しゅり さん プロフィール

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しゅりさん: 未題
ハンドル名しゅり さん
ブログタイトル未題
ブログURLhttp://shurir.hatenablog.com/
サイト紹介文大切なひとを大切にしたい。短編より短い短編小説を書いています。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供220回 / 295日(平均5.2回/週) - 参加 2016/07/07 01:13

しゅり さんのブログ記事

  • 闘志の色
  •  どこか見覚えのある顔だった。何度もみたことのある顔だった。もしかしたら、とおもったけれど言わなかった。他人の空似かもしれない。けれど彼女が自身を紹介すると、やはりテレビでみた彼女だとわかった。 「わたし、この仕事以外考えられないんです。」 彼女はやる気に満ち満ちた声色で言った。そこには幾分か牽制も含まれてはいたけれど、決して他人を貶める類いのものではなかった。 「わたしはこの一年、必死にスイング [続きを読む]
  • ノスタルジア・ブルー
  •  18.5帖の広々リビングにグランドピアノ、いつでも飲める水素水生成器設置、お菓子づくりに便利なオーブンレンジ付、夢のカウンターキッチンで食卓の準備もらくちん。しかも3LDKの11階建て最上階、夏はベランダから花火の一望できる海沿いのマンション。 おもわず目を見開く理想を詰め込んだ物件情報にまるで楽園!と数日前の自分はたしかに叫んでいた。東京暮らしと比べればお値段格安、まるで浦島太郎みたい。リッチな感覚に浸 [続きを読む]
  • ひとりよがり
  •  わたしは自分でも意識しないうちに大層甘やかされて育った、いわゆる箱入り娘だ。わたしをわがままな娘に育てるため、父なんてわざわざ占い師のもと、わがまま娘に育つ名前候補を打診しにいったくらいだ。その甲斐あってわたしはひとの好意を受け取るになんの疑いももたない世間知らずなおとなになった。 だいたいわがままは一般的にあまり歓迎されないことを、わたしは二十歳になるまで露程も知らなかった。ひとのおもいやりみ [続きを読む]
  • 怒りvs.怒り
  •  「自分ばっかり被害者ぶらないでよ!」 言ってからしまった、とおもった。ただでさえ余裕のない人間にいまのことばはやりすぎだ。案の定彼女は憤慨すると、沸騰したやかんのように怒鳴り散らした。 「あんたまでそんなことを言うの!もういい、あんたら全員同じ穴の貉だよ。わたしのいま抱えている苦しみなんてちっともわかっちゃいない!」 そう言われるとどうしようもなかった。ほんとうにそのとおりだった、反論の余地もな [続きを読む]
  • 哀しみの落とし穴
  •  貼り出された番号はなかった。わざとコンビニを迂回して踏切を渡る。道すがら、この前の男が座り込み待っていたからだ。ちらり目が合えどふいと逸らされる。いまの彼には興味がないのだ。代わり、肩を落としすごすごと帰る彼女たちには陽気に声をかける。 「お時間よろしいですか?先ほどお見かけして、なんて素敵な方だろうとおもい声をかけさせていただいたのですが。」 月額2万円のために彼は働いている。夢や希望を抱えて [続きを読む]
  • 確執の隙間
  •  「ねえ、遊ぶってどうやるの。」 「あんた、遊んだことないの?」 「遊ぶっていったいなにかわからない。そうおもったことはない?」 わたしが尋ねると、姉ははあ、とため息を吐き面倒くさそうに目をすがめた。 「あんた、そんなんだからともだちいないんだよ。」 「うるさいなあ。」 「カラオケとか。いってるでしょう、よく。」 「うん、ひとりカラオケ。いってる。」 「ああいうのが遊びっていうんじゃない。」 「そ [続きを読む]
  • 急転直下の浮上
  •  日常は突然幕を閉じた。あんまり突然だったので、わたしはぽかんと口を開けたまましばらく佇んでいた。まさかのんびりおひるごはんをたべているなか、電話一本でおわりを告げられることになるとはおもってもみなかったのだ。 けれどひとまず、わたしは「わかった」と言った。そして、どうしたもんかと考えてみることにした。 住む家がなくなってしまう。 毎日毎日ねむりについた我が家がある日突然なくなってしまう。覚悟して [続きを読む]
  • 見送り電車
