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- 2008/08/21 22:54第三十三話
- 「アマリアさん!」空に向かって、叫んでみる。「ヴァンツァーさん!?」今度は右手を口の横に添えて、先ほどよりも大きな声で。だが、耳を澄ましてみても、返事が返ってくる気配はない。「困りましたね……」心底困ったような表情で、ハーメルは呟いた。辺りを見回してみても、霧のヴェールが視界を遮り、殆どろくに見えるものは無い。かろうじて見える足元は、苔むしてじめじめと湿っている。この様子では、あの二人が [続きを読む]
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- 2008/08/21 12:47第三十二話
- アマリアが、小さく呻いて露に濡れた黒髪を掻き揚げた。その後ろを歩くハーメルも、いつもは風にそよいでいる金髪が、今は額にべったりと張り付いている。柔和な表情を浮かべているはずのその顔を曇らせて、上から垂れ下がっている腐ったようなシダの葉を払いのけた。先陣を切るヴァンツァーも、似たようなものだ。黒衣が身体に張り付き、銀髪から露を滴らせ、不快極まりないという顔をしている。エウロパを旅立ってから一 [続きを読む]
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- 2008/08/17 23:24第三十一話
- どこからか歌が聞こえる。優しい、それでいて力強い響きを旋律の中に秘めた、不思議な雰囲気を持つ歌だ。歌われている歌詞はどこか異国のものらしい。発音は聞き取れるが、言葉はわからない。歌っているのは、娘の柔らかな声。鈴の音の響くような、透き通った声。どこかで聞き覚えがあるような声だ。目を閉じて、淡い眠りに浸っていたヴァンツァーは、その時ようやく目を覚ました。辺りが明るくなっているのに気づいて、は [続きを読む]
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- 2008/08/10 23:19【読者交流の広場】
- 『利用に際してのルール』◆ハンドルネームは他者と重複しないようにすること。故意でなくとも重複した場合は、後に書き込まれたコメントを削除対象とする。◇連続投稿はなるべく避ける。◆他者の感情を傷つけるような書きこみはしない。◇故意に何らかの悪質な行為を繰り返す場合は、アクセス禁止処置をとります。以上のことに了解いただいた方のみ、記事の一番下にある[comment]から書き込みをどうぞ。 [続きを読む]
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- 2008/08/10 11:47読者の皆様にお知らせがあります。
- いつも当ブログをご覧いただいている皆様に、今日はお知らせがあります。実は来週から少し帰省などの予定が入りまして、一週間ほど更新が滞ることになりそうです。その気になれば携帯から更新できないことも無いのですが、やはりちゃんとしたものをお届けしたいので、しばらくお休みさせていただこうと思っています。しかしながら、ただ更新休止というだけでも面白くないので、いくつか企画のようなものを考えてみました。以 [続きを読む]
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- 2008/08/09 22:20第三十話
- ある日のことである。その日ヴァンツァーたちは、昼を過ぎた頃に新しい村につき、宿で旅の疲れを癒していた。先に泊まったエウロパと同じような、草原の中に位置する静かな農村である。夕方になると、ハーメルは歌をうたいに外に出て行き、ヴァンツァーも何時の間にか部屋にいない。一人部屋に残されベッドの上でまどろんでいたアマリアも、起き上がって小さく欠伸をすると、眠い目をこすり、夕涼を楽しみに部屋を出ていく [続きを読む]
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- 2008/08/08 23:41第二十九話
- 仄白い雲が、月明かりに照らされて、暗い空にまだら模様を描いている。エウロパを旅立った当日の夜、ヴァンツァーたちは早々に日暮れを迎える準備を終え、焚き火を取り囲んでいた。炎の中の木々が、時たま音を立ててはぜる。三人が三人とも、顔を赤々と照らされ、何かそれぞれの物思いに耽っていた。遠くの方で、オオカミの鳴き声がする。ふと、アマリアが顔を上げた。ヴァンツァーの顔を見、ハーメルの顔を見、そしてまた、 ... [続きを読む]
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- 2008/08/08 15:35第一話
- 自室の戸を叩く音を聞いて、美麗の女騎士はそちらを振り返った。「入れ」一国の大将に相応しい、威厳をもった声。扉を開けて入ってきたのは、彼女の部下であるパトリックだった。働き詰めだったのだろう。痩せた身体を包む鎧が、どことなく疲れて見える。「失礼します、ローザ様。 アマリア様をお探しするために各地に派遣した捜索隊の件なのですが……」申し訳無さそうな口調と、青い目が落ち着きなくさまよい、あちこちに ... [続きを読む]
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- 2008/08/06 13:37第二十八話
