エミール・ガボリオ ライブラリ さん プロフィール

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エミール・ガボリオ ライブラリさん: エミール・ガボリオ ライブラリ
ハンドル名エミール・ガボリオ ライブラリ さん
ブログタイトルエミール・ガボリオ ライブラリ
ブログURLhttp://blog.goo.ne.jp/puereternus2
サイト紹介文19世紀フランスの探偵小説作家ガボリオの未邦訳作品を翻訳しています。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供340回 / 365日(平均6.5回/週) - 参加 2016/02/12 18:34

エミール・ガボリオ ライブラリ さんのブログ記事

  • 第一部  第六章 3
  • もうかなり前からフォヴェル夫人は、いかなる貪欲な企みにも覚悟はしていたが、ついにその一端を目にしたのである。ルイの不意の宣言は、多くの辛酸を舐めてきた後にでもかろうじて残っていた彼女の心の優しさの根幹部分を刺激した。「よくもそんなことが考えられたものですね!」と彼女は憤然として叫んだ。「私があなたの憎むべき術策に手を貸すなどと」ルイは頭で一度頷いて答えた。「そのとおり」「あなたは誰に向かって話して [続きを読む]
  • 第一部  第六章 2
  • 少なくとも彼女は何らかの償いをしたいと考えていた。春が近づいてきた。彼女はラウルに、自分がサンジェルマンに持っている土地の近くに居を構えてくれるよう頼んだ。ラウルが異議を唱えるだろうと彼女は思っていたが、全く違った。この提案に彼は喜んだように見え、そのすぐ後、ヴェジネに家を一軒借りたから、家財道具をそこに移すつもりだと彼女に告げた。「そうしたら、僕はもっとお母さんの近くに居られるよ」と彼は言った。 [続きを読む]
  • 第一部  第六章 1
  • 情け容赦のないクラムラン侯爵に降伏することはフォヴェル夫人にとり断腸の思いであった。思い余った彼女は息子のもとへ助けを求めに行った。ラウルは、彼女の話を聞き、激怒した様子を見せ、母を泣かせたけしからぬ男に謝罪させてやる、と言って飛び出して行った。しかし彼は自分の力を買いかぶり過ぎていた。まもなく、陰気な目をし、頭を垂れ、無力感に顔を引き攣らせながら戻って来ると、屈服し、言いなりになるしか道はない、 [続きを読む]
  • 第一部  第五章 17
  • あなたはしみったれた先入観などとは無縁なお人だ。ロンドンでこっそり赤ん坊を産み落とした後、あなたはその子を捨てた。その子供のことをあなたが完全に忘れてしまったことは認めますね。自分は百万長者だったくせに、その子がちゃんとパンを得られているか調べてみようともしなかったのだから。フォヴェル氏と結婚したとき、あなたの良心はどこにあったのです? 花嫁の被るオレンジの花の冠の下にどんな別の顔が隠されていたか [続きを読む]
  • 第一部  第五章 16
  • 「あなたは、サン・レミに」ルイは尋ねた。「親戚の女性がおられるのではなかったですか? 大層年を召された未亡人で、娘さんが二人おありの……」「ええ、従姉のド・ラゴール夫人ですわ」「そうそう、その方です。その方の財政状態はどのようなものですか?」「貧しいです。ええ、とても貧しい状態ですわ」「そうですね。あなたが密かにしておられる援助がなければ、救貧院に行かねばならないほどの」ルイがこれほどよく知ってい [続きを読む]
  • 第一部  第五章 15
  • 「まぁ、どうしましょう!」と彼女は答えた。「そうしたいのはやまやまなのだけれど、でもどうしたら? 私は自分の体面を傷つけることなんて出来ないでしょう? 私には他に子供たちがいて、私の名誉はその子たちにも関ることなんですよ」この返答はクラムランを驚かせたようだった。二週間前にはフォヴェル夫人は他の息子たちのことなど口にしなかったのに。「よく考えてみましょう」ルイは答えた。「次にお会いするときには、すべ [続きを読む]
  • 第一部  第五章 14
  • ただ、ラウルの好みを考えると、仕事を選ぶのは困難なことになりそうなので、ルイは慎重によくよく考えてみると言った。当面は、ラウルの経費のすべてをフォヴェル夫人が用立て、ルイの裁量のもとに置くことで合意が成立した。このガストンの弟が、自分の息子の父親代わりになってくれると思い、フォヴェル夫人はたちまち彼なしでは夜も日も明けないようになった。ふとした思いつきを相談するためや、何やかや忠告を貰うために、彼 [続きを読む]
  • 第一部  第五章 13
