ。対戦成績でも負け越している。それでも、彼女から天女のタイトルを奪って以降、精神的に、自分が優位に立ったという感触があるのは確かだった。やはり、菜緒と比較すれば、組みし易しとの思いは抑えようがなかった。それを見透かして、「今のままじ [続きを読む]
  • 駒花(19)
  • その翌年、予想していた事だが、菜緒が女流三冠タイトルのひとつである、桜花のタイトルを奪取した。高校1年、16歳の誕生日を前にしての初タイトルだった。これで、女流三冠といわれる大きなタイトルのうち、2つを10代の若手が占めることになり、女流棋界では「世代交代」という言葉が目立って飛び交うようになった。 私はといえば、2年前に獲得した天女のタイトルを、昨年は防衛に成功。この年は3連覇がかかっていた。高 [続きを読む]
  • 駒花(18)
  • 菜緒も同じ思いを抱いていたのだろうか?つまり私をライバルとして見ていたとしたら、それは光栄だ。その雑誌が掲載された直後の研究会で、私に対する態度が変わったように感じた。特に対局の途中で、菜緒が指した手に対して質問した時などは、あからさまに不快な表情で、手の内を隠す言葉を並べた。 その後、2,3回、研究会は開かれたが、8月ごろ「受験生なので」との言葉を残し、菜緒は先生宅を訪れなくなり、この集いは消滅 [続きを読む]
  • 駒花(17)
  • 初めての研究会からひと月ほどたった。すでに3回、私と菜緒は森村先生宅で顔を合わせた。前回は先生が対局の日で、兄弟子に代役を務めてもらった。、しかしその後、徐々に研究会の存在は薄れていった。 もしかしたら、あの事が原因だったのかもしれない。梅雨が近いのか、雲の重たい日だった。先生があわただしく帰ってきた。私は自室のベッドでくつろいでいたところ、奥さんが「何だか、あの人がさおりちゃん呼んで来い、呼んで [続きを読む]
  • 駒花(16)
  • 研究会が終り、菜緒ら3人を見送りに、先生と私が外へ出た時には、すでに日は大きく西に傾いていた。菜緒を真ん中にして、3人が賑やかに夕陽に向かって歩いていく。先生はその背中に「気をつけて帰るんだよ」と声をかけると「は〜い」と楽しそうな声で返してくる。少しずつ3人の背中が小さくなる。先生が大きな声で「そこ、突き当たったら左な」と言う。彼女たちは素直に返事をしていたが、私は「ここへ来たということは、返る方 [続きを読む]
  • 駒花(15)
  • すでに私と菜緒は盤を挟んで向き合っている。隣では森村先生が、桜井さんと平田さん二人を相手に、角落ちで指導していた。 途中まではすらすらと手数が進み、5分程度、菜緒が考えて指した手が意外だった。はっきり言って悪手だと思った。私は菜緒の顔を覗き込んだ。菜緒は微笑んでいる。先生もそれを見ていたようで「う〜ん」と唸りながら首をひねった。まだ中盤だったが、私はここを勝機と捉え、攻めに転じた。 それから数十手進 [続きを読む]
  • 駒花(14)
  • 先生は私たち4人を近所のいきつけの蕎麦屋へ連れて行った。「いらっしゃい」「よお、ご主人、久しぶりだね」「ああ先生、いつの間にかお嬢さんが随分、増えましたね」先生と同世代の初老の店主とは、20年来の付き合いと聞かされている。先生と私はカウンター、菜緒たち3人はテーブル席に座り、メニュー表に見入っている。「遠慮せず、好きなもの頼みなさい」先生がテーブル席の3人に声をかけた。「わかりました」笑い声の混じ [続きを読む]
  • 駒花(13)
  • 平田さんと桜井さんも指し始めた。私は二人の間に入る形で、横から対局を見ていたが、どうしても森村・矢沢戦が気になり、視線が安定しない。「北園さん、これでいいんでしょうか?」妹弟子にあたる平田さんが、聞いてくる。「そうだね。悪い手じゃないと思うけど」私はそれらしい答えを返した。桜井さんはじっと考え込んでいる。 ひとつ向こうの盤に目をやる。手はとんとん拍子で進み、すでに中盤。菜緒がやや優勢に見える。駒落 [続きを読む]
  • 駒花(12)
  • 自分に見えなかったものが、菜緒に見えていた事で、私は頭の中は一杯になっていた。「菜緒ちゃん、おじさんと一局指すか?」「はい、よろしくお願いします」「角落ちでどうかな?いつも、その生意気なお姉さんとも角落ちで指してるんだよ」「私にもぜひ、教えてください」菜緒は満面の笑顔で答える。「菜緒ちゃんは、可愛いなあ」先生はチラッとこちらに目をやった。確かに、菜緒は可愛い。私はあんなにうまく笑顔が作れない。それ [続きを読む]
  • 駒花(11)
  • まだ4月だったが、初夏のような、やや強い日差しが照りつけていた。土曜日の午前10時ごろ、妹弟子の平田典子の案内で、菜緒と、彼女と仲のいい桜井由紀が森村師匠の自宅へやってきた。私が出迎え、リビングへ案内した。「ああ、よくきたねえ」指しかけの将棋盤を前に、森村先生は彼女たちに笑顔を向け、すぐに盤上へと視線を落とした。朝食後、師匠に駒落ちで相手をしてもらっているのだが、この日は珍しく中盤で私が優位に立っ [続きを読む]
