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- 2008/09/08 12:24二十一 愚かなり、国士(1)
- 韓信は、聞こうとしない。 「なぜだ!」蒯通は、血の涙を流しながら、言った。「なぜ、あなたは漢王に、従うのか!まさか、奴に大将軍に任じられた恩義があるからなどと、考えているのではあるまいな!奴は、あなたに大才があるからこそ、あなたを使って己が天下を取りたいからこそ、あなたを大将軍に任じたのだ。だが今やあなたは、あなたの功績を盗んだ奴の詐術も振り切って、斉王と漢王とは、すでに対等なのだ。漢王は、あ [続きを読む]
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- 2008/09/06 12:05二十 罠を巡らす(2)
- ついに斉王韓信に向けて、漢王からの急使が走った。 項王討伐に参加すべしとの、要請であった。韓信は、斉都の宮城で、漢からの使者の言葉を受け取った。「― 異議の、あるはずもない。」韓信は、使者に答えた。使者は、喜んで韓信に、戦後の恩賞の内容を告げた。「漢は、項王を亡ぼした後に、項王の旧領のうち楚地の全てを、大王に献上する次第でございます―」韓信は、言った。「領地などは、天下平定の後に考えればよい。 [続きを読む]
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- 2008/09/05 12:05二十 罠を巡らす(1)
- 項王がこんなにも早く、漢軍の前に現れた理由― それは、韓信と彭越が、動かなかったからであった。彭越は、漢王のことを、全く信頼していなかった。項王と勝手に和睦して、自分のことを、まるで忘れ去ったかのような振る舞いをした。その上で、やはり項王を攻めるから、加勢しろと言って来た。彭越は、このままでは戦後に漢王に潰されると、正しく読んだ。彼は、北の韓信の動向を、注意深く見守っていた。韓信は、動かない。 [続きを読む]
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- 2008/09/04 12:11十九 最後の、戦へ―(2)
- 漢王城に帰還した漢王は、彼の股肱たちに、揃って出迎えられた。 夏候嬰。周勃。樊噲。廬綰。周昌。これらは、沛での挙兵以来、漢王に従って来た、同郷人たちであった。王陵は、漢王と同じ沛人であったが、後の時期になってから、漢王の勢いに乗って合流した。今や、かつての子分であった漢王に、忠実に仕えている。酈商は、兄の酈生と共に、漢王が秦を倒す中途で、配下に加わった。酈商の兄と、周昌の親族であった周苛は、漢 [続きを読む]
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- 2008/09/03 12:27十九 最後の、戦へ―(1)
- 漢四年、九月。 漢王と、項王との和睦は、成立した。和睦の条件は、二つ―一つ、鴻溝を境として、東を楚、西を漢とする。二つ、楚に留められている漢王の家族を、漢に返還する。この、二条件であった。一つ目の条件には、あいまいな所があった。すでに梁の地を支配している彭越の立場は、どうなるのか?淮南王に封じて項王を侵略させている、黥布の処遇は、どうするべきか?漢王はこれらに構うことなく、項王と和睦した。もし [続きを読む]
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- 2008/09/02 12:21十八 大風の歌(3)
- 候公は、続けた。 「そして、その後に韓信もまた、消し去ることでしょう。それは、時代が為すことです。」漢王は、彼の言葉を、打ち消すこともなかった。「そう、ならずにはいられない。もう俺には、臣下か敵しか、得られないのだ。」漢王の目算は、覇者として冷酷であった。だが、候公は、もはやそのような漢王を、咎めなかった。候公は、言った。「この天下は、泣いて悲しんでいます。この悲惨は、一刻も早く終わらせなけれ [続きを読む]
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- 2008/09/01 12:16十八 大風の歌(2)
- 漢王は、聞いた。 「彼に、何を語られたのか。」候公は、答える代わりに、泥で封じられた一巻の書簡を、取り出した。「項王からの、贈り物です。どうぞ、受け取られよ。」候公は立ち上がり、ようやく漢王に親しく近づいて、手渡した。漢王は、封を開いて、中身に目を通した。「歌で、あるか―」書かれた内容は、長くもなかった。大風起兮雲飛揚威加海内兮歸故郷安得猛士兮守四方? ― 大風起コリテ、雲、飛ビ揚ガル威ハ海内 [続きを読む]
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- 2008/08/30 12:34十八 大風の歌(1)
- 不思議なことが、起った。 これまで断固として漢王との和睦を拒否して来た項王が、すみやかに溶けた。候公という正体不明の老人が、覇王城の項王のもとに、ふらりと現れた。彼は、しばらく覇王城に滞在した後、鴻溝を渡り、対岸の漢王城にやって来た。漢王城の門を叩いた候公は、門衛に言った。「張良子房に、伝えるがよい。和睦は、成りましたと―」漢の陣営は、突然の知らせに、一驚した。真偽を確かめようと、張良と陳平の [続きを読む]
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- 2008/08/29 12:59十七 国士動かず(3)
- 蒯通は、斉王の自邸に飛び込むや、直ちに王に面会を求めた。 今日こそは、王を動かさなければならない。蒯通は、じりじりと王を待つ間、歯ぎしりして独語した。「趙に続いて、この斉においても、我らの期待を裏切るというのか、、、」彼は、かつて趙においても、韓信に煮え湯を飲まされた。趙で自立しなかった韓信は、案の定漢王の詐術に引っ掛かって、趙から追い出された。しかし趙から追い出された韓信は、死ななかった。彼 [続きを読む]
