さりさりにゃーま さん プロフィール

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さりさりにゃーまさん: 南半球ねことうさぎ座
ハンドル名さりさりにゃーま さん
ブログタイトル南半球ねことうさぎ座
ブログURLhttp://nekorabisauth.blogspot.jp/
サイト紹介文幻想系オリジナル創作サイト
自由文短めの幻想系作品を載せています。隙間時間や気分転換にどうぞ。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供24回 / 174日(平均1.0回/週) - 参加 2017/03/24 10:44

さりさりにゃーま さんのブログ記事

  • 過去の記事 …
  • ゆりかご・9(完) 
  •  手紙と紙の束を抱えて居間に戻った。雪はいつのまにか本降りになっていた。今日は家に戻れそうになかった。 心の中でドゥーマさんに断りながら、キッチンでコーヒーを淹れた。棚に、ビスケットの袋とパンと、乾きかけたチーズがあった。ルウに水をあげ、パンとチーズを分け合って食べた。 それからソファに座って、ドゥーマさんが残した原稿を読みはじめた。一枚読むごとに、目の前のストーブに紙をくべた。紙は端から黒く染ま [続きを読む]
  • ゆりかご・8
  • その日は特に寒かった。 昨夜張った氷が、そのまま道を、野を、黒い畑を覆っていた。遠い丘の上で、葉を落とした樹が墨色の枝を差し上げていた。空には雲が青黒く垂れ込めていた。 ドゥーマさんに手伝ってもらって、先週ストーブを出したばかりだった。まるまる七カ月眠っていた真鍮のストーブには、白い埃がびっしりこびりついていた。ルシアさんが磨き上げたストーブにドゥーマさんが火を入れて、わたしが上にやかんを乗せた。 [続きを読む]
  • ゆりかご・7
  •  わたしはルシアさんのカフェに通うようになった。 朝起きると家の掃除と洗濯をして、母がまだ寝ていれば朝食の支度をする。前の日糊付けをしたエプロン二枚を、玄関にあった肩掛け鞄に詰めて、髪を後ろでお団子にして、ブーツの紐をきゅっと結わえて家を出る。 時折メモを取りながら、でこぼこだらけの田舎道を歩く。明るい緑に塗られた屋根。枝の間にはためくリネン。どこかでクッキーを焼く匂いがする。父の形見の肩掛け袋は [続きを読む]
  • ゆりかご・6
  •  カフェは、橋を渡ったすぐ右手に建っていた。わたしたちが落とした小枝の音さえ聞こえそうなところだ。古い民家をそのまま店にしたのだと、父から聞いたことがある。石と漆喰を組み合わせた天井のない切り妻屋根の家は、もう作り手がいなかった。村の人たちは気軽に使っているけれど、実は貴重なカフェなのだった。 ドゥーマさんはルウを入り口の柵に繋ぎ、ポケットからなにか出して食べさせてから、伏せてあったお皿に川の水を [続きを読む]
  • ゆりかご・5
  •  父の墓は、墓地の東の端にあった。うす紫がかった、白い、滑らかな石だ。巻き雲に似た濃い青の筋が一面に入っていた。細いオベリスクに挟まれた横長の石塔は、鏡にも、タイプライターにも、別の世界への扉にも見えた。 花が一束供えられていた。この季節、森によく咲いている花だ。ドゥーマさんが来たのかもしれない。 ドゥーマさんも今までと変わらず、森のあの家に住んでいた。最近は茶色い犬を飼いだして、よく村を散歩して [続きを読む]
  • ゆりかご・4
  •  短い間に、あらゆるものが嵐のようにやってきて、去った。 それからどうにか日常が戻ってきた。わたしたちは今の家に住み続けることになった。地代や父の印税や、事故の慰謝料や見舞金のおかげで、暮らしには困らない。ただ、父だけがいなかった。 書斎の扉は締め切られた。読みさしの本のしおりは挟まれたまま、黒檀色のカップは最後に洗われたままになっていた。父が庭に植えた薔薇や水仙やルピナスは、少しずつ雑草と混じり [続きを読む]
  • ゆりかご・3
  •  だけど、わたしは一度も父と一緒にドゥーマさんの家には行かなかった。ドゥーマさんも、父に原稿を見てもらうことは一度もなかった。 森に行ってからすぐ、父は仕事が忙しくなった。朝も昼も夕も、食卓に父の姿はなかった。夜中に起きるとタイプの音が心地よく響いていた。 母は父のぶんの食事を書斎に運んだ。大きなトレイに一口大のサンドイッチやサラダを盛りつける母は、いつもより幸せそうに見えた。 それから父は、これ [続きを読む]
