elly さん プロフィール

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ellyさん: Harmonia
ハンドル名elly さん
ブログタイトルHarmonia
ブログURLhttp://ellylove.blog133.fc2.com/
サイト紹介文オリジナル小説。新連載「春風」始まりました。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供26回 / 365日(平均0.5回/週) - 参加 2013/03/29 15:06

elly さんのブログ記事

  • 春風 7
  •  タンタンタン、と音がする。まだ覚醒しない頭で、ぼんやりとした耳で、その音の在処を探る。 タンタンタン。また音が聞こえる。速くてリズミカルな音。なんの音だろう。 どうして自分は、こんなところにいるんだろう。 意識が次第にはっきりしてくる。身体を探ると、上にはブランケットが掛けてあった。そう、ここはヨガのスタジオだ。みんなはどこへ行ったのだろうか。桜庭は……。 思い出した途端、一気に血の気が引いた。 [続きを読む]
  • 春風 6
  •  アーサナというサンスクリット語のポーズの名前を簡単に説明しながら、流れるようにヨガは進んで行く。座位から四つんばいになり、腹ばいになり、少し疲れたな、と思ったらマットの上で横になるような楽なポーズに入る。桜庭の誘導によってゆっくりと立ち上がると、両脚を揃えてまっすぐに立った。「これはアーサナのなかでもっとも重要な山のポーズ、ターダアーサナです。足の裏をしっかりと大地に付け、腰が反らないように注意 [続きを読む]
  • 春風 5
  •  スタジオに入るとすでに数人の女性たちが準備を整え、座っていた。二十代から三十代半ばあたりの年齢だろうか、パステルカラーの華やかな服装で、濃紺のジャージ姿で入室するのはあまりにも場違いな気がして気後れしてしまう。入り口辺りでもじもじと佇む菫に気づいた桜庭が笑顔で駆け寄ってきた。「ヨガではマットを使うから、これを持って空いた所に敷いて、あとは始まるまでリラックスして過ごして」 ラベンダー色のヨガマッ [続きを読む]
  • 春風 4
  •  第一印象は「顔ちっちゃ!」だった。無造作な黒髪に覆われた、信じられないくらい小さな顔と、そこから続く細く長い頚。引き締まった細い身体は意外に肩幅が広く、人形じみたすらりと長い手脚が伸びている。ピッタリと身体に沿った服装だから、嫌でもその美しい肢体が目に入ってくる。「こんにちは」 にっこりと微笑んだ彼から挨拶をされて、菫もぺこりと頭を下げた。「中道さんのご紹介で体験レッスンに来てくださったんですが [続きを読む]
  • 春風 3
  •  ちょうど仕事の休日と重なった次の日曜日、菫はS駅へと向かった。休みの日は洗濯や掃除をして、外出と言えば近所のスーパーやドラッグストアへ必要最低限の食料品や日用品の買い出しに出掛ける程度で、あとは家でゴロゴロと過ごすのがおきまりのパターンだ。ただでさえ人の多い日曜日に街中に出かけるなど、わざわざ金を払って疲れに行くようなものだと思う。 二時間おきにクラスが始まるから好きな時間に行けばいいけれど、あ [続きを読む]
  • 春風 2
  •  その後も立て続けにトラブルが発生し、ようやく休憩に入れたのは午後三時を過ぎた頃だった。神経をすり減らすような仕事のせいか、近頃胃の調子が良くない。それでも元々痩せ形で、これ以上食事の量を減らすとますます周囲に心配されそうだからと、コンビニ弁当をお茶で無理矢理流し込んでいると、ちょうど勤務を終えたパート従業員たちが休憩室に入ってきた。「お疲れさまでした」「お疲れさまです。あらあら、今頃昼食?」「吉 [続きを読む]
  • 春風 1
  •  あの風を感じた気がして、立ち止まった。瞼を閉じ、深呼吸をして全身の感覚を研ぎ澄ます。聞こえてくるのは行き交う車の音や時折響く甲高い女の笑い声、聞き慣れた街の雑踏の音。心が追い求めるあの風は、やはり菫の気のせいだった。 ゆっくりと目を開けると、午後の光が眩しい。三月も半ばを過ぎ、このところ急に陽差しが強くなってきたなと思う。 ふたたび菫は歩き始める。たくさんの人が行き交うこの街で、いまでもふいにあ [続きを読む]
  • 休日
  •  待ち合わせ場所の大型書店の前に、スーツ姿の彼が佇んでいる。どんな人混みにも決して紛れない、そのうつくしい立ち姿に胸を躍らせながら、急ぎ足で彼の元へと向かった。「ごめん、待たせた?」「いや、ついさっき着いたところ。ちょっと歩くけど、いい?」 歩きながら、おたがいの近況を語り合う。貴也さんはここ最近仕事が忙しく、休日出勤が続いていた。忙しいのは俺の方も同じで、二週間会えないまま過ごした日曜日の朝、も [続きを読む]
  • ご投票ありがとうございます!