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- 2008/08/27 12:18十七 国士動かず(2)
- 韓信は、斉から動かなかった。 曹参、灌嬰の両将は、彼の指示のうちであった。彼らは、かつて漢王から韓信への監視役として、附属されていた。だが王位に昇った韓信を、もはや掣肘することなどできない。灌嬰は斉の別将に任じられて、今や韓信のために、斉兵を鍛えている有り様であった。全ては、斉王の判断次第であった。つまり韓信は― 動かないことを、判断し続けていた。韓信は、今日も平穏に政務を終えて、自邸に戻って [続きを読む]
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- 2008/08/26 13:09十七 国士動かず(1)
- 広武山は、天下万人の注目の的となっていた。 広武山での、漢王と項王の対峙―この歴史に残る対決の一部始終もまた、全土に速やかに伝えられていった。中原を広く広く流れる、河水(黄河)のほとり。河を渡す船乗りたちの間でも、天下の趨勢について、しきりに話題としていた。「案ずるな。漢王は、死んではいないさ―」彼らの中心に座る老いた男が、船乗りたちに向けて、語っていた。老いた男は、言った。「漢王めが、ちと調 [続きを読む]
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- 2008/08/25 12:58十六 夢は続くか(2)
- 城内から湧き上がる声は、いつまでも続くかのようであった。 項王は、何も語らず、ただ立っていた。漢王の完勝、項王の完敗であった。もし力で戦うならば、項王は漢王に負けはしない。だが、漢王は、衆を味方に付けて、世論をもって、覇王を圧倒した。そして漢王は、項王以外の全ての異才を、自分の側に付けていた。彼には、張良子房と陳平の智があった。背後を支える、丞相蕭何がいた。そして、項王が恃む武勇ですら、もはや [続きを読む]
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- 2008/08/23 13:30十六 夢は続くか(1)
- つんざく怒声に支持されて、漢王は、項羽の罪状を、数え続けた。 ― 罪の七。項羽、皆(ことごと)く諸将を善地に王となし、徒(いたずら)に故主を逐(お)い、臣下をして争い叛逆せしむ。罪の、七。― 罪の八。項羽、義帝を彭城より出して逐い、自らこれに都し、韓王の地を奪い、梁楚に并(あわ)せ王となり、多くを自らに予(あた)う。罪の、八。― 罪の九。項羽、人をして陰(ひそ)かに義帝を、江南にて弑せしむ。罪 [続きを読む]
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- 2008/08/22 12:01十五 善悪いずれに(2)
- 漢王城内では、陳平が、ひとまず大事が去って、大きくため息を付いた。 彼は、額の汗を拭って、声を漏らした。「もう、十分だ。十分では、ないか、、、」彼は、張良の方を向いて、言った。「これ以上の両者の対峙は、やり過ぎです。あなたは、そう思いませんか?」張良は、一言だけ返した。「、、、確かに。」陳平は、言った。「まだ居着くのは、咎があるような気がして、なりません。なのに、大王はまだ退こうとしない、、、 [続きを読む]
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- 2008/08/21 12:54十五 善悪いずれに(1)
- 怒りに燃える項王を、しかし漢王は突き転ばした。 漢王は、真面目ぶった顔で、諧謔を放った。「ならば、烹た後が勿体無い。俺にも一杯、羹(あつもの)を分けろ。」聞いた瞬間、項王の表情は、顎が外れたようになった。観衆から、再び爆笑が起った。項王は、怒りを取り戻そうとして、混ぜ返した。「、、、何ということを、言うのか!」漢王は、真面目な顔をして、答えた。「せめてもの、親孝行だ。」漢軍は、やり込められた項 [続きを読む]
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- 2008/08/16 13:18十三 龍虎相対す(1)
- 韓信は、いまだ動かない。 そして広武山もまた、動かなかった。項王は決戦を望むも果たせず、楚軍は日毎に瘠せ細って行った。漢軍は、項王を戦わせず、自ら腰折れる時を、慎重に待ち続けた。漢王城の一室で、二人の策士が、話し込んでいた。「― 和睦を為すためには、大王の一家を、楚から取り戻さなければなりません。」そう語ったのは、陸賈であった。彼は、漢王のために諸国に使いすることを、ずっと職分としていた。彼と [続きを読む]
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- 2008/08/13 13:59十一 真の英雄(2)
- 「大王。残念ながら、あなたには、追い求める夢が、ありません。そして、飽くこと無き... [続きを読む]
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- 2008/08/11 13:34十 乱国の言(2)
- 蒯通は、言った。 「思えば始皇帝が倒れた後、後を継ぐべき公子扶蘇が立たず、趙高が愚かな公子胡亥を掌中に握り込んでかれを二世皇帝として騙らせたところから、秦の崩壊は始まりました。じつに秦帝国は始皇帝という空前の君主が一人で創り上げた、帝国でした。熱砂の向こうの西方の地では、すでにいくつもの大帝国が興って諸国を力で治めていると、聞いております。始皇帝は、この中国の地で、初めて大帝国の統治を行なった [続きを読む]
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