トオルKOTAK さん プロフィール

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トオルKOTAKさん: トオルKOTAK  短篇小説
ハンドル名トオルKOTAK さん
ブログタイトルトオルKOTAK 短篇小説
ブログURLhttp://s.ameblo.jp/hiroyukifukushima2004/
サイト紹介文短篇小説集。一週間で読みきれる物語を7〜9回くらいに分けてアップ。題名ごとに「1/X」からどうぞ。
自由文都市や地方に住む人々の何気ない日常、普通の生活の中で起こる、数々の物語です。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供165回 / 215日(平均5.4回/週) - 参加 2016/10/24 15:03

トオルKOTAK さんのブログ記事

  • 々(のま)(1/8)
  • 1 願(がん)かけ石。「心に願いごとを念じ、この神石を撫でること三度、更に願いごとを唱えるべし」次の小説と砂田謙吾のことを考えながら、そう書かれた案内板を右手でそっと触れてみる。注連繩(しめなわ)が掛かった神石は、雨風を避けた小さな社殿に納められているので目立つ傷みはない。黄昏に鎮座する神々しさに背筋を伸ばすと、本殿に向かう制服姿の女子高生が目に留まり、このパワースポットが縁結びでも知られることを [続きを読む]
  • 変態ゲームGO!GO!(8/8)
  • ジミーFは、チームメンバーの「変態」の催促に慌てて立ち上がり、両手で頭を抱え込むようにして廻り始めた。直径1メートルの範囲をぐるりぐるり。スタッフの哄笑が起こる。体を丸めて顔を下に向けているので、ピンク色の布団が洗濯機のドラムに操られているみたいだ。「なに、それー?」「泳いでんのか?」「次、次!その後!」チームメンバー同様、正解が分からないヤマドリも心の中でジミーFのジェスチャーを煽った。35・30・ [続きを読む]
  • 変態ゲームGO!GO!(7/8)
  • 声を押し殺した管理部長の迫力に、ヤマドリは気持ちを落ち着けようとソファに深く座り直した。捏造・虚偽・断罪・横領……言葉の不穏な響きに胸の鼓動が乱れる。「ディレクターとかプロデューサーとか、芸能界に密接している者の周りには、多かれ少なかれ、キナ臭い話がつきまとうもんだ。しかし、島田広志については状況証拠が揃っている。我々は、架空の領収書を書けないよう、手も打ってきた」奥歯を苦々しく噛み締める様が、頬 [続きを読む]
  • 変態ゲームGO!GO!(6/8)
  • 帽子の傾きを正した神門の隣りで、社長の福井が島田にアイコンタクトした。「……ヤマ、実はな、ひとつ相談事があるんだよ」「相談というか、お願いです」島田の切り出しに、福井がコーヒーカップの飲み口を親指の腹でなぞりながら加え、神門は前屈みの姿勢を正した。「お前の……嶋田孝プロデューサーの記念すべきスペシャルドラマに、ゲスト扱いでジミーFさんを出演させてほしいんだ。歌だけじゃなく、本人をさ」ヤマドリは驚き [続きを読む]
  • 変態ゲームGO!GO!(5/8)
  • プライムレボリューションは、CDメーカーであるプライムミュージックのアーティスト・マネジメント会社だ。福井は双方の会社の代表取締役を務め、鳥打帽の神門はミュージック側の専務取締役だった。「福井社長にそう言ってもらえると、ヤマドリも出向している甲斐がありますよ」同期社員の心情を代弁するかたちで島田が言い、空いた皿を片づける店員に純米酒を注文した。「北海道のローカル局なんかも独自のバラエティやドラマで [続きを読む]
