坂東蚕 さん プロフィール

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坂東蚕さん: ロマン燈籠
ハンドル名坂東蚕 さん
ブログタイトルロマン燈籠
ブログURLhttp://peitipas.blog.fc2.com/
サイト紹介文過疎村の旧家の元気息子×無愛想でミステリアスな樹木医の短編連載始めました。
自由文ほのぼの日常系/幼馴染み再会もの/リーマン系/幕末・新撰組刀剣アクションBLも連載中。短編長編完結済あり。健気で強気受×俺様攻め多めです。

参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供97回 / 365日(平均1.9回/週) - 参加 2016/04/19 17:42

坂東蚕 さんのブログ記事

  • 咲かない桜の桜守 24
  • 昨日の電話で急遽、駆けつけてくれた松田に宿の用意があるはずもなく、羽太は今夜も松田を伴い帰宅した。 「今日はありがとうございました。僕、夕飯作りますから、先に風呂に入って下さい」 松田を風呂場に案内し、タオルを数枚差し出した。そのタオルの一番上には松田が『捨てろ』といった軍手を、これ見よがしに羽太は置いた。「……捨てていいって言ったのに」松田は苦笑を浮かべたが、それでもどこか嬉しげだ。彼のそんな、 [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 23
  • 「どうしたんですか? 小泉さんまで」「この前、三浦さんに頼まれた看板、立ててたんですよ」小泉は足元の木片やハンマーを片付けつつ、屈託のない笑顔で言った。平家桜を囲った綱の外に『立ち入り禁止』の看板が、役場名義で四方に立ててある。そのロープの内側では、マスクをした松田が噴霧器を持ち、桜の根元に何か液体を撒いている。少量撒いては土の湿り具合を目視で確かめ、また少し撒き足すという、いつもながらの慎重さだ [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 22
  • まろやかな声で説きつけられ、にじんだ涙も引っ込んだ。と同時に、通話も切られてしまった羽太は、棒杭みたいにぽかんとなる。それでも、ぶっきら棒で一方的な態度のベールに包まれた、松田なりの情や厚意が透けて見えるようだった。「……明日、松田さんが来てくれるってさ」羽太は桜の幹に手をあてて、荒れた表皮を撫でつけながら語りかけた。 素人の自分が根付ぎ作業に関わったせいで、桜を弱らせてしまったかもしれないと、不 [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 21
  • 鼓膜を震わす低い声。抑揚のない言い方も、確かに松田のものだった。三日前に別れて以来のその声に、羽太は矢で胸を射抜かれたようになっていた。「あ……っ、と。あの、えっと」ろくに返事もできずにいると、『今の動画見たけど』と、松田の方から言い出した。「あっ、はい。……あの、皮が剥がれた所から、黄色い膿みたいな汁が出てるんです」『それ、たぶんイチョウ病の兆候だ』「……えっ?」『土の中にいるカビの一種の病原菌 [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 20
  • 翌朝も羽太は乾山公園の駐車場に、車を停めて降り立った。ただし、今朝は車のバックミラーを覗きこみ、ネクタイの曲がりや髪の乱れを入念に整える。 昨日の最後の一行に、何の意図があるのかは、あえて聞かずにいるままだ。とにかく桜と一緒に持ち主の顔写真も添付しろ。撮って送れと言われたからには、松田には必要なのだろう。平家桜を囲った綱を跨いだ羽太は、うねる幹を背景に自撮りした。撮った写真を確認すると、なんだか顔 [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 19
  • 松田は自分と違って長身で、モデル体型のイケメンだ。とはいえ、性格は雑なのか繊細なのか理解に苦しむ食わせ者。白黒はっきりつけたがる小泉のようなタイプだと、アレルギー反応を起こす人間もいるだろう。だとしても仕事のできる男として、自分は心のどこかでカッコイイなと思っている。しかも今、先祖代々守り継いだ桜の倒木の危機に瀕している。その桜の救世主のように現れた樹木医が松田だった。だから、これは患者の家族が全 [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 18
  • 昨夜は松田を客に迎え、料理の腕をふるったが、今夜は食欲もほとんどない。レトルトの冷凍食品でも温めて小腹を満たし、寝てしまおう。その前にリビングから庭に面した縁に出て、雨戸を引きかけた時だった。軒下に置いてある腰高の物干し竿に干されている、数個の軍手に気がついた。「あれって、……松田さんの」羽太は下駄をつっかけて庭に降りた。洗濯鋏を外し、取りこんだ軍手は既に夜露で湿気っていて、凍りかけてしまっていた [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 17
