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本棚のすき間でつかまえて https://tsuccy1209.hatenablog.com/

読書感想ばかりを書いているブログです。

海外翻訳本を好んでよく読みます。科学・物理も時々やります。哲学も少しかじります。

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2017/03/22

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  • トルストイ 「復活」 翻訳:木村浩

    「復活」とは、web辞典を見てみると「死んだものが生き返ること。よみがえること。蘇生」「いったん廃止したものなどを再びもとの状態に戻すこと」他には「キリスト教で、十字架上で死んだイエス・キリストがよみがえったことをいい、キリスト教の最も中心的な信仰内容」などと書いてある。「復活」の意味なんか今更言われるまでもないことだろうけど――、ただ今作で描かれる「復活」の味わい深さは「人生の再生」にその言葉がつかわれていること。昔の自分を捨て去って新しい自分になれたことに対して「復活」という言葉がつかわれていることにある。 今作の主人公はネフリュードフと言い、善良な貴族の青年である。彼はある時に陪審員とし…

  • ポール・オースター「鍵のかかった部屋」 翻訳:柴田元幸

    今作は1986年に出版されたオースターの初期の作品です。「ガラスの街」「幽霊たち」と今作を合わせたものがニューヨーク三部作と言われていて、登場人物こそ違うけどいずれも人を探す(ある意味、自分を探している)という部分で共通している。数年前に「ガラスの街」が柴田元幸さんの翻訳で再出版されているので(以前は「City of glass」というタイトルで角川、講談社より別の翻訳家により出版されていた)三部作はすべてが同じ名翻訳家の表現で楽しむことが出来るようになっています。僕は「好きな作家は?」と聞かれるとオースターの名前はリストに上がってくる。ただオースターは結構読んでいたつもりだったけど、あらため…

  • エイモス・チュツオーラ「ブッシュ・オブ・ゴースト」 翻訳:橋本福夫

    エイモス・チュツオーラ(1920-1997)はナイジェリアの作家であり、代表作「やり酒飲み」はアフリカ的マジックリアリズムとして世界各国で読まれている小説。今作「ブッシュ・オブ・ゴースト」は「やし酒飲み」の次に書かれた作品であり、アメリカのロックバンド「トーキング・ヘッズ」が今作品に感銘を受けて同じタイトルのCDアルバム「ブッシュ・オブ・ゴースト」を作っている、ということで知られている(僕はよく解らないんだけど、とりあえず影響力があったということを伝えたい)。今作は1990年代にちくま文庫で発刊されたものの、今は絶版。チュツオーラ作で一番有名な「やし酒飲み」は岩波文庫で発刊されているので気にな…

  • スティーヴ・エリクソン「アムニジアスコープ」 翻訳:柴田元幸

    タイトル「アムニジアスコープ」、アムニジアとは記憶喪失とか健忘を意味し、スコープは視野とか範囲とか……、あと他には銃器の照準器という意味にも使われる。どの組み合わせが著者の意図したニュアンスに近いのかは解らないけれども、僕個人としては「過ぎ去ってしまい真偽が定かではなくなっていく曖昧な記憶としてでしか過去を留めておくことの出来ない人間が、いざ自らを振り返り、その人生を覗きこもうとしたときに自分の歩んだ道のりの不確かさに愕然とする話」なのだと思った。時が経つにつれて何かが抜け落ちて記憶が曖昧となっていく様を「アムニジア」と表現し、それを今現在にて思い返して(覗きこんで)いる視線を「スコープ」と表…

  • 岩城けい「さようならオレンジ」

    「さよなうなら、オレンジ」を読みました。今作は公募による新人賞である太宰治賞を受賞した岩城けいさんのデビュー作。その後、単行本が筑摩書房より出版されると芥川賞の候補作となり、三島賞の候補作にもなった。この二賞は候補で終わったけれども――、大江健三郎さんによって選考される大江健三郎賞を受賞することとなっている。なので当時(2014年頃)には文学方面でけっこう話題になったような記憶がある。事実、その年の本屋大賞は4位になっているから結構売れたのではなかろうか。 読んでみると今作、日本ではこれまで書かれてこなかったタイプの小説かもしれないと思わされる。舞台はオーストラリア。アフリカから難民としてやっ…

