ウイルソン 金井の小説 さん プロフィール

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ウイルソン 金井の小説さん: ウイルソン 金井の小説
ハンドル名ウイルソン 金井の小説 さん
ブログタイトルウイルソン 金井の小説
ブログURLhttps://wilson-t-kanai.muragon.com/
サイト紹介文創作小説を紹介
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供37回 / 83日(平均3.1回/週) - 参加 2017/07/04 16:28

ウイルソン 金井の小説 さんのブログ記事

  • 青き残月(老少不定)  Ⅱ
  •  その翌日。二校時終了を知らせるチャイムが鳴り、私が職員室から廊下へ出ると体育着の松原君と出会った。手には体育館用シューズをぶら下げている。 「おはよう、松原君」 「・・・」  彼は私の顔を白目で見る。無言のまま行ってしまった。 「随分、機嫌が悪いようだな」  仕方なく反対方向の廊下を行く。数歩行くと、咄嗟に思い出した。 「あっ、そうか。松原君でなく、ひろちゃんか・・。まずいことを言ってしまったな [続きを読む]
  • 青き残月(老少不定) Ⅰ
  •  鮮やかな青葉に囲まれた校庭は、透き通る陽の光に照らされている。本校舎から東校舎への渡り廊下を歩きながら、私はその風景を眺めた。  東校舎に入ると、冷ややかな空気がそっと顔を撫でた。突き当りの第二理科室から、生徒たちのささめきが聞こえる。静かに階段を上がる。三階の踊り場の窓。そこから眺める景色が、私は好きであった。  青々とした麦畑、その向こうに葉桜の古木に囲まれた小さな墳墓の丘。五月の清々しい風 [続きを読む]
  • 浸潤の香気(大河内晋介シリーズⅢ )完
  • 「えっ、前にも?」 「冷静になれ、君も見えるはずだ。あの時、千代が能力を与えた・・」  若月は目を閉じ、気持ちを穏やかにする。 「あっ、確かに見えます。前の人からは、鋭さを感じない」  電車が停まった。いつも通り最後に降りる。改札口を抜け駅前に出た。ポツリポツリと雨が落ちて来たので、ふたりは早足で家路に向かう。家に着くと、すべての明かりを点けた。  若月に夜食を任せている間、私は沈香を焚いた。香り [続きを読む]
  • 浸潤の香気(大河内晋介シリーズ Ⅲ)Ⅷ
  •  帰路の車中で、用心を怠らないよう若月に話して聞かせた。 「若月よ。恐らく、この一週間に大変な体験をすると思う」 「な、な、なんですか? 大変な体験って?」 「うん、権助やその仲間の邪鬼が襲うかもしれん」  彼はマジに恐怖を感じたらしい。 「え〜、本当に襲ってきますかぁ〜?」 「ああ、必ず襲ってくる。だから、匂い袋は肌身離さずに持て! それに、般若心経を覚えて、とっさに唱える準備を・・」 「全部で [続きを読む]
  • 浸潤の香気(大河内晋介シリーズ Ⅲ)Ⅶ
  • 「いや〜ぁ、なんと心を魅了する香り!」 「そうでしょう。この香りを知って、私も虜になってしまった」  テーブルの上には、多様な形や大きさの沈香が並べられた。 「これだけ集めるには、苦労されたでしょう」  祖父は嬉しそうに、収集した経緯を事細かに説明した。横で聞いていた若月が立ち上がり、祖父の書棚から古い小冊子を見つけ手に取って読む。 「ジイ、この本を貸してね」 「ああ、いいけど。何か載っていたかい [続きを読む]
  • 浸潤の香気(大河内晋介シリーズ Ⅲ)Ⅵ