  • こんにちは。「読み続けたい作品」へのご投票、気がつけば50票を超えていました。ずぶの素人が個人的趣味だけで書いた下手な小説に対して、「いつまでも読み続けたい」と思って頂けることがこの上なくありがたく、いただいた一票一票に感謝の気持ちでいっぱいです。そして、年度末のあれこれに忙殺されていて、ふと今朝投票をチェックしていたら、「銀の指輪」を項目に入れ忘れていたことに気づきました。今さらですが(泣)個人的 [続きを読む]
  • お知らせその2
  • 昨日に引き続きお知らせです。「降りそそぐひかり」のお試し読みを目次にアップしました。一度縦にしたものをふたたび横で掲載するのもなんだかなあ、という私の妙なこだわりゆえに、EPUBファイルとなっております。EPUBファイルが読み込める電子書籍リーダーをインストールの上、お読みいただければと思います。また、澤木はスマホやタブレットの類を持っていないので、動作チェックができません。ダウンロードや閲覧に不具合のあ [続きを読む]
  • 広告よけとお知らせ
  • こんにちは。澤木です。三月に入り、いよいよ春めいてきた九州地方。外では鳥がチュンチュン鳴いていて、なんとものどかな昼時です。さて、Harmoniaは今月28日で四周年を迎えます。多くの皆様のあたたかい励ましのお陰でここまで書き続けられたことに感謝いたします。私自身も、四年間のなかでものすごく心境の変化がありました。ただ書くことが楽しかった一年目。自分の作品の稚拙さが嫌で、もっと上手くなりたいともがいていた二 [続きを読む]
  • 拍手コメントへのお返事
  • いつも拍手コメントをありがとうございます。上から新しい順です。(2016年7月〜12月)12/9「広告よけとお知らせ」にコメントいただいたれいさまこんにちは。ちっとも更新できていないブログですが、作品を楽しみにしてくださっているとのこと、本当に嬉しく思います。体調が良くなりましたら、またぼちぼちと書いていこうと思いますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。コメントありがとうございました♪(2016/12/11 [続きを読む]
  • 夜明け前
  •  まだ暗い部屋のデスクライトをつけ、寝ぼけ眼を擦りながら薪ストーブの扉を開けた。午前五時。しん、という音が聞こえてきそうなほどの静けさのなか、前日の夕方に用意しておいた薪を炉のなかに積み上げ、あらかじめ入れておいた杉の小枝に着火する。うまく薪が燃え始めたら、小一時間で部屋全体が暖まるだろう。 一級建築士の受験のため、毎朝この時間に起きて勉強するのが日課となっている。夏の間は良かったが、さすがに十一 [続きを読む]
  • 陽光
  •  長い間我慢して、結局負けたのは俺の方だった。 組んだ脚の、右のふくらはぎを躊躇いがちに往復する指先はあたたかく湿っていて、くすぐったくて落ち着かない。とても読書に集中できない。 文庫本を閉じ、顔を上げる。「おい」 睨み付けながら低音でつぶやくと、いたずらを仕掛ける恋人が上目遣いで俺を見つめてきた。無意識だろうか、恋人はしょっちゅうこんな顔を向けてくる。この世にたった一人、置き去りにされた子どもの [続きを読む]
  • 子猫が来た夜
  •  今から一年とすこし前のある日の夕方、仕事先の駐車場で車に乗り込もうとしたところ、にゃあにゃあとこちらを呼ぶ猫の声が聞こえた。声に引き寄せられるように地べたにしゃがみ込むと、薄暗い車の影に二匹の小さな猫が佇んでいる。一匹はぼくを必死で呼び止めるように鳴いていて、もう一匹はその場にうずくまっていた。 ぼくが手を伸ばすと、鳴いている方の子猫がすり寄ってきた。明るい茶色と白の、やんちゃそうな顔つきをした [続きを読む]
  • 月夜と檸檬 5
  •  交代でシャワーを浴びてから、鶏のから揚げにぶっかけうどんの、簡単な食事をとった。これから瑞季は帰宅の途につく。Tに着くのは、早くても翌朝だ。 ぼくが食器を洗っている間に瑞季は荷物を積み込み終わったらしく、縁側に座ってシャケを撫でながらまんまるな月を眺めていた。昼間の暑さとはうって変わって涼やかな風が頬をくすぐる。「そういえば、なんで『シャケ』?」 シャケを膝に乗せたまま、瑞季が訊ねてくる。「実は [続きを読む]
  • 月夜と檸檬 4
