- 2008/05/11 21:41After Concert -13-
- 消毒液の匂いが鼻につく。いつもなら何も感じないのに、やけに気になる。逃げ出したい。何もかもから、逃げ出したい。中に入る事の許されない僕達に、彼女の妹が説明をしてくれている。扉の向こうに居る、彼女に起きた事を。不慮の事故、という奴だ。彼女は朝から熱があって眩暈がしていた、という。だから部屋で寝ていたのだ。午後になってようやく動けるようになった彼女は、階下へ行こうとしていた。飲み物でも取りに行くつもり [続きを読む]
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- 2008/04/20 21:02After Concert -12-
- 休みの日はどうも気が抜ける。昼に近い時間に目が覚めたり、残った課題を明日に回したり、とかくやる気が無い。そういえば彼女から連絡が来ていた。『昨日は色々とゴメン。眩暈がしてふらふらすると思ったら熱があったよ。休みは大人しくしてる。練習は出来そうにないかも。』朝晩冷えるようになってきたからな、と返信しておく。風邪なら仕方無い。逆に本番前で良かったと思う。本番を休まれると困る。無理して出て貰う訳にもい... [続きを読む]
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- 2008/04/15 23:04After Concert -11-
- 練習は無事に終わった。無事にと言っても、単に揉めたりしなかったというだけだ。全員口数が少なかったし、僕は二人の顔をまともに見る事が出来なかった。当然そんな状態では通し練習は出来ない。結局個人練習と微調整だけで終わった。やらないよりは良かったかもしれない。今日幾度もついた溜息を、もう一つ。気付けば先輩達の姿は無かった。彼女の妹も居ない。どうやら先に帰ってしまったらしい。残っているのは僕と彼女だけだ... [続きを読む]
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- 2008/04/11 17:16After Concert -10-
- 「俺は間違ってるとは思わねーけど」僕の話を聞いた友人はそう言い切った。「俺も同じ立場だったら断るし」友人にも彼女から連絡があったそうだ。妹が酷く落ち込んでいる、心当たりは無いか、等と聞かれたとの事だ。友人の兄とは別に連絡をしたのだろう。「妹思いで良いお姉ちゃんなんだろうけどね」「過保護は良くねえよ」「過保護、ね…」「相手の気持ち放ったらかして付き合えって有り得ねえよ。大昔じゃあるまいし」後ろめた... [続きを読む]
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- 2008/04/10 17:51After Concert -9-
- 一体何があったのか。朝、彼女が僕を捕まえて言った台詞がこれだった。上着の襟を掴まれたまま問い詰められる様は、傍から見れば滑稽だろう。「何…って、何?」「誤魔化さないで。あの子と何があったのよ?」あの子。彼女の妹の事だろう。彼女の話によると、昨日帰ってから妹の元気が無かったらしい。今までに無いくらい落ち込んでいたそうだ。本人に理由を尋ねてみても何も答えない。先輩や彼女の友人達に聞いてみても何も知ら... [続きを読む]
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- 2008/04/08 21:59After Concert -8-
- 消え入りそうな声で、彼女の妹は続ける。尊敬しています、と。「近くで見て、一緒に練習して、改めてそう思ったんです」「…それで?」頬を撫でる風が、冷たさを増していく。僕の声も同じだ。落ち葉が転がり、乾いた音を立てる。伝えたい事はまだ有るはずだ。僕の予想が外れていなければ。それは、外れて欲しい予想だ。促しておきながら、言ってくれるなと思う。矛盾。覚悟はしているのだろう。だから、その気持ちだけは、受け止... [続きを読む]
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- 2008/04/04 22:42After Concert -7-
- 手元にテープが届いた時には、既に閉館時間に近かった。もう一度通し練習をする時間は無い。「休みに練習するか…」ヴィオラの先輩がカレンダーを睨んでいる。本番までに残された時間は充分とは言えない。今は週末の休みも惜しいくらいだ。だからと言って休みに集まる訳にもいかない。「俺の家にゃピアノ無いからな」「それ以前に家が遠すぎるよ」「ピアノ以外は二人ずつで練習出来そうだけど」そうだった。友人に言われて思い出... [続きを読む]
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- 2008/04/01 22:44After Concert -6-
- 通し練習、第一回。教室に入ると、先生が何やら準備をしていた。年季の入ったレコーダらしきものをセットしている。曰く、客観的に聞くには録音が一番、との事だ。傍らには人数分のカセットテープ。録音媒体はカセットしか無いらしい。少しばかり古めかしいが、仕方がない。「劣化はするが、テープが一番綺麗に録れるんだぞ」「初耳です」「簡単に言えばちょっと前のデジカメとフィルムカメラみたいなものだ」要領を得ない回答だ... [続きを読む]
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- 2008/03/22 21:28After Concert -5-