- 結局、ヴァンツァーの猛反対にもかかわらず、ハーメルは二人と行動を共にすることとなった。第一、エウロパからローケンバーグへは、多少分かれはするものの、一本道が普通だ。向かう先が同じなら、自然と一緒に歩くことになる。村人たちに見送られて村を出てから、昼過ぎ、ハーメルが思い出したようにこう言った。「いや、助かりましたよ、本当に。 特にこの先、村をいくつか過ぎた先の“霧の森”は、私ひとりでは心細くて」 [続きを読む]
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- 2008/08/05 13:36第二十七話
- その男は、名前をハーメルと言い、自分のことを吟遊詩人だと名乗った。身なりは、まさに職業の通りといった風で、つばの広いとんがり帽子には白い鳥の羽を挿し、ギターに似た風変わりな楽器を背負っていた。痩せた長身には、長年使ってきたのであろう、日に色褪せたマントを纏っている。年齢は、三十の少し手前と言ったところだろうか。風貌は落ち着いて穏やかで、表情は優しい。癖の無い長い金髪が日光を照り返す様子は、美男 ... [続きを読む]
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- 2008/08/04 17:17第二十六話
- 先ほどまでの騒乱が嘘のように、村に静けさが戻った。まだあちこちで焦げた木材などがくすぶっているが、二人が闘っている間に、どうにか火も消し止められたようだ。「ヴァンツァー!」バケツリレーをしていた村民の列の中から、ヴァンツァーのもとへアマリアが駆け寄ってきた。「大丈夫? ヴァンツァー、怪我はしていない?」「ああ」自分を気遣うアマリアに、ヴァンツァーが短く返事をする。血のついたナイフを布切れで [続きを読む]
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- 2008/08/03 18:43第二十五話
- 襲いかかって来た女の一の太刀を逆手のナイフで受け止めたヴァンツァーだが、すぐに顔をしかめた。所詮名も無い女盗賊の腕だと見くびったのが悪かった。手首が折れそうなほどの衝撃が、一気に骨にまで圧し掛かってきたのだ。二の太刀、三の太刀。重い大刀を片手で操っているにもかかわらず、その切っ先は風を唸らせ、驚くほど速く切り返される。ヴァンツァーのナイフが鋭く相手に迫る疾風を想わせるなら、女の半月刀は獲物に [続きを読む]
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- 2008/08/02 16:38第二十四話
- 「ヴァンツァー、有難う!」アマリアの声を背に浴びて、彼は闇の中へと飛び出した。何故、アマリアの言うことを聞いたのか。それは、ヴァンツァーでさえもわからないことだった。盗賊たちの頭領を探して走る間、ヴァンツァーの胸中には、数日前のアマリアの言葉がぐるぐると駆け巡っていた。――『どうして、そこまで力がありながら、無駄に命を散らせるのです。 どうして、その力を、誰かを守ることに使わないのですか』―― ... [続きを読む]
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- 2008/08/01 20:08第二十三話
- 心行くまで夕食を楽しみ、部屋に戻ったヴァンツァーたちは、すぐに眠りに就いた。明日の朝、この村を早く発つためだ。アイジスティアが自分たちの居場所に気づく前に、出来るだけ遠く離れておくのに越したことはない。だがその夜更け、白く輝く満月が空高く上ってから、彼は再び目を覚ますこととなった。闇の中に、村人とは違う、押し殺したような気配を感じたからだ。追手だろうか。するりとベッドから抜け出し、窓際に近寄る ... [続きを読む]
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- 2008/07/31 23:21第二十二話
- 「ヴァンツァー、起きて。 ヴァンツァー」誰かが、自分の名前を呼んでいる。身体を揺り動かされて、ヴァンツァーはようやく、うっすらと目を開いた。アマリアの顔が、すぐ近くにある。反射的に、考えるよりも早く、ヴァンツァーは腰のナイフを引き抜いた。アマリアが、小さく悲鳴をあげて、ヴァンツァーの方から両手を離す。気づくと、ベッドの上だった。窓の外はすっかり暗くなっている。「もう、何寝ぼけてるの?」 ... [続きを読む]
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- 2008/07/30 23:43第二十一話
- エウロパの村には、宿が一つしかなかった。丸太を組んで作られた、素朴な家々の内の一軒がそれだ。近くの森から切り出してきた木で組まれているのだろう。村のところどころに、燃料として使われるのであろう丸太が、積み重ねて天日干しにしてある。最初、人の良さそうな赤ら顔の宿の亭主は、目つきの鋭いヴァンツァーにあからさまに胡散臭そうな目を向けていた。やはり、商売人として人を見る目は確かなのだろう。ヴァンツァーの [続きを読む]
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- 2008/07/26 01:08第二十話
- それ以来、ヴァンツァーに対する彼女の態度は、明らかに変わった。今までどこかおびえた様子があったのが、さっぱり消えて無くなったのだ。喋る言葉が宮言葉から町娘の言葉に変わったのも一つの原因だろうか。まるで、月の光を浴びる白百合から、陽光の下の白薔薇に変わったようだ。彼女は、以前よりもよく笑い、よく喋るようになった。ヴァンツァーにしてみれば、有り難くない変化だっただろう。今まで自分が主導権を握っ ... [続きを読む]