  • プラトン「ラケス」 翻訳:三島輝夫

    プラトン著「ラケス」を読みました。ラケスとはアテナイ(ギリシアの都市)の将軍です。ある時にリュシコマスという人物が息子の教育方針についてラケスとニキアスという二人の将軍に問うんです。「どのように教育を行えば最もすぐれた人物になれるのか?」と。何故そんなことを戦いを専門とする将軍に聞くかと言うと――、リュシコマスは息子に重装武闘術を学ばせようと考えていて、それが有益がどうかを聞きたかったわけなんです。二人の意見は対立し――、ラケスは「そんなものは価値はない!」と言い、臆病者が学んだならば無謀になるだけと説きます。対してニキアスは戦いの際に有利になるし、それを取っ掛かりにして陣形・統帥など他のこと…

  • ボルミル・フラバル「あまりにも騒がしい孤独」 翻訳:石川達夫

    ボフミル・フラバル(1914-1997)はチェコの作家。若かりし頃は共産党の体制下(スターリン主義体制)で自由な出版が許されていなかった。1960年代に入りチェコスロバキアには自由化の兆しが見え始めるが1968年にソビエト軍の侵攻「プラハの春」によって再び出版物には規制がかけられた。フラバルの作品は検閲により満足な出版が出来ぬまま、地下出版や外国への亡命出版社によって刊行がされていたらしい。チェコの作家といえばミラン・クンデラが有名だけれども、クンデラはフランスに亡命しフランス語で作品を書いている。対してチェコで書き続けたフラバルは国内ではクンデラをしのぐ人気があり、世界的にも支持される作家の…

  • チェーホフ「ワーニャ伯父さん」 翻訳:小野理子

    今作「ワーニャ叔父さん」はチェーホフの作品のなかで四大戯曲と呼ばれるもののうちのひとつです。人間の誰しもが感じるであろういかんともしがたい思いを表現した作品。言葉にし難い感情が登場人物たちの心の微妙な動きによって読者に再認識されるというもの。この作品が支持されているということは、みんながそう思っているということだから、このテーマは自分だけの悩みではないことを知ることが出来たというのもひとつの収穫。そして人間とは何故こうも面倒くさいのかに気がつかされる作品。 ワーニャ叔父さんとは40代半ばの中年男性。独身で妻も子もなく田舎の屋敷を守るために働き続けてきた、どちらかというと報われない男です。その屋…

  • サミュエル・ベケット「ゴトーを待ちながら」 翻訳:安堂信也・高橋康也

    これはウラジミールとエストラゴンの二人が、ゴドーという人物が来るのを待つ話。二人はゴトーを待ちながらたわいのない話を繰り返している。舞台は木が一本だけ立っている田舎道。いつまで経ってもゴトーはやって来る様子はない。「立ち去ろうか」「いやゴトーを待たなければ」というやりとりを繰り返し、例えばいざ立ち去ろうと決めたとしても、二人はその場から動かない。これはすべてに何かの寓意が含まれているように思われる話です。けれども一向にそれが何なのかは解らない。とにかく不思議な作品。難しいことは書いていない。読んだ通りに頭のなかで想像が出来るし、そこではちゃんと一本のストーリーを作りあげることが出来る。でも振り…

  • アンドレ・ブルトン「シュルレアリスム宣言 溶ける魚」 翻訳:巖谷國士

    シュルレアリスムの生みの親であるアンドレ・ブルトン(1896-1966)が1924年に起草した今作「シュルレアリスム宣言」。これは新たな芸術、縛りつけられた魂の解放、既存の価値観からの脱却などを求めた宣言だが、この内容は当時の人たちには衝撃をもって受け止められ、議論が生まれ混乱を呼び起こしたようです。今現在を生きる我々にとっては前衛的な作品や魔術的な作品、幻想文学などなど、変革の先に生まれたものがひとつのジャンルとして確立しているのを知っているから、あまり不思議に思わないかもしれないが――、これを読めば間違いなくここら辺(今作辺り)にそれらの源流があることが解る。ブルトンがその後の文学にどのく…

