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Fish On The Boat https://blog.goo.ne.jp/mask555

本や映画のレビューや、いろいろな考え事の切れ端を記事にしています。

本や映画のレビュー中心。「生きやすい世の中へ」をメインテーマとして、いろいろな考察、考え事を不定期記事しています。

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2014/07/08

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  • 『方法序説』

    読書。『方法序説』ルネ・デカルト山田弘明訳を読んだ。世界でもっとも読まれている哲学書とも言われる、デカルト初期の代表著作です。デカルトの生きた時代は、日本で言えば江戸時代の初期のころです。全6部構成。本書のはじめは、デカルトの自伝的叙述になっています。そこで、「書を捨て旅に出る」ことの大切さが、デカルト自らの経験から語られますが、世間の実態に触れて学ぶという意味では、大きく言うと社会学のススメとも言えるのではないか、と思えました。象牙の塔となるな、ということでもあります。かつて戯曲家・寺山修司にも「書を捨てよ、街に出よう」という言葉があり、デカルトに共感しての言葉だったのかもしれないですね。速断や偏見には厳重に注意せよ、とデカルトは言います。問題を解くためにはそれがまず大事だと。そうした仕事をやり遂げるた...『方法序説』

  • あとがきとして。

    本作は、2023年5月15日から設定などを作り始め、執筆に移り、推敲を終え完成したのが9月15日でした。あしかけ4か月の仕事です。その間、家庭問題の説明資料づくりにあらたな1万字を書き、何度か役所などとの面談もありましたし、今思えば笑ってしまいますが国際ロマンス詐欺に10日前後巻き込まれてもいました。例年以上に暑かった夏にはパート労働をしましたが、やっぱり家庭が落ち着かないなかでは続けていくのがむずしく、1週間ほどでリタイアしました。体調面ではずっと胃薬を手放せなかったので、本作品の主人公にもそういった影響が出たのだと思います。執筆は、朝方3~5時の間に起床して7時前まで、というスタイルになっていき後半二カ月半くらいは定着していたと思います。毎日は書けず、早朝に起きても読書に時間を費やすなどの日も多くあり...あとがきとして。

  • 『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』 第五話(完結)

    *毎夜の悪夢のその途中で目が覚めた。罪の意識そのものよりも、この罪を隠し通さねばらないその重苦しさが堪えた。罪を贖うために、自分のこれからの人生の自由を放棄することにこそ耐えられない。だから、罪を告白して裁かれるか、無理をしてでも逃れ続けるか、という選択肢に、前者を選ぶなんてできないのだった。目が覚めると、罪の気配はすうっと去っていく。そのちろちろとうごめく尻尾の先だけは少しだけ確認できるくらいにして。だが今回はそれとは別に、こちらへ押し寄せてくるものがあった。永遠に思い出したくない記憶だった。スナッフビデオ。二十歳かそこらだったと思う。佳苗と出会うよりも少し前のことだ。フェイクビデオだった可能性もある。白黒の動画で、ドットが粗かった。でも、胃液がせりあがってきてしまうほど真に迫っていた。喉を掻き切られた...『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』第五話(完結)

  • 『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』 第四話

    *そんな出来事のあった日の夜でも、意識を席巻するあの夢は容赦なかった。僕は人を殺めてしまった想いに、やはり苛(さいな)んでいた。無条件にそんな夢の中へと放り込まれる。自分が罪を犯したときの記憶はなかった。具体的に思い出せることはなにも無いのだ。にもかかわらず、自責の念と、取り返しのつかないことをしたという想いだけが胸に充満し、全身を脱力させる。将来への希望は塵となり風のひと吹きで消え去ってしまう。そのあとすぐに無風状態の時間が訪れるのだけれど、その時間が表現しているものがまさになんら混じりけのない絶望というやつで、それはたった数十秒のワンシーンのたかだか五分の一を観ただけでも、無理やり泣かせようとしてきているのがわかるベタなドラマくらいわかりやすくそこに存在していて、心底嫌になった。何日か経った平日の休み...『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』第四話

  • 『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』 第三話

    車中ではまず、牧さんと自己紹介をしあった。牧さんは一月に六十九歳になり、仕事は数年前までコンビニのオーナー兼店長を務めていたそうだ。もともと自営業だった自分の小さな酒屋を二十数年前にフランチャイズのコンビニにし、今は息子夫婦に経営を譲っているのだ、と。顔なじみの客の多いまずまず安定した利益の出ている店で、このご時世でも安泰なほうらしい。自己紹介が僕の番になり、スーパーの従業員をやっていることを教えると、同じ商売だね、と牧さんの顔はほころんでいた。何年目なんですか?と聞かれて、二年目になったばかりです、と答えた。その前はどんな仕事をされていたのですか?とさらに聞かれた。「Uターンするまでは札幌に居たんです。いくつかの職には就きましたが、目立った職歴はありません」正直にすらすらと出た。職歴の無いことを見下すな...『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』第三話

  • 『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』 第二話

    *夕飯はとうに済み、両親と三人分の食器洗いを終えて風呂にも入り、上りしなの風呂掃除もやり終えて、Tシャツと下着という恰好で自室の布団に寝そべっていた。かつて、どれだけの闇を知っているか、で他人と張り合おうとしていた時期があった。スマホのニュースアプリの画面を眺めながら、それとはまったく関係なく大学生の頃を思い出していた。悪友というべき二人の男と僕はつるんでいて、彼らとだけは張り合っていたのだ。彼らはその後、どのような人間になっただろうか。それにしても、瑤子が僕をピーターパン・シンドロームと見なしていただなんて、実に心外だった。外からはそういうふうに見えてしまうらしい。ネット世界からの闇の見聞が多かっただけで、まともな社会経験の乏しい、おそらく世間離れしているに違いない自分が、他者からどう見られている存在な...『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』第二話

  • 『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』 第一話

    晴れ渡り、空気の澄んだすばらしい朝でも、今日一日つまづくことはない、と約束されたわけではない。坪野老人に呼び止められて、しまった、の心の声が顔に出てしまった。振り向く自分の右頬が軽く引き攣ったのだ。たぶんまた昔のことを尋ねられてしまう。正直に話すとややこしくなる僕の暗部を、どうやら坪野さんはその憎たらしい嗅覚で探り当てているらしかった。きまって気安く、好奇心だけでずいずいと踏み込んでくるのが坪野さんだ。僕という藪に蛇はいない、とあっさり決めつけているかのように。完全になめられているんだよなあと思いつつも、ただそうやって安牌扱いされているがための心理的な組みやすさはあった。まず、頼み事はされない。いわゆる味噌っかす扱いなのだ。でも、そうではあるのだけど、坪野さんを僕はやっぱり苦手としていた。年齢はたしか七十...『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』第一話

  • 文學界落選

    『文學界4月号』を確認したわけではないのですが、新人賞には落選したようです。応募作『陽だまりのこちら、暗がりのとなり』を、本ブログに分割してアップします。Wordで46587文字の分量なので、5~6分割になります。落選作ですが、読んでくださるとうれしいです。それでは、明朝よりはじめます。文學界落選

  • 『ハンチバック』

    読書。『ハンチバック』市川沙央を読んだ。第169回芥川賞受賞作で、作家のデビュー作です。背骨が右肺を押し潰すようなかたちで湾曲しているせむし(ハンチバック)の要介護中年女性・井沢釈華が主人公。人工呼吸器も入浴介助も必要な人です。彼女は零細ツイッターアカウントで、零細であるがゆえに大胆なツイートをしています。「普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢です」などがそう。読んでいて面白かった表現や描写は多かったです。たとえば会話を、長調、短調、そして無調と表現するだとか。また、「愛のテープは違法」事件って初めて知った事柄でした。視覚障がい者の方たちでも本が読めるようにという配慮として音読が録音されたテープを貸し出したことが、著作権違反になるとされたらしいです。そして、それが押し通されたのでした。障...『ハンチバック』

  • 『競馬の世界史』

    読書。『競馬の世界史』本村凌二を読んだ。サラブレッド誕生前夜どころか紀元前の競馬事情から2015年までの、日本を含めた世界の競馬の歴史を、総合的にたどっていく本。競馬の逸話がふんだんにちりばめられている本です。それこそ「名馬とは記憶に残る競走馬」のテーゼがあるとしたらそれにしたがって、記憶に強烈に残るからこその競走馬そして競馬、というその魅力をさまざまなエピソードから伝えてくれています。本書プロローグで触れられているデットーリ騎手による一日の総レースである7戦を全勝した出来事(マグニフィセント・セブン)を僕は知らなくて、レジェンドたるところのひとつの究極的達成がこういうことだったのか、とこれまで見つからなかったパズルのピースが思いもかけないところから出てきた、みたいな満足感を得るトピックでした。今や名手・...『競馬の世界史』

  • 自己犠牲試論。

    昨日とあるサイトで、齋藤飛鳥さんが自己犠牲について語っているインタビューを読んだことがきっかけで、それからずっと自己犠牲について考えていた。元乃木坂46の齋藤飛鳥さんは、大江健三郎や阿部公房などの骨太な純文学作品を読み倒すような方だ。もちろん、主なお仕事としての多忙なアイドルグループ活動の経験をお持ちだし、彼女だからこその色濃い精神活動をなされてきた方だろうなあ、という印象を僕は持っている。自己犠牲。他者のために、自らの時間や命など、自分にとって大切なものを相手に捧げるように使うこと。僕自身、在宅介護に携わっていて、他人事ではない行為であり、重くるしく感じる言葉だ。自己犠牲を考えていくと、「二種類あるな」とまず思いついた。ひとつは、会社や組織、グループ、社会などのための自己犠牲。もうひとつは、他者個人のた...自己犠牲試論。

  • 『話す力』

    読書。『話す力』イノベーションクラブを読んだ。ビジネス面でのコミュニケーションに役立つ能力のひとつ、「話す力」の基本スキルをシンプルに教えてくれる本です。「1対1でも何を話していいかわからない」「話せるけどわかりにくい」といった初心者の方から、「相手の反応に合わせて話し方を変えられる」中級者を経て、そして「相手を共感・納得させられる」上級者にとってのおさらいまで、ほぼオールレンジの指南書でした。文字はかなり少なく、すいすい読めていってしまう快感もあいまって、楽しく学べると思います(ただ、話しが得意ではない理由が、緊張やあがり症であった場合は、本書の範囲ではなく、また別の処方箋を頼る必要があります)。本書では、話す力の大筋に沿って、「シンプルしかけ」という簡単に行えるスキルもいくつか収録されています。これが...『話す力』

  • 『グランド・フィナーレ』

    読書。『グランド・フィナーレ』阿部和重を読んだ。第132回芥川賞受賞作。芥川賞作品だけれど、これ、売れなかったん違うだろうかと思いながら中盤まで読みました。なにせ、主人公がどうしようもないロリコン(実際に犯罪レベル)でDV加害者で薬物をやってたりする。世間からは視野の外に置かれるに違いない、恥ずかしい男を直視しないといけない作品だったからです。こういう作品を読むと、なんのために小説を書き、そして読むのか、読まれるのかという問いが急襲してきます。作品はフィクションではありますが、現実で生きる感覚を失くさずに読書に挑めば、多くの人たちが嫌悪感を感じざるを得ないのではないか、と推察される。自分の気持ちや、僕の想像の範囲内での他者たちの反応を考えて言うことではあるのだけれど、なぜ皆、反射的にこういう男を見ないよう...『グランド・フィナーレ』

