エミール・ガボリオ ライブラリ さん プロフィール

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エミール・ガボリオ ライブラリさん: エミール・ガボリオ ライブラリ
ハンドル名エミール・ガボリオ ライブラリ さん
ブログタイトルエミール・ガボリオ ライブラリ
ブログURLhttp://blog.goo.ne.jp/puereternus2
サイト紹介文19世紀フランスの探偵小説作家ガボリオの未邦訳作品を翻訳しています。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供323回 / 365日(平均6.2回/週) - 参加 2016/02/12 18:34

エミール・ガボリオ ライブラリ さんのブログ記事

  • 第二章 1
  • たとえそれが殺人でなかったとしても、何かとてつもないことがトレモレル伯爵家で起こったのは確かであった。物に動じない治安判事も、玄関に一歩足を踏み入れただけですぐそのことは納得した。庭に面したガラス戸は開け放されてあり、三枚に仕切られたガラスは粉々になっていた。すべてのドアからドアまで廊下に敷かれている防水布は引きちぎられ、白い大理石の敷石の上には、そこかしこに血の大きな滴が落ちていた。階段の上り口 [続きを読む]
  • 第一章 7
  • 「その召使いは」とクルトワ氏は尋ねた。「お邸に長いこと奉公しているのですか?」「この春からです」「どういう仕事を担当していますか?」「奥様の温室の珍しい花の世話をするのに、パリの園芸店から雇われてきたんですわ」「それで……その大金のことを彼は知っていましたか?」彼らはもう一度目配せを交わし合った。「ええ、ええ」彼らは異口同音に言った。「台所ではそのことでもちきりでしたから」「それに」と小間使いの女 [続きを読む]
  • 第一章 6
  • フィリップは既に駈け出していた。が、曲がり角まで来たとき、歌声と笑い声が聞こえ、殆どすぐに女三人と男二人の姿が現れた。「ああ、お城の人たちが帰ってきました!」早朝の訪問者たちを見て大いに好奇心が刺激されていたらしい馬丁が叫んだ。「あの人たちが鍵を持っている筈ですよ」使用人たちの方でも門扉の前に立っている一団に気がつき、ぴたりと話をやめ、急いで近づいてきた。うち一人は駈け出してきたので、一番先に到着 [続きを読む]
  • 第一章 5
  • 「なんでも」ドアを開けるや否や彼は言った。「トレモレル夫人が殺されたとか」「少なくともこちらの者たちが、そう主張しておるのです」と再び現れた村長が答えた。クルトワ氏はもはや先ほどの彼ではなかった。少しいつもの自分を取り戻す時間があったので、威厳ある冷静さを顔に表そうと努めていた。自分の慌てぶりと苦痛をベルトー父子に見せてしまったことは自分の沽券に関る、と彼は自分自身を激しく責めていた。『自分のよう [続きを読む]
  • 第一章 4
  • 彼はしばし考え、呼んだ。「バティスト!」呼ばれた召使いはすぐ近くにいた。彼は耳と目を代わる代わる鍵穴に押し当てて、可能な限りを見聞きしていた。主人に名前を呼ばれたときには、背中を伸ばし、ドアを開けるだけでよかった。「お呼びでございますか?」「治安判事のところへひとっ走りしてくれないか」村長は言った。「一刻を争う事態だ。犯罪、おそらく殺人事件が起きたのだ。判事に御足労願いたい。一刻も早く、とお願いし [続きを読む]
  • 第一章 3
  • 当初彼は余生を妻や娘たちに囲まれて、冬はパリで夏は田舎で静かに暮らそうと考えていた。それが突然、何かを求めてそわそわと落ち着かぬ彼の姿を人々は見ることになった。野心というやつが彼の心を蝕んでいたのだ。彼は奔走し、オルシバルの村長の地位に就くことを懇望されるようにもって行った。そして不承不承それを受諾したのである。そのことは彼自身会う人ごとに話しているから、彼の口から聞けるであろう。この村長職という [続きを読む]
  • 第一章 2
  • 「それじゃ、村役場に届けに行こうよ」「なんでそんなことをする? ここの人間はわしたちのことを快く思っておらん。却ってわしらが怪しまれるかもしれんじゃないか?」「けど、父さん……」「いいか、もしわしらがあのクルトワに知らせに行ったとする。そしたら、わしらが何故どのような理由でトレモレルの庭園内にいて、それを発見したのか、聞かれることになるぞ。伯爵夫人が殺されたからって、それがお前に何の関係があるんだ [続きを読む]
  • 第一章 1