  • 少しは自分の気持ちを隠したいという思いがあったのであろう、マドレーヌは叔母の首に抱きついて呟いた。「ありがとう! 叔母様、ありがとう! 叔母様って良い人だわ。私のことを思ってくださるのね……」フォヴェル夫人の方では内心こう呟いていた。『すぐにでもアンドレに話して、プロスペルを焚きつけて貰うわ。そうすれば二カ月も経たないうちに、この二人は結婚する』不幸なことには、感情の嵐に翻弄されていた彼女は片時も心 [続きを読む]
  • 第一部  第五章 12
  • しかし彼女は、結婚している身であることが恨めしかった。自由であれば、すべてをラウルに捧げられるのに。彼女は裕福であったが、彼とともに貧乏を分かち合うこと引き換えになら、喜んでその富を差し出したことであろう。彼女の夫も、息子たちも彼女の胸をかき乱している考えに全く気付かなかったので、この方面では彼女は安心していた。が、姪に関してはひどく恐れていた。彼女が帰宅したとき、マドレーヌは不審そうな目を彼女に [続きを読む]
  • 第一部  第五章 11
  • 何も隠すことはない、と彼は言った。自分の人生は貧乏人の子供のそれであった、と。彼を育ててくれた農家のおかみさんは常にある程度の愛情を注いでくれた。それに彼が性格も良く賢そうなのを見て、彼女の財力と彼の境遇を越えるような一定の教育も受けさせてくれた。十六歳のとき、ある銀行家のもとに職を得、大いに働いて生活費を稼ぐことが出来るようになった。そんなある日、一人の男が現れ『私はお前の父だ』と言った。そして [続きを読む]
  • 第一部  第五章 10
  • 本当に、この息子に体面するのは彼女にとって初めてであった。どんなに泣いて頼んでも、赤ん坊の彼を抱くことすら許されないまま連れ去られたので、今彼女が与えたキスは初めてのものであった。かくも長い残酷な苦しみの後だけに、この大きな喜びを見出したのは、あまりにも幸福なことだった。フォヴェル夫人は椅子に倒れ込むように座り、一種の恍惚状態の中で、足元に跪くラウルをむさぼるように観察した。この可哀想な捨て子は何 [続きを読む]
  • 第一部  第五章 9
  • 相手の青年の顔つきからは、まるでこの気の毒な婦人の苦悶が伝染したかのように、辛そうな同情のようなものが現れていた。「侯爵は」と彼ははっきりと述べた。「これまで神聖な義務と考えていたもの---それは誤りでしたが---それを放棄する、と悲しげな声で申されました。彼が、世にも痛ましい告白をあなたから得ようと、あなたに会いに行くまでに長いこと躊躇していたのですよ。あなたは撥ね付け、彼の言葉に耳を貸すことを拒否な [続きを読む]
  • 第一部  第五章 8
  • すべて相手の言いなりになる覚悟は出来ていた。彼女はその手紙を燃やし、『行くわ』と心に呟いた。事実、その翌々日、指定された時間に、彼女は一番簡素な黒いドレスを着、一番顔が見えないような帽子を被り、ポケットにはベールを忍ばせて出発した。家からかなり離れた地点で辻馬車に乗り、ルーブル・ホテルの前で降りた。ルイ・ド・クラムラン侯爵の部屋は四階である、と管理人に教えられ、彼女は駆け上がっていった。人々の視線 [続きを読む]
  • 第一部  第五章 7
  • もやもやした疑念と漠然たる警戒心が彼女の心を占めていた。ここで態度を決め、積極的な処置を講じれば、たとえ人から強要されることはないにしても、それは今後ずっと彼女について回ることになるであろう、と分かっていた。夫の足元に身を投げ、何もかも打ち明けてしまおうか、という考えが一瞬浮かんだ。しかし不幸にも、彼女はこのような救いを求めるやり方を却下した。あの誠実な夫が、二十年以上の年月を経た今、耐え難い裏切 [続きを読む]
  • 第一部  第五章 6
  • 努めて感情を出さないようにしていなければ、ルイはうっかり自分の仰天を暴露してしまうところだった。「私は命じられていたのです」彼はそっけない調子で言った。「そのことは口外するなと」それには答えず、フォヴェル夫人は呼び鈴の紐の方に手を伸ばした。「これで、この話は打ち切りということでよろしゅうございますね。これらの宝石をあなたにお返しする、というのがお会いした唯一の目的だったわけですから」このように撥ね [続きを読む]
  • 第一部  第五章 5
  • 「そうですわね」彼女は無理に笑いながら言葉を続けた。「あなたは何が仰りたいんですの?」「こういうことなのです、奥様。二年前、流浪の生活を続けていた兄はロンドンに流れ着きました。そこに住むある一家のもとでラウルという名前の若者に出会ったのです。その若者の顔つきや賢さにガストンは心を打たれ、彼が何者なのか知りたいと思いました。彼は捨て子だったのですが、いろいろ調べてみると、ガストンはそれが自分の息子で [続きを読む]
  • 第一部  第五章 4