  • ソール・ベロー「犠牲者」 翻訳:大橋吉之輔

    ユダヤ人であるレヴィンサールは、ユダヤ人であるがゆえに世間から偏見を持たれていた。ジュー(ユダヤ人=ジューイッシュの略)と呼ばれ、怒りっぽい、傷つけられると復讐する、金にうるさい、と世間から思われていた。時々「ジューのくせに」と理由もなく揶揄されることがあり、ユダヤ人であるがために何かとおかしな目で見られることがあるとレヴィンサールは感じていた。業界紙の編集として活躍するレヴィンサール。彼は下積みを重ね、これまでに実績を上げてきたこともあり、会社からはいなくてはならない存在として認められている。今現在籍をおいている会社は規模からいって望み通りというわけではない――、しかしその昔、職探しに苦労し…

  • アリス・ウォーカー「カラーパープル」 翻訳:柳沢由美子

    話題になることには、どんな意味があるのか? 黒人女性初のピュリッツァー受賞作品――、そのニュースがアメリカを駆け回った時に著者であるウォーカーは言っている。「黒人であること、女性であることに話題性が生まれる意味は何なのか?」と。というのも今作で描いているのは1900年代前半の黒人女性について。この時期、差別のヒエラルキーでは相当下に位置していた黒人女性を描いた話であり、内容はもちろん差別を問うものになっている。栄誉ある賞を受賞したのが黒人女性――、そこに話題性が生まれるということは「あいかわらず……」とウォーカーは言いたかったのでしょう。今作が描かれたのは1983年なので世間の空気は現在とは違…

  • ロベルト・ボラーニョ「ムッシュー・パン」 翻訳:松本健二

    とある詩人にあてた作品 図書館の新刊本コーナーで見つけた一冊。以前から気になっていたロベルト・ボラーニョが置いてあって……どれどれ、奥付を見てみると……発刊されたばかりではないか! やったー(古典をよく読む僕ですが、実は新しいものが好きなんです)。ということで、かっさらうように借りてきて他の本を押しのけて読んだ一冊。読後の感想はというと……あまりよく解らなかった。難しかったという訳ではない。何かを読み逃したという感じでもない。おおよその筋はつかめたような気はしている。でもこのプロットにして、このオチ……解ると言えば解るけど、そこまでの話ではなかったように思える。今作には「コレだ!」という何かを…

  • J.M.クッツェー「夷荻を待ちながら」 翻訳:土岐恒二

    冒頭のあらすじ 舞台は帝国領の辺境にある、とある城壁都市。主人公はその地で長らく民政官を務めていた初老の「私」。郊外には夷狄と呼ばれる土着の民族――、遊牧民、漁を生業にする種族、なにやら不明な蛮族などなどがいる。とにかく帝国の境目である辺境の地とは、中心都市と違って異文化との接触がすぐそばにあるところ。ある時に中央からひとりの軍人がやってくる。ジョル大佐と言われるその人は「夷狄が帝国に攻め入ろうとしているという情報を得た」という理由から、近辺に出没する夷狄を捕まえはじめる。そして大佐は連行してれきた夷狄に対して取り調べという名のもとの「拷問」をしはじめる。人権などは無視をして、とにかく痛めつけ…

