しゅり さん プロフィール

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しゅりさん: 未題
ハンドル名しゅり さん
ブログタイトル未題
ブログURLhttp://shurir.hatenablog.com/
サイト紹介文大切なひとを大切にしたい。短編より短い短編小説を書いています。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供205回 / 265日(平均5.4回/週) - 参加 2016/07/07 01:13

しゅり さんのブログ記事

  • 確かさの不確か
  •  「こんなときだから冗談みたいに言うけれど、実はあなた、おとうさんのほんとうのこどもじゃないのよ。」 あまりの衝撃に一瞬息がとまった。きかなければよかった。弟は黙っていた。わたしはドアノブにかけた手を力なく落とすと、すごすごと自室に戻った。 20年間、ずっと知らないで生きてきた。父と、母と、わたしと、弟と4人でやってきた。わたしたち家族は凡庸ながら、お互いの関係を長年かけ大切に育んできた。 それでも [続きを読む]
  • 石の上にも二十日
  •  おもいのほかあたたかい風を受け、すっかり春めいた外の世界に驚く。ずいぶん長く太陽を避けていたらしい。なにせ駅を歩くにも極力下を向いていたから、外出する時間もどんどん遅くなっていた。ひるまは夜と異なりひとどおりも多い。選択的にひとの波をかわして歩かなければならない。 べつにわるいことをしたわけではないとわかっていても、そう感じるものは仕方のないところがあった。あとは時間をかけてゆっくり溶かしていく [続きを読む]
  • フォビア
  •  昼起きてリビングに下りると、いつもは仕事にいっているはずの母がそこに立っていた。内心ドキリとしたものの、わたしはひとまず尋ねてみる。 「おかあさん、きょう仕事どうしたの?」 「あなたこそ学校はどうしたの?」 もっともすぎることをきかれわたしは黙った。ついにばれたか、とおもった。 「学校から電話が来たの。」 これはえらいことになったぞ、とおもいながら、わたしはこの夏を振り返った。昼夜逆転した日々、 [続きを読む]
  • 記憶の企み
  •  のりこちゃんとさきちゃんはいつも幽霊のはなしばかりしていた。ふたりは日ごろのあれこれをなにかと幽霊に結びつけては、呪いとか祟りとか言っていた。 「ほら、あそこに赤い服を着た女の子がいるよ。」 あるときは冬のプールをフェンス越しに指さし言った。わたしは目をよおく凝らしみてみたけれどよくわからなかった。みえる気がしたし、みえない気もした。 そんなさきちゃんの誕生日パーティーに呼ばれたのは翌年の夏だっ [続きを読む]
  • 忘れては
  •  わたしが高1のころの古文の先生はさながら作家のようだった。いわゆる日本の最高学府を卒業した彼はたいへんな読書家で、いつも小説を小脇に抱えては隙あらば本を読むひとだった。彼が廊下を歩きながら読書する姿を、わたしは何度もみたことがある。そんな彼は、学内でも風変りだと評判の先生だった。 あるときは国語の資料集を突然破りだしたときいた。彼は「資料集は分厚くっていけない。こんなものは必要なページだけ破って [続きを読む]
  • 異日常
  •  事情聴取を受ける兄を待つ時間はとても長かった。事務所の出入り口にある長椅子に妹とふたりで座る。こんにちは、と感じの良さそうな挨拶をした警察がまずきいてきたのは、あなたたちは兄のなんですか、ということだった。ただの付き添いで家族です、と正直に答える。 「ではこちらでお待ちください。」 やはり感じの良い笑顔で促されいまに至る。 「たぶんさあ。わたしたちも疑われてるんだろうね。」 妹が軽く言った。そん [続きを読む]
  • 身の丈の習慣
  •  わ、と突然あがった叫び声に一瞬心臓が飛び出るかとおもった。脳裏にいつまでもこびりつく悲鳴にも似た声色に切迫した現実を感じ取る。どうしたの、とさえきけない。とにかく母は、なにやら封筒にはいった請求書らしきものを手にわなわな震えながら、絞り出すよう呟いた。 「55万円、勝手にカード切られてる。」 えっ、と息がとまる。どういうこと、と考えると見当はすぐについた。この前のあれだろう。 「財布すった犯人だね [続きを読む]
  • 凹凹な問答
  •  「このバイトを志望した理由はなんですか。」 プロトタイプの質問は返答するにいつも窮する。志望理由、みたいなものを考えるのがとても苦手だ。志望先が本気であればあるほど、その問題は根深い。慎重に、誠実に、ことばを選び取ろうとするほど、概念的な世界が拡がり収拾がつかなくなる。 「ええ、と、わたしは、うたうことがすきで、なぜなら、うたがなければ、死んでしまう類いの、人間でして……」 頭のなかでぎゅるぎゅ [続きを読む]
