トオルKOTAK さん プロフィール

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トオルKOTAKさん: トオルKOTAK  短篇小説
ハンドル名トオルKOTAK さん
ブログタイトルトオルKOTAK 短篇小説
ブログURLhttp://s.ameblo.jp/hiroyukifukushima2004/
サイト紹介文短篇小説集。一週間で読みきれる物語を7〜9回くらいに分けてアップ。題名ごとに「1/X」からどうぞ。
自由文都市や地方に住む人々の何気ない日常、普通の生活の中で起こる、数々の物語です。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供136回 / 182日(平均5.2回/週) - 参加 2016/10/24 15:03

トオルKOTAK さんのブログ記事

  • 枯れてしまうには早すぎる(5/8)
  • 今日に始まったことではないが、大城戸の仕切りの上手さに江頭は感心する。記事の見出し的な語彙を並べたて、自分のペースを保ちながら、相手をヨイショする。持って生まれたエンターテイナーの才。世の中はもっとこの男・大城戸栄を評価するべきじゃないかーー江頭は大城戸の発言のひとつひとつに頷いた。取材立ち会いの場数を踏んでいるだけあって、原島の仕事ぶりもそつがなく、ジミーFが知り得ない情報を絶妙なタイミングで解 [続きを読む]
  • 枯れてしまうには早すぎる(4/8)
  • 歌謡ショーの翌日、 神門から「アイデア」を知らせるメールが江頭に届いた。それは、大城戸栄とジミーFの対談企画で、音楽ファンはもとより、ギョーカイ人にも一目置かれるウェブマガジンでの掲載だった。サイトのページビュー、メルマガ配信数や開封率など、細かに書かれていたが、新聞でも雑誌でもないデジタルメディアの価値を江頭は理解できず、とりあえず、原島に提案を伝えてみた。新曲の宣伝期間なら、CDメーカー側 [続きを読む]
  • 枯れてしまうには早すぎる(3/8)
  • 「エガよ……ありがたいねぇ。テレビ局がいつもこうしてお弁当を用意してくれてさ」向かいに座る大城戸が新曲の譜面をテーブルに置いて、「おっ、お前の好きな鳥そぼろじゃねぇか。俺のも半分食うか?」と続ける。江頭は、愛想笑いで沢庵浸けをつまんだ。「そのタクワン、ステージ衣装と……今回の曲の衣装とおんなじ色だぞ。こりゃ、縁起がいいな」割り箸を手に、大城戸が豪快に笑った。ギョーカイの中で、江頭のことを「エガ」と [続きを読む]
  • 枯れてしまうには早すぎる(2/8)
  • 古参マネージャーはレコーディングルームの弦奏者を見つめ、厳しい現実に嘆息した。この10年あまりで、音楽市場全体のCD販売は3分の1に縮小し、マーケットの規模はオンラインゲームにも劣っている。歌謡番組も減り、CDが売れない。若者向けのJ―POPに較べれば、演歌はまだ緩やかな右肩下がりとは言え、メーカーの売上ダウンは人員整理だけでなく制作現場にもメスを入れた。上階の漏水が天井のシミを拡げるみたいに、宣伝 [続きを読む]
  • 枯れてしまうには早すぎる(1/8)
  • 1「エトさん、いまやアーティストは映像で勝負する時代ですよ」背中を丸めた江頭(えがしら)順平に、年下の神門(かんど)ヒロキがYouTubeを開いて囁く。江頭はギョーカイ村の古くからの住人で、神門は新参者だ。同じ干支でひと回りの年の差だが、風貌と物事への価値観は年齢以上の隔たりがある。スマートフォンの中で、スパンコールのジャケットを着たアフリカ系アメリカ人がマイクを構えた。新着のプロモーションビデオだ。歌唱の [続きを読む]
  • 静かな湖畔の陽の光の下(8/8)
  • 松本一朗と中深迫友の出会いはおよそ10年前、高校入学のときだった。在学中、二人は軽音楽部でバンドを組み、それぞれの志望大学に進んでからも付き合いを続けた。そうして、将来の夢を重ねるように二人は教員免許を取り、中深迫は私立高校の教師に、松本は公立中学校の教師になった。「6文字の苗字って、珍しいだろ。だから名前は『トモ』なんてハンパな2文字なんだ」最初の部活動の帰り、中深迫は松本にそう言った。 「驚 [続きを読む]
  • 静かな湖畔の陽の光の下(7/8)
  • キャンプ場の照明が朧気な光を部屋に投げかけている。ベッドの木目模様がかろうじて読み取れる明るさのなか、松本は横たわったまま、携帯電話のメール画面を開き、送信ボックスを確認する。nakafukasako1107@――送信済のメールは同じアドレスが続いていた。アルファベットの「なかふかさこ」は友(トモ)の苗字で、4つの数字は彼の誕生日だ。自分の送ったメールを見ようとボタンに指をかけたとたん、液晶画面が受信を知らせてきた [続きを読む]
