坂東蚕 さん プロフィール

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坂東蚕さん: ロマン燈籠
ハンドル名坂東蚕 さん
ブログタイトルロマン燈籠
ブログURLhttp://peitipas.blog.fc2.com/
サイト紹介文強引ヤンチャ先輩(社会人)×人間嫌い後輩(学生)の恋愛攻防戦/お互い一歩も引かない焦れ展開
自由文ほのぼの日常系/幼馴染み再会もの/リーマン系/幕末・新撰組刀剣アクションBLも連載中。短編長編完結済あり。健気な受×俺様攻め多めです。

参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供162回 / 365日(平均3.1回/週) - 参加 2016/04/19 17:42

坂東蚕 さんのブログ記事

  • 向かい風を行く 30
  • とはいえ、甲斐は半日以上携帯を一度も見ないこともある。昨夜は一睡もできないまま、翌朝悶々として仕事場に向かった美貴は、昼まで待って何も連絡が来なければ、甲斐の自宅に電話しようと思っていた。それまでするべき仕事に集中しようと腹をくくり、醤油の仕込み蔵に顔を出した。「美貴さん、あんた。あの甲斐って子に二股かけられてフラれたことになってますよ?」大豆を蒸し煮する巨大な機械釜からは白い蒸気が天井までもうも [続きを読む]
  • 向かい風を行く 29
  • 榊原を師として仰ぐ甲斐のことだ。他の誰にも言えなくても、榊原になら相談していたかもしれない。苛立つ自分を落ち着かせるため頭の中でくり返した。だが、美貴は顔をしかめて黙り込んだ。それぐらい頭では理解できる。そう考えても不思議ではない。むしろ師弟の絆がそれだけ深いということだ。甲斐には良いことに違いない。こんな時、いちばん甲斐の近くにいる人が業界では権威があり、甲斐を守ってくれるなら、ほっとできるはず [続きを読む]
  • 向かい風を行く 28
  • 「榊原さんは何も聞いていないんですか?」『知らないよ! 誰もそんな話してないし』「甲斐は今日、バイトじゃないんですか?」とにかく無事かどうかを確かめたい。美貴は声を上擦らせた。しかし、学校の試験があるからと、当分バイトの予定はないらしい。それなら甲斐の自宅に電話をすると意気込んだ。だが、榊原は今は下手に騒がずに静観するよう、穏やかに美貴を諭して言う。『そういうの。聞き流すぐらいの余裕、見せた方がい [続きを読む]
  • 向かい風を行く 27
  • しかも噂されるのは美貴の周囲でだけ。甲斐と同期の藤木に嘲笑混じりに訊ねられ、絶句したのが最初だった。「ミキさん、知ってました? 甲斐ってマジでホモらしいスよ。これまであいつに告った女。全部撃沈だったみたいだし。マジあんんじゃねえのって言う奴とか、いたんスけど」「……えっ?」祭りの打ち合せを兼ねた青年団の飲み会で、藤木は勝ち誇ったようにうそぶいた。瞠目したきり、声も出せずにいる美貴に藤木が更に耳打ち [続きを読む]
  • 向かい風を行く 26
  • ラーメン屋を出てからも、甲斐に家まで送られながら、二人で競うように話をした。甲斐は、十歳頃にはゲイの自覚があったと呟いて、明るい月夜を仰ぎ見た。「僕は普通に結婚できないし、会社員だといろいろ厳しいじゃないですか。なんで結婚しないんだとか、絶対に言われるし」だから手に職をつけて、自立しようと思っていること。それも、できれば地元を離れて開業し、家族とも距離を置くつもりなのだと聞かされて、美貴は思わず目 [続きを読む]
