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  • 礼拝の奏楽を断る

    寒い雨の日曜日。ハンガリー改革派教会へ出かけて、牧師さんに礼拝の奏楽ができなくなった旨を伝えてきました。 この教会の奏楽者が突然音信不通になったのは11月のこと。困り果てた牧師さんは、30年も前にこの教会でオルガニストを務めていた私のピアノの先生に頼み込んだのだそうです。先生はシニアホームに移転したばかりでしたが、どんな機会でも音楽を演奏することは喜びですからと快く引き受けたといいま…

  • 先生の音

    ピアノの先生がケアホームへ移ったことを知らされたのは二日前のことでした。とうとう遠くへ行ってしまわれたのだなあと寂しくなりました。先生のレッスンが終わりになって早や数年になるのですが、いつでもおいでなさい、練習具合を見てあげましょうと言われた先生の家はもうないのですから。 でもうれしいニュースもありました。今月は先生が日曜ごとに市内のハンガリー系の教会でオルガンを弾くのです。一度…

  • 海豹と雲

    自転車で海辺を走っていたらアザラシがいました。 このあたりの入り江で時々アザラシは見かけるのですが、今回は目の前で延々といろいろなポーズを見せてくれました。アザラシとつきまとう海鳥、そしてうっすら赤いものは…隣にいた若いカップルがオクトパス、オクトパス!と叫んでいたので、どうやらタコと格闘していたようです。海鳥はおこぼれを狙っていたのですね。

  • いい歌とは

    帰省時に古書店にて見つけました。 「移住者たちが短歌に綴った二十世紀」とあるように、海外で詠まれた短歌、海外に住む歌人についての評論集で…

  • 日本にて

    10月半ばより帰省中です。もう少し若い頃は帰省するたびに都心まで出て人に会ったり、木曽路や箱根など好きな土地へ小旅行をすることもありましたが、今はほとんど実家の片付けと高齢独居の母の用事の手伝いで終わってしまいます。母にもできないことが増えました。それでもなんとか一軒家を切り回しているので応援しなくては。 そんな日々の小さな楽しみは自転車で出かけ、川辺をひたすら走ったり、街角の古本…

  • ララバイ

    ウクレレの発表会で「竹田の子守唄」の英語版を弾き語りしました。この方の動画を参考にしました。https://www.youtube.com/watch?v=7qajnbIkyis この動画の英訳は日本語にほぼ忠実ですが、2番の盆がきたとて なにうれしかろに続く「帷子(かたびら)はなし 帯はなし」は"I have no silk or satin, or I have no shoes to wear(絹もサテンも持っていない、履く靴も持っていな…

  • I am Japanese ---

    I am JapaneseI am Japanese ---Knowing this,I won't let myself or my poetrybe lessened. 日本人が日本人がといふ自意識に私やせるなよ言葉やせるなよ 河野裕子「紅」 この歌との出会いは上の英語訳でした。地元の図書館で日本の短歌と俳句の英訳集を借りてきたのです。「私は日本人」という繰り返しに目がまず留まりました。でも、…

  • 楽譜を作る

    まだまだピアノは無理ですが、ウクレレは大丈夫です。 でも、弦を指ではじくフィンガーピッキング奏法を長く続けていると手が痛むので、バッハのソナタはお休み中。そこでコードを押さえるストラム奏法を練習しています。私の場合はコードを覚えるのも押さえるのも大変だけど、英語の歌のハードルも高いのでした。 サークルに行くと、渡されるのは歌詞にコードがついているだけのもの。知らない歌…

  • 雪国の友へ

    早朝に除雪車の音響き来る吹雪の中を灯り煌々と佐藤幸子(冬雷2021年4月号) 雪国に帰省中の友人が、今夜は早くから除雪車が動いている、もうずいぶん降り出している…と言ったとき、虚を突かれる思いでした。かつては私も雪深く厳しい冬の町に暮らしていたのに、もうその感覚を思い出せなくなっていたからです。それからしばらくしてこの歌を思い出しました。作者はやはり雪深い山形の方です…

  • 風に吹かれて

    右手の腱鞘炎をぶり返してしまってピアノにはあまり触れない日々です。でも使う部位が異なるのでウクレレは大丈夫でした。一番好きな楽器はピアノですが、音楽を奏でられるのであれば手段はなんでもよいようです私の場合。ウクレレでバッハの短いメヌエットなど練習しているとほっとします。 もうちょっといろいろ弾けたらと楽しいだろうと思い、近所のウクレレサークルにも入りました。大体20人ほどの老若男…

  • 雪の朝に

    新雪を吾より先に踏み歩き烏の三又の足跡続く津田美知子(冬雷 2021年3月号) 私も今朝この歌と同じ光景に出会いました。凍り付くような空気の中に生き物の気配を見つけるとほっとします。みんな無事だったか。 カラス、そして他の鳥も案外寒さには強いようです。雪道をとんとんとジャンプしながら…

  • ハーとゆかいな仲間たち

    この夏、近所の猫率が飛躍的に上がりました。何しろ右隣三軒に入居した家族がみな猫を連れて来たのです。しかもそれぞれ二匹ずつ!その中で我が家の庭に毎日遊びに来るようになったのは… ロージー。木登り大好きお転婆娘。背後から忍び寄っていきなり猫パンチを喰らわせるのも得意。