  • 『くもをさがす』

    読書。『くもをさがす』西加奈子を読んだ。直木賞作家・西加奈子さんが、コロナ禍のあいだに乳がんに罹患しました。その治療の日々の、記録だけにとどまらないエッセイです。ご自身の気持ちの揺れを隠さず綴っておられます。体調の悪さにひきずられて精神面も沈んでいく日々がある。それでももちろんユーモアを忘れることなく、ときに看護師たちの言動などに大笑いもしている。がんという重い病気に罹患することで、心境はぐらりと変わるし、人生観も変わっていく。そうすると、見えているもの聞こえているものへの解釈も、また以前とは違うものになったりする。抗がん剤や放射線治療がこれほど大変なのだとは、恥ずかしながら知りませんでした。様々な恐怖や大変さが人生には必ずくっついてくるものだけれど、病気や薬によって身体が変化していき、そこに死の影が感じ...『くもをさがす』

  • もっと過ごしやすいX(旧ツイッター)の案

    誹謗中傷の投稿、いじわるな投稿、攻撃性が強い投稿、追いつめる投稿などなど、SNSにはダークな面がある。もっと過ごしやすいX(旧ツイッター)を望む人がどうやら多いようなので、雑ではあるけれどアイデアだけ言ってみる。上位Xをまず作る。そこは、下位X(今のX)でたとえば5000ツイート以上した人のツイートをAIが分析して合格したら登録できる場所。AIには誹謗中傷や暴力的なポストはないかだとか考慮してもらう。ポスト削除数の多寡も大切な要素だ。下位から上位にあがるためのAI診断は某アイドルグループのオーディションみたいに数年に一度とする。このような関門を設けることで、一定の品性というか常識というかリテラシーというか、そういったものをあまりに持たない者に、「もうすこし精進してから挑戦してみてください」と敷居をまたがせ...もっと過ごしやすいX(旧ツイッター)の案

  • ネットアングラ体験記 in 2000

    遠い昔。この国の遥か果ての大きな都市、札幌の地で。学生の頃、高価だったグラフィックソフトなどのソフトウェアがネットで拾えてなおかつそのシリアルナンバーも手に入れられた。アングラだったのだろう。中には、使ってみるとちょっと不具合のあるソフトもあった。今思うと、提供側がなにかをいじっていたのかな、と思う。2000年前後の時代だ。僕のアングラ体験。きっかけはこうだった。当時僕が夢中だったアイドル・Mを、同様に好きな人とネットで知り合い、その人がそのアイドル・Mのファンサイトをこれから作るにあたって、そのアイドル・Mが出演しているCM曲を僕が耳コピーして作ったMIDIファイルを使いたい、という話があった。いつもWEBやIRCソフトでチャットしていた仲間のひとりだった。そのうち、その人からいわゆる割れ物ソフトがたく...ネットアングラ体験記in2000

  • 答えを創ろう!

    身近な人に、これから述べるような感じの人がいるから考えた。「物事には正解がある」という考え方でいると、答えが見つからないときに、「誰かが正解を知っていて、そういう人と出会えば正解を教えてもらえる」というような態度になりがちだ。たとえば「人生」なんていう難しい問題に対してもそうで、誰かに教えてもらえないと、「答えがないから考えても無駄なんだ」となるときだってある。「誰も教えてくれないし、正解が存在しないようだから考えても無駄なんだ」なんて考えは、キツい言い方かもしれないけど、甘えであり子供じみてもいると思う。答えがわからない物事に対してだって、自分なりにいろいろ考えて、ほんの一歩であっても答えを創っていくものじゃないかなあ?クリエイティブがあるかないか、はこういうところにも関係する。学校では正解ばかり求めら...答えを創ろう!

  • 『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』

    読書。『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』坂本龍一を読んだ。2023年3月28日に亡くなられた音楽家・坂本龍一さんが口述筆記によって書かれた自伝です。2009年に発刊された『音楽は自由にする』の続きに位置づけられる、最晩年の活動の様子を知ることができる一冊です。江戸時代の貴族は月を愛でて酒を嗜んでいたそうなんだ、と本書序盤で坂本さんが述べています。音楽って不愉快な思いを忘れていられる、ともある。本書の題名の『あと何回、満月を見るだろう』とそれらの発言を、僕は重ねてしまいましたね。「ぼくはあと何回、素晴らしい音楽を得ることができるだろう」みたいにだって、ちょっと強引かもしれないけれど、読めてしまうじゃないですか。坂本さんは2014年に中咽頭ガンが見つかり、それから闘病生活に入られていますが、その放射線治療の...『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』

  • 『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』

    読書。『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』町田そのこを読んだ。5つの短編が繋がっていく、連作集。著者のデビュー作です。第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作、「カメルーンの青い魚」を皮切りに、時間的にも空間的にも広がっていき、味わいが深まっていく世界でした。受賞作はもちろん面白いのだけど、その後に書いていったのであろう、その次に続いていく作品群を読んで、その受賞がさらにジャンプ台になって飛躍していったんじゃないかと思えてしまうほど、筆力も構成力も油がのっていってこちらはぐいぐい読んでいくことになり引き込まれながらたびたび、すごいな、とも思ってしまう。一作一作の構成力や仕掛けがよく考えられているし、アイデアも優れているのだけれど、連作としてその5編を通しての構成も「よく創ったなあ!」と著者の労...『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』

  • 『TRIANGLE MAGAZINE 02 日向坂46 小坂菜緒cover』

    読書。『TRIANGLEMAGAZINE02日向坂46小坂菜緒cover』小坂菜緒金村美玖正源司陽子を読んだ。日向坂46のメンバー、小坂菜緒さん、金村美玖さん、正源司陽子さんを50ページずつフィーチャーした写真集。それぞれインタビュー付きです。それぞれのメンバーのカバーがあるのですが、僕は小坂菜緒さんのバージョンにしました。本書のはじまりである小坂菜緒さんは「再会」がテーマです。旅館の一室にて、急須でお茶を入れている写真のたたずまいの美しさ。鎖骨がきれいでした。あと、表紙を同じ撮影セッションの何枚かも秀逸ですね。フリルのついた刺繍のすてきな衣装を着てらっしゃるのだけど、淡い光の加減もあいまって、幻想的非日常の時間が捉えられています。瞬間的にこの写真集の中に連れて行かれていってしまう、そんな引き寄せる強い力...『TRIANGLEMAGAZINE02日向坂46小坂菜緒cover』

  • 『新宿・歌舞伎町』

    読書。『新宿・歌舞伎町』手塚マキを読んだ。働く人も客も、新宿歌舞伎町でしか救われない人がいる。そんな歌舞伎町でグループ企業を持つ、元人気No.1ホストの著者が、歌舞伎町とはどんな街なのかを、自分の想いや経験を乗せながら綴った本です。酒を飲まない僕は水商売の世界をほとんど知らない。日本一の歓楽街である新宿歌舞伎町についても、知っていることがまるでなかったです。まず、飲み屋のシステムから。セット料金、ドリンク代、サービス料、テーブルチャージ、指名料と、ホストクラブなどの飲み屋では、こういったもろもろの料金が合計されて会計がいくらとなります。だから、慣れていない人にすれば、「ぼったくりだ!」となる、と著者は書いています。さっきも書いたように、僕は酒を飲まないし、こういったお店に行った回数は片手で足りるほどでもあ...『新宿・歌舞伎町』

  • 『「いき」の構造』

    読書。『「いき」の構造』九鬼周造藤田正勝:全注釈を読んだ。京都大学教授で哲学者の九鬼周造による1930年刊行の論考、解説・注釈付きです。日本人が何かに「いき」を感じる感覚、「いき」を自ら表現するふるまい、それをよしとする価値感、そんな「いき」がどういったメカニズムで成り立っているかを言葉にできる範囲のぶんだけ言い表しています。著者は「潜勢性」と表現していますが、現在で言えば暗黙知のようなことであり、「いき」を構成するそのものあるいはその現象は存在していても、言葉にならないものについては、諦めています。というか、「いき」には、概念的分析と意味体験とがあり、後者について言葉で表現を尽くすことはできないものだし、さらに通約不可能性(それぞれがそれぞれの論理を持っていて、お互いに通じはしないというようなこと)があ...『「いき」の構造』

  • いろいろと考えてしまう人には旅がいい。

    平均的な人よりも、いろいろと考えてしまう人。他の人は10個考えている程度なのに、自分は15個考えていて、他の人はそのうちの1個についてひとつかふたつかの可能性を考えているところ、自分はよっつもいつつも可能性が思いつき想像できている、そういう人は物事を決断するのにエネルギーがとても要る。頭が良くて思慮深いところがあるってことなんだけど、そういう人って、状況の複雑さがほんとうにきちんと見えてしまっていて、だから、決断がしにくい。けっして決断力がないわけじゃない。そこを無理に決断しなくてはならなくなるから、エネルギーを大量に使う。そういう人が「旅」をすると、それも「一人旅」をすると、選択や決断の経験を身近なところでいくつもすることになって、性格的だったり思考面だったり、まあ「これだ!」とは決めて言えないけど、な...いろいろと考えてしまう人には旅がいい。

  • 手持ちの札でやっていきませんか。

    プラトンの『ゴルギアス』をこのあいだ読んでいてびっくりしたのですが、「手持ちの札でとにかくやるしかないんだから、それで精一杯やるんだ」っていう考え方が古代ギリシャの時代にはあったと、その時代に生きた主人公のソクラテスが話していました。手持ちの札がしょうもなくても、それで頑張るしかないんだ、っていう人生訓について僕は、10年前後前になりますが、東野圭吾さんの小説で知ったのがたぶん初めてで、なるほどその通りだなあ、と膝を打ったのを覚えています。しかし、古代ギリシャの時代からあった考え方だったんですね。ただそれ以前に、「こんなクソ手で勝てるわけがない!だから降りる!」という選択のありかたがあることを、かっこいい女性ロックミュージシャンが、ハスキーな歌声で歌っていたのを好んで聴いていたりもしました。現代ではこうい...手持ちの札でやっていきませんか。

  • 『九つの物語』

    読書。『九つの物語』J・D・サリンジャー中川敏訳を読んだ。アメリカの伝説的作家・サリンジャーの自選短編集。すべての短編がよく創られていると思いました。そのなかでも、特にお気に入りとなった4つの短編についてだけ、感想を書いていきます。まず、「バナナフィッシュに最適の日」。精神面がかなり危いところへ追いつめられている男・シーモアの話でした。その男の姓はグラスといいますが、サリンジャー作品にはこのグラス家について、数々の作品を用いながら連作というかたちで立体化しているそう。それも作家が成し遂げてきた仕事の中の大きな範囲を占めていると解説にあります。前に、『フラニーとズーイ』を読んだときはまるでなにも知りませんでしたが、『フラニーとズーイ』もグラス家の作品だったようです。さて、作品自体は、表現重視で、枠内にとどま...『九つの物語』

