|
- 2007/10/19 05:47摩訶不思議少女 45回目
- 言いたいことも、言うべきことも山ほどあるようで、それでいて全くないようでもある。 音々は針が鋭い光を反射させる壁時計を見上げた。「もう時間みたい。みんな、あんなに歩いたり走ったりしたのに最後はあっけなく終わっちゃう。あたし自身もなんだけどさ」 最後の方は声が僅かに震えていた。音々は泣きぼくろのある目元をきゅっと細め、ゆっくりと手を差し出してくる。 進矢も時計を見た。四時五十分。あと二分だ。長かった... [続きを読む]
|
- 2007/10/17 22:49摩訶不思議少女 44回目
- 「待ちくたびれたよ、進矢。ううん、お兄ちゃん」 ウミと名乗る少女は拗ねた顔でこちらを振り返った。その顔に自分との血のつながりを感じ、やはり自分の妹であると進矢は確信した。 「急いで来たが……遅かったか」何と言っていいのか分からず、戸惑いながらも無難な返事を口にする。 「随分久しぶりだよね」 「おれはそうは思わない。ほぼ毎日ここに来てるから」 「ふふ、優しいんだね、お兄ちゃんは。どうせ眠ってるんだ... [続きを読む]
|
- 2007/10/15 21:56摩訶不思議少女 43回目
- 7.15 浅海進矢 今になって思えば、この不思議な冒険は、ここから生まれ滅する淡い夢のようなものだったのかもしれない。進矢はうんざりするほど歩き慣れた病院の廊下を進んでいた。人の気配はなく、ただ薬品の匂いだけが支配する空間。そして、この世界に来る直前にもいたとある部屋の前で立ち止まり、静かに息を整えた。そうした後で、心は今更落ち着ける必要もないほど凪いでいることに気づく。 音々は自分を責めているの... [続きを読む]
|
- 2007/10/13 20:37摩訶不思議少女 42回目
- 「でも、ネネちゃんが生きていたとは知らなかったよ」 「生きてはいる。ただ、あれ以来ずっと眠り続けたままだ」そう言って進矢は目を細めた。 真琴はやりきれない気持ちになった。一体、彼はどれほど苦しい時間を過ごしてきたのだろう。きっと、目が覚めない妹を哀しみ、自分を責め続ける暗黒の日々であったはずだ。 進矢はふいと顔を背けた。真琴は暗い表情をしていたであろう自分を戒めた。 「別に、菜々川がそんな顔をする... [続きを読む]
|
- 2007/10/11 20:25摩訶不思議少女 41回目
- 反論されると思っていた真琴は拍子抜けした。 「何を知ってるの? 隠さずに言って」 「あの子の本当の名前はウミじゃない……ってことだ」 「へえ、なんて名前なの?」 「多分、浅海音々」 浅海。 ネネ。 真琴は目を見開いた。海辺の情景が一気にフラッシュバックする。 ネネちゃんって、あのネネちゃんなの……? あのネネちゃんがこの世界の創造者。 そして、あの子は進矢君の……、 「そうだ、おれの妹だ」 「そ... [続きを読む]
|
|
|
- 2007/10/09 05:20摩訶不思議少女 40回目
- 真琴はコンクリートの壁にもたれ、あぐらをかいている進矢に尋ねた。 「確かにそうかもな。意外な気もするが」 「進矢君、いつもみんなのことちゃんと見てたよね」 「まさか」進矢は少し笑ったようだった。「全然だ。それは菜々川の方だ」 「そうかな?」 「そうだ」 進矢の対応は気もそぞろといった感じで手応えがまるでなかった。単刀直入に訊いたほうがいい。真琴はそう判断し、決意を固めた。 「ちょっと進矢君」 言う... [続きを読む]
|
- 2007/10/07 18:42摩訶不思議少女 39回目
- ウミは五人を鬼ごっこの鬼役だと言っていたが、捕まえる立場の自分たちも逃げ隠れしなければならないのがもどかしい。 真琴は目の前にある橋の下に隠れる決心をした。繁華街としての平里町はこの橋の前で終わりだが、一応その向こうも同じ町名ではあるらしい。普段は車が行き交っている道路を駆け、ガードレールを軽快に飛び越えて真琴は土手を下った。川のせせらぎが一気に近くなる。生命力が有り余っている様子の草をかき分け、... [続きを読む]
|
- 2007/10/05 22:10摩訶不思議少女 38回目
- そんな進矢君が一体どうしたっていうの? ウミを捕まえなけらば自分の身がどうなるか分かったものではないから、という理由ではあるまい。今までだって何度も危険な目に遭ってきたし、そのときも進矢の冷静さは揺るぎないものだった。 気が付くと真琴はシンプルながらも女の子らしい衣類が並べられている店を飛び出し、進矢の後を追っていた。いや、追っていたというよりも付けていたという方が的確な表現かも知れない。全力で走... [続きを読む]
|
- 2007/10/03 22:12摩訶不思議少女 37回目
