タロキチ さん プロフィール

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タロキチさん: 名作長編小説の抜粋編集
ハンドル名タロキチ さん
ブログタイトル名作長編小説の抜粋編集
ブログURLhttp://blog.goo.ne.jp/160abcd
サイト紹介文名作長編小説を抜粋編集し短期間で退屈感なく読み切る機会を提供します
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供117回 / 298日(平均2.7回/週) - 参加 2016/11/26 06:44

タロキチ さんのブログ記事

  • 少年とおじいちゃん<21>最終回
  • 「ねー。僕、休みの日に竜崎のおじいちゃんとこへ通って料理を習いたいんだ。お母さん車で送り迎えしてくれないかなあ」 竜崎家から帰った和彦は晩ごはんを食べながらテーブルの真向かいにいる公子と左隣の雪男に相談を持ち掛けた。「和ちゃん、勝手に決めたって竜崎さんにご迷惑よ」「そりゃそうだ。話が逆じゃないか」 公子に雪男もすぐ同調した。「分かってます。ごはん食べたら、おじいちゃんに電話するんです!」 何事にも [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<22>
  • 竜崎老人が右手で老眼鏡を外した。うつむいた竜崎老人の左ほおに一筋の光ったものが流れるのを和彦は見逃さなかった。「おじいちゃん……」「和くん。仙ちゃん亡くなったよ」「そんなー。せっかく二人が会えると思って僕たち喜んでたのに」老人は便せんを読み終えると四つ折りにして陶器の中に戻した。がっくりと肩を落とし背中が丸まっている。「カズッ、どうしたんだ。不景気な顔して」 食事をしながら便せんを読む老人に注意を [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<20>
  • 竜崎老人が右手で老眼鏡を外した。うつむいた竜崎老人の左ほおに一筋の光ったものが流れるのを和彦は見逃さなかった。「おじいちゃん……」「和くん。仙ちゃん亡くなったよ」「そんなー。せっかく二人が会えると思って僕たち喜んでたのに」老人は便せんを読み終えると四つ折りにして陶器の中に戻した。がっくりと肩を落とし背中が丸まっている。「カズッ、どうしたんだ。不景気な顔して」 食事をしながら便せんを読む老人に注意を [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<19>
  • 「ウーッ、ウーッ。ウワッン、ワンワワーン」 タンがいきなり狂ったように吠え始めた。ガラーッ。玄関の引き戸が勢いよく開けられる音がした。タンは静かになった。「あら、うちの人かしら。それにしても早いわね。よっこらしょっと」 篠田民生委員は勢いをつけるようにして立ち上がり居間の障子を開けた。「竜崎さん!」「えっ、ほんと」 民生委員の素っ頓狂な声に続き居間の七人が腰を浮かせて声を上げた。全員が一斉に立ち上 [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<18>
  • 朝八時に白石家を出た七人が竜崎家の近くにある公民館の駐車場に着いたのは正午前だった。そこには一台の救急車が停まっていた。「おっ、救急車だ。中をのぞいてみようぜ」弘人の誘いに和彦をはじめ子供たちがすりガラスのウインドーの前でぴょんぴょん飛び跳ねた。「何してるの! いけませんよ」救急車を前に物珍しそうにしている子供たちに公子が雷を落とした。「ちぇっ」弘人が公子に聞こえないように舌打ちした。タンを連れた [続きを読む]
  • 広報誌見出しのつけ方<1>
  • 見出しの定義として「記事の要約」というのがよく挙げられますが、実践的には何の役にも立たない定義です。実践的な定義としては「読者があっと驚く文言」というべきでしょう。「記事の要約」とは似て非なる定義です。あっと驚く文言の中身は?具体的新事実 ?非日常的な楽しさ―という2種類です。?はストレートニュース、?は話題もの、というくくりの記事になります。大切なことは、記事にはストレートニュースと話題ものの2種 [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<18>
  • 土曜日の午前。中岳神社から始まる登山道沿いの緩い斜面に立つ二本の杉のうち、上の方にある大木の前にタンを連れた和彦たち七人が集まっていた。中岳からの帰りには正午までに竜崎老人宅に寄ることになっている。老人のたっての頼みだった。今度こそはと誰もが大木の空洞を見つめていた。その大木は幹回りが三?を超え周囲の雑木を圧倒していた。根元には和彦が少しかがめば入れるぐらいの空洞があった。空洞を縁取っている茶褐色 [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<17>