  • 2024年もよろしくお願いいたします。

    年明けから能登半島で大変な災害がありました。被害に遭われた方々にお見舞い申し上げます。そのような時節ですが、当ブログ家主・ますく555から本年のあいさつをさせてください。2024年も、これまでと大きくは変わらず、読書感想・書評を中心に更新していきたいと考えています。おそらく年50冊前後になります。また、公開できる範囲で、執筆した自作小説をアップロードしていきます。どうぞ、よろしくお願いいたします。まだ、具体的な予定は固まっていませんが、文芸誌の新人賞を1つか2つ、応募したいです。それぞれ100枚から200枚くらいの分量になると思います。昨年以上に注力しなければ達成できませんので、心してかからねばなりません。昨年の9月に応募した文學界新人賞についてですが、風の噂によれば、こういった新人賞の最終選考まで残った...2024年もよろしくお願いいたします。

  • 『ゴルギアス』

    読書。『ゴルギアス』プラトン中澤務訳を読んだ。著者・プラトンの師匠である哲学者ソクラテスが活躍を綴った、対話型の哲学書です。タイトルになっているゴルギアスは人名で、当時著名だった弁論家です。著作も残っているほどで、弁論術の大家として広く知られ、弟子も多かったようです。また、余談ですが、100歳を超えて天寿を全うしたという説もあるそうです。BC400年前後の古代ギリシャ世界時代って、どんなふうだったのかあまり想像できないのですが、ソクラテスが刑死したのが70歳ですし、プラトンが病死したのが80歳です。なかなか豊かな時代だったのでしょうか?さて、本書は弁論術を批判する本です。それも、ソクラテスが屁理屈に近いような論駁を激しく繰り返されながら、しつこくそれに相対していく姿が描かれています。その様は、本書の帯に「...『ゴルギアス』

  • 『死をめぐる、悲しみとまやかしの午後』(自作小説・43枚)

    古河蒼太郎が死んだことを、岡島賢人は悲しんだ。あまりに突然だった彼の死の報せは、賢人に大きな途惑いを覚えさせ、やがてあるひとつの考え事に深く沈み込ませていった。*息を吸うと鼻の穴の中が凍てついてくる。それは、それほど寒さの冴え渡った夜半近くだった。横断歩道を渡りはじめてすぐだったらしい。歩行者である蒼太郎を確認せずに左折してきた乗用車に彼は轢かれたのだ。横断歩道は無人のはずだ、とそれが当たり前だというように決めつけたドライバーは一時停止をせず、アクセルを踏み込みつつハンドルを切った。ぶつけられた衝撃はかなりの大きさで、ダウンコートのポケットに両手をつっこんでいた蒼太郎は、そのまま勢いよく突き飛ばされ、丸太のようにごろごろと激しく地面を転がった。目撃証言によれば、とくに転倒したその最初の瞬間に頭をひどく打ち...『死をめぐる、悲しみとまやかしの午後』(自作小説・43枚)

  • Merry Christmas!

    メリークリスマス!イヴに言っても間違いじゃないですよね?身体も気持ちもあたたかに過ごせますように。これは特別な記念日に限らず、冬場のすべての日に言えることですけれども。今、初稿が終わった短編作品の直しをしています。書き上げたぞ、とその翌日に読み直してみると、混乱や錯綜、矛盾が目立っていて、僕の執筆経験上最高レベルの直し作業になるなあ、と気構えをして取り組んでいる最中です。夜中に目いっぱいの力を使って書いたラブレターは役に立たない、みたいなことってよく言われるじゃないですか。もし夜中に書いても、ちゃんと読み直してちゃんと判断しろ、みたいな。この意味がなにか、体感としてわかるような初稿でした。読書方面は、プラトン『ゴルギアス』の終盤あたりです。本編を読み終えてからは100pほどの解説もこのあとに読んでいきます...MerryChristmas!

  • 『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』

    読書。『岩田さん岩田聡はこんなことを話していた。』ほぼ日刊イトイ新聞・編を読んだ。「岩田聡任天堂元代表取締役社長世界中のゲームファンとゲームクリエイターに愛された人。」(帯より)__________「いまあるものを活かしながら手直ししていく方法だと2年かかります。いちからつくりなおしていいのであれば、半年でやります」(p193他・糸井さん制作のゲームソフト『MOTHER2』が頓挫しかかって、HAL研究所社長だった岩田さんに糸井さんがお願いしたときに岩田さんが言った、伝説的な言葉。)__________糸井重里さんが『MOTHER2』を制作していた時期に、糸井さんがヘルプを申し出たことで、糸井さんとの交流がはじまった岩田聡(いわたさとる)さん。当時彼はゲーム制作会社HAL研究所の社長であり、そののち任天堂社...『岩田さん岩田聡はこんなことを話していた。』

  • 『PK』

    読書。『PK』伊坂幸太郎を読んだ。2002年ワールドカップアジア最終予選の試合終了間近に、日本代表チームがPKを獲得したことでW杯出場が決まるのですが、その場面での謎を、2011年に大臣をしている男が気にするのです。そういったところから始まる、「PK」「超人」「密使」の三作からなる連作短編です。「PK」「超人」は、同じような場面で事実が異なっているところがあり、そこは大切な注目ポイントなのですが、だからといってあとではっきり解き明かされはしません。そういう投げっぱなし加減も、読み手としての自由度として捉えれば、シンプルに、読み手の読み心地のよさにつながっている要素なんだろうなとしてみても、大きく外れてはいないのだろうと思います。なんだか、どう書いてもネタバレになってしまいそうなので、とくだん内容には触れま...『PK』

  • 「善く生きる」とは、人生に意味を求めないこと。

    「人生には意味がある」と、いつしか考えている自分がいた。私の場合、「好奇心を持って、いろいろな知識を得て、学び、考え、どんどん積み重ねていくこと」が人生の意味にあたる。それは人生の終わりまで続いていく、揺るぎない自明の種類のものだと考えていたので、ちょっと立ち止まって疑いを挟んでみるなんていうことは、試みようと思ったことすらなかった。だが、その「ちょっと立ち止まって疑いを挟んでみる」瞬間が昨夜、唐突に訪れたのだ。「あれ?ちょっと待てよ、これってもしかすると」胸がざわめき、穏やかだった心の水面に薄い波紋が漂いだし、そのうち少し不穏に波立ってくる。「老境に達した作家が、自死してしまうことがある。これっていったい、どんな理由があったからなのだろう?」脳裏に浮かんでいるのは、文豪・川端康成の自死について。私は、川...「善く生きる」とは、人生に意味を求めないこと。

  • 『現代オカルトの根源』

    読書。『現代オカルトの根源』大田俊寛を読んだ。スピリチュアルもUFOも、ヨーガによる覚醒も、オウム真理教や幸福の科学、そしてそれらの源流となったいくつかの新興宗教の教義も、それら現代に息づくオカルトは、「神智学」という根を持っています。さらさら読めてしまう新書の範囲内に収まる本ではありますが、それでもそれぞれのオカルトの要所要所をつかんで書かれているので、かなりくわしく読んでいくことができます。しかしながら、荒唐無稽な妄想ともいえるものをたくさん扱っているので、終盤にあたる現代日本の新興宗教までいくと、そうとう疲れてしまいました。プロローグでオウム真理教の教義に触れているのですが、努力して進歩していこうとする「人間」と快楽におぼれて堕落した「動物(的人間)」という二元論を用いて、動物を駆逐して人間の王国を...『現代オカルトの根源』

  • 『古賀史健がまとめた糸井重里のこと。』

    読書。『古賀史健がまとめた糸井重里のこと。』糸井重里古賀史健を読んだ。広告畑出身でいまやWebSite「ほぼ日」を中心に活躍されている糸井重里さんを、ベストセラー『嫌われる勇気』の二人目の著者である古賀史健さんがインタビューしてまとめた本です。帯に<糸井重里が気持ちよく語り、古賀史健がわくわくしながらまとめました。>とあります。糸井さんの経歴をちょっと知っていて、ほぼ日を何千回と訪れてきた僕なんかには、読みながらずっと惹きつけられっぱなしの本でした。まず引用から。__________もうひとつ、黒須田先生とはおかしな思い出があってね。講座を卒業してから何年か経ったあと、先生が持っていた授業の代役を頼まれたんです。「ぼくには教えることなんてできませんよ。話すことがなくなったら、どうすればいいんですか?」と訊...『古賀史健がまとめた糸井重里のこと。』

  • 『不連続殺人事件』

    読書。『不連続殺人事件』坂口安吾を読んだ。戦後まもない頃、山奥の豪邸に集まった作家や画家や女優などなど。そんな彼らの間で次々と殺人が起こります。いったい誰が、どんな動機で、どのようにして行ったのか。探偵小説愛好家だった純文学作家・坂口安吾による推理小説の名作。多人数でてきますが、個性の強いキャラクターばかりでした。アクやクセが強く、変人とくくってしまえそうだったりする人たちしかいません。そして彼らの関係が痴話がらみでフクザツです。そんな異様な小世界を設定したからこそ、8人も殺されるこの「不連続殺人」の、大いなるトリックを物語の中に隠せたのだと思います(このあたりは、巻末のふたつの解説と本文の読後感とを照らし合わせたうえでの感想です)。謎を解くキーワードは、「心理の足跡」。作者は、自ら紙の上に出現させたキャ...『不連続殺人事件』

  • 『アドラーをじっくり読む』

    読書。『アドラーをじっくり読む』岸見一郎を読んだ。フロイト、ユングと並ぶ心理学者・アドラー。近年、彼の心理学を世に知らしめたベストセラー『嫌われる勇気』の著者・岸見一郎さんによる、数々のアドラーの著作のポイントを解説する本です。まず、「共同体感覚」というアドラーの重要ワードが出てきます。これ、誤解されやすいとのことで、本来どういった意味なのかの解説があります。家族、学校、職場、社会、国家、人類、過去・現在・未来すべての人類、さらには生物・非生物含めた宇宙全体を指し、自分は(そしてみんなは)それらに属しているという感覚らしいです。「共同体感覚」を持つことが、神経症から抜け出す重要なてがかりのひとつともなるのでした。また、もうひとつ重要な考え方が出てきます。それは、「ライフスタイル」です。アドラーの使う「ライ...『アドラーをじっくり読む』

  • 『現象学という思考』

    読書。『現象学という思考』田口茂を読んだ。フッサールの『現象学』を基盤として、著者が一般的な言葉を用いて照らし出していく現象学の地平を解説します。そしてその地平の入り口まで道案内をしていただきながら、その地平を冒険していく準備をしたり、実際にちょっと思考の冒険を試みたりできる読書でした。とても良書です。まず、「確かさ」についての論説から入っていきます。「確か」であることは、ことさら言及されません。いちいち意識せずにいても事足りていることが「確かさ」。つまり自明な物事なのです。自明ゆえに、意識の主題にはのぼってきません。「夕食は鮭を焼いて食べようかな」と考えるようなことは主題的な意識です。そう考えているときに、腕組みをしたり、頭を掻いたりしているといった行動は、「それはなにか」を問おうともされない自明な行動...『現象学という思考』

  • 『次、いつ会える?』

    読書。『次、いつ会える?』松村沙友里撮影:三瓶康友を読んだ。2021年に乃木坂46を卒業された1期生・松村沙友里さんの卒業記念写真集です。愛らしい感じの美人・松村さんが、ページを繰るごとにさまざまな装いとポーズで魅せてくれます。巻末にはさゆりんご軍団、からあげ姉妹、そして先に卒業された白石麻衣さんが登場しています。ロングインタビューもあります。感情豊かな方だとお見受けしているためか(そして僕の勝手な感情移入のせいか)、出だしからどこか寂しそうで切なそうな表情の松村さんに見えてしまいました。スタートから約10年間在籍した乃木坂を去るわけですから。表紙と、表紙とおなじシーケンスのページ、そしてウェディングドレスの松村さんが今回の写真集ではいちばんお気に入りになりました。前者は普段着のかわいさにあふれているし、...『次、いつ会える?』