  • 「陛下が皇霊殿の儀式に、特別な伽羅を使いたいと所望された。困った宮廷は苦肉の策に、正倉院の伽羅を密かに削り取ることを考え、私に内命したの。以前、豊臣秀吉も削ったらしいわ。ところが・・」  彼女は、心の底から悔しさと悲しみを露わにした。 「ところが、下級官人の舎人(とねり)の権助が、幕府の役人に密告したの。私は捕らえられ、黙秘を続ける私に拷問が宣告された。当時の女性への拷問は、卑劣で屈辱的な内容だっ [続きを読む]
  • 浸潤の香気 (大河内晋介シリーズⅢ)Ⅴ
  •  千代は話し終えると、私ひとりで来るよう手招きした。 「若月、絶対に境界線内へ足を踏み入れるなよ」  彼は渋々と頷いた。私が千代の傍らへ行くと、千代は私を紹介する。 「この人が、例の大河内晋介さんです」  目の前の端麗な女性から、ただならぬ気品を感じた。私は自然に頭を下げてしまった。 「千代のため・・、世話を掛けるが・・、よしなに・・、頼み入る」  心地よい声が耳に響く。不思議な声だと思った。 「 [続きを読む]
  • 浸潤の香気 (大河内晋介シリーズⅢ)Ⅳ
  •  レールの車輪と車両の軋む音が、頭の中にギシギシと響く。 「主任、降りるのは次の駅ですよね」 「うん・・」  私は前を見据えたまま、気のない返事をした。 「まだ現れませんか?」  若月は空いた車両の中を見回す。 「いや、もう居るよ」 「えっ!」  彼は驚いて目を見開き、私にそっと耳打ちする。 「ど・・、どこですか?」 「反対側の席に座っている」 「誰も座っていません・・」  浅黄染めの和服が似合う [続きを読む]
  • 浸潤の香気 (大河内晋介シリーズⅢ)Ⅲ
  • 「もう時間がない。今日は、これまでね。沈香(じんこう)の話は、次の金曜日にするわ」 《もう時間が無いって! またかよ〜。いいさ、もう慣れっこだぁ》 「ん、ところで沈香って? あっ!」  一瞬の光が私を襲い、目の前が見えなくなった。しばらくして、慣れた目に元の駅前が戻る。心身に疲れを感じた。  次の金曜日までに、千代が話そうとした沈香のことを調べる。沈香は香木の意味であった。沈香の歴史は古く、六世紀 [続きを読む]
  • 浸潤の香気 (大河内晋介シリーズⅢ)Ⅱ
  •  ドアーが開き外の風が舞い込んできたが、その香りは私の鼻腔に残った。  彼女が車両から降りる。私も続いて降りた。プラットホームには彼女と私だけであった。改札口を通り抜け、静かな駅前に出たが私は困惑した。 「はて、ここはどこだ・・」  見た事も無い駅前の景色に、唖然とする。眼前に広がる殺風景な荒れ野。奇抜な岩山が幾つか見え、空は薄紫のどんよりとした雲に覆われていた。  私は振り向き、降りた駅名を確か [続きを読む]
  • 浸潤の香気 (大河内晋介シリーズ Ⅲ)Ⅰ
  •  週末の金曜日、残業で帰りが遅くなる。終電のひとつ前の電車に乗ることができた。ほとんどの乗客が座席に着くなり、疲れた体を座席の背に投げ出す。そして、目を閉じ思い思いに自分の殻の中へ没入した。  乗客同士は肩を寄せ合うが、互いに無関心を装う。小さな車両は不思議な空間に変わる。私は、いつも孤独を意識してしまう。電車が動き出すまで、目を瞑り一日の出来事を振り返ることにした。  終着駅のふたつ手前が、私の [続きを読む]
  • 冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ) 完
  •  《この絵図では、八重さんはお守りの赤い箱を持っていない。その箱を邪鬼同士が奪い合う隙に、川を渡っているのだ》  私が思ったことを伝えると、福沢准教授は頷く。 「そうですね。邪鬼が赤い小箱を夢中で取り合っている。これがお守りの使い方かも・・、しれませんね」 「そうでしょう? おそらく、邪鬼は赤い物を好む。だから、それを利用した」 「そうじゃ、確か・・、あの子は赤の服装を好んで着ていたようだ」 「え [続きを読む]
