チビでノロマ、泣き虫…そんなDがサッカー部1年生GKに告白された?!嬉し恥ずかし青春恋愛友情物語
私、D・エリザベス、中1女子。 勉強も部活も出来て、 背が高くて優しくて… そんなトクちゃんがなんで私を? 『恋の三角関係』『中学生のキス?』 『中間テストを中止しろ』 『ミス四つ葉』毎日の学校生活はハチャメチャ
渋い煎茶色の着物の おばあさん、 近づいてみると 私より背が低く 小柄だった。 「オハルばーさん、 Dちゃんを 連れてきましたよ」 オハルばーさん? アオイ先輩のお父さんは おばあさんを見て
時代劇の武家屋敷に 出て来るような木戸が 開くと和服姿の小さな おばあさんが出てきた。 「あぁ…やっぱり 待ち構えてたな…」 アオイ先輩のお父さんの 苦笑い…嫌な予感しか しないんですけど! 渋
アオイ邸に あっという間に到着。 海からの帰り道、 田んぼが広がる だるまや文具からの 長い坂道。 たくさんの車が 走り抜ける いつもの国道。 いつも渡っている 思い出がたくさんある 歩道橋。
車内に入ると 異様に暖かく 感じられた。 冷たい海の風に 鍛えられて 私の頬は 氷のように冷たく 板氷のように 固くなっている。 アオイ先輩のお父さんは 運転席の方へ回り込む。 途中、 海から吹
「ちょっと 外の空気吸う?」 「あ… はい…」 車のドアを開けようと ドアノブに手をかけ 乗り出すと 「あ、待って」 素早くアオイ先輩のお父さんが 先に外に出る。 冷たくて 凶暴な冬の海風
ヒトは いくつになっても 恋愛する もんなんだ。 女の子も… 男の子も… 結婚してても… 結婚した後でも… おばあさんでも… おじいさんでも… ヒトによるのかしら? でも… もし… 私のお母さんが? 私
「アオイ先輩、 それ聞いてなんて?」 灰色の冬の荒波の中に 何人かのサーファーが 等間隔に挑んでいるのが 車窓から見える。 アオイ先輩のお父さんは それを横目に眺めながら 真っ直ぐな海岸線にそっ
「ソウタがね… 女の子の話するの めずらしくてね…」 冬の荒々しい波が 海岸に打ち寄せるのを 横目にアオイ先輩のお父さんが ポツリと話し出す。 「Dちゃんの話を するんだ… 夏休み明け頃かな…
「私が『応援する』って どういう意味です?」 私は アオイ先輩のお父さんが 握るハンドルを 見つめたまま話す。 何だかその先を聞くのが 怖いけれど…。 「うん… 僕とサキコさんの仲を 応援して
「今度は Dちゃんの話 聞きたい!」 アオイ先輩のお父さんの声が弾む。 「は?」 「食事会の時に まるでユズルくんとDちゃんの 『婚約発表会見』みたいに なっちゃってたよね? あれ、
「あのぉ… トクちゃんと 会ったのは… 少年サッカーのコーチ だった…とか?」 アオイ先輩のお父さんの 勢いに飲み込まれそう… もう少し雰囲気を変えたい。 「あ…あぁ… そうそう! レストラ
車内の暖房の効きが悪くて助かる。 少しばかり寒いくらいが 緊張で火照った身体に ちょうどいい。 「僕はね、 『アオイ造園』の社長だった じいさんに反抗して 若い時… 家を飛び出したんだ」
交差点の赤信号… グヅングヅンという エンジン音と振動だけが 車内に響いている。 「Dちゃんを うちのゴタゴタに 巻き込んでしまって 申し訳ないと 思ってる…」 アオイ先輩のお父さんの声が
「この車、 古くて乗り心地 悪いでしょ? ごめんね」 ゔうっ!! 方向指示器が 古めかしい音と 感じてたのがバレたか? 「そっ!そんな事… ないです…」 慌てて返事して 余計に怪しい私。
アオイ先輩のお父さんの コロンとした黄色い車は 少しだけくすぶったような エンジン音を上げて 出発した。 「ごめんねぇ… 遅くなっちゃって… この辺の住宅街って どこの曲がり角も 同じに見えて
「Ⅾ、まだ、 迎え来ないの?」 玄関先から母親が出てきた。 私と母親は 多分、そこから アオイ先輩のお父さんが やってくるであろう 道の角を見つめる。 「うん…」 「やっぱり お母さんが
ブルゾンのお守り。 それは… お食事会の夜、 タクシーで家まで 送ってもらった時に さかのぼる。 「ありがとうございました」 タクシーの後部ドアが開くと ドア側のトクちゃんが 一度、外に出る
とうとう冬休みが始まった。 私は身支度を整えて 玄関先に立っている。 な、な、なんと! アオイ先輩のお父さんが 私を迎えに来てくれる事に なっている。 おかしくね? 昨晩、おじいさんから 電話
「俺、お袋の顔、 当たり前だけどさ、 憶えてねぇんだよね…」 アオイ先輩は もう一度 タクシーの窓の外を見やる。 吐息で窓ガラスが曇った。 そっか… そうだよね…。 トクちゃんも お父さんの顔
私たちを乗せたタクシーは いつもの通学路に やってくる。 いつも通る国道なのに 違う道に見えてしまう。 「あの… アオイ先輩のお父さんって お仕事何してるんです?」 雰囲気を変えるのだ!