  •  檸檬の香りは瑞季が寝ている部屋の隙間からすり抜け、ぼくの部屋へと漂ってくる。昼食後、軽く昼寝をしようと思い、一旦は布団に横になったが、ひとたび匂いを意識してしまえば妙に頭が冴え渡ってしまい、仕方なくぼくは庭に出て草刈機のエンジンをかけた。外は良く晴れていて、すこし身体を動かしただけで汗ばむような陽気だ。首に巻いたタオルで時折汗を拭いながら、ぼくは作業に没頭した。 午後三時のチャイムが響いて、休憩 [続きを読む]
  • 月夜と檸檬 3
  •  昼食の後、早速車の応急処置に取り掛かった。父親から譲り受けたという瑞季の軽自動車は十五年前の型式で、走行距離はもうすぐ二十万キロに届きそうだ。ぼくの車も同じ型式で、走行距離もほぼ同じくらいだ。いくら大切にメンテナンスして乗っていても、あちこちにガタがきてしまう。 社会人になって初めての大きな買い物が、車だった。ひとりで乗るのだから軽自動車で十分、だからこそ納得がいくものに乗りたいと、あちこちのデ [続きを読む]
  • 月夜と檸檬 2
  •  車で家まで移動した後、大ざっぱに家のなかを案内してから、ぼくは台所へと向かった。下味をつけておいた鶏肉に片栗粉をまぶし、揚げている間に筍のスープを温める。午前中のうちに作っておいたポテトサラダに、炊きたてのご飯をよそって昼食が完成した。 プレートを並べると、「すげ。定食屋みたい」と瑞季は目を丸くした。行儀良く手を合わせて「いただきます」と言ってから、ポテトサラダに箸を伸ばす。「口に合う?」「めち [続きを読む]
  • 月夜と檸檬 1
  •  いつの間にか気配が消えたなと思い辺りを見回すと、窓ガラスの外、縁側に座って膝に乗せた飼い猫のシャケを撫でながら、瑞季(みずき)は夜空を眺めていた。 側に寄って、隣に腰掛ける。シャケに手を伸ばしながら、ようやく山の影から現れた丸い月にほの白く照らされた、蠱惑的な彼の横顔を見つめる。 樹々が風に揺れる音と、遠く聞こえる蛙の声。満月ではあるけれど、街灯もまばらな田舎だから、それなりにも星は見えるものだ [続きを読む]
  • 朝の光
  •  その朝思い立って、郊外のショッピングモールへと出かけた。梅雨の終わりの、大雨が何日も降り続いた後、ようやく薄日が差した朝で、家のなかは湿気でどんよりと重苦しく、そこにいるだけで気分が滅入ってしまいそうだった。ちょうど本格的な夏の前にシーツを新調しようと考えていたから、迷わず車に乗り込んだ。 寝具売り場で、ひとつひとつの商品を手に取って肌触りを確かめた上で、オーガニックコットンのものを選んだ。リネ [続きを読む]
  • 拍手コメントへのお返事
  • いつも拍手コメントをありがとうございます。上から新しい順です。(2016年1月〜 )5/29「ラブ・エキスパート」にコメントいただいたよさまこんにちは。いつもありがとうございます♪喜んでいただけたようで、私もすごく嬉しいです。ラブラブなふたり……佐久嶋くんが、まああんな感じですからかなり難航しそうですが(笑)いつかそんな日が訪れると私も信じています。久しぶりに書いて、とにかく楽しいふたりでしたので、続き、ま [続きを読む]
  • ラブ・エキスパート
  •  佐久嶋さんが俺のマンションに引っ越してくる日まで、あと一週間。多忙な佐久嶋さんをすこしでも手伝おうとアパートに押し掛けた俺は、ドアを開けた佐久嶋さんの姿を見た瞬間、凍り付いたように固まったまま動けなくなってしまった。「……あ、……うわっ、うわあー! 髪が! 髪があああ!」 俺が絶叫したのと、腹に佐久嶋さんの拳がめり込んだのは、ほぼ同時だった。「ぐえっ」「ぎゃあぎゃあうるせえんだよ近所迷惑だろ!」 [続きを読む]
  • 広告よけです
  • こんばんは。前回の更新から一ヶ月以上経ち、広告が出ていたようです。大変失礼いたしました。今回の地震ではご心配をおかけしました。おかげさまで家族全員、元気で過ごしています。コメントやメールをくださった方、本当にありがとうございました。あたたかなお心遣いが嬉しく、励まされました。また、更新していない間も拍手やバナーポチをくださった方、いつもありがとうございます!諸事情でもうしばらくの間更新をお休みさせ [続きを読む]
  • Happiness
  •  懐かしい音が聞こえた。 うねるような低音。耳から入ったそれは下腹部からもっと下のあたりにダイレクトに響いてきて、それでいて妙に安心するような音色。グルグルともゴロゴロとも、グワングワンとも聞こえるその音を、目を閉じたままじっと聞き入っていた次の瞬間、頭頂にザラリと生暖かいものが触れ、身体中の皮膚が粟立った。「うわっ」 寝起きの悪さでは定評がある俺でも、さすがにこれは参った。がばりと身体を翻すと、 [続きを読む]