國乃礎 さん プロフィール

  •  
國乃礎さん: いしずえ
ハンドル名國乃礎 さん
ブログタイトルいしずえ
ブログURLhttp://kuninoishizue.blog.fc2.com/
サイト紹介文天地万物一体仁の心◎かんながらは世界の心◎人類の母◎地球の故郷
自由文國家は◎国本が守られて◎国体が固められ◎国業が栄えて◎国運が開けて行く

「陽明学勉強会」 参加希望の方は kuninoishizuehonbu@yahoo.co.jp まで御連絡ください
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供342回 / 365日(平均6.6回/週) - 参加 2012/04/26 09:36

國乃礎 さんのブログ記事

  • 第二巻受難の巻
  •  憲兵隊では戸松の和平運動を、あくまで反戦運動であるとにらんでいる。そのため、戸松の足どりを追いながら、一方では上海の拠城の動静を探索しようとしているのであった。 憲兵の陰険と非情を見聞きしていた青年達は、つよい対抗意識にもえながらも、打つべき手を知らなかった。関係すじを探りこまれることを恐れて、彼らは家に引きこもりがちになっていた。階下の居室にひきこもって何をしているものか、食事の時以外は二階に [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  牧谷が内地にかえってから二十日ばかりたった。旧暦の正月もおわり、二月は足許まで近づいていた。 二月早々に戸松が上海にかえってくることは既定のことであった。その一足前にかえっておきたいという考えであろうか、釜山で出した牧谷の手紙には、満州で二、三日滞在して、今月末にはかえると書いてあった。 牧谷がいなくなってから、二階と階下は見えざる垣根で劃されたように交渉が乏しくなっていた。気がねをする者のいな [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  われわれは彼らにたいするのに、あまりにも不用意すぎるのではあるまいか。スキヤキをつくって御馳走したつもりでも、かえって彼らを怒らせ警戒させてしまったのではあるまいか。 人を招いてせっせと御馳走し、自分だけ独り酔っぱらって、人も同じように愉快になっていると思っている……いい気な人間、一人がってんのお人好し、それが日本人かもしれない。それでいて、自分の身に関することとなると、抜け目なく気を配り人の意 [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  中国人はよく公論する。群集の前で相手の非をならし、自分の立場をがんこに主張する。しかし酒に乱れて我を失うような事はあまりないようだ。仁と礼を重んずる伝統的歴史をもつだけに、何かしら、底ふかい慎重さを感じさせる民族である。若い男女の露骨な性愛の風潮や軽薄な言動は西洋文化の暴風にふきまくられて零れ落ちた果実のようなもので、中国の伝統から転落して虫にくわれながら色づいたものであるにすぎない。又親日抗日 [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  やがてのこと、二人は本田にいたわられながら玄関を出て行った。今夜の本田は、さしづめ彼女達をまもるナイトといったところである。 翌朝、牧谷は元通り無口で静かな男にかえっていた。双子の世話に忙しい妻に手伝って、赤ん坊を膝に抱きとりミルクをのませたりしていた。アルコールの入っていない彼は、家族を愛し、よく世話をする善良な夫であり父親であった。酩酊中の記憶がまったく失せてしまっているのか、それとも白ばく [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  彼はじろりとテーブルの上をねめまわすと、わたくしの顔にじっと瞳をすえていった。 「また、自分達ばかり食べている……」 わたくしは驚いて彼の顔をねめつけた。堀下夫人も眼をぐるりとむき、口をぽかんと開けて見上げている。本田があわてて立上り、 「あんたはあっちに酒があるじゃないか。ここにはお客さんがいるんだよ」と、背中をおしやった。牧谷は二、三歩よろよろっとしたが、素直にとことこ行ってしまった。 呉老 [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  堀下夫人もむきになって弁解した。まったく、この近所にはピーナツか飴ぐらいなものしか売っていないのである。 わたくし達はいいわけしながら老姉妹にピーナツと茶をすすめ、自分達も二、三粒づつつまみあげて奥歯でねんごろに噛みくだいた。別に話題はなかった。 日本間から「王さん待ってて頂戴ね……」という牧谷と王の声がもつれあって響いてきた。一節ごとに合の手の囃のように「戸松先生万歳」と王が大声で叫んでいる。 [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  「やっぱり怒っているんでしょうね。僕もそうじゃないかと思っていましたよ。飲むとああなんだからなあ、牧谷さんは……自分では結構みんなを愉快にさせているつもりなんでしょう。