  • プラトン「メノン」 翻訳:藤沢令夫

    徳とは何か? プラトン著「メノン」を読みました。メノンとは人の名前――、彼はゴルギアスという弁論術の大家から教えを受けていて、既に色々と知っているつもりになっている若者です。今作のとっかかりはこう――、メノンがソクラテスに聞くんです。「徳とは人に教えることができるものか? できないならば訓練で身に着けるのか? そうでなければ生まれつきの素質か? それとも他の出どころがあるものか?」と。対してソクラテスは言います。そもそも徳とは何なのか? そして徳についての考察が始まります。徳とは何でしょう? 僕の場合、道徳的なこと、社会的に善であることと言った何だか漠然としたものを思い浮かべます。ただ今作にお…

  • チャールズ・ブコウスキー「パルプ」 翻訳:柴田元幸

    男は「最高!」と言い、女は「最低!」と言う コレクションとして本棚に並べるために買った1冊。以前に図書館で借りて読んだことがあったので、この本は棚へと直行するはずだったのに……、つい1ページ目をパラっと開いたが最後、止まらなくなりました。ということで再読しました。この小説は面白い。というか面白過ぎる。あとがきで「チャールズ・ブコウスキーの遺作にして最高傑作」と書いていたけれども最高かどうかば別として傑作だと思います。 ブコウスキーは50歳から作家業に専念して50作に及ぶ著作を発表しています。短編が味わい深いのでまだブコウスキーを読まれていない方はまず「町でいちばんの美女」(短編集)あたりから入…

  • コ―マック・マッカーシー「チャイルド・オブ・ゴッド」 翻訳:黒原敏行

    文学的に美しく描かれる殺人 今作は1960年代にアメリカで実際に起きた連続殺人事件をモチーフにした作品です。この手の事実を元にした小説はいろいろあると思いますが、僕が読んだ作品のなかでパッと思いだせるのはトゥルーマン・カポーティの「冷血」。マイケル・ギルモアの「心臓を貫かれて」あたり。ちなみにこの2作は徹底した取材によって作りあげられたノンフィクション・ノベル(ちなみに「心臓を貫かれて」に関しては殺人者である兄を実の弟が描くというもの)――、なのでドキュメントタッチであり、真実に則して描こうとする意図を強く感じる作品だったけれども、今作「チャイルド・オブ・ゴッド」は、どちらかというと著者の創作…

  • ホーソーン「緋文字」 翻訳:八木敏雄

    とあるモチーフがある話 古典を読むことの面白さは、時代がかわっても変わらない人間の普遍的な何かに気がつかされるあたりだと思います。今作、出版されたのが1850年ですが――、著者ホーソーンが描いたのは1650年ころのアメリカについて。1650年頃(17世紀半ば)と言えばイギリスからの入植者達がアメリカに根をおろしてから50年程度が経過したころの話になります。今作の構成ですが――、まず現在(19世紀)からスタートして過去(17世紀)を振り返り、また現在(19世紀)に戻ってくるという流れです。というのも冒頭で著者であるホーソーンが、勤めていた税関の二階でホコリを被った「緋文字」の記録を見つけてしまう…

  • イタロ・カルヴィーノ「レ・コスミコミケ」 翻訳:米川良夫

    12編からなる短編集。短編の感想はどう書いたらよいものか……律儀に一遍を読み終えるたびに感想を書いていたら、ずいぶんとボリュームのあるものになってしまった(それでいて1編あたりの書き込みは少ないので内容は中途半端)。短編の感想をどう書くのかは今後の課題とします。とりあえず1編1編で感想を書きましたのでアップします。 【月の距離】これは主人公Qfwfq老人が語る昔話のひとつです。その昔、月と地球の距離がとても近かったころの話。それも一番近づくときには月の引力によって海が満ちて盛り上がり、手を伸ばせば届きそうなくらいにまでに……、と書くと比喩? と思われそうですが、そうではなく、リアルに手が届く位…

