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大橋むつおのブログ
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2015/01/11

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  • 鳴かぬなら 信長転生記 171『赤壁・3』

    鳴かぬなら信長転生記171『赤壁・3』書籍範「婆さん、馬を下りろ、このお方は貴人だ!」栞ちゃんと変換する余裕もなく、悲鳴のように叫んでしまう。「ま、まことに失礼いたしました!」ここ何年もやったことが無い土下座の礼で詫びる。魏王様とか曹操様と呼ぶべきなのかもしれないが、様子を見ると現場監督か主任技師かと見まごうような軽い身なりでいらっしゃる。下手に御身分の分かる呼び方をしては障りがあるかもしれない!「いやいや、畏まらないでください。お察しの通りなんだが、いまはただ工事の進捗を見に来ただけです。仰々しい供の者も付けてはおりません。旅の途中で出会った工事関係者と思って下されればよろしいですから(^_^)」「ははぁ!」「どうぞお手を上げてください。そのように礼をされますと、我々も蹲踞の礼をとらなくてはならなくなり...鳴かぬなら信長転生記171『赤壁・3』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第114話《聖火ドロボー》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第114話《聖火ドロボー》さくら古い学校には伝説や言い伝えが付き物だ。佐伯君の乃木坂学院でもマッカーサーの机(『まどか乃木坂学院高校演劇部物語』に詳しく載っている)とか、どこにも通じない階段とかがあるそうだ。――さあ、六つ目よ!――下校時間も迫った5時過ぎ、米井さんのメールで、わたしたちは学校の玄関に集まった。「ここに、帝都女学院の六つ目の不思議があります!」ええぇ?わたしたちは玄関を見渡した。玄関に入って右側が事務室の窓口。左側には大きなショーケースがあって、優勝杯や優勝旗、なんかの感謝状や表彰状……この手のものは、うちぐらいに古い学校なら倉庫に一杯ぐらいある。その横に卒業生の彫刻家さんが寄付したというという制服少女の胸像と全身像、むかし制服改定の話が上がった時に寄贈されたら...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第114話《聖火ドロボー》

  • 銀河太平記・210『』

    銀河太平記・210『共同墓地』ミクちょっと息をのんだ。開拓初期に堀りつくした地下鉱山が史跡東京ドームほどの空洞になっていて、その空洞が丸ごと墓地になっている。印象は高校の修学旅行で傍を通った青山墓地。青々とした林の中に古色蒼然とした和式の墓石が並んでいる。医者であるわたしは基本的には生きた人間しか相手にしない。死者と関わるのは、検死で立ち会う、たいていはなりたてホヤホヤの死者。その先の葬儀や埋葬には立ち会ったことが無い。だから、墓地というのは今風のパルスコーティングした規格品が並んでいる無機質なイメージしかない。なんだけど、この共同墓地は、慎ましやかではあるけれど石でできた古典的な墓石だ。「うわぁ、地球から持ち込んだ墓石もあるぞぉ……」時代劇に出てきそうな墓石には『〇〇家』とか『△△家墓地』とか彫られてい...銀河太平記・210『』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第113話《たぬき蕎麦から見える日本の文化》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第113話《たぬき蕎麦から見える日本の文化》さくら帝都の学食の「たぬき蕎麦」はちょっと違う。ふつう「たぬき蕎麦」ってのは、かけ蕎麦の上に天かすが載っているものと決まっている。ところが、我が帝都女学院のそれは、かけ蕎麦にネギがドッチャリ入っている。120円と言う安さで、生徒に人気のメニュー。入学したころはびっくりしたけど、お手軽でビタミンたっぷりの優れもの。カウンターにはカイワレも載っていて自由に入れられる。別名「ビタミン蕎麦」とも言う。で、なんで、これが「たぬき蕎麦」なのか、食堂のオジサンはうんちくを垂れた。「ここの食堂任されたときに、なにか安うて特別なメニュー作ろ思て考えたんや。玉子は高いし、安うてボリュームあって、栄養のあるもん」「それがたぬき蕎麦なんですか?」「せや!」「...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第113話《たぬき蕎麦から見える日本の文化》

  • 勇者乙の天路歴程 008『始まりの駅から』

    勇者乙の天路歴程008『始まりの駅から』高校生の頃から五十余年乗り慣れたK電鉄、隣県に入るまでは複々線のはず。それが、列車が発車した後の鉄路は、いまどき我が県ではよほどの郡部にでも行かなければお目にかかれない単線だ。それに、駅舎が無い。ポツンと単式地上ホームがあるばかりで、ホームの前後には鉄路が伸びているが、左右は幼稚園の園庭ほどの地面が見えて、その先は草原のようなのだが、茫漠として灰色の闇に溶けている。景色が闇に溶けてさえいなければ、Nゲージのスターターセットを買って、取りあえず組み上げたという感じに近い。ホームには年季の入った行先案内板。そこには横長のT字の上に『始まりの駅』とあるのみで前後の駅名は書かれていない。そう言えば、ネットの都市伝説にあった『きさらぎ駅』というのがこんな感じだろうか。これが夢...勇者乙の天路歴程008『始まりの駅から』

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・087『春の大浜海岸』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記087『春の大浜海岸』桜が見ごろになったら江ノ島か鎌倉に行ってみようということになった。その桜は令和でもまだ蕾は堅い。地球温暖化とか言われるけど、おおよそ昭和と変わらない。二月は初夏か!?と思うくらいの日があったけど、三月はけっこう寒くて、先日女バレの部室に寄って令和に戻った時なんか戻り橋を渡り終えたところでブルっと震えてしまった。いつだったか、お祖母ちゃんと話したことがある。「二酸化炭素の95%」「ええ、そんなに出してんの!?」出してるとは、人類がバカみたいに出してる二酸化炭素が全体の95%かと思った。「逆よ、95%が自然界から出てるのよ。生物の吐く息とか腐敗とか、火山の爆発とか、人類が出してるのは5%、せいぜい6%」「うっそー!」「その5%のうち、日本が出してるの...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・087『春の大浜海岸』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第112話《水飲み機とついてくる足音!》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第112話《水飲み機とついてくる足音!》さくら誰も触らないのに水飲み機から放物線を描いて水が飛び出した!まるで透明人間が水を飲んでいるように(;'∀')!「東京大空襲で焼け死んだ人たちが、水を求めてやってくるのよ」米井さんは、怖そうなことを天気予報の解説のようにお気楽に言う。聞いた瞬間は「そうなんだ」だけど、数秒後に頭が理解して、俄然怖くなる。これは、あたしたち女子高生が、いかに人の話をいい加減に聞いているかの現れ。人が話したら、とりあず「はい」とか「そうなんだ」を息を吐くように無意識ってか、無神経に言う。これは「まず、お返事しましょう」という保育所時代から仕込まれた動物的な条件反射。そんで帝都で仕込まれた『明朗・闊達・品性』の指導の賜物。「人の話には、まず明るく素早く返事をし...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第112話《水飲み機とついてくる足音!》

  • やくもあやかし物語2・037『交換手さんの提案』

    やくもあやかし物語2035『交換手さんの提案』デラシネは言葉にしようと、二回息を吸って吐き出した。ハーーー思いを伝えようとしてるんだけど、言葉が見つからない。あるいは、言葉にしたとたん心か身体か、あるいは、その両方が壊れるか暴れるかしそうで踏み出せないみたいで、二度目は両手に顔を伏せてしまった。お母さんが言ってた――水泳の授業でね、なかなか飛び込めなかった――って――飛び込むと自分の中にいる魔性の者が蘇ってプールも学校も破壊してしまいそうだった――って。自分では「お母さんは魔法使いの子孫だからね、プールなんかに飛び込んだら、それが蘇ってプールも学校もめちゃくちゃにしてしまう!」とか言って、わたしにもそういうものがある的なニュアンスだったけど、あれは、根性なしの言いわけ。だいいち、お母さんと血のつながりは無...やくもあやかし物語2・037『交換手さんの提案』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第111話《四ノ宮青年の正体》さくらヘルメットを脱いだ顔に驚いた!それは渡辺謙を若くして、少しバタ臭くしたハーフっぽいイケメンなのだ。それに、耳がすこし大きい。思わず見つめてしまった。「ああ、自分ハーフエルフだから」ええ(゚Д゚)!?「妹はフリー〇ンていって、魔王をやっつけたあと、魔導書を集めながら仲間と北の国を目指してる」は、はあ……「四之宮クン、こないだはヴァルカン人とか言ってなかったぁ」測量技師のおじさんがジト目で言う。「アハハ、近ごろはスタートレック知らない子もいるからぁ」「な、なんだ(^_^;)」「信じたぁ(^・^;)」「びっくりしたぁ(^○^;)」「ここ昔はうちの屋敷があったんだ……」あっさり言った……え、エルフのお屋敷!?「……あの、聞いてる?」「あ、はい。もちろ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》

  • 勇者乙の天路歴程 007『始まりの駅』

    勇者乙の天路歴程007『始まりの駅』駅まで全力疾走!発車まで2分を切っている。ここからなら歩いて8分、走って4分。もっとも還暦を過ぎてからは10メートル以上走ったことが無い。10メートルというのは、自宅最寄りの駅横の踏切。駅向こうの床屋に行こうとして上がったばかりの遮断機を潜ると、とたんに警報機が鳴りだした。戻るのも業腹で、それで走ったのが数年前だったか。今は踏切横のエレベーターで上り下りして、踏切そのものを忌避している。若いころでも3分は切れなかっただろう。それを2分は絶対無理なんだが、どうも体は身体能力のピークであった高校時代のそれを超えている。ゲームの一人称視点のように、見える自分は手足と、せいぜい胸元まで。腎臓結石の手術の後リハビリを怠ったので、左腹側部の筋肉が戻らなくて、そう太っているわけでもな...勇者乙の天路歴程007『始まりの駅』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 170『赤壁・2』

    鳴かぬなら信長転生記170『赤壁・2』書籍範赤壁は魏と呉の境を流れる長江の上流にある。魏王曹操様のご提案で大法話が開かれる河原よりも上流にある。両岸には高々と天然の岸壁が聳え、その岩肌が赤みを帯びているので古くから赤壁と呼ばれている。むろん全てが岸壁では無くて、岸壁の切れ目や後退しているところには小規模の船着き場が設けられていて、下流域ほどではないが人の往来や物資の流れがある。大軍の渡河には向いていないが複数の切れ目から同時に侵攻させるか、あるいは上流・下流より船団を進めて兵を上陸させることは可能だ。ただ、優れた指揮官と軍師の存在があればのことだが。「あら、あなた、なにか工事をやっていますよ。音が聞こえる!」ドドドドガガガガガカーンカーンブルルルルー歳の割には耳と目の良いかみさんが声を弾ませる。かみさんは...鳴かぬなら信長転生記170『赤壁・2』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》さくらビー玉の群れは、ゾロゾロと北門の坂道を転がっていった。「「「「「ふっしぎー!!」」」」」みんなが、一斉に声を上げた。七不思議の最初、北門の重力異常の撮影に取り掛かっている。どう見ても北門の位置が低く、校舎側が高くなっているように見える。だのにビー玉の群れは、北門から校舎に向かって転がっていく。なんか遊園地のトリックハウスのようだ。「これは、トリックハウスの原理よ!」理系の成績トップの松坂莉乃が指を立てる。「いいこと、このアプローチの道幅、校舎側の方が細くできているの。他にも植木の高さを意図的に刈り込んで、校舎側が高く見えるようにしてあるのよ。このアプローチも微妙に曲がってるじゃん。そのへんにも秘密があると思う」「あたし試してみるで」バレ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》

