福元早夫 さん プロフィール

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福元早夫さん: 作家 福元早夫のブログ
ハンドル名福元早夫 さん
ブログタイトル作家 福元早夫のブログ
ブログURLhttps://blogs.yahoo.co.jp/hayaofukumoto
サイト紹介文文学、小説、生きる事を追求しながら毎日書いています。
自由文         著書
1981年 「労働者文学作品集」 日本社会党刊
1985年 小説集 「工場」
1991年 小説集 「家」
1994年 小説集 「蒸気機関車を降りてから」
    (いずれも編集工房ノア刊)
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供311回 / 365日(平均6.0回/週) - 参加 2012/04/28 23:12

福元早夫 さんのブログ記事

  • 蒸気機関車を降りてから(連載第一回)
  • 連載小説小説集「蒸気機関車を降りてから」より蒸気機関車を降りてから(連載第一回)       (一)  夜中十一時。作業の終了を告げるサイレンが鳴ると、ぼくらは夜勤の仲間と交替して現場を離れる。そして更衣室をめざしてすっとんでいく。 スチールロッカーの扉を開け、慌てて作業着を脱ぎすてると、こんどは洗面具をつかんで、全身すっ裸になって風呂場へとんでいく。  あちこちの更衣室から素っ裸の男たちが、風呂場をめ [続きを読む]
  • 息子の友だち(連載第六回・最終回)
  • 連載小説・小説集「工場」から息子の友だち(連載第六回・最終回)       (六)  市場の中は、むこう側からこちら側へ、こちら側からむこう側へと、生活や家庭のにおいを背負ったおびただしい人々が、忙しく押し流されている。女たちがほとんどだ。 その流れにながされていきながら、ふっとわたしは、下浦を振りかえってみた。下浦はすこしうつ向きかげんにして歩いていく。そのせいか、八十キロちかい大きな身体が、その後ろ [続きを読む]
  • 連載小説 「息子の友だち」
  • 連載小説・小説集「工場」から 息子の友だち (連載第五回)       (五) 「で、どんなん、こっちの方は。工場の仲間は、みんな元気か」  下浦が話題をかえてきた。下浦は自分の苦しい心の中を、わたしにむかっていくらかでも吐き出したことによって、気持ちがおちついたみたいだ。  顔にすこし赤みがさしてきて、目のかがやきがやわらいできた。いぜん、職場で野球チームをくんでいたとき、ピッチャーと四番打者 [続きを読む]
  • 連載小説 「息子の友だち」
  • 連載小説・小説集「工場」から 息子の友だち (連載第四回)       (四)  家へ帰るとわたしは、上の息子の首ねっこをつかまえ、そばにあったプラスチック製の野球バットを振りあげた。 「ごめんなさい、おとうさん、ごめんなさい」  と、息子は泣き声でいう。その声をききながら、息子はわかっているのだ、とわたしは思う。  なぜわたしが、バットを振りあげなければならないのか、息子はわかっているの [続きを読む]
  • 連載小説 「息子の友だち」
  • 連載小説・小説集「工場」から 息子の友だち (連載第二回)       (二) 「……ホルモンが食いたくなってきたなあ、久しぶりに」  起きるとわたしは洗面所にたち、鏡にうつったはれぼったい自分の顔を、手で撫でながら妻にいった。  目のまわりや頬ははれぼったいのに、顎はげっそりとそげおちている。夜勤のときは体力の消耗がはげしいから、体重が二キロちかく減少する。  妻は台所にたっている。子ど [続きを読む]
  • ;連載小説 「息子の友だち」
  • 連載小説・小説集「工場」から 息子の友だち (連載第一回)       (一)  クミを自転車のまえの座席にのせ、団地のなかをしばらく走り、団地をぬけてすこしいったところで、 「……あっ、タカダくんや」  と、クミが叫ぶようにいった。  見ると、カバンを手にさげた高田君が、高田君のくせで、肩をすぼめるようにして前を歩いていた。 「ほら、おとうさん。見てみ、やっぱりタカダくんや」  クミは、ハ [続きを読む]
  • 連載小説 「凧」
  • 連載小説・小説集「工場」から凧 (連載第十四回・最終回)       (十四) 「おとうさん、見て……」 叫ぶような声で健一がわたしを呼び止め、ジャンパーを引っぱってきた。「ほら、お母さんや」 見あげると、五階のベランダから、妻がこちらを見おろし、手を振っていた。胸に久美を抱いている。傍で、小さな顔が半分だけのぞいているのは、次郎にちがいない。 「……健ちゃん」 電気炉の、出鋼の場面を [続きを読む]
