油屋種吉 さん プロフィール

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油屋種吉さん: 油屋種吉の独り言
ハンドル名油屋種吉 さん
ブログタイトル油屋種吉の独り言
ブログURLhttp://blog.goo.ne.jp/knvwxco
サイト紹介文種吉が今と昔のお話をいろいろに語ります。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供52回 / 365日(平均1.0回/週) - 参加 2013/08/16 08:26

油屋種吉 さんのブログ記事

  • みゆ。十五歳。 エピローグ 
  •  「そうだよな。そう言われても、返す言葉が見あたらないよな。普通なら、学校にいる時間だもの。なのに、俺ったらこんなかっこうでさ」 山上太郎は、みゆの目を見ない。 いくぶん顔を青白くし、所在なげに左手を動かす。 花の香りでも、かごうというのだろうか。 ゆらゆら揺れる、彼の左手が、店先に置かれているバケツのひとつに近寄っていったかと思うと、ほかの花よりぬきんでて長い、ピンク色の百合のくきを、左手でもち [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その13
  •  それからしばらくは、みゆは学校に来てもぼうっとしていることが多かった。 本当は、学校を休んでいたいと思う。 だが自分を心配してくれる母や、祖父のことを考えると、そうもいかなかった。 ある日の現国の時間。 左手でほうづえを突き、右手に持ったシャーペンを指でくるくる回していたみゆに、鈴木先生が 「おい、川上。なに考えてるんだ。授業にまったく実が入ってないじゃないか」 と、突然声をかけてきた。 「ええ [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その12
  •  若葉が生い茂っているせいで、雨はみゆのからだにさほど降りかからない。 まだまだ春は終わったばかり、ほん降りになることはないだろう。 彼女はそう思い、しばらく楠の幹にもたれ、雨のしずくをしのいでいることにした。 自分の身を、雨から守ってくれる楠を愛おしむ気持ちがめばえ、彼女は右手でそっと表皮をなでた。 それにひきかえ、人間なんてなによ、ちゃんと考える頭を持ってるくせに、なかなか思いやりの気持ちを示 [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その11
  •  みゆが校門を通りすぎようとした頃には、それはすでにほぼ閉じられ、人ひとりがやっと通りぬけられる程度。 あたりを見るが、誰もいない。 ほっとして彼女は足早に歩み去ろうとした。 「ちょっと待て。そんなあまいものじゃないぞ」 ふいに横合いから野太い声がかけられ、みゆはぎょっとして立ちすくんだ。 「遅れてすみません」 彼女はうつむいたままで言った。 「すみませんで、すまないぞ、理由を言え、理由を」 「は [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その10
  •  連休明けの学校。 一学年上の先輩みすずから聞いた話が、心の重しとなり、みゆの登校をはばんだ。 知らない方が良かったと思うが、もうもとには戻れない。 みゆはなかなか登校する気にならず、ぬいぐるみを抱きしめ、ベッドの上にいた。 「みゆ、どうしたの。学校に間にあわなくなるわよ」  母の菜月がドアをトントンたたいた。 「ああ、ママ。ごめんね。今、いそいで仕度するから。寝坊しちゃった」 「ゆうべ、もっと早 [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その9
  •  「ほら、下りるんだよ、みゆ」 威勢のいいみすずの声に、みゆは、はっとして、それまで上体をあずけていたドアから、離れた。 「もう着いたんですね。深い地下を走ってると、今、自分がどこにいるか見当がつかないですね」 みすずは、ふふっと笑い、 「そんなことないよ。科学が発達してるからだいじょうぶ。正確な位置がちゃんとわかるようになってるよ。もっとも、ここじゃ平日の昼間は一千三百万くらい人がいるらしいから [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その8
  •  突然、みゆの手をつかんだ男が、ぎゃっと叫び、ホームにころがった。 彼の股間を両手で押さえ、うんうんうめきはじめた。 「いったい、どうしちゃたのよ」 彼に何が起きたんだろうと、みゆはあたりを見まわすが、かいもく見当がつかない。 彼が自分を拉致しようとしたことさえ忘れ、てしまい、 「あのう、どうしたんですか」 と、本気で、彼のからだを心配するしまつである。 「もういやだな、みゆは。ほら、あたしだって [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その7