  • 銀河太平記・209『恩師の消息・2』

    銀河太平記・209『恩師の消息・2』ミク「先生、空港のメディカルゲートで引っかかって……」「検査の途中で抜け出してしまったんです。あ、こんなナリですが、公務ではないんです。任務中にミクに呼び出されて、軍服のまま飛び出してきたもんですから」「じつは……」空港からここまでの話をすると、オヤジさんは「そうですか」と腕組みしたまま立ち上がった。「この界隈は訳ありのもんが多くて……」そう言うと、オヤジさんは棚から博物館にでもありそうなごっつい台帳を取り出した。バサリ開くと、風が起こってお茶の湯気をたなびかせ、紙の匂いが立ち上がる。なんだか、伝説の昭和を舞台にした古典映画の中に潜り込んだみたいだ。「いっぱい書き込みがしてありますね……」「アフターサービスというか……お世話させていただいたお客さんとは、その後も付き合っ...銀河太平記・209『恩師の消息・2』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第109話《帝都女学院七不思議・1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第109話《帝都女学院七不思議・1》さくらシリコン騒ぎで『ゴジラ』は観損ねてしまった。「またこんど連れてってやるから」そう言って、玄関で靴履くときは自衛官の顔に戻っていた。「なんかもう『対空戦闘ヨーイ!』って顔だよ」「それはいかんなあ」自分の頬っぺたをスイッチみたいに捻って、いつもの倍ほど緩い顔になって出て行った。「ま、辛抱しなよ。機密漏えいを未然に防いだんだからさ。ゴジラならブルーレイ出たら買ってきてやるから」「あたしは、映画館で観たいの!」「高校生は、そこまで贅沢言うもんじゃないの」「へいへい」「エイ!」さつき姉も一発気合いを入れると、ホンダZに乗って大学だかバイトだかに行ってしまった。で、いささかプリプリしながら学校へ。時間が無いので、いつもの裏路地を通って駅にいく。もう...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第109話《帝都女学院七不思議・1》

  • やくもあやかし物語2・035『デラシネに向き合う・2』

    やくもあやかし物語2035『デラシネに向き合う・2』「なあ、これってハイジのおかげなんだろ!?」ポコン!「イッテエなあもう」「今度言ったら、殺す」「わ、分かってるけどよぉ」これでもう五回目くらい。学校の庭で詩(ことは)さんが歩く練習をしている。介添えは王女さま、時どきソフィー先生。二人とも日本にいたころからのお友だち。先週、ハイジと男子が木登りしてて、調子に乗ったハイジがお猿みたいに落っこちた。その瞬間を、この窓から見ていた詩さんは、ビックリした拍子に自分の脚で立ち上がったんだ。その時、庭の端っこで見ていたデラシネが疾風みたいに飛んできてハイジを受け止めた。でも、デラシネはわたし以外には見えないから、みんな、ハイジは魔法かなんかで助かったと思っている。それと、詩さんが自分の脚で立ち上がったことと合わせて、...やくもあやかし物語2・035『デラシネに向き合う・2』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第108話《シリコンの秘密》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第108話《シリコンの秘密》惣一大容量メモリーには、とんでもないものが入っていた。どうしたものか案じた末に、ある処理をして、さつきに返した。「え、シリコンから取り出してないの?」「ああ、ちょっとヤバイものじゃないかと思ってな。多分近々警察が来る。提出を求められたら素直に出すんだ……いや、元通りバンパーに貼っておこう」しかし、この貼り直しが難しい(;'△')。どうやら交差点でぶつかりかけた車から、特殊な銃のようなもので吹きつけられている。貼りついた角度は速度を持った分、角度を持っていたし、飛沫も着いていた。うわ!?悩んでいるといきなり肩を押されてメモリーカード入りのシリコンは上手い具合に擦れてバンパーにくっついた。「ねえ、ソーニー、ゴジラ観に行こうよぉ。アカデミー賞取ったんだから...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第108話《シリコンの秘密》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・086『女バレの部室』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記086『女バレの部室』月に一度バイトのギャラをもらいに行く。いつもは学校の帰りに寄っていくんだけど、春休みだし、この三日間は入試業務で生徒の立ち入りは制限されてるんで、わざわざ行く。それでもいちおう制服。正門の前まで行って入れるんなら中庭とかで日向ぼっこしてもいいかなあと思ってる。直美さんは雑誌の仕事で居なくて、マスターにいただく。マスターとはあまり会話にならないのでお礼言って、受け取りにハンコ捺いて学校に向かう。よしよし。正門に入る前から部活の生徒が見えたんで安心して入る。校舎の入り口には『教職員以外立ち入り禁止』の張り紙がしてある。こういう張り紙は令和ではパソコンで打ち出した機械の文字だけど、昭和では手書きだよ。禁止の止の字なんか、最後の横棒にグッと力が入っていて...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・086『女バレの部室』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第107話《大容量メモリー》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第107話《大容量メモリー》惣一船を降りるとアキバで潮っけを抜いて帰る。といっても一杯ひっかけるわけじゃない。ちょっと遠回りして秋葉原に寄る。ラジ館をメインにうろうろする。オレの乗っている艦は「あかぎ」という海自最大最新のヘリ搭載護衛艦で、やっと慣熟公試が終わったところである。新造艦の公試というのは、並の艦の倍はくたびれる。今日の潮抜きは長くなるかもしれない。ラジ館は、天下に名の知れたオタクのメッカだ。昔は名前の通りラジオから電子部品まで扱う電子部品や電器会社のアンテナショップが入っていたが、今世紀に入って漫画、トレーディングカード、フィギュアを扱う店ばかりになった。今年の上半期でかなりの新製品が出たので、楽しみに寄ってみた。イベントフロアーでは懐かしのウルトラマンショーをやっ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第107話《大容量メモリー》

  • 勇者乙の天路歴程 006『出発』

    勇者乙の天路歴程006『出発』「ということでよろしくお願いします(^▽^)!」「わ!?」たった今まで静岡あやねが立っていたところに古代衣装がワープしてきた!「アハハ、いまの生徒さんの馬力で復活して、残りの『勇者の素』もダウンロードできちゃいましたよ」「あ……」胸元が明るくなったかと思うと、胸のところで青い光が明滅している。「では、インストール!」「あ、ああ……」ブルンブルブルブル!公園が回る、いや、わたしが回っている!「目をつぶって!酔っちゃうから!」「は、はひぃ!」子どもの頃、公園の回転遊具に乗せられて、みんなにぶん回された感覚が蘇る。そうだ、あの時もKちゃんが「いちろー!目をつぶってぇ!」と叫んでいたっけ。目をつぶって、これ以上は目をつぶっても酔ってしまうというところで、ようやく落ち着く。「はい、もう...勇者乙の天路歴程006『出発』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 169『赤壁・1』

    鳴かぬなら信長転生記169『赤壁・1』書籍範大橋(だいきょう)さんには感謝するばかりだ。本来なら『大橋さん』などと気安く呼べるお方ではない。豊盃羽沙壽(ほうはいぱさじゅ)のオーナーで、自由都市豊盃で一目も二目も置かれる商人であるばかりでなく文化的リーダー。パサージュという新しい業態で、豊盃楼(豊盃ビル)を生き返らせ豊盃一お洒落な商業施設にしてくださった。お蔭で、閉店寸前だったわたしの店もパサージュの中央路に移って望外の繁盛。繁盛しすぎて老夫婦では回し切れなくなり、もう若い人に譲ろうかと思った時。わたしを店主にしたまま自分の店になさって、なんと家賃まで払ってくださる。「全部譲られてはお寂しいでしょ」と、店の一画を新聞と雑誌のコーナーにしてくださった。それに、大橋さんは呉の孫策公の妃である。元々は喬公の姫で喬...鳴かぬなら信長転生記169『赤壁・1』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第106話《車をあてがわれて妹を拾う》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第106話《車をあてがわれて妹を拾う》さつきあたし学生なんですけどぉ。思わず口ごたえしてしまった。原稿は、いつもパソコンで送るんだけど、月に二度ほど映画のチケをもらうのとギャラをもらいに出版社に顔を出す。ギャラは本来振込なんだけど、以前二度ほど振込を忘れられて危うくノーギャラで仕事をするところだったので、それからは手渡しにしてもらってる。で、なんで今さら学生であることを強調しなきゃならないかというと。「さつき君、しばらく車で仕事してくれない?」と、編集長に言われたから。車を使えってのは、評論のゴーストライターの仕事以外に取材とかの仕事が入るということで、ほとんど本業の記者と同じ仕事をしろと言われていることと同じだ。怖さ半分、興味半分だったけど、一番の問題はギャラだ。仕事だけ増え...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第106話《車をあてがわれて妹を拾う》

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第105話《お御籤に超吉ってあるんですか?》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第105話《お御籤に超吉ってあるんですか?》さくら「……戸籍謄本を見てしまったの」数分の沈黙のあと、米井さんが口にしたのは理解不能な一言だった。そして、そのあとまた沈黙になってしまったので訳が分からない。「じゃ、先生が話すけど、いい?」米井さんは黙って頷いた。口を開いたら自分が爆発してしまいそうで、何かを必死で堪えているのがわかる。「去年、乃木坂の文化祭に行って、米井さんは佐伯君と付き合うようになったの。それで、付き合いは順調に進んで、二人は、とてもいい友達になった……とても大事なね」ここまでは当たり前に理解できた。Tデパートで見かけた二人は、そのとても大事を通り越して、身内のようにお気楽な状態で、そういう関係に夢を重ねてしまうあたしたちには、つまらないものだった。「念のため、...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第105話《お御籤に超吉ってあるんですか?》

  • 勇者乙の天路歴程 005『静岡あやね』

    勇者乙の天路歴程005『静岡あやね』先生!中村先生!驚いて首をひねると、公園の生垣の向こう、こちらに走って来る女生徒。「ああ、よかった、間に、間に合ったぁ!」公園に入って来ると膝に両手をついてゼーゼー肩を上下させる。ええと……あ、そうだ二年三組の静岡あやねだ。「あはは、たいへんな勢いだねぇ」「ちょっと失礼します」わたしの前を横切ったかと思うと水飲み場の水道に向かう。片手で髪を庇ってグビグビ……教室では目立たない大人しい子だったけど、こうやって喉をあらわにして水を飲む姿は相応に健康的で色っぽい。「あ、すみません、お待たせしました」ハンカチで口を拭うと、こちらを向いて姿勢を正した。「屋上でボンヤリしてたら先生が見えて、ご挨拶しとかなきゃって」「ああ、そうか、それはそれは」こういう時は、きちんと正対してやらなけ...勇者乙の天路歴程005『静岡あやね』

  • 銀河太平記・208『恩師の消息・1』

    銀河太平記・208『恩師の消息・1』ミクゴールデン街は月面開発の初期にできたバラック街がもとになっているので、スリッパのあるメインストリート(と言っても道幅は車がやっと通れる程度)以外は狭いし込み入っているし、月に来て四年にしかならないわたしにはメインストリート以外はラビリンス同然。一緒に歩いている三等軍曹のダッシュも似たり寄ったり。まあ、それでも示してもらったあたりは記憶にあるので、なんとか……と思ったけど、甘かった(^_^;)「ええ、ハンベじゃこの先も道のはずだぞ」「マップなんて役に立たないわよ、かえって混乱するから見ない方がいいわよ」と言いながら、わたしも戸惑っている。周温雷のオッサンを案内してから間は無いんだけど、もう様子が変わっている。かつて路地だったところに大人のおもちゃの店ができてるし、荷物...銀河太平記・208『恩師の消息・1』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第104話《星に願いを……1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第104話《星に願いを……1》さくら「わたしじゃないわよ!」チェ-ンメールをよこしてきたA子に学校で聞いた、むろん米井さんには分からないように。で、A子から、チェーンメールを送ってきた子を聞いて、その子にあたる。そんなことを五回繰り返して、元々の発信者E子にたどり着いた。村野美穂という一年のときの同級生だ。三つ隣のクラスにいる美穂に問い詰めたとき、美穂は不思議そうな顔で言った。「なに言ってんの。最初によこしたのさくらじゃんよ」絶句した。「え……?」「だって、ほらぁ」「そんな馬鹿な……」村野美穂が見せてくれた着信履歴は、確かにあたしのアドレスだった。あたしは軽いパニックになった。「そんな……あたし、こんなの送ってないし。それに自分が写りこんでる写メは、だれか他の人間が撮ったってこ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第104話《星に願いを……1》