  • 冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅶ
  •  私たちは佐渡へ渡る前に、岬を訪れた。岬の上に立つふたりは、それぞれの思いでお堂を見詰める。私が夏の日差しに映える海を眺めているとき、福沢准教授はお堂に向かって独り呟いていた。海風が彼の声を遮る。 《彼は何を話しかけているんだろう》  彼が肩に掛けていたバックから、私が返したあの赤い小箱を取り出し、お堂の前にそーっと置いた。 「福沢先生、その箱をどうなさるつもりですか?」 「はい、ここに置いてゆこ [続きを読む]
  • 冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅵ
  • 「赦免されたお坊さんがお堂を建てたときにじゃ、扉の秘密を許婚の八重に知らせよった。初秋の一週間だけ漁師の雄太と会える。が、必ず約束を守るよう言い聞かせた。扉の向こうは現世ではない。だから、この世の者が足を踏み入れてはいけないのだ。踏み入れば、生死の条理をから外れ、現世に戻れなくなってしまう。  じゃがな、一度だけ助かる方法を教えた。それは、お盆の精霊迎え舟と送り舟の麦わらの燃えさしを、目印の赤い小 [続きを読む]
  • 冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅴ
  •  その夜に、東京の福沢准教授に電話した。紗理奈の親せきが見つかり、岩崎翁との対話をかいつまんで報告する。 「良かった! 紗理奈の行動が見えてきましたね。その、岩崎家に伝わる話を早く知りたい。紗理奈が、許婚か漁師のどちらかに繋がる訳だ。意外な展開になりましたね」 「ええ、興味深い内容です。ただ、問題は・・、突然に消息不明となり、一年後に死体が発見されたことです」 「もちろん、その謎が解明されないと・ [続きを読む]
  • 冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅳ
  •  私は冬の寒さに弱い。日本海の厳しい寒さを想像するだけでも、体が凍え行動を鈍らせる。冬の間は、佐渡に関する資料を集め、紗理奈が求めていたものを調べた。気になるものが見つかると、福沢准教授に電話して意見を交わす。  佐渡に遅い春が訪れた。初秋まで五ヶ月、なんとしてもヒントを得たいと思った。私は新幹線で新潟へ行き、新潟港から佐渡の両津港までジェットフォイル(すいせい)に乗り一時間ほどで到着した。  レ [続きを読む]
  • 冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅲ
  •  背中に悪寒が走り、伝説を肌で感じた。 《一年後に訪れ、確かめることにしよう》  再度、お堂に手を合わせると、その場を立ち去った。東京に戻り、ネットで地方紙に関連記事がないか検索する。やはり、小さな記事が載っていた。  十五年前、岬の伝説に魅せられた若い女性が、お堂の前から姿を消した。当初は、投身自殺の疑いで地元警察が捜索するも、岬一帯からは何も発見できず捜査が打ち切られた。その一年後の初秋に、お [続きを読む]
  • 冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅱ
  • 「待って、紗理奈さん待って!」 《時間がないって、どうしてなんだろう?》  私は後を追いかけた。岬の上に来たが、彼女の姿が見当たらない。古くこぢんまりしたお堂が建っているだけだ。反対側の道に降りた気配がない。 《これは、どういうことだ。確かにこの岬へ上がったはずだが・・》  しかたなく、私は浜辺に戻った。約束の仕事があるので、昼食を済ませ東京へ帰ることにした。新幹線に乗っている間、彼女の様子を思い [続きを読む]
