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- 2007/11/02 03:5920. 青信号
- 夜の公園のベンチで、人目も憚らず泣いた。 私は自分のことをどちらかというと、情の薄い人間だと思っていた。誰もが泣いたという映画を観ても泣けなかったし、高校の卒業式だって、みんなと笑って別れることができた。 そんな自分がこんなにも、たった一人によって、簡単に泣かされてしまうなんて。「悪いんだけど、別れて欲しい」 珍しく待ち合わせ場所に遅れずに来た彼は、話しにくそうに顔をゆがめて言った。 その ... [続きを読む]
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- 2007/09/19 04:2819. 必ず戻る
- 程よく薄暗い居酒屋の店内は、緩やかに眠気を誘発する。 一緒に飲みに来た大学の部活連中は、今は誰かの恋愛話で盛り上がっているらしい。同じゼミの女の子が好きなんだけどどうしよう、とか、そういう大学生にありがちな話。それでも身近な誰かの恋愛話というのは何よりの酒の肴であって、みんな異常に喰いつきがいい。俺もさっきから、「がんばれよ」とか、「もっと積極的にアピールしていけよ」とか、適当に話を合わせてい ... [続きを読む]
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- 2007/08/27 01:5718. コンクリ
- 子どもの頃の最も鮮明な記憶は、コンクリートのざらつきと、冷たい感触。 僕たちが住んでいたのは、良く言えば現代風の、悪く言えば無機質すぎる、打ちっぱなしのコンクリートでできたマンションだった。決して部屋数の多くない一棟のマンションという閉鎖的なコミュニティの中で、同じ歳同士だった僕たちは、必然的に仲良くなった。今となっては何がそんなに楽しかったのだろうと不思議に思うけれど、僕らは毎日のように、階 ... [続きを読む]
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- 2007/08/06 04:3417.神様に
- ポケットに入れた手は一向に温まる気配がなく、思わずまた口元へ持ってきて「はあっ」と息を吹きかける。時計は0時を少し回ったところで、いつもなら閑散としているはずの道路は、出店やら行列に並ぶ人やらで賑わっていた。みんな初詣に来ているのだ。「姉ちゃん、こっち!」 人だかりの中から、弟が手を上げて叫ぶ。私は「すみません」を繰り返しながら、人の波を掻き分けてなんとか弟の待つ場所へたどり着いた。「まったく ... [続きを読む]
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- 2007/07/30 07:1716.パラノイア
- 布団にもぐってから寝るまでは、私の時間だ。その、誰にも邪魔されることなく、自由に思考をめぐらすことのできる時間が、私は好きだった。どんな妄想をしても、危ないことを考えても咎められない、そういう時間。ベッドに入り電気を消してまず私は、私の中の彼に話しかける。ハロー、ハローと。「やあ、元気にしてた?」 私の呼びかけに応じて彼は答える。彼と言っても、私の中に存在しているのだから彼とは私のことで、でも ... [続きを読む]
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- 2007/07/25 05:21 15.履歴書
- 冷房のよく効いたカフェの中から外を見ていると、さっきまであんなにも暑い空間にいたことが全くの嘘のように思われた。初夏のリクルートスーツがこんなにも殺人的だとは、就職活動を始めるまで全く知らなかった。夏用の生地とはいえ、普段Tシャツで過ごしている自分にとってはサウナスーツも同然だ。汗ばんだ肌にシャツがまとわりつく、あのじとっとした嫌な感覚。特にネクタイを締めた首周りは最悪だ。当然のように年中スーツ... [続きを読む]
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- 2007/07/21 02:31 14.ショルダーバッグ
- シャツの中で汗が一筋、背中をつっと流れるのを感じた。既に1つ開いていた襟元のボタンを思わずもう1つ外す。よく晴れた初夏の炎天下に、肩に食い込むショルダーバッグがずしりと重く、普段の二倍は消耗しているような気がする。 1番ホームに到着した電車は運よく空いていた。私は車両の端の椅子に腰掛け、急いで売店で買ったスポーツドリンクを開ける。汗をかいた分、水分が体の隅々にまで行き渡るような心地がした。 ... [続きを読む]