  • やくもあやかし物語2・034『デラシネに向き合う・1』

    やくもあやかし物語2034『デラシネに向き合う・1』詩(ことは)さんは大事を取って王立病院に検査入院したよ。ハイジ!?ハイジが木から落ちてみんなが悲鳴を上げて、わたしの部屋に来ていた詩さんは、王女さまといっしょに窓の外を見た。その時、詩さんは窓辺に手を突いてだったけど、自分の脚で立ったんだ。それは『アルプスの少女ハイジ』でクララが立ち上がった時みたいに衝撃的だった。すぐに、木から落ちた猿、いや、ハイジと一緒に王室医師のフレデリック先生が診て下さったんだけど「奇跡です!」と喜んでいたんだけど、念のための検査。「ハイジも検査かぁ(^▽^)/」喜んで手を挙げたハイジは頭をコツンとやられておしまい。――ありがとう、デラシネ――心の中でお礼を言うと、デラシネは顔を真っ赤にして行ってしまった。よかった、通じてはいるん...やくもあやかし物語2・034『デラシネに向き合う・1』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第103話《妹と書評と蒙古斑》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第103話《妹と書評と蒙古斑》さつき「さすがに蒙古斑は無くなったみたいだな」カチャリお父さんは握ったままのドアノブを戻して出ていった。娘とはいえ、スッポンポンの姿を見てしまったバツの悪さを上手くかわしていった。あたしは穿き替えのパンツつかんで、脱衣場に向かった。「ねえ、佐伯君のこと知ってんの?ねえ?」後ろから、さくらが付いてきてしきりに聞く。だけど、パンツ穿いてパジャマ着ながら思った。佐伯君のことは、さくら自身が米井由美とかいう子から直接聞くべきだ。第一に、あたしにはボランティアとは言いながら守秘義務がある。それにあたしから聞いたということになると佐伯君も米井さんも傷つくだろう。むろん、さくら自身も。さくら自身はけして人間関係の下手な子じゃない。でも得手不得手な相手がいるようで...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第103話《妹と書評と蒙古斑》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・085『百歳の記念写真』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記085『百歳の記念写真』今日は入試で学校は休み。思えば一年前、令和の宮之森を受けて、いろいろあって、昭和の宮之森に越境入学。いろいろあって越境したからいろいろ想いはあるんだけど。それは置いておいて、今日は須之内写真館のアルバイト。「記念写真て、普通は写真館のスタジオで撮りません?」ホンダZのハッチバックに機材を積みながら直美さんに聞く。てっきり、いつもの結婚式場かと思ったら、微妙に機材が違うので聞いたのよ。個人の記念写真、七五三とか成人式とか、なにかのお祝いで記念写真を撮るときは、たいていお客さんは写真館に来て、スタジオで撮る。「うん、百歳のお婆ちゃんだからね」「ああ……」「しっかりしてらっしゃるんだけど、お歳だから、ご家族も心配されてね」「ああ、なるほど(^_^;)...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・085『百歳の記念写真』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第102話《チェーンメール》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第102話《チェーンメール》さくら「あのね、お姉ちゃん」マクサにも言わなかったけど、そのまま胸にしまい込めるほど佐倉さくらは人格者ではない。お風呂に入ろうとしてるお姉ちゃんに言った。「他に見てたやつがいるに決まってんじゃない。さくらが写ってる写真があるんだから、クールダウンしたら米井さんも分かるって」「だって」「こういうのは、騒がないことが一番なのよ」「でもねぇ……」「あたし、今日はボランティアで汗みずくなの。とりあえずお風呂に入らせて!」お姉ちゃんは、そそくさとお風呂に行った。なにか見落としが無いか、ヒントが無いか……メールやSNSの履歴を指で繰る。100回ほどスクロールして指が攣りかけたころ、スマホが鳴ってお手玉してしまう。ウワワワ(;'∀')……ええ!?なんと、米井さんと...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第102話《チェーンメール》

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第101話《え ちょっとなに?》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第101話《えちょっとなに?》さくら「え、ちょっとなに?」いきなり米井由美に手をひっぱられて廊下に連れ出され、そう言うのが精いっぱいだった。「さくらは、がさつで女らしくない!」と常々言われる。流行りの若者言葉は嫌いだ。「暑!」「眠!」「寒!」「やば!」などの『いぬき言葉』なんかは使わない。あ、世間で言う『いぬき言葉』は違う。世間で言うのは「お世話になっています」を「お世話になってます」という感じに言葉の途中の「い」を省略する『いぬき言葉』。カジュアル過ぎて、接客とか目上の人相手には失礼なので使ってはいけないんだそうだ。あたしがダメだと思うのは、言葉の最後に付ける「い」。文法用語では終助詞とかいうらしい。あたしが気になる「いぬき言葉は」単に終助詞の省略じゃない。「暑!」「眠!」「...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第101話《えちょっとなに?》

  • 勇者乙の天路歴程 004『高御産巣日神』

    勇者乙の天路歴程004『高御産巣日神』わらわは……身は……我は……余は……ううん、久々ゆえ、己が身の謂いようにも困るのう……口をきいたかと思うと、古代衣装は一人称を決めかねてブツブツ言うのみ。「しばし待ちや、これよりは令和の言の葉に変換いたすゆえ……」ブゥーンマブチモーターが回るような音がしたかと思うと、古代衣装の瞳がスロットマシーンのように回り出し、五秒ほどで一回り大きな瞳になって停まる。同時に表情もNHKの女子アナのように柔らかくなる。「おまたせいたしました。わたしは、この地に長らく住んでおります、タカムスビノカミと申します」「タカムスビノカミ……」記憶にはあるのだが……かなり古い神さまということしか浮かんでこない。「中村さんは社会の先生なので、お分かりになると思うのですがぁ……」「え、わたしのことご...勇者乙の天路歴程004『高御産巣日神』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第100話《モスラ~ヤ モスラ》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第100話《モスラ~ヤモスラ》さくら夏休みは、ほとんど成果とか成長とかからは無縁で終わってしまった。毎年のことだけど。でも、まったく無かったわけでもない。しいて挙げれば二個ある。一つがピーナッツを発見したこと。YouTubeを見ていたら偶然「発見」した。アカぬけきっていあない少女たちが、ピーナッツの「情熱の花」と「ふりむかないで」歌って踊っている。少女たちのユニットをピンクピーナッツっていうんだけど、彼女たちを通して元祖ピーナッツに目覚めた。ピーナッツには昭和の力がこもっていると思う。根拠はないよ。何年か前にナントカってデュオがピーナッツをリカバーライブ、お父さんが照れ隠しにあたしを連れて行った。「いやあ、娘が見たいって言うもんですから」という言い訳のため。落語で似たようなのが...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第100話《モスラ~ヤモスラ》

  • 鳴かぬなら 信長転生記 168『饒舌な孔明』

    鳴かぬなら信長転生記168『饒舌な孔明』信長――かまわぬ、講堂にお通ししなさい――頭の緊箍児(きんこじ)がささやいた。緊箍児は一言主(ひとことぬし)で、木偶の三蔵法師を操っている。その一言主が言うのだから、言うことに間違いはない。俺が孔明を出迎えて対応しているうちに講堂に向かったんだ。「いやあ、さすがは自由都市豊盃。噂には聞いておりましたが、豊盃寺、なかなかの名刹ですなあ」羽団扇を戦がせながら社交辞令を言う孔明。「良き寺というのは、秩序を具現させております。塔は釈迦牟尼の墓を現し、金堂は、僧や衆生が拠り所とする本尊仏と脇侍を祀ります。人は目に見える形を通して物事を理解します。それゆえ3Dのフィギュアに過ぎぬ仏像に拝跪するのですが、その精神性は塔によって担保されます。それを回廊をもって取り巻き聖域となし、そ...鳴かぬなら信長転生記168『饒舌な孔明』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第99話《ふたたびの始まり》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第99話《ふたたびの始まり》さくら女子バレーボールワールドグランプリで、日本代表は強豪ロシアを撃破した。そして、夕べはブラジルを破って波に乗っているトルコをも3セットで落とした!バレーなんて体育の授業でしかやったことないけど、同じ日本の女性として胸が熱くなった。恵里奈は、文字通り帝都女学院バレー部のセッターなので――見た!!見た!?勝った!!――と、顔文字も付けず興奮丸出しのメールを送ってきた。――やったね!日本の女は大したもんだ(≧∇≦*)/!――と返しておいた。それから気分よくお風呂に入って、頭にタオル巻き付けて洗面でガシガシ歯を磨く。鏡の前には当然若いということだけが取り柄の、たいして美人でも可愛くもない自分の顔が映っている。オデコのニキビも芯が抜けて峠を越えた感じ。よし...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第99話《ふたたびの始まり》

  • 銀河太平記・207『恩師を探してゴールデン街』

    銀河太平記・207『恩師を探してゴールデン街』ミク高機動車は軍用車両なんで、駐禁の制約なんかないんだけども、大人しくピタゴラス第二駐車場に停める。第二駐車場はゴールデン街最寄りの駐車場で利用者が多い。こんなところで軍用特権を使うと、微妙に不満を持たれ、その積み重ねが市民の不満をかってしまい、有事の軍事行動の障りになる。「派出所からまわるか?」「ううん、心当たりがあるから」パーキングメーターにハンベをかざして登録を済ませ、ダッシュと二人、駐車場の出口に向かう。「やっぱり裏筋からあたるのか?」「あ……なんとなくの勘」そう応えながら、この捜索はなるべく記録に残らない方法をとらなければと思っている。半年前に知り合った周温雷を思い出す。気持ちのいいオッサンだったけど、通信ケーブル点検のバイト中に姿を消した。ピタゴラ...銀河太平記・207『恩師を探してゴールデン街』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第98話《アイドリングな日々・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第98話《アイドリングな日々・2》さくら「お暑い中、わざわざの取材ありがとうございます」帝都ドールの社長さんは、70ちょっとぐらいの実直そうなオジサンだ。この年代はオジサンとオジィサンに分かれるけど、確実にオジサン。まだまだ元気で頑張ってますって現役オーラがムンムン。「ちょっとびっくりさせたかもしれませんけど、まだまだこれからです。お二人とも目をつぶって両手を出してもらえますか……」言われるままに、目をつぶってプレゼントをもらうように両手を出した。「「ヒャッ!」」はるかさんもあたしも似たような声を上げた。冷やっこくってプニプニしたものが手の上に置かれたから。目を開けて、もう一回「ヒヤッ!」と「エエ!?」あたしの手の上には心臓、はるかさんの手の上には腎臓が載っていた。「医療教育用...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第98話《アイドリングな日々・2》