  • 向かい風を行く 25
  • なのに当の本人は、運ばれてきたラーメンを豪快に啜り、塩唐揚げも涼しい顔で頬張った。「ヨシキさん。ラーメンどうですか?」「美味いよ。結構こってりしてんだな」促されるままレンゲでスープを啜るなり、すかさず甲斐に顔を近づけられてドキリとした。どうやら口に合うかどうか、気にしてくれているようだ。「うん。好きな味」心配そうな甲斐を見て、ぐっと親指を立ててやる。すると、目の前の不安げな顔が嬉しそうにほころんだ [続きを読む]
  • 向かい風を行く 24
  • それなら行きたい店があると、言い出したのは甲斐だった。『あの横断歩道を渡って』『右に行って』『少しこのまま、まっすぐに』『こっちを左に入ったら、すぐ』など、ルートナビよりそっけなく甲斐に案内されながら、美貴は黙ってついて来た。何といっても甲斐は祖父の代から遠戚に至るまで議員だらけの政治家一族の坊ちゃんだ。学生の甲斐に支払いを任せるつもりはなかったが、美貴は心持ち不安になる。外灯もまばらで人通りもな [続きを読む]
  • 向かい風を行く 23
  • 「だって今日、バイトないんだろう?」尖った声が震えるほど、心臓がバクバクいっていた。まだ息も微かに弾んでいる。だが、それも慌てて走ったせいにしたかった。甲斐に何も答えずに黙っていたのは拒絶じゃない。一度に全部吐露されて驚いただけだ。それだけだ。お前を拒んだんじゃないんだと言いたかった。伝えたい。その為だけに闇雲に甲斐を誘ってしまっていた。 それなのに甲斐はといえば息を詰め、瞠目したまま、こちらを見 [続きを読む]
  • 向かい風を行く 22
  • 「これ、収納庫に持って行って帰りますね。ヨシキさんもお疲れ様でした」「……あっ、そうか。そうだな。……ありがとう」美貴はまだ自分の声が上擦るのを感じていた。甲斐の一挙手一投足に反応し、身構えている。腰が引ける。そんな自分を見下ろす甲斐の顔には、深い諦念が浮かんでいた。微笑みをたたえた口元に濃く染みついた寂寥感。失望を無理やり飲み込んだような顔をして、甲斐は美貴に背を向けた。その背中が刻一刻と遠ざか [続きを読む]
  • 向かい風を行く 21
  • それであんなに他人を避けていたのかと、美貴はようやく腑に落ちた。甲斐に対して感じていた多くの疑問がそれぞれ線で繋がった。美貴はそうだったのかと言おうとした。そうだったのかと思っている自分がいた。それなのに頭と口と感情が分断され、思い通りに動かない。そうなんだ。一言そう言えばいいのにと、頭ではわかっていた。それがまず声になって出なかった。わだかまりは解け、納得した。頭はすぐに言われたことを理解した。 [続きを読む]
  • 向かい風を行く 20
  • 青年団の間で甲斐の印象が悪いのは、わかっている。甲斐の御目付役として、暗に自分も非難されているはずだ。時には甲斐の単独行動に、バツの悪い思いもする。それでも少しずつ話せるようになってくると、通じ合った気持ちの分だけ、甲斐を大切にしたくなる。自分が非難されれば済むだけの話なら、甲斐が嫌だと思うことは、できれば無理強いしたくない。指導は指導だ。矯正じゃない。何かを伝える過程において相手を矯正までする権 [続きを読む]
  • 向かい風を行く 19
  • だが、美貴が呆けているうちに、甲斐は参道を逸れて鬱蒼とした雑木林の手前まで行き、肩越しに淡々と告げてきた。「俺が抜いていきますから、ヨシキさんは祭り用の幟を入れていって下さい。その方が早いでしょう?」「あ、……あ。そうか。そうだな。わかった」初めて甲斐にリードされ、祭用の幟を慌てて抱え持ち、言われるままに駆け寄った。 どうやら手伝ってくれるつもりらしい。だが、一体何があったのか。どういう風の吹きま [続きを読む]
