森田 享 さん プロフィール

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森田 享さん: 物語作家 小説家 森田 享
ハンドル名森田 享 さん
ブログタイトル物語作家 小説家 森田 享
ブログURLhttp://ameblo.jp/torujiro/
サイト紹介文私の書いた物語や小説、映画原作などを、このブログやアマゾンのkindleストアで発表していきます。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供49回 / 117日(平均2.9回/週) - 参加 2016/12/29 11:56

森田 享 さんのブログ記事

  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その十八)
  •  今、この露姫の影虎に対する心情を、玄有の口から聞いた安明の亡霊は、肉体だけで無く、魂までをも失ってしまったかのようで、ただそこに揺らめいている。「…………」 露姫との睦言を回想して語り終わった玄有は、これを聞いた安明の沈黙が、絶望によるもので有ると推断した。そして、自身の命の存続に一縷の光を見い出して、さらに、熱情を持って語り続けた。「安明、いや影虎よ。露姫にとって、お [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その十七)
  •  午後の陽光が降り注ぐ岩山の頂上を逃げ惑っている玄有の背後に、熊太郎の巨体が迫って来た。「やいっ坊主、往生際が悪いぞ! いい加減に観念しろ!」 濁声を張り上げ、野獣のような敏捷性を見せる熊太郎は、玄有を追い込んで行き、早くも滝壺の真上の崖っぷちにまで追い詰めた。 玄有は、崖の淵に足が掛かると、覚悟を決め、滝壺を背にして熊太郎の方に向き直り、開いた掌を突き出して [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その十六)
  •  今、露姫は、この一瞬の間に、頭の中に明滅した記憶の光景から解放され、意識を再び目の前の現実に集中させようとしている。ちょうど一年前、影虎と離れ、それから、玄有によって、ほとんど幽閉生活に落とされた、その人生の空白期間とも言うべき日々から、急に元の自分自身を取り戻した戸惑いもある。それでも、露姫は、玄有が鶴丸を凝視しながら激しく狼狽しているのを見て、「玄有和尚。影虎 [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その十四)
  •    鶴丸  安明の許に走り寄って来た鶴丸は、円らな瞳で安明の顔を見上げながら助けを求めた。「影虎、何をしている? お前は、いつも姉上を助けるのに」「…………」安明は絶句して、驚愕の表情で鶴丸を見下ろしている。玄有は緊張したまま、安明の亡霊に話し掛けている様子の鶴丸と、安明が居るであろう辺りを注視していた。鶴丸は尚も、安明の顔を見上げながら、今度は命令し始めた。 [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その十三)
  • 本堂の暗闇の中で、仁王立ちの熊太郎。その熊太郎の足下には露姫が蹲っている。玄有は、露姫を見て激しく惑乱していた。 露姫のすぐ近くで、安明は夢見るように、露姫の若々しく艶めかしい容姿を見つめながら、この急展開した目の前の信じられない現実を理解しようと懸命になっている。熊太郎は酒に酔っているので、普段より更に大きな濁声で喚き散らした。「飯を喰い終わって、何か金目の物は無いかと [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その十二)
  • 『梅雨どきの雨が、しとしと降り続いている。じめじめとした本堂の暗闇の中で一人、座禅を組み瞑想している安明。しかし、安明の表情には、孤高ではなく、絶望という現実の色が濃いままで、今その堅く閉じた目から再び、涙が一筋、流れ落ちた。突然、目を見開いて立ち上がった安明は、左足を引き摺りながら本堂の扉を開けると、煙るような霧雨の中へ出て行った。雨に打たれ、全身がずぶ濡れ [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その十一)
  •  昨夏に歩いていた、露姫が待つ寺への帰り道を、影虎は再び歩いている。今は道の両側に、山桜が咲き誇っていた。満開の桜の森の下を、杖を突き、左足を引き摺りながら歩き続ける影虎は、やがて遠方に、桜の舞い散る春の陽に照らされた、見覚えのある岩壁を認めた。影虎は、その岩壁に滝が流れているのを確かめてから、またゆっくりと歩き始めた。 鬱蒼とした森の中の道を歩き抜けた影虎は、木立ちが少な [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その十)
  • 真夏の、ぎらぎらした太陽の光が山々の深い森に乱反射して、緑の大海原のように見え、まさしく一面の樹海である。その奥深く、獣道のようなところを影虎は歩いていた。全身から汗が噴き出し、喉が渇いて仕方がない。影虎は、藪の向こうに岩清水を見つけ、歓喜してその泉へ向かった。泉の澄明な水面の畔に、ほとんど腹這いになり、顔を水中に沈めるようにして水を飲む影虎は、ふと殺気を感じ、上半身を起こした [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その九)