  • 186*年7月9日木曜日のことだった。太鼓腹というあだ名で呼ばれているジャン・ベルトーと彼の息子は釣りに出かけるため、夜の明ける午前三時頃に起床した。この父子は密漁や盗みで生計を立てていることがよく知られていた。必要な装備に身を固め、二人はアカシアの樹が影を落とす快適な道を下っていった。それはエヴリーの停車場からちらっと見え、オルシバルの町からセーヌ川に出る道だった。彼らはいつも自分たちの舟をワイ [続きを読む]
  • 「バティニョールの爺さん」改定版
  • 若干修正、改訂版を出しました。バティニョールに住むアンテノール爺さんは小金を貯めているという評判だが、寝室で殺害された。死体の傍にはダイイング・メッセージが……。150年前頃に史上初の長編探偵小説を書き、その後のミステリ小説界に大いに影響を与えることとなったエミール・ガボリオの短編。フランス語からの完訳。お求めはこちらから→「バティニョールの爺さん」 [続きを読む]
  • 芥川のガボリオ評
  • 芥川龍之介が1925年「文芸春秋」4月号に次のようなものを載せている。『僕は探偵小説では最も古いガボリオに最も親しみを持っている。ガボリオの名探偵ルコックはシャァロック・ホオムズやアルセエヌ・リュパンのように人間離れのしたところを持っていない。のみならずガボリオの描いた巴里は近代の探偵小説家の描いた都会---たとえばマッカレエの紐育などよりも余程風流に出来上がっている。ガボリオは僕にはポオよりも好い。勿論 [続きを読む]
  • 海賊ケルノック 24
  • そこかしこに一世紀を経た樫の木が藁屋根を支えている。屋根にはツルニチニチソウやクレマチスの綺麗な青い花が覆い、長い花房となって垂れている。 この風景に活気を添えるのは、後ろ足でひょいと立ち上がる姿がこうした花綱から吊るされているかのように見えるヤギであったり、大きな牛に引かせている細長い荷馬車、そしてその車軸の絶え間なく軋む音であったり、半ズボン姿のブルターニュ人が歌う素朴な歌であったり、鞍なしで [続きを読む]
  • 海賊ケルノック 23
  • 「親爺さんは見たんだろ。その……それが起きた後に? 俺はサン・ポールに行ってたんで」「ああ確かに見たとも。いいか、こんな風じゃった。誰かがわしのところに、ケルノックさんの家から何か焦げた匂いがする、と言いに来た。それが実に奇妙な匂いだと言うんじゃ。なんと、朝の八時のことだぞ。誰も彼の部屋に入ろうとせん。馬鹿な連中だ! それでわしが中に入っていった。そしたらもう……ああ酒をくれ。思い出すたびに胸が悪く [続きを読む]
  • 海賊ケルノック 22
  • 「サトゥルニヌス聖人の日が来ると」パイプの火皿を軽くテーブルに打ちつけ、中の灰を落としながら彼は言った。「あれから二十年になる」ここで彼は赤と青の碁盤縞の毛糸のトック帽を脱いだ。「亡くなったケルノック船長率いるハイタカ号がパンプールの港に最後に入港してから」彼は首を振りながら溜め息を吐いた。「時の経つのはなんと早いもんじゃ!」と大きなカラーの男が並外れて大きいブランデーグラスを飲み干しながら答えた [続きを読む]
  • 海賊ケルノック 21
  • 「ちぇっ、全く、お前は知ってるのか、お前らのためにしてやったあのどんちゃん騒ぎのおかげで、船にどんだけの食糧しかないか?」「いいや」「なら教えてやる。残っているのは乾パンが一樽、水が三トン、ラム酒が一箱だ。お前らは一日で三カ月分の食糧を喰っちまったからな」「それはあんたの責任じゃないか、あいつらにもあるだろうが」「そんなこと、気にしてられるか。これから八百里ほども航海せねばならんし、十八人の子分を [続きを読む]
  • 海賊ケルノック 20
  • ケルノックは身軽に檣楼に上り、索具装置を綿密に調べた。損傷はいたるところにあったが深刻なものではなく、マストに応急処置を施し、帆桁を取り換えれば、航行を続けられ、最寄りの港に辿り着けそうだと判断した。グラン・ド・セルが甲板に戻ってきたが、彼一人であった。「どうした!」ケルノックは言った。「奥様はどこだ、このすっとこどっこい!」「船長、あの、それが……」「それが、どうした? はっきり喋れ、このど阿呆 [続きを読む]
  • 海賊ケルノック 19
  • すべての銀貨が注ぎ込まれる間もなく、コルベット艦は、船首マストがハイタカ号の帆索に突っ込むように迫ってきた。しかしケルノックは巧みに操縦してイギリス船の風上に回り込み、その位置を保った。ピストルの射程距離の二倍のところまで近づいたとき、コルベット艦は最後の片舷斉射を浴びせてきた。というのは、彼らの方でも弾薬が尽きてしまったからである。この執拗な戦いが続いた二時間というもの、彼らの方でも見事に戦い、 [続きを読む]
  • 海賊ケルノック 18