  • 静かな湖畔の陽の光の下(6/8)
  • 雲間の太陽が薄い輪郭を見せても、明るい光は[たいよう倶楽部]にまで届かない。6つのタイヤチューブが細かくうねる波を受けながら、6人の体重を浮力で持ち上げている。メンバーの思いとは裏腹に、いっちゃん丸の進みは遅れた。およそ2メートルの間隔だったチャーポ号の背中が遠のき、「オーエス!」の掛け声が速度に反比例していく。松本が振り返ると、真後ろの5班も難航しているようで、前後ふたつのいかだは必要以上の距離 [続きを読む]
  • 静かな湖畔の陽の光の下(6/8)
  • 雲間の太陽が薄い輪郭を見せても、明るい光は[たいよう倶楽部]にまで届かない。6つのタイヤチューブが細かくうねる波を受けながら、6人の体重を浮力で持ち上げている。メンバーの思いとは裏腹に、いっちゃん丸の進みは遅れた。およそ2メートルの間隔だったチャーポ号の背中が遠のき、「オーエス!」の掛け声が速度に反比例していく。松本が振り返ると、真後ろの5班も難航しているようで、前後ふたつのいかだは必要以上の距離 [続きを読む]
  • 静かな湖畔の陽の光の下(5/8)
  • ガガ丸の指揮で、まず、役割を終えたテントの解体を全員で行った。作る・体験する・片づける……野外キャンプはその繰り返しだ。それから、自由時間を30分ほど挟み、「せんせ」であり、「いっちゃん」の松本は、次のプログラムの「いかだ作り」に子供たちと取りかかった。班に配布された「作り方の手順」をもとに、段取りよく指示を与えていく。勤務先の中学校で、松本は黒板に数式を書くばかりで、生徒たちと一緒に汗をかくことは [続きを読む]
  • 静かな湖畔の陽の光の下(4/8)
  • 例年どおり、たいよう倶楽部のキャンプ2日目は山登りだ。全員が朝の8時にキャンプ場を出発し、午後3時に戻るスケジュールになっている。登山と言っても、標高500メートルの山の中腹がゴールで、1年生でも脱落者の出ないコースになっている。出発前に、松本は常備していた頭痛薬をこっそり飲んだ。昨夜は自班の男子3人と寝袋を隣り合わせたが、なかなか寝つけなかった。リーダーが子供より早く眠ってしまうのは問題だ。しかし [続きを読む]
  • 静かな湖畔の陽の光の下(3/9)
  • 方位磁石の動きをチェックし、赤白のフラッグを木の枝に括りつけ、ロープと手書きの標識でコースを作っていく――リーダー8人は、キャンプ最初のプログラムとなるオリエンテーリングの準備を手際よくこなしていった。松本以外は全員が大学生で、如才なく話し、快活に笑う。参加2年目の4人は、もはやボランティアのエキスパートで、敷地内を無駄なく動き、松本ら新人リーダーたちを丁寧にリードした。お互いの年齢やプライベート [続きを読む]
  • 静かな湖畔の陽の光の下(2/8)
  • キャンプ出発の前々日、強い陽射しに体を慣れさせておこうと、松本は自宅のベランダで仰向けになった。30分程度のつもりが、睡魔に襲われ、気づいたときには、肩や腕が軽度の火傷くらいに色を変えていた。そうして、思いがけない眠りは重たい夢を連れてきた。待ちわびたメールを職員室で受信し、午後の授業を放り出して、友(トモ)に会いに行く夢だった。どこかの鍾乳洞に潜む友が、誰にも見つからないように松本と再会した。「イチ [続きを読む]
  • 静かな湖畔の陽の光の下(1/8)
  • 漠然とした不安ーー口からこぼれ出た使い古された言い方を、数学教師の松本は後悔した。恩師の上村(かみむら)は親指で下唇を撫でながら、真っ直ぐな目線で聞いている。都心に近い雑居ビルの5階。教育コンサルタントの看板を掲げた上村の個人事務所で、松本は四人掛けの応接ソファに座っていた。他には誰もいない。教え子をオフィスに呼んだ上村は、用件を普通に切り出すつもりだったが、「調子はどうだ?」というお決まりの挨拶か [続きを読む]
  • 星団(9/9)
  • 笠井が慎重に言葉を紡いでいく。「東さんって、キャッチャーの東さん? あなた、最近会ったの?」香苗は前のめりの気持ちとともに、かつてのチームメイトと再会した元夫に驚きの表情を向けた。東の仕事やフィアンセのことなど、笠井はありのままを伝え、ダンガリーシャツの襟元のボタンを外した。顔が上気し、心拍が高まっている。元の相棒と自分の現在(いま)の生活は、まるで、幸せという名のファールラインの内と外だ。ガラス窓 [続きを読む]
  • 星団(8/9)
