elly さん プロフィール

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ellyさん: Harmonia
ハンドル名elly さん
ブログタイトルHarmonia
ブログURLhttp://ellylove.blog133.fc2.com/
サイト紹介文オリジナル小説。新連載「春風」始まりました。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供112回 / 365日(平均2.1回/週) - 参加 2013/03/29 15:06

elly さんのブログ記事

  • 雲を抱きしめる 5
  •  とは言え、一方的に切ってしまった後の電話だ。いったいどんなふうに話を切り出せばいいのか分からないまま、それでも指先が自然と液晶画面をタップしていた。 長い呼び出し音の間にも、駆け上がるように胸の鼓動が速まってくる。十五回ほど鳴らした所で、ようやく呼び出し音が止まったものの、声は聞こえてこない。 無言のまま、重苦しい沈黙の時が流れていく。息苦しさに堪えきれず、電話を切ろうとしたのと同時に、がさがさ [続きを読む]
  • 雲を抱きしめる 4
  •  日当たりの良いテラスのベンチに、俺は先生と隣り合って座った。 チャコールグレーのチェスターコートを脱いだ先生は、白シャツに細身の黒いパンツ姿だ。華奢な身体に、小綺麗な服装。カップ式自販機で甘ったるいカフェオレを選ぶところも、微かに漂ってくる香水の香りも、以前とまったく変わっていなかった。 声を掛けてきたのは先生の方なのに、ばつが悪そうに俯いたまま黙りこくっている。仕方がないので、俺の方から口を開 [続きを読む]
  • 雲を抱きしめる 3
  •  こんなにも夢中になってしまったのは、多分、伸一さんがいままでに出会った誰とも違うからだと思う。世の中の常識にも型にもはまらない、自由奔放なひと。それが鮮烈な魅力でもあり、だからこそ悩みの種でもある。 そう、伸一さんはまるで雲みたいなひとなのだ。 だから俺の恋は、言ってみれば雲を掴むようなもので。 手を伸ばしても届かない。やっとのことで辿り着いたとしても、ふわふわと風に流されてしまう。いよいよ掴め [続きを読む]
  • 雲を抱きしめる 2
  •  米子の温泉街で伸一さんと初めて出会ったあの時のことは、いま思い出しても胸がドキドキと高鳴ってしまう。 アイスブルーのシャツに、ネイビーのスキニージーンズを穿いた、細身の男性。俺よりも年上なのだろうが、年齢はよく分からない。色白で薄い顔立ちなのに、くちびるだけがぽってりと厚く、そのあでやかな朱色に見入ってしまった。 吸い付きたい、と思った。吸い付いて、もっと赤く晴れ上がらせたい。舌を差し込んで、む [続きを読む]
  • 雲を抱きしめる 1
  •  伸一さんと喧嘩した。 いや、喧嘩と言うより、俺が拗ねているだけなんだけれど。 きっかけは、俺からのメールだった。『おはよう。今日も愛してるよ』と朝送ったメールに、昼過ぎても返事が来ない。 それで電話したのだが、伸一さんは出なかった。不安になって、もう一度電話した。やっぱり出ない。それで、何度も何度も電話を掛けた。 十回くらい掛けたところで、『お客様のおかけになった電話番号は……』というアナウンス [続きを読む]
  • ルート9 30(最終話)
  •  そして七日目の夜、「本当は全然帰りたくないけど、明日から大学が始まるから」と言って、ぎりぎりまで布団の上で僕を抱きしめていた帆夏は夜行バスに乗って帰って行った。 翌朝東京に着いてそのまま大学に行けるなんて、やっぱり若いよなあ、と思いながら、急に静まり返った家のなかが妙に落ち着かなくて、帆夏の匂いと、汗や涙や唾液やその他の水分を吸いつくしてじっとりと湿ったシーツにしがみつきながら、僕はこの一週間の [続きを読む]
  • ルート9 29
  •  せっかくはるばる別府までやって来たにも関わらず、僕たちはもう抱き合うことで頭がいっぱいで、もはやキャンプや温泉を楽しむどころではなくなっているのは明白だったから、翌朝目が覚めたら即座にテントを撤収して颯爽と帰宅の途に就いた。 帆夏は車のなかでも隙あらば僕の手を握りしめてきて、その手の熱にこれからのことを思って、僕も身体を熱く震わせていた。 高速道路を走って約一時間半、ようやく家に辿り着き、玄関に [続きを読む]
  • ルート9 28