  • やくもあやかし物語2・033『階段で怪我をした』

    やくもあやかし物語2033『階段で怪我をした』もう一段あると思って脚を下ろしたら一階の床だった。グニュみごとに足をグネってしまって立ち上がれなくなってしまった(;'∀')で、今日は授業も休んで、部屋で大人しくしている(^_^;)。月が改まると、出番を思い出した役者が勢いつけて舞台に現れたみたいに、急に春めいてきた。森の木々たちも、心なしフワフワして見えるし、植えて間もないヒメシャラも幼木ながらツヤツヤしくて、うっかり蝶々が留まったら、ツルンと滑ってしまいそう。昼休には、お仲間の生徒たちも外に出てノビをしたり大あくびをしたり。ああ、外に出たいなあ……出窓に腰掛けて独り言を言ってみたりする。プルルルル黒電話が優しく鳴って、松葉杖を軸に振り返って受話器を取る。「もしもし」『あ、交換手です。退屈しているようなので...やくもあやかし物語2・033『階段で怪我をした』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第97話《アイドリングな日々・1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第97話《アイドリングな日々・1》さくらあたしは、このごろアイドリングのような毎日だ。『長徳寺の終戦ファーストレインボウ』の仕事以来、ドラマや映画の仕事が無い。かと言って、まとまった休みが取れるわけでもない。ワイドショーやトーク番組、ラジオの仕事などが単発で入っている。いわばアイドリング状態。この日は『プロフェッショナル日本』という番組のロケ取材だった。タイトルは地味だけど、関東ローカルで18ぐらいの数字を取っている。8月放送分からは全国ネットになる。その記念すべき第一回のレポーターに、あたしが選ばれた。むろんメインではない。メインレポーターは『はるかワケあり転校生の7カ月』でいっしょになった坂東はるかさん。『世界一のドール制作』というのが今回のテーマで、気楽なお人形さんの取材...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第97話《アイドリングな日々・1》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・084『破られた卒業証書』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記084『破られた卒業証書』え(;゚Д゚)(;゚ω゚)(゚ω゚;(゚Д゚;)(゚ω゚;)!?五人そろって驚いた。例えていうと、角を曲がったらバラバラ死体に出くわした感じ。死体になんか出くわしたことないけど、体中の体毛が総毛だって、お尻と足の裏がゾワってする感じ。こないだは作法室でMITAKAをやったんだけど、卒業式の今日は、仲間五人、教室で女子会をやっている。卒業式には、在校生の一部の参加で、わたしたちは関係ない。式の最中ぐらいに教室に集まって、学年はじめにもらった年間行事予定表を元に「入学式は……」とか「衣替えのころは……」とか「試験の最終日にぃ……」とか言って懐かしんでた。ただ単に「この一年振り返ってぇ」とか言うよりも、行事に則した方が記憶も思い出も生き生きしてくる...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・084『破られた卒業証書』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第96話《さつき今日この頃・4》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第96話《さつき今日この頃・4》さつき恩華は四ノ宮家でアルバイトすることになった。忠八クンが雇うわけではない。以前よりは実家にいるとは言え冴えない文二の東大生。学校とアルバイト、そして、アパートと実家での二重生活に違いはなかった。お嫁さんの文桜さんのアイデアで、バイト料は忠八クンの親が出す。ちなみに忠八クンのバイトも、工事現場のガードマンから、実家である四ノ宮家の蔵書の整理と、PCによる電子管理化をやることに変わった。四ノ宮家には、10万冊余りの史料や書籍があり、その整理をやっていれば、おのずと日本とC国の近現代史が、国家機密のようなものまで分かるようになる。孫桜さんは考えた。恩華さんは経済的に安定し、史料・資料を整理している間に、きっと自分の国と日本との関わり方の過去と現在。...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第96話《さつき今日この頃・4》

  • 勇者乙の天路歴程 003『頭上で楠の葉が戦ぐ』

    勇者乙の天路歴程003『頭上で楠の葉が戦ぐ』サワサワサワ……サワサワサ……サワサワサ……頭上で楠の葉が戦ぐ。戦ぐと書いて「そよぐ」と読む。演劇部の顧問をしていたころ『これでソヨグと読むんですか!?』と台本の字の読みを教えてやって驚かれたことがある。その生徒は『たたかぐ』と読んでいた。『戦い』と書いて『タタカイ』なのだから、『タタカグ』と発音してしまったんだ。そうなんだ、戦ぐとは、一枚一枚の木の葉が、隣り合う木の葉に当って音を立てる様子を現す言葉なんだ。それが、何千、何万、何十万、何百万と重なるとサワサワサワになり、林や森ぐるみ山ぐるみになると、ザワザワ、時にゴウゴウと猛々しい音に成ったりする。校舎の屋上で日の丸がはためいている。学校で国旗を掲揚するようになったのは今世紀に入ってからだったかなぁ。本来は、正...勇者乙の天路歴程003『頭上で楠の葉が戦ぐ』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第95話《さつき今日この頃・3》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第95話《さつき今日この頃・3》さつき「そ、それ、本物の関の孫六!触れただけで頸動脈が切れちゃうよ(;'∀')」さっきまでの落ち着きはどこへやら、だるまさんがころんだで鬼が振り返った時のようなへっぴり腰で刀を指さす忠八君。恩華の首筋からは一筋の血が流れ、カットソーの襟を赤く染めている。まるで部屋の中に揮発したガソリンが充満していくような危うさだ。ほんの身じろぎ一つで恩華の心の火が充満したそれを爆発させてしまいそう。忠八クンは、それ以上何も言えなくなり、あたしは息をするのも苦しくなってきた。篤子さんはわたしたちと恩華の間に立って、わずかに眉を傾け、三人の中で、ただ一人恩華を刺激しない存在に成りおおせている。部屋の空気が爆発しないで済んでいるのは篤子さんの茫洋とした温かさなのかもし...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第95話《さつき今日この頃・3》

  • 勇者乙の天路歴程 002『若宮第二公園』

    勇者乙の天路歴程002『若宮第二公園』正門を出て65m50㎝。耐寒マラソンをやる時に測ったから正確だ。学校南東側の交差点、ここを斜め横断した角に立てば、校舎の二階から上が見える。アリバイの為に、今は自販機だけになってしまった元酒屋の自販機で缶コーヒーを買う。これを飲んでいるうちは、壁越しに校舎を拝んで感傷に更けられる……と思ったら小銭がない。プルルン仕方がないと上体を起こしたところでバイクが停まった。「先生、いまお帰りですか?」バイクの主は学食のオヤジだ。オヤジといっても二代目。先代そっくりの髭面が目尻と口元にしわを寄せる。「アハハ、歳なんで、ちょっと休憩中」芸の無い返事をすると、オヤジはバイクを歩道に上げて、後ろに積んだケースから紙パックのお茶を出して、グイッと突き出す。「どうぞ、こんど入れようと思って...勇者乙の天路歴程002『若宮第二公園』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第94話《さつき今日この頃・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第94話《さつき今日この頃・2》さつき意外な人が周恩華さんの身元引受人になってカタがついた。なんと、裏のアパートの冴えない住人、四ノ宮忠八クンだ。「よかったら、さつきさんもどうぞ」というので、迎えのタクシーにいっしょに乗った。違和感は、ここからだった。四ノ宮クンと言えば東京大学に籍があることだけが取り柄の、冴えない上に貧乏な学生という認識しかない。「四ノ宮クン、どこに行くの?」「恥ずかしながら、僕の実家」そう言ったなり黙りこくってしまった。タクシーは山の手の高級住宅街に入って、ひときわ大きなお屋敷が見えてきた……と思ったら、お屋敷の八の字に開いた門を抜けて、玄関の前の車寄せで止まった。クシーのドアが自動で開くのは当たり前だけど、開いたドアの前に執事さんとメイドさんが出迎えている...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第94話《さつき今日この頃・2》

  • 鳴かぬなら 信長転生記 167『孔明来訪』

    鳴かぬなら信長転生記167『孔明来訪』信長「お久しぶりにございますなあ、ニイ少佐どの」面食らった。長鬚五尺に身の丈六尺半はあろうかという巨漢が発した声は、メゾソプラノの女の声だ。それに、悟空の姿に変えたというのに、俺のことを『ニイ少佐』の偽名で呼んでいる。ムム……「あまりの名月に、いささか興を覚え、狸のような真似をいたしました」「丞相殿、もうよいか?」「ああ、すまん。もう前に出る」そう言って、関羽雲長の後ろから出てきたのは、蜀の丞相であり大軍師である諸葛茶孔明だ。あいかわらず、薄物のワンピの上にガウンめいたのを羽織って、手には例の団扇かハエたたきか分からんものを戦がせている。関羽の前に出て、さらに数歩迫って来ると、背後の月光を受けて、薄物とガウンが透け、女子化した俺が見てもハッと息を呑むようなプロポ―ショ...鳴かぬなら信長転生記167『孔明来訪』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第93話《さつき今日この頃・1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第93話《さつき今日この頃・1》さつきアッと思ったら、手のスマホが無くなっていた。目の前電柱一本分先を走っているカットソーとジーンズの女の子が犯人だということに理解が及ぶのに数秒かかった。「スマホドロボー(*>д<)!」叫ぶのに、さらに二秒かかった。犯人はとっくに、豪徳寺の高架を抜けて右に曲がって姿が見えなくなっていた。これは、もう駄目だろうという諦めが湧いてきた。え!?と、思ったら、高架の右側から犯人が左側に駆け抜けていった。「ド、ド、ドロボー(*>▢<)!!」あたしは改めて叫んで追いかけた。なんといっても豪徳寺は地元だ、姿さえ見えていたら、路地裏の奥まで追いかけられる。と思って走っていると、自転車に乗った北側署の香取巡査が自転車で追いかけていた。「一応窃盗だからね」香取巡査...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第93話《さつき今日この頃・1》

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第92話《MAMORIの明菜》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第92話《MAMORIの明菜》惣一人相書きが出回っているというので、馬毛島からの帰りは陸自のC1だ。C1はC2が出回るにつれて順次退役させられている輸送機で、俺が同乗させてもらうC1も、これが最後のフライトで、横田基地に着いた後は退役させられるらしい。護衛艦たかやす、たかやすの艦長、そしてC1輸送機。ここのところ退役に付き合っているというか縁がある。「佐倉一尉、横須賀からの指令電報です」たかやすが瀬戸内海を通って馬毛島に向かえと言われた熊野灘沖にさしかかったところで、乗員から電文を受け取る。――横須賀到着後、創設70周年記念行事室出頭せよ――そうだ、この六月で自衛隊は創設70年になる……防大を出て任官した年に60周年だったから、俺の官歴も10年になる……と思うと同時に、海自は俺...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第92話《MAMORIの明菜》

  • 銀河太平記・206『恩師の素性とガタガタ道』

    銀河太平記・206『恩師の素性とガタガタ道』ダッシュ扶桑の月世界は狭い。まあ、月自体が地球よりも火星よりも小さいんだけどね。その中でも扶桑自治領は、代官所のあるプラトンの他は、初期開拓地が拡大発展したアルキメデス、ピタゴラス、そして鉱山が集中してるパスカルの三つ。あとは、開拓村とかラボという程度のドーム集落があるだけで、ほかの国々の自治領と比べると見劣りがする。扶桑は幕府の体制をとっているのに、なんで、パスカルとかプラトンとか、古代ギリシャめいた名前が付いているのかというと、人類が月に到達するずっと前から、そういう名前が付いていたからよ。ウソだと思ったら、検索してみて。扶桑は、火星こそ自分流の地名や名称を付けたけど、それ以外は元々の名称を大事にする。大事にすることで侵略的というか帝国主義的な領土欲は持って...銀河太平記・206『恩師の素性とガタガタ道』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第91話《退役艦たかやす回航記》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第91話《退役艦たかやす回航記》惣一江田島で艦長を見送ったあと、横須賀に戻ることになった。横須賀に係留されたままの『たかやす』を種子島沖の馬毛島に移送することになったからだ。横須賀には連日マスコミや反対派の市民団体、野党系団体、活動家、擁護派、マニアなどが押しかけ、いろいろ問題が起こりそうなので標的になる『たかやす』を再び移動させることになったのだ。僚艦の『いこま』と『かつらぎ』は、そのまま係留。全艦移動させては風当たりが強くなるということらしい。なんとも中途半端なその場しのぎなのだが、ドローン船事件以来、C国の内情はグチャグチャなのだ。国内に溜まった不平不満や危機感が『善良なC国漁船を撃沈した日本艦隊と日本政府』に向いた。C国漁船は実際にはドローン船で、爆発したのは巡視船に挟...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第91話《退役艦たかやす回航記》