「ほんっと! 勝手だよな… 俺らの親って…」 アオイ先輩が ポツリともらすと 吐息だか?ため息だか?が タクシーの窓ガラスを 曇らせる。 曇ったガラスの向こうに 街路樹のクリスマスイルミネーショ
帰りのタクシーの中。 後部座席に アオイ先輩、 真ん中に私、 乗り込んだドア側に トクちゃん。 アオイ先輩は 外に出る時に 紺色の羽織を羽織って ますます、 その格好が 様になっている。 …が、
「あ…」 トクちゃんのお母さんは 私と目が合うと微笑む。 まるで薔薇のつぼみが パアッと開くように 輝いて見える。 目元や鼻筋が トクちゃんと そっくり…。 私が カメラのシャッターを 切られる瞬
お食事会が終わった。 お造りの後に続いた 焼き物、揚げ物、 美味しくいただいた。 でも、緊張して あまり記憶にない。 残念…。 食事の最後に出てきた イチゴがとっても甘くて 少しだけ気持ちが和んだ
私とトクちゃん 一緒の家になるの?? あ…それから アオイ先輩もか…。 「お前… 俺と一緒の家っての 忘れてたろ?」 アオイ先輩が やぶにらみに にらんでくる。 ドキッ!! 「はあ… すっ
ビックリして 口に運ぼうとした お刺身のマグロを 落っことしそうになる。 それは隣にいる トクちゃんも 同じらしかった。 「は? 親父、いきなり 何言ってんの? トクちゃんたちと 俺ら、一
ふわりと 香水の香りが 広がる。 デパート一階の香りだ。 トクちゃんのお母さんから 香り立つ香水の香りだ。 「あのっ…」 トクちゃんのお母さんが 何か話し始めようとした。 「サキコさんっ、
気持ちがあふれてくると 涙も一緒になる。 歪んだ視界に 横からハンカチが 差し出される。 トクちゃんが 泣きそうになる 私に気づいてくれたようだ。 「ごめん…」 本当は 涙と一緒に出てきた 鼻
私とトクちゃんの 瞳にはお互いの顔が 映っている。 そこから 上座のおじいさん、 その向かいの アオイ先輩のお父さん、 トクちゃんのお母さん、 アオイ先輩の方へ 視線を移す。 「私、 トクちゃん
「部活の時に 見惚れちゃってたのは 本当です…」 えっ?? トクちゃん、 そんな昔の話… って言っても 1学期の初めの話だけど… 始めちゃうの? 「初めは 全校朝礼や 学年集会の時に 6組に
私がムキになるのに アオイ先輩が ケラケラ笑う。 「初めに ちょっかい出したのは トクちゃんの方だよ」 アオイ先輩… ナイスフォロー! え? ちょっかい? 出した? 何か、聞こえが 悪うござ
迷い箸は行儀が悪い! 母親から そう言われていたのを 思い出す。 鴨肉の旨みを 噛みしめながら 次に何を食べようかな? と雪山を模した 白いお皿の上を 眺めていると ふと斜め正面からの 視線に気づ
「とりあえず 食事を楽しもう」 おじいさんが 運ばれてきた お料理を前に 手を合わせる。 「今日は お茶事の懐石料理とは 少し趣向を変えておるから 作法は気にせず、 気楽に食べなさい」
トクダ親子に 見惚れていて 時間が止まっていたのは 私だけだった。 気が付くと おじいさんを始め、 アオイ先輩のお父さんも アオイ先輩も トクちゃんのお母さんも トクちゃんも 私の顔をジッと見ている
