elly さん プロフィール

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ellyさん: Harmonia
ハンドル名elly さん
ブログタイトルHarmonia
ブログURLhttp://ellylove.blog133.fc2.com/
サイト紹介文オリジナル小説。新連載「春風」始まりました。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供51回 / 365日(平均1.0回/週) - 参加 2013/03/29 15:06

elly さんのブログ記事

  • 春風 32
  •  ちょうどふたりの休日が重なった八月末の平日に、多季の引っ越しを手伝うことになった。 細々としたものは多季が毎日少しずつ車で運んでいたらしく、部屋に残っていたのはすこしの衣服と日用品、それに書棚とベッドだけだった。書棚とベッドを分解して、義兄から借りたというミニバンに積み込んだ。 絵に描いたような夏空の朝だ。なるべく朝早く、涼しいうちにという多季の提案は正解で、すべての荷物を搬出し終わる頃には強烈 [続きを読む]
  • 春風 31
  •  長い梅雨が明け、いよいよ本格的な夏が訪れた。菫の働く工場では長期の盆休み前ということもあってますます仕事が忙しくなっていて、一方の多季も夏期のワークショップやイベントなどで各地を飛び回っている。ヨガスクールの方も多季のクラスの人気は高まる一方で、月に二回予約が取れれば良い方だ。初めての恋に心だけは浮かれ上がっているのに、なかなか思うように会えない。そのことが、おたがいにとってもどかしかった。 盆 [続きを読む]
  • 春風 30
  •  目が覚めて、窓をすこしだけ開けると、車の行き交う音に混じって鳥のさえずりが聞こえてくる。雨は完全に止み、灰色の重苦しい雲の間から薄青の空が覗いていた。 よほど深く眠っているのだろうか、身動きひとつしないで、多季はかすかな寝息を響かせていた。顔を半分枕に埋め、横に向けた身体は、呼吸に合わせてゆっくりと上下している。 長い睫毛、薄くちいさなくちびる。胎児のように丸まった背中。そのどれもがいとおしくて [続きを読む]
  • 春風 29
  • 「あるもので適当に作ったから、質素でごめんね」 そんな風に多季は謙遜しているが、丼からはかつお出汁の食欲をそそる香りが漂ってきて、菫の腹がの虫がぎゅうと鳴った。かき玉うどんの上に、かまぼことわかめと天かすが載っている。とろみのついた汁を一口飲むと、ふわふわとやさしい味がした。「美味しかった。ごちそうさま」 残った汁も一滴残らず飲み干して、両手を合わせた菫に、多季は嬉しそうに笑う。つるつると上品に麺 [続きを読む]
  • 拍手コメントへのお返事
  • いつも拍手コメントをありがとうございます。上から新しい順です。(2017年3月〜)4/15 「春風26」にコメントいただいた佳月さまこんにちは。いつもありがとうございます!まさに「この世の春」のふたり。初々しいラブラブ&いちゃいちゃっぷりをご堪能いただければと思います。コメントありがとうございました♪(2017/04/17)3/28 「春風8」にコメントいただいた佳月さまこんにちは。こちらこそご無沙汰しております。過去作も [続きを読む]
  • 春風 28
  •  多季の上に覆い被さって波間を漂うような緩やかさで抱き合ったり、そうかと思えば獣のような体勢で激しく求め合ったり、気がつけばカーテンを開け放した窓の外は闇に包まれていた。三度達した後、多季とふたり、倒れ込むようにベッドに沈み込み、泥のような眠りに落ちていった。 それからどのくらい眠ったのか、目を覚ますと、多季の頭を抱え込んだ腕は完全に痺れて感覚がなかった。多季を起こさないようにそっと腕を抜き、トイ [続きを読む]
  • 春風 27(R18)
  •  多季に勧められて先にシャワーを浴びた。適当に身体を洗い、そそくさと浴室を出る。バスタオルで前を隠して部屋に戻ると、交代で多季が浴室へと向かった。 今から多季と抱き合うという興奮と、初めて男性とセックスすることへの不安、その両方が入り混じった落ち着かない気持ちのまま、ベッドの端に腰掛けて、ひどく長く感じるその時間をやり過ごした。 多季が浴室から現れる。裸同然だからはっきりと分かる、筋肉に覆われたう [続きを読む]
  • 春風 26