  • 八十六歳草刈に行く

    牛を飼ひ稲を育てし若妻も八十六歳草刈に行く川中徳昭 新アララギ 2022年7月号 さらっと詠まれていながら、夫婦の辿ってきた長い道のりが浮かび上がってきます。下句がまたいい。とても好きな短歌です。 私の町もいつの間にか秋になっていました。そしていよいよ雨がやってくるようです。 …

  • 続・バッハをウクレレで

    仕事の打診が4つ重なりまして、以前なら徹夜すればなんとかなる等と言って全部引き受けていたはずなのですが、今回は3つ断わりました。 その後の気の重さは、これでもう声がかからないかもしれないというフリーランスあるあるな不安だと…

  • 一息つく

    色々なことがいっぺんにうまくいかなくなる時期ってあるんですよね。健康でも仕事でも人間関係でも、一つ一つは多分、ちゃんと落ち着いて考えてみれば些細なことなのだけれど、あんまり続くとやっぱり疲れるものです。 ましてや私は根っからの心配性。考えることがどんどん暗い方へと流れていきます。この地方に本当の春がなかなか来ないのも良くないのでしょう。五月も終わるというのに、なかなか雨は止まず、…

  • あるじ亡きブログ

    更新のされることなきブログにてしばし佇むただただ寂し 愛読していたブログが二つ、突然終わってしまいました。どちらのブログ主さんともお会いしたことはありませんが、読み応えのある文章が好きで、楽しみにしていました。まとまった文章を読みたいので、インスタグラムやツイッターは登録したもののあまり見ることがありません。(回転が速すぎてついていけないとい…

  • こころでブラームスを弾く

    パンデミックでレッスンが受けられなくなってしまっても、ピアノに向かうたびに老先生の声が蘇ります。「この曲はすでに暗譜したでしょうね?」英語で暗記することをby heartと言うのですが、あまりに毎回毎回言われるので(あー心でなんか弾けませーん…)と心でつぶやいておりました。 暗譜が苦手です。ものすごく時間がかかるので、暗譜に費やすエネルギーは新しい曲の譜読みに費やし…

  • 忘れるは時にはよろし

    忘れるは時にはよろし新しい明日を見つける為にもよろし冨田眞紀恵(冬雷2022年3月号) 短歌結社「冬雷」では80代、90代、そして100歳の現役歌人が毎月素晴らしい歌を発表されています。上の歌の作者の方もそうした短歌の先輩のお一人。ホームに移られてしばらくは、美しいけれどどこか寂しく切ない歌がありましたが、…

  • バッハをウクレレで

    突然ですが、先週ウクレレをもらってしまいました。レスポールモデルなのでちょっとギターみたいでしょう。猫にも弾けそうな大きさです。

  • 外国語という窓

    友人に薦められてDuolingoなる言語学習アプリを使い始めてみました。選んだのはロシア語とフランス語です。ロシア語は響きがとても好きで、数年に一度の割合でロシア語熱がぶり返します。フランス語は、フランス語の基本を知らないとカナダ人に小馬鹿にされるから(個人的な見解です)。 一つの言語につき一日に10分程度。一問一答で進みます。ロシア語は近いうちにまた格変化で躓きそうですが、今のところは順…

  • BWV1030の魅力 伴奏というよりも

    伴奏の世界は奥が深そうですが、専門の勉強をしたこともない私などには少し退屈に思えることもあったりします(すみません…)。 特にピアノのパートが単純なものだと心が浮遊してしまいます。見せ所の多い主役のやり直しに何度も付き合っていると、あーあ、私もスケールの練習したいなーなんて。 でも、練習中のJ.S.バッハのフルートソナタBWV1030はちょっと違うのでした。名前こそフルートソナタ…

  • 二人羽織☆ハンマークラヴィーア

    ベートーヴェンのソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」を譜読みしました。と言っても、ピアノ友が右手を弾き、私は左手を弾くという形です。 独奏用の曲を二人で分担してやっと、あの長い曲を初めて最後まで通せました。しかしそれだけでした。音楽的にはめちゃくちゃでした。いや、もう、ただでさえ難しい曲なのに、二人だと本当に合わないものですね。 一つの体に二つの脳が宿ったらこんな感じなのでしょうか?二人の演…

  • 空澄めば

    憂きことの積る日あれど空澄めばひとごとのごと軽くなる今日 林美知子(冬雷2022年1月号) 素直に心に入ってくる歌でした。「ひとごとのごと」のリズムがよく、いかにも気の晴れてくる様子が伝わってきます。この歌に共感する人は多いのではないでしょうか。私もその一人です。あれやこれや気がかりは沢山あって、眠れぬ夜などぐるぐると考え込んでしまいます。そんな日々に珍しく広…

  • 冬の猫

    明けるころ猫ら布団に上がり来て胸を踏まれて目覚むる今朝も 羽田孝輝(冬雷2022年1月号) 「胸を踏まれて目覚むる」に思わず笑ってしまいました。猫あるある、だなあと思って。明け方は一番冷えます。そして猫は居心地のいい場所をよく知っているのです。私もよく顔を踏まれたり、枕を全部とられたり、寝返りを打ったら猫のお尻に顔がはまったり。 この歌の最後の「今朝も」のち…

  • 岬までペダルを踏んでその先はカモメと別れる風に吹かれて 海に突き出た公園は広く、いろいろなルートがあります。その中のひとつ、岬へ向かう坂道。これが見た目より勾配があって、見た目より長くて、地味にきついのです。気力のあるときにしか行けない道ですが、運動不足解消のためがんばってみました。 小学生(体が軽そう)やおじいちゃん(年季が違う)サイクリストに追い越され…