  •  電車のホームでベンチに座っていた。息が荒く、からだが震えている。動こうにも動けない。いつからか頑なに固まったそれに困惑しつつ、乗らなければならないジレンマを抱えていた。 「まもなく1番線に電車が参ります。」 アナウンスにびくりとする。息を深く吸い込みそして吐く。拳にぎゅっと力を入れ、電車がだんだんと速度を落としやがてゆるやかに停車する姿を凝視していた。 「1番線、電車が発車します。」 再び走り出し [続きを読む]
  • ある日のLINE
  •  「おねえちゃん、いまなにしてるの。」 午後1時ごろ、LINEの着信音が鳴った。滅多に鳴らないそれを確認すると妹からだった。 「ふきげんな過去、みてる。」 「なにそれ、不機嫌なの?」 「ううん、映画。TSUTAYAで借りた。」 なるほど、と白うさぎのスタンプがぽんと押される。 「ねえいま休憩中。」 「そっか、がんばってるね。」 「褒めて褒めて!」 なでなで、と黒猫が白うさぎを撫でるスタンプを押す。 「おねえち [続きを読む]
  • 掃きだめの心労
  •  「おもえば25年前から悲劇ははじまっていたのよ。」 彼女は項垂れると手にした缶ビールをやや乱暴にぐいと傾けた。すでにテーブルの下には3本の空き缶が整列している。それらを眺め、ひとまず彼女のはなしに耳を傾けることにした。 「彼は婚姻届さえいっしょに出しにいってはくれなかった。子育てに疲れてわたしが寝込んだときだって、ちっとも介抱してはくれなかった。」 彼ってそういう人間なの、と彼女は言った。わたしは [続きを読む]
  • 特異さがし
  •  「おめでとう!君は7000人のなかの300人に選ばれました。もちろん承諾するよね?」 「ありがたいはなしですが、お断りします。」 わたしが即答すると、恰幅の良い男は怪訝な顔で首を傾げた。雑誌の並んだローテーブル、目の前にはその男と、となりには若い女性。カラコンにまつエク、身なりを整え109のギャル風、けれど仕事はできそう。 「君、本気で言っているの?7000人中300人、確率的には上位4%だよ。」 「はい。ですか [続きを読む]
  • 能面の沈痛
  •  差し出されたケーキボックスに珍しく母の表情が綻んだ。ちょうどいま甘いものをコンビニにでも買いにいこうかとおもっていたところなの。ねえ、と言われ、わたしは頷く。 箱を開けると中身はシュークリームだった。108円のがみっつ。母は、このひとったら相変わらず気が利かないのね、とおどけつつシュークリームを口に運んだ。 「なんだか皮がぱさぱさしてない?」 「そう?おいしいよ。」 わたしがこたえる。 「ねえこれ [続きを読む]
  • 強行突破
  •  息がはあはあとあがる。走っているせいじゃない。想像してあがっている。わたしは足をとめず走りつづけ、帰宅すると早々にシャワーを浴びた。 腰を丸め、口元を手でおさえる。発作は加速した。はっ、はっ、まるで犬みたいに息を荒立て、泣きわめきくのをぐっと堪える。 それでもこころのどこかで決めた。やってみるしかない。物理的に不可能なことじゃないんだから。 あがると髪も濡れたまんま、自室の勉強机の下、ごみ袋を漁 [続きを読む]
  • ちょっきん!
  •  背中をあずけた薄い壁の向こうからは隣人の鼻歌がきこえてくる。すぐとなりには大切なひとが、なにやら熱心に書きものをして。そうしてわたしは川上弘美を読んでいる。のどかな昼さがり、そのすべてがいまここにある。 なんだか無性におかしくなり笑っていると、大切なひとが首を傾げた。 「どうしたの?」 「ううん、なんでもない。」 あたたかくってあたたかくって、わたしはこのまま溶けてしまってもいいとおもった。 人 [続きを読む]
  • お天気や
  •  「無断欠勤ありえません。」「メール連絡ありえません。」「社会人たりえません。」 一旦切れた意識を手繰り寄せるよう猛追することばの羅列にあの感覚が蘇ってきた。いつもいつもわたしはおんなじ失敗をする。はじめは笑っている、愛想よくいられる、相手の傷に寄り添える。けれどあるときぷつりと絶える。 業務中にもかかわらずトイレに駆け込むとおもいっきり泣き叫んだ。なんでなんでなんで、どうしてどうしてどうして、も [続きを読む]
  • 確かさの不確か
  •  「こんなときだから冗談みたいに言うけれど、実はあなた、おとうさんのほんとうのこどもじゃないのよ。」 あまりの衝撃に一瞬息がとまった。きかなければよかった。弟は黙っていた。わたしはドアノブにかけた手を力なく落とすと、すごすごと自室に戻った。 20年間、ずっと知らないで生きてきた。父と、母と、わたしと、弟と4人でやってきた。わたしたち家族は凡庸ながら、お互いの関係を長年かけ大切に育んできた。 それでも [続きを読む]
  • 石の上にも二十日