  • 向かい風を行く 18
  • 「おー、お疲れー」筧も少し後から裏参道にやって来た。石灯籠に蝋燭の火を点しつつ、参道の両脇に並ぶ普段の幟(のぼり)を、祭り用に代えてくれれば帰ってくれていいと言う。筧は指示だけ残して忙しなく去り、美貴はひとり、裏参道に残された。「……さっさとやって帰るか、俺も」とりあえず、普段の幟を外しにかかった時だった。社殿の方から向かって来る見慣れた男の影がある。美貴は俄に鼓動が逸り出すのを感じながら、抜いた [続きを読む]
  • 向かい風を行く 17
  • 「だったら、お前もガンガン誘えばいいだろう。百回に一回ぐらい、ついて来るかもしんねえぞ?」筧は美貴に、愚にもつかない慰めを口にした。「そこまでプライド捨てたくない」筧の顔を恨みがましく睨みつけ、不貞腐れたまま背を向けた。夕映えに染まる神社の境内に外灯が青白く点されて、祭りの準備に追われる男達を墨色の影にした。 もちろん自分も誘えばいいことぐらいわかっている。それなのに、誘っても悪い予感しかしなかっ [続きを読む]
  • 向かい風を行く 16
  • その日の夜、筧(かけい)と呑んで帰宅した美貴は榊原のSNSを、ひと目みるなり憤慨した。彼が甲斐との寿司屋でのツーショットを嬉々としてアップしていたからだ。しかも、二人がいるのは、いかにも敷居の高そうな高級店のカウンター席。二人の手元にはサシの入った大トロや、ウニやイクラの軍艦巻が映っていた。「あの野郎。ガキのくせに、こんないい店入りやがって」美貴は歯噛みしながら甲斐をコメントで叱りつけ、今度は自分 [続きを読む]
  • 向かい風を行く 15
  • トクンと大きく一回跳ねた心音が、そのまま早鐘を打ちつける。腕の肉に食い込んできた甲斐の指に心臓まで鷲掴みにされ、呼吸が止まりそうになる。「甲斐、ミキ君。良かったら、このあと飯でも食って行く?」その後、榊原に食事に誘われたものの、美貴は先約があったため、ぎくしゃく笑って断った。榊原に握られた時は何も動揺しなかった。むしろ同じ男として誇らしかっただけなのに。どうして甲斐だとこんなにも、心が乱れてしまう [続きを読む]
  • 向かい風を行く 14
  • 「火薬の調合まで自分達でするんだな」 その週の日曜に、榊原は神社まで作業の見学に来て感嘆した。案の定、榊原は手筒花火の神事の話も甲斐に聞かされていなかった。興味を示した榊原に美貴が誘ってやると、ふたつ返事で訪ねて来た。「火薬の調合は新人にはさせませんけどね」美貴は答えつつ、和紙の上で山にした火薬の粉に銀色の鋳鉄(さてつ)を混ぜ込んだ。この鋳鉄は火が点くと、線香花火のように繊細に枝分かれしながら破裂 [続きを読む]
  • 向かい風を行く 13
  • 「出来ましたよ」と、合わせ鏡を美貴に向け、後ろ姿も見せてくれる。襟足は短くしてすっきりと。そして、トップを高く作ったダイヤモンドシルエット。前髪をやや重めに作り、レイヤーを入れたサイドをワックスで遊ばせた理想的な無造作ヘアだ。「セットはラフに乾かして、ワックス揉みこむだけですから」「スゲエな、マジで。カットだけで、こんなイメージ変わるんだ」仔猫のようだった薄茶色のふわふわ癖毛が、雑誌で見るような洗 [続きを読む]
  • 向かい風を行く 12