  • 「遅いよ」 上体をゆっくりと起こしながら、多季がつぶやく。「……どんだけ焦らせば気が済むんだよ」 責めるような言葉とは対照的に、多季は菫の頬を両手でふわりと優しく包み込んだ。今度は多季の方から、何度も軽く触れ合うキスを浴びせられる。散々キスを繰り返した後、甘えるように菫の額に自分の額をぐりぐりと押しつけてくる。鼻先と鼻先が触れ合い、多季の呼吸を直に感じた。「……いつか『もう会わない』って言われるん [続きを読む]
  • 春風 25
  • 「……っ、」 先端の部分が、多季の口に含まれる。水気を帯びた熱に包まれ、菫は息を漏らした。味わうように舌先で全体を転がされた後、一度口が離れる。片手で根元を支えられ、先端にチュッとキスされた。 多季が先端に軽くくちびるを触れたまま、上目遣いで菫をじっと見つめてくる。情けなく歪んだ顔で多季を見つめ返すと、多季はふっと微笑んだ。そうして見つめ合ったまま、ふたたび粘膜に包まれると、今度はしっかりと根元ま [続きを読む]
  • 春風 24
  •  さらに五分ほど歩いて、グレーの外壁の鉄筋コンクリート建ての建物に入っていった。服から水滴が滴り落ちるほどのずぶ濡れの状態のまま、エレベーターに乗り込む。多季がカードキーをかざし、五階のボタンを押す。「アパートじゃないじゃん」 菫がそう言うと、多季はほんの少しだけ笑みを浮かべたが、その後はずっと無言のままだった。エレベーターを降りるとまた足早に歩き始める多季を追って、ドアの前に辿り着く。 玄関先で [続きを読む]
  • 春風 23
  •  梅雨の終わりの厚い雲に覆われた憂鬱な空とは裏腹に、目覚まし時計が鳴る前にベッドから起き出して、菫は弾むような心で朝食を作った。今日は久しぶりに多季と休日が重なったのだ。 身支度を調えていたところで多季からの電話が鳴った。これから大雨になると天気予報が告げているので、ドライブは中止して多季が住むアパート近くのカフェで昼食を食べないか、という提案だった。菫は快く承諾する。ドライブでも昼食でも、ただ街 [続きを読む]
  • 春風 22
  •  その後も多季とはそれまでと変わらず会い続けた。レッスンの後、待ち合わせて一緒に食事や買い物をしたり、おたがいの休日が重なった日には車で遠出したりもした。 ふたりの関係で変わったことと言えば、多季が菫に対する好意をあからさまに示し始めたことだ。ちょっとした隙を狙っては、菫の腕や肩や髪に触れてくる。人気のない場所では指と指を絡ませ、手を繋ぐ。ことある毎に「好きだよ」と屈託ない笑顔で告げられる。 多季 [続きを読む]
  • 春風 21
  •  覚悟を決めた、とは言いながらも、相変わらず不安定な気持ちのまま、菫はその後の日々を過ごした。仕事ではまたつまらないミスを連発して、主任からねちねちと嫌みを言われたり、中道さんからも「どうしたの? 顔色悪いけど大丈夫?」と心配そうに声を掛けられたりもした。 怖いのだ。多季を好きになったことも、多季とまた会うことも。平静さを保てる自信などまるでなく、何よりも自分の挙動不審な態度が多季を幻滅させること [続きを読む]
  • 春風 20
  •  空は完全に明るくなり、窓の外からはチュンチュンと鳥のさえずりが聞こえてくる。トイレを済ませ、洗面所で自分の顔を眺めると、睡眠不足のせいか両目が真っ赤に充血していた。こめかみの辺りががズキズキと痛み、それを和らげるように軽く頭を拳で叩きながら、ふたたびベッドの中へと潜り込む。 こんな状態では到底仕事をこなすことなど無理だろうと判断して、朝七時過ぎたところで高熱が出たから休むと会社に電話した。入社し [続きを読む]
  • 春風 19
  •  アパートに帰るなり、ベッドに倒れ込んだ。心臓がドクドクと激しい音をたて、軋むように痛い。その胸を鼓動を押さえつけるように両手を強くあてながら、ベッドの上で悶えた。「……嘘だろ」 多季に、キスされた。「なんでだよ」 どうして、どうして? そんな言葉ばかりが、頭のなかをぐるぐると空回りしている。「……なんで逃げないんだよ俺」 「今こそ深呼吸して、落ち着け」と頭では思うのに、心臓がそれを拒否するように [続きを読む]
  • 春風 18
  •  車は高速道路を進んで行く。そのうちに車窓から見える景色が変わってきた。どこまでも続く田んぼや畑。視界を遮る物は何もなく、のどかな田園風景が広がっている。「関東ってつくづく平野なんだなあ」 菫は思わずつぶやいた。「このだだっ広い感じが不思議というか、不慣れだ」「長崎が坂の街だからかな」「多分。俺の家も坂の上にあって、バス停からひたすら階段上ってやっと家にたどり着く、みたいな感じだったから。当然車も [続きを読む]
  • 春風 17