  • アーネスト・ヘミングウェイ「老人と海」 翻訳:福田恆存

    とある老人の尊厳の物語 再読です。僕の心のなかにある「いつか読み直したいリスト」の上位にあった今作――、ヘミングウェイと言えば、まっさきに思い浮かぶ今作。人気作家故にいろいろと揶揄されるヘミングウェイですが――、しかしヘミングウェイという名前はもはやアメリカ文学の古典として揺るぎない地位を占め、読んでみればそのふところの広さを味わうことが出来る、まさにアメリカらしいアメリカ文学。 あらためて読んでみての感想ですが、これは尊厳の物語なのだと思いました。八十五日間漁に出て、何も獲ることが出来なかった老人は、腕が衰えもはや漁師としては終わりを向かえたかのように見られていた。これまでずっと老人に付き従…

  • プラトン「ゴルギアス」 翻訳:加来彰俊

    今作のテーマは弁論術について プラトン著「ゴルギアス」を読みました。ゴルギアスとは人の名前――、古代ギリシアにおける弁論術の第一人者です。彼は多くの生徒を教えていて「弁論によっていかに人々を従わせることが出来るか」の技術を磨いていた人物。ということで今作のテーマは「弁論術の本質と是非」が問われる話。プラトンの著作と言えば「知について」「エロスについて」「徳について」「魂の不死について」など、どちらかというと形而上(感性的経験では知り得ないもの)の究極を目指す話が多いのですが、今作は「弁論について」――、なので身近であり少し生々しい内容でした。 弁論術とは何か? まず今作で言う弁論術とは何なのか…

  • オラシオ・カステジャーノス・モヤ「無分別」 翻訳:細野豊

    真実という重み…… 翻訳者によるあとがきを読むと、この作品の持つ重みが変わってくる。この作品の内容はとある男が千百枚にも及ぶ虐殺の記録原稿を整理編集するというもの。その虐殺というのはグアテマラで36年間という長さに及ぶ内戦の中でマヤ族という民族に行われた虐殺。軍がひとつの民族を根絶やしにしようとした事実。記録によると626の村が破壊され、死者・行方不明者は20万人以上。避難民150万人。国外避難民15万人。総人口の1000万人のうち20%が被害者となった――、という事実を元にした話なんです。終結が1996年だから、ついこの間のこと……、さらに辛い事実として虐殺の実行犯たちは今なお権力の座に居座…

  • オルハン・パムク「わたしの名は赤」 翻訳:宮下遼

    わたしの名は赤〔新訳版〕 (上) (ハヤカワepi文庫) 作者: オルハンパムク,Orhan Pamuk,宮下遼 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2012/01/25 メディア: 新書 購入: 3人 クリック: 6回 この商品を含むブログ (18件) を見る 異国情緒あるれる文学 著者、オルハン・パムクはトルコ人作家です。2006年にノーベル賞を受賞しています(トルコ人初)。今作はフランスで最優秀海外文学賞、その他アイルランド、イタリアで文学賞を受賞しているようです。 今作の舞台となるのは16世紀末のイスタンブール。皇帝の命令により秘密裏に細密画が描かれることとなった。しかしその画に関…

  • これまでの感想一覧

    これまでに書いた読書感想記事を一覧にしています。 カテゴリー別にまとめて過去の記事に移行するようにリンク付けしました。 海外文学(翻訳本)が中心です。 もしよければ覗いて見て下さい。

  • トマス・ピンチョン「競売ナンバー49の叫び」 翻訳:志村正雄

    難解と言われるピンチョン。何が解らなかったのか? 2回読みました。それでもしっかりと把握出来た感じはしない。ピンチョンと言えば難解と言われますが、今作はそのなかで一番簡単な作品のようなんです。だけどやっぱり難しい……、たぶん噛みしめながら読んでいけば解るのだとは思います。ただ読者を手こずらせるのは次々と切り替わっていく展開や、何かを暗喩しているのかと思わせるモチーフの数々。思わせぶりな感じ――、このワードが出てきたことにどんな意味があるのか? と深読みしたくなる感じはある(いや、実際に意味があるから奥深い)。描写は限りなく必要最低限。だから主人公の心の機微がどっち側にあるのかがその瞬間には解ら…

