星鼠 さん プロフィール

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星鼠さん: 星砂糖
ハンドル名星鼠 さん
ブログタイトル星砂糖
ブログURLhttp://sirukyway.blog.fc2.com/
サイト紹介文BL小説ブログです。長編9本完結。新連載はキャラ重視。絡まり合う人間関係を描けたらと思います。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供242回 / 365日(平均4.6回/週) - 参加 2015/05/18 11:11

星鼠 さんのブログ記事

  • 消失点 36
  • 「じきにあいつが来る。用があるなら早く済ませてくれ」 隆吾は言った。 「早く とは」 冬弥が問う。どこまでも余裕を失わない、上からの目線だ。だが傍から見ていると彼なりに切迫しているのが分かる。 向かい合ってる隆吾にはそれは分からないに違いない。 彼は彼で、他の者相手ならば感じる事のない、 身長差ゆえの劣勢を懸命に撥ね返そうとしていた。 「1分だ」 声を落として凄ませる。「だがお前はもうそれを無駄にした」 [続きを読む]
  • 消失点 35
  • 残暑のさなかに体育祭があり学園祭が催される。 隆吾が通う新堀学園の学祭は、県下でも有名だった。 華やかさにおいても内容の質の高さにおいても類を見ない。 隆吾に誘われて颯太は高校を訪れた。 午前中隆吾は当番なので、昼頃教室に行く約束だった。それまでひとりで校内を見て回る。 猛も来る予定だったのだが、急にシフトが入ったのだ。 噂にたがわぬ盛況ぶりに呑まれたが、 慣れて来ると、颯太はちらちらと自分の方を覗う視 [続きを読む]
  • 消失点 34
  • 新学期が始まった。 興奮に湧いたのは一日だけで、 何の中断もなかったように日常が再開された。だが猛の夏休みの断絶は簡単には解消されなかった。 颯太と冬弥のせいだ。ぎりぎりに登校する猛の目に、真っ先に映ったのがその二人だった。 休み前から見慣れている光景であるにも関わらず、猛は違和感を覚えた。 漂う空気が違う。 二人の間の距離は同じなのだが、そこに働く力が違う。 夏までは、冬弥が開けた窓から颯太が顔を覗か [続きを読む]
  • 消失点 33
  • 浴槽に浸かり裸の肩に湯を掛けた。 掌で肩を包み込み、それから腕を撫でおろした。 隆吾に抱き締められた感触が蘇る。 颯太は自分の身体に両腕を回し、目を閉じて記憶を呼び覚ました。 密着した肉体、他人の体温、耳朶を掠めた息吹。 誰かに思い切りに抱き締められる事など、記憶に残る限り、ない。その瞬間、意識は真っ白に飛んでしまったが、 抱擁が解かれる刹那、全身の肌が吸いつくように追い掛けたのを覚えている。 望んだも [続きを読む]
  • 消失点 32
  • 盆休み隆吾は父と共に、母親と弟の待つ家に帰省した。 幼児の成長はめざましく、 別れた時は歩くのも覚束なかった弟は、もう走るまでになっていた。 言葉もいくつか出る。その頃の子どもというのは父親にとっても特別可愛いものらしく、 隆吾の父も相好を崩していた。 母親は幾分固い表情で隆吾を迎えた。 弟はたどたどしく隆吾を「にぃに」と呼んだ。 特別の感慨もなかった。反発も覚えなかった。 如才なく母と接し、弟の相手をし [続きを読む]
  • 消失点 31
  • 「どうしてる」 「どうって」  「仲 いいんだろ」 隆吾の口調に颯太は反発する。後ろめたさも手伝って攻撃的になる。 「クラスメイトだから。僕は。でも 隆吾くんは彼とは関係ないでしょ。なのにどうして訊くの?」 「お前が変なのは 奴のせいだと思うからだ。関係なくはないだろ」いくら抗戦体勢をとっても颯太には迫力というものがない。 視線は虚ろに彷徨い、手元のコントローラーに落ちた。 「僕が変…… 瀬田くんが何だ [続きを読む]
  • 消失点 30
  • 夏休みも半ばを過ぎていた。 颯太は週に一度ほどのペースで冬弥の家を訪問していた。 自分専用のマグカップを出された時は天にも昇る気分だった。 訪れる度、何かひとつずつ買い足されていた。 訪れる度、いつも違う料理が供され、それは段々凝っていった。 最初ぎこちなかった会話も滑らかになり、 最初怖かった沈黙も自然なものとなった。 一緒に過ごせば、次はもっと長くと思うようになり、 一緒に過ごせば、今度はもっと近くに [続きを読む]
  • 消失点 29