- 演奏しては修正し、修正しては議論をする。僕らの曲作りはそんな調子で進んでいった。大幅な変更は無かったが、音やリズムの変更は頻繁にあった。そこに「満足」や「妥協」といった言葉は無い。この曲に完成があるとすれば、それは「一番納得の出来る妥協点」なのかもしれない。作った僕でさえも解らないゴール。それで良かったのかもしれない。これはもう僕の曲ではない。クインテットの曲だ。特に彼女は弦楽器パートの調整役と... [続きを読む]
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- 2008/03/19 22:11After Concert -4-
- そもそも、僕には弦楽器の知識が無い。音域も解らない。ハ音記号なんて見たことも無ければ聞いたことも無い。仕方なく、ピアノと同じ雰囲気で弦楽器のパートを埋めていった。ヴィオラの先輩曰く、合唱と同じ雰囲気で良いとの話だった。つまり、ヴァイオリンをソプラノ、ヴィオラをアルト、チェロをテノールに見立てる。僕は練習している合唱曲とパッヘルベルのカノンを参考に、何とか形にしたのだった。出来は酷いだろう。後は、... [続きを読む]
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- 2008/03/14 23:53After Concert -3-
- 話に花を咲かせるカルテット(改め親類縁者と愉快な友人)を尻目に、僕は練習の準備に入る。書き上げた曲にざっと目を通す。三分強の短い曲。今のところ、訂正箇所は見当たらない。このまま行けば良いのだけど、と譜面を広げる。「せ…先輩、手書きの譜面なんですか?」ぎょっとして振り向く。いつの間に来たのか、背後に彼女の妹が居た。「うん、自作だし」「自作…って、その、えっと、先輩が作られたんですか…?」「そうだよ」... [続きを読む]
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- 2008/03/07 21:42After Concert -2-
- 「で、お前、そのカルテットと一緒に練習してる訳?」「うん」「へぇ…去年の変わり種二組がねぇ」一限目終了後、友人は呆れとも感心ともつかぬ声でそう言った。結局昨日は殆ど練習にならなかった。件のカルテットに気を取られていたのもあるし、あの時点では自分の演奏曲が未完成だったというのもあった。まだ誰にも伝えていないが、今年は自作曲を発表するつもりなのだ。昨日家に帰ってから、ようやく完成した。題名は、決まっ... [続きを読む]
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- 2008/03/05 22:54After Concert -1-
- 鞄から楽譜を取り出し、セットする。ピアノと僕だけの時間。深呼吸を一つ、鍵盤に指を滑らせる。ドビュッシー「月の光」。練習前の指慣らしとして、飽きるくらい弾いている曲だ。放課後なのに、校内は賑やかだった。それというのも、迫っている文化祭の準備に追われているからだ。模擬店舗の打ち合わせや、各部活の出し物、気の合う連中と組んでやる出し物―――有志発表の練習がそこかしこで行われている。ただ、僕の居るこの音... [続きを読む]
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- 2008/03/01 22:31After Concert〜静寂〜
- 終わりは始まりだと、人は言う。だが、終わりは終わりでしか無い。その先には、何も無い。誰が為に、と彼は思う。何の為に、と彼は問う。その一瞬が、その儚さが、永遠に変わる。永遠と言う名の、最果て。永遠と言う名の―――。 [続きを読む]
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- 2008/02/29 23:55Blue Scraper〜碧海〜
- 碧。鏡の如き純粋と、深淵に等しき深さ。全てを包み、全てを飲み込む色。碧。それは静寂の色。全ての色。触れ合う色。水面を空に映し、白波の雲を引く。魂の紡ぐ絆。境界無き心。少年と少女の見つめる先、水面は何も答えない。その心を映し、ただあるがままに。 ... [続きを読む]
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- 2008/02/29 23:52Blue Scraper -13-
- 黄昏色の空が群青に変わる頃、僕らは出店から少し離れた堤防に腰掛けていた。活気と熱気から離れるだけで、風がこんなにも涼しくて気持ちが良い。「…良かったの?」「何が」「その、友達」彼女の言う友達とは、あの子の事だ。少し前、出店で逢ったのだ。一緒にいた相手は、先輩ではなく、クラスメート。女子グループで集まってここに来ていたのだ。何でも、近くのお祭りは来週だったらしい。それで僕から聞いていた花火大会に友... [続きを読む]
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- 2008/02/26 22:41Blue Scraper -12-
- 電車がやってくる。レールを軋ませ、ゆっくりと。車両は、見る限り満席。ドアが開くとぞろぞろと客が降りてくる。夕方、六時を少し過ぎた頃。岬は賑やかだった。いつも岬に陣取っているカメラマンは姿も見えない。その代わりに家族連れやカップルが岬を埋め尽くしている。浴衣を着た女の子、甚平姿のおじさん、まだ歩き始めたばかりの小さな子供もいる。皆、今日の花火大会にやってきた人達だ。その人の流れに押し出されるように... [続きを読む]
