エミール・ガボリオ ライブラリ さん プロフィール

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エミール・ガボリオ ライブラリさん: エミール・ガボリオ ライブラリ
ハンドル名エミール・ガボリオ ライブラリ さん
ブログタイトルエミール・ガボリオ ライブラリ
ブログURLhttp://blog.goo.ne.jp/puereternus2
サイト紹介文19世紀フランスの探偵小説作家ガボリオの未邦訳作品を翻訳しています。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供347回 / 365日(平均6.7回/週) - 参加 2016/02/12 18:34

エミール・ガボリオ ライブラリ さんのブログ記事

  • 第一部  第四章 3
  • 父の棺にスコップでかけられる土の最後の一掬いが終わるか終らないうちに、ルイは城の中の売れるものは一切合財、売り始めた。馬、馬具一式、馬車等々。翌日には召使い全員に暇を出した。可哀想な彼らはド・クラムランの屋根の下で生涯を終えることを希望していたのに。そのうちの何人かは目に涙を浮かべ、引き続き仕えさせてくれるよう懇願した。無報酬で構わないとさえ言う者もいたが、ルイは情け容赦なく解雇した。彼はこのとき [続きを読む]
  • 第一部  第四章 2
  • この言葉の意味するところははっきりとルイに伝わり、彼はさっと顔を蒼ざめさせると恐ろしい声で怒鳴った。「無礼者! それはどういう意味だ?」「それはよくお分かりでしょう、ルイ様」サン・ジャンは言い放った。「いや、分からぬ! お前、言ってみろ」サン・ジャンは何も答えず、ただじろりとルイを見ただけだったが、その目つきがあまりにも意味ありげだったので、ルイは乗馬鞭を振り上げ、彼に飛びかかっていった。他の召使い [続きを読む]
  • 第一部  第四章 1
  • クラムラン侯爵の二番目の息子であるルイは内に閉じこもる性質の持ち主で、冷やかで無頓着な外見の下に極端な所有欲と途方もない情念を持つ、火のような激しい気性を隠していた。クラムラン家の人間の運命を決定することになる例の事件が起きるずっと前から、常軌を逸した考えや悪の種子が彼の病んだ精神の中でくすぶっていた。表面上は軽薄な遊びに熱中している風を装いながら、この早熟の偽善者は自分の情熱を発揮するべく、より [続きを読む]
  • 第一部  第三章 18
  • しかし前兆というものは嘘吐きである。その証拠に一年後、ヴァランティーヌは最も幸福な女だと人々は断言した。本当に、幸福だったろうか。確かに、そうであったろう、忘れることが出来ていたなら。アンドレは彼女を崇拝していた。彼は実業界に入り、すべてにおいて成功した。しかし彼は非常な金持ちに、とてつもなく裕福になることを願っていた。自分自身のためでなく、彼の愛する妻のために。彼は妻をあらゆる贅沢の楽しみの中に [続きを読む]
  • 第一部  第三章 17
  • その上、娘が告白をしそうになっても、それを止めるだけの影響力が自分にあると考え、ヴァランティーヌが一分たりともアンドレと二人きりにならないようにした。結婚さえしてしまえば後は何とかなるだろう、と彼女は考えていた。それから、アンドレと同じくらいせっかちな彼女は、結婚の準備を急がせた。ヴァランティーヌには落ち着く時間も、じっくり考える暇も与えなかった。細々したことで、彼女を忙しくさせ、彼女の生活に入り [続きを読む]
  • 第一部  第三章 16
  • 物語の中では、このようなヒロインは常に変わらぬ心を持ち続けるものだが、現実には、そのような奇跡はまず起こらない。ヴァランティーヌの心の中で、長い間ガストンは憧れの英雄のように燦然と光を放つ存在であったが、時という名前の霧が少しずつ偶像の光を鈍らせ、今では彼女の心の底に横たわる冷たい遺骨にすぎなくなっていた。それでも、悶々と眠れぬ一夜を過ごした翌朝、苦痛に顔を蒼ざめさせながらも、彼女は告白することに [続きを読む]
  • 第一部  第三章 15
  • 「ねぇお前、可愛いヴァランティーヌ」と彼女は言った。「私たちがどんなに酷い窮乏状態にあるか、お前が分かっていれば、そんな風には言わないだろうよ。そもそもお前の過ちから私たちの没落が始まったのだけれど、今はもう完膚なきまでに私たちはやっつけられているのだよ。現在私たちの財政状態がどんなものか分かっているかえ? 債権者たちは私をラ・ヴェルブリーから追い立てようとしている。そうなったら、私たちはどうなる [続きを読む]
  • 第一部  第三章 14