  • −2+3=+1
  •  空欄だけが白く浮き出る、その紙を前にしばらく唸っていると、姉がノックもなしにわたしの部屋にはいってきた。どうしたの、と問われたので、出そうかどうか迷ってる、と答える。 「まだ迷ってるの、そんなの、はやいとこ出しちゃえばいいじゃない。」 「不安なの。」 「受かるかどうか気にしてるわけ。」 「ちがうよ、その先のこと。」 すると姉は大げさにため息を吐き、あのねえ、と話しはじめる。 「頭でくどくど考えて [続きを読む]
  • 突拍子あり
  •  キャリーバッグを引きずり幼馴染の住むマンションへ押しかけた。ドアを開けた際の驚愕した表情を素通りし、お邪魔しまーすとなかにはいる。どうした、ときかれたけれどなんにもこたえない。そのままずかずか入り込むとどすん、と居座り「なにもきかずきょうは泊めて」と言った。「べつにいいけど」と幼馴染。 ひさしぶりの部屋にきょろきょろあたりを見渡すと、この前とは明らかに内装が変わっている。黒い革張りのソファーに、 [続きを読む]
  • アニマルジャック
  •  失意のどん底で帰宅すると、6畳ほどのキッチンスペースには不釣り合いのおおきいダイニングテーブルが鎮座していた。弟が熱心に読みものをしている。どうやら医学書を読んでいるようだ。 はて、弟が医学部にはいりたいと口にしたことは一度もなかったような、とおもいながら声をかけようか迷っていると、なにやらテーブルの下で床をひっかく音がきこえた。 みると、びゃっと、なにかが通った。 あまりに一瞬の出来事だったの [続きを読む]
  • かわり屏風
  •  酔った頭でうんうん唸れど会話のひとつも思い出せない。男の顔さえ思い出せない。もちろん名前なんて論外といえよう。相手の男が何人だったかさえ思い出せないのだ、もう重症だ。 その場の勢いで盛りあがる素振りをみせた飲み会は宴もたけなわ、なんて手垢まみれの言いまわしで締めくくられ、ろくにきもちよくない酔いのまわりは足どりだけを覚束なくさせた。 ぞろぞろとみんなで歩きながらこれまた栓ないはなしをして、駅前ま [続きを読む]
  • うーん、えいっ
  •  ひとはねむりながら記憶を定着させる。外界から得た刺激をからだの内側に染み込ませる。わたしはちっともねむれやしない。右にごろん、左にごろん、それでもやっぱりねむれない。 真っ暗な部屋に月明りだけが差し込んだ。となりでねむる彼はすやすやと寝息をたてている。その横顔になんだかうっとりして、彼の手にそっと、自分の手を重ねてみた。 ばしっ、手はすぐに払いのけられた。せっかくのあたたかいきもちを無下にされた [続きを読む]
  • ダ・カーポ
  •  ごろんと仰向けに寝返った水野くんはにやりと笑う。真上からみたその表情はどこか爽やかで、額からはどくどくと血が出ている。 「あーあ、やっちゃった。」 非常事態のはずなのに水野くんはそんなふうに言った。余裕があってすごいとおもった。余裕がないのはわたしだった。大急ぎで木から飛びおりると、先生のところへ一目散に駆け出した。 水野くんはその後救急車で運ばれ、その日のうちに教室に戻ってくることはなかった。 [続きを読む]
  • じゃれあい
  •  朝起きて部屋でかたかたパソコンを打っていると、襖越しにおねえちゃーん、と呼ぶ声がきこえた。わたしは無視してパソコンを打つ。いま良いところだから、いま良いところだから。 「おねえちゃーん。」 かたかたとタイピングの音だけが響く。しばらくはおねえちゃんおねえちゃんと連呼されていたが、そのまんま無視しているとやがてするするとひとりでに襖が開いた。 「おねえちゃーん。」 どうやら妹が横になったまんま手だ [続きを読む]
  • 拒絶反応
  •  起き抜けに襖を開けると母がホットプレートでたこやきを焼いていた。きのうからの胃もたれに目眩がする、すると、母は嬉々として「たべるでしょう」ときいてきた。わたしはうん、おいしそうと答えた。 焼きあがるとすぐ、母はたこやきをたべはじめた。わたしはそのようすを黙ってみていた。 「要らないの?」 「うん、あとでね。」 「いいじゃない、たべなさいよ。おいしいよ。」 わたしは清算しない罪悪を引き連れていた。 [続きを読む]
  • 長靴ダッシュ