  • 変態ゲームGO!GO!(4/8)
  • 「もしもし」「島田でーす。ヤマ、昨日はお疲れ!もう仕事か?」丑三つ(うしみつ)時まで痛飲した者とは思えない溌剌とした声。ヤマドリは昨晩のお礼を言った後、虎ノ門にあるメーカーにドラマのDVD化交渉に向かう途中だと伝えた。「そうか、コンテンツの2次セールスは必須だよな。売上げをそこでどれだけ見込めるかだ。番販も手広くやっとくべきだぞ」自宅からの電話だろう。テレビの音声を背後に、島田は上司よろしく、ヤマド [続きを読む]
  • 変態ゲームGO!GO!(3/8)
  • 「変態!」「GO!GO!」グラビアアイドルの甲高い声と芸人の野太い声……非日常のバカ騒ぎで、年甲斐もなくはしゃぎ過ぎた。ヤマドリは遮光カーテンを開けて、ゲンコツで後頭部を2、3度叩く。休んでいる暇はない。デスクに置いたノートブックパソコンが起動する間に、携帯の受信メールを開いた。「今日は対外試合で勝ったよ!」娘のメールだ。彼女の送信時刻は夜中の2時。部活から帰り、受験勉強を終えて寝る前に書いたのだ [続きを読む]
  • 変態ゲームGO!GO!(2/8)
  • 「……そう、担当のベテランプロデューサーが急に入院しちゃってね。ボクが代わりを務めることになったわけ」ヤマドリが事実を打ち明けると、一発ギャグをウリにするモヒカン芸人が「いよっ!大プロデューサー」と、指笛を鳴らした。「いやいや、ボクはプロデューサー補だよ」「ホ?補欠の『ホ』っすか?」「バカ!謙遜よ。ホームランの『ホ』でしょ!」「ホームランで放送大賞!」漫才めいたやりとりの中、スーツにネクタイのヤマ [続きを読む]
  • 変態ゲームGO!GO!(1/8)
  • 1 取引先の接待を終えたヤマドリは、六本木の「ミーノー」にタクシーで向かいながら、島田広志からのメールを開く。「ギロッポン、ミーノー」の後にマップへ飛ぶURLがあり、「遅刻15分につき1曲」と書かれている。ギロッポンは六本木。ミーノーは飲み。46歳のオジサンになっても、同期の島田のノリは変わらない。むしろ、いっそう元気になったと思いつつ車を降り、芋洗坂を下った。新年会のシーズンだが、月曜日のせいか [続きを読む]
  • 銀幕のネズミ(8/8)
  • 片側二車線の道路を左折し、商店街のゲートでアクセルを緩めて公衆電話を捜す。駐車違反の取締まりが厳しいのか、辺りの路上に車はなく、いつでもどこでも停められたけど、肝心な電話ボックスがなかった。コンビニ前に据え置かれた雪ざらしの公衆電話はちょうど使用中で、傘のない監督を降ろすわけにも行かず、僕の車はアーケードをいったん離れた。「なかなかありませんね………」「世の中、携帯電話ばっかで、クラーク・ケントも [続きを読む]
  • 銀幕のネズミ(7/8)
  • 監督の質問が意外だったのか、老人は緩めていた表情を真顔に戻して、飲み物を口に含みながら熟考した。10秒、20秒……無言の時間がこれまで以上に長く重なる。「……裁判官であれ、一般人であれ、人が人を裁くには間違いの起こる可能性があるっちゅうこと。それを忘れてほしくないな。人はどんなときも過ちを犯す生き物やから」「わしもそう思います。人間は全能やない。それを勘違いしてしまう輩が多いんや」「監督さん、今日いろ [続きを読む]
  • 銀幕のネズミ(6/8)
  • 中庭に面したガラス戸に、心もとない淡い陽射しが張り付いている。垣根の緑を背景に、空(から)のハンガーをぶら下げたステンレス製の物干し台があり、片方の支柱に寄り添うかたちで三輪車と子供用の自転車が並んでいた。その光景を人指し指で監督にそっと伝えると、老人は僕らの視線にすんなり気づいた。「息子の成長する姿をあたしは見られんかったんで、引越しのときも自転車を捨てず、ああして置いてるんですわ。雨ざらしで、も [続きを読む]
