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マダムNの連載小説 https://serialized-novel.hatenablog.jp/

現在、純文学小説「地味な人」を連載中。児童小説や歴史小説の連載も考えています。

AmazonのKindleストアに電子書籍を置いています。 筆名、直塚万季でご検索ください。 ジャンルは純文学、児童文学、評論、エッセー。

マダムN
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2016/10/22

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  • お詫び

    2016年10月に始めた当ブログが止まってしまっております。 実際に起きた事件に触発されて昔書いた小説があり(あくまで触発されただけで、作品は完全なフィクション)、それはワープロで感熱紙に印字した原稿しかなかったため、作品の保存のためにブログ連載後に電子書籍化する予定で連載を始めたものでした。 加筆しながら連載していたのですが、更新するのがもう何だか苦しくなってしまったのです。今のわたしには書けないと思うと、一層保存しておきたいとは思うのですが、苦しい。続けられるときに続けていこうと思います。 続けて読んでくださっていた方が数人おられたようです。まことに申し訳ありません。気長に待っていただけれ…

  • 地味な人 [第16回]

    Free Images - Pixabay 五日後、川野辺家に招かれた久保夫妻は酔っ払って自宅に戻ってきた。いとまを告げる前から泣き出していた友裕は、疲れと興奮のためにいつまでも泣きやまない。その声は、贅沢な空間を抱いた快適なピンクの分譲マンションからすれば、物置かと思えるような古い狭いマンションの一室に大きく響きわたるのだった。離乳のすすんでいないせいで、まだ果物のような匂いのする友裕の口のはたに昌美は酒臭いキッスをした。何かものわびしく、もの哀しかった。夫の豊は、風呂に入ると言いながら、毛布を引っ張り出して寝てしまっていた。 泣きやんだ友裕を昌美は下ろそうとして、子供の布団に侵入してきてい…

  • 地味な人 [第15回]

    Free Images - Pixabay 虚をつかれた昌美は一瞬、夫がアメリカに転勤になってしまうのかと思ってしまった。すぐに、そんなはずがないと思い直した。「視察旅行に行きたいんだ。三月くらい先になると思う。同僚の多くが既に行ったんだよ。俺も行かなくちゃ。今の会社でこれからもやっていこうと思うなら、向こうのホームセンターを見ておくことは絶対に必要なんだ。昌美。行ってもいい?」 最後のほうはあまい囁きとなった夫の声に、昌美はむしろ酔いから覚めた人のようになって、いくらか冷ややかに口を開いた。「それは、そうよね。日本のチェーン・ストアがアメリカのそれに右へ倣えだってことくらいは、わたしにだって…

  • 地味な人 [第14回]

    Free Images - Pixabay 「エントランスには応接セットがあって、待ち合わせていたのか、休憩していたのか、セールスマンふうの人がソファにいたわ。その向こうにはカウンターがあって、管理人さんがいるの。ドアはオートロック式になっていてね、あれがどういう仕組みになっているのかを初めて知ったなあ。わたしが皓子さんを訪ねるときにはエントランスでオートロックの鍵の横についているボタンを押すわけ。そうすると、家のなかのインターホーンに通じて、相手が誰かを確認した皓子さんがインターホーンについているボタンを押せば、ドアが開くのよ」 夫は、妻がこのようなとりとめのない話しかたをするのを初めて聞い…

  • 地味な人 [第13回]

    Free Images - Pixabayクライスラー・ビルディング(アール・デコ建築) その夜、店内の陳列替えのために遅くになって帰宅した夫とふたりで夜食といっていいような夕食を済ませていると、雨が降り出した。風のせいで不揃いに聴こえる雨音にちょっと耳を傾けてみて、昌美は言った。「あの分譲マンションね、新しいせいか、ひどく湿気があるんですって。うちは建物が古いせいか、元々欠陥があるせいかは知らないけれど、雨が降ると、押入れの一角が濡れたみたいになることがあるわよね。そこに布団なんて、とても置けないくらいに。さすがに、そんなことは言えなかったな」 おかずの肉じゃがを肴にキリンの発泡酒を呑んでい…

  • 地味な人 [第12回]

    Free Images - Pixabayクローシュからのぞいている引き締まった顔はまっすぐに昌美のほうに向けられていて、その女性がキャリアで前向きに抱えている赤ん坊がまた、母親とどっこいの手強そうなしかめっ面でこちらを見つめている。尤も、赤ん坊のほうは単に光がまぶしいだけなのかもしれなかった。濃い眉、濃い睫毛に小気味よく尖った鼻、傲慢な感じさえ与えるしっかりした顎は母親似だったが、母親がよく日に焼けた肌色をしているのに比べ、赤ん坊はちっとも日に焼けてはいない。水色のキャリアの背当てには、雪のように白い天使の羽の飾りがついていた。赤ん坊はグレーに黒い恐竜の柄が洒落た、足元までカバーされたロンパ…

  • 地味な人 [第11回]

