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- 2008/08/19 09:41第一章 鮮赤の風(5)
- 潜砂艦の前方で、海が窪み始めている。砂を吸い込み始めているのだ。「潜行するのか」 砂舟の兵士達は、大きくうねる砂の上から、沈んでいく少女を引き上げようとしているが未だ果たせていない。 アルが真っ直ぐ少女に向かうと、それに気付いた兵士の一人が揺れる砂舟の上で銃を構えた。「近寄るな!」 だが、アルは動じることなく、叫び返していた。「その子を助けてやるぜ! 任せときな」 生まれた時から海に親しむアルに [続きを読む]
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- 2008/08/12 09:55第一章 鮮赤の風(4)
- 風が唸りを上げている。 立ち並ぶ倉庫群の影から顔を覗かせた瞬間、アルの目には一面に広がる砂の海が飛び込んできた。 細かな砂粒が、風と陽光を受けて絶えずその輝きを変えている。 蒼い天穹には黄色い川が時折渡り、街の中へと不快な浸入を試みていた。「あれは…」 『海』を見ていたロムが、不意に息を飲む。その視線を追うと、アルは思わず舌打ちをしていた。 砂の海の中に、細長く茶色い物体が半ばその身を沈めている [続きを読む]
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- 2008/08/05 10:25第一章 鮮赤の風(3)
- 「あんな潰れかけのホテルに、何の用だ?」 訝しげに声が漏れる。 表通りを覗くアルの背後では、<俊足>のロムが見張りをしていた。 豊かな北方を目指す船が立ち寄ることはあるが、この街は飽くまでも通過点でしかない。この地で宿泊する者など、殆ど皆無なのだ。 確かに、数日前から誰かが泊まっているとは聞いていたが……「本格的だね」 ロムの囁きに、アルは黙って頷いていた。 表通りに立つ兵士は五人。いずれもが [続きを読む]
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- 2008/07/29 08:51第一章 鮮赤の風(2)
- 「ちぇっ! 今度も使えなかったじゃないか」 中の一人、ロムと同じくらいの年頃の少年が、銃を手にしながら不満気に呟いている。 その言葉に、別の少年が揶揄するように応えていた。「お前、昨日あの若造に撃ってたじゃねぇか。あいつ、暫く動けないらしいぜ」 同い年のマークに後始末を頼んでいたアルは、その会話を耳にすると厳しい顔付きで二人に近付いていった。 冷たい鳶色の瞳に動けず、銃を手にした少年は胸倉を掴まれ [続きを読む]
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- 2008/07/22 10:59第一章 鮮赤の風(1)
- 強烈な日差しが脳天を貫いてくる。 黒いまでの青天井には、ここ数ヶ月の間、微かに棚引く雲一つ見えず、ただ乾いた風だけが、くすんだ町並みの中を駆け抜けていた。 半ば崩れかけている建物の下で、一人の少年がそんな天蓋を見上げながら露骨に顔を顰めていた。「これじゃ、さっさと始末しねぇとな」 生まれてから一度も櫛など通したことのない乱れた黒髪をした少年は、そう呟くと舌打ちをした。 この地の十四歳にしては背が [続きを読む]
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- 2008/07/15 10:34『宝の小箱』あとがき
- こんにちは☆ くまミニです。 『宝の小箱』の公開が無事に終わりました。 最後まで読んでいただいた皆さま、本当にありがとうございました。 この『宝の小箱』の公開を始めたのが、丁度去年の8月ですね。 ほぼ11ヶ月の長い連載になってしまいました。 途中で仕事の都合上、どうしても週に一度の更新しか出来なくなってしまい、読んでくださっている皆さんにはご迷惑をおかけしたこと、本当に申し訳なく思っています。 [続きを読む]
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- 2008/07/15 08:50第三部 真の小舟 4(3)
- まだ発表には時間があるというのに、高校へと向かうバスの中は、一目で受験生と分かる学生で一杯だった。 そこから溢れ出す波に押されてバスを降りると、そのまま高校の正門に向かって緩やかな坂を上る。 左右に並ぶ進学塾の講師の群れや、部活動への強引な勧誘に戸惑いながらも、真結は自分でも驚くほど確かな足取りで掲示板の前まで進んでいた。 だが、ここまで来ると、流石にその落ち着きも、立ち尽くす足下からアスファル [続きを読む]
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- 2008/07/08 11:16第三部 真の小舟 4(2)
- 「あ〜ぁ…結局、眠れなかった……」 カーテンが、しらしらと朝日に照らし出されている。 ベッドで横になりながら、うっすらと明るくなっていく部屋の天井を、真結は円らな瞳でじっと見続けていた。 今日は、受験結果の発表日なのだ。第一志望の私立高校で、通学に一時間半もかかる所だが、受験当日の雰囲気が割りと気に入っている。 それだけに、今日の発表が心配になっていた。 試験そのものは思っていたほど難しくなくて… [続きを読む]
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- 2008/07/01 14:21第三部 真の小舟 4(1)