  • 秋の終りに

    枯るるもの枯れて立木の潔く宙に向かひてその枝ひろぐ 天野克彦(冬雷2021年2月号) すべての飾りを捨てて、木はただまっすぐに立っている。そしてそのうえには宙(そら)が無限に広がっている。紅葉が散ってしまうとあとは冬が来るばかりです。冬季の日照時間のごく乏しい土地にいて、冬季鬱なんて言葉もそろそろ聞こえてくるせいもあるのか、どうにも寂しい気持ちになってしまいます…

  • 読む楽しみ

    長い雨の季節、猫を膝に乗せて本を読んでいます。よく食べよく運動するようになって、猫はずっしりと重くなりました。 最近はキンドルを愛用しています。紙の本は今でも魅力的なのですが、電子書籍も慣れれば…

  • 11月に来た猫

    檻の奥に小さく固まるぶち猫を連れて帰りぬ目と目が合いて ちょうど1年前のことでした。早いものです。

  • ピアノをやめる日

    もうサックスはやめる。と、家人が言うのでびっくりしました。一体全体どうして急に?コロナ禍でずっと休みだったビッグバンドのリハーサルも再開されたところなのに? いわく、世の中には素晴らしい演奏がたくさんある。そうした音楽に触れるたび自分のやっていることは何なんだと思う。音楽がこんなに好きなのにちっともうまくならない。才能のかけらも持ってない。それが惨めでストレスフルなので、もう黙ってプロの優れた…

  • 時計の明快

    時の来て電池の切れて止まりたる時計の明快かやうに生きたし 鈴木計子(冬雷2021年10月号) テーマも歌の流れも無駄なくすっきりとしています。そしてスマートでいて、人生というものはなかなかそうもいかないのだ、という思いが根底にあるところが特に私の心に響くのだと思います。この歌を読んで父を看取ったときの絶望を思い出しました。私の人生の終りはこの歌のようでありたい、…

  • パラボラアンテナの猫

    夏も終わるというある日、我が家のわんぱく小僧にアクシデントがありまして、病院のお世話になりました。詳細は省きますが「コヨーテとの戦いにおける名誉の負傷」ということにしておきましょう。(絶対に違うけど。) 「しょんぼり」

  • 黄昏のビギン

    外苑を君と歩みし日は遠くテレビに流る「黄昏のビギン」 のたきひであき (冬雷2021年10月号) テレビから流れる歌に懐かしい時間が蘇ったのでしょう。今も一緒にいる人なのか、もう会えない人なのか。作者と「君」の関係はわかりません。でもちあきなおみの歌うこの歌の持つ雰囲気もあいまって、「遠く」がなんとも切ない響きを生み出しています。聴こうと思って聴いた歌ではない…

  • バロック猫、頑張る

    ピアノを練習をしていると猫はどこからともなくやってきて、ぴょんと椅子に飛び乗って、さりげなく人を押し出して自分の領土を広げていきます。だいたい表面積の3分の2以上が猫の場所。でもこのようにお尻に猫をくっつけたままフーガをさらう人も世の中には結構いるような気がします。

  • 道はまっすぐ

    空が青いただそれだけで自転車は走って行ける道はまっすぐ 国境に近い堤防 森

  • あじさい

    朝毎に我をはげますごとく咲く塀ごしのあじさい色うつくしく 廣野恵子(冬雷 2019年9月号) はげます、あじさい、うつくしく、という重要な言葉があえてのひらがな遣いとなって、読み手のスピードを落とさせて、ゆったりとした優しい雰囲気を生み出しています。人間生きていれば何かしらの悩みを抱えることもあります。思い通りに行かない悩みに苛まれる心は、ただ自然のままに咲く…

  • ジャズピアノ

    ちょっと何か弾いて~とお酒の席で言われたら、何を弾きますか? バッハのフーガ…違うな。ベートーヴェンのソナタ30番…なんか違うよね。ショパンの子犬のワルツ…超絶スピードで弾いたら受けるかも。でも私のは亀だから…。 ほろ酔いの人たちが期待しているのは、「知っている曲」「構えなくてもいい曲」「耳に優しいメロディ」だと思うのですね。 それで今、これを暗譜しようとあがいています。それこそ亀スピードで…

  • 聴きこみが足りない

    家人が所属しているサックス四重奏団。その今年初めての練習会がありました。これもワクチン接種のスピードが上がったおかげです。 今のところはコンサートの予定も立てられないし、久の集まり々なので持ち寄った楽譜から適当に合わせているようでした。その一曲にバッハのフーガがありました。初見にしてはいい感じだったのでこっそり録画しておきました。 しかしこの曲、自分でも弾いたことがあるのだけど、四声のフーガ…

  • わが頭上を灰色の大き鳥ゆけり音なくゆけり幻のごと 穂積千代(冬雷2021年4月号) 夢のような光景が端正に詠まれて、美しさが引き立っています。 何という鳥だったのか。どこからどこへ向かって飛んで行ったのか。そうしたことはこの歌には書かれていません。確かめられなかったのかもしれません。でもこの歌にはそうした詳細は必要ないように思います。 羽音も立てず流れる…

