トオルKOTAK さん プロフィール

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トオルKOTAKさん: トオルKOTAK  短篇小説
ハンドル名トオルKOTAK さん
ブログタイトルトオルKOTAK 短篇小説
ブログURLhttp://s.ameblo.jp/hiroyukifukushima2004/
サイト紹介文短篇小説集。一週間で読みきれる物語を7〜9回くらいに分けてアップ。題名ごとに「1/X」からどうぞ。
自由文都市や地方に住む人々の何気ない日常、普通の生活の中で起こる、数々の物語です。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供114回 / 154日(平均5.2回/週) - 参加 2016/10/24 15:03

トオルKOTAK さんのブログ記事

  • 星団(2/9)
  • 披露宴で仲人を務めてくれた専務の退職、会社のゴルフ会員権の名義変更――香苗に話すつもりだったことを胸の内に留めて、笠井はおとなしく頷いた。そう、それに、慢性心不全で入院中の父のことも、今日は香苗に話す必要はないだろう。「……だから、この先、幼児教室のある日曜日はダメなのよ。早めに日付けを決めておいたほうがいいわね」言いづらそうに続ける元妻の言葉に、笠井は考えを巡らす。日曜日は月に四回。そのうち二回 [続きを読む]
  • 星団(1/9)
  • どこから迷い込んだのか、ギンガムチェックのテーブルクロスに芥子(けし)粒ほどの虫が留まっている。季節に取り残されたみたいに、クリームソーダの置かれる場所に。ロイヤルミルクティの薄膜を掬ってから、香苗が言葉を重ねていく。「ええっとね、だからね……そういうことなのよ。いまのあなたには理解できないかもしれないけれど」ききわけのない子供を諭すかんじの彼女に対し、笠井幸司は腕組みをほどいて、肘をついた。口をつ [続きを読む]
  • 子供たちが鳴いている(10/10)
  • 「三沢さん、ちょっと待ってください。お話を整理させてください」結論に走る三沢を止めた私は、深呼吸して間を置き、手帳に記した語句を追いかけた。テーブルに置かれた桜色が陽射しを帯び、過去と現在を繋ごうとしている。「……つまり、明け方に……最初に鳴き出す子が、被害者・江坂恵子のお嬢さんだったんですね?」三沢は否定することなく、ライターを弄んだ。カチカチっという金属音が張り詰めた空気の膜を破っていく。「記 [続きを読む]
  • 子供たちが鳴いている(9/10)
  • 私は手帳にキーワードだけを書きとめ、両の目と耳を三沢に集中した。「施設で、オレは毎晩泣いてたらしい。いつも明け方に、な。夢を見たり、哀しかったわけじゃない……まぁ、そういう癖がついてたんだろう。小学生だったさつきが、なぜかオレの寝かしつけ役で、ませたガキが親の仕事を手伝うってカンジだった。弟の面倒でもみるつもりだったんだろう」そこまで一気に言って、三沢は窓の外を眺めた。心の奥底に眠っている化石を少 [続きを読む]
  • 子供たちが鳴いている(8/10)
  • 「で、記者さんは、保育園に預けたわけ? その子が何歳か知らないけど」「はい。でも、私はフリーランスなので、職場のある母親より自由度が高かったと思います」「自由度?」「ええ……娘と一緒にいられた時間です。少しでも体の具合が悪ければ休ませたので」過去を脚色なく伝えると、また鳩尾がきりっと痛んだ。胸の高い位置で腕を組む三沢の前で、ガラスから射し込む陽が宙に漂う塵を映した。「仕事は辞めなかったんだ?」「経 [続きを読む]
  • 子供たちが鳴いている(7/10)
  • こちらの挨拶を避けるように三沢が店主を呼び、昨日と同じオーダーをした。「早速、お尋ねしてよろしいですか?」無言の返事で、タバコに火を点す。「三沢さんが、あの事件で田中さつきさんの名前を知ったとき、どんな気持ちになりましたか?」「別になんとも思わなかったよ」「驚きませんでしたか?」「そりゃあ、びっくりしたさ……でも、昨日言ったとおり、田中さつきはオレの恋人じゃないし、そんなに深い付き合いじゃない。あ [続きを読む]
  • 子供たちが鳴いている(6/10)
  • キーボードに触れる前に、週刊誌と新聞記事をスクラップしたファイルを開く。すべて、田中さつきの事件だ。[新宿のマンションで母子の絞殺死体]図書館でコピーした新聞には、ゴシック体の見出しの下に800字ほどの記事がある。報道のわずか二日後、殺害現場のマンションから1キロも離れていない保育施設の経営者が逮捕された。その容疑者が、[無認可保育施設・すたあらいとチルドレン]経営者兼保育士の田中さつきだった。新聞 [続きを読む]