  • 松田の車で家の前まで送られて、羽太は助手席を下りた。ドアを開閉めながら、最後にもう一度礼を言うと、松田は右手をハンドルに乗せたまま、左手を軽く掲げて微笑した。「気をつけて、帰って下さいね」「また連絡する」何気なく言い残し、松田は助手席のドアが閉まると同時にアクセルを踏み、車を市街に向けて走らせた。羽太は暗闇に、ぽかりと浮かぶテールランプを門前で見送った。写真や動画はできるだけ送れと言われたが、また [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 16
  • 「今の時点でやれる事は全部した。このあと何をするかは、根付ぎの結果足次第だな」脚立を閉じて地面に置き、松田は淡々と説明した。また、桜の根元に散乱したスコップや薬剤も道具箱に整然と収納し、腕時計で時間を確認する。やるべき事は全部した。だから帰宅する。そんな当たり前の事が、羽太には凍りつくほどショックだった。引き止めたいと思っても、何の理由も浮かばない。もうここで、する事はなくなった。そう断言した松田 [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 15
  • その後も松田は平家桜にハシゴを掛け、枯れ枝を鉈で落としていた。休日なのに様子を見に来た小泉は、太い枝にも躊躇なく鉈をふるう松田を見上げて眉をひそめ、羽太に囁きかけてきた。 「本当に大丈夫かよ。あんなにバッサバッサ切っちゃって」「専門家が切るべきだって判断したなら、切るべきなんじゃないですか?」「だけど、せっかく樹齢八百年の古木なのに。貧相になっちゃうだろう。見栄えが悪くなっちゃったら、写真家も撮り [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 14
  • 「俺の親父も樹木医で、何回も根付ぎをやっている。だけど、根付ぎの時の相方は、プロの俺じゃなくて、自分の女房にさせるんだ。俺の母親も普通の主婦だし、専門知識だって全然ない。なのに、息子の俺より息が合うとかよく言われる」松田も立ち上がり、伸びをしたり、身体を左右に折り曲げたり、四肢の凝りを解している。ひと仕事終えた安堵からなのか、松田にしては饒舌だ。「夫婦なんか他人なのに変だよな。根付ぎやってる親父と [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 13
  • 庭の実生の桜から切り出した根を持って、松田の車で今度は乾山に移動した。平家桜のある公園の駐車場に車を停めるやいなや、羽太も松田の車のトランクから、シャベルやスコップや剪定鋏、藁縄などの道具をせっせと運び出した。松田の動作が心なしか機敏さを増している。つまり根付ぎも時間との闘いなのだろう。羽太は無駄口も挟まず松田に続き、駐車場から公園に続く階段を駆け降りた。冬晴れの朝の陽光が、広大な公園の遊歩道にも [続きを読む]
  • 警告です
  • 某さんへあなたがつい最近、私にした事へのメッセージです。1回目、あまりにもあなたの思い通りすんなり事が運んだので、2回目も同じ手口を使いたくなったんだなと思いました。あなたは、その誘惑に勝てなかった。あなた、それ。放火魔と同じ心理ですよ。今回も他人を攻撃し、陥れたら安心する。それで気が晴れるというのなら、あなたはそういう小説を書く人になるんでしょう。そして、それは必ずあなたの小説を読む人に伝わりま [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 12
  • 二人で朝食を済ませたのあと、松田は作業用のつなぎに着替え、軍手をはめた。平家桜の子孫にあたる庭の枝垂れ桜の若木の根元を、小さなスコップで掘り始める。羽太は松田の傍らに屈みこみ、松田の指示をあおぐべく目下のところ待機中だ。「何本ぐらい接ぐんですか?」「多くて七、八本だな。人間でいうと臓器移植なもんだから。一度にたくさん接ぎ過ぎても、逆に桜を消耗させる」こと桜の話となると、松田の口も滑らかになるらしい [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 11
  • 「だったら、今日は風もないし天気もいい。今日のうちに済ませよう」     松田は晴れやかに微笑んだ。そして、桜を離れて、すれ違いざま羽太の肩をポンとはたいて促した。同時に夢から覚めたように、羽太は両目を瞬かせ、慌てて左右を見回した。「……えっ、と。済ませておこうって」「根付ぎは一人じゃできないんだ。予定がないなら手伝ってくれ。仕事か? 今日も」「いえ、今日は祝日ですから休みです。予定もないんで、そ [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 10
  • 羽太は声をかけようと、必死に言葉を探したが、気持ちばかりが先に立ち、頭の中は空っぽだ。心臓が痛くなるほど拍動し、息が苦しくなってくる。いっそ作業の邪魔をしないよう庭を去り、朝食の用意をした方が松田のために、なるのかも。昨夜感じた弾んだ気分の萎えてしまい、羽太はそっと庭から縁に戻りかけた。とはいえ、さっきからやけにあの枝垂れ桜を気にする松田が不審にも奇妙にも思えてくる。「その桜は庭の中にありますし。 [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 9