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- 2008/02/22 22:07Blue Scraper -11-
- 水平線の向こうから現れたそれは、最初は小さな点だった。空に穿たれた、針の穴のような点。それがみるみる大きくなる。ヒバリの様に高いところを舞うそれは、しかし美しい歌声ではなくジェットノイズを鳴り響かせる。甲高い音が激しく空気を震わせ、岬を、僕らを突き刺す。F-2、支援戦闘機。非公式の愛称を「VIPER ZERO」と言う。F-2は高度を取りながら向かってくる。僅かに機体を傾け、緩く旋回。機体に施された洋上迷彩と日の... [続きを読む]
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- 2008/02/21 18:47Blue Scraper -10-
- 「そういえば、何でそんなに戦闘機が好きなのさ」僕がそう切り出したのは、無人の駅を二つ過ぎた頃だった。誰かが乗り込むこともなく、未だに僕ら二人きり。次の駅を知らせる車内アナウンスが、やけに大きく聞こえる。「何でって聞かれても…」彼女は少し困ったように沈黙する。「単純に格好いいとか、そういう理由?」「それもあるけど…」言葉を探すように、視線が流れる。その先の海が陽を浴びて、眩しく輝いている。「んー…... [続きを読む]
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- 2008/02/16 12:32Blue Scraper -9-
- 補習最終日。テストが返ってきた。すっかり忘れていた先週のテストも一緒に。肝心の成績は、先週のテストの方が若干良かった。多分、見直す時間の違いだろう。先週は穴が空くほど見直したが、昨日は数回見直した程度だ。事実、昨日のテストは簡単なスペルミスで点を落としていた。あの子を待っていたことが、皮肉にも成績上昇に繋がっていた。そして当のあの子は、テストを頭から引っ被って凹んでいた。赤点では無いにしても良い... [続きを読む]
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- 2008/02/04 22:04Blue Scraper -8-
- 補習を一日残しての総まとめテスト。明日はテストの返却とそれの補習ということらしい。「出来たら解散なー」前回より少しだけレベルアップしたテストだったが、割合早く仕上がった。隣のあの子は相変わらず苦戦しているようだった。それを横目に、僕は席を立つ。あの子は驚いたように僕を見て、小声で訊いてきた。「終わるの早くない?」「実力の差」僕も小声で返す。前回は単にあの子を待っただけだ。待つ必要がなければ、すぐ... [続きを読む]
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- 2008/01/23 21:41Blue Scraper -7-
- 明日はまとめのテストだという担当先生の言葉を背に、僕はある場所へと急いだ。行く先は、美術室。全く縁のない場所なので、とりあえず職員室で場所を聞いてから向かう。駅に近い補習教室とは違い、美術室は最果てにあった。電車に乗り遅れるのも無理からぬことだ。美術室に近付くにつれ、油絵の具の匂いや造形に使う粘土の匂いがしてくる。美術室独特の匂いだ。廊下はしんと静まり返っている。本当に美術室に誰か居るのだろうか... [続きを読む]
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- 2008/01/22 21:00Blue Scraper -6-
- ロクに眠れないまま翌日の補習を受けた。程よく調整された室温が、良い具合に眠気を誘う。寝る寸前で、隣から突かれて目を覚ます。昼休みまでに、それを四回は繰り返したと思う。「あんた、寝てないの?」昼休み、あの子は呆れた様子でそう言ってきた。「暑くてねぇ」「クーラーとか扇風機とか、タイマーにして寝ればいいじゃん」「僕はエコロジストなんだよ」持ってきたサンドイッチが喉を通らない。食欲もあまり無いのだ。「ホ... [続きを読む]
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- 2008/01/19 23:14Blue Scraper -5-
- 土日にしていたことと言えば、昼くらいまでだらだらして、夜は夜でだらだらして、夏休みの暑さ生活を満喫していたことくらいだ。復習がどうとか担当の先生が言っていたような気がするが、真面目にやっているはずがない。多分、僕以外でも同じことだろう。あの子は、もしかしたらやっているかもしれない。恋っていうのは、そういうものだろう。メールでからかってやろうとも思ったけれど、止めた。残念ながら、傷はまだ癒えていな... [続きを読む]
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- 2008/01/17 21:00Blue Scraper -4-
- 帰りに聞き出す、と意気込んでいたからか、授業中は落ち着かなかった。焦っていたのかもしれない。隣のあの子に「何か必死そうな顔してるー」とまで言われてしまったくらいだからだ。トドメは、担当先生の一言。「まぁ、今日で半分だからな。中間テスト代わりにちょっとやるぞー」えぇーっというブーイングに構わず、用紙を配り始める先生。そりゃ無いよ、と僕も肩を落とした。焦りに拍車が掛かる。「まー、終わった者から提出し... [続きを読む]
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