  • とりあえず弾いてみた(だけの)ツァラトゥストラ

    二台ピアノの大型編曲ものとして、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」を合わせてみました。 これもピアノ友が楽譜を探してきたものです。聞けば最近の友人の「マイブーム」がR・シュトラウスらしいので。 有名な導入部のティンパニをピアノで再現(友人のパート)では笑い出すかも、と思いましたが、自分のパートに忙しくてそれどころではありませんでした。とにかく音符が多い。実は私は…

  • 半年経ちました

    ハーヴィが我が家に来て半年になりました。 恐怖のあまり隠れたがる猫のためにあてがった客用の寝室。そこから徐々に行動範囲を広げて、今では家中のどの部屋にもお気に入りの場所ができたようです。 来て2週間後ぐらい。最後から2番目に開放したピアノの部屋へ。まだまだしっぽが下がっています。

  • 青空を二つに割る雲引きながら飛行機が行く旅の恋しき ゆるやかに回って回って大空の彼方へ鳶は去りてゆきたり 川上美智子(冬雷2021年5月号) 一首目の「青空を二つに割る」という描写が鮮やかですね。「旅の恋しき」の吐露にも共感。地上ではまだまだ混乱が続いていて、この先どうなるのかもわからない心細い日々ですが、二首目のスケールの大きさに救われます。たとえ体は移…

  • ひかりとも風ともなりて来る死者か生きて今年の桜見飽かず 川又幸子 またひとり、親しい人がこの世を去りました。今となってははるかに遠く感じる太平洋の向こう側で。その人のよく響く明るい声に今も私の名前が呼ばれるような気がします。死んだ人が光になって、あるいは風になって会いに来る。この歌に少し心慰められています。 私の町は今日から三週間再びロックダウンに入りま…

  • ひみこ

    3月14日、日曜日。今日からカナダは夏時間に入りました。1時間時計の針を進ませます。思い出すのはひみこのことばかり。 弱りゆく猫を抱える長い夜 冬の時間がもうすぐ終わる 去年は3月8日が時間変更の日でした。その日を境に晴れ間が増えたので、ひみこを抱えて毎日庭に出してやりました。すでに足元がおぼつかなくなっていたのに、芝生に降ろしてやれば懸命に手足を動かすのです…

  • ピアノの対話

    言葉より深く伝わる音もある 二台のピアノに第九を弾きぬ 4か月ぶりに二台ピアノの練習をしました。換気、マスク、手洗い。そして余計なおしゃべりもなし。とにかく時間が限られているから。4か月も会わない間に弾きたい曲は増えていくばかり。今まで練習してきた曲もさらいたいけれど、初見で合わせたいものもたくさんあります。 でも今日はとにかくこれが弾きたい。これだけは最…

  • Low Tide

    引き潮の午後の浜辺を歩きたりかもめとわれとつかず離れず

  • 脳トレとバッハ

    子供達の幼き頃の楽譜捜し脳トレせんとピアノに向かう 窓締めて「こどものバッハ」に向かう吾たどたどしくも繰返し弾く 酒向陸江(冬雷2021年1月号) 私ようなピアノファンのバッハファンにとって励まされるような歌です。お子さんたちが使っていらした楽譜もピアノも大切にされていたのでしょうね。「繰返し弾く」に一心にピアノに向かわれる姿が伝わってきます。指も頭も使うピ…

  • 二代目バロック猫

    昨年はバッハの平均律第一巻を全曲譜読みしました。仕上がりには程遠くても、レッスンが再開した際にどの曲を指定されても即持っていける程度にはなっているかしら。もちろんダメだし満載の覚悟ですが。 今年は第二巻を最初から最後まで弾く予定です。二代目バロック猫もスタンバイ。バッハが好きな猫は多いのでしょうか。はー太郎はショパンを弾くと逃げます。あ、それはショパンのせいじゃなくて、「私が弾く」ショパンが変…

  • 新しい年

    酔いどれのホルンのふらふら奏でいる蛍の光年越しの街 絶え間なき花火と爆竹ふるさとのはるかに遠き除夜の鐘の音 新年を告げる汽笛のろうろうと霧の向こうはバラード海峡 祖国より十七時間遅れいて正月来たれりこの北国に あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。 いまさらながら、今年が丑年ということに気が付きました。 我が家の小さい牛。

  • 笹が好き

    ここは中国四川省。パンダの聖地。多くのパンダが野生に近い環境でのびのびと暮らしています。 「パンダじゃないです!僕は猫です!」 これは失敬。でも君は今、笹をかじっていませんでした?

  • 冬至、そして外に出たい猫

    浮く柚子のでこぼことして香を放ち肌に触るれば冷たき一瞬 髙橋説子 冬雷2016年3月号 そうそう!あのぷかぷかと浮かぶ柚子がぶつかってくるのよねえ。ひやっとしてねえ。この歌のすばらしい描写に思わず笑ってうなづいて、日本の冬至の夜を懐かしく思い出しています。 カナダも無事に冬至を迎えました。本日の日の出は朝の8時6分、日の入りは午後4時16分。と言っても、しょぼし…

  • 猫病めば

    猫病めば夫も我も気が沈み言葉少なく朝の茶を飲む 上記は数年前に母が詠んだ歌。もうこの猫くーも、くーを可愛がっていた父もこの世におらず、歌だけが残りました。 さて、この1週間の我が家もこの歌の状態でした。 11月8日にやってきたハーヴィですが、歯肉炎を起こしているので早急に治療が必要とは保護施設で聞いていました。まだ慣れないのにかわいそうだったけれど、三日後に…