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- 2008/07/25 22:31第十九話
- ノースポートを発って二日目。二人は海岸線を離れ、野原の中の一本道を歩いていた。かつてはアイジスティアとローケンバーグをつなぐ唯一の道ということもあり、それなりに人通りもあったのだが、今はそんなことなど忘れ去られたように、道は整備されず、草花に埋めつくされようとしている。「空が、綺麗だね」ヴァンツァーの後をついて歩きながら、アマリアが言った。先を進んでいたヴァンツァーが、振り返って、呆れたよ [続きを読む]
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- 2008/07/23 23:05第六話
- 砂も燃えるような灼熱の暑さの中を、緋色のボーボー鳥が凄まじい速度で突っ切っていく。リーシャが歓声を上げて身を躍らせ、鞍の上に片手で逆立ちになった。曲芸士さながらの平衡感覚だ。しかも、そのままの体勢で後ろを振り返る。「ルー! 方向こっちでいいわけ!?」「し、知らないよ!」風でターバンが飛ばないように両手で押さえつけながら、後方座席で縮こまっているルーファスが答えた。声が涙声だ。「何よ! そん ... [続きを読む]
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- 2008/07/22 22:01第十八話
- 大空に黒と緋色のグラデーションを描き、今まさに太陽が海の向こうに沈もうとしている。「綺麗な夕陽ですね。 空が燃えているみたい」大きな木の陰に寄せて、火を起こそうとしていたヴァンツァーは、その声にふっと顔を上げた。紅い目を細めて、落日を見つめる。何度も見たことがある風景だった。だが、こんなに美しいと感じたのは、恐らく生まれて初めてだろう。あるいは、忘れていたのかもしれない。初めてこの風景を見た ... [続きを読む]
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- 2008/07/22 00:09第十七話
- 「言葉遣いを直せ」ヴァンツァーがそう言いだしたのは、二人がノースポートを経って、まだ間もない頃である。空高く上った太陽が少しだけ傾き始めた、煌めく海が見える丘の上の街道を歩いていた時のことだ。ノースポートの白壁は小さいながらもまだ背後に見え、アマリアは無言で足早に歩くヴァンツァーの後を、気まずい空気を味わいながら歩いていた。たまに小走りにならなければ、彼の大きめの一歩には追いつけない。ゆるやか ... [続きを読む]
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- 2008/07/21 00:25第五話
- 「すごいっ!」歓声を上げて、リーシャは大きな鳥の長い首に飛びついた。巨大な鳥が、小柄な娘に抱きつかれて、苦しそうな鳴き声をあげる。「おいおい、嬢ちゃん、あんまりボブをいじめないどいてくれよ。 うちの稼ぎ頭なんだから」肥え太った腹をゆすって笑いながら、豊かな口髭をたくわえた商人が言った。「すみません……」ちょうど商人にお金を渡そうとしていたルーファスが、慌てて謝った。勢いよく頭を下げた拍子に [続きを読む]
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- 2008/07/19 19:04第十六話
- 「起きろ」どこか遠くで声が聞こえる。「おい、起きろ」いや、近い。すぐ近くだ。何度目かに揺り動かされて、ようやく王女は目を覚ました。ゆっくりと目をあけると、銀髪、紅い目の男が、こちらを覗き込んでいるのがぼんやりと見える。「あっ」小さく叫び声をあげて、王女は勢いよく身を起こした。瞬間、脳裏に昨日の出来事がよみがえる。部屋の中を見回してみると、転がっていた死体は影も形もないが、果たしてそこ [続きを読む]
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- 2008/07/18 00:15第四話
- 「そういえば、あなたの名前はなんて言うの?」「ルーファスです」「へぇ、名前まで女の子みたいね」そう言うとリーシャはまた、鈴の音のような軽やかな笑い声を発した。ルーファスが苦笑いを浮かべる。本来なら怒るべきところなのかも知れないが。豪勢な昼食を終えた二人は、大勢の人が行き交う砂の都の大通りを歩いていた。リーシャはすいすいと人混みを避けて進んでいくが、ルーファスのほうは人とぶつかっては謝り、道 ... [続きを読む]
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- 2008/07/17 00:43第十五話
- 物も言わずにぽろぽろと涙をこぼす王女を見て、暗殺者はほとほと呆れたと言うようにため息をついた。「こいつらはお前を殺そうとしたんだぞ」自分の周囲に転がる死体を、見回しながら言う。「だから……、どうしたというのです……」消え入りそうな声で、アマリアが答えた。「自分を殺そうとした者たちの死を悼むのか」気持ちを静めるために、何度も深呼吸をしてから、「いけないですか」彼女は言う。「貴方の命も、 ... [続きを読む]
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