  • 「あなたの娘婿が婚姻契約の義務を全うするであろうことは明らかです」「まぁそんな、契約だなんて。そんなものじゃございません。しきたりですわ!私、世間の人に何を言われるか」「こういたしましょう。あなたが受け取るのは、彼が受領したと認める額の利子である、と一筆書いておきましょう」「そうして頂けるなら、ええ、それでしたら……」この夜、至極熱心に伯爵夫人はアンドレに、自分の馬車に乗って行くよう勧めた。道中二 [続きを読む]
  • 第一部  第三章 13
  • それだけではない。ヴァランティーヌを愛する男ならば、妻の母親の年齢や身分やその苦労に見合うだけの物質的な充足を与えずにはいられないであろう、現在の不十分な年利収入に加え、必要な費用ばかりか更にそれ以上を提供するにやぶさかではないであろう、と慌てて付け加えた。アンドレが、仮定の話としてはあまりに確信を持って喋るにつれ、伯爵夫人は金策に苦しんできた自分の上に有り難い薔薇色の露が降りかかるのを感じていた [続きを読む]
  • 第一部  第三章 12
  • となると、金銭づくで話をもっていくことが唯一、高慢で頑固なラ・ヴェルブリー夫人を説得して娘との結婚を承諾させる方法だと納得した。こう確信すると、彼の躊躇いは消え、後は自分をいかに花婿候補として巧みに売り込むか、だけを考えた。事は彼にとって簡単ではなかった。札束をちらつかせて嫁探しに行くというのは、大層デリカシーに欠けることだと思われ、彼の考えに反した。しかし、この地方に信頼できる人間は一人も知らな [続きを読む]
  • 第一部  第三章 11
  • 大勢の客を迎え、ニームやアヴィニョンなど近隣の町々にしょっちゅう旅行をし、パリから最高級の婦人服を取り寄せ、美味しい御馳走にうつつを抜かした。気前の良い娘婿が現れるまでは、と長い間辛抱していたすべての贅沢を自分で自分に与えることにしたのである。大きな苦痛を強いられているのだから、それなりの慰めがなければ、というわけだ。困った点は、この見せかけの贅沢というのは非常に高くつくということだった。債権の残 [続きを読む]
  • 第一部  第三章 10
  • 彼女は普段通りの生活を再び始めたが、収入の一部を失っていたため、収支の合う範囲内で上手くやっていくことは不可能になっていた。このことは彼女にとって、いかに言おうとも言い尽くせぬ苦情の根源であり、食事のたびに彼女は何かにつけ、ヴァランティーヌを攻撃した。自分では、過ぎたことは存在しないも同然だと断言したくせに、彼女は絶えず過去に立ち戻っては、そこから新たに怒りの種を見つけ出すのだった。「お前の過ちが [続きを読む]
  • 第一部  第三章 9
  • ますます度を強めてくる伯爵夫人の専横に対し、ヴァランティーヌがある程度の反抗をするべきときが来ていた。しかし、そうしようとは思うのだが、彼女にはその勇気がなかった。苦悩、後悔、そして内心の葛藤が、彼女の健康の回復を当然ながら遅らせることになった。それでも七月の末、彼女は母親とともにラ・ヴェルブリーに戻るに十分の体力を回復した。今回は村の詮索好きの連中もいつもほどの冴えを見せなかった。伯爵夫人はあち [続きを読む]
  • 第一部  第三章 8
  • このときを伯爵夫人は言葉に尽くせないほどジリジリしながら待っていた。出発をこれ以上遅らせまいとして、既に債権の半分を売り、その代金である二万五千フランで今後の事態に備えることが出来るだろう、と自分に言い聞かせた。もう二週間前から彼女は、娘が回復次第イギリスに向け出発するつもりだ、といたるところで話していた。かなりの老齢で非常に裕福な親戚が、来るようにと言っているので、と。この旅立ちをヴァランティー [続きを読む]
  • 第一部  第三章 7
  • 「いいえ、奥様」彼はついに言った。「あなたがラ・ヴェルブリーを去られるのをお止めすることは出来ません。そんな権限は私にはありません。しかし、あのお子様についての報告を私にしていただきたい、とお願いするのは私の義務であると考えます。あなたが何をなさろうと自由ですが、あの子が生きているという証拠を私にお示し頂きたい。あるいは、少なくともあの子に害を及ぼすようなことが何もされていない、という証拠を」彼は [続きを読む]
  • 第一部  第三章 6
  • ラジェ医師の洞察は誤ってはいなかった。ラ・ヴェルブリー夫人の脳裏にはまさに、ヴァランティーヌの過ちの生きた証拠となる胎児を葬り去ってしまおうというおぞましい考えがよぎっていた。自分の心を見透かされたと感じ、老医師にじっと見据えられると、この頑なで高慢な夫人も下を向いた。「何のことを仰ってるんだか、分かりませんわ」と彼女は呟いた。「私の言いたいのは、そういうことです、奥様。私はただ、過ちを罪で消すこ [続きを読む]
  • 第一部  第三章 5