  • 猫に名前をつけること<br />

    T.S.エリオットも言っていますね。"The Naming of Cats is a difficult matter..."と。 わが家の新しい猫の名前もなかなか決められませんでした。 私は日本語の名前を付けたいと思っていました。「さくら」とか「みかん」とか「とうふ」なんてかわいいな。ハーヴィには「はんぞう」を候補にしていました。でも、忍者の名前を持つにはこの猫はジェントルすぎると夫が言うのです。 夫は「アルフィー」を希望していました。…

  • 猫のハーヴィ

    私にとって16年共に暮らしたひみこ以上の猫はいません。これは私が死ぬときまで変わらないでしょう。 でも、仕事がらみのごたごたにとりあえず決着をつけて、時間に余裕のできたこの頃、もしも、ひみこのように行き場のない猫がいたら引き取ろうと考えるようになりました。ただし、コロナ禍の現在、これまでのように自由に保護施設を訪ねることもままならず、猫さがしはかなり難航しました。 決めていたことは、誰から見て…

  • 生まれた場所へ

    川流れをるよと見れば鮭遡る 清崎敏郎 鮭が海から戻ってくる季節になりました。 わが家にほど近い森でもシロザケ、英語ではchum salmonが川を上ってくる姿が見られます。この川より海へ旅立った小さな鮭は四年後に生まれた場所へ戻ってきます。

  • 独りになる時間

    君だねと夫は示す乱舞する群を外れるユスリカ一匹 私の場合、孤高の人というカッコいいものではなくて、気が付いたら主流から外れていたという感じですけれど、独りになる時間は自分を保つために必要だと思います。今は自転車に乗るのがその時間かな。 森もいい。山もいい。知らない町を走るのもいい。でも一番はやはり海です。

  • Autumn geese wind

    秋の田の穂田を雁が音闇けくに夜のほどろにも鳴き渡るかも (あきのたのほだをかりがねくらけくによるのほどろにもなきわたるかも) 万葉集1539 天皇の御製歌二首(その一首) 稲穂の上を明け方に雁の群れが渡っていく。その声が響いている。日本の秋の美しさを思い出します。 興味深い言葉に出会いました。それは「雁渡し」。俳句の季語で、雁が渡ってくる頃に吹く風のこと…

  • バッハ

    ジャズの人もウォームアップはバッハなり分散和音を駆けのぼらせて 夫は17人編成のビッグバンドおよびサックス四重奏団にてバリトンサキソフォンを吹いています。前者はジャズ、後者はクラシック音楽が中心です。 低音のバリトンは他の楽器と合わせたときは魅力を発揮しますが、あまり主旋律を奏でることがないため、わが家の一人のパート練習はあまり聞…

  • フランス語ことはじめ

    フランス語を読めるようになりたいと突然、思いました。と言っても「失われた時を求めて」を全巻読破したいわけではなく(日本語でだって難儀しているのに…)こういうのを読みたいのです。 これはスーパーに売っているシリアル…

  • 海よ!

    目のツボのせんねん灸に火をつけて廃業ばかり考えており もうずっと目がとても疲れています。細かなデータを見る仕事がしんどいです。ミスが増えて案件は減りました。もうこのままやめちゃおうか。でもそのあとはどうする?などと同じことをぐるぐる考えてしまうときは、体を動かすのが吉です。 川沿いのサイクリングコース。いくつかの橋をくぐればもう海です。

  • 猫のいない家

    消しゴムがまた無しいづこ老猫がスナップ効かせ弾きたるにや 佐藤靖子(冬雷2019 作品年鑑・自選合同歌集) この歌を読むたびにふふっと笑ってしまいます。老いてもまだまだ遊び好きな猫。「また」ということはよくあることなのですね。くいっと手首をしならせる動作、素知らぬ顔で消しゴムを飛ばすところ、でもそんないたずら者を決して怒れない作者が浮かびます。最後の「弾きたるに…

  • 恵みの雨

    山火事の煙のため、ひどい大気汚染でした。外出を控え、窓も開けられぬ家に閉じこもり、見上げれば朝から黄昏のような空。まがまがしい色の太陽。いつもなら青々と美しい山々も海も異臭のする煙に覆い隠されていて、なんとも気分が落ち込む一週間でした。

  • ピアノのこと

    手が熱を持たぬ日嬉し鍵盤を上り下りて旅を続ける 悩み多き夏でしたが、ピアノを弾く時間が確保できたことは幸いでした。この頃こわばりと痛みが少なくなって、前よりも指が動かせるようになったおかげです。まだ鍵盤上の旅を続けられそうです。 夏の練習曲。 バッハ 平均律第1巻第3番 長年避けていたこのシャープ7つのフーガを通しで弾いて、シャープへの苦手意識が少し減…

  • 雁に会う

    自転車に入り江を抜けて会いに行く飛行訓練している雁に 悩み多き8月がいつの間にか終わっていました。考え込む日は体を動かすのが吉。私の場合は自転車に乗って海を見に行きます。太平洋が広がる岬もいいけれど、やはり楽しいのはコンテナターミナルでしょうか。貨物船、貨物列車、雁がそろっているからです。 この三つはどれも遠くへ旅するところ、さらにあまりスマートな姿をし…

