しゅり さん プロフィール

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しゅりさん: 未題
ハンドル名しゅり さん
ブログタイトル未題
ブログURLhttp://shurir.hatenablog.com/
サイト紹介文大切なひとを大切にしたい。短編より短い短編小説を書いています。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供250回 / 354日(平均4.9回/週) - 参加 2016/07/07 01:13

しゅり さんのブログ記事

  • やりすごし
  •  我が家には炊飯器がない。炊飯器どころか、鍋のひとつもない。言うと彼は、ひとまず包丁でも買ってみればと言った。わたしはそれもそうだとおもい、大した料理をしないにしろ、キャベツくらい千切りするに越したことないな、と納得した。 「けれど包丁って高いよね。」 「そうでもないよ。いまはなんでも百円ショップで買える時代さ。」 歩きながら涙がこぼれて、わたしは何度この既視感と対峙するんだろうとおもった。ひとり [続きを読む]
  • 作為的策士
  •  まわりをみると天才だらけだった、天才だらけでどうしようもなかった。天然は武器だ、脅威だ。本人にさえ気づかない強烈な魅力を発しながらまわりを巻き込んでいく。良きひとのところには良きひとが集う。そのようすを目の当たりにし、我ながらびっくりしている。 なにより膝を打つのは、皆自覚なく現実を積み上げているところだ。どんなに挑んでも、挑んでも、すかしてばかりだったわたしの理想を難なく積み上げている。もちろ [続きを読む]
  • お裾分けの輪
  •  ふんわりタバコの香りがする。となりに座るサラリーマンが一日しこたま背負った疲れを、わたしの肩にあずけている。お疲れさまです、おもう。お仕事ありがとうございます。 たまたまとなりに座った彼の日々の事情など知らないけれど、時折がくんと頭を落とすその仕草を愛おしくおもう。みんながんばっている、みんな闘っている。もちろんわたしも。きょうもお疲れさまでした。 くらくらする目眩をひと度忘れて、彼の瞳を思い出 [続きを読む]
  • 覚悟のアップデート
  •  頭が弾け飛んだ、同時にスマホをなくした、歯がぽきりと折れた。物事は連なるものだ、或いは、それまで頑なに拒んでいた力が反作用で瞬発する。懐疑的である、故に妄信的である、二律背反する思想のバランスが取れるときひとははじめて素直になれる。含蓄することばを汲む、すべてにおいて観察する、理屈を、筋を、落とし込む。あらゆるところに糸口は用意されている。 背負うとは簡単なことではない。何年もかけイメージトレー [続きを読む]
  • 余剰の心配
  •  朝の3時に大福をたべる。4時にパイの実をたべる。5時にバウムクーヘンをたべる。現実が夢みたいで、信じられなくって、全然ねむれない。いっそのこと起きてしまえ、きょうだけは乗り切って、あすは存分に寝てしまえ。 人並みに馴染む感覚があまりにひさしぶりすぎて、自分の発する声のタイミングを逃してばかりいる。交わされる何気ない冗談の輪のなかにはやっぱり入れないけれど、ただ空間にある、だれかに気にかけてもらって [続きを読む]
  • 高圧的説法
  •  いまの幸せはあたりまえじゃない。あたりまえだとおもった瞬間、わたしは腐る。ひとの才能なんて不確かなものはちっとも信用できないけれど、もしこんな環境を手にしたとして、それが長らくつづいたとして、だとしたら人生において世界のだれをも魅了する一篇の詩を書くことよりいまこの瞬間にこそ至上の価値ある、わたしはそうおもう。 「ありがとうとごめんなさいを言えるおとなになりたいです。」 わたしが言うと、君ってた [続きを読む]
  • 逆手の意思
  •  2日間しっかり8時間ずつ寝たらすっきりと朝目覚めることができた。睡眠にまわした時間により断念したことは多々あれど、目先の健康を差し置いてまで取り組むべきことではない。もし必要以上に自分を追い詰める者があるとすれば、その者自身が焦っているか、或いは言外に含蓄されたことばの意味を本人が必要以上に感じ取っているだけだ。 根性ですべてを解決する時代はおわった。というより、世のなかは時代によりおおよそ100年 [続きを読む]
  • がまん。