  • 銀幕のネズミ(5/8)
  • 夜行性の生き物が闇を覗き込むような目ーージャージ姿のその家主が取材相手に違いなかった。肉の削げ落ちた頬と骨ばった下顎は年老いた野生動物を思わせる。「どうぞお入りください」老人はひどく掠れた声で僕らを家の中へ招き、クローゼットから人数分のスリッパを取り揃えた。バリアフリーの玄関にはつっかけのサンダル以外に靴はなく、カメラの三脚とビニール傘がたて掛けられているだけ。別の住人の気配はない。ゆったりした歩 [続きを読む]
  • 銀幕のネズミ(4/8)
  • 少し間を置いて、監督は紙ヤスリで削ったみたいな声で言った。「監督」というルール違反の呼びかけを気に留めず、薄茶色の目を細め、テンションを抑えている。「いや、あのぉ……社長とは……プロデューサーとはガチで話してないですけど、大ヒットする映画より、社会的に意義のある映画の方がネズさんらしいと、僕は思います」しどろもどろで言葉を足した。「モリさんの言うところの『日本映画の品格』か?仕事も人生も中ぐらいの [続きを読む]
  • 銀幕のネズミ(3/8)
  • 隣りのテーブルのヤンキーが、テレビで見かける監督の存在に気づいて、さっきからニヤついてる。「銀幕のネズミ」は毒舌文化人としても知られてるから、街中ではちょっとした有名税を取られてしまう。上着を脱ごうとした僕を、そんな監督は仏頂面で制し、サングラスを外した。長居無用のメッセージ。正方形のガラス窓からうっすら差し込む陽射しが監督の目元を照らし、瞳孔の奥に潜む力強さを映した。茶色がかった虹彩は肉食系の獰 [続きを読む]
  • 銀幕のネズミ(2/8)
  • 道幅の広い国道に出ると、緑が目立つようになり、マンションかアパートか分からない低層住宅が田んぼの中に現われた。空の面積が格段に増え、信号と信号の間隔も長くなっていく。気ままなドライブといきたいけど、僕の心は今日の空模様みたいに厚い雲がかかっていた。監督は、次の日曜日のロケハンに「宣伝担当」の僕が同行しない理由を誰かから聞きつけ、それを責めているのだ。3つ年上の彼女と結婚をマジモードで考えている僕は [続きを読む]
  • 銀幕のネズミ(1/8)
  • 1 「なぁ、チュウ……お前はよ、銀幕のネズミと浦安のネズミのどっちが大事なんよ?」高速道路から一般道に入る信号で、助手席の監督がサイドブレーキを引いて言う。感情を押し殺した濁声(だみごえ)。今日いちばんのマジモード。運転する僕は、声の主をチラ見して愛想笑いする。ハンドルを握ってないのに、お節介にサイドブレーキを操るのはこの人……根元純夫(ねもとすみお)くらいだ。職業/映画監督。通称/銀幕のネズミ。 [続きを読む]
  • 再現ドラマカフェ(8/8)
  • 「あんた……逃げられると思ってるわけ?」女の持つ傘の先端が照明で鋭利な光を放ち、小百合はたじろいだ。雨音がおもむろに強まっていく。「何しに来たんだ!」「……ふざけないでよ。あたしを捨てて、こんなとこで暮らしちゃって」「もう、全部終わったことだろ」侵入しようとする女を小突いて、男は怒声を上げた。素人くさい演技がかえって生々しく、セリフのたどたどしさが臨場感を増している。脱いだハイヒールを振り上げて応 [続きを読む]
  • 再現ドラマカフェ(7/8)