  • 『大きな熊が来る前に、おやすみ。』

    読書。『大きな熊が来る前に、おやすみ。』島本理生を読んだ。2007年発表、2010年文庫化の、三編からなる作品集。ネタバレありなので、ご注意ください。まずは、一遍目の表題作である「大きな熊が来る前に、おやすみ。」から。子どもの頃、父からのDVを受けていた若い女性の主人公・珠実。できたばかりの彼氏・徹平にも、一度、暴力をふるわれてしまう。__________本当は、徹平に初めて会ったときから、父のことを思い出していた。友達から紹介された後に何人かで飲みに行ったときも、そのことばかり考えていた。口数が少なく、言いたいことを腹に押し込めたような顔をしている。飲み始めると次第に饒舌になり、表面的にはとても明るい人に見えるけど、目だけが冷めている。時折、わざと自分を落としてまわりを笑わせるわりに、他人からからかわれ...『大きな熊が来る前に、おやすみ。』

  • 『夢の中で会えるでしょう』

    読書。『夢の中で会えるでしょう』高野寛を読んだ。1995年の4月から一年間、NHK教育テレビで放送された『土曜ソリトンSIDE-B』。その20周年を記念したイベント(全6回)をテキスト化したものです。番組の司会を担当したミュージシャンの高野寛さんをホスト役に、最初のゲストはおなじく司会を担当されていた緒川たまきさん。ページを繰ると、毎週土曜日23時が楽しみだったあの頃が甦ってきます。ゲストは、先ほど書いた緒川たまきさんを皮切りに、スチャダラパーのBoseさん、お菓子研究家のいがらしろみさん、ラーメンズの片桐仁さん、ミュージシャンの高橋幸宏さん、同じくミュージシャンのコトリンゴさん、そして巻末には特別対談として俳優ののんさんがお招きされていました。ここからは個人的に面白かったところから数か所を抜き書きしてい...『夢の中で会えるでしょう』

  • 『本当の戦争の話をしよう 世界の「対立」を仕切る』

    読書。『本当の戦争の話をしよう世界の「対立」を仕切る』伊勢崎賢治を読んだ。インド、東ティモール、シエラレオネ、アフガニスタンなどで起こった紛争や戦争による対立を仕切ってきた著者による、福島高校の高校生への講義と議論の記録。武装解除の話や子供兵の話はとくに、ごくっと唾を飲みこむ緊張感に包まれながら読むことになりました。戦争がらみの国際問題の本で400ページを超えるボリュームです。手こずるかな、とちょっと気構えをして手に取りましたが、それでも話し言葉で進んでいくので、意外とわかりやすく読めました。それに、高校生にもわかる論理と言葉づかいですから、なおのことでした。本書の性格がどういうものなのか、「講義の前に」と題された著者と高校生がはじめて対面する場面の様子の章にある文言を引用するとわかりやすいので、以下に記...『本当の戦争の話をしよう世界の「対立」を仕切る』

  • 『クラウドガール』

    読書。『クラウドガール』金原ひとみを読んだ。自分の感情の赴くまま、自己中心的に生きる高校生の杏と、自分の欠落した部分に気づき、理性的に内面の再構築を試みている理性的な大学生の理有。この二人の姉妹が、交互に各々の章にて一人称で語っていくかたちの小説です。仲が良く、内面的な結びつきの強い姉妹です。両親は離婚しており、小説家の母親と暮らしていたのですが、その母親はある日亡くなってしまう。それから姉妹は短い間、祖父母に引き取られますが、ほどなくして、新たな場所で姉妹だけで暮らしていく。それらは小説内で次第にわかってくる事情で、物語自体は妹の杏が彼氏の晴臣をボコボコに殴り散らすシーンから始まります。洗練された文章だと思いました。序盤1/3くらいまでの間、文章の緩急や構成など、書く人にとっては教科書になるような、パキ...『クラウドガール』

  • 『たゆたう』

    読書。『たゆたう』長濱ねるを読んだ。元欅坂46&けやき坂46メンバーの長濱ねるさんが3年前、21歳で始めた『ダ・ヴィンチ』での連載エッセイのなかから著者自らセレクトし、加筆修正したエッセイ集。ここ何年か『ダ・ヴィンチ』を読んでいなくて、さらに長濱ねるさんが連載を持っていることも知りませんでしたから、本書によって、やっと、あなたのお話が聞ける、という気持ちからの読みはじめになりました。元坂道のねるさんには無条件に惹きつけられる魅力を感じていたのですが、同時になにかよくわからないんですね。つかめないんです。「わかんない」に満ち満ちた存在ゆえにたぶん惹かれている、そういったイメージを持ちながら、本書を手に取りました。いや、かわいらしいからまず顔や名前を覚えるわけですけど、どういう方なのかっていうのはよくわからな...『たゆたう』

  • 『ことばの力学』

    読書。『ことばの力学』白井恭弘を読んだ。サブタイトルは「応用言語学への招待」です。応用言語学とはどういう分野か。プロローグによると、「現実社会の問題解決に直接貢献するような言語学のこと」とありました。差別などにつながる言葉はまずそうですが、言葉自体が社会問題になることがあります。また、言葉が、人間の無意識に働きかけていたり、その逆に、無意識が作用して表出されている言葉があったりします。そういった、現実との摩擦を起こしているような部分を扱う言語学といっていいのかもしれません。十章にわかれていて、そのなかでも比較的短い分量の項で小さく分けながら、それぞれのトピックが論じられていきます。文章自体のわかりやすさはなかなかのもので、読解しやすい体裁になってて読み心地もよかったです。それでは、いくつかのトピックを紹介...『ことばの力学』

  • 『鍵のない夢を見る』

    読書。『鍵のない夢を見る』辻村深月を読んだ。人気作家・辻村深月さんの直木賞受賞作品。5つの短編からなる作品です。まず、初めの「仁志野町の泥棒」。子どもの目線から見える、田舎町での白黒つけない世間が上手に描かれています。本短編において、白黒つけないでいたことが良かったのか悪かったのかは、本当にわからないんです。盗癖の罪を責め、罪を起こさせないための田舎町の人々の行いすら、それがいいのかどうかわからなくなりました。どうにもならない何かがあって、一面的な薄っぺらい正義感でそれに意味づけをしていいのかどうか、疑問が湧いてくるのです。でも、少なくとも、律子とその家族はその地区で三年間暮らし、引っ越さなかった。他の地区では一年ごとに引っ越していたのに。つまり、包摂されていたのです。排除ではなく。包摂とは、こういった割...『鍵のない夢を見る』

  • 『人工知能解体新書』

    読書。『人工知能解体新書』神崎洋治を読んだ。2017年刊の新書です。昨年、インパクト十分に登場した人口知能チャットボット・ChatGPT。本書はこのChatGPT前夜の人口知能事情についての内容になっています。たとえば、何もないところから急にChatGPTが登場したようでいて、先達のようにしてIBMのWATSONというAIシステムが稼働しているのですが、そのあたりの事情について知っていくことも、本書の大きな柱の一つとなっているのでした。ディープラーニングやニューラルネットワーク、これらの根本的な仕組みを理解している技術者は、世界でも数百人しかいないと言われている(本書刊行当時)とあります。そんな技術無しに、今日のAIは生まれませんでした。インターネット世界のオープンソースであるビッグデータを読み込むことで...『人工知能解体新書』

  • 『結婚への道』

    読書。『結婚への道』岡村靖幸を読んだ。独身のミュージシャン・岡村靖幸さんが雑誌の企画で。自らが結婚するための情報集めのようなものとして、結婚をテーマとした対談を繰り広げた、その集積となる本です。対談相手はミュージシャン、小説家、漫画家、文化人、女優などさまざま。個人名を出すと、坂本龍一さん、糸井重里さん、吉本ばななさん、内田春菊さん、松田美由紀さん、YOUさん、ミッツ・マングローブさん他で、合計32名にもなります。坂本龍一さんのページですと、彼が30代末くらいまでのやんちゃ話も聴けます(読めます)。岡村靖幸さんは、ジョン・レノン&オノ・ヨーコ夫妻のような結婚に憧れているといいます。強い愛があって、クリエイティブのためのインスピレーションが得られて、とにかく最高の夫婦だということでした。ただ岡村さんは、そう...『結婚への道』

  • 『いなくなった私へ』

    読書。『いなくなった私へ』辻堂ゆめを読んだ。2014年に『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞した、著者のデビュー作。当時、東大在学中の学生だったそうです。ぼんやりとした意識と記憶のなかゴミ捨て場で目覚めた主人公・梨乃は、それまで国民的シンガーソングライターとして忙しい日々を送っていた。梨乃は目覚めてまもなく、自分の自殺による死亡報道を目にします。不思議なことに、彼女を見る誰ひとり梨乃だと気づくことはなく、自分はいったいどうしてしまったのかまったくわからなくなります。自分はどうして死んでしまったのか。少しずつ明らかになっていくその謎が大きな見どころでした。そして、死亡報道以後の、梨乃のあらたな生活の情景の温度感も、この小説を読ませる力として大きかったのではないかな、と思いました。独特の「輪廻」の仕方...『いなくなった私へ』

  • 『宇宙に行くことは地球を知ること』

    読書。『宇宙に行くことは地球を知ること』野口総一矢野顕子林公代取材・文を読んだ。NY在住のミュージシャン・矢野顕子さんが、宇宙飛行士・野口総一さんに宇宙のことをたずねる対談本です。矢野顕子さんは宇宙に行きたくて行きたくて、宇宙飛行士になるために必須の「水泳」を、それまでは金づちだったのにがんばられて習得されたそうです。宇宙に関する知識・情報集めや勉強も盛んで、だからこそ、野口総一さんに対する質問が初歩的だったり表面的だったりせず、そればかりか質問自体からも教えられるものがあるレベルにありながら、そんな低くないレベルの質問に答えてくれる野口さんの発言も真正面から真摯なものなので、お互いのやりとりに読ませるものがあるのでした(たぶんに、お二人から様々な方向へ飛び交う言葉を、うまくまとめられた林公代さんの腕あっ...『宇宙に行くことは地球を知ること』

  • 『日本の祭』

    読書。『日本の祭』柳田国男を読んだ。昔の学者の人の言うことや書くことって、喩えると、視力のとてもいい人が、自分の見ているものを細かく伝えてくれるというのに近いような印象があります。同じように地面を見ていても、現代人よりも細かいところまで見えているし、気にも留めないようなところにも注意を払っている、というように。たとえば一般化している「お祭(祭礼)」は神道の行事。でも日本人はあまりそれを宗教として感じていません。キリスト教やイスラム教、仏教には教義があるけれども、日本の神様に対しての教義を学ぶ一般人はいない。日本人の風俗をみれば日本人は無宗教ではないのだけれど、教義というものがないのだから日本人の意識上無宗教になっているのでしょう。そういった内容を、端的に指摘するところから話は始まっていきます。本書は東京大...『日本の祭』

