「俺は見ての通り、酒飲みだから」と、沢木さんは僕を見据えた。劣等感を冗談めかして露呈するような初老の男の振る舞いに、ぎこちなく笑みを返すことしかできなかった。「晩酌とか、するんですか?」かろうじてリアクションを言葉にすると、「そうね、だい
その警戒心の無さに驚き、思わず足を止めた。街灯の届かない舗道にたたずむ一匹の猫。いまにも眠ってしまいそうな微睡んだ目つきに、なぜかしら嫉妬心が湧き上がった。一思いに踏みつけてしまえば、この猫は死んでしまうのだろうか。毛並みに覆われ
怒号が上がった。駅ホームの静寂は、無関心を装うかのように男の咆哮を意に介さない。電車が動かないのは人身事故が原因らしいが、その人が死んだのか生きてるのか、男なのか女なのか、飛び降りなのか誤って転落したのか、それらの情報はない。怒号を発し
夜中の2時だった。気のせいかと思われた呼び鈴の音は、強い眠気の中で微かにもう一度響いた。隣の部屋の母親が起き出したらしい。僕は慌てて部屋を出て、母親を呼び止める。「いいよ、出なくて。 無視しよう」「お父さんかもしれないじゃない」
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