  • 哀れなヴァランティーヌには、分かりすぎるほど分かった。が、この不吉な訪問者の真意がどこにあるのか、いくら探ろうとしても彼女には分からなかった。ひょっとしたら、彼は単にガストンから預かっている宝石類を取り戻しに来ただけかもしれない。「兄が命を落とし、将来を断たれたそのときの悲惨な様子をお聞かせはいたしません」フォヴェル夫人の表情はぴくりとも動かなかった。彼女は頭の中で、ルイが一体どの場面のことを言っ [続きを読む]
  • 第一部  第五章 3
  • 彼の方は、深々と頭を下げた後、居間の真ん中に立ち、じっと動かず待っていた。年齢は五十歳ぐらいで口髭と頭髪は白髪が混じっており、顔つきは陰気で厳しかった。もったいぶった態度で、黒い服をきちんと着こなしていた。フォヴェル夫人は、自分でも説明のつかぬ感情に心を動かされ、震えながらこの男をじっと眺め、その顔の中に、かつて自分が身を捧げるまでに愛した青年の面影を探していた。自分の唇の上に重ねられた唇、自分の [続きを読む]
  • 第一部  第五章 2
  • 『奥様、 懐かしい思い出に免じて三十分お時間を頂きたいと申しますのは、あまりに不躾なお願いでしょうか?明日、二時から三時の間にお宅に参上する名誉をお与えいただきたく存じます。 クラムラン侯爵』幸いにも、フォヴェル夫人は一人きりだった。彼女が文面に目を走らせたその瞬間、臨終の苦悶に似たものが彼女を襲った。その驚くべき内容を十分理解し、自分が幻を見ているのではないと納得するために、彼女は小声で十回ほど [続きを読む]
  • 第一部  第五章 1
  • ヴァランティーヌ・ド・ラ・ヴェルブリーが結婚しフォヴェル夫人になってから二十年以上経ったが、彼女が味わった本当の苦しみはただ一つだけであった。それは人間の心の最も深いところにある愛情を運命的に揺るがすものであった。1859年、彼女の母親は頻繁にしていたパリ滞在中に肺炎に罹り、死亡した。それ以来、フォヴェル夫人はこれでもう心配の種や涙を流す原因はなくなった、と好んでよく口にしていた。これ以上望むこと [続きを読む]
  • 第一部  第四章 11
  • この事実を二十年経った今知らされ、ルイは唖然とした。「あんたは夢に見たことと現実とを混同しておるのではないか?」ルイはゆっくりと尋ねた。ミオーヌは悲しそうに首を振った。「いいえ、そんなことはありません」彼女は続けた。「もしムヌールの親爺さんが今まだ生きていたら、あなた様に話して聞かせることでございましょう。どのようにガストン様をカマルグまでお連れしたか、そこからガストン様がマルセイユまで行き、船に [続きを読む]
  • 第一部  第四章 10
  • ミオーヌにとって、侯爵の姿を見たことは彼女の人生を変えるほどの一大事であった。今の今まで、忠実な召使いたる彼女は、自分に打ち明けられた秘密を誰にも言わず隠し通してきたが、それでもその秘密は抱え込むには非常に重いものであった。子供を持ちたいと強く願っていたにも拘わらず、ついにわが子を産めなかった彼女は、これは神罰であろうと自らを納得させていた。かつて罪のない赤ん坊を捨てるのに手を貸したことのある自分 [続きを読む]
  • 第一部  第四章 9
  • 「このフージュルーという男はこすっからい奴でしてね」とジョゼフは言った。「狡猾の度が過ぎると言ってもいいくらいで。あの男が結婚して以来、良い話は一つもありません。その結婚というのがとんでもないものでしてね。ミオーヌは五十を越しているというのに、彼女に言い寄ったのですよ。奴は二十五にもならないのに。もうお分かりでしょうが、奴の狙いは女じゃなくて、金だったんです。可哀想なミオーヌは男が自分を愛している [続きを読む]
  • 第一部  第四章 8
  • しかし、さんざん無意味な騒ぎを繰り返した挙句の休息、難破に次ぐ難破の後辿り着く港といったものは、彼には与えられなかった。彼は無一物であった。どうやって生きて行くのか? この失った過去への悲痛な思いが、ジョゼフに城の鍵を返してくれと頼む勇気を与えた。城に行ってみるつもりだった。「必要なのは正門の鉄格子の鍵だけなのでございますよ」とジョゼフは答えた。「かろうじて」それは本当だった。時がその威力を発揮し [続きを読む]
  • 第一部  第四章 7
  • 彼は外に駆け出し、同時に力一杯の大声で叫んだ。「トワネット、おおい、アントワネット、ちょっとこっちへおいで!」このような心のこもった丁重な対応に、ルイの心はうっとりとなった。これほどの心からの情愛と見返りを求めぬ献身の言葉を耳にし、真の愛情に溢れた手に自分の手が握り締められたことは、もう何年もないことだった。たちまちそこに、色の浅黒い、黒い大きな目をした綺麗な若い女が、頬を赤く染め、戸惑った様子で [続きを読む]