油屋種吉 さん プロフィール

  •  
油屋種吉さん: 油屋種吉の独り言
ハンドル名油屋種吉 さん
ブログタイトル油屋種吉の独り言
ブログURLhttp://blog.goo.ne.jp/knvwxco
サイト紹介文種吉が今と昔のお話をいろいろに語ります。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供64回 / 365日(平均1.2回/週) - 参加 2013/08/16 08:26

油屋種吉 さんのブログ記事

  • K温泉の怪 その1
  •  霧が次から次へとわいてきて、山の斜面をのぼっていく。 おそらくこの崖下に谷川が流れているのだろう。 啓介はそう思ったが、それにしてもよほどその水が温かくなけりゃ、こんなに霧がわくわけがないのだが、と思いなおした。 「なんだか怖いわ、啓介。霧でほとんど見えないし、馬のひずめなんてさ。この辺りに牧場でもあるのかしら」 霧の中からぬっと現われた彼女の両手を彼はしっかりつかんだ。 「俺はここだよ。心配し [続きを読む]
  • K温泉の怪 プロローグ
  •  この年初めてのA岳の山おろしがふもとに住む人々を震えあがらせた。 火山特有のドーナツ型の頂上付近は、灰色の雪雲でおおわれ、赤茶けた山肌を白くしている。 一台のランドクルーザーが、起伏に富んだ山道をゆっくりのぼっていく。 曲がりくねっていて、とても運転しづらい。 中山啓介はまるで教習所のコースみたいだとため息をついた。 車内は暖房が利いている。 下車するときの用心に、彼は厳しい寒さに少しでもなじま [続きを読む]
  • どん欲 エピローグ
  •  それから一ヶ月経っても、さくらと洋介の仲はあまりしっくりしない。 職場で、たまに出くわすことがあっても目をそむけてしまう。 互いに胸の底に不満を募らせてしまっているからだ。 「ようすけ、夕方、あたしと付き合ってみる気がある?」 少しでもよりを戻そうと、さくらが洋介に提案すると、 「いや、ちょっと。高校時代の友だちとゲームをやる約束があるんだ」 彼は軽くいなしてしまう。 だからといって、彼がどこか [続きを読む]
  • どん欲 その5
  •  さくらは懐中電灯の光りで、公園のあちこちを照らしだした。 「ようすけ、あいつ行ってしまったみたい。ほんとに気味のわるい女だったね。ともかくあんたが助かって良かった。それにしても・・・・・・」 さくらはそこまで言い、彼のひたいを右手の人さし指でぴんとはじき、にやりと笑う。 「ああまったくだ。恥ずかしいようだよ。さくらが来てくれなけりゃ、今ごろどうなってたか」 「わたしだって、ほんとは来るつもりなか [続きを読む]
  • どん欲 その4
  •  彼女の唇が洋介の唇にそっと触れ、離れるときにプチュッと音がした。 「どう、いい気持ち?」 洋介は、はあっと息をはき、 「そんなこと聞いて、どうする。俺はあんたのこと何も知らないんだ。蚊に刺されたくらいにしか感じないね」 「まあ失礼。このあたしがキスしてあげてるのに。それじゃこれならどう?」 言葉とはうらはらに、彼女は二番目のキスをすぐにしない。 怒りをおさえているのだろうか。 女の体がわなわなと [続きを読む]
  • どん欲 その3
  •  目の前を歩いて行く美貌の持ち主は、ついさっき洋介の前に現われたばかり。 このままついて行けば、自分がストーカーと間違われてしまう。 ちょっとばかり知り合いになっておく必要があると思い、彼は、彼女の背中に、 「あのう、すみません。ちょっとお話したいことがあるんでごいっしょしてもいいでしょうか」 まともな耳なら、やっと聞けるくらいの声で訊いた。 だが、彼女は返事をしない。 長い髪を揺らし、歩道をどん [続きを読む]
  •  夜の散歩
  •  久しぶりに、短編を三作ものすることがで きた。 ほっとしたというのが、今の実感である。 もうそれほど瑞々しくはない脳みそを、む りに働かせるものだから、なんとなく体に違 和感を覚える。 苦しいと思うときがある。 ひどいときは、あまりに長くパソコンに向 かったせいだろう。 息苦しささえ感じてしまう。 でも書きあげたときの高揚感がここちよい。 それが欲しくて、書きつづける。 原稿用紙に向かっていた時 [続きを読む]
  • どん欲 その2
  •  やれやれとんだ邪魔ものが入ったなと、洋介は、まるで大亀のように歩道まではい出てきた。 今か今かと待ち受けていた歩道の野次馬連中が、オオとかヤアという声をあげる。 彼らの好奇の視線が、いっせいに、彼に注がれた。 蜘蛛の巣が、狭い空間の縦横にはっていたのだろう。 淡い灯りのもとで、彼の髪の毛がキラキラ光った。 「なんだ、おまえ。いったい、あんなところで何やってた」 完全に容疑者扱いである。 俺とおな [続きを読む]