  • やくもあやかし物語2・032『記念樹のヒメシャラと風呂掃除』

    やくもあやかし物語2032『記念樹のヒメシャラと風呂掃除』その木の別名を思い出して、ハイジが転ぶのを連想してしまった。「え、なんだぁ?」ハイジが睨みつけてきて、ネルがクスクス笑う。「なんだよ、ネルにまで笑われちゃあ立つ瀬がねえぞ」「これはね、ヒメシャラっていうんだよ」「ヒメシャラぁ?」その記念樹は、聖真理愛学院の人たちが植えてった記念樹。物事は正確にというカーナボン卿の意見でStewartiamonadelphaという学名が最初に書いてあり、その下に姫沙羅・赤栴檀と漢字で書いてある。横文字はラテン語だし、漢字は日本人のわたしでも『姫』の一字以外は苦しい。水やりをご一緒した王女さまが「サルスベリと呼ばれることもあるのよ」と教えて下さった。で、今朝は三人で水やりしていて、王女さまが言った「サルスベリ」を思い出...やくもあやかし物語2・032『記念樹のヒメシャラと風呂掃除』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第90話《長徳寺の終戦・3》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第90話《長徳寺の終戦・3》さくらたまに高射砲に当たって墜ちてくる敵機がいる。間抜けとも不運とも言える。高射砲というのは時限信管と云って、弾が一定の高度に達したときに爆発するらしい。だから、現代のミサイルと違って、相手目がけてとんでいって爆発するようなシロモノじゃないんだ。直撃なんか、まずありえない、爆発半径10メートル以内に飛び込んできて、運悪く、その弾片を食らったものが落ちてくる。まあ、空を飛んでる雀の群れに石を投げて墜とすよりも確率が低い。で、その不幸……と言うより間抜けの部類に入る飛行機が落ちてきた。正式にはP38ムスタングっていうんだけど、みんなは、省略してP公と呼んでいた。日和山の高射砲陣地には、それまで敵機を一機も落としたことのない高射砲陣地があった。まあ、八王子...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第90話《長徳寺の終戦・3》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・083『第五回MITAKAは作法室で』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記083『第五回MITAKAは作法室で』今日は久々のMITAKA(みんなでたのしく語る会)だ。学校は、いわゆるテスト休みという奴で、実質春休みと変わらない。だからね、数えて五回目になる今日は学校の作法室を借りて朝の10時からやっている。作法室というのは、小中学校には無かった教室。一年の教室がある北館の一階に、調理実習室、洗濯実習室、作法室と並んでいる。普通教室二つ分の作法室は二つに分かれている。一つは洋間。板敷で暖炉が設えてあって、テーブル席とソファーの席がある。隅っこに小テーブルに載った給水機みたいなの、寸胴に猫脚、下の方にガスコンロが入ってるけど、ガスのホースは外してある。「ああ、サモワールだ」真知子が、田舎で骨とう品を見つけたように珍しがる。「おお、サモワール!」...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・083『第五回MITAKAは作法室で』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第89話《長徳寺の終戦・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第89話《長徳寺の終戦・2》さくらなるほど……後ろ姿はそっくりだ。初日、衣装を着けメイクも仕上げてカメラテスト。前後左右から撮られ、モニターで確認していると、ディレクターが呟いた。自分でも、そう思った。横顔のロングも違和感がない。豪徳寺で三越紀香さんに会ったときは、似てるのは背の高さぐらいかと思ったけど、四か所ほど、同じ姿勢、動きでやってみると、我ながら似ている。「さくら君、事前にかなり読み込んでくれたね」監督も誉めてくれたけど、わたしは一回しか読んでいない。期末テストの勉強だってあるし、戦時中の設定なので、分からない言葉が二三ページに一つは出てくる。たとえば訓導という役職の先生。生活指導みたいなものかと思ったけど、どうやら、それより強い力を持ってるみたいでおっかない。子どもに...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第89話《長徳寺の終戦・2》

  • RE・かの世界この世界:231(最終回)『また明日』

    RE・かの世界この世界230(最終回)『また明日』テル「アハハ、嘘よ、嘘(*^ω^*)」目をへの字に、口をωにする美空先輩。清楚で真面目一方の先輩が、こんなお道化た表情をするのは初めてなので、この表情だけで上手くいったんだと分かった。「もー、先輩」「ごめんごめん、時美はね、あそこ」先輩が指差したのは模式図の左側、ちょっと不安定でチラチラしているやつだ。「あそこって……」「うん、なんとか峠は越えたし、ミッチャン一人に任せておくのも申し訳ないって……」「一人で飛び込んだんですか?」「うん、時美、ベテランだしね。心配ないわよ」「そうだったんですか」安心した。でも、ちょっと申し訳ない。ムヘンと日本神話と二つの異世界を経巡って、どちらも完全には取り戻せてはいない。もう一度あの世界に戻れと言われたら、正直、尻餅ついて...RE・かの世界この世界:231(最終回)『また明日』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第89話《長徳寺の終戦・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第89話《長徳寺の終戦・2》さくらなるほど、後ろ姿はそっくりだ。初日、衣装を着けメイクが終わってカメラテストで前後左右から撮られ、モニターで確認していると、ディレクターが呟いた。自分でも、そう思った。横顔のロングも違和感がない。豪徳寺で三越紀香さんに会ったときは、似てるのは背の高さぐらいかと思ったけど、四か所ほど、同じ姿勢、動きでやってみると、我ながら似ている。「さくら君、事前にかなり読み込んでくれたね」ディレクターは誉めてくれたけど、あたしは、一回しか読んでいない。期末テストの勉強だってあるし、戦時中の設定なので、分からない言葉が二三ページに一つは出てくる。たとえば訓導という役職の先生。生活指導みたいなもんかと思ったけど、どうやら、それより強い力を持ってるみたい。お寺に疎開し...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第89話《長徳寺の終戦・2》

  • 勇者乙の天路歴程 001『ハンカチ』

    勇者乙の天路歴程001『ハンカチ』買うんじゃなかったかな……ほんの二秒ほど迷って、手に持ったサンダルをレジ袋に入れると、柱の横のゴミ箱に放り込み、下足の黒靴に履き替えた。振り仰いだのは感傷からではない。ただ、時間の確認をしたかったからだ。最寄り駅の電車は15分に一本しかなくて、タイミングを計らなくては、ホームで10分以上待つ羽目になってしまう。二階分の吹き抜けになった玄関ホールの時計は、柱の高い位置に掛けてあるので、間近で見るには振り仰がなくてはならないのだ。思いがけずにせきあげてくるものがある。時に行動や仕草は、それに見合った感情を呼び起こすものだ。胸のところで腕を組むと微妙に偉くなったというか対立的な気持ちになるし、組んだ手を、そのまま臍のあたりまで下ろすと、銀行の案内係りのように温順になる。それに笑...勇者乙の天路歴程001『ハンカチ』

  • 鳴かぬなら 信長転生記 166『宿舎は豊盃寺』

    鳴かぬなら信長転生記166『宿舎は豊盃寺』信長長江河原への出発を明日に控え、宿舎の豊盃寺に入った。ただの宿泊なら、三国志最大の自由都市、伝統の豊盃大酒店や、大橋が経営するインペリアルホテルまで、いくらでもあるが、坊主が泊まるのは寺が相応しい。「なに言ってんの、たまにはまともなベッドで寝たいわよぉ~」宿室の僧房に入ったとたん、猪八戒の擬態を解いて寝台にひっくり返る市。「フフ、健康と美容のためには、こういうカチコチの寝台の方がいいんだよッパ」沙悟浄の擬態を解きながらも、沙悟浄の声と物言いを忘れない茶姫。「もう、久しぶりに元に戻ってるんだから、自分の部屋に行ってくれない」「いいじゃないか、素に戻ったら、俺だって美少女なんだから」「もう、いくら外見が女でも、織田信長丸出しなんだから落ち着かないのよ。ほんとうは、部...鳴かぬなら信長転生記166『宿舎は豊盃寺』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第88話《長徳寺の終戦・1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第88話《長徳寺の終戦・1》さくら「代役だけど、おもしろい役なんだ、どうだろ?」吾妻さん、顔は笑っていたけど目は真剣だった。「でも、たった一週間じゃ……」正直自信はない。ことの始まりは三日前。新宿での、ちょっとした車同士の接触事故だった。一方は示談ですませようとし、相手も、それに乗りかけた時、通行人が警察に通報してしまった。すぐに警察が来たが、示談が成立しかけていたので、実況見分だけやって済ますつもりでいた。ところが、一方の車内から脱法ハーブが出てきてしまった。で、その車の持ち主がYという俳優で、同乗していた女性が三越紀香という女優であったことが問題だった。紀香さんは、番組の打ち合わせのあと、Yに誘われて車に乗せてもらって帰宅する途中だった。警察の取り調べの結果、Yが脱法ハーブ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第88話《長徳寺の終戦・1》

  • 銀河太平記・205『行方不明の恩師とワクチンと』

    銀河太平記・205『行方不明の恩師とワクチンと』ダッシュ逃げられました!看護手帳を渡しにいってやると、Mナースは子どもっぽく口をとがらせた。Mナースというのは、見習い女性看護師の頭文字Mに女性看護師を現すナースをつっつけた言葉だ。ちなみに、正規女性看護師は正規看護師の頭文字Sを付けてSナース。いちいち見習女性看護師と言っていては長いのでMナース。もっと縮めてMと呼ぶこともある。まあ、現場では一律にナースと言って済ませているけどね。で、津田の名札を付けたMナースは腹を立てている。「まだ三つも検査が残ってるんですよぉ、ドクターもパルス性多臓器不全になる可能性があるって言ってるのにぃ!」場所が休憩室で、わたしが診療所の医者なんで気を許したんだろう、忘れ物の手帳のお礼をいっぱい言った後、男子がサボったのを先生に言...銀河太平記・205『行方不明の恩師とワクチンと』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第87話《吉本一佐の退職》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第87話《吉本一佐の退職》惣一吉本一佐はGパンにポロシャツというナリで裏門を出ようとしていた。「待ってください、艦長!」我々はいっせいに駆けだした。「あちゃー、見つかってしもたな」護衛艦たかやすの艦長吉本一佐は、オンボロ艦隊の司令職も解かれ、定年にまだ数週間を残し、依願退職というカタチで自衛隊を放り出されようとしている。「言うとくけどな、この依願退職は、わしが言いだしたこっちゃ。基地司令は、せめて定年退官をて言うてくれたんやけど、自衛隊に迷惑かけられへんよってな」「しかし艦長。世論の中には、艦長や我々の戦いを擁護、いや、積極的に賞揚する声もあります」遅れて江田島に送られてきた船務長も一歩前に出た。「艦長の父上は……」「親父は親父、わしはわしや」艦長は船務長の言葉を封じた。知って...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第87話《吉本一佐の退職》

  • やくもあやかし物語2・031『勅使三方・2』

    やくもあやかし物語2031『勅使三方・2』『ヤマセンの山にも湖もいまだ冬景色の中とは申せ、森の下草にはフキノトウが芽吹き始め、人知れず春の訪れを感じさせる早春の良き日に勅使さまの訪ないをいただき、このティターニア喜びに耐えません。ヤマセンの森王の妃として、謹んでご挨拶申し上げます』皇居を訪れた外国の王族が天皇陛下にするように、片膝ついて挨拶した。「三方さんて、あんなに偉いの!?」『勅使だからね、天皇と同じ礼式でなきゃダメなのよ。それに、今上さまのではなく、仁徳天皇の御勅使だからね、気合いも入るわよ』「御息所、あなた、元々は東宮妃だったんだから、勅使とかやったことあるんじゃないの?」『ないわよ。娘は伊勢の斎宮とかやりに行って付いて行ったことはあるけど。勅使やる人って、位はそんなに高くないのよ。三方さんだって...やくもあやかし物語2・031『勅使三方・2』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第86話《あんまり面白くない》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第86話《あんまり面白くない》さつき店を出て五分で女子高生の一群に取り囲まれた……。「あの、さくらさんですよね!?」一番元気そうなのが聞いてきた。「え、うん。佐倉だけど……」「や、やばいよ。ほんものだ!」「「「うわあ、ほんものだ(#゚Д゚#)!」」」」女子高生たちがピーチク騒ぐので、周りの通行人の人たちも注目しはじめた。これは、なんの間違いだ!?「サインして!」「あたしも、このハンカチに!」「あたし、このスマホの裏に!」「大河ドラマ出演決定おめでとう!」「「「おめでとう!」」」「まって、あなたたち何か勘違いしてない。あたしは……」「つまりい、さくらさんなんでしょ?『ワケテン』の?」「え、ワケテン?」「もう、『はるか、ワケあり転校生の7か月』で由香役やったあ!」やっと分かった。「...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第86話《あんまり面白くない》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・082『お祖母ちゃんの水晶占い』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記082『お祖母ちゃんの水晶占い』リビングのドアを開けるとお祖母ちゃんの背中が丸い。いちおうお祖母ちゃんは東京タワーと同じくらいの歳だと言ってるけど、本当のところは分からない。懐かしそうに話すひいお祖母ちゃんの思い出なんか、ひょっとしたら自分のことを言ってるんじゃないかと思ったりする。だとするとひいお祖母ちゃんは明治の生まれ?いや、ひょっとしたら、ひい祖母ちゃんもサバ呼んでて、坂本龍馬とかと同い年かもしれない。キッチンの方に周って気が付いた。お祖母ちゃんは水晶玉みたいなのをテーブルに置いて、手をかざしながらムニャムニャ言ってる。もう、魔法少女じゃなくて、まるっきり魔法使いのお婆さんだよ(^_^;)「お祖母ちゃん、水晶占いでも始める気ぃ?」「ちょっと静かにして……」なんか...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・082『お祖母ちゃんの水晶占い』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第85話《突然の解除》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第85話《突然の解除》さつき「帰っていいことになりましたよっ(^▽^)!」入って来るなり柿崎一曹は生の喜びをむき出しにした。ほんとうに子供っぽい。例えて言うなら、二浪で宝塚音楽学校に合格したお姉ちゃんを心から喜ぶ妹みたい。でも、拉致同然に駐屯地に連れて来た時も完ぺきに女子高生に化けてたし、油断はならない。「なにかあったんですか(^_^;)?」踵に重心を残して聞いてみる。「C国で政変があったみたいで。もう、ドローン船のことでイチャモンつけてる場合じゃないみたいなんです。上の方で、もう大丈夫と判断したみたいです!」噂では聞いていた。C国では不動産問題やら賃金未払やら銀行の預金封鎖やらで抗議活動暴動が頻発していて、中央も地方政府も危ない状態。今度のドローン船事件も、そのガス抜きっぽい...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第85話《突然の解除》