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- 2007/07/17 03:46 13.散歩道
- 午前5時を過ぎてようやく明け始めた窓の外を見て、溜息をつく。また、眠れずに朝を迎えてしまった。最近、空が暗い間に寝付けることはほとんどなかった。風邪をひいて病院へ行ったついでにそのことを話したら、一応薬をくれたものの、無理矢理眠らせるのもなんだか違和感があって、どうしてもという時以外には控えていた。眠れなくなった原因が、あんなことにあるとは思ってはいないけれど。 先月、付き合っていた人と別れ ... [続きを読む]
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- 2007/07/12 01:33 12.てるてる坊主
- 小学生くらいの時によく遊んだ運動公園で、私は友人の車を待っている。この頃はずっと、梅雨というよりは嵐に近い豪雨が降り続いていたが、雨の方で「振り疲れた」と言っているみたいに、珍しく今日は晴れていた。夏至を少し過ぎてすっかり長くなった日も、午後7時を回ってもう随分暮れかけている。流石にもう小さい子どもはいないが、ブランコの辺りで中学生の女の子2人が何やらシリアスな様子で話し込んでいる。私はそれを邪... [続きを読む]
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- 2007/07/10 02:23 11.宅配便
- 自分宛に宅配便や郵便物が届くと、例えそれがダイレクト・メールのようなものであってもなんとなく胸が躍るのは、俺だけだろうか。だから、小さい頃はいつも、昼過ぎに配達員のバイクが走ってくる音が聞こえるなり、走って外の郵便受けを覗きに行ったものだった。大抵は両親への手紙ばかりで落胆するのが落ちだったが、何度期待を裏切られてもその行為を止めることはなかった。 大学に入って一人暮らしになった今でも、帰っ ... [続きを読む]
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- 2007/07/04 05:10 10.病み上がり
- 1限のなんとも退屈な講義が半ば無意識下のうちに終了した直後、俺は今日の残りの全ての講義を休むことに決め、たまたま隣りに座っていた顔見知りに代返の約束を取り付けた。確か過去にそいつの代返を何度か頼まれてやった覚えがあるから、少しくらい借りを返してもらってもいいだろう。 効き過ぎの冷房に頭がくらくらして、ふらつきながら大教室を出た。生温かい外気にされされても、まだ体に震えがくる。今朝、ちょっと熱 ... [続きを読む]
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- 2007/06/26 02:33 09.新入生
- 俺が彼女を知ったのは、忘れもしない、1年前の入学式のことで、その時俺たちはお互いに、この高校へ入ったばかりの新入生だった。 この高校は一応、県下では有数の進学校というやつだったのだが、それとは全く関係なく家から徒歩10分という理由で俺の第一志望校になった。ここを受験すると告げた時、中学の担任は血相を変えてたくさんのパンフレットを持ち出し、他にもいい学校はあると泣き落としにかかったが、朝が苦手 ... [続きを読む]
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- 2007/06/19 04:27 08.笑い声
- 俺は知らなかった。昼下がりの自分の部屋が、こんなにも笑い声で満たされる空間だったなんて。 6月のその日俺は、38度の高熱を出して、4月に入社して以来初めて会社を休んだ。梅雨に入る頃にはよく体調を崩していたが、一人暮らしになってからは初めてのことで、改めて実家暮らしの素晴らしさを身に染みて感じてしまう。少しでも食料を買い溜めておけばよかったが、いつも外食かコンビニ、精々スーパーの惣菜で済ませて ... [続きを読む]
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- 2007/06/11 03:10 07.半熟
- 私は静かにすすり泣く彼女を前に、なす術を持たなかった。 泣いている理由は、男に二股をかけられて振られたとかそういう風なことで(冷静さを欠いた彼女の途切れ途切れの説明では、詳細な状況を把握するのは不可能だった)、私の記憶が確かなら、彼女が男のことで泣くのはこれが初めてではない。私達は市内のまあまあ有名な女子高に通っていた。未だに女子高という存在に幻想を抱いている人もたまに見かけるが、実際は合 ... [続きを読む]