  •  帆夏の首に両腕を巻き付け、くちびるを重ねる。薄く開いたその隙間に割り込み、生温かな舌を求めた。飴玉を味わうように舐めたり吸ったりしながら、濡れた粘膜の感触を味わう。「……んっ、ん……」 漏れ出る帆夏の吐息が耳に心地良い。そうして長い間溶けるようなキスを味わって、ようやく離れたところで、帆夏が大きく息を吐いた。「……ああああー、」と悶えるような呻き声を上げたと思ったら、息苦しいほどにきつく抱きしめ [続きを読む]
  • ルート9 27
  •  何度かくちづけた後、くびれの部分まで口に含んでちろちろと先端を舐め回していたところで、帆夏の両手が僕の頭をぐいっと押さえ込んだ。「……」 咥えたままの状態で、帆夏の顔を伺う。薄闇のなか、荒い息が響き、帆夏の肩が激しく上下している。「どうした?」「あのさ、本当に今さらだけど、……伸一さん、ゲイじゃないって言ったよね」 せっかくこれからという所で動きを止められ、意地悪な気持ちがむくむくと湧いてくる。 [続きを読む]
  • ルート9 26
  •  キャンプ場に戻った僕は手早く火を起こして夕飯の支度に取り掛かった。スキレットでカレー粉とスパイスを炒めた後、野菜とトマト缶を入れて煮込み、仕上げに昼の残りの魚介類を投入して一煮立ちさせればシーフードカレーの完成だ。 茜色に染まった空と湖を眺めながら、焚火を囲んで食べた。帆夏は「ルーを使わないカレーって初めてかも」と言って、山盛りに継ぎ足したカレーを豪快に食べている。「伸一さんは、この二週間なにし [続きを読む]
  • ルート9 25
  •  くちびるがゆっくりと離れて目を開けると、帆夏の優しい眼差しとぶつかった。そうして見つめ合ったまま、どちらからともなくクスクスと笑い出す。「機嫌直った?」「……だから、怒ってないって言っただろ」「ツンツンした伸一さんも可愛いけど、やっぱり笑った顔が一番好きだよ」「頼むから可愛いという表現ははやめろ」 僕の抗議を軽くスルーして、帆夏はにっこりと微笑んでいた。「写真、貼ってくれた?」「貼ってはいないけ [続きを読む]
  • ルート9 24
  •  傾げた顔がゆっくりと近づいてきて、同時に伸びてきた両手にふわりと頬を挟まれた。帆夏が僕の顔を直視していることは分かっていたが、それでも僕は、意地でも視線を合わせなかった。「なに怒ってるの?」「……怒ってなんかない」「嘘だ。ねえ、こっち向いてよ」 そう言って、鼻先が触れ合うほどの至近距離まで近づいてくる。このままくちびるを塞がれてしまうのは悔しくて、僕は絞り出すように声を出した。「……二週間も音信 [続きを読む]
  • ルート9 23
  •  別府駅に到着して十分後、改札口の人混みに紛れて現れた帆夏が、僕を認めて大きく手を振りながら小走りで駆けて来た。「伸一さん! 会いたかった!」 そう叫びながら、人目もはばからず僕の身体をぎゅーっと抱きしめてくる。じゃれつく大型犬のような帆夏をなだめながら、強く腕を引き、なかば無理矢理車内へと引っ張り込んだ。「ずっと会いたかったよ。伸一さんも俺に会いたいって思ってくれてた?」 大きな目をくりくりとさ [続きを読む]
  • ルート9 22
  •  液晶画面の名前を見つめたまま、僕は通話ボタンを押すことができずにいた。バイブ音はしばらくの間鳴り続けていたが、やがて止まり、静寂が訪れる。僕は強張った肩の力を抜き、ふう、と大きく息を吐いた。 帆夏は僕になにを話そうと思い、電話を掛けてきたのか。元恋人とよりを戻した報告か、あるいは、戻って来られなかったことへの詫びか。いずれにせよ、僕にとって痛い話であることは変わりない。 それでも、このまま無視し [続きを読む]
  • ルート9 21
  •  胸の傷の痛みは、時間の経過とともに必ず癒える。旅の途中、僕は帆夏にそう言った。 痛みや悲しみやが消える訳ではないけれど、毎日すこしずつ薄れていく。まるで原色の絵の具に一滴ずつ水を落としていくように。そしていつの日か、何もかもが滲んで薄ぼんやりとして、悲しみの記憶が遠くなったその時、ひとは癒されたと言うのだろう。 帆夏と過ごした時間は、わずか三日間だ。一緒に旅をして、一度だけキスをした。たったそれ [続きを読む]
  • ルート9 20
  •  拍子抜けするくらい、あっけない別れだった。帆夏の背中を見送った後、しばらくその場に立ち尽くしたまま、彼の濃い気配が次第に消えてなくなっていくのを感じていた。「さあ、仕事仕事」 胸の空白を振り切るようにそうつぶやいて、僕はパソコンに向かう。すぐに取り組むべき仕事があることが、いまはありがたかった。 帆夏が言った「必ずまたここに戻ってくる」という言葉は、すっぱりと忘れることにした。なにしろ彼は、元恋 [続きを読む]
  • ルート9 19