    Free Images - Pixabay 郊外に新たに建設された街――いわゆるニュータウン――というのは、内実から言えば、洒落た見かけとは裏腹に、街というよりはいっそ開拓村と呼ぶほうが理に適う。商店街と言えるほどのものはない。働きざかりの人々は車や電車で会社へ出かけていく。学生は学校へ、老人は少ない。白昼のニュータウンで見かけるのは、幼い子供を連れた女性くらいだ。彼女たちは子供たちを外気に触れさせるため、ネットワーキング――人と人とのつながり――のため、さらにはコミュニティを求めて外へ出てくる。公園に行ってみようと思う。自分と同じ育児という課題に生きている人々に気軽に出会える場所といえば、さ…

  • 地味な人 [第10回]

    ペンシルバニアのレヴィットタウンFrom Wikimedia Commons, the free media repositoryFree Images - Pixabay 今しがた妻が見せた 険のある素振りにわだかまりを残していた夫は、病室を去る直前まで、一人で留守宅を守り職場での戦いに立ち向かっている自分へのねぎらいの言葉を期待していた。 そのことがわかりすぎるほどわかっていながら、昌美は夫の望む晴れやかなムードを作り出せず、優しい言葉もかけられないまま、そっけなく見送ってしまった。出産疲れと産後すぐにやってきた母親としての勤めが重荷に感じられていた彼女は、すっかり娘時代に帰っていたのだっ…

  • 地味な人 [第9回]

    Free Images - Pixabay 子宮口が開いてしまっても、赤ん坊を押し出すほどに陣痛が強くならなかったのは、豊がハンバーガーを食べさせてくれなかったせいかもしれなかった。いわゆる微弱陣痛で、一向に強さを増さない単調な陣痛の波に幾度となく晒され、昌美は寒く、眠たく、疲れ果てていた。「ああ、もうこんな時間。時間がかかりすぎる!」 と助産婦の免許をもった看護師がつぶやき、分娩台の側を離れた。 真夜中の分娩室で、昌美は看護師が陣痛促進剤の使用許可を求めて医師に電話する声を聴いた。もう一人、看護師が姿を見せ、分娩の支度にかかる。陣痛促進剤の点滴が行われてほどなく、痛みの怒涛が押し寄せると、体…

  • 地味な人 [第8回]

    Free Images - Pixabay Z…市に引っ越してきて、住まいの周辺にもいくらか慣れ、育児用品もほぼ買い揃っていた。夫の勤めるホームセンターから購入した商品も結構あった。注文を出せば、夫が見繕って買ってきてくれ、これには助かった。 ベビーベッドを置くと、ひと部屋がほぼ潰れた。産婦人科は何軒か見つけたものの、どれもホテルのように華美な外観で、その雰囲気はこれから一個の躍動感に溢れる生命体をうみ落とそうとする昌美の生真面目でストイックな精神とは、どこかそぐわなかった。いくらか遠かったが、転居前にかかりつけになっていた博多駅にほど近い公立病院で赤ん坊を出産することに決め、それで気持ちが落…

  • 地味な人 [第7回]

    Free Images - Pixabay 夫の実家のことでも杞憂の種があった。それは元気で独り暮らしをしている義母のことではなく、都心でサラリーマンをしている義弟のことだった。彼が相当な額の借金を背負ってしまったのだった。入社し立ての気の弱い義弟は上司にこき使われるままに残業をし、終電に乗り遅れてしまう。仕方なくワンルームマンションまでの長距離をタクシーで帰ったり、ホテルに泊まったりするうちに金銭が底をつき、カードローンの使用からサラ金に手を出してしまったのだった。有名私大を出してやった挙句のていたらくに義母は呆れ、匙を投げてしまった。夫は可愛い弟を放っておけず、昌美も同意して、借金の半分を…

  • 地味な人 [第6回]

    Free Images - Pixabay 昌美は佐賀県の農家に生まれた。 物心つくころから、起床後の歯磨きと洗顔を済ませるとすぐに仏壇の前へ行き、ご先祖様に手を合わせた。その部屋にはご先祖様の写真がずらりと並んでいた。 朴訥な祖父。腰の曲がった、何かに耐えているような――心が洗われるような光を宿していることもある――小さな目をした祖母。謹厳な、頼りがいのある父。農家には肉体的にも精神的にもそぐわない、感じやすい、病弱な母。合理的な思考の持ち主だが、母に似て強壮とは言いがたい兄。 政府の減反政策で米作りが揮わなくなったので、父と兄が祖父とやり合ったすえ、家業を畜産業に転じた。実家は、子牛を購入…

  • 地味な人 [第5回]

    Free Images - Pixabay 綺麗な街に住むのも考えものらしい、と彼女は早くも悟る。ゆとりのない家族を温かく迎えてくれるような、手頃な家賃のほどほどにちゃんとした賃貸マンションなどは、お金持ちの多そうなこんな街にはかえってないのだろう。学園都市と言われるぐらいだから、学生向きのワンルームマンションや下宿などは充実しているのかもしれないが。つまり、ここも、庶民に暮らしやすい街ではないという点では、これまで住んできたところと同じなのだ…… 夫は昌美を降ろすと、車で一旦不動産屋まで鍵を借りに行った。その間、昌美は遠慮がちに駐車場の脇に佇んでいた。建物の色は元々が灰色だったのか、ベージュ…