  • カットの仕上がりを確かめながら鏡の中の美貴を見つめ、前髪にハサミを入れ始める。柑橘系のフレグランスと、少し汗ばんだような甲斐の体臭が近くなる。そして、意外に厚い胸板で肩を押されているうちに、美貴は尻の座りが悪いような、落ち着かない気分になっていた。「結構切ったな」などと呟きながら顔を伏せ、クロスに落ちた自分の髪を見回していると、部屋のドアが控えめにノックされた。「ちゃんと切れてますかしら? この子 [続きを読む]
  • 向かい風を行く 11
  • その週末の土曜日の午後。美貴は祭りの準備のあと、足取りの重い甲斐をせっついて、甲斐の自宅までついて来た。「さすがだなあ……」瓦葺きの白漆喰塀に広大な敷地を囲われた日本家屋の豪邸だ。瓦葺きの数奇屋門からアプローチの延べ段を渡り、千本格子の玄関の引き戸を甲斐が開けた。「ただいま」「お邪魔します。こんにちは」美貴が三和土で声を張ると、奥座敷から驚いたように女性が玄関先まで駆けて来た。「……あの」薄手のニ [続きを読む]
  • 向かい風を行く 10
  • 着火後の手筒花火の竹筒は七百度を越える熱を発するが、演者は燃え尽きるまで、手筒を脇に抱えていなければならない。そのため麻布と荒縄を筒に何重にも巻き、太くして、演者の身体を守るのだ。だが、これを初心者がやると、大抵どこかしら不備がある。「駄目。やり直し」美貴は甲斐の作業を中断させ、巻きつけられた荒縄と筒の間に指を噛ませて言い放つ。「こんな風に縄の間に指が入るようじゃ、全然駄目。最悪、点火したら竹が膨 [続きを読む]
  • 向かい風を行く 9
  • 「それじゃ、榊原さん。私達、そろそろ失礼します。今日は遅くまで話を聞かせて下さって、ありがとうございました」石橋とその女友達が礼を言い、榊原も苦笑を顔に貼りつかせたまま席を立つ。そのどさくさに紛れるように帰ろうとする甲斐を美貴は引き止めた。「何だよ。俺がいつお前と約束したんだよ」肘を掴まれ、よろめきながら再びソファに倒れ込んだ甲斐に、美貴は小声で詰め寄った。「すみません。……あの、実はさっきの石橋 [続きを読む]
  • 向かい風を行く 8
  • その後、美貴は同伴した友人達の抗議や文句を振り切って、甲斐がいるテーブル席に移動した。甲斐の腕に張りつくように座っていた、ゆるふわパーマの茶髪少女を甲斐の正面の席に移させ、自分が隣に腰をかける。「すいませんね。甲斐と同じ町内の青年団で、こいつの世話役やってる椎名です。とにかく愛想がない奴なんで、友達からいろいろこいつの話、聞かせてもらえるとありがたいなって思ったんで」 さっきから見ていると、この女 [続きを読む]
  • 向かい風を行く 7
  • 甲斐と出会って二週間ほど経った頃。週末の夜に、美貴は友人達総勢四人で自宅近くのファミレスに寄り、酒やつまみやデザートを思い思いに注文した。同席しているメンバーは、看護婦四人組との合コンに臨んだ高校時代の同級生だが、男女双方盛り上がりに欠け、結局、誰からも連絡先さえ聞けず終いになっていた。そんな不毛な合コンの愚痴を言い合い始めた時だった。「えっ……?」美貴は真向いのボックス席に座っている甲斐に気づい [続きを読む]
  • 向かい風を行く 6
  • 「まだ先輩が皆残ってるのに、自分だけさっさと一人で帰っちゃって……」その後、美貴が家に戻って夕飯を取っていると、美貴の母親が鼻白むように呟いた。創業は江戸末期になる醤油醸造を営む家の食卓には、両親と弟の他に醸造蔵で働く職人達も同席し、母の給仕を受けている。 母屋の広い台所は、醸造蔵と一緒に長い歳月を経てきた白漆喰の古びた壁に、無垢の柱。歩くたびに軋んだ音を立てる板張りの床。天井には黒光りする太い梁 [続きを読む]