  • しかし、夫人の考えは間違っていた。醜聞というものは一度に爆発してしまった方が、ひそひそと長期に亘って中傷されるよりもましなのである。しかし彼女の計画はすべて挫折する運命にあった。やがて女中たちが戻ってきて、ヴァランティーヌは意識を取り戻したが、かなり具合が悪そうであると報告した。夫人は最初、そんなのは『仮病』であると言ったが、ミオーヌが強く促したので仕方なくヴァランティーヌの部屋まで見に行ってみる [続きを読む]
  • 第一部  第三章 4
  • 「ああ、お母様は私を憐れと思ってくださらないのね!」「お前は、それじゃ、私を憐れと思ったことはあるのかい、娘や。お前の恥は私を殺すことになりかねないと考えたことがおありかい? ああ、そうだろうよ、お前とお前の愛人は、私の盲目的な信頼をさんざん笑いものにしてたんだろうね。私はね、お前に全幅の信頼を置いていたんだよ。私が揺り籠のそばでお前を見守っていたときと同じように、お前が純潔な娘だと思っていたよ。 [続きを読む]
  • 第一部  第三章 3
  • 「なんということを!」彼は叫んだ。「よくもまぁ。そんなことは問題外ですよ、ラ・ヴェルブリーお嬢様。一体何だと思っていらっしゃるのです。こんなことが起こった後で、あの方の前にのこのこと姿を現そうとは! 我慢がなりません。よくお聞きください。忠告してさしあげます。お戻りなさい。他の召使いに見つかりでもしたら、どんなことを言われるか、私には責任は持てません」そしてヴァランティーヌの答えも待たず、彼は足早 [続きを読む]
  • 第一部  第三章 2
  • 彼の顔には動転した表情が浮かび、目は真っ赤だった。泣いていたらしかった。ヴァランティーヌがひどく驚いたことに、彼女の前にいながら、この男は帽子を脱がなかったばかりか、彼女にこう尋ねたときの彼の口調はこの上なく無作法なものであった。「あなたはお城に行くのですか?」「ええ」「ガストン様に会いに来られたなら」下男はぞっとするような悪意を強調しながら言った。「お生憎でしたな。ガストン様は命を落とされました [続きを読む]
  • 第一部  第三章 1
  • 土手の上に彫像のように白く寒々と立ち尽くしていたヴァランティーヌは、恋人を乗せて遠ざかって行く頼りない小舟をじっと見つめていた。その小舟は、嵐に翻弄される鳥のように、急流に押し流され、ほんの数秒のうちに小さな黒い点となり、川面にもやもやと立ち込めている霧の中に殆ど見えなくなった。ガストンが捕えられることなく出発していった今、ヴァランティーヌは心置きなく自分の絶望に身を任せることが出来た。今まで我慢 [続きを読む]
  • 第一部  第二章 7
  • 「ムヌールの親爺さん」とヴァランティーヌが言った。「こちらにおられる伯爵が身を隠さねばならないと仰るの。海まで出て、そこから誰にも知られぬように船に乗りたいと。あなたの舟にこの方を乗せてローヌ川の河口までお連れしてくれないこと?」老船長は首を振った。「川がこんな状態では」と彼は答えた。「夜に舟を出すなんてまず無理だね」「私を助けると思ってやって頂戴」「ヴァランティーヌ嬢ちゃんのために、ですかい。よ [続きを読む]
  • 第一部  第二章 6
  • 「神様がいるわ、ガストン。私たちの未来を神様は手の中に握っていらっしゃるのよ」どんな小さな板切れでも、溺れているものには天の助けに見えるものだ。この「未来」というたった一言がガストンの闇の中に希望の光を灯した。「君が命じるなら!」彼は突然元気を取り戻して叫んだ。「僕は従うよ。もう泣き言は言わない。そうとも、僕は戦い、勝利するために生きたいんだ。ラ・ヴェルブリー夫人にはお金が必要なのか。それならよし [続きを読む]
  • 第一部  第二章 5
  • この非情な分別、この悲しい諦めを前にすると、ガストンの怒りに再び火がついた。「そんなことは言わないでくれ!」彼は叫んだ。「君が侮辱を受けると考えただけで、僕は怒りで気が狂いそうになるのが分からないの?」「ああ、でも私にはもっと他の侮辱が待っているのよ」「君に! それはどういうこと?」「どうか、分かって、ガストン……」彼女は言葉を切り、しばし躊躇ったが、結局こう言った。「何でもないわ。私、頭がどうか [続きを読む]
  • 第一部  第二章 4
  • さぁおいで、ヴァランティーヌ、共に生き抜くか、共に死ぬかだ。今まで夢見てきた未来の始まりが今なんだ。愛と自由の未来への!」彼は極度の昂揚感に我を忘れていた。ヴァランティーヌの身体を掴むと、胸に引き寄せ、彼女を我が物にしようとした。ガストンの興奮が高まるにつれ、彼が忘我の境地になるにつれ、ヴァランティーヌの方は自分の感情をコントロール出来るようになっていた。彼女は優しく、しかしきっぱりと彼の抱擁から [続きを読む]