  • 子供たちが鳴いている(5/10)
  • 三沢の言うとおり、控訴人に接見する資格が私にはあるかもしれない。田中さつきと向かい合い、会話を交わせたら、真実に一足飛びで近づけるかもしれない。「本当の血のつながりなんて意味がないからな。いちばん会うべき人間が会えばいい」思いがけない三沢の言葉に、鳩尾がちくりと痛んだ。美花の顔が浮かぶ。笑い顔ではなく、なぜか、泣きべその表情で。「ま、厄介な手続きがあるんだろうな。だから、あんたはオレのところに来た [続きを読む]
  • 子供たちが鳴いている(4/10)
  • 「で、手紙にはなんて書いてあったわけ?」くぐもった声で尋ねてきた三沢に、「犯した罪を償いたい、そう書かれていました」と、私は偽りなく答えた。田中さつきの手紙はいつも便箋一枚ほどで、悔恨の情が繰り返さるばかりだった。彼女が心を開いて長文を連ねたのは、私が別居している娘の話を書いたときだ。「罪を償いたい、か……」三沢は冷笑し、軽くなったカップをソーサーに戻した。陶器同士のぶつかる硬質な音がレコーダーに [続きを読む]
  • 子供たちが鳴いている(3/10)
  • ふいに、テーブルの携帯電話が点滅し、三沢は受信メールを確認すると、10秒もかからないボタン操作で画面を閉じた。細く長い指とメールを打つ速さ――目の前にいる男が、新宿・歌舞伎町のホストだった現実を、私は改めて思い知る。いまは、無造作なヘアスタイルと無頓着な外出着だけど、ダークスーツに身を包んだかつての三沢祐也は、新宿で田中さつきと出会い、特別な関係になったらしい。私はそのことを二人の周辺取材で知り、確 [続きを読む]
  • 子供たちが鳴いている(2/10)
  • 最初の質問を投げかけようとした矢先、太陽が厚い雲に遮られ、いくつかの雨粒がガラス窓に貼り付いた。「にわか雨ではなさそうですね。さっきまで陽射しがあったのに……」「明日の朝まで降るらしいな。あんた、こんな遠くまで来るなら、天気予報くらい聞いてただろ」こちらの言葉に三沢はそう返し、口角を上げた。発声の中に「い」と「え」の曖昧な音を見つけ、私は取材相手の確かな情報をインプットする。きっと、ここ青森が出身 [続きを読む]
  • 子供たちが鳴いている(1/10)
  • ログハウス風のカフェは、ペンションのダイニングルームを広くした感じだった。暖色に彩られた抽象画。奥行きのあるレイアウト。木製テーブルと暖炉。大きなガラス窓が店全体を明るくしているものの、その開放感がなんだか寒々しい。客席にいるのは私だけ。少し離れた場所で、腰下のエプロンを着けた店主がコーヒー豆を挽いている。都会の喧騒とは一生無縁な表情で、こちらの存在を黙殺しているようにも思えてしまう。地方の土地を [続きを読む]
  • 肝油ドロップ(8/8)
  • 西に傾いた陽が窓の明るさを変え始めている。途中一度の休憩を挟んだものの、私の頭はオーバーヒート気味だ。いや、私だけではなく、目薬を差す者、何杯ものコーヒーを飲む者、眼鏡を外して頬を叩く者……高齢な役員たちも限界に近づいた様相で、最年少の神崎だけが溌剌と討議に向き合い、自分のタフさを誇示するように笑顔を振りまいている。「金森くんか……写真と履歴書を見ると、この子はなかなか期待できそうだね」顎をさすり [続きを読む]
  • 肝油ドロップ(7/8)
  • 洋介はミュージシャン気取りでギターを速弾きするジェスチャーをした。私は店員を呼び止め、自分のビールをオーダーした後で、息子にも勧めたが、首を横に振って「水」と応えた。それから、会話が面倒だといったふうに、頬杖をつき、もう一方の手でホッケの頭をつまみ上げる。嫌いな理科の授業で生物観察でも命じられたような仕草だ。「……だったらさぁ、親父の会社に入れてくれよ」突然、上目遣いでふうっとため息をつき、泣きべ [続きを読む]
  • 肝油ドロップ(6/8)
  • 相手チームのエースが、まずひとつ牽制球を見せた。すると、サインミスでもあったのか、サードを守るベテラン野手がピッチャーマウンドに行き、私たちの視界に背を向けて耳打ちした。投手が自分の投球リズムを取り戻す感じでマウンドの土を馴らし、プレー再開。三塁ランナーが、一歩二歩、ベースから離れる。その時。守備に戻った三塁手が左腕を素早く伸ばして、ランナーの腰の辺りにグラブを突き当てた。そして、そのグラブを高く [続きを読む]
  • 肝油ドロップ(5/8)