ビリビリッ! 身体に電気が 走ったかと思った。 『トクダ サキコ』さん。 トクちゃんの『ママ』。 真っ赤なワンピースに 大きな真珠のイヤリング。 髪の毛は ロングのソバージュパーマ。 輝く笑顔のルージュは ワ
「さあ、Ⅾさん。 緊張しておられるようだが 紹介を始めるぞ」 おじいさんの声で 私はハッとする。 そうだ! 恥ずかしがってる 場合じゃない。 「Ⅾさんは もうとっくに 知っとるじゃろが 改めて紹介する
アオイ先輩のお父さんは アオイ先輩に 自分の席を 目で合図して 確認を取る。 「サキコさん、 どうぞ。 どうやら、 僕らが一番最後に なってしまったらしい」 サキコさん?? 心臓が制服の
正座した背筋が ピンと伸びる。 トクちゃんの横顔を見ると トクちゃんの表情も キリっとしている。 「遅くなりました」 男の人の声。 これはきっと アオイ先輩の お父さんの声だ。 背後の 金色の
「申し訳ないね… うちのゴタゴタに 巻き込んでしまって」 一息ついた おじいさんが しょんぼりとした声を 出すので 私は首を横に振る。 「そんな事っ… ないです…」 首を振った反動で あごの
「こっ、こんばんわ」 私の声は 緊張と驚きで 上ずった。 「おう、 来たな… あれ?Ⅾ、お前、 あご、どしたの?」 和服姿のアオイ先輩?!が ニヤリとする。 「こっ、これは 部活の時に ヘッドスライデ
金色のふすまの奥から 聴こえるおじいさんの声。 グッと緊張の汗が噴き出す。 「失礼します」 トクちゃんが 先に踏み込む。 それに私も続く。 あぁぁ、 緊張で心臓が破裂しそう。 部屋の中は
建物の中に 軒先がある? その部屋は 離れになっていて 特別な部屋なのだと すぐわかった。 仲居さんは 渡り橋の先の 飛び石を なれた足取りで進んで 私とトクちゃんを 案内する。 「お連れの方が
きっと この感動は 忘れない。 時代劇映画の セットにでも 迷い込んだよう… いやいや、 映画のセットじゃないわ。 タイムスリップで 明治時代に やってきたみたい。 和服姿の仲居さんの後に つ
「いらっしゃいませ。 お待ちしておりました。 どうぞ、お上がりください」 仲居さんは 三つ指を立てて お辞儀した。 「失礼します」 緊張気味の 私とトクちゃんは 靴を脱いで 上がりかまちへ
冬の夕暮れの風が 足元を吹き抜けると タイツを履いてない 膝っこぞうが キリキリと痛い。 その冷たさのせいか? 一歩踏み出せず 立ち止まったままで 料亭「今之浦」の 看板を見つめるだけ しかできない
陽気なタクシーの おじさんのおかげか? はたまた、 トクちゃんの話術? のおかげか? 緊張している暇もなく あっという間に 料亭まで到着した。 トクちゃんは ポケットから 乗車料金を 支払うと 丁寧
玄関先で見送りを してくれる母親に 手を振ると タクシーは 進みだす。 「今どきの子は タクシーでデートなんざ、 おませだねぇ! その子 お前さんのカノジョ?」 タクシーのおじさんは ルー