  • 猫の名前

    ふさふさ猫の名前はローリー(Lori)だと思っていたら、ロキ(Loki)でした。名札の小文字のk、手書きでしかも上のほうがかすれているのでrにも見えたのです。 「わが名(にゃ)はロキ。かのオーディンの義兄弟にゃるぞ」

  • 花をいっぱい

    市の種苗場が園芸ボランティアのために無料で花の苗を提供してくれました。車で行ってよかったです。なにしろこんなに大量の花。

  • 海とカナダ雁

    朝6時。自転車に乗って街を走り抜けて海へ。最近は午後になると人出がすごいようですが(社会的距離は??)、この時間帯ならひっそりとして平和です。 水は澄んで。

  • パートタイムキャットその2

    夏の風がカーテン揺らせば思い出す戯れし猫もういない猫 永光徳子 後半で「猫」が二回、つぶやきのように繰り返されているところに、作者の寂しさを感じます。 ひみこの死から5か月近くたちます。ひみこがいない家はやけに静かでやけに広い。南向きの窓、屋根の上、薔薇の木の下。どこを探してももうひみこはいない。悲しい。16年も一緒にいた猫を忘れられるわけがありません。 …

  • パートタイムキャットが来ない

    ひみこ亡きあと遊びに来るようになったエディについて以前書きました。 そのエディがもう1週間姿を見せません。猫の気まぐれならいいのだけど、向かいの猫好き奥さんも、私と同じく先週の木曜日に見たっきりだそうで、しかも「その時片足をひきずりながら歩いていた」というので心配しています。 1か月前までは首輪も名札も(飼い主…

  • 園芸ボランティアの驚きと喜び

    市の園芸ボランティアとして、街中にある緑地帯の植物の世話をしています。コロナのせいでシニアのための音楽ボランティアはずっと休みですが、ひとりで草や木や土を相手にする分には問題ないですものね。 私は草取りが好きです。もう趣味と言ってもいいレベルかもしれません。花殻摘も剪定も植え替えも、堆肥づくりも好きです。仕事がうまくいかない時も、人との対話で疲れた時も、もくもくと緑の中で作業をしていると落ち着…

  • アルメニアへの旅

    「旅」と言ってもピアノの鍵盤上での旅の話です。 二台ピアノの練習を再開しました。 一台四手連弾では接触度が高すぎますが、二台のピアノに分かれればソーシャルディスタンスも取れそうかと。どちらが第一ピアノパートを弾く場合にもピアノの交代はなし。そしてどんなに雨が降って寒かろうと窓は全開で。 久しぶりに会う友人とのピアノを通しての会話。あれもこれもと楽譜を引っ張り出して夢中で音を出していたら、4…

  • ピアノの先生の歌

    戦争の捕虜生活より快適とピアノの師は言う自粛の日々に ピアノの先生にお会いできなくなってもう4か月になります。ときどき電話で話をしていますが、95歳の先生はお元気そうです。 上の歌はそんな先生の、第二次大戦でソ連の捕虜になった時はこんなもんじゃなかった、自分の家でピアノが好きなだけ弾ける今は幸せだ、という言葉から。ウィルスの怖さについての話になれば、「国境の…

  • ささやかな愛を

    庭のニセアカシアが満開です。 ところが、この花が週末の雨を含み重くなったのでしょう。枝が4…

  • 機関車がゆく

    鼻歌に巨き体を揺すりつつ二月の雨より機関車出でゆく 百両の貨車を率いる機関車の咆哮はるかロッキーを越ゆ ロックダウン、ソーシャルディスタンス、ステイホーム、ステイセーフ…落ち着かない日々を過ごしているうちに、もう5月になりました。 ともすれば沈みがちな心を鼓舞するごとく外へ出るようにしています。24段変速のクロスバイクは中古ですが、とてもよく走ってくれます…

  • パートタイム・キャット

    我が家の猫が死んでしまってもう一か月。今も毎朝ひみこが起こしに来た時間にきっちりと目が覚めます。でもあの最高にかわいかった毛玉はもうどこにもいない。寂しいなあ…。 さらに最近はひみこがいない事実をつきつけられる出来事がありました。それはネズミの出現です。16年間、一度も家の中で見たことも、気配を感じたこともなかったのに。 思えばひみこは優秀なハンターでした。裏庭やガレージでよくネズミをとってき…

  • ロックダウン

    花々に「差し上げます」とのメモを添え花屋も去りぬ閉じ行く街より コロナ禍により国境封鎖。そしてここバンクーバーでも飲食店はもとよりさまざまな施設や公園が閉鎖されています。牛乳を買いに出た帰り道、よかったら持って行って頂戴とチューリップの花束を渡されました。小さな花屋の年配の女店主でした。非常事態宣言が出て店を休業するのだけれど、仕入れたばかりの花を捨てるの…

  • さよなら、ひみちゃん

    2020年3月17日午後12時30分、猫のひみこがこの世を去りました。 その日の明け方までたくさん水を飲み、午前中に昏睡状態になり、ふたつ小さい咳をして、それが最後でした。 柔らかい春の陽がひみこの背中に降り注いでいました。 2004年の春にふらりとやってきた猫。毛色といい骨太の手足といい遠目にはアライグマと見まごうほどの大猫。 もう動物を飼うつもりはなかったのに、ピアノ友の言葉を借りれば「猫に選ばれたんだ…

  • 逢ふことの叶はぬ人の増えてゆく今年の桜待つことなしに 川又幸子 (川又幸子歌集 冬雷叢書 第97篇) いつもと違う春。それでもいろいろな種類の桜が次々に咲き始めています。きのう、街の古い病院の前の桜が満開でした。