  • 「樹の表皮のすぐ下に、根が吸った養分を運ぶ管が通ってる。だからこうすると、その管が養分を吸いあげる音が聞けるだろう?」言いながら幹に聴診器を押しつけて、じっと聞き耳たてている。健康な樹木であれば、血流のように管を流れる水音がするという。「今は樹木医も超音波で測定したり、スキャンで撮影したりするけどな。俺は自分の耳で直接聞いて判断する。吸いあげる音の勢いとか、どこで雑音が交じるかとか」「でもそれ、僕 [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 8
  • 「今回みたいに急な依頼もあるからな。大体の応急処置ができる程度は車のトランクに入れている」  松田は割り箸を裂き、早速長芋の梅肉和えを摘み出す。という事は、平家桜の被害は松田にも想定外だった事になる。事前に異変を知らなかったというのなら、なぜ急に訪ねてきたのだろう。まだ花見の季節でもないのにと、羽太が疑問を口にしかけた時だった。松田が鍋に箸を伸ばし、地鶏と葱を自分の小鉢に取り分ける。「あっ! 駄目 [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 7
  • 「え、……っと。あの、じゃあ、食べられない物とか、何かあります?良ければ地鶏の鍋でもしようと思ってるんだけど」「好き嫌いは、ない」    「きのこやチーズも大丈夫?」   「大丈夫」    松田の圧倒的な存在感にあてられて、羽太は思わず敬語を忘れ、しどろもどろに問いかけた。それでも気軽にタメ口で返される。思っていたより気さくな面もあるのかと、松田の顔色を伺いつつ、おずおずと缶ビールを差し出した。す [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 6
  • その後も日が落ちるまで作業を続けた松田が、自分の車で羽太の車を追って来る。バックミラーで背後を時々確認し、外灯も少ない山道をらせん状に下り切り、羽太は乾山の山麓にある自宅まで戻ってきた。  南信州では名の知れた旧家でもある三浦家は裏山を含めれば、敷地だけでも千坪はある。家の方は瓦葺きの平屋の母屋と日本庭園、数棟の離れと土蔵を漆喰塀が、ぐるりと囲んでいる。ただ、その母屋にも離れの棟にも明かりは一切点 [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 5
  • 「まさか、こんな田舎の桜が犯罪被害に合うなんて。なんか信じられないよ……」小泉は携帯を松田に向けたまま、羽太を肩越しに振り向いた。怒りというよりショックの方が大きいのだろう。恰幅のいい体格とは対照的に蚊の鳴くような声で嘆き、深々と息を吐き出した。羽太も、ともすれば一緒に泣き出しそうになる。「とにかく今は桜の治療に専念しましょう。犯人は検挙されてるんですし。今の僕達にできるのは、それだけですから」け [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 4
  • 「ほら、見て下さい。幹のここに、注射痕があります。樹の根が吸った養分を、末端まで運ぶ管に直に薬剤が射ってあって、毒の回りが早いんです。たぶん、射たれてまだそんなに日が経っていないとは思います。だから、見た目にはそんなにわかりません。でも、中の方では症状がかなり進行していると思います」思いもよらない診断に、二人は顔色を失った。彼が差した注射跡に、言われるままに顔を寄せた。苔むした桜の大蛇のようにうね [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 3
  • その翌日の朝七時、羽太は男に言われた通り『平家桜』まで車で来た。勤め先には急遽、事情を話して有休を申し込み、今日は一日、男の検分に立ち会う用意も整えた。また、羽太が運転する車の助手席には、桜祭りの幹事の小泉も座っている。昨夜のうちに経緯を打ち明け、同行してくれるよう頼んでおいたからだった。 「だけど、全然気づかなかったよ。平家桜がそんなことになってるなんて……。俺も時々様子、見に来てたはずなのに」 [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 2
  • 「うちのって、じゃあ……、三浦さんの家の子なんだよな?」「えっ……?」逆に男に詰め寄られ、羽太は一瞬たじろいだ。ダウンコートにジーンズにマフラー、そしてニット帽という、シンプルでカジュアルな服装だ。あらためて見れば、人目を憚り、何かしようというような挙動不審なところはない。羽太が来たからといって、逃げようとする素振りもない。しかも、男は長身なのに頭は小さく、手足の長い、いわゆるモデル体型だ。加えて [続きを読む]
  • 咲かない桜の桜守 1
  • 三浦羽太(みうらうた)の実家が代々所有してきた乾山(いぬいやま)には樹齢八百年の桜の木がある。その昔、この人里離れた山岳地帯に逃げのびた平家の姫が、手づから植えたとされる伝説から『平家桜』と、名付けられ、御神木のように村人からも守られ、崇められていた。 羽太がその平家桜の異変に気がついたのは、二月の下旬。ちょうど、村役場が主催する桜祭りの準備が始まる時期だった。   「今年の桜はどうだろうなあ。去 [続きを読む]