  • 駒花(10)
  • 私はパソコンの画面で、矢沢菜緒の棋譜を眺めている。彼女のこれまでの将棋は、すべてこのパソコンに保存してある。しばらく彼女の手筋を見たり、あるいは癖を探したりした後、ベッドに横になった。目をつぶっても、電子的な光が目に残り、眩しさが収まらない。それ以上に心が騒々しい。菜緒の将棋を見れば見るほど、私の不安は増大していく。このままでは、平常心で将棋が指せなくなりそうだ。混迷の中、ひとつの考えがぽかんと浮 [続きを読む]
  • 駒花(9)
  • 天女というタイトルを取り、しばらくは気分よく日々を過ごした。しかし、次第に問題が解決していないことに気付かされるのだ。矢沢菜緒。彼女より強くなる方法はないのか。現在の地位で言えば、私が上だ。天女と女流2級。しかし、16歳の天女は14歳の女流2級に勝てる自信がない。将来ではなく、今ですら。 確かに矢沢菜緒の将来性に対する評価は高い。しかし、棋士、将棋関係者、ファンの間では、私の評価の方が上なのだ。そ [続きを読む]
  • 駒花(8)
  • 天女戦3番勝負。先に2勝した方がその地位に就く。初戦は硬くなり、いいところなく敗れた。後のない第2局は、開き直りが、思った通りの指し回しにつながり、勝つ事ができた。そして1勝1敗で迎えた第3局。 振り駒の結果、私が先手となった。私は持ち前の攻め将棋で、早田天女を押し込んだ。自玉の囲いもそこそこに、私の駒が前進していく。早田さんは守りが固い棋風で、防戦一方の中、耐えて反撃の機会をうかがっていた。それ [続きを読む]
  • 駒花(7)
  • 矢沢菜緒との初対局から2年が経った。将棋に集中する環境を整えるため、私は都内の単位制の高校に進学した。本音を言えば、高校へ行かなくてもよかった。しかし、森村先生に「高校ぐらいは行きなさい。今後の人生を考えたらその方がいい」と言われ、その意味は、いまひとつ理解できなかったが、進学を決めた。とりあえず、縛りの少ない、単位制高校で折り合いをつけた。私に青春はいらない。住まいはこれまでと変わらず、森村先生 [続きを読む]
  • 生きていればこそ
  • 生きていればこそ、ささやかな喜びがあり生きていればこそ、ひと目見ただけで人を好きになり生きていればこそ、幻想でもいいと思える望みがある 生きていればこそ、どれだけ振り切ろうとしても、悲しみは付きまとい生きていればこそ、薬でも誤魔化せないほど苦しみ抜き生きていればこそ、過疎と人ごみの区別がつかないほど孤独になり生きていればこそ、溺れるほどに、埋もれるほどに悩みは深くなり生きていればこそ、あらゆるもの [続きを読む]
  • 駒花(6)
  • 「ああ、知ってるよ。あの子、面白いなあ。盤面を見ているより、彼女の顔を見ている方が、優劣がよく分かる」森村先生は今日、対局で負けたことなど忘れたように大らかな様子だ。「こないだ、菜緒と初めて対局したんだけど」「知ってるよ。さおりが勝ったんだろ」「まあ、一応」「一応か。何か気になることでもあったのかな?」先生は私の中の異変に、おぼろげながら気づいたようだった。「負けそうだったんですよ、もう少しで」「 [続きを読む]
  • 駒花(5)
  • 先生が帰ってきた。奥さんの後ろから、私も玄関へ向かう。「おかえりなさい」と出迎える奥さんの後ろで、私は軽く会釈した。「おお、さおり。珍しいな」「対局はどうでした?」「いや、負けちゃったよ。いい感じだと思ったんだけど、俺も年かな」先生は苦笑いを浮かべていた。 森村先生が私を可愛がってくれるのは、先生夫妻には息子二人で、その息子たちもすでに独立している。だから娘という疑似体験を楽しんでいるのだと思う。 [続きを読む]
  • 駒花(4)
  • 翌日、学校から森村宅へ帰り、私は奥さんの問いかけに、生返事を返していた。普段のように自室にはこもらなかった。先生の帰りを待っていたのだ。 私の実家は静岡にある。父は開業医。母は専業主婦で、兄と私を育てた。兄は優秀で、医学部に入り、いずれは、父の病院を継ぐ予定なのだろう。私はといえば、クラスでは真ん中よりは上だったのだが、父に言わせれば、「お前は馬鹿だから、医者は無理。病院の職員にでもなって、医者と [続きを読む]
  • 駒花(3)
  • この対局の帰り道、私はひとり、ゲームセンターに立ち寄った。弱まったものの、まだ分厚い灰色の雲から、野太い雨が降っていた。どうしても、気持ちのもやもやが消えない。苛立ちをゲームで解消しようとした。その最中、2人組の男子高校生に声をかけられ、私は逃げるようにゲームセンターを立ち去った。赤い傘、泥のはねた靴下、雨の匂いの中を私は走った。振り返り、誰も追ってこないことを確認すると、今度はふらふらと、まだ慣 [続きを読む]