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- 2008/07/21 09:4211 離闊(1)
- 11 離闊「ハイキング…?」 七月の強い日差しで、曖の部屋からはまだ熱も逃げていない。 クーラーの設定温度を下げようとした曖は、突然の玲の言葉に驚いて振り返っていた。「うん! きっと、気持ち好いと思うよ」「でも…私、そんなに…その、歩けないと思う…の…」 がっかりさせたくはなかったが、曖は正直にそう言った。 だが、玲は安心させるように微笑むと続けていた。「大丈夫だよ。歩くのは2時間くらいだし、疲れ [続きを読む]
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- 2008/07/14 10:2310 愛而不見−あいすれどもみえず−(5)
- 何時の間にか、日も暮れている… 初夏の星座が風渡る遙か頭上に並び、清らに澄んだその輝きを静かに放ち始めている。 …曖は、やはりベッドから動こうとはしない。 彼女にとって、この絶望に沈んだ心しか、この世に存在しているものは無いのだ… 曖の心に、《死》という単語があった訳ではない。だが、確実に彼女の心の中にはその《死》が入り込んでいた。 それは容赦の無い力で、『曖』を引き裂いていく… …… …その時 [続きを読む]
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- 2008/07/07 09:2510 愛而不見−あいすれどもみえず−(4)
- 玲を追い返した日の翌日…曖は初めて嘘を吐いて学校を休んだ。 昨夜からずっと…彼女の頬には、止め処なく涙が溢れている。 …泣いて…いる? そんな自身の感覚すら、曖にはもうない。 彼女が感じているのは、ただ心中に満ちている涙の渦だけなのだ。 玲が出て行ってから、ベッドからも殆ど動いていない。 勿論、何も口にしていない。 自分の周囲のあらゆる存在を、彼女の弱々しい心は否定していた。 部屋の中は深い悲し [続きを読む]
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- 2008/06/25 09:0310 愛而不見−あいすれどもみえず−(3)
- グラーズは舌打ちすると、揶揄するように言った。「おやおや、君はローニアに気があるらしいな。 だが、それなら君に俺は倒せないだろう? 何しろ、俺はローニアの兄なんだからな」「へっ!」 立ち上がった龍真は、侮蔑の眼差しを隠そうともしなかった。「確かに、ローニアが好きだったお前なら、俺は倒せなかっただろう。 だが…」 そこで、彼は蹲ったローニアを見つめた。「…いいかい、ローニア。 もう、魄鬼のグラーズ [続きを読む]
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- 2008/06/18 10:4610 愛而不見−あいすれどもみえず−(2)
- 「おや、死ぬつもりかい?」 就職活動の為に着慣れない衣服に身を押し込めていたその女性は、不意に背後からかけられた言葉に驚き、足を止めてしまった。 栗色の髪をした美しい青年が、優しそうな瞳で見つめている。 屋上の端から僅かに身を引きながら、女性は震える声で呟いていた。「…そ、そうよ。…どうせ、私なんて必要無いんだもの」 採用通知など、何処からも来なかった。自分は、社会からは必要とされていないのだ…「 [続きを読む]
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- 2008/06/11 10:1810 愛而不見−あいすれどもみえず−(1)
- 10 愛而不見−あいすれどもみえず−「はぁ……」 一体、幾度めの溜息になるだろう。 この春に萌え出た美しい青葉の下を歩くには、あまりにも不釣合いな気分だ。 曖ちゃんは…、もう…僕とは逢いたくないんだ… 豊かな黒髪をした少女の一言は、玲の気持ちを押し潰すのに十分な力を持っていた。 …曖ちゃんは…僕が『嫌い』なんだ…… そんなことはないと、反論したい気持ちもある。 だが、確かに…曖は言ったのだ。 もう [続きを読む]
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- 2008/06/04 09:509 愛而不見−かくれてみえず−(4)