  • 辻原登「冬の旅」

    とある日に刑務所から出所した男の行方は? 5年の刑期を終え滋賀刑務所から出所した緒方(主人公)の所持金は17万とわずかだった。大阪の街に戻ってくると辺りを彷徨い、酒を飲んで女を買った。そして博打に手を出してしまうと、わずか3日で金は底をついた。やむなくドヤ街へ行き日雇いの仕事を求め――、腹が減れば公園の炊き出しにあずかった。寝る場所を求めてシェルターへ行き、定員オーバーならば公園で丸まって寝てしまう。どうしようもない男。冒頭では緒方のそんな「今」が語られる。しかし緒方は好きでこうなった訳ではないのである。現在→過去(回想)→現在(その後)という作りの今作。描かれるのは転がり始めて、その勢いを止…

  • モーパッサン「女の一生」 翻訳:新庄嘉章

    箱入り娘がみた夢 自死で生涯を閉じようとしたモーパッサン。今作を読むとモーパッサンが人生というものをどう捉えていたのかが解るような気がする。今作はプロット自体は現在においてはよくあるもので、将来を夢見る娘(箱入り娘)が大人になり現実を知って絶望を味わうというもの。貴族の家に生まれ何不自由ない青春時代を送ったジャンヌ(主人公)の前には輝ける未来があるはずだった。ジャンヌは美少年のジュリアンに出会い恋をした。ゆくゆくそれが実って結婚をして人生のレールを順調に進んでいるはずだった。しかしジュリアンは女癖が悪く、金に執着するケチな男だったことが後から解る。優雅に過ごしていたジャンヌの生活は一変し、貴族…

  • J.M.クッツェー「恥辱」 翻訳:鴻巣友季子

    デヴィッドが捨てたもの 南アフリカのケープタウンで大学教授をやっているデヴィッド。彼は二度の離婚を経験し、今ではもう結婚には興味がなくなっている。性欲は娼婦で満たせばいい……、そんな考えに落ち着いていた。しかしある日にデヴィッドは一人の女生徒に惹かれてしまう。彼は理性的であろうとしながら、結局は女生徒を手籠にしてしまう。その事実は教授と学生という関係上スキャンダルになった。デヴィッドは周囲から叩かれ謝罪を求められた。大学側は体裁があることだから世間が納得するように、どんな形であれ謝罪してくれとデヴィッドに頼んでくる――、そうすればこの先も大学に席を置いてやると、なかば脅しをかけてくるのである。…

  • プラトン「パイドン」 翻訳:岩田靖夫

    プラトン(紀元前427-紀元前347)著「パイドン」を読みました。今作のジャンルは哲学です。さて、どう感想を書いたものやら……、というのが率直な今の気持ちです。僕は哲学に関して知識はありませんので「何がどうだ」と書けるわけではありません。今作を読み終えた今、思い返してみてもこの本に何が書かれていたのか具体的には言えません。なんとなく解ったような気にはなったのですが正確なアウトプットなんてとても無理です。なのでこれはド素人がプラトンの著作を読んでとりあえず何かを書こうと試みたフワフワでスカスカの感想だと思っていただけるとありがたいです。以下感想です。 死刑を宣告されたソクラテスにとっての最後の日…

  • アンドレ・ブルトン「ナジャ」 翻訳:巖谷國士

    美を追求する姿勢 ひらめき、勘、直観、予感、第六感、etc…… ある時にふと、自分の行動はそんなものに導かれているのではないか? と感じてしまうことは誰にでもあるのだと思う。著者アンドレ・ブルトンはシュルレアリスムという思想の生みの親のようだが、新しい芸術の方向性としてただの現実ではなく、もっとこうひらめき的な現実(我々が現実と思っているものよりも、もう一段階上にある現実)を重視しようとしていたようです。言葉が未熟でごめんなさい。ここら辺は詳しい人におまかせします。 ブルトンの本当に求めたシュルレアリスムの形とは「一切か、無か」という究極のものだったようです。その意味では、この本はどちらでもな…

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