  • 低空飛行の猫

    拾ったときがすでに5歳とも6歳とも言われていた我が家の猫。そろそろ我が家に来て16年目の春を迎えようとしていますが、最近足元がふらつくようになりました。獣医さんの見立てが正しければ19歳、あるいは20歳。人間でいえば90歳をとっくに越えていますから、あちこち故障が出てくるのも無理もないことです。 最近は階段の上り下り、寝床であるカウチへの出入りも厳しいため、人間が抱いて移動させます。この頃は猫も慣れたも…

  • 早春譜

    風は冷たいけれど貴重な晴れ間。自転車で2時間ほど走る間、思わずこの歌を口ずさんでいました。とくに長い坂道を下るときはスピードが出るのと、自転車では完全に一人っきりになれるのとで、けっこう大胆になるのでした。 春は名のみの 風の寒さや 谷のうぐいす 歌は思えど 時にあらずと 声もたてず 時にあらずと 声もたてず 氷融け去り 葦(あし)はつのぐむ さては時ぞと 思うあやにく 今日も昨日も 雪の…

  • 犬とわれとは

    毎日を共に散歩の犬とわれどちらも礼を言うことはなく 共に行く犬とわれとは立ち止りどちらが先に死ぬとも泣かむ 山崎猛(冬雷 2020年2月号) 一首目、「どちらも礼を言うことはなく」。互いに心を通わせているからこその感覚ですね。 二首目、万物は流転する。いつか来るその時を知っているからこそ、現在の幸福な時間が愛おしい。結句の静けさが胸を打ちます。 我が家の…

  • われだけに

    われだけにほほえみかける神でなし電車の中の傘は出て来ず 矢野操(冬雷2017 作品年鑑 自選26首) まあそれも人生よ、とばかりにさばさばとしています。ご本人もきっとさばさばとした性格の方なのでしょう。わかりやすくて、共感できて、いい歌です。「われだけに…」は私の口癖になりそうです。 こちらは相変わらず雨ばかりです。この地方の冬はもうずっと薄暗くてしょぼしょぼ…

  • 孤独

    役目終へ土星へ落ち行くカツシーニ最後の電波静かに絶えたり 松本英夫 (冬雷2018作品年鑑 自選26首) 夜空を見上げるたびにこの歌を思い出します。抑制のきいた静かな端正な歌です。それだけに訴えかけてくるものがあります。実は、この歌を初めて読んだときはちょっと泣きました。生まれ故郷に二度と帰ることもなく、だれもいないはるか遠くの星で、たったひとりで役目を終えるこ…

  • 猫は9つの命を持つ その2

    猫 安楽死を告げられたる猫にじり寄りわれにこつんと頭突きをしたり 動物病院にて。10月の終わりに顔に大きな腫れ物ができた猫。それが悪化し、動かず、食べなくなりました。 声を上げ手放しに泣く君のあり診察台の猫の名を呼び 「15年も一緒に暮らしてきたんです。大事な家族なんです」と夫。 土曜日の…

  • 無用、不要、不用

    元旦に手帳の見返しに三行書く延命無用葬儀不要戒名不用 関口正道(冬雷2018 自選合同歌集) 下句の漢字の連なりに読み手のスピードがやや落ちて、その意味するところがあとからじんわりと伝わってきます。熟語の言い切りには作者の潔い姿勢を感じます。 私の元旦の決意もこれです。えーもう終活って早すぎでしょ、と同世代の友人には笑われていますが、人間いつまで自分の足で動け…

  • 大晦日に

    またの世のあると思はず存へてこの世ばかりの花をこそ見め 川又幸子 母が入院してしまったので帰省のタイミングを見計らうなんとも落ち着かない日々ですが、それでも時間は容赦なく過ぎていきます。新しい年はこの歌の気持ちで行きたいものです。 日本より17時間遅れの私の町は、これを書いている現在まだ2019年12月31日の昼。雨季なので仕方ありませんが、毎日毎日飽きもせ…

  • 短歌とTanka poem

    隣家の増改築のため、その庭の大木が切り倒されました。 そのときに私が作った歌。 そびえ立つトウヒの古木は倒されてただぽっかりと青空のあり 次は夫が作った「タンカ・ポエム」。 A tree came down and the open sky revealed what might have been. 私はこの木が好きでした。カラスやリスやキツツキの憩いの場でしたし、仕事部屋か…

  • ピアノの先生

    老猫の体調に一喜一憂する日々ですが、良いこともありました。それはピアノの先生のレッスンが受けられたこと。 実は先生は、先月倒れて緊急手術を受けたあと入院されていたのでした。九十半ばというお年を考えると最悪の想像しかできなかったのですが、なんと先生より電話がありました。いつもと変わらない穏やかな声で、冗談をとばしつつ、次のレッスンは予定通り水曜日ですよ、と。 お見舞いのつもりでしたが、しっかり…

  • 猫は9つの命を持つ

    病む猫のサヨリのごとくとがる背を君の大きな両手が包む 病む猫に夫は説きたり猫はみな命を九つ持っているとぞ 我が家の猫。この夏に体調を崩して食べなくなりました。持病があるし、たいそうな高齢なので(推定二十歳)、いよいよかもしれないと人間は覚悟を決めました。しかしその後見事に復活してくれたのです。 先週からまたも元気がなくなった猫を抱えて、人間はおろおろと…