母親は まだ私に 「汁椀を持つ時は…」 「ナプキンの使い方は…」 とブツブツ言っていたけれど 私の気分は食事のマナー どころじゃなく、 トクちゃんのお母さんは どんな人なんだろう? アオイ先輩のお父さん
玄関まで 忙しなく 駆け込むと 母親とトクちゃんが 話していた。 「あ、 Ⅾちゃん…」 「トクちゃん、 お待たせっ!」 「Ⅾ、ハンカチ持った?」 母親が 差し出すハンカチを 受け取る。 私
家に帰ると 私のあごの傷に 母親が悲鳴を上げる。 前は目に ボールを当てて お岩さんみたいに 目の上が腫れたけれど 今度はあご?!って 叱られる。 「そんな顔で…」 呆れたようだけれど、 気持ち
不覚…。 やっぱり 張り切り過ぎたら ドジをする。 「…」 校門の角で 出くわしたトクちゃんは 絶句。 「まったく ドン臭いな。 大事な食事会の日に 顔にケガすんだぜ」 カホがケラケラ笑
「ナイスファイトッ!!」 ソフトボール部員の 声がグラウンドに響く。 「残念!Ⅾ、アウト!」 キャッチャー、サリの 声もグラウンドに響く。 やっぱり こうなるんだよね…私。 一塁ベースに 懸命
守備で 失敗したので 攻撃では 挽回したいっ! なんて 張り切ったのが 良くなかった。 紅白戦形式で 左バッターボックスに 立った私は マウンドのカホが ウインドミルで 腕を回転させる タイミング
土曜日の午後の 部活動は 平日と比べて長い。 4時間もある。 女子ソフトボール部 顧問のシオカワ先生の 指導も平日よりさらに 厳しくなるわけで…。 ノックしてくる打球が 右へ左へ襲い掛かってくる。
お食事会の日が やってきてしまった…。 授業も部活も ソワソワ… 上の空。 「Ⅾ、Ⅾ…おい、 当てられてっぞ」 英語の授業中に 日本語訳を 当てられてたようで 隣に座る男子に 腕をつつかれて ハッ
「土曜日の 食事会な… トクちゃんが タクシーで迎えに 行くから家で待っとけ」 アオイ先輩は それだけ言って 教室に戻っていった。 もう気持ちが テストから 食事会に シフトチェンジ して
昼休みの中庭。 でも… 最近はさすがに 冷たい木枯らしが タイツを 履いてない 素足には 刺さるようで 痛い。 「寒みぃ…」 基本的に カホは薄着だ。 「なんで 学校指定の カーディガンを
「僕は 素直に なれなくて…」 トクちゃんが 机の隅にある マグカップを 手に取る。 母親が 淹れてくれた ミルクココア とっくに 冷めているだろう。 「何か あったの?」 私は トクち
期末テスト って大変!! 範囲も広い。 「Ⅾちゃん、 僕の予想、 ここ、この問題、 絶対、出るよ」 トクちゃんと うちの客間で 勉強してる。 四畳半の 和室なんだけど 一応、床の間と 違
国道に続く まっすぐな 長い長い 下り坂。 テスト期間中で 部活はなく 一斉下校の中。 私とトクちゃん、 カホとスズキで 歩いている。 タカギくんと シライさんは アオイ先輩を 連行して?? 一
一年生に 責められる 三年生の図? 自分の立場を わすれて 妙な 組み合わせに 笑えてくる。 「内申点は 気にして おられない ようですが アオイ先輩だって テストは 受けるんでしょ?