  • RE・かの世界この世界:230『戻れた!』

    RE・かの世界この世界230『戻れた!』テル部室に戻れたらいいのにと思った。だって、前回の旅立ちは駅前だった。駅の改札を出て、すると、前を冴子が歩いていて、ちょっと追い越したぐらいのタイミングで気が付いたことにして、ペコリと頭を下げるくらいの挨拶。そこから、ほんの知り合いから冴子との友だち関係を取り戻そうとしていた。少し速足になって、肩が並んだところでペコリとお辞儀して――ああ、昨日の?――という感じで始めようとしていた(169『再びの決意』)。でも、後ろから自転車が来て、避けようとして、転んだ拍子に犬のウンコの上に手を突いて、おまけに、その手で冴子のスカートを掴んでしまった(;'∀')。あそこに戻ったら、周りの人間からエンガチョされまくって最初から破局だ。戻るなら、部室のお布団の上!そう念じていると、白...RE・かの世界この世界:230『戻れた!』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第84話《孫文桜・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第84話《孫文桜・2》忠八ガチャ!乱暴にドアが開いたかと思うと、コンビニの女の子が入って来て「すみません、バッテリー切れてたみたいです(;゚Д゚#)」と、焦りながらロボットのお腹からお茶とお茶うけを取り出して給仕してくれる。「あ、さっきの!?」それは、ついさっきコンビニでアンパンを買った時のコンビニの女の子だ。「ほう、もう憶えてくれたんですなあ(^▭^)」「え、まあ(^_^;)」腋にコンビニの上着を挟んでるし。「孫の孫文桜(そんぶんおう)です、おうは桜と書きます」「お初にお目にかかります、孫文桜です。学校ではサクラって呼ばれてましたからサクラと呼んでいただいてもけっこうです」「あ、はあ……あ、えと、四之宮忠八です。お爺様とは古くからというか、明治時代から家同士の付き合いで……あ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第84話《孫文桜・2》

  • 鳴かぬなら 信長転生記 165『三国大説法会決まる!』

    鳴かぬなら信長転生記165『三国大説法会決まる!』信長曹素の五十騎は三国志各地に散った。魏王曹操の指示書には、三蔵法師の許しを得たうえで、魏、呉、蜀、三国の緩衝地で『大説法会』を開くべしと書かれていた。提案してきた場所は、長江中流の河原というか河川敷だ。ほら、憶えているだろう。俺と市がニイ・シイと名乗って三国志の偵察に出て、いろんな事件に巻き込まれた末に、茶姫の近衛兵になったことがあるだろう。茶姫は先見の明のある奴で、装備を鉄砲を中心とする近代装備に変更して、三国志全域と扶桑の南辺を行軍させた。その数三千の銃装騎兵で、見てくれは強力な騎兵旅団だったが、ロジスティックスというか輜重隊を連れていなかった。見る者が見れば、単なる新装備のパレードで、ただちに攻撃や侵略行動ができるような代物ではないことが分かる。一...鳴かぬなら信長転生記165『三国大説法会決まる!』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第83話《孫文桜・1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第83話《孫文桜・1》忠八日清戦争のころから横浜に居を構えている孫大人から――すぐに来られたし――という連絡を受けた。うちとは岩倉具視といっしょにバクチばかリやっていた五代前からの付き合いだ。戦後、華族制度が無くなった時も、ひい祖父さんが公職追放された時も、陰になり日向になり世話をしてくれた四宮家の大恩人らしい。国籍こそは日本だが、C国にも島国の方にも繋がりが深い。五代前からの友情のために、互いの困難に際しては協力し合わなければならないという不文律が両家にはある。前回は天安門事件の時に、祖父さんが世話をしたらしいが、それ以来は園遊会とかで顔を見る程度だった。てっきり横浜のお屋敷に行くのかと豪徳寺のホームに立っていると――麻布台のコンビニに来られたし――とメールが入る。コンビニに...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第83話《孫文桜・1》

  • 銀河太平記・204『新米看護師の落とし物』

    銀河太平記・204『新米看護師の落とし物』ダッシュ月の夜がようやく開け始めたころ、やっと未来から合格をもらった。火星や地球の感覚だと「おお、わずか一晩で合格とは!」と感心されるかもしれないが、なんせ、月の夜は二週間もある。他の仲間は早々に合格をもらって検査や検疫業務に入っているのだから、絶対に早い方じゃない。それで、合格したころには検査も山場を越えて、あえて新米が入る必要も無いので、わずか三日で元の警備担当に回された。「なんとか2500で済んだぁ」倉庫兼カフェでマスプレッソを楽しんでいると、同じのを持って未来が横に腰を下ろした。プッ下ろしたケツ圧で、クッションが鳴る。学生の頃なら「ちっとは遠慮しろよ」とか「失礼ねえ!」とかじゃれ合うんだけど、そんな余裕はない。峠を越えたとは言え、任務が厳しいことに変わりは...銀河太平記・204『新米看護師の落とし物』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第82話《オレって脇役なんだけど》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第82話《オレって脇役なんだけど》忠八この物語を始めたのは、オレの責任らしいよ。去年の暮れに、豪徳寺の脇道で水道工事のガードマンのバイトをやったのが、そもそもの発端。そして間違いだった。オレは……改めて自己紹介。四ノ宮忠八って古風な名前の大学生。特に取り柄もないけが、欠点もない。世間でいう「毒にも薬にもならない人間」の典型。一応は東大生だけど、今のご時世、東大生というだけではなんの値打ちもない。「理一、文三、ネコ、文二」って格言知ってるだろうか?東大の中のランク付け。オレは、この中の文二(文系二類)。つまりネコの下で、東大ではいちばんヒマ。ヒマな分将来の選択肢に贅沢は言えない。まあ、普通の公務員か中堅企業。学校の先生というシンドイだけでやりがいのない仕事も入っている。だから、物...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第82話《オレって脇役なんだけど》

  • やくもあやかし物語2・030『勅使三方・1』

    やくもあやかし物語2030『勅使三方・1』たった半日の滞在だし、聖真理愛学院の修学旅行は300人の大所帯だし、まとまった行事は合同の昼食会だけ。300人はABCの三班に分かれて、宮殿の見学、湖の遊覧、森と周辺の散策の三チームに分かれてる。聴講生の詩(ことは)さん、衛兵士官のソフィー先生、それと畏れ多いことにヨリコ王女さまは日本語と英語の両方がいけるので、通訳としてそれぞれの班についている。わたしも頼まれたんだけど、もともとコミュ障だし、こっちの生徒だし、未成年だし、詩さんのサポートということで勘弁してもらったよ(^_^;)。いまは、校舎前の芝生広場で全体の説明、班分けは、あらかじめ言われていて、それぞれの班の前に並んで紹介があって、付き添いの先生が諸注意の真っ最中で、取りあえずは通訳、わたしは助手だけど、...やくもあやかし物語2・030『勅使三方・1』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第81話《さくら その日その日・3》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第81話《さくらその日その日・3》さくらわたしのブログは炎上した。久米久のトーク番組『上から下』に出て、言いたいことを言ってきたからだ。久米久は、今度のC国との事件……C国は穏やかなものでも紛争、中には海戦と表現してして、燃え盛る操舵室で微動だにせずに舵を握っていた船長(マネキンなんだけど)を烈士と讃えた。しかし、烈士の素性が明らかにされないことや、アメリカが強襲揚陸艦のお尻から漁船が出てくる衛星写真やら航空写真を発表して、C国でも疑問に思う声が上がり始めた。むろん、そう言う声やSNSへの投稿はアカウントごと削除されたけどね。でも疑問や不満を持つ人たちはアメリカや各国大使館のSNSに投稿し始め、さすがに大使館のアカウントを削除するわけにいかない。もともと経済状態が最悪だったため...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第81話《さくらその日その日・3》

  • 魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ こ 小悪魔だけどな(≧ヘ≦)!7『ダークサイドストーリー・3』

    魔法少女なんかじゃないぞこれでも悪魔だこ小悪魔だけどな(≧ヘ≦)!7『ダークサイドストーリー・3』本作は旧作『小悪魔マユ』を改作したものですサタン爺ちゃんとミカエルの戦いをべつにして、有史以来初めての「時間よ止まれ、ダブルブッキング事件」から一ヶ月。知井子の身長が一センチ伸びた。本人はビックリしていたけど一センチなんで、誰にも言わないし誰も気づかなかった。落第小天使利恵は、自分の白魔法のなせる技だと思っていけど、ただの自然な成長だった。利恵の思いこみのいきさつについては『3知井子の悩み』を見てくれよ。本題は知井子のことじゃねえ。ルリ子たちワルのアミダラ女王パンツに、ことの発端がある。マユのイタズラで、ルリ子の仲間の一人のスカートがめくれ上がり、アミダラ女王のパンツが丸見えになったのは言ったろ。心を閉ざし、...魔法少女なんかじゃないぞこれでも悪魔だこ小悪魔だけどな(≧ヘ≦)!7『ダークサイドストーリー・3』

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・081『おたふくでお昼を食べながら』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記081『おたふくでお昼を食べながら』「え、なんですかそれ?」お好み焼きの湯気で眼鏡を曇らせながらロコが聞く。明日から学年末考査の前日、授業は午前中で終わって、学食も休みなので正門前の『おたふく』でお昼を食べている。おたふくは身体測定のころから出入りしてるんだけど、店の名前は知らなかった。だって、店の表に看板とかないし、学校の正門付近の飲食店は、ここしかないし。で、食べてる間ぐらいは試験のことは忘れようって話題を提供した。たまたま座った席が東北東を向いていたんで「あ、こっちは恵方だ!」と感激したんで「え、なんですかそれ?」になったわけ。巡:「節分に恵方巻って食べなかった?」「「「?」」」みんなの頭に?マークが灯る。え……七十年代の日本には恵方巻って無かった?巡:「あ、あ...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・081『おたふくでお昼を食べながら』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第80話《さくら その日その日・2》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第80話《さくらその日その日・2》さくら三週ぶりに仕事が入った。鈴奈さんとおいしい肉じゃがを食べたでしょ、ほら、ムジナが出そうな紀国坂の東京志忠屋。あの二日後の仕事がキャンセルになって、しばらく仕事が無かった。ひょっとしてホされてる?鈴奈さんでも、アメリカに修業にいくぐらい、この業界の人間は先が見えない。はるかさんと仕事をさせてもらうことが多くなって、チョッピリだけど、自分もイッパシのイの字、その一画目のノぐらいの女優になった気でいたけど。もし、このままフェードアウトしたら……それはそれでいいか。ベッドでひっくり返って、天井のLEDを眩しく感じて、首ごと視線を動かすと耳なしまねき猫(お父さんが買ってきた土偶っぽいの)と目が合って、そう思う。コロンと寝返りうったら、今度は机の上の...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第80話《さくらその日その日・2》