- 「…龍真さん」「何?」 微かに聞こえた囁きに驚き、龍真は立ち上がると部屋のドアを開けた。 すぐ目の前に、俯きながらローニアが立っている。 …彼女は本当に不思議な存在だった。 優しく、静かで…だが、それでいて他を圧するような高貴な雰囲気をその身に纏っている。 黙って見つめる視線に応えるかのように淡く頬を上気させたかと思うと、ローニアは深い決意を秘めながらも遠慮がちにその双眸を上げた。 その瞳を受け止 [続きを読む]
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- 2008/05/28 09:329 愛而不見−かくれてみえず−(3)
- そっと、ガラス戸が叩かれる…「曖ちゃん!」 明るくて元気な、…心から待ち焦がれていた声がする。 曖は一つ深呼吸をした後、そっと静かに窓を開けていた。「…! どうしたの?」 不安が色濃く現れている曖の表情に、玲は戸惑いながら尋ねていた。 悲しい…のかな? それとも…何かを怖がってるのかな…「玲君、私…」 …本当に、言ってしまうの…? だが、『声』は勝手にその小さく愛らしい唇から零れ出していた。「… [続きを読む]
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- 2008/05/21 09:309 愛而不見−かくれてみえず−(2)
- 「はい、これ……」 呟くようにそう言って、真っ赤になりながら朋也が差し出しているのは、一通の手紙だった。「え…?」 曖は戸惑いながら…どうしたらいいのか分からず、ただ頬を赤らめて俯いてしまう。 …教えてくれた子もいたが、まさか本当だとは思っていなかった。 そう…まさか、悪戯者として五年生の間でも名高い彼が、自分のことを好きだとは…… すぐに、曖の脳裏には玲の顔が浮かんでくる…「俺、本当に曖ちゃんの [続きを読む]
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- 2008/05/14 10:179 愛而不見−かくれてみえず−(1)
- 9 愛而不見−かくれてみえず− その日は、随分とツバメが騒いでいた。「じゃぁ、母さん」「えぇ、行ってらっしゃい」 そんな言葉に送られて、学校に向かおうと玄関を飛び出した瞬間…俺は、その子を見付けていた。 最初に目に入ってきたのは、揺れる栗色の豊かな髪だった。 恥ずかしげに少し俯きながら、俺を見上げてくる…その青味がかった銀色の瞳に見つめられて、俺は慌てたように視線を逸らしていた。 …胸の奥の方で… [続きを読む]
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- 2008/05/07 10:528 寥々(4)
- 玲が口を開きかけた時、不意に一陣の突風が窓ガラスにぶつかってきた。 気付けば、辺りはもうすっかり暗くなっている。だが、自分達だけは青い闇にぼんやりと照らされていることに気が付いて、曖は驚いていた。 不思議さが怖さに変わる直前、彼女の耳に微かな歌が聞こえてきた。 ……? 風と共に、窓の隙間を抜けて教室へと流れ込んでくる… 本当に微かで…とても澄んだ音色だ。無垢な少女の歌声…それは銀の光を呈する風に [続きを読む]
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- 2008/04/29 11:188 寥々(3)
- 教室の中の女の子は、今度は黒板に何かを見つけたらしい。 薄闇に青く染まる右手が差し上げたのは…チョークだろうか。 すぐに、白い線が黒板に引かれていく。 一気に黒板の端まで走った後、再び駆け戻りながら、幾度もそれを繰り返す… 暫くして黒板から離れると、自分が描いた無数の白線を見て、幼女は飛び跳ねながら大きく笑い声を上げていた。 玲と曖が見守る中、次には女の子は机にまで落書きを始めている。 一つの机 [続きを読む]
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- 2008/04/23 10:088 寥々(2)