まあ、仕方がありません、今堀下さんの奥さんにお茶と果物をもってきてもらいましょう」 彼は苦笑いしながら、扉の奥にきえていった。彼が戻ってきて暫らくして、堀下夫人がお茶とピーナッツを入れた皿をもって近づいてきた。デザートにピーナツと [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  日本では武士道や茶道によって、人間と人間の心のむすびを、一つの哲学、一つの芸術の高さにまで練りあげているのであるが、一般の庶民世界では、人間関係をむすび合うための感情的意志的鍛練があまりなされていない。そのため、只集まって飲んで食って騒げば、それで招待の目的が果されると思っているのであった。 酒に乱れ、自己本位にさわぐことは、日本の女の前ではある程度許される。日本の女は長い歴史を通して、そうした [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  「わたしも、姉さんも、牧谷さん嫌いっ……」 呉夫人は急に顔をしかめると、吐き出すようにいった。渋柿をくったような顔であった。その顔を姉にむけて、何やら英語でいうと、その表情が姉の顔にも伝染したかのように、小鼻をしかめ眼のまわりに皺をよせ、口をとがらせて頸をふった。「大きらい」といった身振りであった。 「牧谷さん、わたしお友達でない、戸松さん夫人お友達、牧谷さん、わたし、はずかしい」 戸松の妻とは [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  わたくしは席をぬけ出して客間に出てみた。ここにもいなかった。扉をあけてベランダに出てみた。そこに置かれた粗末なテーブルをはさんで、姉妹は向き合って腰かけていた。二人ともオーバーを着こんでいる。わたくしも客間から椅子を運んできて、二人の間に座った。スリッパを通してコンクリートの冷たさが、ひやひやと這いのぼってくる。 「お寒くありませんか。ここ、冷たいでしょう」 足をたたいて、ぶるっと震えてみせた。 [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  王震亜の酔い方には絶望の影がなかった。彼はぜんまいをかけられて踊り出した人形のように、アルコールを胃にそそぐことによって浮れ出しているにすぎなかった。 「王さん、待ってて頂戴な〜」と相好をくずして唄いまくった。彼は叉「支那の夜」も怪しげな日本語と怪しげな節まわしで唄った。 篠原も軍歌をうたった。彼は軍歌以外は知らないようであった。本田だけは相変らず虚無的な笑いを口の端にうかべて黙りこんでいた。時 [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  牧谷は木曾のなかのりさんを繰返し繰返し唄った。彼は信州の生れであるから、青年時代からこの唄をうたいつづけてきたものであろう。この唄をうたうことによって青春が蘇ってきたかのように、喉に筋を立て目をとじ恍惚としてうたっているのであった。時には、人生における失意が、彼の意識の底ですすりないているような物哀れな表情をする時もあった。 騒々しく浮きたった人間の歓楽は、決して幸福そのものではない。その底には [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  あげくの果に唄が出た。「木曾のなかのりさんは……」牧谷は顔を金時のように赤らめながら、蛮声を張り上げて唄い出した。愉快で愉快でたまらんというように、上半身をふりながら手拍子とって唄っている。これはもう牧谷ではなく、牧谷少年であった。現実の今だけに生きている、とらわれのない赤裸々な人間の姿であった。 まさに宴酣といった頃、王震亜がやってきた。 「いよう〜王さん、待ってたよ」 牧谷はわめくような声を [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  もともと彼女らは少食なのである。呉夫人の宴席で、上流階級にぞくするインテリ―婦人達が、熱心にうまそうに物を食べている様子など見たことがなかった。彼女らは箸の先にちょいとつまみあげ、ゆっくりと口に運びこんで、もてあそぶようにして物を食べる。その間でも他人の話に耳をかたむけ、自分も適当に言葉をはさみながら眼と頬はたえず微笑をふくんでいる。宴席は食べるためにあるのではなく、食べながら打解けて話をし、雰 [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  「呉さん二人はそこへ座って下さい」 彼は自分が座っている真中のコンロの前を指して老姉妹の着席をうながした。 「篠原君と本田君はこっちへ……今に王が来るから、そこを少しあけておいてくれ。奥さん達はそっちの鍋をかこみなさい。隆義と尚義はここへ来い」と、それぞれ席を指定した。真中のコンロを囲んだ牧谷親子と呉姉妹のグループを中央にして、左が青年グループ、右が婦人グループと別れたわけである。この宴は牧谷が [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  姉の呉女史は、茶色の袋のような洋服を裾長く着ていた。