  • 猛の鞄を、妹の優香が勝手に覗いていた。 「何やってるんだよ」 「高校にも成績表ってあるんでしょう」 「そりゃ あるさ」 妹の両手から鞄を取り上げる。 優香の手がそれを追い掛けるが、虚しく空を掴んだ。 「どーせ 悪いと思ってるんだろ。お生憎」 「じゃ 隠す事ないじゃない」ぴょんぴょんと飛び跳ねて兄から鞄を取り返そうとする。 猛はそのじゃれあいが楽しくて逃げ回る。 特別よくもないが悪くもない成績表である。 母 [続きを読む]
  • 消失点 28
  • 改札口の手前で立ち止まり、「じゃ」と言った。 向かい合って颯太は黙って冬弥を見上げる。 言うべき事はたくさんあったが、却ってそれがために口が開けないのだ。 冬弥が手に持っていたパンの袋を差し出すと、 颯太はポケットから携帯を取り出した。それを握り締め、上目遣いに冬弥を見つめる。 掌が汗ばんでくる。その手を凝視していた冬弥は、何かを溶かすようにふっと笑った。 「そうだな」 連絡先を交換し「今日は楽しかった [続きを読む]
  • 消失点 27
  • 冬弥はフライパンにオリーブオイルとニンニクを入れ、 鶏肉を皮の方から焼き始めた。その間にじゃがいもをスライスして水に晒し、トマトを皮ごと細かく刻んだ。 鶏肉を返して焼いた後、一度取り出す。フライパンの脂を軽く拭き取って、じゃがいもを並べ再び火に掛けた。その上に取り出した鶏肉を置き、蓋をする。ベビーリーフの袋を破る。 皿に乗せてオリーブオイルを回し掛ける。塩こしょう。フライパンの蓋を取るとトマトを入れ [続きを読む]
  • 消失点 26
  • その小さな接触を電流のように感じたのは颯太だけだった。 冬弥は手を引き、籠を持ち直す。 精肉売り場は専門の業者が入っていた。ショーケースの前に立つ。 買う部位は決めてある。指差し、グラム数を言おうとして思い立った。 颯太を振り返る。「夕食 食べていくかい」 「えっ」 「家に訊かないと 分からない?」 「えっ」 颯太はまだ何を言われたか理解できないようだった。 冬弥は店員に取り消しを伝え、ケースから少し離れ [続きを読む]
  • 消失点 25
  • 颯太らが去った後、冬弥はそのまま構内を抜けた。 駅の反対側にある繁華街を行く。アーケードが途切れ、真夏の陽光に晒されて冬弥は我に返った。わき目もふらず通り抜けてしまった。 本屋と雑貨店を回り、それから昼食を買って帰るつもりだった。しかし気づけば飛ぶような歩調で突き進んでいた。 急ぐ理由も目指す場所もないのに。その間何を考えていたか記憶にない。 立ち止まり、来た道を振り返る。戻って予定をこなすか。しかし [続きを読む]
  • 消失点 24
  • 「待てよ」 扉に手をついて隆吾は繰り返した。 隆吾と扉の間で颯太は小さくなる。口の中で「帰る」と言う。 「何 怒ってるんだよ」 「怒ってるの 隆吾くんの方じゃないか」 「俺は訊いてるだけだろ」 隆吾は肘を曲げ、颯太の顔を覗き込んだ。 顔を背けようとして扉に額をぶつけ、颯太は懸命に目を逸らす。 「俺を見ろよ。なんで逃げるんだよ」 「怖いから」 「怖い?」 颯太は思い切る。隆吾に顔を向け、睨んだ。 「そんな 隆 [続きを読む]
  • 消失点 23
  • 隆吾の視線が痛い。 初めて会った日に颯太を竦めさせた、あの射貫くような眼差し。 逸らそうとし、絡め取られる。その戦慄は恐怖と陶酔が螺旋となっていた。もともと両者は表裏一体の関係なのかも知れない。 颯太は自分の心の中にまで入り込もうとしている隆吾に、 僅かに一歩、場を譲る。 隆吾はその身じろぎを見逃さず、すかさず距離を詰めて来る。 颯太はまた一歩後退さった。 互いにグラスを手に微動だにしないまま、颯太の精 [続きを読む]
  • 消失点 22
  • ふたりの視線はまず颯太を確かめ、それから冬弥に向いた。 隆吾は「誰?」と問うように颯太を見る。その表情が険悪なのは、 不良との一件が尾を引いているのだと颯太は思った。 猛は浮かびそうになる冬弥への敵意を懸命に抑えていた。 状況からみて彼が颯太を庇った事は明白だ。 友好的に振る舞うべきだと努めているのだった。その努力を無視するように冬弥は猛を無視している。 意図的にではなく、隆吾から目が離せないのだ。 「 [続きを読む]
  • 消失点 21
  • 結局終業式まで機会を得なかった。 猛も誘ったが、夏休みのバイト申請をしなくてはならない。 駅で待ち合わせの後、横丁にゲームを見に行くという予定だけ伝えておく。 合流出来そうなら行くと猛は言った。ゲームには興味も、やるだけの余裕もなかったが、 隆吾に会いたい気持ちはあった。 颯太との「穴埋め」の約束もまだ果たしていない。 申請だけならそんなには掛からないだろうが、 家庭の事情を知る指導教員相手だから話は長 [続きを読む]
  • 消失点 20