  • 『あこがれ』

    読書。『あこがれ』川上未映子を読んだ。「あこがれ」が小さな冒険につながっていくふたつのお話。第一章は小学四年生の麦くんのお話で、第二章は六年生になった麦くんの親友の女の子、ヘガティーが主人公のお話です。このさき、ネタバレありです。というより、今回はネタバレばかりです。読んだことのない方には「てんでなんのことやら」かもしれませんが、あしからず。海外文学ぽい感じを試したのかなあと最初は思った第一章。ストーリーからの感想などの、本来メインともいうべき感想からは離れたようなことを言うことになります。主人公・麦彦のおばあちゃんの人となりが感じられるところがよかったです。人間の老化は避けられません。でも、まだ十分に動けていた過去というものは消えることはなく、たとえば主人公の少年の記憶の中には、おばあちゃんがしっかり歩...『あこがれ』

  • 『第129回文學界新人賞』へ応募

    先日予告していましたとおり、本日『第129回文學界新人賞』への応募が完了しました。117枚の長い短編で、北海道ローカルな話とそうではない話が混淆しているような話です。中間発表は来年の『文學界4月号』、受賞作決定の発表はそのつぎの『文學界5月号』だそうです。一番始めに本稿の設定ファイルを立ち上げたのが5/15でした。そして9/15に完成して、今朝応募ですから、丸々4か月かかったことになります。117枚で4か月はかなりかかったほうでしょうが、純文学をほんとうに意識して書くのは初めてみたいなものでしたし、今まででもっとも長く書いたものは86,7枚でしたし、いろいろと未知の領域に踏み込んでいく期間でした。この分量で大変だったのは直しと推敲です。白状しますが、これはナメていました。やる量が単純に増えていますし、執筆...『第129回文學界新人賞』へ応募

  • 落選(note創作大賞2023)から次へ

    標題のとおり、今年の晩春のころにnote創作大賞に応募した作品『パッシブ・ノベル(創作大賞バージョン)』は、選考を通りませんでした。残念ですが、仕方ありません。ちょうど一昨日の夜に、僕の住む地区では観測史上最大量の雨が降り、近くの道が崩落し通行止めになったのですが、なんだか予兆のような冗談のような奇遇(?)でした。道が無くなったわけで。さてさて。でもそうも言ってはいられない。『文學界新人賞』に応募する作品が大詰めを迎えています。今朝、印刷したバージョンを読み直してそれでよければ応募するという最終段階にあります。5月中頃より始動して、およそ4か月かかったということです。その間に、家庭の問題のために20000字超えの資料を作成して二、三の団体と面談したり、国際ロマンス詐欺を働いていると思われる詐欺師とやりとり...落選(note創作大賞2023)から次へ

  • 『乃木坂46卒業記念 堀未央奈 1stフォトブック いつのまにか』

    読書。『乃木坂46卒業記念堀未央奈1stフォトブックいつのまにか』堀未央奈を読んだ。2021年に乃木坂46を卒業された堀未央奈さんの卒業記念ブック。全編セルフプロデュース。堀未央奈さんは乃木坂二期生のエースでした。加入後いきなりシングル『バレッタ』でセンターに抜擢され、重圧に苦しみ、揉まれながら、一時期アンダーの経験を積むと、選抜に復帰しそれからは常に福神メンバーとして立ち並ぶ存在になりました。僕が乃木坂にのめり込んだときがちょうど、未央奈さんがアンダーにいたころです。そのころにディスクで見た乃木坂のドキュメンタリー映画では、自分がどうしたらいいのか悩み苦しんでいる姿が映し出されてたのを覚えています。なんていうか、未央奈さんはそれから、気が付けば前面の際ぎりぎりのところにバンと立つ存在になっているように感...『乃木坂46卒業記念堀未央奈1stフォトブックいつのまにか』

  • 『新装版 おはなしの知恵』

    読書。『新装版おはなしの知恵』河合隼雄を読んだ。いろいろな昔話を、ユング派心理療法家の故・河合隼雄さんが読解をしてその深いところを示してくれる本です。まずは白雪姫の章。白雪姫が毒りんごのために死と同然の状態になったときの河合隼雄さんならではの深層心理学的な解釈がこちら。__________かわいかった子が何となく無愛想になり、無口になる。体の動きも重くなったように感じられる。実は、このような時期は成長のために、ある程度必要である。心のなかはこのような状態でも、何とか外面は普通に取りつくろって生きている子も多い。このような時期を私は「さなぎ」の時期とも言っている。毛虫が蝶になる間に「さなぎ」の時期があり、その時は、まったく外的な動きがなく殻のなかに閉じこもっているが、内的には実にものすごい変化が生じている。...『新装版おはなしの知恵』

  • 『朝の詩』

    べたつく肌と朝霞。響く足音が耳にも胸にも心地よい。わたしは歩いている。道の端から生の謳歌そのものといったたくさんの虫の声。わたしの気配にびくつきもしない。するどく高い鳴き声がして、鹿がいる、と見回す。でもその姿を確かめることはできない。わたしを悩ませるものがまた、これから始まる。区切られ、区別された世界の肩を持たなくてはいけない。色味さえメリハリばかりが褒められるこの世界の肩を。規律で仕切られるものを守り、小さなものも大きなものも、順序だてて仕訳ていくよう身体も気持ちも規定される。わたしは、省いたり、取り去ったりする行いにいつまでもなじめない。零れ落とさせたあれやこれやにわたしは親しみを感じるのだし。なのに、そうであっても、誰かに決定された時間の「意味」によって、甘みも旨みも感じられない営みへと押し出され...『朝の詩』

  • 『日本人の美意識』

    読書。『日本人の美意識』ドナルド・キーン金関寿夫訳を読んだ。日本文学・日本文化の研究で名高い著者の代表作。論説やエッセイなど9編収録。和歌や古典、能、建築などを例に、日本人の美意識というものをあきらかにした標題作の論説から始まります。日本の寺社建築の飾り気のない簡素な線で作られている単純性などに現われているように、日本人の美意識は禅の美学と相通じるものがあると著者は指摘しています。くわえて、モノクローム、曖昧性、暗示性、といったものを好む美意識についても述べていますし、その暗示性を発揮し保つために、均斉や規則正しさを避けるところがあったことを指摘しています。規則正しいものって、その目的がはっきり明確なるがゆえ、暗示的な要素が消し飛んでしまいます。続く『平安時代の女性的感性』いう論説では、日本の文学は多くの...『日本人の美意識』

  • 『ニムロッド』

    読書。『ニムロッド』上田岳弘を読んだ。仮想通貨・ビットコインのマイニング(採掘)や実用化に失敗した「駄目な飛行機」たち、そして高くそびえる塔といったモチーフを反射板みたいにつかいながら語られる物語。デジタルの圧倒的な大波をざぶんと浴びせられ、そののちデジタルの破片をたくさん身体に受けたままアナログの立場で書いた小説、といった感覚でした。なんていうか、乾いていてシンプルで、それでいて割り切れないような生々しい複雑さの結び目のようなものがある。主人公の中本哲史はIT企業の社員で、新設された採掘課の課長。運営するサーバーコンピュータの空きを使ってのビットコインの採掘を命じられる。主人公の名前はビットコインの創設者とされるナカモト・サトシと同じ名前です。このリンクがまた、この小説の乾燥した読み味に一役買っているよ...『ニムロッド』

  • 『いじめを生む教室』

    読書。『いじめを生む教室』荻上チキを読んだ。いじめから抜け出すためのいろいろな情報を載せているサイトである「ストップいじめ!ナビ」https://stopijime.org/の代表理事である荻上チキさん。彼による、いじめのデータと知識及び、そこから考えていって子どもを守るにはどうしていったよいかまでを示してくれる本。いじめの認識を本書がアップデートしてれます。いじめは誰もが経験するものだということが、アンケート調査からわかっています。そして、何度もいじめに遭うハイリスクな層の存在があることもはっきりと認知されてきました。くわえて、いじめはエスカレートしていきます。そうなる前に、なんとか止めることが大切になります。「自殺するくらいなら学校から逃げろ」という言い分が、ネットでもメディアでも見られることがありま...『いじめを生む教室』

  • 『香水――香りの秘密と調香師の技』

    読書。『香水――香りの秘密と調香師の技』ジャン=クロード・エレナ芳野まい訳を読んだ。エルメスの人気調香師による、香水についての網羅的に概説する本。香水の歴史的部分、人間の嗅覚の構造、香水の原料や抽出方法、調香師になるための勉強、調香師の職業的な部分、香水とは何か、マーケティング、香水を市場に出す過程などなど、ほんとうに香水全般を扱っています。そして簡潔。どの章も興味深いのですが、たとえば抽出方法の章で解説される、植物から香り成分を抽出するいくつかの方法のどれもが、人間ってよく考えるものだなあ、と思えるものでした。どうしてそうやったらできるとわかったのだ?というように。いくつかの抽出方法のひとつを以下に書いてみます。揮発性溶剤にいれて香り成分を溶かし込んだ溶剤を回収し、をそれを気化して回収する。残った部分は...『香水――香りの秘密と調香師の技』

  • 『春の庭』

    読書。『春の庭』柴崎友香を読んだ。第151回芥川賞受賞作。くわえて、単行本未収録短編二点と、書下ろし短編一点を収録。表題作『春の庭』は、妙な出会いというか縁というかによって話をするようになった、取り壊し間近の同じアパートに住む主人公・太郎と西という女性漫画家。この二人を主要人物として物語は進んでいきます。しかしながら、物語はどうなっていくのか、中盤まで読み進めていってもまったく先が読めません。僕にとっては「物語」というものの引き出しの外にある「物語」で、つまりは自分にとっての新種の「物語」なのかもしれない、なんて思いました。あるいは、「物語」のどのようなコードに対してもそのまま従うということをしない、というカテゴリに分類される「物語」なのかもしれません。とはいっても、僕の中にある「物語」の類型のストックが...『春の庭』

  • 『デザイン思考が世界を変える』

    読書。『デザイン思考が世界を変える』ティム・ブラウン千葉敏生訳を読んだ。アップルコンピュータのマウスや、2000年前後にヒットしたPDA端末・パームⅤを手がけたデザインコンサルタント会社IDEOの社長兼CEOの著者によるデザイン思考を紹介する本。デザインとデザイン思考はちょっと違います。以下、引用を中心に本書の解説・感想を書いていきます。「デザイン」とは、たとえば自動車のフォルムや内装などがどうなっているかというようなものですが、「デザイン思考」になると範囲は広がり、その自動車の購買者はどういった用途でその自動車の使用を楽しむかというようなことを考えます。乗り心地の快適性、購入時やサポート時の体験、その自動車と共にある生活などを考えてデザインしていく。__________「私たちがデザインしようとしている...『デザイン思考が世界を変える』

  • 自己肯定感の裏側。

    僕らが暮らしている競争社会では、「言ったもの勝ち」みたいに、俺のほうが強いんだぜ、と胸を張ったもの勝ちのところがある。ハッタリという戦法があるのもそのためでしょう。そうやって言い張れる、胸を張れるのって、どきどきしながらやっているウブなタイプの人もいるけれど、それらを得意戦術にしている人にとっては自己肯定感がその精神性の源になっていると思います。僕が学生の頃、周囲を見ていて顕著に目を引いたものに、自分よりランクの高い大学の人たちを「頭でっかちだから」みたいにけなして、自分たちこそがまともだとするスタンスがありました。そのような、自分の属するグループこそが世界の中心あるいは中心を担うべきまっとうな存在だとする自己肯定感ってあって、たとえば競争社会でいくつものトップが乱立するのはこのメンタリティによるのではな...自己肯定感の裏側。