  • 地味な人 [第4回]

    Free Images - Pixabay すでに安定期に入っていた昌美をミニカに乗せ、夫は自分ひとりで来たときに手付金も払ってきたというマンションの下見に連れ出した。インターチェンジが今いる家の近くなので、夫は高速を使った。次のランプが見えたとき、車は早くも出口のほうへカーブした。 国道を走る車の窓から、右方向に神社を抱いた紅葉する丘、左方向に白亜のドームが見え、それに気をとられた昌美は名残惜しそうにしながら、次に赤十字病院、ゴルフセンター……と、目の端で捉えていた。郵便局から先はさすがにベッドタウンの呼び名にふさわしく、新しい家々が並んでいる。マンションも見える。 昌美は思わず微笑した。そ…

  • 地味な人 [第3回]

    Free Images - Pixabay 一心に夫の話に耳を傾けていた昌美は、日本人をハンバーガーで金髪に――のくだりで、ぞっとさせられた。「じゃあ、玩具でもっと根本的に、日本人の子供たちの心のなかから改造するつもりなんじゃないの? どうして、日本人をアメリカ人にしてしまいたがるのかしら。その実業家は日本人なんでしょう? そんなことが何気ない消費という次元から進行しているなんて、怖いわ」 夫は、耳をそばだてる気配を示して、言った。「昌美が言うと、オカルトじみるよな」 次いで、失笑しながら妻に講義してみせるのだった。「藤田田はアプレゲールと呼ばれた、大正うまれの人間でね。アプレゲールというのは…

  • 地味な人 [第2回]

    Free Images - Pixabay ホームセンター勤務の夫に人事異動の内示があり、彼がZ…市A…地区への転居の必要を妻の昌美に説いたとき、彼女は妊娠中の身で、どうにか悪阻の時期をやり過ごしたところだった。こんなときの引っ越しなど考えたくもないくらいだったが、煙草の吸いすぎからか色の悪い夫の唇の間からZ…市という転勤先の名がつぶやかれると、彼女は素直に喜んだ。 久保夫妻が新婚時代を過ごしてきた福岡市近郊の農村だったと思しきこの地は、およそ街と呼べるだけの纏まりを形成してはいず、住むには半端な、何の美観も望めない、高度を上げるか下げるかして頭上を通り過ぎる飛行機の音がやたらと喧しい、目下、…

  • 地味な人 [第1回]

    Free Images - Pixabay 倉庫のような外観の建物から、子連れの夫婦が出てくる。男の子が胸に押しつけるようにしてもっている箱の中身は、レゴのブロックだった。 初めてこのトイザらスという名の玩具のディスカウント・ストア――安売り店――に足を運んだとき、妻は、品数が異常なまでに豊富な、そしてまた、商品の提供という目的以外の事柄は全て削ぎ落としたかのような店内の様子を一瞥し、呆然となった。 彼女は広い通路をうろうろして、いつしか棚のうえに積み重ねられた箱の一つに見入ってしまっていた。アメリカ人の姿を安っぽく模ったような変にリアルな人形を見、戦慄すると共にある激しい違和感と抵抗感を覚え…

  • 地味な人 [あらすじ、まえがき、主な登場人物]

    Free Images - Pixabay あらすじ 主人公の久保昌美は、子育て中の葛藤から一人のママ友に殺意を抱くほどの憎しみを覚えてしまいます。その憎しみがママ友の子供に向けられるようになるまでの心理的推移を、環境や人間関係を背景に描いていきます。 まえがき 日本社会を震撼させた音羽お受験殺人事件(1999年11月22日)に着想を得、2000年5月に脱稿した作品ですが、事件を再現しようとしたわけではありません。 子育て中に底なし沼……にはまってしまう女性もいるに違いないと思われたので、その底なし沼を何とか表現したいと考えました。 2005年になって、たまたま事件現場の近くを訪ねたので、現場…

  • ☆インデックス

    はじめに 地味な人(純文学小説) あらすじ、前書き、主な登場人物 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 第10回 第11回 第12回 第13回 第14回 第15回 第16回

  • はじめに

    Free Images - Pixabay 現在、純文学小説「地味な人」「救われなかった男の物語」「銀の潮」の連載を予定しています。 児童小説や歴史小説の連載も考えています。 実は、前掲の三作は古い作品で、ワープロで清書していました。パソコンでフロッピーが開けなくなったこともあって、Kindle ダイレクト・パブリッシングで電子出版したいと考えています。 しかし、まずはパソコンで作品を打ち込むことから始める必要が出てきました。平成12年(2000)5月に脱稿した「地味な人」から打ち込むことにしました。 「地味な人」は感熱紙の原稿しかなく、印字が薄くなってしまっています。感熱紙原稿のコピーをとる…

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