  •  みすずの話はそれきりで、彼女はうつむくと黙りこんでしまった。 ふたりの間に、白けた雰囲気が生じた。 みゆは、にがわらいを浮かべ、 「わたし、ばかみたいでしょ」 と言った。 そのあとの言葉をだそうにも、なんと言ったらいいか、わからない。 偶然にしては出来すぎてる、なんで、なんで、パン屋にいたあの人がS女子高生だったの?。 みゆは、心の中で、悲痛な叫び声をあげた。 「そのことは、あとで考えましょ。あ [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その6
  •  五月になった。 連休のある晴れた日、みゆはS女子高の友だちと渋谷に向かった。 先月までの天候不順がうそのようで、ここ二三日ずっと晴天がつづいている。 彼女たちが乗った電車が、ごとんごとんとゆっくりしたリズムを刻みはじめた。 「みすず先輩、あたしってどう思いますか」 窓際の席にすわり、川岸に置かれたグライダーをめずらしそうに眺めていたみゆが、ふいに向きなおった。 「どうって?」 「あのう、わかんな [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その5
  •  合格発表からすでに三十分経過し、掲示板の前には、ほとんど人がいない。 ちらつきはじめた小雪が、掲示板をじっと見つめるひろしの学生服に降りかかりはじめた。 みゆは、彼の後ろ姿ばかり、見ている。 彼のずぼんのお尻に、縦横に刻まれた、しわが、彼女に、中学に入ったばかりの彼の童顔を思いださせた。 小学校もいっしょだったから、あの頃は心おきなく話すことができたし・・・・・・。 このままの気持ちで、彼のもと [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その4
  •  「お母さん、あのね」 そこまで言い、みゆは口ごもった。 彼女は、思春期のさなかにあり、日頃は、親になど、めったに、素直になれないものだった。 だが、この時は、自分でも不思議なくらい、菜月に話したくなった。 まるで、ふたりを隔てる氷でできた壁が、みゆの熱い想いで溶けだし、トイレの床に流れ去ってしまうようだった。 さすがは、母親。 菜月は、娘の必死さに痛いほど胸をつかれ、小じわのめだちはじめた目に涙 [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その3
  •  翌日は、県立高校の合格発表。 発表時刻は十時である。  みゆはほとんど熟睡できず、どうやってひろしに逢おうかと考えてばかりいた。 逢うのは、できるだけ、早ければ早い方がいい。 そうでないと、自分とひろしとの距離が日一日と、広がっていくように思えた。 自分には、それが決して耐えられないことであることが、よくわかっていた。 それほど彼が好きだった。 初めての恋だと、彼女はうすうす感じはじめていた。  [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その2
  •  小躍りしながら、スマホを手に取ったみゆだったが、コールの相手は、彼女の期待に反した。 「なによっ、ママ。電話なんかかけてきてさ。びっくりするじゃない、もう」 みゆの声が尻あがりに荒くなり、それにつられるように、彼女の興奮度が高まった。 「なによ、とはなによ。いったい、部屋で何してるの。ちょっとは、お母さんの手伝いしてちょうだい。卒業したばかりだし、今すぐやることなんて、何もないでしょ」 「わかっ [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その1
  •  みゆは中学校の制服を着たまま、勢いよく、ベッドに自分の身を投げだすと、かけ布団の上にのっていた茶色の熊のぬいぐるみが、ごろんと転がり、床に落ちた。 だが、彼女はそれを拾おうとしない。 しばらく、うるんだ目で天井を見つめていたが、急に、いち、にい、さんと声を出しはじめた。 天井板にあいた、細かい穴を数えているのである。 初めは、声に張りがあったが、しだいに弱々しくなった。 百くらい、なんとかかぞえ [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 プロローグ
  •  卒業式から帰宅するなり、みゆは、玄関で出迎えた、祖父の勝一の笑顔を見もしないで、二階へつづく階段をのぼって行く。 彼女の目はいくぶんうるみ、頬のあたりは、いつもより赤らんでいる。 彼女の視線は、定まらない。 あっと思った瞬間、彼女は階段から、右足を踏み外しそうになり、あやうくころげ落ちるところだった。 「あぶないぞ、みゆ。転んだって、じいちゃんが助けてやるが、そんなに大きくなってはなあ・・・・・ [続きを読む]
  • みえーる。 その1