修道女の制服のようである。彼女も下に何枚も重ね着しているのか、ふくらすずめのようであった。ひっつめ髪の頭が、間に合わせの飾り物のように、不似合なほど小さく見える。今日の外出が、彼女達にとっては一大決意を要するものであったということが、この出立を見て一目で了解された。 老姉妹は客間に落着くと同時に、今日の招待を大へんよろこんで受けたと明るく挨拶し [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  だが、不思議なことに、小憎い奴だという思いはおこらなかった。彼の手並のあざやかさと、彼の嬉しそうな顔を見ては、何ん人が彼を憎むことが出来たであろうか。むしろ、こういう計画をたてずにはおられなかった彼の心根を理解することが出来たであろう。 彼の才能は、アジアの復興とか東西の融合とか人類の未来とか、大衆に先駈けて前進する運動とはまったく無縁のものだったのである。むしろ、出来上った態勢の中で、裏面的な [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  「これでは女が顔負けだわ」 日頃すばやく動きまわる堀下夫人も、壁によりかかったまま牧谷の指図を待っていた。 牧谷はどうやら、彼自身も気づかない一つの才能をもっているようである。牧谷夫人の話によれば、満州にいた頃は、自分の好みの料理や漬物は夫人をあてにせず、自分の手でつくっていたという。この材料とこの材料をこう調理すればこういうものが出来るという、料理の勘ともいうべきものを、本質的に持っているのか [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  座敷の真中に長く新聞をしきならべ、その真中に足を折り曲げた食卓をおき、両側には大型の盆をおいて、それぞれにコンロをのせた。真中の食卓には真新しいコンロがおかれ、両側の盆の上には汚れのにじみこんだ古いコンロがおかれた。 鍋も真中だけはスキヤキ鍋で、両側は汁鍋と煮物用の鍋である。なんのことはない、ピクニックにいって、民家から道具を借りあつめてスキヤキを食べるような案配である。 それでも座蒲団が並び、 [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  昼過ぎになると、牧谷は両肌ぬぎになりメリヤスのシャツの袖をまくりあげ、鉢巻をきりりっとしめて準備にとりかかった。いつの間に買い整えたものか、台所の古い調理台の上には、白菜、ねぎ、豆腐、しらたき、卵、肉などが、ずらりと並べられていた。 牧谷夫妻は一対の名コンビのごとく、実に手ぎわよく野菜を洗い、形よく切り揃え、体裁よく皿にもりつけていった。何年も前からコンビでしつづけてきた仕事のように、よどみなく [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •   牧谷の人格と能力 四日の朝、牧谷氏が子供のように嬉々として、 「さあ、今日はお客さんがくるぞ、スキヤキにするからね。奥さん達も手伝ってくれよ……」といった。 会合でもあるのかと思っていると、そうではなかった。王震亜と呉亜男姉妹を招待しているのだという。 何時の間にこういう相談がまとまったものか、それよりも、あの厳格な財政係りの篠原を、どういうふうに納得させたものか、まるで牧谷の魔術にひっかかっ [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  そっと老人を見ると、やっぱり端然として手足一つ動かさず座りつづけている。 老人はわたくしの動作をじっと見ていたにちがいない。しかし、わたくしはそれをちゃんと計算に入れていたのである。われわれがいかに王夫人の料理に敬意をいだき、嬉んで食べたかを彼に認識させねばならないと思ったのだ。美食に飢え、ガツガツと王夫人の食卓を食いあらしたと思われたくはなかったのである。 両袖の中に手をつっこんだまま、じっと [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  王がにこにこしながら手真似もいそがしく説明した。 「こんなおいしいもの始めてよ、王さん夫人(たいたい)、大へんお上手ね……」 牧谷夫人は子供達がスープをこぼさないように気を配りながら、夫妻に笑顔をむけて賞賛した。王は得意そうに笑い、さらにその言葉を中国語になおして妻につたえた。王の日本語はいたって幼稚でたどたどしいものであったが、身振りを加えると、なんとか大すじだけは通じあった。彼の妻は夫から牧 [続きを読む]
  • 第二巻受難の巻
  •  「あったかい中に御馳走になろうよ」 牧谷夫人や堀下夫人は、まだ食べる気でいるらしい。ほとんど満腹にちかいのであるが、眼がほしいのであった。王も夫人もしきりにすすめた。食べなければ無礼になりそうな雰囲気だった。わたくしはスープを少しと、巻せんべい風の揚物を一本とった。眼の前にとってみると、それらはぎらぎらと油ぎっていて、見ただけでむっと胸がつかえた。 「この中に入っているのは鯉らしいわね。すごくお [続きを読む]