  •  翌朝僕は庭で炭火を起こして、昨日買ったのどぐろの干物を焼いた。 和室で寝ている帆夏を起こしに行くと、帆夏は眠そうに目を擦った後、大きく伸びをして、のそりと起き上がった。「おはよ。……あ、美味しそうな匂いがする」「のどぐろ焼いたから、冷めないうちに起きてこいよ」「すぐ行く」 洗面を済ませた帆夏が庭に降りてきた所で、飯盒で炊いたご飯をよそい、フリーズドライの味噌汁に湯を注ぐ。帆夏は威勢良く「いただき [続きを読む]
  • ルート9 18
  •  辿り着いた山口市はいまの仕事を始めてから何度も訪れたことのある、僕にとっては馴染み深い街だ。街の中心部にある小高い丘の中腹に佇む真っ白な教会や、趣のある瑠璃光寺五重塔を訪れ、一の坂川沿いのカフェでコーヒーを飲んでから、僕たちはまた車を走らせた。   始発点の京都市内から七四五キロ、三日間の旅が、もうすぐ終わろうとしていた。国道九号線は山口市で国道二号線とぶつかり、下関まで合流する。そのまま二号線 [続きを読む]
  • ルート9 17
  • 「このまま順調に進めば、夜にはKに到着するよ」「あのさ、Kに着いたら、車でも家でもどこでもいいから、もう一泊させてもらってもいい?」「構わないよ。……夜道に放り出されても困るだろ」 僕の言葉に、帆夏は安心したように微笑んだ。「でも、旅が終わってしまうって思ったら、なんだかすごく淋しいな」「……」「この時間が、このままずっと続けばいいのに」「……僕もキャンプから家に帰るとき、いつもそう思うよ」「…… [続きを読む]
  • ルート9 16
  •  国道を西へと車を走らせる。ここから先は海岸線に沿って道が続いているので、日本海を眺めながらのドライブが楽しめる。 今日も天気は快晴で、すでにぎらぎらと太陽が照りつけていた。エアコンを全開にしてもなお外の熱気が伝わってくる。それでも紺碧の海を眺めながらのドライブは爽快で、僕たちは昨日買った残りのパンを食べながら、車窓からの眺めを楽しんだ。 浜田市に着いたのは午前十時を過ぎた頃で、まだ昼食までには時 [続きを読む]
  • 拍手コメントへのお返事
  • いつも拍手コメントをありがとうございます。上から新しい順です。(2017年3月〜)8/21「広告よけと近況報告」にコメントいただいたmochaさまこんにちは。いつもありがとうございます!「ルート9」、楽しんでいただいているようで、嬉しいです。「春風」のふたりが生真面目すぎて若干書くのに疲れていたので、今回のふたりは彼らと対極のような、ゆるーく適当な感じに仕上げてみました。そんなふたりなので好き嫌いはあると思います [続きを読む]
  • ルート9 15
  •  午前五時をすこし過ぎた頃に目が覚めた。帆夏を起こさないようにそっとテントを抜け出し、まだ夜が明けたばかりの静寂を味わいながら、潮のかおりがする清々しい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。 トイレを済ませてから、バーナーで湯を沸かしてコーヒーを淹れた。ノートパソコンを取り出し、メールチェックをする。仕事関係のメールは二件。内容を確認しながら、頭のなかであれこれと算段をつける。 ちょうどそこへ中年男性がテ [続きを読む]
  • ルート9 14
  • 「キスしてもいい?」 くびすじに熱いくちびるを押しあてながら、吐息だけで囁かれた。「ダメ」 それってもうしてるだろ、と思いながら、それでも僕は即答する。「えー、どうしてダメって言うんだよ」「だってキスだけでは収まらないだろ君は」「確かにそうかも知れないけど、ここまで来たんだからもういいじゃん」「野外セックスはしない主義なんだ」 と友人との件は完全に棚に上げて、僕は断固として言い切った。「そんなこと [続きを読む]
  • ルート9 13
  • 「……おい」 呻くように低く絞り出した声に、帆夏の身体がびくりと大きく震えた。「お願いだから、何にもしないから、怒らないでよ」 まるで悪事がばれて叱られる子どものような声音で、肩に巻き付けた腕にぎゅっと力を込めてくる。「何もしないって、どの口が言うか」「だって、俺伸一さんがめちゃくちゃ好きなのに、海パン姿とか真っ裸とか見てしまって、そのうえ手を伸ばせばすぐに触れられる距離に寝てて、それなのに何にも [続きを読む]
  • ルート9 12
  •  浜辺でのんびり過ごそうなどと思っていた僕は、先に泳いでいた帆夏に腕を引かれ、なかば無理矢理海のなかへと引きずり込まれた。「せっかく海に来たんだから、ちゃんと泳ぐの!」 諭すようにそう言われ、仕方なく僕は帆夏の後を追いかけ泳ぎ始める。平泳ぎ、クロール、背泳ぎに犬かき。一通りの泳ぎ方を楽しんで満足したのか、また腕を引っ張られて波打ち際まで戻ると、今度は盛大に水飛沫を掛けられる。「やめろよ」と叫んでも [続きを読む]