- 7.14 菜々川真琴 「そういえば言い忘れてた。もらったナイフにはなかなか助けられたよ。精神的にも、ね」真琴が言うと進矢はそうか、とただ一言だけ漏らした。そんな彼らしいせりふにも真琴は違和感を覚えた。思わず目をのぞき込む。 橋の下だった。すぐ近くでは川が二人の心を和ませるようにひたひたと音をたてている。 他の四人と別れた後、真琴は可愛いショップが建ち並び、常に女の子達でにぎわう通りへと向かった。深... [続きを読む]
|
- 2007/10/01 05:22摩訶不思議少女 36回目
- いや、違う。 「最後の日……」つぶやきが自然と口から漏れる。 そうだ。確か、幼稚園児だった自分が引っ越しの前日に一紫にあげたのではなかったか? しかし、やっぱり返してもらいたくなって一度家に戻った後、急いで公園に引き返したのではなかったか。 かれんは立ちくらみを覚えた。強烈なアスファルトの照り返しのせいかもしれない。 あの日。だんだんと冬の気配が近づいてきた夕方。かれんが引き返したとき、一紫は誰の... [続きを読む]
|
- 2007/09/29 22:44摩訶不思議少女 35回目
- しかし、真っ先に頭をよぎったのはこんなに小さかったのか、という妙な感想だった。 今自分の両の腕にすっぽり収まっているこの本は昔は持つのがやっとで、ページをめくるときは地面に置かなければならなかった。一紫と読むときには二人分の膝を使ったっけか。 そういえば、この本はまだ自分の家のどこかで眠っているのだろううか? ふと、そんな疑問が湧いたが、どこにしまったのかは全く思い出せない。過去を回想するのはやは... [続きを読む]
|
- 2007/09/27 05:40摩訶不思議少女 34回目
- 7.13 斉藤かれん 最初は化け鳥と遭遇することなく歩いていたが、十分程経った頃に突然頭上が騒がしくなった。かれんはそこで我が身の運の切れ目を感じた。 それからは一心不乱に駆けに駆けた。どこかの建物に逃げ込みたかったが、一瞬でも速度を落とすのは恐かった。気味の悪い鳥たちはときどき面白がるようにかれんのすぐ脇を高速で追い抜いた。一度はそれが肩をかすめ、かれんはその場にへたりこみそうになった。 低く力... [続きを読む]
|
- 2007/09/25 22:41摩訶不思議少女 33回目
- 「あたしのこの姿や名前も本物じゃなくてね。この姿はあたしがみんなと同じくらいの歳になったらこうなるんじゃないかっていう自分の想像で出来てるの。それで、本名はね……」 ウミは自分の名前を静かに名乗った。今度は二重の驚きが英人を襲った。もう驚愕と言ってもよかった。全く別の二つの事柄が重なり合い、少女の台詞の意味を嫌でも理解させられた。 「ただ、みんなに思い出して欲しかったんだよ。とるにたらないあたしの... [続きを読む]
|
- 2007/09/23 21:24摩訶不思議少女 32回目
- 自分はそんなことを言っただろうか。思い出せない。ただ、そんなことがあったのは事実だ。 「確か、小学校高学年の時だったかな。そんなことがあったのは」英人は突然額から流れてきた冷たい汗を拭った。 「その、絵を描いた子ってのはあたしなんだよ」 英人はふたたび驚き、ウミの顔を凝視した。 「他校生の英人がミニバスの試合で何日間かあたしの小学校に来ていたときのことだったよ。みんなが最初にいたあの学校があたしの... [続きを読む]
|
- 2007/09/21 16:58摩訶不思議少女 31回目
- 「それじゃ、君を捕まえるは難しいな」 「そうでもないよ」そう言い、ウミは右目の下の泣きぼくろを押さえた。そして唐突に質問を浴びせかけてきた。「ねえ、英人って昔からもてたでしょ?」 英人は話題の方向が急転換したことにとまどった。けれど数瞬で、ここはとにかく時間を稼いでウミを足止めしておくべきという判断を下した。そうすれば相手に隙が出来ないとも限らない。 「どうだったかな。そう見える?」 「うん。それ... [続きを読む]
|
- 2007/09/18 18:33摩訶不思議少女 30回目
- 立ち上がろうと脚に力を入れている間にも音はだんだんと大きくなる。こちらに近づいているのだ。 「バスケ……?」英人がそう呟きながら立ち上がると、さっと腕の中に何かが飛び込んできた。慌てて受け取り、目を落とすとそれはオレンジ色をしたバスケットボールだった。先程までの音と振動は予想通り、バスケットボールをドリブルさせたときに生じたものだったらしい。 「正解だよ」そう言ったのは三メートルほど距離を置いて立... [続きを読む]
|
- 2007/09/16 11:01摩訶不思議少女 29回目
- 7.12 貴島英人 もう二十分は経っただろうか。人一人探すには平里町は広すぎる。 英人は休憩をとるために入ったスポーツ用具店の中で呼吸を整えていた。どこかでウミを探し回っている四人と偶然再会することもなかった。この広さじゃ五人で探す範囲をきっちり分割することもままならないし、獰猛な鳥がうじゃうじゃいるので探しづらいことこの上ない。英人はこれまでにもう二回も鳥の群に追いかけられ、何とか逃げ切っていた... [続きを読む]