  • 猛は菜々美の身体を押し退け、ベッドから降りようとした。 菜々美は両手で猛の腕を抱いて、それを引き止めた。 「……も いい」 猛は顔を見せずに言った。「も 無理」 「いいよ」 菜々美は言って、猛の腕に頬を当てた。 「疲れてるのよとか そんなん言うな」 「言わないよ」 「俺 駄目だ。もう駄目だ」 「駄目でもいいよ」 猛は振り向く。見上げる菜々美と視線が絡む。菜々美は笑った。 「訊かないのか」 猛は問う。 駄目な [続きを読む]
  • 消失点 19
  • 隆吾はコントローラーを持つ手を膝に休め、颯太の顔を眺めた。 慣れてきて寛ぐようになったからなのか、 彼の雰囲気が変わったような気がしたのだ。 横顔に浮かぶ表情も、最初の時とは違う。 颯太が振り返る。「どうか した?」 「いや」 隆吾は画面に目を戻した。「うん 少し休もうか」 電源を落とし、立ち上がる。キッチンから飲み物と、用意しておいたスナックを運んだ。 「ちょっと飽きて来たかな。新しいソフトを買おうと [続きを読む]
  • 消失点 18
  • 思い出しては口元を綻ばせる。キッチンでの作業はいつもよりずっと軽やかに明るかった。 写真の弟ではなく颯太の顔を思い浮かべてフライパンを振る。あれから颯太は夢中で本の事を語った。 冬弥がそう仕向けたのだが、まさかあれほどに雄弁になるとは思わなかった。 「最近よくこのタイトルを目にするんだけど」それはファンタジーのジャンルでは古典というべき作品だった。 名作だがあまり世に知られてはいない。それがなぜか急に [続きを読む]
  • 消失点 17
  • 一晩は長いと思っていたが、眠ってしまった。 最近にない熟睡だった。 猛は起き上がり、男の姿を探した。 耳を欹てて浴室の気配を探るが、水音はしない。ベッドのシーツに掌を当てる。温もりが残っているような気がした。 寝返りを打とうとして、シーツの濡れている場所に触れる。 記憶が蘇った。 猛は毛布を蹴って起き上がり、裸のまま浴室へ向かった。 湯に変わる前の水を浴びる。それですっかり目は覚めた。 正気に戻ったと言っ [続きを読む]
  • 消失点 16
  • 一晩、という約束だった。 男は寛いだ様子を見せ、猛にグラス半分の酒を勧めた。 「それで楽になれる」 自分がアルコールに弱い事は、父親の酒を盗み飲みした事で分かっている。 吐くような酔い方ではなく、ふわふわと浮かれ眠くなるだけだ。 確かに楽になれる。猛は手を伸ばし、一息に煽ろうとして止められた。 「時間はあるんだ」 男は言って自分の分のグラスを軽く持ち上げて見せた。 猛は口に含んだ分を飲み下した。喉が音を [続きを読む]
  • 消失点 15
  • 双子の弟が死んで、隆吾の胸には喪失感がぽっかりと穴を空けた。 隆吾はそれまで傍らに感じていた温もりを内側に引き入れる事で、その空虚を埋めた。だから隆吾の中には幼いままの弟が、少し高い子どもの体温で宿っている。しかしその一方で、 母親の目に映る双子の片割れの影を、いつも自分の背後に感じていた。 隆吾より、僅かにだけ優秀な兄弟。 汚れる事のない幼子のまま、かつ、親がかくあれと願う子どもの姿。 隆吾は懸命に [続きを読む]
  • 消失点 14
  • 隆吾は何度か颯太の横顔を盗み見た。 口元を弛め、大きな目を更に大きく見開き画面に見入っている。 攻撃が決まる度に唇が動く。それは颯太自身の攻撃のみならず、隆吾が技を決めた時でも同じだ。 「すごいっ」 連続技に歓声をあげる。ぎりぎりで躱しダメージを最小限で喰い止めた後、 隆吾を振り返って目を輝かせ「君 すごいよ」と叫ぶ。 優越感ではなく純粋に隆吾を称えている。そんな風に賞賛されたのでは攻撃を入れにくくな [続きを読む]
  • 消失点 13
  • 隆吾は颯太の前に片膝をついた。 両手で颯太の肩を掴み、目線を合わせようとする。 覗き込んでくる眼光の鋭さに、颯太は負ける。 目を伏せ「どうして」と訊いた。 「どうして?」 隆吾は怪訝に問い返す。 彼にしてみれば、ごく普通の、何でもない切り返しだっただろう。だがその声に颯太は非難を感じて萎縮してしまう。 隆吾は「何が どうして なんだ」と柔らかく訊き直した。 「どうして 似てなきゃ いけないの。どうして  [続きを読む]
  • 消失点 12
  • 一礼して職員室から出ると、教室に戻って帰り支度を始める。 生徒たちは部活に行くか、帰宅するかで冬弥が最後のようだった。 鞄を持ち戸口に向かう途中、竹原颯太の机に目を遣った。 殆ど会話した事もない相手に、なぜいきなりあんな事を尋ねたのだろう? 街で見かけた少年と颯太が似ているからといって、自分に何の関わりがあるのか。 「……気になったんだから仕方ない」 颯太に言い訳をするように、その机の横で呟いた。その日 [続きを読む]