  • 連載小説 「凧」
  • 連載小説・小説集「工場」から 凧 (連載第十三回)       (十三)  健一はすっかり満足しきった顔で、凧をあやつっている。空を高く見あげた顔が、冬のかすかな日差しを浴びて輝いてみえる。 「さあ……」ともういちどかけ声をかけ、両腕にわたしは力こぶをつくった。  両手に強くこぶしをにぎりしめたせいか、なんだか、製鋼工場で仕事をしているときの気分が、すこしよみがえってきた。電気炉での、溶解 [続きを読む]
  • 連載小説 「凧」
  • 連載小説・小説集「工場」から 凧 (連載第十二回)       (十二)  深海の魚のようだった自分が、そのうちわたしのなかで、背中に矢を受け、捕えられてしまった野生の小動物のような気持ちにかわってきはじめた。  ついほんのいましがたまで、山岳地帯を自由に跳びまわっていたあの、カモシカのような気持ちになってきたのである。もう逃げることはできない。 「さあ、もういちど大きく息を吸いこん [続きを読む]
  • 連載小説 「凧」
  • 凧 (連載第十一回)       (十一)  畳針のような太くて長い針を、何本か医者は用意していた。うつ伏せになったわたしの右手の甲には、造影剤の注射針が突き刺さってきており、左腕は血圧計がしがみついてきていた。  もうわたしは、がんじがらめだった。すっかり捕えられ、これから刃物を、内臓まで深く突き刺されるのだ。  医者はさきほどの麻酔のきいた部分に針を突きつけ、さきほどと同じ要領 [続きを読む]
  • 連載小説 「凧」
  • 連載小説・小説集「工場」から 凧 (連載第十回)       (十)  健康なときのたしは、腎臓が体内のどこにあり、どんな働きをするものなのか、全く知らなかった。  入院生活のはじめのうちは、安静と食事療養が主だった。そのうち全身の浮腫みがすっかりひいていくと、採尿と採血の検査がつづき、いちどに数種類もの薬を飲まなければならなかった。  入院生活をひとことでいうならば、投薬とその検査といえ [続きを読む]
  • 連載小説 「凧」
  • 連載小説・小説集「工場」から 凧 (連載第九回)       (九)  広場のずっとむこうの、老婆と孫娘は、いつまでたっても凧をうまく揚げることができずにいた。老婆は手をたたいいて、孫娘の力走を声援するのだけど、凧はすぐ背後で、風車のようにくるくる舞うばかりだった。  ほほえましいともいえるその光景を見ていて、ふとわたしは、健一や次郎や久美は、祖父母をもっていないことになるな、とい [続きを読む]
  • 連載小説 「凧」
  • 連載小説・小説集「工場」から 凧 (連載第八回)       (八)  凧をいっしょけんめいあやつっている健一の、満足しきった笑顔を見つめていて、無意識のうちにわたしは、そこに、幼いころの自分を重ね合わせていた。やがて健一は、六歳になろうとしているのだった。  五歳のとき、わたしは母と離別した。父が戦死したせいだった。太平洋戦争で父が戦死していなければ、わたしだって、父親とふたりし [続きを読む]
  • 連載小説 「凧」
  • 連載小説・小説集「工場」から 凧 (連載第七回)       (七)  こころなしか風が、勢いをつけてきはじめたように思える。こちらの変化した気持ちのせいかもしれない。このぶんだと、凧が風にうまくのってくれるにちがいない。 「……さあ、いくぞ」  とわたしはかけ声をかけ、ピッチャーの投球を待つキャッチャーのように、いちばん低い姿勢で両手に凧をもち、さらに威勢のいい風がこちらにむかって吹きつ [続きを読む]
  • 連載小説 「凧」
  • 連載小説・小説集「工場」から 凧 (連載第六回)       (六)  ひと月なかばの入院生活で、わたしすっかり快復したはずだった。循環器系統は、すべて正常ということだったはずなのだ。だのになぜ、退院して家庭生活をはじめてからというもの、血圧が高くなってしまったのだろう。わたしは思案していた。  退院するとき、高血圧と風邪には充分に気をつけろ、と医者はいった。いわれたとおり、食事は [続きを読む]
  • 連載小説 「凧」