  • デュランがこの精神的かつ外科的な世話をしているとき、瀕死の七人と死者十一人の真ん中に突然飛び込んできたグラン・ド・セルに仕事を中断された。「お前はわしの仕事の邪魔をしに来たのか、小僧?」とデュランは尋ねた。この叱責とともに、この見習い水夫は、サイでも吹っ飛ぶぐらいの平手打ちを喰らった。「違うんだ、デュラン先生。上じゃ弾薬筒を持ってこいって言ってるんだ。もう最後のやつを撃っちまったからって。イギリス [続きを読む]
  • 海賊ケルノック 17
  • デュランというのは砲手係外科医兼船大工の名前なのだが、コルベット艦とブリック船の間に繰り広げられる激しい戦闘につきものの喧噪や騒音を越えて、この名前が甲板から船倉まで響き渡っていた。そして事実、コルベット艦が攻撃を加えるたびにハイタカ号は揺れ、まるで今にも船体にぱっくり口が開くのではと思われるほど、肋材がめりめりと音を立てた。「デュラン先生、砲弾を! 浸水です! 脚をやられた!」このような緊急の呼び [続きを読む]
  • 海賊ケルノック 16
  • ケルノックの乗組員たちは完璧に理解した。二つのうちのどちらかになることは必定だった。帆を張ったおかげで、また力強い漕ぎ手たちのおかげで、ハイタカ号は三ノットの速度で進んだ。しかしケルノックは自分のブリック船の帆走力を過信することはなかった。風も味方に付けたイギリスのコルベット艦の力が断然勝っているのを彼は見て取った。また抜かりない海賊船船長として、彼は戦闘準備をさせ、火薬倉庫を開けさせ、砲弾置き場 [続きを読む]
  • 海賊ケルノック 15
  • やがて、うとうとしながら彼は呟いた。「手下どもを満足させねばならん。俺は実に上手くやったんだからな。なんたって、三百個の樽と三十人ほどのスペイン人を乗せた船なんだせ、全く! 立派な仕事だ。だが、こういうことは癖になっちゃいけない。ときどきは良いがな。人生、ちっとは気晴らしが必要だからな」第十章 追跡ハイタカ号の船上では皆眠りについていた。ただ一人メリーだけが、漠然とした不安に気持ちを昂ぶらせデッキ [続きを読む]
  • 海賊ケルノック 14
  • 「何ですと……ということはつまり……」「そうだ。そうしてやるつもりなのだ。びっくりするだろ?」「こいつぁ評判になりますぜ。それに面白いと来ている……。じゃ、行ってきますぜ、船長」ケルノックはその後すぐメリーとともに甲板に上がって行った。彼が姿を現すと、新たに歓声が上がった。「ケルノック船長万歳、奥さん万歳、ハイタカ号万歳!」ブリック船から銃の二倍の射程距離の地点で停泊しているサン・パブロ号からのろ [続きを読む]
  • 海賊ケルノック 13
  • 第九章 乱痴気騒ぎ 「酒だ、おい、酒だ!」瓶がぶつかり合い、容器が壊れ、罵りや歌声がいたるところで弾けていた。酔っぱらった男が甲板に倒れる鈍い音が聞こえるかと思えば、グラスを片手に持ち、もう一方の手でテーブルにしがみついて身体を支えながらの呂律の回らぬ声などが聞こえた。「酒を持ってこい、見習い小僧、酒だ。さもないとぶん殴るぞ!」その言葉どおり、彼らの間で蹴り合いや頭突きが行われ、くんずほぐれつの乱 [続きを読む]
  • 海賊ケルノック 12
  • しかしハイタカ号が長櫂を用い、速度を上げて向かってくるのを見たとき、もはや疑いようもなく、自分たちが海賊船の手に落ちたと分かった。逃げることは不可能であった。断続的に吹く軽風は止み、その後凪が訪れていた。海賊船の長櫂が確実な速度を与えていた。防戦することなどもはや考えられなかった。サン・パブロ号の二基の頼りない大砲が、恐ろしい口を開けているハイタカ号の二十基の艦載砲に対し何が出来るというのか?おと [続きを読む]
  • 海賊ケルノック 11
  • 「死ぬまで、ね……」とアニータが言った。やがて二人の唇が出会い、カルロスは身を震わせながら彼女を抱きしめた。ギターが彼らの足元に転がり、オルガンの消えゆく音のような甘い耳に快い音を立てた。カルロスは妻に対する愛情の戦慄が走り、胸苦しくさせるほど情愛の籠った視線で見つめた。妻の方は、この激しく焼けつくすような視線にうっとりし、重くなった瞼を閉じながら呟いた。「お願い!……お願いよ、カルロス!」それか [続きを読む]
  • 海賊ケルノック 10
  • 遅刻してきた水夫は身軽に船に飛び移ると、恐縮した様子でケルノックに近づいた。「なんでこんなに遅れたのだ?」「年老いた母が亡くなりました。最期を看取って、目を閉じてやりたかったのです」「そうか!」とケルノックは言い、次いで副船長の方を向いた。「この孝行息子に落とし前を着けさせろ」副船長がゼリに二言、三言耳打ちすると、ゼリはレスコエを船の前部に連れて行った。「いいか、お前」彼は細長いロープを揺ら揺らさ [続きを読む]