  • 一か月後。四月に入り春休みもあと数日を残すのみとなった。和彦はもうすぐ六年生の新学期を迎える。六年生のクラスは五年生からの持ち上がりで弘人たち団地四人組と同じクラスだ。和彦は春休みに入ってから毎日のように団地の広場でタンと一緒に弘人たちと遊んだ。和彦にはもう孤独の陰はなかった。「ウー、ワワワーン」リビングにある固定電話が鳴ると同時にタンが激しく吠え始めた。昼食を済ませた和彦は公子とともにタンをあや [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<16>
  • 雪男が二時間ほどの事情聴取を終えて佐山署の玄関を出てきたのは午後二時を回っていた。和彦たちは公子が近くのコンビニで買ってきたおにぎりを食べながら乗用車の中で雪男を待っていた。「あなた」「お父さん、大丈夫だった?」「おじさん、もう済んだの?」 車から全員が降りて雪男を出迎えた。誰もが心配そうな顔をしていた。「こちらは何もやましいことしてないからな。竜崎さんとの経緯を話したら納得してくれたよ。警察が竜 [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<15>
  • この駐車場には千台近い収容スペースがあるが、スキーシーズンには収容しきれず、畑中地区に大駐車場が作られた。旅館街の駐車場は通常なら満杯の車でにぎわっているはずだが、和彦たちが目にしたのは冬山登山に来たらしい十数台の車だけだった。「うわー、寒ーっ」 車を降りた弘人が体を縮めた。じっとしていると冷気が身に染みるので車から降りた誰もが足踏みを始めた。「みんな準備はいいね。今年は雪のない参道だから歩きやす [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<14>
  •  三月最初の土曜日早朝。前日の生温かい風がその日は肌に切り込むような寒風に変わり、日本海からやって来る北西の風が美保半島を越え灘水道を渡って内陸の街を吹き抜けた。街から遠望できる中岳にはほとんど白いものは残っていなかった。「白石さーん。おはようございまーす」 チャイムと同時に玄関のドアが開く音がした。大勢の話声が聞こえたかと思うとリビングにいたタンが地団駄を踏んで激しく吠え始め、公子が開けようとし [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<13>
  • 「ただいまあー」 和彦が家に帰ったときはすでに六時を回っており、あたりは暗くなっていた。タンは長距離を歩いてぐったりし、いつもの元気はなかった。和彦のするがままに足を上げ肉球の泥をおとなしくふかせた。「和ちゃん、遅かったわね。少し心配したわ」 公子がエプロンでぬれた手をふきながら出迎えた。「お母さん、頼みがあるんだ」 食堂に入り冷蔵庫から冷水筒を取り出してテーブルについた和彦は、流し台に向かってい [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<12>
  • 「あれは卒業式の日のことだったよ。式を終えて仙吉くんと中岳神社のすぐ上に立ってる杉の大木まで行ったんだ。その根元には大きな穴が開いていてね。そこにある物を埋めたんだ。当時は三月といっても村には一?以上の根雪があって参道を上るのも一苦労だったなあ」「ある物って?」 和彦は身を乗り出した。「二十歳の自分へという二通の手紙を入れた牛乳びんだよ」「へーえ。で、そのびんはどうなったの」 竜崎老人は組んでいた [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<11>
  • 「僕、明日学校から帰ったら、あのおじいちゃんの所へ行ってみようかな。何だか一人暮らしでかわいそう」 その日の晩、出張から帰った雪男と公子と一緒にリビングのソファーに座ってテレビを見ていた和彦が独り言のように言った。佐山の祖父の顔を思い浮かべたが、すぐに祖母の顔も浮かんだ。「佐山のおじいちゃんは、おばあちゃんと一緒で幸せだ。それに比べ竜崎のおじいちゃんはいつも一人ぼっちだ」和彦の胸の中は孤独な老人へ [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<10>
  •  五人は二百?ほど歩いて地図に書いてある家の近くまでやって来た。その家は両側が荒地になっている幅一?の砂利道を今来た道から十?ほど入った所にあった。和彦の家の半分くらいの敷地にこじんまりした平屋が建っていた。納屋を住宅に改造したような家だった。屋根はセメント瓦で黒っぽい板壁は所々がはがれ、窓ガラスのひび割れた部分には白いビニールテープが貼ってあった。庭は丈の短い雑草が荒れ放題だ。玄関の前には屋根ほ [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<9>
  • 日曜日の朝とあって昔ながらの住宅街はしんと静まり返っていた。和彦も弘人も出会った人にチラシを渡そうと思っていたが、道を歩いている人はいなかった。そうかといって民家のチャイムを鳴らすほどの勇気はない。二人とも一時間たって一枚もチラシを渡せなかった。十時を回るとたまに庭先で盆栽や花をいじっている年寄りを見かけた。「あのー。黒い柴犬を捜してるんですけど」 和彦はたばこを吸いながら鉢の手入れをしていた老人 [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<8>