- 『出逢い』って、本当に不思議なものです。 小さなラジオから流れてくる声には、彼女の《全て》の想いが込められていた。たった一度だけのものであっても、それが《特別》なものなら、人はその出逢いをいつまでも想い続けるんです。悲しくて辛い時、楽しくて嬉しい時…どんな瞬間にも、心に浮かび上がる『出逢い』があります。人はいつも出会いと別れを繰り返しているものですが、擦れ違った瞬間や視線を交えた時に、その出会いが [続きを読む]
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- 2008/06/24 09:10第三部 真の小舟 3(3)
- いつもの小道にぶつかる頃、左手に大きな欅の葉群が見えてくる。 色褪せた屋根瓦と白塗りの土塀を丸く覆いながら、その枝葉は《全て》を優しく抱え、護ってくれていた。 …ふと、足を止める。 風の乙女たちが描いている緑と白の波模様の中に、刹那、『何か』が重なった気がしたのだ。 ……いや、確かに、胸中から黄金の海が溢れ出してくる。 その、水面には……(…あっ!) 間違いない。 一年前に出逢った『彼』が、笑い... [続きを読む]
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- 2008/06/17 09:54第三部 真の小舟 3(2)
- 中学も三年生になってから、今日、初めて息をすることが出来た気がする。 真結は深く椅子に腰掛けなおすと、大きく伸びをしていた。 やっと、夏休みになったのだ。 夏期講習も始まり、毎日決まった分だけ勉強しようとは思っているものの…学校に行かないだけでも、十分、気休めになるものだ。「ほんと、みんな、人が変わったみたいなんだもん」 少し、頬を膨らませる。 なにも、休み時間にまで、参考書を広げる必要は無いと... [続きを読む]
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- 2008/06/10 08:56第三部 真の小舟 3(1)
- 緩やかな静寂は、BGMによって更に深みを漂わせる。 温もりと想いに満ちた静謐の《時》… やがて、穏やかな女性の声が電波に乗り、闇の中へと滑り出していた。それから、私は毎日『大塚の欅』の下で『夢』を見ていました。彼の名前は、何と言うのでしょう? あのハンカチには、イニシャルもありませんでした。…えぇ、ハンカチはきちんとアイロンをあてて、仕舞い込んでいます。いつか、また逢えた日に返せるように……普段か... [続きを読む]
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- 2008/06/03 10:45第三部 真の小舟 2(4)
- 今、気付けば、雨音が小さくなっている。 風も出てきたようだ。 黒髪に指を絡め通り過ぎる白銀の乙女達に背を押されながら、真結はそっと心のままに囁いていた。「…ありがとう……」 瞳を開けて見上げると、彼は驚いた顔をしていたが…すぐに優しい微笑みを浮かべ、そっと…静かに返してくれた。「俺の方こそ…ありがとう」 大きな手が差し出される。 真結は躊躇いもせず、その手の中に指を滑り込ませると、しっかりと握り... [続きを読む]
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- 2008/05/27 10:03第三部 真の小舟 2(3)
- 「…へぇ、これが『大塚の欅』か。本当に、大きいんだな…」(…え?) 雨粒が傘で弾ける音と共に、小道の方から不意に声が聞こえてきた。 思いもかけない出来事に頬を上げると、真結はそっと静かに欅の向こう側を覗き見た。 …ザッ、ザザァァー… 遙か頭上の緑葉が、風も無いのに騒ぎ出す。 降り注ぐその音色に包まれて、小さな立て看板の傍に一人の少年が立ち尽くしていた。 …自分と同じくらいの年だろうか。 傘と雨の為... [続きを読む]
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- 2008/05/20 09:10第三部 真の小舟 2(2)
- どれ程の時が流れたのだろう。 しゃくりあげる声も、ゆっくりと潮のように引いていき…やがて一つ、真結は小さく深呼吸をした。 欅にしては凹凸の激しい太い幹へと頭を預けると、掠れた声でそっと囁き始める。「…あのね…今日、みっちゃんに急に呼び出されたの。…夏休みにね、何処かに行こう、って相談してたから…日程でも決めるのかな、って……そう…思ってた……」 再び、頬に煌きが宿る。 頭上から零れる優しい雨音に [続きを読む]
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- 2008/05/13 10:01第三部 真の小舟 2(1)
- 腰の辺りまで真っ直ぐに伸びた黒髪が、曇天の薄日に淡く輝いている。 中学生も二年目になった少女は、車の多い表通りをケーキ屋の前で左に折れ、薄暗い路地へと入っていた。 夏休みになったばかりだと言うのに、空も心も、なんて冴えない悲しみに満たされているのだろう。円らな瞳で足下だけを見つめる真結には、夏の熱気や蝉の声も、今は騒がしい嫌悪の対象でしかなかった。 一本目の脇道を、目も上げずに通り過ぎる。 夏休 [続きを読む]
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- 2008/05/06 09:41第三部 真の小舟 1(2)
- 昨日までの細雪は、小春日和の暖かな日差しに照らされ、その儚い身を大地へと還している。 天蓋には青く澄んだ中空のみが広がり、風は白雲一つ遊ばせず、緩やかに地平を目指して通り過ぎていった。「ほら、真結。これが『大塚の欅』よ」 その風に、まだうら若い母親の声が乗る。続いて、赤ん坊の愛らしい笑い声も、大気の中へと溢れ出していた。 母親は、そんな首の据わっていない真結に、黒く汚れた立て看板を見せている。 ... [続きを読む]