  • 連載小説・小説集「工場」から 凧 (連載第五回)       (五)  こわれものは、わたしだけではなかったのだ。健一はもっと脆弱だったのだ。そのことをすっかり忘れていた自分にわたしは腹をたて、声をださずに心でとがめたててから、ふたたび明るい声でいった。 「なぁんや、健ちゃん、糸と枯れ草が、けんかしてるやんか」  糸に雑草がからんで、幾重にももつれこんでおり、このぶんだと凧はうまくあがって [続きを読む]
  • 連載小説 「凧」
  • 連載小説・小説集「工場」から 凧 (連載第四回)       (四)  わたしが仕事を休めば、替りに誰かが、連続勤務の代勤を強いられるからといった、そんなものではもうなかった。どうやらわたしは、意地を張って工場の現場に立つことで、自虐的になっていたのかもしれない。  鉄をつくる工場の現場で働く男たちには、どこかそんなところがある。わたしに限ったことではないのだ。だから、定年満期を待ちきれ [続きを読む]
  • 連載小説 「凧」
  • 連載小説・小説集「工場」から 凧 (連載第三回)       (三)  健一はまだ、めそめそしている。妻は洗濯場とベランダを、忙しくいったりきたりしている。ぷりぷりしているみたいだ。足が怒っている。スリッパが床を叩いて歩く。  ある朝、洗面所の鏡で、そこに写しだされた自分とむかい合って、わたしはこのうえなくおどろかされた。  顔全体がおそろしくむくんでいる。目が糸のように細くなり、も [続きを読む]
  • 連載小説 「凧」
  • 連載小説・小説集「工場」から 凧 (連載第二回)       (二)  ついさきほどまで、わたしは炬燵にこもって丸くなっていたのだった。この真冬の寒空に、凧をあげに外へでていくだなんて、そんな気分にはとうていなれなかったのである。  健一はわたしをさそいだすのをあきらめると、弟の次郎と連れだって、手にビニール製の凧をつかんで外へでていった。  妻は朝から洗濯物にかかりっきりで、もうと [続きを読む]
  • ;連載小説 「凧」
  • 連載小説・小説集「工場」から 凧 (連載第一回)       (一)  やっと風がでてきた。凧をつかんで待ちかまえていたわたしの両手に、巻糸をしっかりとつかんで、同じようにまちかまえていた幼い息子の緊張が、いよいよ確かなひびきをつたえてきはじめた。  息子とわたしをつなぎとめている細い麻糸が、風にしなって生きもののようにおどりあがり、すぐさまピーンと張りつめた。いまだ、わたしは叫び声をあ [続きを読む]
  • 連載小説 「むこう側の世界」
  • 連載小説・小説集「工場」から 工場のトタン屋根の下で (連載第十二回・最終回)  第三章 ちいさなスナック       (三)  パンも同じ要領だった。残った別な若者が腕をふるった。回転式の自動販売機の、パンのはいったちいさな扉に、暴力をつかうのだった。ぼくは、ただただ、もう関心しきって眺めているだけだった。 「……たいした技術やなあ」  あんパンを若者からもらいながらぼくはいった。 [続きを読む]
  • 連載小説 「工場のトタン屋根の下で」
  • 連載小説・小説集「工場」から 工場のトタン屋根の下で (連載第十一回)  第三章 ちいさなスナック       (二)  たばこを買うつもりだった百円硬貨をつかんで、ぼくは両替機とむかいあった。午前二時に工場の弁当を食べた。だけど、半分も食べられなかった。夜勤の場合、内臓は眠っているのだろうか。胃や腸がはげしくイヤイヤをし、食事をむりやりとってしまうと、あとでどえらいめにあう。胃や腸が怒 [続きを読む]
  • 連載小説 「工場のトタン屋根の下で」
  • 連載小説・小説集「工場」から 工場のトタン屋根の下で (連載第十回)  第三章 ちいさなスナック       (一)  工場でのぼくたちの仕事は、連続操業だから、食事も休憩も、ひとりひとり交替でとらなくてはならない。故障しないかぎり、ラインは一分一秒たりとも休まず、ステンレスを生産しつづける。だからぼくたちは、なにをするにも一人ぼっちなのだ。つまらない。  午前三時だった。ぼくの休憩 [続きを読む]
  • 連載小説 「工場のトタン屋根の下で」
  • 連載小説・小説集「工場」から 工場のトタン屋根の下で (連載第九回)  第二章 仕事のうち       (三)  見わたすと、便所の壁は、落書きの氾濫、ことばの大洪水だった。たぶん、だれかギャンブルファンが書いたのだろう。労働組合のことを書いていた。 「労働組合の仕事」とタイトルがつけられ、「春闘、生活用品の販売、合理化の強力な推進、選挙運動」と、よこに項目がならべられ、それらの上に、○印 [続きを読む]