  •  団地四人組との約束の日。和彦と公子は朝食を済ませ、リビングでタンを捜しに行く準備をしていた。時計は八時を回っている。公子が画用紙を名刺大に切り五十枚ほどのチラシを用意し、二人で分担して「黒い柴犬捜しています」というタイトルの呼び掛け文を書いていた。「カズヒコー」 玄関のチャイムが鳴り、弘人の元気な声が聞こえた。和彦が急いで玄関に出ると開け放たれたドアの向こうに弘人たち四人がいた。「弘人くん。実は [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<7>
  • 「カズーッ。カズーッ」 車に積んでいた懐中電灯を手に公子がはあはあ言いながら追いついてきた。「見つからないの?」 公子は中腰になり、両手で抱え込んだ膝に顔をうずめて泣きじゃくる和彦の両肩に手を置いた。和彦は無言でうなずいた。国道の両側はそれぞれ幅五十?ほどが松林になっており、佐山市に向かって右の内陸側は松林が切れたあたりから古い木造住宅が軒を並べている。左側は日本海に向かう松林が終わると砂浜が幅五 [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<6>
  • 翌日の夕方、学校から帰って来た和彦は勢い込んで玄関のドアを開けた。「伏せっ。タンちゃん、伏せは。はい、伏せっ」リビングの方から公子の大きな声がした。「ただいまー。お母さーん。何してるのー」「おかえりー」 いつもは出迎えてくれるのに今日は声だけだった。急いでリビングに行くと公子がタンに伏せを覚えさせるため、ドッグフードを手のひらに載せ特訓している最中だった。「お母さん、ずるーい。僕に内緒でそんなこと [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<5>
  • 「和彦! どうしたの。セーターが血だらけじゃない」 タンのリードを引っ張って玄関のドアを開けた和彦は買い物袋を提げて出ようとした公子と鉢合わせした。公子はセーターの血を見て驚いたが、意外にも和彦の目が生き生きしているのに気づいて次の言葉が出てこなかった。「お母さん、買い物?」 公子をかわして玄関に入った和彦は何事もなかったようにさらりと返した。リードの先にはタンが再び外に出たがって自らの首をぐいぐ [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<4>
  • タンは体全体の九割が黒で鼻ひげの生える部分と四本足の先半分が薄茶色だ。耳の内側とほおから首にかけて、さらに尻尾の裏側と肛門の周囲は白い毛でおおわれていた。胸には蝶が羽を広げたような白くて細長い模様がついている。タンは頭を上下にふりながら和彦をぐいぐい引っ張った。細腕の和彦は右手が抜けるように痛くなった。「タン、もっとゆっくり歩いてよ。僕、疲れちゃうよ」 タンは一度は和彦の方を振り向いてくれたが、そ [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<3>
  • 「和ちゃんどうしたの。ご飯できてるのに部屋に閉じこもったきりで。もう八時なのよ。学校で何かあったの」 ノックして少し開けられたドアの隙間から福々しい色白の顔がのぞいた。机の前に座って突っ伏していた和彦は両手でほおの涙をぬぐいながら振り返った。「和ちゃん、泣いてたの」 公子はドアを開け和彦の前にやって来て、膝をついてかがむと和彦の顔を見上げた。「和ちゃん、やっぱり学校で何かあったのね。何があったか言 [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<2>
  • 「お母さん、何であんなわがままな人と結婚したの。僕、スキー場で一人ぼっちにされたんだよ」 スキーから帰ってきて晩ご飯を食べている和彦は、テーブルをはさんで真向かいに座っている母の公子に甘えた声で尋ねた。雪男は草野球仲間との会合で家にはいなかった。「お父さんったらしょうがないわねえ。お父さんは一人っ子でおばあちゃんに甘やかされて育ったのよ。だから何でも自分中心に考えちゃうの」「ふーん。だったら僕もわ [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<1>
  • 標高千?の中岳スキー場から眺める弓ヶ浜は、眼下に広がる佐山市街地から幅の狭い砂州が日本海を二分するように右方向へ弓なりに曲がっていく。緩めのウエアを着こんだ小柄な小学五年生の和彦は、リフトを降りて初心者コースのスタート地点に立っていた。視線は砂州の先端にある街、灘市に向けられていた。その灘市は和彦の住んでいる街なのだ。弓ヶ浜の向こうには左から右に向かって三百メートル級の山々が細長く連なってくる美保 [続きを読む]
  • 少年とおじいちゃん<1>
  • 標高千?の中岳スキー場から眺める弓ヶ浜は、眼下に広がる佐山市街地から幅の狭い砂州が日本海を二分するように右方向へ弓なりに曲がっていく。緩めのウエアを着こんだ小柄な小学五年生の和彦は、リフトを降りて初心者コースのスタート地点に立っていた。視線は砂州の先端にある街、灘市に向けられていた。その灘市は和彦の住んでいる街なのだ。弓ヶ浜の向こうには左から右に向かって三百メートル級の山々が細長く連なってくる美保 [続きを読む]