  • RE・かの世界この世界:229『勝利、そして心の準備をする間もなく』

    RE・かの世界この世界229『勝利、そして心の準備をする間もなく』テル「ここを開けろぉ!ここを開けろぉ!開けぬかここをぉ!」ドンドンドン!!ドンドンドン!!!ドンドンドン!!!!ドンドンドン!!ドンドンドン!!!ドンドンドン!!!!ドンドンドン!!ドンドンドン!!!ドンドンドン!!!!ドンドンドン!!ドンドンドン!!!ドンドンドン!!!!イザナミに加えて無数の鬼や醜女たちが頭突きや体当たりして、内側から千曳の大岩を動かそう、絶ち割ろうとする。その度に、大岩はビリビリと震え、イザナギ組というか『黄泉の国を目指す神々の会』の仲間は全員で大岩を押しとどめた。ウーーーーーン!!力は拮抗して、もう少し頑張れば完全に密封できるかと思った。死ぬ気で力を合わせれば、どんなことだってできるんだ!ウーーーーーン!!!勝利を確...RE・かの世界この世界:229『勝利、そして心の準備をする間もなく』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第79話《さくら その日その日・1》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第79話《さくらその日その日・1》さくら鈴奈(りんな)さんが肉じゃがになるためにアメリカに行って十日あまりがたった。ちょっと説明。鈴奈さんは二つの意味で先輩。だいいちに帝都女学院の一年上の先輩。そしてもう一つは女子ユニット『おもいろタンポポ』のメンバーで芸能界の先輩でもある。鈴奈さんは高校生としての自分とアイドルとしての自分を完全に使い分けていた。ええとね、折り紙に『だましぶね』ってあるじゃない。帆掛け船のへさきだと思って指で挟んでいると、いつの間にか帆柱になってるの。あんな感じ。朝にスタジオで見た時は、なんか――薬でもやってんのかぁ!?――ってぐらいにイケイケだったのが、午後に学校で見かけた時はそよ風の妖精かってぐらいにソヨソヨしている。それだけでもすごいのに、アーティストと...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第79話《さくらその日その日・1》

  • 鳴かぬなら 信長転生記 164『大橋、曹操の指示書を代読』

    鳴かぬなら信長転生記164『大橋、曹操の指示書を代読』信長騎兵部隊の軍旗には『曹』の一字が染め出されている。蹲踞した部隊長の顔は兜の眉庇(まびさし)に隠れて判然としなかったが、伏せたままの口上で分かった(-_-;)。こいつは、曹茶姫の兄にして三国志三傑の一人である魏王曹操の弟、あのろくでなしの曹素ではないか!曹素:「御説法大行進の脚をお停めして申し訳ございません。わたくしは魏王曹操の愚弟にして義軍騎兵総司令の曹素にございます。こたびは、玄奘三蔵大師猊下のお噂を、我が賢兄曹操が聞き及び、是非にも魏の都洛陽にご来駕賜り、御説法を賜りますよう申しつかってまいりました!」三蔵:「待たれよ曹素殿。わたしはただの僧侶に過ぎません。愚禿三蔵でございます。身に余る大師や猊下などの尊称、謙譲は当惑するばかりです。どうぞご無...鳴かぬなら信長転生記164『大橋、曹操の指示書を代読』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第78話《S駐屯地の非常事態》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第78話《S駐屯地の非常事態》さつき「申し訳ありませんが、今日は駐屯地から出ないでください」司令付きの三曹さんが微妙に慌てて言うと、すぐ部屋を出ていった。理由は分かっている。佐世保近くの海で海上自衛隊とC国の間でもめ事があったからだ。海上保安庁の巡視船も関係しているらしいんだけど、C国の漁船が沈んだとかで、自衛隊だけが非難されていて、そのとばっちりが自衛隊全てに向けられているんだ。一昨日は航空自衛隊の基地にゴミ袋が投げ込まれ、昨日は一般道を走っていた陸自の車両に石が投げられた。他にも自衛隊の施設や駐屯地の周囲でプラカードや横断幕を持った市民団体の人たちがチラホラ。それで、わたしが居るS駐屯地も、マニュアル通りの警戒態勢をとっている。「しかし、なんかチグハグですね」やっと昼前に部...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第78話《S駐屯地の非常事態》

  • やくもあやかし物語2・029『修学旅行+αがやってきた』

    やくもあやかし物語2029『修学旅行+αがやってきた』日本から修学旅行の御一行様がやってきた!ほんとうは去年の秋の予定だったんだけど、いろんな事情で年が明けたこの時期になった。やってきたのは大阪にある聖真理愛(せいマリア)学院高校。うちの学校にとっても、王室にとっても特別な学校なんだ。なんと言ってもヨリコ王女がご卒業になった学校。そんで、王宮衛兵でもあり魔法学の先生でもあるソフィア・ヒギンズ先生と聴講生の詩(ことは)さんの母校でもある。それにそれに売り出し中の高校生声優酒井さくらさんと、女優の榊原留美さんの二人も入ってるんだよ。二人は中学からヨリコ王女といっしょで、部活も中学では文芸部、高校では散策部といっしょだった。お家は堺市内のお寺で、詩さんも、そのお寺の娘さん。さくらさんとか従姉妹同士の関係なんだそ...やくもあやかし物語2・029『修学旅行+αがやってきた』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第77話《江田島にとばされてヘボ将棋》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第77話《江田島にとばされてヘボ将棋》惣一すっかり冷めたコーヒーを吉本一佐は飲み干した。「ハハ、猫舌なんでなぁ(ᵔᗜᵔ)」聞きもしないのに一佐はえびす顔で応える。こたえない人だと苦笑してしまう。横須賀に着くと、艦長ともども詳報を書くように言われ、艦長室に缶詰めになり、書き上げて基地司令に渡したとたん、江田島幹部学校付の辞令を渡され、その足でヘリに載せられて江田島に急行するという慌しさだった。いつの間に用意したのか艦長は退官届を用意していたが、それを出す暇も無かった。随員を一人許可されたので、艦長はオレを指名したのだ。「すまん。他のもんやと、たかやすの艦内業務に支障が出るんでな。ま、江田島で将棋の相手でもしてくれや」一佐はそう言ったが、横須賀に残ってもおそらく艦を下ろされ監禁同様...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第77話《江田島にとばされてヘボ将棋》

  • 銀河太平記・203『フィロラオスクレーター検査場』

    銀河太平記・203『フィロラオスクレーター検査場』ダッシュ火星で大きな戦争は起こらないだろうと思っていた。この二百年で火星は二度の大戦争を経験し、直近の大戦では、火星人類の一割が死んだ。戦後、火星に見切りをつけて地球に戻ったり月に再入植する者もいて、戦後二年目にはさらに一割が減った。前後して二割の人口が減ったので、戦後の復興は大変で、やっと戦前の水準に戻ったのは、親の世代が成人したころ。火星には連合国・マス漢・扶桑を始めとする13の国があって、国連的な組織こそ作らなかったけど、この数十年の間、まあまあ平和にやってきた。昨年、扶桑とマス漢の間でミサイルの撃ち合う紛争が起こった。ミサイルの数には限りがあるので、派手な打ち合いは半月も続かなかったけれど、どういうわけか変な病気が流行り出した。どうやら、野生化した...銀河太平記・203『フィロラオスクレーター検査場』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第76話《ええぇ!? 登舷礼やないかぁ!》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第76話《ええぇ!?登舷礼やないかぁ!》惣一予想はしていたが、政府の発表もなく、マスコミはいっさい報道しなかった。K国が我が哨戒機に火器管制レーダーを照射した時には映像付きで報道されたので少し期待したのだが無駄だった。「まあ、こんなもんや三度笠」プゥ~~~抜錨完了の合図がブリッジに届き航海長操艦に移ると、艦長は放屁しながら古いギャグをかました。臨時乗り組みの俺は平静を保ったが、ブリッジのみんなはクスリとかフフフとか笑って、穏やかな空気の中、たかやすは横須賀への航路についた。四国沖に達した時に艦長室に呼ばれた。「いま、おもろい連絡が入った」「どんな連絡ですか?」「やしまが曳航してたドローン船をロストしよった」「ロ、ロスト!?」「曳航中に沈んでしもたという話や」「なんですか、それは...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第76話《ええぇ!?登舷礼やないかぁ!》

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第75話《ドローンを船捕獲して佐世保に戻る》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第75話《ドローンを船捕獲して佐世保に戻る》惣一漁船の捕獲には意味がある。船を捕まえる場合、普通は拿捕という。しかし拿捕というのは人が乗っている船を指すので、ドローン船の場合は適当ではない。だから無人のボートやブイを確保するように捕獲(艦長は「捕まえろ」と言った)という。言葉遊びではない。拿捕という言葉を使えば、その時点では漁船に人が乗っていると日本側が認識していたことになる。人が乗っている場合、たとえ領海侵犯をしていても人命を軽視したような行動はとれない。まして、巡視船は有人船に対するように電光掲示板と大音量スピーカーで呼びかけていた。たかやすからはドローンであると知らせてはいたが、有人船の対応をしている。C国は――ドローンではなく人が乗っていた――と主張するに違いない。その...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第75話《ドローンを船捕獲して佐世保に戻る》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・080『代議会・2』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記080『代議会・2』代議会の二日後、学食のいつもの席、お仲間でランチを食べている。小春日和の学食は、南向きのガラス壁から穏やかな陽の光に満ちている。すぐ外の植え込みの梅が知らないうちに六分咲き。「ええ、先週から咲いてましたよぉ」ロコのツッコミは厳しいけど、お仲間はコロコロと笑っている。三年生が居なくなっているので、学食はピークの時間なのにゆったりしている。「あれ、牧内さんじゃないの?」食後のお茶をフーフー冷ましながらたみ子が目配せ。「ああ、さっそくなんですねえ!」ロコに釣られ、わたしたちも目を向ける。代議会のことを思い出す。『本来は部長会議で発言すべきなんですが、年度内の部長会議はありませんので、少し変則的ですが発言させていただきます』シャキンと背筋を伸ばした牧内さん...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・080『代議会・2』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第74話《領海線上の大捕り物》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第74話《領海線上の大捕り物》惣一吉本艦隊が回頭運動を終えて巡視船らと交代したときには、領海まで1・5海里に接近していた。「状況報告」艦長は、小学生に窓から見える空模様を聞くように確認した。「警告は10回目。揚陸艦は相変わらず漁船群に帰港を促しています」「なんや、パペットの人形劇みたいやなあ」俺は、またミニライブを思い出した。俺は見ていないがロボットを相手に演奏したり芝居をするというものだった。あれに似ている。あらかじめプログラムされたロボットの台詞や動きに人の役者が合わせて、あたかも人間同士のように見せるもので、見世物としては面白かったらしく、妹たちはグッズを買って喜んでいた。「やしま、放水を始めました」「セオリー通りやなあ」やしまには漁船がドローンであることは伝達してある。...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第74話《領海線上の大捕り物》

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第73話《C国艦隊との遭遇》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第73話《C国艦隊との遭遇》惣一ブリッジは緊張していた。おれは臨時砲術士のほかにも「艦長業務見習」という役割が与えられているので、いっしょに艦橋に立っている。「北北西30海里から、C国艦と思われる艦船三隻が我が艦隊に接近しております。90分後には最接近、接近ポイントはここです」航海長がモニターのドットを示した。「領海から僅か5海里のところやないか……」「おそらく、その前に進路を変えるでしょうが……」「予断でモノ考えたらあかん。もし、ここで出会うたらどないすんねん?」艦長が、だれともなく声をかけた。不思議な言い回しで、おれは自分に向けられたような気がしたが、副長が答えた。「領海接近の警告をし、警戒行動をとります」「今のとこ模範解答やな……佐倉くん、なんで阪神は人気あるか知ってるか...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第73話《C国艦隊との遭遇》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・079『代議会・1』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記079『代議会・1』代議会は南館一階のどん詰まり、階段教室で行われる。地学の準備室が横にあって、時どき地学の授業でも使うから馴染みはあるんだ。でも、代議会で階段教室に入ると印象が違う。階段席には他のクラスや二年生の正副委員長さんたちが並んでる。うちのたみ子や高峰君もそうなんだけど、みんな正副委員長オーラがある。あ、ロコが面白がってついて来てくれたんだけどね、入るや否や「おおぉ」ってゆった。それに、席が階段状になってるんで、なんか古代ギリシアとか古代ローマの……なんてったっけ……議会みたいで、それもいい効果出してる。「あ、何組かな?」視界の外から声かけられて、ちょっとビックリ。黒板の横に執行部の書記の一年生。たしか一組の女子なんで、フロアが違うので見覚えが無い。「あ、五...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・079『代議会・1』