「このチャンス、 きちんと 勉強したいと 思いますっ!」 思わず 声に力が入った。 私の気合いが アオイ先輩に 届いたか? 「何だか 面白くなって きやがったなっ」 アオイ先輩の わ
「悪かったな…」 昼休み、 中庭の大きな ツツジの木の前、 アオイ先輩が ポツリと言う。 「いつから 知ってたんです?」 私は責める口調になった。 「いやぁ… じいさんが やたらにDの事 朝めしはパンか
「お姉ぇちゃーん! トクちゃん、 待ってるよぉ!」 次の朝、 父親に言われて 新聞を玄関先に 取りに行った 弟がトクちゃんと 会ったらしい。 「ちょっと! そんな大声 出さなくても いい
お酒が 入って 上機嫌の父は アオイさん家族との お食事会に 私が招待されている事を 言うと二つ返事で 「行ってこい」と言った。 気楽だな…。 トクちゃん親子も 一緒なんだけれど そこまで 説明す
父親が 晩酌を 始め出したので 部屋を出る。 台所で 酒の肴を 準備している 母親に愚痴を 言ってみる事にする。 「お母さん、 私がアオイさん家に 行く話聞いてるでしょ?」 「はいはい、
わっ?わっ? 私が?! アオイさん家で 茶道の修行?! 「ええぇっ?! なんで お父さん? アオイさんの おじいさんと 知り合いなのっ?!」 私は ソファから 立ち上がる。 部活帰りの
リビングのソファ、 いつもの指定席に 父親が ドカッと座る。 恐る恐る その向かいに 座る。 「今日は 帰ってくるの 早いんだね」 「ああ、 ちょっと 急ぎで お前の返事 聞かなあか
トクちゃんは 最後まで 申し訳なさそうにして 帰っていった。 私だって ご要望に 応えたいけれど、 トクちゃんと アオイ先輩の 家族の中に 割って入るのは いかがなものか? と悩む。 それに 食事
「お父さん、 最初から 僕ん家には いないんだ。 僕、 お父さん、 知らないんだ」 いきなり トクちゃんが 秘密を明かすから どう反応していいのか? 「え…そ、そうなの」 「ごめんっ
歩道橋を降りた後の 私とトクちゃんの 足取りはゆっくりだ。 トクちゃんの 複雑な思いを 思うと、 どう声を かければいいやら…。 家の近くの コンビニまで やってきた時、 トクちゃんが 口を開く。
すっかり 日が暮れ、 辺りが薄暗く、 ラベンダー色だった空が 濃くなってきた。 「もう遅いから 解散しよう!」 タカギくんが 解散宣言する。 「なんで お前が 仕切ってんだよ?」 カホが
「アオイさんが 今度の食事会 Ⅾちゃんも呼べって… おじいさんに 気に入られてるし、 お母さんにも Ⅾちゃんの話、 よくしてるから 緩和剤になるって」 トクちゃんは ショボショボに し
国道をまたぐ 歩道橋の上に 吹きつける風は 容赦なく、 私たち部活帰りの 疲れた体に 追い打ちをかける。 でも、 トクちゃんの 突拍子のない申し出で その疲れが吹っ飛んだ。 「食事会って トクち
「おい、おい、 お前ら、 どうしたよ?!」 スズキとカホに 追い付いた。 私の異様な 張り手攻撃と それに押し出される トクちゃんを見て 二人とも目が点。 「新しい トレーニング法 です
拝むような目で 見つめられると おっかなくて 固まってしまう。 「Dちゃんっ!」 おいおい、 声が大きいよ、 トクちゃん。 「なっ、何っ?!」 「土曜日の夜 僕につきあって 欲しいんだっ!
「へへへ… 僕もDちゃんに 相談があって…」 トクちゃんの これまた 怪しい笑み…。 私たちの後から どんどん 下校する 生徒が 追い抜いていく。 私たちの 歩く速度は かたつむりくらい 遅い
「聞いてる? Dちゃん?」 自己保身で いっぱいの頭の中に トクちゃんの声が コンコンと ノックするように 入ってくる。 「あ… ごめん… 考え事してて 聞いてなかった」 私は真っ直ぐ 国
部活帰り。 正門から 国道に伸びる 真っ直ぐな 下り坂。 引退した 三年生はいない。 二年生と 一年生だけの下校。 慣れてきたとはいえ、 やっぱり、 二年生の先輩には 気を遣う。 生意気な一年
「おい、Ⅾ、 お前、朝は パン派か?めし派か?」 「あ、それから、 足袋…じゃねえ… 足の大きさは?」 アオイ先輩は 唐突に聞いてくる。 「は?」 気が動転するのと あまりに唐突なので
ジャイアントキリング、 八百長試合、 違法賭博、 サイトー兄弟と その一味の 非行行為… もう犯罪だよね、 その一件は 地元新聞に チョコっと載った。 少年A、少年B、 というぐらいで 学校名や住所なんて 表ざた