  • 『リバーズ・エッジ』

    年に数回の、昼間に自由な時間がある日が今日だったので、2018年度の作品『リバーズ・エッジ』を観ていました。監督は行定勲さん、主演は二階堂ふみさん。原作は岡崎京子さんの漫画で、舞台は90年代。いじめられっ子の山田(吉沢亮)とその山田を助けた若草(二階堂ふみ)の二人が回転軸となっている話です。強いストーリーはないのだけど、事件はいろいろ起こりますし、そんな日常に揺られる群像を描いたような作品と言えそうです。ふつうに生きていたらどんどん人間喪失していく90年代。若い人たちは、あがいている自覚はないのだけどあがいていたんだと思う。それも、安易な物語に組み込まれないために極端なところまで針を振る行為で。でも、欲していたのは新しい物語だったんだろうと、同じく90年代を10代で過ごしてきた僕には感じられました。僕とし...『リバーズ・エッジ』

  • 『恋歌、くちずさみながら。』

    読書。『恋歌、くちずさみながら。』ほぼ日刊イトイ新聞を読んだ。すべてがほんとうの話。Webサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』のコンテンツ「恋歌くちずさみ委員会」に寄せられた恋バナ集です。甘酸っぱかったり、苦かったり、切なかったりする内容には、でもあたたかみが宿っていたりしました。本書の書き手の方々にとっての恋のランドマークや記憶を呼び起こすトリガーになっている恋歌。それはきっと、ここに投稿された方たち以外の、たとえば読み手の多くにとってもそういった恋歌はあるのだろうと思います。取り上げられている恋歌はけっこう古いものが多いです。1980年前後くらいが多かったでしょうか。なので、語られるエピソードも、たとえばインターネットや携帯電話が普及する以前の話がほとんどでした。中年以降・老年手前くらいの人たちが楽しんで告白...『恋歌、くちずさみながら。』

  • 『ひとり日和』

    読書。『ひとり日和』青山七恵を読んだ。読み始めて面白くなるまでが早いです。作家が20代前半で書いた芥川賞受賞作ですが、技術が巧みです。高校を卒業しても進学を拒み、就職するわけでもない主人公。親に依存して生きてきた子ども時代からいきなり社会に放り出されるように自立するのではなく、親戚のおばあさんの家に居候しながら自然と自立へと、誰に促されることもなく自分自身でその道をたどっていく。そういう物語です。はっきりと端的に明文化できるような成長ではない部分を描いた、自立の入り口までの成長物語。以下、ネタバレありますので、ご注意を。こういう物語を読むと、自立にはある種の慎重さや段階を踏んでいく過程がほんとうならば必要なんだろうなあと思えてきます。大きな段差のある階段の一段を、「ふんっ」と力を込めながら踏みあがっていく...『ひとり日和』

  • 『水の常識ウソホント77』

    読書。『水の常識ウソホント77』左巻健男を読んだ。私たちが生きていくために欠かせない「水」について、多様な知識が得られる本。全6章、77項に分かれています。各章をかんたんに紹介すると、人体との関係を主軸にした生化学的な章、水道水を中心に飲料としての水そのものについてあれこれと解説する章、健康にいい水を謳い文句にしている怪しげな水ビジネスへの反証の章、表面張力や界面活性など水が作用する現象や水の性質についての章、個体・液体・気体まで水を考えていく章、公害やダムの問題などの社会的文脈における水や地形・水の循環など地学的な水についての章、となります。つまりは、理科のカテゴリにすべておさまる中身なのでした。意外に知られていない水中毒の話がやっぱり載っています。アメリカで2007年に行われた「水の大飲み大会」で、ト...『水の常識ウソホント77』

  • 「国際ロマンス詐欺」に巻き込まれながら、新人賞原稿を書いています。

    文芸誌応募用の長めの短編小説を執筆中です。100枚前後を予定しています。内容や筋の見通しは立っていますけれども、書き進めるうちに当初の予定から外れていくことも大いに想定していますし、実際にそうなるでしょう(30枚を超えた今の状況でも、そうなってきています)。それでも、テーマや書きたいものはほぼ決まっていて、それはこの作品上に確実に表現していきます。そこはブレないほうがよいところですからね。さてさて、そんな「原稿に猪突猛進」していたい時期にもかかわらず、ひょんなことから国際ロマンス詐欺に巻き込まれてしまいました。でも、安心してください。僕は無事です(Don'tworry,I'msafe.)。金銭要求される前にメッセージのやり取りをやめました。さらに、やり取りの記録をパソコンに移し、プリントアウトして警察に届...「国際ロマンス詐欺」に巻き込まれながら、新人賞原稿を書いています。

  • 『法然親鸞一遍』

    読書。『法然親鸞一遍』釈徹宗を読んだ。鎌倉時代。それまでの「悟り型仏教」に対して、「救われ型仏教」である浄土仏教を日本において根付かせ、主流にまで発展させた浄土宗の祖・法然、浄土真宗の祖・親鸞、時宗の祖・一遍の三人の思想を比較検討しながら、その特色を知る内容になっています。悟り型仏教は、俗世間を離れて修行をし、自分の力で悟りを得て救われようとする仏教です。いわゆる「自力」の考え方です。一方、救われ型仏教は、たとえば法然の言うところであれば、南無阿弥陀仏と唱えることで阿弥陀様が救ってくださる、という「他力」の考え方です。「他力」には修行はいらないのです。阿弥陀様を思って、生涯にわたって念仏を唱えて救いを求める気がありさえすれば(これを「多念」といいます。「一念」という考え方もあり、こちらは一度念仏を唱えれば...『法然親鸞一遍』

  • 『犬のかたちをしているもの』

    読書。『犬のかたちをしているもの』高瀬隼子を読んだ。2019年、第43回すばる文学賞受賞作。ひらがなに開いた言葉づかいを中心とした、比較的、やわらかな文体です。とげとげした感じのしない純文学です。概要を簡単に。主人公は卵巣の病気のために、子どもをつくれるともつくれないとも言い切れない身体です。これまでの交際歴をふりかえっても、付き合いはじめこそ性的な関係を持ちますが、3か月も経つとセックスレスになる傾向を持っています。嫌悪感というか、身体的に拒否してしまうところがある。それで、現在の彼氏は、それでも主人公を愛している、と関係を続けていくのですが、お金の関係で他の女性を妊娠させてしまいます。その女性が、予定外の妊娠だっただけれども中絶はしたくないから産む、その子どもを主人公と彼氏にもらってほしい、と提案のよ...『犬のかたちをしているもの』

  • 『にほんご歳時記』

    読書。『にほんご歳時記』山口謠司を読んだ。日本語から感じられる季節感にまつわる全100項の雑学的エッセイです。春から冬まで、25編ずつです。夏目漱石が落語の影響を受けた文体であるとか、台風は昔は颱風と書きさらに昔は野分と言ったとか、枯れ尾花の尾花はススキのことだとか、日本の四季にまつわるなにげないのだけれど僕なんかは全く知らない雑学の数々が興味深かったです。さらに、蚊取り線香のあの渦巻き型を思いついたのは明治期の女性であったとか、ラジオ放送が始まったのが大正十四年でその影響で寄席が減っていったとか、エピソード的雑学もいろいろ語られています。歳時記というくらいだから季語についてのエッセイなのだけれど、俳句に限らず、和歌や古典、中国の漢詩まで引いていろいろな「にほんご」に秘められた雑学を光の当たるところに引き...『にほんご歳時記』

  • 性格は直らない?

    「あいつ、性格悪いよね」なんて言い方で、とある友人・知人、果ては芸能人や著名人のことについて否定的に言うことがあると思います。でも、「性格が悪い」という見立てはあんまり正確ではないと思うのですが、どうお思いになりますか?正確ではないとするならば、どう捉えるか。「あの人って、世界観や人間観がちょっとおかしく感じる」。こっちのほうがほんとうに近そうじゃないでしょうか?自身にしても他者に対しても、多くの人は「悪い性格なんて直らないよ」って思っちゃうものでしょうし、実際、性格をターゲットに自分で頑張ってみたって、他人に指摘してもらったって直らないでしょうけれど、世界観や人間観を変えるほうだったら、性格を変えるよりまだ変わる可能性を感じるのは僕だけかしらん。世界観や人間観がよりやさしいものへ、というか、建設的にとら...性格は直らない?

  • 『つながる脳科学』

    読書。『つながる脳科学』理化学研究所脳科学総合研究センター編を読んだ。「つながる」をキーワードに、九つの視点から脳の仕組みを知ったり考えたりする本です。難しいところはありますが、おもしろいです。エキサイティング。ディープラーニングがニューロンネットワークを元にした、脳をモチーフにしてそこから発展した仕組みであることも述べられています。でも、作っておきながらディープラーングがどうしてこれほど上手くいくのかという仕組みはよくわかってないそう。さて、シナプスやニューロンが情報を扱う仕組みからはじまり、空間や時間の認識がどう行われているか、嗅覚のメカニズムはどうなっているのかなどを、どのような仕組みの実験を用いてそれらを解き明かしていったか、その創意工夫の面から始めて述べられていくものが多いです。なかには理論先行...『つながる脳科学』

  • 基本的人権≒個人の秩序。

    ふと、「基本的人権」の言い換えを思いついたのでした。それはなにかと言えば、「個人の秩序」です。そうやって言い換えてを想定してからまず秩序とはどういうものかを考えていき、個人と言うレベルの秩序に当てはめて考えてみる。そうすると、「基本的人権」がよりわかりやすくなると思う。秩序は、安全や安心、そしてその範囲内での効率性を担保するという良い点があります。「個人の秩序」としてみれば、自身の安心や安全、自分と言う単位でする仕事の効率性を生むものだとなります。おまけに、安心や安全ゆえなのかもしれませんが、幸福感や充実感もえられると思います。で、他者によるものである他律性が個人秩序をつっつくと、秩序で得られる安全や安心が揺らぎます。くわえて、仕事の効率性もゆがめられる。だから、多くの人は他律性を嫌うのです。しかしながら...基本的人権≒個人の秩序。

  • 『街とその不確かな壁』

    読書。『街とその不確かな壁』村上春樹を読んだ。滑り出しは慎重な感じがしました。50ページくらいまで読むと、でももうすっぽりとその世界の内側に、いつの間にやら無自覚に深く入りこんでいることに気づきました。思いのほか森の奥まで足を踏み入れてしまっていたみたいに。そして、物語の中の時間の流れ方と読んでいる時の自分自身の時間流れ方が、すうっと同期していくその感覚がとても好ましい。__________というのは、その香りは私を知らず知らず深い夢想の世界に誘っていくように思えたからだ。人の心を枠組みのない世界に引き込んでいく気配がそこにはあった。(p270)__________という文章があるのですが、小説がまさに自己言及しているかのように感じられました。ぐうっと物語世界に引き込まれていく感覚が、まるでこの文章のよう...『街とその不確かな壁』