  •  寝間着のごとくよれた黒のスウェットパンツに、ミズノのウィンドブレーカーを重ね履きした。うえはヒートテック、Tシャツさらにパーカーを羽織り、チェックのコートまで着こむ。準備万端、とおもい時計をみると予定より20分もはやく支度を済ませてしまったようだ。 瞬間、わたしは後悔した。あの囁きがきこえてきたのだ。 ――いったい、なんのために? 意味とか意図とか考えすぎちゃったんだ、とおもう。わざわざ選ばなくっ [続きを読む]
  • “ひと”
  •  ほんとうは父が先立ったら犬を飼おうとおもっていたの、けれど、犬は餌代もかかるし、保険にもはいらなくってはいけないし、お散歩もしなくっちゃいけない。ところかまわずおしっこしたり、はじめのうちはしつけだってたいへんかもしれない。 その点ひとって良いわあ。餌代はやっぱりかかるけれど、口をきかない犬に比べたら利口に話すもの。犬なんてなに言ってるかよくわからないから。なんなら、保険代だって出してあげてもい [続きを読む]
  • 沈黙の限度
  •  壊れたカセットプレイヤーが突然奇怪な音をからからまわすみたいにしゃべりはじめた。 旦那は自分で選択したんだ、自分の人生を、矢面に立たず、目立たず、流され、しんどいおもいをしたくないとあえて出世もせず、思考をとめ、わたしが教祖として、ひとつの宗教のごとく、なんでもわからないで済ませ、それを! この32年間冴えない旦那の妻としてやってきた、そんなふうにまわるまわる落語のごとく、無関心の、わたしの、そう [続きを読む]
  • やりたい=やりたくない≠やらない
  •  進路はどうするの、問われてびくりとした。おんなじ台詞でも3年前ならきっとそうじゃない。堪えきれない笑みを浮かべえへへと照れながら、○○大学です、なんて控えめに言っていたに違いない。 すごいね、言われるとこころがほかほかする魔法のことばがほしくって、必要以上にがんばっていた。 いま、忘年会の席で対面に座っている女性は初対面ながら、初対面だからか、わたしの背筋が凍りつくようなことばを投げかけてくる。 [続きを読む]
  • ひとはひとの自由を奪えない。
  •  抉られるような痛みをなんとか外に押し出そうと吐く。つぎつぎと押し寄せるきもちが混線し、言語にするまでの情報が捻じれる。まるでとっ散らかしたへやのようだ。わかりにくいのは、感じる痛みがほんとうだから。ともすれば、のたうちまわっているようにみえるのだろう。可哀想だとおもうのかもしれない。力になりたいとおもうのかもしれない。 甚だ迷惑だ、と彼女はおもった。ときどき、そのようすを憐れみの感情で自ら、導こ [続きを読む]
  • 「社会人として」の常識なんてそのひとの考える「社会」でしかない。
  •  目覚めるとまっていたのは、地に足つかない心細さと喪失感だった。これまでに「あなたはだめなひとです」と烙印を押されたことは何度もあったけれど、きのう改めて「だめ」と言われてしまったことで、開かなくってもいい引き出しが突如開いてしまったようだ。 それでも、夜中じゅう泣くだけ泣いたらすっきりしたし、涙を流しながらもねむりに落ちた。朗らかな気分で朝が迎えられるとおもっていた。罪悪感というしがらみをいつで [続きを読む]
  • 新年あけましておめでとうございます。
  •  もう16日だけど。今年もよろしくお願いします。 ずっと書けない日がつづいていたのだけれど、のっぴきならない状況に陥り、やはりここへ戻ってきた。ちなみに、ツイッターでは相変わらず呟きまくっていた。下書きにも書いては消し、書いては消しをくりかえし、結局更新されなかった記事が大量にねむっている。 だから、更新がとまってしまったのは書くこと自体をやめたというよりは、「べつにこれ、わざわざ記事にしてまで言わ [続きを読む]
  • 『問答』
  •  「オセロやってるの?」 「ちがうよ、囲碁。」 「また囲碁やってるの。」 「たのしいよ、囲碁。」 「プロになるの?」 プロにはならないよ、そうきっぱりいうと、彼女はすこし興味深げに「珍しいね」といった。 「珍しい?」 「そう。何事も突き詰めるあなたがきっぱりとなにかを否定するのは珍しい。」 「そう」と呟き、たしかにいわれてみればそうかもしれない、とおもった。未来の選択肢をはなっから捨てるなんて。  [続きを読む]
  • 『問答』
  •  「オセロやってるの?」 「ちがうよ、囲碁。」 「また囲碁やってるの。」 「たのしいよ、囲碁。」 「プロになるの?」 プロにはならないよ、そうきっぱりいうと、彼女はすこし興味深げに「珍しいね」といった。 「珍しい?」 「そう。何事も突き詰めるあなたがきっぱりとなにかを否定するのは珍しい。」 「そう」と呟き、たしかにいわれてみればそうかもしれない、とおもった。未来の選択肢をはなっから捨てるなんて。  [続きを読む]