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- 2008/04/30 09:36第三部 真の小舟 1(1)
- マグカップから立ち上る、コーヒーの豊かな香りの向こう側。 小さなラジオのスピーカーから、柔らかな女性の声が流れ出している。今週も、『素敵』なことに巡り会えたでしょうか。今晩は、水口(みなぐち) 真結です。今夜は早速、気になるハガキがあったので、読んでみたいと思います。大阪市に住む、『茜色の夕風』さんからのハガキです。「今日は、どうしても聞きたいことがあってハガキを書きました。私は中学一年生なので... [続きを読む]
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- 2008/04/27 11:27第二部 光の小道 8(2)
- 想いを噛み締めるような沈黙の後、女性DJは静かに続けた。谷口 晃君の手紙には、最後にこう書かれています。「僕は、『シルヴィー』の店で彼女の名前を聞いた時から、彼女が『大切なマコちゃん』であることに気付いていました。ですが…僕は、彼女の『兄』ではなく、『恋人』になりたかったのです。こんな手紙では書き切れない…口にすることすら出来ないほどの葛藤がありました。それでも、自分の想いに嘘は吐けなかったのです... [続きを読む]
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- 2008/04/22 10:30第二部 光の小道 8(1)
- 湖畔でアキラと逢ったその日の夜、真琴の夢の中へと『過去』が再び忍び寄り、彼女はそこに幼い『自分』の姿を認めていた。 泣いている…又、必死になって、泣いている…… 近頃、随分と泣き虫になった気がする。 この小学三年生の自分も、そんな『今』に呼応して、泣いているのだろうか……「いやぁ! あたし、絶対、引っ越しなんてしないんだからぁ!」 暗闇に広がるその言葉に、『自分』を見下ろしていた『自分』は、両手... [続きを読む]
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- 2008/04/15 10:39第二部 光の小道 7(2)
- バス停が近付くにつれ、歩みが遅くなってしまう。 弥生はもう一度、確かめるように自分の服を眺めていた。 もう、幾度こうして見たことだろう。何回見ても、やはり自分には似合っていない気がする。可愛い服だとは、思うのだが… 昨夜、真琴に電話した時、約束などしなければよかった。 だが、弥生には断ることも出来ないのだ。 勿論、真琴はそれも分かっていて、それでも勧めてくれたのだろう。 他人から見れば、変ではな... [続きを読む]
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- 2008/04/09 10:43第二部 光の小道 7(1)
- 「えぇ〜っ!」 階段を上った瞬間、「改装中」の立て看板が目に飛び込んでくる。「う〜ん、先に調べておくべきだったかな」 軽く笑うアキラの横で、真琴はがっくりと肩を落としていた。 道理で、人が少ないはずだ。雨の中でも行列が出来るほどなのに、曇天でここまで客が激減するはずがない。「…ねぇ、これからどうする?」 自分でこの場所を提案したのだが、見学する以外は殆ど何も考えていなかったのだ。(折角、お気に入り... [続きを読む]
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- 2008/04/04 09:26第二部 光の小道 6(5)
- バス停から少し戻って、横断歩道を渡る。 まだ新しい壁をしているスーパーの脇を抜けて一つ目の角が見えてくると、弥生は心なしか足を早めようとしていた。 ここで、以前、あの男の子と出会ったのだ。 …まるで、その彼を探すかのように辺りを見回しながら、だが怯えた表情で駆け足に…… 次の瞬間、足が路面に凍り付いてしまった。 目の前に、その雷本人が立ち塞がっているのだ。ずっと、弥生のことを待っていたらしい。 ... [続きを読む]
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- 2008/03/29 10:25第二部 光の小道 6(4)
- 今日も、白い雲は地平に湧き上がる程度で、澄み切った青空が全てを光と影に分けている。くっきりと裂かれた境界が風の愛撫に揺れ動き、斑な絵柄が路上の二人を包み込んでいた。「…ほら、フォンちゃん! 大丈夫、焦らなくてもいいんじゃない? 『その時』は、望んでなくても勝手に来るもんよ」 そう言っている自身も、少し焦ってここまで来ているのだが… 思わず、心の中で苦笑してしまう。「……うん…ありがとう、マコちゃ... [続きを読む]
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- 2008/03/23 08:47第二部 光の小道 6(3)
- 「……ふぅ〜…」 流れ続けるラジオから身を引くと、ゆっくりと椅子に凭れて、真琴は全身から力を抜いていった。 …今の話を、『彼』にも伝えたい。(今度逢ったら、何か別のことでも勧めてあげようかなぁ…) そうだ! プールや海でもいい。今度、逢った時にでも……「あぁーっ!」 夜中であることも忘れて、思わず真琴は力一杯叫んでしまった。 …何処か、悲鳴にも似ている……「どうしたの?」 隣室からかけられた声に、... [続きを読む]
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