  •  殴られると安心するんだ、言うと、彼女はとても危険な思想ね、と笑った。ほんとうにそのとおりだね、わたしは答えるけれど、この思想に誇りをもつ幼い少女の存在を知る。 はじめてあの男に殴られたとき、わたしはなにやら、自分がとんでもないことをしでかしてしまったんだとおもった。なにかにつけて手を出されはじめると、その悪行が激化している自分の存在を憂いた。 こわかったけれど、殴られるものは仕方ない。男はよく「 [続きを読む]
  • バトンパス
  •  ハッと目覚め時計を確認すると朝の6時半だった。ぐったりする身体の重みを感じつつ、ろくでもない休日だったとおもう。この3日間わたしがやったことといえばひたすら嫌悪に陥るばかりで、非生産的自傷を行い恍惚にさえ浸った気がする。 休むことが昔から苦手だ。常にすすんでいなくちゃいけない、その意識からONもOFFも切り替えず延々エンジンをふかしつづけ、突然クラッシュする。 「休むときは休めよ。」 休み方がわからな [続きを読む]
  • 苦悩のふりこ
  •  徒歩10分のところ、気づけば40分かけて歩いていた。とまらない妄想を振り払うよう右足と左足を前に出す。出しつづける。哀しみが怒りに変わり、また哀しみに変わる。連鎖をくりかえす。 「いい?みんな、芸術家になんてなるものじゃないわよ。人生、そんなにがんばらなくっていいの。」 小学3年生のころ担任の先生に言われたことばの意味が当時のわたしにはよく理解できなかった。16年間留まりつづけたそれを腑に落とすには、 [続きを読む]
  • 感情転換
  •  昨晩の衝動を抑えたとおもったら今朝猛烈なそれに襲われ、わたしはまた主導権を奪われた。三連休の初日だというのに休みの感覚がない。ひとりの時間はどんなに自身を追い込もうと自由だ、その抑圧から、わたしは挑むことも、挑まざることもできず、感情を猛らせたままマイナスを生み、余計な労力をかけその罪をゼロに戻そうと試みた。洗面器に顔を突っ込みながら冷静に考える。理想が高すぎる。 高すぎる理想で一歩先の視界が霞 [続きを読む]
  • ブレーキ キキ
  •  やりたいとかやりたくないとか、仕事による自己実現を長らく求めていたわたしだけれど、突き詰めていくと気づくのは自分のやりたいことなど取るに足らない、どころか、そもそもほんとうにやりたいことなんて特別ないんだ、ということだった。 つまるところ、わたしはなにもないつまらない自分を認めたくなかっただけで、やりたいことがあるわけではなかった。自らは稀有な才能に恵まれていると信じたかっただけで、その才能がま [続きを読む]
  • 怒りの昇華
  •  どこがわるかったとおもう、聞かれ、閉じかけた扉を抉じ開けられるに最大の抵抗感がわたしを襲った。そりゃあ、自分に自信があるときはなんだって言える、自覚もなく扉に無理やり手をかける、姿勢に敵意が湧く。 その行為にいかなる好意が含まれていたとしても、辛いものは辛いのだ。優越の含まれたアドバイスは聞きたくない。人間の性ではないのか。 正論はひとを傷つける。正論をすべて正しく行える者など、この世にひとりも [続きを読む]
  • かさぶた前
  •  「たのしかった?」 聞かれたので満面の笑みで答える。 「たのしかったです!」 けれど彼女はなにかを察したようこれは仕事だから、と言った。たしかにそうだ、とわたしはおもった。底なしの無垢で答えたことを一瞬後悔した。 正直に言えば、わたしの仕事に対する概念は去年の2月上旬、引き出しの奥に押し込めたまま放置されたままだ。そして、もう二度と引き出すことはないだろう。 とはいえ、彼女の心理は想像するに的を [続きを読む]
  • 不和の兆し
  •  “日本を変えるのは君だ。” 貼り出されたポスターに目眩がする。となりに集う若者数名はお互い名刺を交換しながら、ぜひ起業しましょう、と握手を交わす。目がぎらぎらしている。独特の野心が漂ってくる。この手の“パーティー”は日本中で行われているんだなあ、とわたしはおもう。 「君はなにがしたい?どうなりたい?」 白紙の紙っきれを渡され、現実的に可能か不可能かなんて考えず望みを書きなよ、と言われた。わたしは [続きを読む]
  • 沈黙の選択
  •  すみません、すみません、すみません。すみませんを多用すると落ち着くから、現状は変わらないくせすみません、と言う。すこしでも前進したくって、誠意を示したくって、けれど口からこぼれ出る逃げ腰のすみません、にわたしは余計落胆する。 慣れない飲み会の席ですみません、と言いながらひとり、閉じてゆくこころを感じていた。食器が取れない、サラダを取り分けられない、注文が頼めない。なんとか踏ん張って空いたグラスを [続きを読む]
  • 遭遇の極意