  • 「澤田君の目は厳しいからなぁ。ま、来週の面接を楽しみにしているよ。じゃ、失礼!」神崎の言葉を苦々しく受け止めて、私は駅の改札を抜けた。二学年下の神崎が入社してきた時のことは記憶に残っている。大きな体を揺らす横柄な態度が鼻についたが、確かに優秀な男だった。しかし、最年少で取締役になり、組織のピラミッドを駆け上がるとは思わなかった。それはそれで構わない。役員となったいま、年長者の私を「君」付けで呼ぶの [続きを読む]
  • 肝油ドロップ(4/8)
  • ■15分間の面接を終え、金森俊太郎は深々とお辞儀して退室した。次の面接者を迎え入れる前に、私は彼の[エントリーシート]に視線を落とす。成人し、こうして就職活動するまでに、あの母親と……家族とどんな時間を過ごしてきたのだろう。友達のおやつをくすねた日のことを憶えているだろうか。三つ子の魂が百までなら、積極性の裏返しである「自己中心的な資質」は変わっていないはず。私の一人息子の洋介がそうであるように、持 [続きを読む]
  • 肝油ドロップ(3/8)
  • ■幼稚園バスの停留所は、私たち家族が住んでいたマンションのエントランス前だった。だから、年長組の洋介はエレベーターを乗り降りするだけで幼稚園に通えたはずだが、「保護者によるバスまでの送り迎え」がルールであり、我が家では母親がその役を担っていた。ところが、2日間だけ、私がピンチヒッターを務めたことがあった。夏休み直前の木曜日と金曜日――妻が虫垂炎で駅2つ離れた病院に入院したためだ。一人っ子の洋介は、 [続きを読む]
  • 肝油ドロップ(2/8)
  • ニュース番組がスポーツコーナーになり、プロ野球のオープン戦を映し出す。私はそれを漫然と眺めながら、金森俊太郎の話を詳しくするべきか迷う。洋介が中学に入学した春に異動してから、私は妻に人事絡みの仕事の話をほとんど振らなくなっていた。長く専業主婦を続ける彼女にとって、殺伐としたビジネス社会や人事ネタは面白くないだろうし、配偶者のみならず、採用案件や公示前の社内人事を口にするのは上場企業の一管理職として [続きを読む]
  • 肝油ドロップ(1/8)
  • 周りに会社の者はいない。大丈夫だ。隠れ家的な珈琲店で、グラスの水で喉を潤してから、私は鞄に忍ばせた応募書類を取り出す。[エントリーシート]には、覚えのある名前があった。あの子だ。洞窟内でカンテラを掲げた程度の照明は読書や仕事に不向きな明るさで、斜め前の席では年齢不詳の男が居眠りをしている。マルボロライトに火を付け、タバコの灰と珈琲の滴に気をつけながら、私は再び目線を落とす。金森俊太郎――住所は、私 [続きを読む]
  • 棘のある動物(8/8)
  • 「……ケン、オレ、やっぱアメリカに戻るわ」おにぎりとサンドイッチを二人でひととおり食べ終えたところで、ジョージがポツリと言った。周囲は会話を邪魔するほど騒がしくなく、孤立させるほど静かでもない。ケンは続きを待つ。「……2ヵ月前にさ、会社が倒産してから、オレは何をしてたと思う?」「倒産だったのか。たしか、航空機メーターを作ってる、でかい会社だよな?」「そう……アメリカの企業だって日本と同じさ。大きく [続きを読む]
  • 棘のある動物(7/8)
  • 「動物園なんて久しぶりだな」ジョージがふぅっと息を吐き出して言った。コンビニの袋を持って、ピンクのフリースに迷彩パンツの出で立ちは、子供にはゲージの中の動物よりも奇妙な生き物に見えるだろう。隣りのケンが、紺のパーカーとチノパンという地味な格好なだけに、すれ違う誰もが一瞥していく。入口近くの売店前にはたくさんのテーブルと椅子が並んでいるが、どこにも空きがなく、朝食抜きの二人は空腹を我慢して、二股に別 [続きを読む]
  • 棘のある動物(6/8)
  • 「……なるほどね」と、マヤがひとりごち、ケンは腕を組んでうつむく。言わんとすることは分かるが、はたして、いまの会社が[ライド]に値する川なのか。ジョージがアメリカの大学進学を決めたとき、ケンはニューハンプシャー州にある、その[ニュー・イングランド・カレッジ]をウェブサイトで検索した。Googleマップの航空写真でカレッジ周辺を見下ろすと、一本の太い川が[つ]のかたちでキャンパスを包んでいた。敷地の南端に [続きを読む]
  • 棘のある動物(5/8)
  • 勘違いを責めてもしかたないが、留守中に二人で酒をしこたま飲んでバカ騒ぎするなんて。自室でコートを脱ぎ捨てると、ケンは思いがけない感情の振幅で目頭を熱くした。親指と人差し指で鼻の付け根を抑える。そのまま寝てしまいたかったが、四畳半のスペースでは横にもなれず、シャワーの音がしたタイミングで、リビングをすり抜けて寝室に向かう。浴室にいたのはジョージの方で、マヤはキッチンで片づけをしていた。ダイニングテー [続きを読む]