◇ 浜茄子は海と空をほしいままに砂をかぶって小刻みに震えている 置かれた位置の宏大さと自由 そのせいか実は堅くしまって意志は強固はるか水平線を巨大な油槽船が渡って行く自らの存在証明のように白く燃え輝きながらーーどこかの港にその積荷を降ろさないことには何事
ーちょっとこいーそんな小綬鶏の鳴き声に誘われ、山に入った。ーちょっとこいー鳴き声はしているが、姿が見えない。ー何だ、この鳥は人間をなめているなーそう思えたから、ーおまえこそ、ちょっとこいーと言葉を返してやる。小綬鶏はしばし鳴きやみ、山深く入って行った。逆
◇百千鳥が草原のおちこちに分散して競い啼きをしている高い声低い声澄んだ綺麗な声濁声金切声に調子外れの声ひと所に纏まって歌えば鳥のコーラスにもなるのにこんなに草原に分散して思い思いに声を張り上げるのだそうか、百千鳥というのは、一種類の鳥のことではなく草原に
◇しだれ柳がそよ風になびくとあばら屋を隠してくれる廃屋の住人にとっては静止画像より動画がお気に入りだこれこそ風光明媚◇
◇ うららかな春の一日、有閑夫人がペットのチワワを連れて散歩に出た。 公園通りを行くと、チワワがロープを引っ張って、路上に落ちている空のパックに寄って行った。 「ミツコちゃん、駄目だってば、そんな不潔なものに、口を出したら」 夫人はそう言って、犬のロ
◇うららかや猫も散歩に出たがりて我儘許せば糸切れた凧◇
◇春光の字持つ吾の故郷よ何は無くとも字が励ます◇
◇木の芽吹く岬にはさかんに呟きや私語がしている人影もないのにそれともあれは潮騒?◇
◇火口湖に白鳥が一羽白く燃えているなぜ燃えているのに白いのか分らないでいた2012年十年振りに火口湖を訪れる赤い鳥が一羽湖心に浮かんでいるすると燃えていた白い鳥は今の鳥の予型だったのか湖の四囲に仄かに赤い色が芽生え徐々に岸を離れ湖心部へと漂い出る気配を匂
◇路地の片隅に咲いた帰り花をじっと見ているといつかまた会おうねと花が言った次の日帰り花は消えていたいつかまた会おうねと言った白い桃の花は翌年まともに花の開く季節に咲いた帰り花ではなく普通の花として咲いた◇隙間風に対しては逃げるより塞ぐ考えだべたべたと厚い
◇デパートの屋上で彼女からの携帯をまっていると、風花が目の前でキラリとひかり、首筋に飛び込んできてチクリと刺した。結局、携帯は鳴らなかった。風花は、彼女が来ない告知だったのだ。彼はデパートを出て、足早に街を歩いた。ときどき風花が降ってきて、きらりと光った
◇夜中の遠い火事だ焼け出された人に同情し寒さを堪え道に出て見ているパジャマの女火の粉が上がると女は自分に降りかかって来たかのように頭を揺すって身をかわす火の爆ぜる音など聞こえないが女は身もだえして耳を塞ぐそれを見ていた近所の子供がしゃがみ込んで耳を塞いだ
◇金色の鴎虹がかかると、鴎が啼きながら、海から湧いて来る。虹に入る鴎。入れない鴎。虹の中に消える鴎。虹を出て灰色が金色に輝く鴎。虹を介して、鴎はいくつにも分れる。僕は虹を潜って、向こう側へ渡る鴎が好きだった。そんな鴎は、灰色をしていたのが金色に変身して、
◇返り花返り花次はまともに春来るわ◇冬の浜冬の浜足もとの水は海の水だった◇帰り花帰り花霞んではいるが慥かに白い桃の花◇大雪の朝大雪が見舞って周囲の風景が一変した塀にはいつもの雀がいる雀もいつもの人間が窓から見ているのでほっとしている◇雁雁の列は消えたらま
◇小流れ柿が熟すと下の冷たい小流れに赤い灯がともる◇鐘柿の木に鳥が来てさかんに鐘を叩いてゐる柿の実をつついているのだ◇朝霧朝霧の中に立つ男女は憂ひに包まれてゐる霧が晴れる頃二人は別々のコースを歩いてゐる◇夏野あそこ遙かかなた白い雲を浮かせて夏野がある◇冬
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