  •  おもいのほかあたたかい風を受け、すっかり春めいた外の世界に驚く。ずいぶん長く太陽を避けていたらしい。なにせ駅を歩くにも極力下を向いていたから、外出する時間もどんどん遅くなっていた。ひるまは夜と異なりひとどおりも多い。選択的にひとの波をかわして歩かなければならない。 べつにわるいことをしたわけではないとわかっていても、そう感じるものは仕方のないところがあった。あとは時間をかけてゆっくり溶かしていく [続きを読む]
  • フォビア
  •  昼起きてリビングに下りると、いつもは仕事にいっているはずの母がそこに立っていた。内心ドキリとしたものの、わたしはひとまず尋ねてみる。 「おかあさん、きょう仕事どうしたの?」 「あなたこそ学校はどうしたの?」 もっともすぎることをきかれわたしは黙った。ついにばれたか、とおもった。 「学校から電話が来たの。」 これはえらいことになったぞ、とおもいながら、わたしはこの夏を振り返った。昼夜逆転した日々、 [続きを読む]
  • 記憶の企み
  •  のりこちゃんとさきちゃんはいつも幽霊のはなしばかりしていた。ふたりは日ごろのあれこれをなにかと幽霊に結びつけては、呪いとか祟りとか言っていた。 「ほら、あそこに赤い服を着た女の子がいるよ。」 あるときは冬のプールをフェンス越しに指さし言った。わたしは目をよおく凝らしみてみたけれどよくわからなかった。みえる気がしたし、みえない気もした。 そんなさきちゃんの誕生日パーティーに呼ばれたのは翌年の夏だっ [続きを読む]
  • 忘れては
  •  わたしが高1のころの古文の先生はさながら作家のようだった。いわゆる日本の最高学府を卒業した彼はたいへんな読書家で、いつも小説を小脇に抱えては隙あらば本を読むひとだった。彼が廊下を歩きながら読書する姿を、わたしは何度もみたことがある。そんな彼は、学内でも風変りだと評判の先生だった。 あるときは国語の資料集を突然破りだしたときいた。彼は「資料集は分厚くっていけない。こんなものは必要なページだけ破って [続きを読む]
  • 異日常
  •  事情聴取を受ける兄を待つ時間はとても長かった。事務所の出入り口にある長椅子に妹とふたりで座る。こんにちは、と感じの良さそうな挨拶をした警察がまずきいてきたのは、あなたたちは兄のなんですか、ということだった。ただの付き添いで家族です、と正直に答える。 「ではこちらでお待ちください。」 やはり感じの良い笑顔で促されいまに至る。 「たぶんさあ。わたしたちも疑われてるんだろうね。」 妹が軽く言った。そん [続きを読む]
  • 身の丈の習慣
  •  わ、と突然あがった叫び声に一瞬心臓が飛び出るかとおもった。脳裏にいつまでもこびりつく悲鳴にも似た声色に切迫した現実を感じ取る。どうしたの、とさえきけない。とにかく母は、なにやら封筒にはいった請求書らしきものを手にわなわな震えながら、絞り出すよう呟いた。 「55万円、勝手にカード切られてる。」 えっ、と息がとまる。どういうこと、と考えると見当はすぐについた。この前のあれだろう。 「財布すった犯人だね [続きを読む]
  • 凹凹な問答
  •  「このバイトを志望した理由はなんですか。」 プロトタイプの質問は返答するにいつも窮する。志望理由、みたいなものを考えるのがとても苦手だ。志望先が本気であればあるほど、その問題は根深い。慎重に、誠実に、ことばを選び取ろうとするほど、概念的な世界が拡がり収拾がつかなくなる。 「ええ、と、わたしは、うたうことがすきで、なぜなら、うたがなければ、死んでしまう類いの、人間でして……」 頭のなかでぎゅるぎゅ [続きを読む]
  • −2+3=+1
  •  空欄だけが白く浮き出る、その紙を前にしばらく唸っていると、姉がノックもなしにわたしの部屋にはいってきた。どうしたの、と問われたので、出そうかどうか迷ってる、と答える。 「まだ迷ってるの、そんなの、はやいとこ出しちゃえばいいじゃない。」 「不安なの。」 「受かるかどうか気にしてるわけ。」 「ちがうよ、その先のこと。」 すると姉は大げさにため息を吐き、あのねえ、と話しはじめる。 「頭でくどくど考えて [続きを読む]
  • 突拍子あり
  •  キャリーバッグを引きずり幼馴染の住むマンションへ押しかけた。ドアを開けた際の驚愕した表情を素通りし、お邪魔しまーすとなかにはいる。どうした、ときかれたけれどなんにもこたえない。そのままずかずか入り込むとどすん、と居座り「なにもきかずきょうは泊めて」と言った。「べつにいいけど」と幼馴染。 ひさしぶりの部屋にきょろきょろあたりを見渡すと、この前とは明らかに内装が変わっている。黒い革張りのソファーに、 [続きを読む]