  • 精神疾患を地域で看るまでのその一歩は。

    精神疾患を地域で看る、というやり方は、精神疾患は自己責任や家庭の責任というよりも、どうやら社会の在り方が生むものだ、という気づきが、そのことについて市民が思索や議論をしてみたその果てに得られたから、というのはあるのではないかなあと思うんです。社会の在り方にはもちろん「秩序による排除作用」も含まれます。秩序って、それに沿わないものを矯正したり排除したりして保とうとする性質がありますから。ヨーロッパでは精神疾患を地域で看るといいますし、日本の精神医療は何十年も遅れているといいますし、そのあたりの違いは、市民の間で、社会の在り方や権力、秩序に対する思索・議論がどれだけなされたか、という部分での民度がものを言っているように思います。フランスでは難しい現代思想の本が、思いのほか売れるなどし、そこがフランスという国の...精神疾患を地域で看るまでのその一歩は。

  • 『小坂菜緒1st写真集 君は誰?』

    読書。『小坂菜緒1st写真集君は誰?』小坂菜緒撮影:藤原宏を眺めた。日向坂46のシングル曲で、もっともセンターに立った回数の多い小坂菜緒さんのファースト写真集。乃木坂46ウォッチャーの僕が日向坂46の小坂菜緒さんに心惹かれるようになったのは、日向坂46の3rdシングル『こんなに好きになっちゃっていいの?』のパフォーマンスをNHKの『坂道TV』で見たのがきっかけだったように思います。それでMVを見て、大好きになっちゃった。心の奥に秘めた強い意志が、静かに瞳の奥に宿っていて、でも立ち姿や歩く姿からはどことなく儚げで何かのきっかけで折れてしまいかねないかもしれないような印象を受けてしまう。でも、重責であるだろうセンターのポジションできっちりとパフォーマンスして躍動していて、すごいなあと見ていました。それに、やっ...『小坂菜緒1st写真集君は誰?』

  • 「note創作大賞2023」に応募しました。

    昨日から受付が開始された「note創作大賞2023」に応募しました。応募要項を読んでいると、エンタメ色がはっきりと打ち出された感じがします。また、オールジャンル部門以外には分量の規定もあり、前回よりも枠組みがくっきりとしたものになっています。僕は、今年の目標として純文学の新人賞に応募することを設定しています。9月下旬の締め切りで、夏場の暑い時期には執筆が無理なので、近々始めるつもりではあるのですが、ぎりぎりかなと踏んでいます。純文学という、ある種の生々しさを書きつけるような小説の試みを、あまり意識してやってきていませんから、苦闘するのがはじめから決まっているような執筆になりそうです。それでも、切り拓いていくつもりで書いていきます。で、note創作大賞2023ですが、この賞に向けた新しいエンタメ作品を2万字...「note創作大賞2023」に応募しました。

  • 『アダルト・チルドレン 自己責任の罠を抜け出し、私の人生を取り戻す』

    読書。『アダルト・チルドレン自己責任の罠を抜け出し、私の人生を取り戻す』信田さよ子を読んだ。帯に、<「私は親から被害を受けた」そう認めることが第一歩となる。>とあります。生きにくさを感じている人が、その原因はなんだろうと考えたとき、自分がAC(アダルト・チルドレン)だからなのではないか、と認識する。まずは、そういった自己認識が必要になるのでした。また、ACは世代で連鎖しやすく、それが怖くて家庭が持たなかったり子どもを作れなかったりする人たちがいます。ACには3つのタイプに大別されます。1・責任を負う子ども(責任者)、2・なだめる子ども(調整役)、3・順応する子ども(順応者)が、その3つです。以下に詳しく書いていきます。1(責任者)は、親が親の役割をとらない、つまり何かを決定しなければならないのに親が逃げて...『アダルト・チルドレン自己責任の罠を抜け出し、私の人生を取り戻す』

  • 『現代思想入門』

    読書。『現代思想入門』千葉雅也を読んだ。デリダ、ドゥルーズ、フーコーを中心に、フロイト、ラカン、ニーチェ、マルクスらにも遡り、レヴィナス、メイヤスー、マラブーらにも言及する、できるだけの平易な言葉で語られる現代思想の入門書です。本書の最後では、現代思想の読み方指南もあります。そこでは、まずデータをダウンロードするように読むことが大事だとされる。中途でいちいちツッコミをいれてはいけない、と。これは話を聞いているときと同じだ、とあります。僕はほんとうによく、読んでいる中途で「待て待て?」とツッコミをいれます。それをメモっておいて、こうして感想・書評を書くときに使うのです。マナー違反なんだよなあ、ということを改めて思い知ってしまいました(それでもやめませんが……)。どうして読んでいる最中にツッコミをいれてはいけ...『現代思想入門』

  • 『しろいろの街の、その骨の体温の』

    読書。『しろいろの街の、その骨の体温の』村田沙耶香を読んだ。ニュータウンに住まう主人公・結佳。彼女の小学生時代と中学生時代の二部構成の物語。ニュータウンの開発とその停滞、そしてまた開発が進んでいく様と、結佳の身体と心の成長のその様子が、静かにリンクして描かれていたりします。<今回は、ほぼネタバレとなっています。お気を付けください!!>黒子に徹しているような文体。静かにそうっと丁寧に、物語を文字にして記していったかのようです。著者は、水槽の中に登場人物や舞台となるところがあって、そこで起こることを眺めて書き移しているというようなことをテレビでおっしゃっていたのを見たことがあります。水槽というか、箱庭みたいな感じなのでしょうか。著者は小説世界が動いている水槽(あるいは箱庭)の中をかなり引いたところから見ていて...『しろいろの街の、その骨の体温の』

  • 坂本龍一さんへ。

    坂本龍一さんが亡くなられた。3月28日のことだったらしい。もう葬儀は近親者で済ませていての報道だった。僕は小学校高学年の頃に坂本龍一さんの音楽にドハマッて、以来、YMOと併せて130枚以上、プロデュース作品を併せるともっとになるのだけど、それだけのCDを集め、そして何千回も聴いてきました。好きな曲を一曲なんて挙げられないし、時期によって好きなアルバムは変わる。最初に買ったのは『メディア・バーン・ライブ』でした。たくさん本を読んでいらっしゃって、そういった、教養を積むことは当たり前なんだ、っていう感覚を、僕は坂本さんの姿から学びました。10代はずっと傾倒し、20代の半ばくらいからは、ちょっと考え方や思想面で合わないところがあることに気づいていき、その後は、彼の発言や考え方をより客観的に受け取るようになってい...坂本龍一さんへ。

  • 『【実践】 小説教室』

    読書。『【実践】小説教室』根本昌夫を読んだ。「海燕」「野生時代」の元編集長で、島田雅彦、吉本ばなな、小川洋子、角田光代、瀬名秀明らの作家デビューに立ち会った著者による小説指南書。著者は現在、小説教室を開き、多くの生徒を教えているそうです。そのなかには、芥川賞をダブル受賞した若竹千佐子さんと石井遊佳さんもいらっしゃったようです。僕も小説を書きますが、ふだん、原稿を書くことについて話をする人が、オフラインでもオンラインでもいないので、たまにこういった本を読むと、原稿書きの知己や先輩が得られたみたいな、そんな気持ちになり、楽しくなります。書いてある内容は、どれも腑に落ちます。こういった指南本では、「ほんとうにそうかな?」とか「ちょっと自分の感覚とはずれてるな」とか、自分でもある程度経験があるのに、その外側にあっ...『【実践】小説教室』

  • 『男、そのブログ愛』(自作小説)

    十二月の夜の外気が張り付いてきても、熱を帯びた頬は燃え盛り続けた。今日は散々な別れ方をした。だいたい史恵はきっちりしすぎだ。大学の講義やバイトの間の時間の使い方について、毎日おれの行動をあれこれ詮索するうえに、ちょっと連絡を忘れたくらいで、会った時には必ずむっすりふくれている。インスタント食の多かったおれの体を気遣って、炒め物なんかを作りに来てくれたり、自分の部屋で作った煮物なんかを持ってきてくれたり、史恵はほんとうにおれのことを考えてくれる人で感謝だってしてるし、会えば楽しいことは楽しいのだけど、最近、うっとうしいと思う瞬間も少々でてきた。二人の相性がぴったり合っていれば、付き合うための努力なんてそれほど要らないのかもしれない。もしくは、気が重くなるような種類の努力の要らないのが相性の良さというものなの...『男、そのブログ愛』(自作小説)

  • 『コンプレックス』

    読書。『コンプレックス』河合隼雄を読んだ。1971年発刊の名著。ユング派に属する心理療法者・河合隼雄さんによるコンプレックスに対する解説。はじめにはっきり申しますが、すごい本です。中身が濃く、圧倒されもするのですが、なかなかこれだけの本には巡り合うことはありません。読みだしこそ、「怖い」と思いました。「こうなったら異常!」というトラップ的なテストが張り巡らされているような気がしてです。でも、そんな低い次元での話ではなく、もっと底の方からえぐるように未知のもの(それは人間心理のこと)を考察したものを、こちらも同じ目線でくらいつき、かみ砕いて知るべく読み進めるような読書になりました。序盤ではこういった例が紹介されていました。父親がよく棒きれで自分を打ったこと、父親がわけもなく自分を打った後で、急に親切にするの...『コンプレックス』

  • 父性と母性から始まる思索。

    大人になれば、父性も母性も自分の中にあるようになる。言うことを聞くなら愛するという条件付きで愛する父性、無条件で愛する母性。どちらも丁度良くそこにあれば、人の成長を促し助けます。大人になっても母性を求めるなら幼少期に足りなかったのだろうし、父性を求めるならそれも足りなかったりいびつだったりしたのです。母性が足りなくても父性が足りなくても優劣はつけるものではないし、自らの中に母性・父性がちゃんとあってもマウント条件ではありません。必要であればなんとかしたらよいだけなのではないでしょうか。そこに優越や、優劣の差をつける見方は、社会構造や文化状況の影響で生まれるんだと思います。つまり、「ところ変われば品変わる」の言葉通りのようなもの。普遍的なものじゃないんです。生活していて、家族にしても外部からにしても、無条件...父性と母性から始まる思索。

  • 『さくら』

    読書。『さくら』西加奈子を読んだ。西加奈子さんの作品は直木賞受賞作の『サラバ!』の印象が強いのです。『さくら』とは順序が逆ですが、本作の作風はその『サラバ!』に近いと感じました。家族の物語なのもいっしょです。子ども時代だとか、まだ言語化がうまくないじゃないですか。その頃の空気感や感じたこと、そして出来事なんかは、たとえされても淡い言語化くらいで済んでしまって、それから日々を過ごしていくうちに記憶の果てへと少しずつ退場していくもの。本作品を読んでて思うのは、西加奈子さんという作家はそういった、言語化が淡いまま過ぎ去っていったあれこれを眼前によみがえらせながらその時期の感性を損なわない形で柔らかくなんだけどある程度しっかり再言語化して軟弱な意識の基盤みたいなものの強度をあげてくれるかのようだということ。自分自...『さくら』

  • 『入門 組織開発』

    読書。『入門組織開発』中村和彦を読んだ。組織には二つの側面がある。ハードな側面とソフトな側面がそれ。ハードな側面は部門・部署、制度・規律、職務内容と手順などの明文化されたもの。一方、ソフトな側面は、意識・モチベーション、コミュニケーション、信頼関係・影響関係など可視化されていない心理的側面。ハードな側面のほうはバブル崩壊後に大規模な変革が行われて今に至るそう。一方、ソフトな側面のほうは軽視している経営者が多いのではないか、とある。でも、このソフトな側面は重要なのです、というのが本書の出だしなのでした。組織開発とは、大きく、このハード面とソフト面を変革して、より合理的に利益を得ていけるようにすることと、働く人たちがより無駄なストレスなく活き活きと働くことができるようにすることを推し進めていくものです。組織開...『入門組織開発』