  • 稲雀

    秋深しいつせいに飛び立つ稲雀光となりていづこへ向かふ 植松千恵子(冬雷2019年2月号) 稲雀(いなすずめ)とは実った稲をついばみに来る雀のことをいうのだそうです。この歌の「光となりて」というところがとても好きなのです。秋の傾きゆく陽はまばゆい金色をしていて、稲穂も雀の背中もそうした光に包まれて輝いている。得も言われぬ美しい光景です。 私の町では稲雀が見…

  • ソヴィエトの

    モスクワで郵便出さむと歩きたりわれの若き日とほくなりゆく ソヴィエトの頃のキエフの並木道かのななかまどわれより去らず 鷲司法子(「年どしの秋」冬雷2018自選合同歌集) 短歌には旅行詠というジャンル(?)があるようです。私も旅先の思い出などつづってみたいと考えるのですが、たいがいはボツになります。手当たり次第に撮ったスナップ写真のように、広く浅く、そしてつまら…

  • トマトの歌

    庭のトマトが朝あした吾を呼ぶひとりに生えてひとりに太りて 江藤ひさ子(冬雷2019年9月号) この歌が一味違うのはトマトを主体に持ってきているからですね。これはなかなかできない発想の転換です。私だったらついつい「わが庭のトマトは・・・うんぬんかんぬん」としてしまって実に凡庸なものを作っていたかもしれません。その点、この歌はこぼれ種から育ったトマトの生命力を…

  • 自転車に乗って

    仕事に明け暮れているうちにもう8月も半ばです。 最近も地図を片手に自転車で走っています。 ちなみに電動自転車はとあるイスラム教徒のご老人に譲りました。日に数度モスクへ礼拝に行く足になる、とたいそう喜んでいただけました。私は自力でがんばる方向で…でも坂の多い港町ですから、せめて21段変速ほしいところです。そのうちにいいクロスバイクを買います。 ある朝は海を見に行きました。

  • 茜の空に

    送り火の白き煙は風にのり茜の空に消えてゆきたる 実家の母の2017年の歌。仕掛けもなんにもないふつうの歌ですが、白い煙と茜色の空の対比がきれいです。絵が好きで若い頃は油絵を描いていた母は、短歌にも色を乗せることがよくあります。 この歌をとりあげたのは、昨日母から庭で迎え火を炊いたというメールが届いたからです。この歌の翌年に相次いで死んでしまった父と猫も帰って…

  • 昼顔よ

    昼顔よ昼顔見ればひとときののどかさ宿るどういふときも いつよりか昼顔みればハローと言ふけふ群れをればハローハロー 佐藤靖子(冬雷2018年8月号) 昼顔はのどかな花という表現が好きです。ハローハローの繰り返しも楽しい。この歌の持つゆったりした雰囲気に、よく晴れた初夏の昼下がりの小径を思い出します。今週は立て続けに二つも嫌なことがあってくすんでいた私ですが、こ…

  • 愛の夢

    Liszt / Alicia de Larrocha, Late 1950s: Liebestraum (No. 3) - Hispavox Vinyl LP 愛せる限り愛せよ その時は来る 汝が墓の前で嘆き悲しむその時が… フェルディナント・フライリヒラート フランツ・リストのピアノ独奏曲「愛の…

  • 雁の家族

    国境の南へ発ちたる雁の群れ今宵はいずこの水辺に眠る 声をかけ声を返してまた群れが雪の連山越えてゆきたり この歌は昨年の冬に作りました。ここでいう雁とはカナダ雁のこと。けっこう大きな鳥です。急きょ日本へ帰ることになり、飛行機を待っていた寒い朝。山沿いに雁の群れがいくつも飛んで行くのが見えました。 渡り鳥の旅は過酷です。雁の場合、一羽がけがや病気で脱落すると一…

  • カラスの歌

    私はカラスが好きです。 雪が激しく降る中、小さい体で懸命に飛び回って…

  • 命は一つ

    黒ゴマの一粒ほどの虫が居る流すを迷う朝の洗面 一点の虫でも命欲しかろう我もお前も命は一つ (川上美智子 冬雷 2018年7月号) 助けてやったという押しつけがましさも、まあかわいそうにという「上から目線」もなく、作者は虫と同じところに立っています。虫を見つめつつ、おのれの生を見つめています。だからこの歌は私の心にも静かに響いてくるのでしょう。「我もお前も命…

  • 十二本

    「全部で十二本切りました。」 実家の母よりメールがありました。植木屋さんを頼んで二日がかりで庭木を切り倒してもらったそうです。もうとうに、高齢の母が一人で家と庭を維持していくのは難しくなってきていましたから。 一本一本の木に御神酒をあげて、ごめんなさいと言ってまわったという母。辛い役目です。庭が明るくなったから花を育てようかしらと最後は少し前向きになっていたのが救いですが、こんな時に遠く離れ…

  • 時間

    曽木の滝の崖の上より滝つぼにしぶきつつ落つ水の時間かも 川内の原発の上をああ「時」がシリシリシリと過ぎてゆくなり 小村忍(冬雷 2019年5月号) 曽木の滝は鹿児島県は伊佐市にあります。その滝の流れる川内川が東シナ海へ注ぎ込むところに、九州電力の川内原子力発電所が立っています。 この二つの歌には「時間」が詠まれています。一首目は滝に落ちる水の動き。緩急をつ…

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