  • ゆりかご・2
  •  翌日の朝、父とドゥーマさんは村の南の森に出掛けた。わたしもねだって、ついて行った。胃袋には朝ごはんが、父の肩掛け袋には、冷たいお茶とサンドイッチが入っていた。森のこの辺りに入るのも、午前中森に来るのも初めてだった。 時々人を入れていたから、道は歩きやすかった。澄んだ光がいく筋も、深く斜めに差していた。並び立つ樹の幹に淡い木漏れ日が映り、下生えの上に薄い樹の影が落ちた。風が起こると、まだ夜の涼しさ [続きを読む]
  • ゆりかご・1
  •  そのひとは、犬と一緒に南の森に棲んでいた。 肩幅の広いひげもじゃの男性と、小さな短毛の犬だった。髭も犬もグレイがかった栗色をしていた。 母方のご先祖が受け継いできた南の森は、わたしの部屋からよく見えた。眠れない夜、読書の合間に窓の外へと眼をやると、満点の星の下、影絵のような森の中にぽつんと光がともっていた。風のない午後、洗濯物を取り入れていると、はしゃぐような犬の声が聞こえてきた。 男性は、載せ [続きを読む]
  • 誕生石
  •  夏休みだった。 空は青く輝いていた。山の向こうに真っ白い入道雲が立ち上がっていた。道端のひまわりが花びらの色を競っていた。 その日は補習授業があった。居間のテレビのにずらりと並ぶ晴れマークを眼にするまで、なぜかすっかり忘れていた。泡も立てずに顔だけ洗って家を出て、いつもより軽い鞄を手に田舎道を駆けた。どうにか間に合ったバスの中で、だるそうなクラスメイトとおしゃべりをした。「なんだ、Eは休みか」  [続きを読む]
  • さかなのゆめ
  •  わたしはさかなだったことがある。さかなだった頃の記憶というか、感覚のようなものがある。 昔々、1000年前、100年前、昨日、昨夜、とにかくいつか、わたしには背びれと鰓があった。細い身体をしなやかに波うたせて泳いだ。暗い、静かな海だ。青白い光を灯したさかなの群れが、遠いところを横切って行く。長い鰭が底に触れると、一瞬白い砂が舞う。 だから、わたしは泳ぐのが好きだ。広々とした明るいプールの、なるべく人の [続きを読む]
  • お母さんの人形
  • お母さんについて真っ先に思い出すのは、丸い虹色の敷物の上に座って、カナリヤに絵本を読んであげている姿だ。 淡い金色のカナリヤは、銀の籠の中に吊られたブランコに留まっていた。部屋の窓には唐草模様の細い格子がはまっていた。お母さんのうたうようなの声は、カナリヤの囀りと競っているように見えた。 だからわたしは、普通のお母さんというものが、よく分からない。 普通のお母さんは、朝になると子どもを起こしてくれ [続きを読む]
  • お盆休み
  •  夏だった。朝、山の上に立ち上がっていた入道雲は、風に流れて崩れていた。 ニュースはここ数日、海の向こうの小さな国の、いくつもの肩書を連ねた偉い人の、厳めしい発言について伝えていた。テレビの中では丸く膨れた顔をした男性が、今にも世界を滅ぼしそうな勢いで腕を振り上げていた。 ひまわりや風鈴や線香花火と同じ、夏の風物詩のようなものだった。いつもと同じ夏だった。向かいの雑貨屋の入り口に、花火大会のポスタ [続きを読む]
  • 緑の蝶
  •  村の外れに塔があった。深い緑に覆われた、崩れかけの塔だった。 元は大きなお屋敷だった。磨き抜かれた無数の窓が庭を見下ろす母屋と、海の向こうからきた花ばかりが咲き乱れる庭園と、うすむらさきの薔薇に護られた四阿があった。丸い塔は、オパール色の尖塔を空高くきらめかせていた。 塔の上には小さな見晴らし窓があった。十二星座に飾られた遠見鏡を覗くと、隣の街の役場の旗の房がひとつ、ちぎれているのがはっき [続きを読む]
  • なみだ
  •  夏の日の夕方、人形を拾った。今どき珍しい手作りの布人形だった。花柄のワンピースの上に真っ白いエプロンをつけて、毛糸の髪はきれいなおさげに編まれていた。 公園のベンチに座らされていたから、捨てられたのではなくて、忘れものだったのかもしれない。それでも拾ってきたのは、夕立ちが来そうだったからだ。 部屋に持ち帰ると、わたしは人形を棚の上に置いた。クッションに座ってテーブルに肘をつくと、人形のボタンの眼 [続きを読む]
  • 花吐き病
  • わたしのいちばん最初の記憶は、丘の上に立つ大きな桜の木と、その下に佇む女の人だ。色白で髪の長い、たぶんきれいな人。顔はよく見えない。真っ白なワンピースを着て、やっぱり白いつば広の帽子をかぶっている。風が吹く。さあっと桜の樹が揺れる、花びらが一面に舞う。女の人の髪がも風に流れる。花びらが帽子を飛ばす。でも、女の人は帽子を取り戻そうとしない。あの丘の上でずっと誰かを待っているのだ。そのひとは、親戚のお [続きを読む]