- 「曖ちゃん、ちょっと廃校を覗いてみようよ」 帰ろうと籠の用意をしていた曖は、玲の言葉にひどく驚いてしまった。「え? でも…」 昼間とは違い、今は青い闇に包まれ、木造の廃墟は少し不気味で近寄り難く見えている。 …だが、すぐ隣には、安心させるように微笑む玲の姿もある。「ほら!」 迷っている曖の細い腕を取ると、玲は先に立って廃校の入り口へと駆け出した。「あっ…!」 慌てて、曖も走り出す。 近づく校舎の... [続きを読む]
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- 2008/04/19 10:028 寥々(1)
- 8 寥々 純白の敷布に包まれて、子どもが二人、広く寂しい運動場を駆けている。 絶え間無く響き渡る楽しげな笑い声を、辺りを満たす静寂は、微かな戸惑いと共に風に運ばせていた…「ほら、曖ちゃん。これは今でも使えるよ」 四年生くらいの男の子が叫んでいる。手にしているのは、クリスマスの今日になっても、まだ青葉を残している枝に結ばれた綱だ。 太く編まれたその綱を、子どもの小さな手が触れなくなって、どれほどの時 [続きを読む]
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- 2008/04/08 10:397 寥落(6)
- 曖に二、三度雪を投げ掛けられた後で、玲は不意に右手を天に伸ばすと、次には何気なく雪橇を手にしていた。 青いプラスチック製の何の変哲も無い橇だが、それを見た瞬間、曖の胸がどきどきするほどの喜びを伝え始める。 …楽しいのだ。 いや…楽しくなりそうな予感が、確かに、胸元に込み上げてくるのだ。 こんな感覚を、曖は随分と前に失っていた……「ほら、あの築山で滑ろうよ!」「うん…!」 まるで葉をそよがせないク [続きを読む]
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- 2008/03/29 11:377 寥落(5)
- 「着いたよ」 山間の廃校までは、かなりの距離があるはずだが…瞬く間に着いてしまう。 少しだけ、物足りない気持ちで、曖はゆっくりと瞳を開けた。「…あぁ…」 感嘆の声が、小さく愛らしい唇の間から零れ出す。 玲は空中に浮かんだ儘、そんな曖を微笑みと共に見守っていた。 すっかり壁を黒くしてしまっている小学校の廃墟が、純白の敷布からの照り返しを受けて眩しく輝いている。 最早誰も駆け回ることの無い運動場には... [続きを読む]
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- 2008/03/23 09:327 寥落(4)
- 「ねぇ、曖ちゃん。せっかく雪が降ったんだし、今日は外に遊びに行こうよ」 曖が淹れてくれた美味しい紅茶を飲み終えると、玲は不意にそう言った。「でも…」 曖は、玲のことを誰にも知られたくなかった。 …玲君のことは、私だけが知っているの… そして、それはそのままであって欲しかったのだ。 そんな曖の前で、笑いながら玲は続けている。「香笹町の南の方に、もう使われてない廃校があるんだよ。そこなら、誰も来ない... [続きを読む]
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- 2008/03/22 08:217 寥落(3)
- 壁に掛かる時計は、漸く九時を知らせてくれる。 曖が喜びで辛抱出来ずに身を動かそうとした途端…「曖ちゃん!」 待ち望んでいた声が、…玄関の方から愉しげに響いてくる…? …? …玲君、どうして玄関にいるのかしら… 不思議そうな面持ちのまま、鍵を回してドアを開けると…「きゃっ…」 あまりの光景に驚いてしまい、曖は取っ手に手を掛けたまま、まるで動けなくなってしまった。 目の前に、通路を塞ぐほどの大きな... [続きを読む]
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- 2008/03/16 09:337 寥落(2)
- 「………」 七時に合わせた時計は、まだベルを鳴らしてはいない。 円らな瞳をゆっくりと開けながら、曖は今日のことを思って幸せそうに微笑んでいた。 今日は、クリスマスなのだ。 そして、一昨日に逢ったばかりなのだが、今日も玲は逢いに来ると約束をしてくれた。 …どんなに、素敵な一日になるのかしら… 白皙な腕を伸ばすと、不意に鳴り始めた目覚ましのベルを止める。 …もう少し…このまま…… 本当は、玲とはイヴ... [続きを読む]