私、 Ⅾ・エリザベスは ちょっと前に 2年生の先輩に ほぼ無理やり 連れて行かれて 使われてない 古い工場で 男の人たちに 乱暴されそうに なった…。 それから 立ち直った はずなのに 時々、 記憶の
「おねえちゃん、 トクちゃん、 来てるよぉ」 弟が玄関先で 叫ぶのに 急いで 歯磨きコップの水を 口にかきこむ。 しっかり 口をゆすいだら、 洗面所から 駆け足で 飛び出す。 カバンをつかみ
フラッシュバック… 錆びて、 シンナー臭くて、 薄暗くて、 古びたタイヤや 使わなくなった工具が 雑多に さらされたままの 工場跡。 逆光で見えない 男の人たちの影。 下卑た笑い声。 覆いかぶ
杉やヒノキ、 アオイ邸の玄関先、 森林浴をしているように 深呼吸してしまう。 「お世話に なりました」 トクちゃんが ぺこりと 頭を下げる。 いつでもそう… トクちゃんの 礼儀正しさには 関心
「安心しろ、D。 サイトー兄弟は この街に戻ってくる 事はねえ… ヤミ賭博、婦女暴行、 他にも余罪は いくらでもある。 二度と この街には 戻ってこれねえ」 アオイ先輩は 優しい目
私とアオイ先輩の やり取りを 皆が見ている。 トクちゃんの 誤解も解きたい。 「本当に 何もなかったんで… 謝らないでくだっ」 私は正座から 立ち上がろうと 足首に力を 入れたけれど 力が入
このじじ・孫は ただ者じゃない! 本当に 時代劇に出て来る 悪を成敗し、 弱きを助ける 快刀乱麻、 正義の味方だ。 「だから…よ」 あ然としている 私にアオイ先輩は いきなり 頭を下げる。 「
アオイ先輩は あぐらをかいた 膝を組み直す。 そして、 ギラギラ光る眼を 真っ直ぐにした。 「俺は じいさんの 言うような 良いもんじゃねえ。 ただ、 許せねえんだ。 真面目にやってる
「街の不届き者共が サッカーを食い物に 悪事を働いとると」 何だか 時代劇みたいな 言い回しだけれど その通りなのだ。 アオイ先輩が 小さくうなずいた。 「そう… 話は戻るけどよ、 夏休み明けの
おじいさんの お茶室に 皆、移動した。 私は 目が覚めた時より 意識もハッキリして 立ち上がれるように なっていた。 私がまだ ショック状態で 男に人に 触られたくないと 思ったのか? トクちゃんは 黙っていた。
「私、 本当に 何にもなかったし」 もう一度、 念を押すように 私の口から 言葉が飛び出す。 トクちゃんは 倒れたふすまから むくりと起き上がって 私のそばまで やってくる。 「わかったよ…
「ドッターン!!」 屋敷中に大きな音が響いた。 「あわわ…」 私は倒れた トクちゃんとふすまの 向こうにすっかり 開けた景色、 きれいな日本庭園を見て、 事の恐ろしさに 震えた。 「Dちゃん、
「待ってっ!」 運動神経ゼロ なはずの私。 反射神経とは? 心と身体とは 反比例に 動けるものなのだ。 「すがる」 「足にすがる」 というのは こういう光景を 言うのだ。 私はとっさに ト
トクちゃんに 少し触られただけで ビックリしちゃう 私の体。 沈黙。 私、 サイトウさんたちに 襲われそうになったから それで男の人に 体が拒否反応?! うそ~っ!! 何とか 肘をついて 起き
まぶたを開けたら 天井が見えた。 杉の木目が見える天井。 私の部屋じゃない。 あれ…? おばあちゃん家? 違う…旅館? そっか…まだ夢の中か。 家族で温泉旅館に来てる夢? 「目が覚めた?」 ん? この声? 杉の
「サイトウさん、 すごく怖かった。 腕を…ここ…ギュッとつかまれて 連行されて、裏山から抜け道通って 学校の下の街に連れて行かれて」 私はサイトウさんに つかまれた二の腕を さすった。 つかま
「ゲスな遊びぃ?」 スズキはカホと顔を合わせる。 カホはピンと顔つきが変わった。 「あいつら、 もう使ってない 工場の小屋に オンナさらってきて 遊んでたんだ…」 一同しんとなる。
「スパイは ナンコーのサイトーの そばにいたんですか? それとも、四つ葉中に?」 トクちゃんが アオイ先輩をじっと見つめる。 「ああ… 両方、二人いた。 俺は試合のたびに スパイから情
「トトカルチョを始めた頃は まだ、八百長試合は してなかった。 ただ、上がり…儲けが 少ない日は上納金が 間に合わない… そこで八百長試合を 企てたんだ。 弟がいる四つ葉中は 市内でも
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