  •  最近、B県内のめがね販売業界では、順調に業績をのばしているM社。 青木夫妻の住む街の一角にも、それが出店したのである。 従来の眼鏡専門店より、ずっと安価。 たぶん大量に仕入れるからだろうが、それにしても破格の値段だった。 いったい、彼らがどういうやり方で、コストダウンを図っているのか。 業種が違うが、食品関係の営業で食べている一夫には興味があった。 彼はげんなりしている早苗の肩をそっと抱くと、  [続きを読む]
  • みえーる。 プロローグ
  •  駐車場の白いわくに車を入れるとすぐに、稲妻が走った。 バシッとむち打たれる感触とともに、ハンドルをもつ青木一夫の手がしびれた。 まわりが青白い光でつつまれ、まるで異世界に入りこんだようだ。 「あちっちっ」 一瞬遅れてやってきた轟音に、助手席にいる彼の妻、早苗が両手で耳をおさえた。 「だいじょうぶか」 妻の安否を訊ねる一夫に、早苗は返事をしない。いや、したくてもできない。 目を閉じ、上体を背もたれ [続きを読む]
  • くすし その8
  •  息苦しさがますますつのり、肺も心臓も今にも壊れそうだった。 ゆうじは口を大きくあけ、深く息を吸いこもうとした。 だが、なんとしても、からだの自由が利かない。 とうとう俺は宇宙のチリになって、いつまでも漂ってしまうのか。 彼が人生をあきらめかけた時、突然、すうっと空気が気管に流れ込んできた。 たまった空気をゆっくり吐きだし、そっと目を開けると、まきがそばにいる。 なんだ、あの女じゃないのか、すると [続きを読む]
  • くすし その7
  •  目の前が真っ暗になったと同時に、ゆうじは、自分のからだが思い通りに動かなくなったのを悟った。 女の声を出しているが、実際相手の正体がなんだかわからない。 吸血鬼だろうか、はたまた、ほかの怪物かもと、心の中に不安が広がって来て、たまらなくなる。 だが、未だに意識がしっかりしているのが幸いだった。 世の中に七不思議ありと昔から伝えられているが、これもそのひとつかもしれないと思った瞬間、グキッと腕がも [続きを読む]
  • くすし その6
  •  もし自分がふり向いて、現実に肉体を持った、あの女がいたとしたらと思うとゆうじは考えこんでしまう。 起き上がったまきと、彼女がいさかいを起こすのが目に見えていた。 「そんなにあれこれ心配しなくていいのよ。楽にしていて。今にいいところへ連れてってあげるから」 はっきりした女声だった。 「えっ、いいところ?いやですよ。行きたくない」 彼は驚き、首をわずかに動かそうとしたが、動かない。 「だって、あなた [続きを読む]
  • くすし その5
  •  海辺での不可思議な体験以来、村上祐治の内面に、異変が起こりつつあった。 違和感といってもいいだろう。 こんな感覚は今までにもあったことで、とりたてて問題視することはないと、彼も思うのだった。 第二次性徴期に入った頃身体の奥底から、怖いほどのエネルギーが、ふつふつとわきあがってきて、幼ごころに、いったい自分はどうなってしまうんだろうとある種の恐怖を抱いたものだった。 それは大人になるための通過点で [続きを読む]
  • くすし その4
  •  「まったく、まきちゃんは子供みたいなんだよな。鯉くらいで大騒ぎするんだから」 「えへへ、だって、見れば見るほど面白い顔してるんだもの。パクパクって、大きな口をわたしの方に向けてくるんだもの。昔、人面魚ってはやったことあったでしょ。あれ思いだしちゃったわ」 「鯉はどん欲だから。なんだってのみこむんだよ。小さい頃、鯉釣りしたことあったけど、ウキがすぐに見えなくなってね。うかうかしてると、餌だけ食われ [続きを読む]
  • くすし その3
  •  それから一週間経った。 ゆうじはまきのきげんが直った頃だろうと、おそるおそる「逢いたいメール」を入れてみた。 すると、彼女が、「ほんとに反省してる?と訊いてきたから、彼は、ああまあなと返した。 あからさまな生返事だったから、彼女は承知しないに違いない。 彼はそう思い、あきらめ半分で、自室のベッドに横たわり、目を閉じた。 しばらくして、胸のポケットに入れておいたスマホが着メロを流しだした。 「ゆう [続きを読む]
  • くすし その2
  •  子供の頃、ゆうじはそそっかしかった。 今でこそ、大学に通学するために、都会で暮らしているが、ふるさとは田舎町。 母親が、川遊びに連れて行ってやるからといえば、うれしくてはしゃぐ。 玄関から前庭に走り出て、跳んだりはねたりした。 ついには突き出した石につまずき、ころんだ。 半ズボンだから脛がむきだしで、ひどい擦り傷。 「ばか。お前みたいなのは、どこにもつれていかない。家へも入るんじゃない」 彼の母 [続きを読む]
  • くすし その1
  •  ここはとある大都会の公園。 広大な敷地の中に、ぜいたくなほどの木々が植えられていて、だれもが四季折々の草花を楽しめる。 今は、遅い秋。 公園を彩っていたかえでやつたの葉が、枝を離れ、冬をふくんだ風に舞っている。 午後三時をすぎ、陽は西に傾きはじめた。 公園の奥まった広場では、先ほどまで散策する人がおおせい見受けられたが、今ではベンチにすわるひと組の若い男女を残すだけである。 「ねえ、ゆうじ。もう [続きを読む]