  • 興奮した和哉の目線の先に、笠井も「8」のかたちのオリオン座を見つけた。塗料の濃い五つの星が、横一列の星の周りで煌めいている。「この前ね、プラネタリウムに行ったの……ちょうどこんな天体図だったわ」見上げた姿勢で、香苗が息子を代弁した。今日まで何時間もこの店にいたのに、星空を意識しなかったのが笠井には不思議に思え、もしかしたら、どこかの職人が絵を描き加えたのではないかと、ありもしない想像をする。「いろ [続きを読む]
  • 星団(7/9)
  • ●秋の終わり、夜間の放射冷却が心配なくらいに午後の空気が透き通っている。香苗のツイードのジャケットとブルージーンズ、それに少しふっくらした和哉の輪郭が、笠井をほっとさせた。約束の時間より先に着いていた母と子は、多少ぎこちない笑みで父親を迎えたものの、三人の飲み物が揃う頃には、一緒に暮らしていた頃と変わらない空気になっている。再会のための、いつもと同じ時間の同じテーブル。ただ今日は、カフェに面した二 [続きを読む]
  • 星団(6/9)
  • 日曜日の終わりくらいは仕事から逃れたい笠井にとって、ゴルフ場での現地解散はありがたかった。翌日から、また重い一週間が始まるのだ。会社の領収書まかせの贅沢な夕食よりも、ワンコインのコンビニ飯の方がずっといい。中途半端な疲労感が睡眠を拒み、その晩、笠井はシングルベッドで寝返りを繰り返した。10センチほど開けた窓から秋の風が潜り込み、レースのカーテンをわずかに膨らませている。時計のデジタル表示が日付を変え [続きを読む]
  • 星団(5/9)
  • 「野球に興味持たないで、東大出て父親のあとを継げばいいのにな。でも、そのガキがなかなかスジがよくってさ」笠井はテーブルに置かれた東の拳をまじまじと見た。あの頃、ゲームセットのたびに握手したその手は、いつしか、子供や父親という言葉が自然なくらいに大人のものに変わっている。「ステキな話だけど……あなたがその子の本当の父親じゃないのが残念ね」ショートボブに脇腹を小突かれ、東は体を揺らして笑った。店員が三 [続きを読む]
  • 星団(4/9)
  • 学校創立二十年の歴史の浅いチームを甲子園出場まであと一歩に導いたのは、エース笠井と東の存在によるところが大きいが、その礎を築いたのは、県内の強豪校からヘッドハンティングされた指導者だった。子供たちに甲子園を夢見させた男――それが笠井幸司の父である笠井巌だ。たばこを胸前に掲げ、東はかつての相棒に喫煙のサインを送ると、ジャケットのポケットから年季の入ったジッポを取り出し、紫煙をくゆらせた。「コージ、最 [続きを読む]
  • 星団(3/9)
  • 「なんにもならなかったって……あなただけよ、そう思っているのは。大学でも会社でも野球を続けられたじゃない」「他人(ひと)はそう思うだろうけど、結局、才能がなくて、プロに行けなかった落ちこぼれだよ。野球なんてもっと早くやめてればよかった」投げやりな笠井の襟元を見つめながら「自分でそう思うんだったら、しかたないわね」と、香苗は温度の低い言葉を返した。「……ま、元運動選手としての、いまの活躍の場はゴルフか [続きを読む]
  • 星団(2/9)
  • 披露宴で仲人を務めてくれた専務の退職、会社のゴルフ会員権の名義変更――香苗に話すつもりだったことを胸の内に留めて、笠井はおとなしく頷いた。そう、それに、慢性心不全で入院中の父のことも、今日は香苗に話す必要はないだろう。「……だから、この先、幼児教室のある日曜日はダメなのよ。早めに日付けを決めておいたほうがいいわね」言いづらそうに続ける元妻の言葉に、笠井は考えを巡らす。日曜日は月に四回。そのうち二回 [続きを読む]
  • 星団(1/9)
  • どこから迷い込んだのか、ギンガムチェックのテーブルクロスに芥子(けし)粒ほどの虫が留まっている。季節に取り残されたみたいに、クリームソーダの置かれる場所に。ロイヤルミルクティの薄膜を掬ってから、香苗が言葉を重ねていく。「ええっとね、だからね……そういうことなのよ。いまのあなたには理解できないかもしれないけれど」ききわけのない子供を諭すかんじの彼女に対し、笠井幸司は腕組みをほどいて、肘をついた。口をつ [続きを読む]
  • 子供たちが鳴いている(10/10)
  • 「三沢さん、ちょっと待ってください。お話を整理させてください」結論に走る三沢を止めた私は、深呼吸して間を置き、手帳に記した語句を追いかけた。テーブルに置かれた桜色が陽射しを帯び、過去と現在を繋ごうとしている。「……つまり、明け方に……最初に鳴き出す子が、被害者・江坂恵子のお嬢さんだったんですね?」三沢は否定することなく、ライターを弄んだ。カチカチっという金属音が張り詰めた空気の膜を破っていく。「記 [続きを読む]