「酒宴」呑ませてくれるのですかほほえみながらやわらかい微笑を私に投げかけながらこの村によう来なさったと村の役場に勤めているという人春の宵国道の向こうの川端には菜の花が群れ咲くころ東の山の上にはまあるい月がなんとなく顔をだして満天の星もにこにこと荷物をどこかに降ろしたくて旅の途中ひょっこり立ち寄った村に一軒しかない居酒屋に居合わせた村の酒飲み達見知らぬ余所者の私にやつぎばやに問いかけてくる身上調べのあと酒を注ごうとするこの村の人たち指の関節の太さ伸びた鬚に手拭の鉢巻仕事着の汗のにじみ蛍光灯の明かりも壁のくすみも土地言葉のやわらかいひびきも肩や背中に快く。歓声の波大きく小さく窓の外裏山のたぬきが振り返る伊予の国小松の里居酒屋「吟」顔のこわばりが融ける時こころの中に陽射しの涙が降りそそぐ一九九八.四.十二酒宴