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- 2008/03/15 09:487 寥落(1)
- 7 寥落 馥郁と、魅惑的な薫りが宙に立ち込めている。 その香りの源である、濃い緑を滴らせた笹薮を背に、泉は灰色の石に囲まれ枝葉を映していた。 だが、映る葉はそよとも動いていない。 何も動かず、何も音を紡がない…ただ、時間さえも止める静けさだけが、辺りにたゆたっていた。 その泉…夢鏡ノ泉の前で、今、一人の少年が佇んでいる。 黒髪の下、瞳を閉じ…諸手を泉の上に翳している… 不意に、更なる静寂がその場... [続きを読む]
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- 2008/03/09 10:056 荒神(11)
- 少年が地上へと降りていくのに合わせて、玲もゆっくり下降を始める。 沈んだ顔付きのままの玲を振り返りながら、少年は思い出したように言った。「この宮木神社の跡取り…龍真君か、彼については心配しなくてもいいだろう」「…」 心配しなくてもいいはずがない。「彼は、君が思っているほど、弱くはないよ」 静かな口調でそう言いながら、少年は目を転じると続けた。「今頃はもう、新たな『力』を身の内に見出しているだろ... [続きを読む]
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- 2008/03/08 08:426 荒神(10)
- 縛羅が放つ猛烈な『力』の渦が、次第に収束していく。 自分の手の中から生まれたその光を、玲は脱力したように呆然と見つめていた。 そんな彼に、少年が滑るように音も無く近寄ってくる。「あの斬肆と撕尸は消えた。 だけど、次の斬肆や撕尸がすぐに生まれるだろう。 同じ人間を弄んで殺したい…そんな望みや、遺体さえ単なる『物』としてしか見ない心が、人間から無くならない限りは…な」 落ち着き払ったその言葉に、玲... [続きを読む]
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- 2008/03/02 13:546 荒神(9)
- 秋の、澄み切った青い空が何処までも広がっている。 まるで…悲しみなど、存在していないかのように。 その蒼天を背にして、斬肆と撕尸は薄く笑みを浮かべながら、宮木神社を遙かに見下ろしていた。「ここか…」 幾つかの『力』が錯綜している。だが…関係無いことだ。 斬肆の言葉に無言で頷くと、撕尸は諸手に静電気を集め始めた。 彼も、すぐにそれに倣う。 高まっていく『力』を頭上に振り翳し、今にも神社の結界の中... [続きを読む]
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- 2008/03/01 14:296 荒神(8)
- 「川瀬君…」 呼びかけてくる声に驚いて足を止めると、玲は振り向き、そこに龍真の父親の姿を認めていた。「…おじさん…分かるんですか?」「あぁ。 そして、私の『力』だけでは勿論のこと、君の『力』でも、あの魔物は倒せないことも分かっている…」「…そうですね」 向き直ると、真剣な表情で玲は彼を迎えていた。「でも、僕は絶対に赦しません。 珠璃ちゃんや龍真君に、あんな酷いことをして…絶対に、赦せないんですよ... [続きを読む]
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- 2008/02/24 14:136 荒神(7)
- 「玲! 玲!」「…ん…?」 小さく伸びをすると、ベッドの上で半身を起こす。 …あれ? ここ… だが、考える暇もなく、激しい勢いと共に扉が開かれ、恵菜の叫び声が飛び込んできた。「寝てる場合じゃないわよ! 龍真君の妹が…」 姉の言葉に、驚いて跳ね起きる。「珠璃ちゃんが、どうかしたの?」 見ると、恵菜の後ろには息を切らしている和輝の姿がある。 恵菜は、玲を真っ直ぐ見つめると、臆することなく正直に伝えて... [続きを読む]
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