  •  前日の夜、電話で翌日の予定を話し合った。せっかく出かけるんだから朝早くから行こうと多季に提案され、、朝八時に菫の最寄り駅で待ち合わせることに決める。土地勘がまったくないので、行き先は多季におまかせすることにした。 その後、いつものようにDVDを観ながらヨガをする。翌日に備えて早めにベッドに潜り込んだが、頭が冴えてなかなか寝付けず、結局眠りについたのは日付が変わった後だった。 翌朝、待ち合わせ時刻 [続きを読む]
  • 春風 16
  • 「……っていうのは僕の希望というか願望であって、講師それぞれがまた違った個性で教えてくれるから、もちろん他の講師のレッスンを受けてみるのもいいことだと思うよ」 にやりと笑った多季が冗談っぽくそう言ったので、菫は内心ほっとする。「いや、いいよ。ただでさえ女性ばかりなのに先生まで女性だったら、めちゃくちゃ居心地悪そうだし」 そう答えたら、多季は心底嬉しそうに笑って「うん」と頷いた。「それにしても、次に [続きを読む]
  • 春風 15
  •  マットのコーナーに立ち止まり、両手を顔で覆う。「落ち着け落ち着け。そうだ、こんな時こそ深呼吸」 ぶつぶつとつぶやいた後、スーハーと大きな息を繰り返す。周りから見たらかなり怪しい人間だが、今はそんなこと構っていられなかった。ようやく落ち着きを取り戻し、もう大丈夫だと思ったところでマットを手に取る。軽量タイプと書いてあるが、持ち運ぶにはそれなりに重いので、マットバッグも買うことにした。「なにやってん [続きを読む]
  • 春風 14
  •  特に読みたい本があるわけでもなかったので、エレベーター横のベンチに腰掛けてスマートフォンを取り出し、次回のレッスンの予約を取ることにした。会員画面にログインし、レッスンの空き状況を確認する。一ヶ月分のカレンダーが表示され、クラスの内容と担当講師、そして残席が表示されるようになっている。 次の休日の多季のクラスはすでに満席となっていて、その次の休みは多季のクラスは開講されていない。となると、次回多 [続きを読む]
  • 春風 13
  •  待ちに待ったレッスン当日がやってきた。午前中に掃除洗濯を済ませ、軽く昼食を摂ってから電車に乗り込んだ。今日は平日で、多季は午後からの二つのクラスを担当することになっている。菫が予約したのは初心者向けの午後四時からのクラスだ。 午後三時半過ぎにスクールに到着した。前回と同じ美人の受付嬢が、菫の姿を認めて笑顔で迎えてくれる。「こんにちは。吉志様、またお目にかかれて嬉しいです」 必死で笑いを堪えている [続きを読む]
  • 春風 12
  •  休み明けの出勤日、昼休みに休憩室に入ると、先に休憩に入った数人のパート従業員の女性たちが弁当を食べながらお喋りに花を咲かせていた。「お疲れさまです」と挨拶を投げると、菫の姿を認めた中道さんがすくっと立ち上がり、不敵な笑みを浮かべながら菫の方に近寄って来る。「聞いたわよー。レッスン中に爆睡したって」 中道さんの情報収集の早さに驚きながら、菫は「すみません」と意味もなく謝った。「早速『ジャージくん』 [続きを読む]
  • 春風 11
  •  翌朝目覚めたら、部屋には明るい陽差しが差し込んでいた。目覚まし時計を見ると午前十時前で、眠りが深かったのだろうか、頭が軽く、いつになく爽やかな目覚めだった。 ベッドから身体を起こすと同時に、腹の虫がぎゅうぎゅうと鳴り出す。しばらく考えた後、煮干しと乾燥わかめを小鍋にぶち込んで味噌汁を作り、ツナと卵とあり合わせの野菜を炒めて、電子レンジで温めなおしたご飯と一緒に食べた。朝食を作るなんて一体いつぶり [続きを読む]
  • 春風 10
  •  帰宅後、軽くシャワーを浴びてベッドの上に転がった。布団に潜り、目を閉じるも今夜の出来事が絶え間なくフラッシュバックしてくる。完全に頭が興奮状態に陥っていて、とてもこのまま眠れそうになかった。 上半身を起こしてノートパソコンに手を伸ばす。布団に入ったままの姿勢で、ヨガスクールのホームページを開いた。 講師紹介のページを開くと、一番上に多季が掲載されていた。 にこやかに微笑む多季の画像と共に、そこに [続きを読む]
  • 春風 9
  •  食後のサービスとして供された熱い番茶を啜りながら、桜庭との会話は続く。「そういえば、吉志くんってどこ出身の人?」「……やっぱ分かる? 俺、結構頑張って標準語で喋ってるつもりなんだけど」「イントネーションが独特、ってか、和むよね、その話し方」「長崎だよ。長崎市出身。……和むかなあ。職場のおばさんたちにはよくからかわれる。桜庭さんは?」「僕は生まれも育ちも東京」「実家暮らし?」「いまはアパート借りて [続きを読む]