|
- 2007/09/14 05:45摩訶不思議少女 28回目
- 一紫は動揺を隠しながらもそれを見事に片手で受け取る。 「一紫が公園でその本を一緒に読んだのはかれんだけだったっけ? かれんが引っ越した後、その本はどうなったんだっけ? ねぇ、だめじゃん。もっとちゃんと思い出さないと」 一紫はウミの顔をまじまじと見つめた。確かに、旅の途中あの公園に足を踏み入れたとき、思い出したのは幼き日のかれんの顔だけではなかった。 もう一人いたではないか。忘れられない女の子が。 ... [続きを読む]
|
- 2007/09/12 05:59摩訶不思議少女 27回目
- 幸い、こちらの姿はまだ見られていないはずだった。 エスカレーターの稼働音だけが静かな店内の空気を震わせる。一紫は二階に上がった。数歩歩いたとき、確かに人の気配を感じ取った。 近くにいる。 二階は洋書や絵本がスペースを占めていた。あまたの本が醸し出す知的な匂いに包まれ、一紫は壁にしつらえられた本棚に沿って静かに進んだ。 慎重に角を曲がった。 そのとき、 「隠れてもあたしには分かっちゃうんだから」 高... [続きを読む]
|
- 2007/09/10 21:32摩訶不思議少女 26回目
- 7.11 綾瀬一紫 数分足らずでその背中を見つけられたのは偶然だった。 ド派手な青色のTシャツを着ているウミの姿は目に留まりやすかった。一紫は大型書店に消えた彼女を追い、自動ドアから中へ滑り込んだ。 この書店には何度か来たことがあった。三階建てで、三階部分には参考書類が充実している。そこで教材を買い求めたことがしばしばあったのだ。中三や高一の最初は勉強を頑張ろうという気持ちがまだ残っていたが、高二... [続きを読む]
|
- 2007/09/08 05:57摩訶不思議少女 25回目
- もう会えないかも知れない。 気持ちを伝えようと言葉を探しているうちに去られるくらいなら何も伝わらなくていい。 ただ、最後にどうしても何かを言いたい。 かれんは意を決して口を開いた。 「貴島さんっ!」 英人が振り返る。 「あの、また会えますよね。会ってくれますよね……?」 こちらの必死さを英人がどう受け取ったのかは分からない。けれど、彼は白い歯を見せてにこりと笑った。「きっと、また」 もうかれんは... [続きを読む]
|
- 2007/09/06 05:55摩訶不思議少女 24回目
- 「じゃあ、おれたちもそろそろ行かないとね」そう言ってうっすらと笑った英人にかれんはなんと言おうか迷った。 「あの、あたしあの子の話を聞いていて思ったんです。共通点が無いように見えるあたしたちの共通点はあの子の存在じゃないかって」 そんなことを言いたいわけじゃない。 そう考えたのは事実だった。けれど、そんなことはこの際どうでも良い。何か、何か無いのか。二度と会えないかも知れない人にこの気持ちを伝える... [続きを読む]
|
- 2007/09/04 06:01摩訶不思議少女 23回目
- 7.10 斉藤かれん 大きなビルだけあって出口は無数にあった。一階だけでなく地下にも他の建物と繋がった出口がある。 一人で鳥が飛び交う平里町を歩くのは不安だったが、五人が単独行動をとった方がはるかに効率がいいことは火を見るより明らかだった。それぞれにまたねを言い合った後、真琴、一紫、進矢は別々な方角へと去っていった。ホールにはまだ疲労のせいで脚ががたがたするかれんと怪我の具合を確認するように脚や腕... [続きを読む]
|
- 2007/09/02 19:28摩訶不思議少女 22回目
- 「あの子を捕まえればここともおさらばかあ。簡単そうだけど化け鳥がいるもんね」真琴は捕まえられなかったときのことについては言及しなかった。 「ばらばらになって探すんなら、あたしたち五人がこうして顔を合わすのもこれが最後かも知れないんですよね」 「そうだな。そうかもしんないな」 「なあ」進矢は口を開いた。「今までの旅は本当に実際に起こったことなのか。全部がおれの夢ってことはないのか」 四人が意外そうな... [続きを読む]
|
- 2007/08/31 22:16摩訶不思議少女 21回目
- おれはこの子のことを知っている。それこそずっと前から。 「四時五十二分。この街の時計が四時五十二分を指す前にあたしを捕まえること。あたしとみんなの鬼ごっこだよ。みんなが鬼だよ。いいね? じゃあ、よーいはじめ!」 言うが早いがウミと名乗った少女はさっとステージから下り、もと来た道を引き返した。そしてあっと言う間にビルの外へと姿を消した。 残された五人はしばらくの間無言だった。それぞれがそれぞれの胸の... [続きを読む]
|