  • 「なまじゅげむ」のフロアいっぱいに客が入り、ステージから控室へ繋がる通路で役者たちがざわついている。「ギンネズが来てるぜ!」「おお、いたいた。驚いたな」タオルで汗を拭う劇団員が、出番待ちの小百合を囲んだ。「……ギンネズって、根元監督?」「そうだよ!間違いないぜ」半信半疑で聞き返した彼女に、空芯菜の主役が興奮調で答え、そばにいた尾畑と砂田も会話に加わった。ギンネズは、映画監督の根元純夫の愛称だ。スク [続きを読む]
  • 再現ドラマカフェ(6/8)
  • 自分も被害者だといったふうに、尾畑は口を尖らせ、ウェアのジッパーを喉元まで締め上げた。自信に満ちた表情は、インタビュアーの来訪を待ち望んでいるようにも見える。やがて、荒川の指示でゲネプロが始まり、最初の演目の出演者が観客役の劇団員たちに一礼した。ステージがライトアップし、「空飛ぶ空芯菜」が本番同様に演じられていく。いまこの時間に尾畑が取材を受ければ、3本目となる自分たちの稽古も可能ではないか? 記 [続きを読む]
  • 再現ドラマカフェ(5/8)
  • 小百合は飲み物を口に含んで、即答を避ける。「サユリが結婚すれば、家族も増えて……お父さんだって、安心なんじゃない?」論点をすり替える姉。やはり、火の粉が降りかかってきた。「美咲と山崎くんとは別の議題だが……そりゃ、小百合だって早く結婚するべきだ」秀造は薄くなった髪を頭皮に撫でつけ、「どうなんだ?」の眼差しで、独り身の娘を凝視した。「つき合ってる人はいるんでしょ?」妹の告白を待たずに姉が訊き、母親も [続きを読む]
  • 再現ドラマカフェ(4/8)
  • 4 土曜日の午後、実家の部屋で、小百合は時間を持て余している。姉の部屋が跡形なく片付いている一方、小百合の部屋は、ベッドも机も書棚も元のまま。もうここで生活するつもりはないのに、家主から「部屋を片付けろ」とは言われない。むしろ、「帰って来い」というメッセージが聞こえるようだ。緊急召集の家族会議。その開始予定時間から、すでに30分が過ぎていた。これなら、急行電車に駆け込む必要はなかったと、小百合は [続きを読む]
  • 再現ドラマカフェ(3/8)
  • 「はい。次も出番があります」「僕も一度観たいんですよ。今度、チケットを取ってみようかな」「わたしに言ってくだされば、席をご用意します」毅然とした態度で小百合は告げた。自分が「寿限夢×2」の一員で、再現ドラマカフェの出演者であることを強くメッセージする思いで。「一度観たい」は、けしてテレビマンの社交辞令ではない。荒川が企画した再現ドラマカフェは、このところ、メディアでも盛んに取り上げられるようになっ [続きを読む]
  • 再現ドラマカフェ(2/8)
  • 2 1日8時間、週に6日の稽古が続き、本公演まで残り2週間になった。「寿限夢×2」の劇団員のほとんどは芝居だけでは食べていけず、小百合は新宿三丁目のバーで働いている。雇い主である73歳のマスターは高度成長期に名の売れた映画俳優だったが、40代で役者人生に見切りをつけ、水商売に転身した。新宿エリアで店舗を移しながら、フロアの規模をだんだん小さくしていき、いまはテーブル2つとカウンター8席の小空間を余 [続きを読む]
  • 再現ドラマカフェ(1/8)
  • 1 カード会社の請求明細に、高梨小百合(たかなしさゆり)はため息をつく。今月もぎりぎり。このままなら、実家の援助で作った定期預金に手をつけなければならない。代官山のショッピング、青山のレストラン……。ショッピングは必要経費と言うべき洋服で、レストランの食事は仲間との付き合いだ。けして無駄遣いはしていないから、「¥」に連なる数字が恨めしい。27歳。年齢もぎりぎりだった。女優を諦めて、普通の仕事に就く [続きを読む]