  •    玄有 玄有は動揺しながらも、熊太郎が居なくなった本堂の扉を閉めた。 再び暗く静まり返った本堂の中には、まだ、熊太郎の汗臭い体臭に混じって、女の甘く香るような肌の匂いも漂っている。数人の人間がいるのに、しばらくの間、動くものは、身繕いをする楓だけであった。やがて、安明は跪いて、傍らに立っている鶴丸の顔を覗き込み、「鶴丸さま……。御怪我はありませんか?」と優しく語りかけた [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その八)
  • その時、突然に大きな音と共に勢いよく本堂の扉が開いた。開け放たれた入口から、目の眩むような真夏の強く白い光が飛び込んで来るのと同時に、狂ったように鳴く無数の蝉の声と、滝の水のざわめきも、一気に流れ込んで来る。安明と玄有は、黒い床板の照り返しの光と、耳を塞ぎたくなるような喧騒に、顔をしかめた。扉の向こうの白い光の中には、一人の大男の影が揺れている。「やいっ。邪魔するぞ」 大きな影は、野 [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その七)
  •  影虎と露姫が、滝の横に建つ山寺に来てから数日が経過していた。薄暗い本堂の中で一人、露姫は座して、釈迦観音像を拝んでいる。「…………」露姫の背後の開いたままの扉から、影虎が入って来た。「露姫さま」露姫は振り向き影虎を見て、少し不安感を露わにした。「影虎。どこに居たのですか? あまり私の傍を離れないで下さい」「玄有和尚に墨と筆を借りて、手紙を書いていました。ここから一番近い [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その六)
  • 岩山の頂上まで階段を登り終わった影虎と露姫は、汗を拭うと、頂上の山門を見つめた。その山門は長い間、風雨に晒されて、半分は朽ち果てているかのように古い。岩山の頂上の台地は広大で、その北方は、遠くの峰々に連なって見える。しかし、山寺の荒れ果てた敷地は狭く、左右は森が空を覆っていた。寺の本堂の背後に滝があるようで、そこだけは木が無く、真っ蒼な空が天まで広がっている。影虎と露姫は山門を [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その五)
  • 森の中の道を行く影虎と露姫は、やがて、薄暗い密林の中から、森が途切れ、空が開けているところへ出た。道の横は川原で、渓流が流れている。影虎は足を止めて空を見上げた。森の向こうに巨大な岩山があり、その岩壁に滝が在るのを見つけた影虎は、露姫に遠い眺望を指し示した。「見て下さい。あんなところに滝が流れています」「まあ。この川は、あの滝へと続いているのかしら」「方角からすると、どうもそのようで [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その四)
  •  次の朝、影虎は寝不足の重い体を引きずって、仕方なしに鶴丸の身辺警護の者と一緒に歩いていた。少し離れた池の畔で、鶴丸が遊んでいる。乳母の楓も鶴丸から少し離れていたとき、一人の侍女が鶴丸に近づき、何かを手渡してから引き下がって行った。再び、しばらく一人で遊んでいた鶴丸は、砂利の上に蹲っている。やがて、楓が歩み寄り、すぐに鶴丸の異常に気が付いて悲鳴を上げた。影虎は疾風のように、鶴丸 [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その三)
  • 影虎 『都に戦乱の嵐が吹き荒れる前の、この時は、まだ黒岩家の広大な屋敷内にも麗らかな春の時が流れていた。影虎は、寝殿の客間の隅で、黒岩家の遠い親戚で、長らく疎遠だったのに最近また大殿の勝元に会いに来るようになった惟近(これちか)と言う若者と、勝元の娘、露姫の真昼の面会を見守っている。露姫と惟近は時節の挨拶を終えて、ただ黙って向かい合い座っていた。まだ少女の面影を残す十四歳の [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その二)
  • 今、安明の頭の中には、まさに白昼夢の如き、この惨劇の記憶が渦巻いている。だが、彼には、それが果たして本当に自分の記憶なのかどうか、確信が持てない。まるで、何かの戦記絵巻物を繰り出して見ているかのように、次々と極彩色の光景が、現われては消えてゆくだけで、現実の実体験とは到底、思えないのだった。安明は、その惨劇の中にいる自分は、実際には今と同じで、合戦を見守る僧侶だったに違いない、 [続きを読む]
  • 悲恋怪談『滝壺の底』(その一)
  •    滝壺の底 ――私にとっての恋とは、まさに蕾が花開く瞬間を目の当たりして骨まで魅了され、しかも、それは叶うことのない虚しい片恋に終わり、その少女の淡い面影だけが永久に忘れられぬことであった。    安明(あんみょう) 真夏の太陽が照りつけている。人里から遠く離れた山奥の、深い森の中。聞こえるのは熱気の中で充満するよ [続きを読む]
  • 歴史ミステリーファンタジー小説『日本王國(五)』
  • 熊沢雅宗は全てにおいて絶望することになった。赤松重臣は長期入院し、熊沢雅宗との共同著書の出版は中止となった。さらに、なぜか赤松重臣の妻に代わって、美緒が付きっきりで赤松重臣の看病だけに専念することになったので、熊沢雅宗は、美緒と全く会えなくなってしまったのだ。おそらく、赤松重臣の妻は、夫と美緒の関係に、とっくに気づいていたのだろう。そして、赤松重臣も、熊沢雅宗と美緒との関係に気 [続きを読む]