  • RE・かの世界この世界:228『千引の大岩と桃太郎』

    RE・かの世界この世界228『千引の大岩と桃太郎』テル最後は、だれも二号とは呼ばなかった。涙と鼻水と涎でグチャグチャになりながら三つの坂道を一気に飛び降りて、迫りくる鬼と醜女たちの前で桃の木に変身。その桃の実を鬼と醜女たちに食わせることで時間を稼いで、みんなを助けたんだ。そんなあいつを、もうだれも桃太郎二号とは呼ばない。呼ばなかった。「くしょー、なによ、なんなのよ、自分一人カッコつけて(≧◇≦)」「これから、だれとバカ話すればいいんだよぉ(>△<)」齢の近いヨネコとケイトが地団駄踏んで悔しがり、大人たちは虚脱したように蓋をした大岩を見つめる。「これからは、オオカムヅミノミコトと呼ぶことにしよう」イザナギさんが静かに言った。ミコト……命……これは神様の尊号だ。「わたしたちが生んだ神ではありませんが、彼は日の...RE・かの世界この世界:228『千引の大岩と桃太郎』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第72話《護衛艦たかやす》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第72話《護衛艦たかやす》惣一昨日カレーを食ったから、今日は土曜日か……。三直目の勤務を終えて、おれは士官食堂に向かった。「ハハ、やっぱり40秒早く着いてしまうな」テーブルに着き習慣になっている時間を確認した。なぜ配置のCICから一分も早く食堂に着いてしまうかというと、艦が違うからだ。この五月で「あかぎ」を降りて「たかやす」に乗り込んでいる。26000トンの「あかぎ」から3500トンの護衛艦に替わると、覚悟はしていたが、狭くて小さい。「たかやす」の砲術士が訓練中に怪我をしたので、その代替要員として、三カ月この船に乗り込むことになった。本来砲術士は曹クラスの配置だ。そこに一尉のおれが代わりに入るのは極めて異例だ。「たかやす」は、今度の任務が終わったら、一線任務から外され、改修後練...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第72話《護衛艦たかやす》

  • 鳴かぬなら 信長転生記 163『大行進』

    鳴かぬなら信長転生記163『大行進』孫権どこまで狙ってるんだろう!?コウちゃん……ボクと大橋姉さんに血の繋がりは無い。兄さんのお嫁さんだから、ほんとうは義姉さんと呼ぶべきだし、書くべきだ。でもね、建業の宮殿で「義姉さん、この花壇の前で撮らせて!」と言ったとき、コウちゃんは「いいわよ」と気楽にポーズをとってくれて、こう言った。「チュウボウが言ってくれる『義姉さん』には『姉さん』の響きがあるわね(^○^)」「え?」「音にしたら『ネエサン』でいっしょなんだけど、微妙に柔らかくって実の姉として呼んでくれてるみたいで、とっても嬉しいわ」「え、あ、そうかなあ……特に意識はしてないんだけどね(#*´△`*#)」「わたし、姉妹って妹の小橋だけでしょ、ほんとうの弟ができたみたいで、とっても嬉しいのよ(^▽^)」「アアハハハ...鳴かぬなら信長転生記163『大行進』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第71話《I want be Nikujyaga!》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第71話《IwantbeNikujyaga!》さくらメリメリメリ……鈴奈(りんな)さんの手は、首の付け根にいくと顔の皮をめくり始めた……(゚Д゚)!で、そこにはノッペラボーのゆで卵みたいな顔が……現れたわけではない。あいかわらず鈴奈さんの顔だ。「あたし、自分の顔が持ちたいんだ」そう言いながら、ガンモの煮付け半分を美味しそうに口に運んだ。ここは赤坂見附近くの食べ物屋さん。洋食とか和食とか中華の区別なく、オーナーが月ごとに気に入ったメニューを出すというお店。だから行くまでは、今月がなんの料理か分からない。そこが、この店のおもしろいところだそうだ。「さくらも、リピーターになったらハマるよ」今月は、日本の家庭料理がテーマのようで、煮物と天ぷらが出てきた。味は、うちの百倍はおいしい。「こ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第71話《IwantbeNikujyaga!》

  • やくもあやかし物語2・028『ソミア先生の変換魔法と豆まき』

    やくもあやかし物語2028『ソミア先生の変換魔法と豆まき』福はぁうちぃ~(^▽^)/(^〇^)/(^皿^)/(^▽^)/(^◇^)/バラバラバラバラ!鬼はぁそと~(^〇^)/(^▭^)/(^〇^)/(^▽^)/(^〇^)/バラバラバラバラ!吹き抜けになった階段ホールから始まった!寮生、先生、非番の衛士、食堂のオバチャン、一緒になって豆をまく!豆は変換魔法のソミア先生が魔法で作ってくれたビーンズバレル!「ヒントはね、映画館のポップコーンよぉ(^▽^)」きっかけは変換魔法の授業だった。「映画館のスナックの定番と言えばポップコーンよね?」ああ、そうですね……という感じでみんなが頷いた。国際色豊かな学校なので、なにか質問されて、全員が頷くことは少ない。それが、みんな頷くと言うのだから、映画館のポップコーンというも...やくもあやかし物語2・028『ソミア先生の変換魔法と豆まき』

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・078『たみ子からの電話』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記078『たみ子からの電話』「もしもし、たみ子ぉ?」『え、なんでぇ?』「え、あああ……なんとなく、たみ子の感じがして(;'∀')」ディスプレーには(辻本たみ子)と出ていたので、ついスマホのつもりで出てしまった。お祖母ちゃんが、昭和からかかってくる電話は、わたしのスマホにかかるようにしてくれたんだ。昭和にはスマホも携帯電話も無いんだ、たみ子は昭和のわたしんちの固定電話にかけたつもりでいる。『え、すごい勘!』「アハハ、学校の住所録見てたらさ、あ、三学期も終わり近いから、ちょっとね整理の真似事してて、ちょうどたみ子のとこらへん見てたしぃ(^_^;)」『そうなんだぁ、なんかドラマみたいだねぇ(^〇^)』「アハハ……あ、それでぇ?」『じつはね、ひい祖父ちゃんが亡くなってね、お葬式...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・078『たみ子からの電話』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第70話《紀伊国坂》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第70話《紀伊国坂》さくら――事務所においでよ――鈴奈さんからのメール。わたしは鈴奈さんに長いメールを打った。どうして学校を辞めたのか、なんでわたしには言ってくれなかったのか。内容はこの二つだけど、学校でのショックがあったので長いメールをなった。その返事が、たった八文字の返事。よほど思い悩む事情があったのか、とんでもなくアッケラカンなのか、どちらともとれる八文字だ。「おひさ~(^▽^)/、ちょうど打ち合わせ終わったところだから、そこで」鈴奈さんは、相変わらずの様子で空いてる小会議室を指した。「まず、あんたの話から聞いたほうがいいって顔だね。飲み物とってくるから、考えまとめときな」そう言って鈴奈さんは部屋を出て行った。あたしは鈴奈さんのことが聞きたかったので「あんたの話から」と言...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第70話《紀伊国坂》

  • 巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・077『昭和の個人情報』

    巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記077『昭和の個人情報』昭和の学校に個人情報の概念は無い。控え目に言っても、その概念は低い。メッチャ低い。令和がスカイツリーだとしたら、家の屋根に載ってるテレビアンテナかというくらいに低い!学校には緊急連絡網というものがある。一番上に藤田先生(担任)の住所と電話番号があって、そこから下に二本の矢印。一つが委員長の高峰君、もう一つが副委員長のたみ子。二人のところからさらに、それぞれ三つの矢印が伸びて、矢印の下には七人か八人の名前があって、順番に矢印で繋がってる。むろん、それぞれに住所と電話番号が付いている。そして、イザという時には藤田先生が高峰君とたみ子に電話して、あとは伝言ゲーム式に緊急連絡ができるという仕組みになっている。この個人情報野ざらしの極めつけは卒業アルバム...巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・077『昭和の個人情報』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第69話《ポニーテール》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第69話《ポニーテール》さくらポニーテールのゴールデンポイントって知ってます?アゴと耳を結んだ延長線上の頭の頂点に結び目をもってくると一番カッコいい。これをポニテのゴールデンポイントというんだそうです。ポニテの始まりは吹部のフルート。ちょっと髪が邪魔で後ろで括ったのが始まり。「どうせならハツラツポニテにしちゃえ!」オオ!お姉ちゃんが、グッと上で結んでくれて目尻も頬っぺたもキリリと上がって、気分もアゲアゲで気に入った。そして部活以外や他の季節でも気分転換したいときなんかには、これにする。このお話の第一回もそうだったんじゃないかな?で自分のブログを調べる。どうも第一回は書いていない。でも記憶にはある。あの四ノ宮クンがガードマンのバイトで道に立ってて、彼の誘導灯がスカートにひっかかっ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第69話《ポニーテール》

  • 銀河太平記・202『孫大人と鍋を囲む』

    銀河太平記・202『孫大人と鍋を囲む』越萌マリ日漢友好の釣り大会になった時には居なかった。孫大人。世界を相手に商売やってる男だから、ちょっと姿を消しても不思議ではないんだけど、島のエライさんたちが大統領との友好に務めているところ、それも大好きな釣りをやろうかという時に姿が見えないというのは大人らしくない。大人の乗り物は筋斗雲というパルス機。軍事用に作られた試作機だけど、メンテナンスのむつかしく、コストも高くつくので実用試験に通りながら正式採用にならなかった名機。それを開発した技術者ごと買ってきたというぜいたく品。筋斗雲一機で火星航路の新造船が作れるという。その筋斗雲が夜中に戻って来て、孫大人はお岩食堂にわたしを呼んだ。「いやあ、やっぱり畳敷きのちゃぶ台はいいアルなあ、大姐」釣り大会の残り物の魚でしっぽりと...銀河太平記・202『孫大人と鍋を囲む』

  • ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第68話《次の役は佐倉さくら!?》

    ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第68話《次の役は佐倉さくら!?》さくら次は東京だよ京都駅を出て――次の停車駅は名古屋です――の車内放送が終わるとマネージャーの吾妻さんが言う。通路を席に向かっていたオジサンがギョッとしてドアの上の電光掲示板を見る。手にした切符には『京都→名古屋』の文字が見えた。乗り慣れてないとビックリするかも。新幹線は最速ののぞみでも名古屋には停まる。地理や交通機関には疎いわたしだけど、京都の次は名古屋で、東京の直前には新横浜と品川に停まることぐらい知っている。でも名古屋ってビミョーだから、一瞬――停まらない――と勘違いするよね。吾妻さんが言った東京は行先や停車駅のことなんかじゃない『次の仕事は東京だぞ』っていう意味で、電池が切れかかったわたしに念押ししたんだ。二カ月ちょっとに及んだ『ワケテ...ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第68話《次の役は佐倉さくら!?》

  • RE・かの世界この世界:227『黄泉の国決戦・2』

    RE・かの世界この世界227『黄泉の国決戦・2』テル数……数が多い!多すぎる……!力の限り矢を射かけ、石ツブテを投げ、そして呆然とした。もう弓矢や石ツブテでどうこうできる数ではない。逃げるにしても、あの勢いでは数十秒のうちに追いつかれてしまう!洞窟の出口までは一本道、逃げ込む枝道も無い!「時間を稼ぎます!」そう言うと、イザナギさんは髪を結んでいた紐を解いて鬼ども目がけて投げつけた。シュル!シュルシュルシュルシュルシュル!紐は、たちまち無数に分裂して、迫りくる鬼たち醜女たちを絡めとっていく。バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュ!「今のうちです!」「全速後退!」イザナギさんが叫びヒルデが号令をかけ、みんな一目散に洞窟を走った!「オッチャン、今のはなんだ!?」「あれは、髪を括っていた蔦カズラです」「...RE・かの世界この世界:227『黄泉の国決戦・2』

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