  • 『ソクラテスと朝食を 日常生活を哲学する』

    読書。『ソクラテスと朝食を日常生活を哲学する』ロバート・ロウランド・スミス鈴木晶訳を読んだ。朝起きて、身支度をして通勤し仕事をして昼食を食べてサボって……などという一日の起床から就寝までを18の章に分けて日常レベルの哲学をする本。その都度さまざまな学者を引用しますが、堅苦しさはありません。ちょっと難しいところはありますが、それでも平易な言葉遣いと分かりやすい論理で展開していくエッセイです。ただ今回は第2章の身支度の章でひっかかってしまうところがありました。朝、完璧に身支度しておく、また、前もってしておく、だとかは、自由度を下げるからよくない、と説いているのです。自由がないということは、悪くなる自由がないことでもあるけれども、良くなる自由もないということだから、と。でも、僕はおかしいと首を傾げたのです。朝の...『ソクラテスと朝食を日常生活を哲学する』

  • 憎まれる意味。

    自分が誰からも関心を持たれていない状態、つまり無関心にさらされた状態は、人間にとってそうとう危機的なものらしく、無関心にさらされていることを脳が察知すると被害妄想を作り上げるという話があります。そうまでして、無関心から逃れないといけないのです。(これは、イギリス在住のアメリカ人カウンセラーが書いたエッセイにでてきた話です)この、「無関心にさらされることは人にとってかなりヤバい状況」を踏まえながらなんですが、愛と憎しみは表裏一体なんてよく言われますよね、なぜかというと愛も憎しみもその人に深い関心を持つという点が一緒だからという理解の仕方がひとつあります。憎まれる人はどうしてそうなるのか。人にどうしても愛され得ないと感じた人が、自分の性格の中での「他者からの憎しみを買いやすいであろう部分」を強調していって、憎...憎まれる意味。

  • 「DV防止法改正案を閣議決定」から考える。

    「DV防止法改正案を閣議決定精神的暴力でも裁判所が保護命令へ」という記事をNHKニュースで読みました。<政府は身体的な暴力だけでなく、ことばや態度による精神的な暴力でも、裁判所が被害者に近づくことなどを禁止する「保護命令」を出せるようにするDV防止法の改正案を、24日の閣議で決定しました。>とあります。確かに必要だなと思ったのです。今までこういった精神面への暴力が身体面の暴力に比べて軽視されていたのですが、精神面へのダメージだって深刻なんですよね、という意識が具現化したものだからです。それに、実際面、そういう被害のある人が逃げるための逃げ道が細い道であっても無いよりはよっぽど良いのではないか、とちょっと単純かもしれないけれど、思うのでした。この逃げ道を補強するべく、NPOなんかが手助けしてくれるとより被害...「DV防止法改正案を閣議決定」から考える。

  • 『鉄壁の青空』(自作小説)

    逆さの青い空は、逆さの青い空なのに、なにも変なところがなくて、どう受け取ってみようとしてもまるで面白味がなかった。ぽつらぽつら、浮かぶ雲にだって、さして変哲というものが感じられないから、やっぱり面白くない。青い空と白い雲の群れにしてみれば、「だからなんなの」。空は、私がおかしいだけの話だ、と言わんばかりで、あるまじきほどの揺るぎなさだ。そうか、私がおかしいか。私は逆さの窓から外を眺めていた。床にあおむけになり顎を上げ、のけぞる様にして、頭側にある窓から空を覗いていたのだ。私は空に呆れた。あまりに無敵なんだもの。「どんな方向からのいかなる攻撃であっても私ども空には、1ミリの効果だってありません」。でも、雲くらいなら蹴散らせるな、と思う。「雲を蹴散らしたところで、私ども空にとってはなんの関係もないのですよ」。...『鉄壁の青空』(自作小説)

  • 『颶風の王』

    読書。『颶風の王』河﨑秋子を読んだ。明治の初めの頃でしょうか。東北の庄屋の娘が雪崩の被害に遭いながら、偶然生じた雪洞の中に乗ってきた馬と共にまぎれる。助けの望めないまま、長い間馬とその雪洞に過ごす娘は、空腹のためにその馬を食べ、生き延びるのだけれど……。娘が生んだ捨造は一頭の馬と共に開拓民を募集していた北海道に渡り、以後、根室にて主に馬の生産で食べていく。その捨造から5代にわたる家族の話です。力強いストーリーテリングでした。僕が通ってこなかった道に咲いている言葉の花たちを多く所持しているような著者、という印象がまずありました。時代小説として始まることもあり、その語彙の種類や言葉の用い方が、僕のカバーしていない領域にあるものみたいな感じなのでした。しかし、自分と近い言語感覚では無いから面白くはないということ...『颶風の王』

  • 『日本人のための日本語文法入門』

    読書。『日本人のための日本語文法入門』原沢伊都夫を読んだ。「日本語文法入門」だなんて、義務教育時代の国語授業を学び直す内容なのだろうな、と簡単に推測して買った本です。しかしながら、どうやらそういう中身ではなかったのでした。「どうやら」なんて言い方をするのは、僕が義務教育時代に、どうやって文法を教わったのかを、ほとんど覚えていないからです。「連用形」だとか「体言止め」だとかといった言葉は覚えていますが、文法といえば、どちらかというと英語文法のほうが頭に残っているほうです。さて。これまでみんなが国語で習ってきたものって「学校文法」と呼ばれていて、「日本語文法」とは区別されている、とあります。それでもって、日本語文法のほうが正しい、と。なぜか。学校文法は古文と現代語との連続性を考え、あえて論理的矛盾に目を瞑り、...『日本人のための日本語文法入門』

  • 『step Eguchi Hisashi Illustration Book』

    読書。『stepEguchiHisashiIllustrationBook』江口寿史を眺めた。漫画『ストップ!!ひばりくん!』の作者である江口寿史さんの作品集です。2015年以降のものを集めています。絵のポップセンスがすごい方ですよね。かわいくて、いろいろな意味でおしゃれな女の子たちをたくさん描いています。こういう種類のイラストを手掛ければ、並ぶ者などいないのではないかというほどの訴求力をお持ちだというか、考える間もなくズバンと鑑賞者の感性の内側に入ってくるというか。なんだか、とても好いなあと瞬時にこちらのセンスを刺激されるようなポップミュージック、それもかなりキャッチー。でも、ベタベタとしてこない一定の距離はきちんとある感じがします。描かれている女の子たちのコーディネートにしても、髪形にしても、持ってい...『stepEguchiHisashiIllustrationBook』

  • 『村上朝日堂』

    読書。『村上朝日堂』村上春樹安西水丸を読んだ。1984年刊。『日刊アルバイトニュース』に連載された、安西水丸さんが挿絵を手掛けた村上春樹さんのエッセイ。挿絵で1ページ、エッセイで2ページの計3ページが1篇の分量です。村上春樹さんって、思ってたよりもずっと外向的だなあ、とこのエッセイから感じられました。アウトサイダーってほどじゃないまともな感じがしてる。なんか、とっても健康なんです。80年代。こういった、くだらなさと嘘と雑学と気楽さとが混ざり合った空気感の創作物で笑ったり楽しんだりする、というのがおそらく生まれでたのが80年代ですよね。僕は77年生まれなので、物心ついてから小学校を卒業するまで80年代の(でも地方の)空気にどっぷりと染まって育ちました。だから、このエッセイを読むと、当時のどこか空っぽというか...『村上朝日堂』

  • 『恋しくて』

    読書。『恋しくて』村上春樹編訳を読んだ。海外文学プラス村上春樹さんの書下ろし一篇、あわせて十篇の恋愛短編アンソロジー。各章末に村上春樹さんによる短評と甘苦判定星評価付き。世の中には様々な種類の小説がありますが、やっぱり「王道」でも「ベタ」でも子どもがテーマでも大人がテーマでも、恋を扱う小説って多いですよね。純文学でもエンタメでもラノベでも、恋の占める割合は大きい。本書は、選者かつ訳者としての村上春樹さんが、そんな恋愛の短編小説、それも海外のもので未翻訳でそんなに古くないものを選び、さらにアンソロジーにするために努力して探し出した多数の掘り出しもの(?)をくわえて一冊にしたものです。巻末に村上さん本人が述べていますが、純文学的作家の恋愛作品はストレートじゃない筋の物語ばかりで、さらには恋愛の大人度のとても高...『恋しくて』

  • 『悪戯な双子たちの思い出』(自作小説)

    少し茶ばみの見え始めてきた網戸越しに虫の声の響いてくる九月初めの夜の深みの頃。僕はぬるいシャワーを浴びた後のとっちらかった濡れ髪にバスタオルをこすりつけながら、Tシャツとトランクス姿で誰もいない暗がりの居間に戻ってきた。そのままガラス製のテーブル上のリモコンを手に取り、壁際にあるテレビのスイッチをつける。画面から放たれる淡い光線が薄っぺらく部屋に漂った。隣の寝室で寝入っている妻の香奈子を気づかって、急いでその音量をしぼりにかかる。香奈子が起きないことを願うゆえに、音量が小さくなるまでの短い間、発せられる大きな話し声やBGMに息が止まってしまう。そうして香奈子の目覚めた気配がしないことを確かめると、ゆっくりとソファに身体を埋め、画面から放たれる淡い光を浴びた。すぐさま、尻が汗ばんでくる。傍らの扇風機のスイッ...『悪戯な双子たちの思い出』(自作小説)

  • いじめる側の人をマイノリティとしてケアすること。

    いじめた側よりもいじめられた側をカウンセリングしたり配置転換や転校をさせたり、働きかけるのはいつもいじめられた側だったりする。いじめた側は「ごめんなさい」とちょっとめそめそしたら「次、またやったらもっと罰があるぞ」くらいで終わる。いじめた側へのケアがないのだ。人をいじめてもケアされずに大人になって社会に出て、という流れがずっと続いているのだと思う。大昔から連綿と。そうやって大人になった人たちが是認される仕組みの社会だから、パワハラなどのハランスメントが多発するのではないだろうか。それは強さとはどういうものかという問いへの勘違いからきている。というか、あまりにも当たり前だから前提を疑う空隙すらなく勘違いしている。なぜって、いじめる側から大人になっていった人たちに重心が置かれた社会だから。いじめる側のほうがマ...いじめる側の人をマイノリティとしてケアすること。

  • 修行なのだけど本番のような執筆。

    昨年の12月に続いて、先月末からまた短い原稿に取り組んでいます。100枚だとか150枚だとかのある程度まとまった原稿に取り組む前に、執筆に慣れていこうというのが目的と言いますか。書きながら書きながら調子を上げていこうという算段なのでした。やっぱり、一つ書いてみると「こういうところがちょっとまずいのかな」だとか、アップしても反応を頂けないと「出来自体の質だろうか」だとか、いろいろ考える種が得られます。間隔が空くとよくわからなくなったりもするので、ちょこちょことまるで愛用の刃先を研ぐかのように小説脳の手入れをするみたいにそういった脳の部位を使っていった方がよさげです。そのぶん、読書が追い付いていきませんが、現在は3冊並行読みをしていて、まあひと月に読む冊数はこれまでと変わらないような気がします。で、現在の原稿...修行なのだけど本番のような執筆。

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