  • 冥府の約束 (大河内晋介シリーズⅡ)Ⅰ
  •  真夏の青い海原と白い砂浜。海辺の心地よい潮鳴りに耳を済ませ、寡黙なふたりは手を繋ぎ歩いた。時折、数羽の海猫が煩わしく鳴き騒ぐ。波際の砂浜には、独りの足跡だけが残っている。砂浜の先に小高い岬が海へ突き出ていた。ふたりはゆったりと登る。岬の上は爽やかな風が吹き、ふたりを先端へ誘う。  ふたりが出会ったのは、昨年の初秋であった。声を掛けたのは彼女が先である。 「気持ちのいい風ね?」  スーッと横に座っ [続きを読む]
  • 雨宿り  完
  • 【最後の手紙を美佐江さんに捧げる。  私は、これからお国のために戦地へ行きます。決して戻れるとは思っていません。  あの雨の夜に、初めて貴女にお会いできたことは、偶然ではなく運命であると信じて  います。この世に生まれ、初めて経験する異性への思慕。これほど素晴らしい感情を、私に芽生えさせたのは貴女でした。  雨の晩は、貴女に会える喜びに我を忘れ、逸る心を抑え民家の軒先で待ちました。いつしか、雨の日 [続きを読む]
  • 雨宿り  Ⅴ
  •  窓から心地よい風が吹き込む。ソファに寛ぎテレビを見ていたが、睡魔に襲われ瞼が重くなってきた。  誰かが私を呼ぶ。その声に反応して、私は目を開けた。目の前に和服姿の美佐江が立っているではないか。何故、彼女がここにいる。私は愕然として目を瞬き、彼女を見詰めてしまった。 「えっ?」 「あなたが、新之丞さんの手紙を持っているのね?」 「・・・・」 「そうでしょう? それは私の手紙よ。だから、返して下さる [続きを読む]
  • 雨宿り  Ⅳ
  • 「さて、ここからが問題なんじゃ。それで・・」  祖父は中庭に目を置き、真剣な眼差しで何かを見詰める。私は近くにある冷水器からお茶を汲み、祖父の横のテーブルにコップを置いた。祖父は一口飲み、喉の渇きを潤すと再び語り始めた。  敗戦の翳りが感じられる頃、新之丞が学徒出兵に召集された。祖父は工学部のため群馬の中島飛行場へ配属されたが、新之丞は文学部にいたので戦地へ。実家の新潟に疎開したらしい美佐江に、出 [続きを読む]
  • 雨宿り  Ⅲ
  •  寝汗で下着がびっしょりだった。シャワーを浴び気持ちがさっぱりする。 《あの名前は誰だろうか。腑に落ちない。オヤジに聞けば分かるかもしれないなぁ》  その日の夜、仕事から帰るとオヤジに電話した。 「オヤジさん、元気かい?」 「どうした、お前から電話が来るなんて珍しいじゃないか? まあ、こっちはふたりとも元気だ」 「そう、それなら良かった。それで、ひとつ聞きたいことがある」 「なんだ、聞きたいことっ [続きを読む]
  • 雨宿り  Ⅱ
  •  私はベッドから起き上がらず、そのまま横になり夢の中の状況を考えた。 《やはり現れた。ただ、場所が違う。それに和服姿ではなかった。どういうことだ。このまま毎晩、彼女と会うのだろうか》  幾人かの知り合いに相談する。 「そんなの夢占いで調べてもらえば・・」 「お祓いした方がいいんじゃないの」 「誰かがあなたに恋をしていたけど、何かの理由で亡くなった。でも、諦められずに夢の中に現れる。ドラマチックね」 [続きを読む]
  • 雨宿り  Ⅰ
  •  日常で見る夢は、自分本位の希望や憧れなどの空想に過ぎない。儚く散ることが多々あるも、自分の意志によって実現する可能性も否定できない。  眠りの中で見る夢は、決して自由にはならない。意外な展開に現実の感覚が痺れ、あらゆる感情をその世界へ誘惑する。ただ、必ずしも結尾に至るとは限らない。目覚めて安堵するか、苦悩や後悔に陥るかは人それぞれだ。  この数日、奇妙なことに同じ内容の夢を見ている。  突如、西 [続きを読む]