  • どん欲 その1
  •  もうひとつのヒールのかかとのひもを右手で頭の上に持ちあげると、さくらはくるくるまわした。 大胆にも、シームレスストッキングをはいただけの足で、腰を左右にふりふり、歩道を歩き去っていく。 ちょっと前に流行った、はまさきあゆみの曲をふいに大声で歌いだし、眠っていた最寄りの番犬を鳴かせた。 「やれやれいい気なもんだぜ。しょうがねえな。探すしかねえか」 洋介はヒールが消えた狭い露地を見すえた。  奥に行 [続きを読む]
  • どん欲 プロローグ 
  •  時計の針は午前零時をまわっている。 一台の黒っぽいタクシーが、酔客でにぎわう地区から街はずれまでやって来て、ぴたりと停まった。 月は出ていない。 ビルの灯りはほとんど消え、数本の街路灯が、淡いオレンジ色の光を路面に投げかけている。 一陣の風がさっと通りすぎると、新聞紙がふわりと宙に舞いあがった。 タクシーはまるで地面にはいつくばる大きな虫のようだ。 しばらくして。タクシーの後部座席のドアが勢いよ [続きを読む]
  • 郷愁 エピローグ
  •  彼が身につけている服は、ちゃんちゃんこではなく、薄い半そでだった。 「ぼうや、どこから来たの。ひょっとしておばちゃんこと知らない?見たことあるんじゃない、どこかで。ちょっと待ってね。いまいいものあげるから」 きよ子はやたらとたくさんの言葉を彼に投げかけたくなる。 まったく、年がいもなく興奮して恥ずかしい限りだと思うが、今まであまりにつらいことが多すぎた。 少しくらいならと、自分を大目で見たくなっ [続きを読む]
  • 郷愁 その5
  •  「だいじょうぶか?なんなら俺、きょうはずっとそばにいてやろうか」 直売所の玄関前に車をとめると、典夫は飲みものを買おうとした。 助手席にいるきよ子に、 「おまえ、良かったら何か飲んでみるか」 と、たどたどしく声をかけた。 彼女は家からここまで、ずっと座席に浅く腰かけたままだ。 車の揺れが身体にこたえたからだろう。 「何も飲みたくないわ」 「まあそういわずに。朝だって、何にも食べなかったんだし。飲 [続きを読む]
  • 郷愁 その4
  •  あくる朝きよ子が目覚めると、辺りがすでに明るくなり、屋根にとまっている小鳥のさえずりが聞こえてきた。 「おはよう、小鳥さん。きょうも一日元気でがんばるからね」 と、彼女はふとんの中でつぶやく。 頭は今ひとつすっきりしないが、それでもいつもよりはずっと心地よい。 久しぶりに感じるさわやかさだ。  これまではわるい夢ばかりみた。。 引き潮に流されながら、「助けて」と、右手を空に突きあげ、絶叫した若い [続きを読む]
  • 郷愁 その3
  •  そんなことがあってから、不思議なことに、商売がうまくまわるようになった。 商品を販売できる店が確保できたのである。 人気の直売所がみっつ。 いずれも、街の幹線道路沿いにあり、車で二、三十分かかるくらいと、地理的にも申し分なかった。 典夫もいさんで、わかめや、めこんぶの買い付けに、ふるさとまで出かける気持ちになり、きよ子はうれしかった。 ギシギシ音をたて、淡い光のもとで彼女はただひとり、黒光りする [続きを読む]
  • 郷愁 その2
  •  一ヶ月経った。 持ち前の知恵と行動力で、典夫はたちまち庭先の一角に、海産物の加工所を造ってしまった。 間もなく、ふるさとの街から顔見知りの若い運転手が、大型の冷凍庫と付属品を積んでやって来た。 一般道を使うと、五時間はゆうにかかる。  トラックのエンジン音が聞こえるとすぐに典夫は玄関の戸を開けた。 腰を低くし、すまなそうな表情で、出迎えにでた典夫の顔を目にしたが、その運転手は、濃い髭を鼻の下にた [続きを読む]
  • 郷愁 その1
  •  「おとうさん、おとうさん、起きてる?」 不意にきよ子の声が、襖の向こうでしたので、典夫は驚き、からだの動きをとめた。 いつもなら、今ごろ彼女は二階で寝ているはずである。 「きよ子か?今ごろどうしたんだ。眠れないのか」 彼が、声を低くし、そう訊ねるが、 「ううん、そうじゃないの。ただ」 「ただ、どうしたんだ。何かあったのか」 典夫が訊いても、彼女の返事はない。 彼は心配になり、 「きよ子、きよ子。 [続きを読む]
  • 郷愁 プロローグ
  •  窓の外が白々としている。 風が吹いているのか、建てつけの悪い窓枠がカタカタ音を立てた。 内山典夫は午前一時頃にベッドに横たわったが、少しも眠くならなかった。 からだの節々がとても痛む。 肉体は疲れているのだが、神経がぼろぼろになるほどにささくれだっている感じだ。 頭髪を洗ったのはいつだったろうか。 かゆくて、手でかきむしり、くしゃくしゃになった後頭部を、漁師で鍛えたごつい両腕でささえた。 かっと [続きを読む]