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- 2007/06/09 01:25 06.正直なヤツ
- 僕が彼と二人で居残ることになったのは、ほんの偶然だった。僕は普段はそんなに成績は悪い方ではないのだが、どちらかというと数学が少し苦手で、この前の中間考査で生まれて初めて赤点というものを取ってしまった(言い訳をするつもりはないが、数学の試験日は頗る体調も悪かったのだ)。そうして彼は、数学は抜群に出来るのだが、その他は軒並み平均以下、英語に至ってはいつも赤点という有様だった。そこで、自分のクラスか... [続きを読む]
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- 2007/06/06 09:24 05.バランス
- なんとなくバランスが悪い、と私は思う。 バランスが悪いというのは、さっきまで弾いていたピアノのことである。今練習しているのはバッハのインベンションだ。通常ピアノ曲は、右手で主旋律を弾き、左手で伴奏するという形が圧倒的に多いのだが、インベンションでは右に左に忙しく主題が展開し、そのどちらもが主役でなければならない。しかしどうしても今までの感覚から抜け出せず、左手が右手に遠慮してしまい、理想のバ ... [続きを読む]
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- 2007/05/30 01:07 04.マシュマロ
- 僕はあの、マシュマロというモノがどうも苦手だ。生白くて、きめ細かくて、押せばどこまでも沈み込みそうな弾力。そう、あれは女の体を彷彿とさせる。例えば、二の腕あたりを。そう思うと、なんだか口に入れるのが憚られてしまうのだ。 だから僕は、大学の大教室でたまたま隣りに座った、コンビニで百円で売っているマシュマロをリズム良く次々口に放る彼女を、少々侮蔑のこもった目で見る。それを物欲しげな眼差しと取った ... [続きを読む]
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- 2007/05/29 07:50 03.満員電車
- すれ違う電車の風圧で、車体は音を立てて大きく揺れた。その拍子に、遠くを彷徨っていた意識が戻ってくる。どうやら立ったまま半分寝ていたらしい。 まさかと思って、電光掲示板に表示される駅名と、自分の腕時計を見比べる。大丈夫、乗り過ごしてはいない。始業時間にも普通に間に合いそうだ。確認して、ほっと胸を撫で下ろした。 いつも乗っているこの時間の都営地下鉄は、乗客率130%を超えていると言っても過言 ... [続きを読む]
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- 2007/05/22 03:06 02.同罪
- その日は雨で、いつにも増して授業に身が入らなかった。黒板に並ぶ筆記体の英語も、それを読むクラスメイトの抑揚のない声も、どこか遠い国のお経のようで、自分にとっては何一つ意味をなさなかった。 意識は早々に授業から離脱して、僕は頬杖をつき窓の外ばかり見ていた。そこに広がるのはいつもと同じ景色のはずなのに、雨が違う色に塗り替えたせいで、なんだかよそよそしく感じられた。 普段は真面目な生徒だったし ... [続きを読む]
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- 2007/05/20 04:44 01.ダッフルコート
- 「冬が好きだ」と、知り合って間もなく彼女は言った。 なぜなら冬には、コートを着ることができるからだと。 彼女は冬になると、メルトン生地の、深い藍色のダッフルコートを好んでよく着ていた。他のどんなタイプのコートが流行っても、やはり彼女のお気に入りはそれだったし、僕から見てもそれが一番似合っている気がした。「分厚いコートを着ると、自分が小さくなって完全に隠れてしまうみたいな気がして、安 ... [続きを読む]
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- 2007/05/20 03:44 物書きさんに20のお題・青
- 「物書きさんに20のお題・青」に挑戦したいと思います。■□青□■01.ダッフルコート02.同罪03.満員電車04.マシュマロ05.バランス06.正直なヤツ07.半熟08.笑い声09.新入生10.病み上がり11.宅配便12.てるてるぼうず13.散歩道14.ショルダーバック15.履歴書16.パラノイア17.神様に18. ... [続きを読む]
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