  •  がはは、と豪快に笑う白髪の大男はわたしをみるなりよく来たな、と言った。よく来たな、という割りに大男ははじめ、わたしのことをよくみてはくれなかった。 それでもなんとか状況に食らいつきたくって、わたしはずっとずっと大男の瞳の奥の奥をみていた。じっとみていた。邪がなかった。 わたしはきらり鈍く光る、もうひとつの瞳を思い出しながら、おそらくは根本にある命に異なりはないのだろう、と考えた。 「君、たのしそ [続きを読む]
  • 無垢な狂気
  •  いつもどおり帰った自宅で、いつもどおりでない出来事が起こった。ドアを開けた瞬間蠢く人影に戦慄する。まさか、とおもう。まさか。ここまでやるなんて。人影は玄関の物音に気づき振り返ると茫然と立ち尽くすわたしをみるなりにっこり、微笑んだ。 「おかえりなさい。」 ただいま、とは言わなかった。 「どうしてここまでするんですか。」 代わりに問う。 「どうして?」 相手は呟くと、先ほどまでがさごそ漁っていただろ [続きを読む]
  • はじめの一歩
  •  きょうはニュウシャシキだ。電車に揺られながらそわそわと落ち着かないこころをおさえて、なんとか社会人三年目にみえるよう、背筋をぐっとのばしてみた。見慣れない外の景色を横目でみながら、きょうからシャカイジンなんてすごい、と改めておもう。 大学を中退してからというもの、なることをあきらめていたシャカイジンが決して、キラキラした夢ばかり詰め込んでいる職業とはおもわなかったけれど、それでもなりたいものによ [続きを読む]
  • どうかそのまま。
  •  届くはずのない宅配便がみっつも届いた。段ボールを開きみると、実家に置いてきたはずの服がしっちゃかめっちゃか詰め込まれている。普段着で通勤するから、とあれほど伝えたのに大量のワイシャツと、上下別ブランドのスーツまでみつけた。わたしはおもわずわん、と唸ると、半べそをかきながらそれらをハンガーにかけはじめた。 ただでさえちいさいクローゼットの半分以上を想定外の洋服が占拠する。これが世間でいうところの愛 [続きを読む]
  • 壊れた時計
  •  ひさしぶりにきいた親戚のおじちゃんの声に、わたしはようやく自分の居住まいを正せる日がきたんだ、とおもった。 「おじちゃん、ひさしぶり。あのね、ありがとう。よろしくお願いします。」 おじちゃんは噛みしめるようによかったなあ、と言うと、まさか囲碁棋士なんてねえ、と感慨深く呟いた。 「だいぶ時間がかかってしまいましたが、なんとか一年はがんばってみます。」 照れながら言うと、がんばれよ、と笑われた。もう [続きを読む]
  • 閉塞的隔絶感
  •  「だれをターゲットに企画を出すか、まずは考えてみてください。」 言われて硬直したからだ、わたしの脳内は瞬く間に混線した。浮かぶ情報に色がみえない。いったいだれのために、問われ、問うと、錯綜する意識に自分の感覚がどんどん閉じていくのがわかる。 「では、そのターゲットに伝えるため、企画に必要な要素をみっつ答えてください。」 ここでぷつりと糸が途絶えた。完全に自分の領域から離れた異物のリクエストにどん [続きを読む]
  • ゆりかご
  •  「もし、申し訳ないですが急用につき家をあけます。お立ち会いお願いいたします。」 オーナーはふたつ返事で了承すると自転車の鍵を貸してくれた。きのうはコインランドリーの鍵を借りたばかりだった。オーナーとはいえ、果たしてあまりに不用心ではないかと勘ぐるきもちもなくはなかったが、いまのわたしに盗られて困るものなど見当たらなかった。 「ありがとうございました。」 お礼を言うおんなじタイミングで家を出ると、 [続きを読む]
  • 天才の受難
  •  絶句した。すくなくとも予測した未来ではなかった。同時に、だれがなってもならなくっても、なんにもおかしくはなかったと気づく。 「俺は理由なんてつけたくないね。だってそうだろう?落ちたことに理由が必要か?」 耳だけでことばを感じながらたしかにきいた。もっともだ、そうおもった。 まだたべおわらない焼き魚と納豆、そしてごはん。皆が続々と席を立つなか彼は言った。 「それ、まだたべる?」 わたしが納豆を掻き [続きを読む]
  • 先読みのスタートダッシュ
  •  退路を断った見知らぬ街でひとり彷徨い歩いていた。確定できない未来に身を委ねるのはそれ自体が恐怖だ。スポーツバッグを背負いながら、宛てもなく歩く。歩いているほうが楽だった。なにも考えなくっていい。 それでも肉体には限界がある。精神がどれほどの自由を求めようとも、重力には逆らえない。昔はそれが嫌だった。 ひとまず図書館に向けて歩いてみることにした。公共施設なら安心できる。なるべく節約するために30分ほ [続きを読む]