  • みゆ。十五歳。 エピローグ 
  •  「そうだよな。そう言われても、返す言葉が見あたらないよな。普通なら、学校にいる時間だもの。なのに、俺ったらこんなかっこうでさ」 山上太郎は、みゆの目を見ない。 いくぶん顔を青白くし、所在なげに左手を動かす。 花の香りでも、かごうというのだろうか。 ゆらゆら揺れる、彼の左手が、店先に置かれているバケツのひとつに近寄っていったかと思うと、ほかの花よりぬきんでて長い、ピンク色の百合のくきを、左手でもち [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その13
  •  それからしばらくは、みゆは学校に来てもぼうっとしていることが多かった。 本当は、学校を休んでいたいと思う。 だが自分を心配してくれる母や、祖父のことを考えると、そうもいかなかった。 ある日の現国の時間。 左手でほうづえを突き、右手に持ったシャーペンを指でくるくる回していたみゆに、鈴木先生が 「おい、川上。なに考えてるんだ。授業にまったく実が入ってないじゃないか」 と、突然声をかけてきた。 「ええ [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その12
  •  若葉が生い茂っているせいで、雨はみゆのからだにさほど降りかからない。 まだまだ春は終わったばかり、ほん降りになることはないだろう。 彼女はそう思い、しばらく楠の幹にもたれ、雨のしずくをしのいでいることにした。 自分の身を、雨から守ってくれる楠を愛おしむ気持ちがめばえ、彼女は右手でそっと表皮をなでた。 それにひきかえ、人間なんてなによ、ちゃんと考える頭を持ってるくせに、なかなか思いやりの気持ちを示 [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その11
  •  みゆが校門を通りすぎようとした頃には、それはすでにほぼ閉じられ、人ひとりがやっと通りぬけられる程度。 あたりを見るが、誰もいない。 ほっとして彼女は足早に歩み去ろうとした。 「ちょっと待て。そんなあまいものじゃないぞ」 ふいに横合いから野太い声がかけられ、みゆはぎょっとして立ちすくんだ。 「遅れてすみません」 彼女はうつむいたままで言った。 「すみませんで、すまないぞ、理由を言え、理由を」 「は [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その10
  •  連休明けの学校。 一学年上の先輩みすずから聞いた話が、心の重しとなり、みゆの登校をはばんだ。 知らない方が良かったと思うが、もうもとには戻れない。 みゆはなかなか登校する気にならず、ぬいぐるみを抱きしめ、ベッドの上にいた。 「みゆ、どうしたの。学校に間にあわなくなるわよ」  母の菜月がドアをトントンたたいた。 「ああ、ママ。ごめんね。今、いそいで仕度するから。寝坊しちゃった」 「ゆうべ、もっと早 [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その9
  •  「ほら、下りるんだよ、みゆ」 威勢のいいみすずの声に、みゆは、はっとして、それまで上体をあずけていたドアから、離れた。 「もう着いたんですね。深い地下を走ってると、今、自分がどこにいるか見当がつかないですね」 みすずは、ふふっと笑い、 「そんなことないよ。科学が発達してるからだいじょうぶ。正確な位置がちゃんとわかるようになってるよ。もっとも、ここじゃ平日の昼間は一千三百万くらい人がいるらしいから [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その8
  •  突然、みゆの手をつかんだ男が、ぎゃっと叫び、ホームにころがった。 彼の股間を両手で押さえ、うんうんうめきはじめた。 「いったい、どうしちゃたのよ」 彼に何が起きたんだろうと、みゆはあたりを見まわすが、かいもく見当がつかない。 彼が自分を拉致しようとしたことさえ忘れ、てしまい、 「あのう、どうしたんですか」 と、本気で、彼のからだを心配するしまつである。 「もういやだな、みゆは。ほら、あたしだって [続きを読む]
  • みゆ、十五歳。 その7
  •  みすずの話はそれきりで、彼女はうつむくと黙りこんでしまった。 ふたりの間に、白けた雰囲気が生じた。 みゆは、にがわらいを浮かべ、 「わたし、ばかみたいでしょ」 と言った。 そのあとの言葉をだそうにも、なんと言ったらいいか、わからない。 偶然にしては出来すぎてる、なんで、なんで、パン屋にいたあの人がS女子高生だったの?。 みゆは、心の中で、悲痛な叫び声をあげた。 「そのことは、あとで考えましょ。あ [続きを読む]