  • 空の綿あめ
  • 『綿あめ』『慈愛』『雨』女の子が綿あめを持っている。水色のワンピースを着たおかっぱの女の子だ。夏だった。女の子は、お父さんとお母さんに連れられてお祭りに来ていた。生まれて初めて見る夜店に、女の子は夢中になった。屋台をめぐってはねるように女の子は歩いた。流星で飾られたお面、月虹のかき氷、三日月から絞ったジュース。女の子はこんぺいとうをまぶしたパンケーキを食べたくなった。ねえ、あれ買って、と振り向くと [続きを読む]
  • うさぎ・1
  •  わたしは小さなうさぎだった。茶色い耳は少し短く、眼は野いちごにそっくりだった。 打ち捨てられた庭園の、薔薇の木陰に置かれた檻で、わたしはずっと暮らしていた。敷きつめられた干し草は、食事に、おもちゃに、ベッドになった。昼には咲いてゆく薔薇を、夜には流れる星をかぞえた。緑に、月に、ひだまりに、夜明けの霧に守られて、わたしはいつも幸せだった。 花粉を抱いたミツバチがけだるそうに唸りながら、花から花へと [続きを読む]
  • かえり道
  •  世界が終わる半月前に、忘れな草の指輪を失くした。 星の形の小さな花をふたつ連ねた指輪だった。うす水色とうす紫のガラスを彫った花びらに、白と黄色のクラウン形の陶器の芯がついていた。 合板製の棚の上にも、スチール机の引き出しの仕切りの中にも見当たらなかった。 あの日の午後、お茶の支度をするときに外したことは覚えていた。首を回せばすぐに眼につく場所だった。忙しいから後で取ろうと考えた。毎日目にする場所 [続きを読む]
  • 図書館のひと
  •  その日最後の授業が終わった。耳慣れたチャイムを聞き流しながら、ノートと教科書を鞄に詰めて教室を出た。 藍鼠色の影の落ちるひんやりとした玄関で靴に履き替え、重たいガラス扉を開けた。 ぱっとまばゆい光が差した。 白線の引かれたグラウンドでは、大人じみた体格の女子や、夏の日焼けをくっきり残したランニング姿の男子が、笛に合わせて並んだり、体操をしたり、まっすぐに駆けたりしていた。体育館の方からは激しくボ [続きを読む]
  • おしまいの庭
  •  おしまいのときがやってきた。 いつかこの日が来ることを、そう遠いときではないことを、誰もが薄々感じていた。だから世界は穏やかだった。 まだはっきりとした気配はなかった。世界はこのまま続いてゆくようにも思えた。けれども、時間の果ての砂州を洗う透明な波音を、みなはたしかに感じていた。誰もが耳を傾けていた。だから世界は静かだった。 家具調のテレビは、灰色の鏡面にお茶菓子を映していた。箪笥の上の丸いラジ [続きを読む]
  • 南(0号)
  •  これは、わたしが交通事故による重傷で入院していたときに繰り返し見た夢を基にしています。 夢の中のわたしは、南の島で学校のお手伝いさんのような仕事をしていました。†††  碧めいたうす暗がりの中にいる。 部屋の中だ。丸い、広い、暗い部屋だ。ドーム形の天井は闇に沈んでよく見えない。 あちこちに切られた、丸や四角や三角の窓に嵌められた硝子は、ラムネ瓶の底のように厚い。硝子越しに差す翡翠や瑠璃や葡萄石の [続きを読む]
  • 楽園のうさぎ
  •  牢獄めいた、宮殿めいた、公園めいた門の向こうに、月に映える花ばかりを集めた庭があった。 鉛色の唐草細工の間から、月見草が、忘れな草が、スズランが、ひんやりとしたアスファルト道路に打ち寄せていた。闇より黒くねじれた巨木は、老婆のように俯いて、垂らした髪に、薄紫の花びらをちりばめていた。 その、黄昏の指先めいたひとひらがちょうど降りかかるところに、小さな家が建っていた。 寄り添うようにして並ぶ貝で葺 [続きを読む]
  • わたしは昔うさぎだった。うさぎだったわたしは、小さな檻で飼われていた。檻は真鍮のつるばらで飾られていて、両開きの扉には鍵がかかるようになっていた。わたしの飼い主は、青白い目をした金髪の女の子だった。朝と昼と夕方に、女の子はわたしを檻から出して、いい臭いのする乾いた草を食べさせてくれた。お天気のいい日の昼下がりには、わたしたちは、絨毯を敷きつめた硝子張りの部屋で一緒に遊んだ。かけっこやかくれんぼやと [続きを読む]
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