|
- 2008/04/04 22:42After Concert -7-
- 手元にテープが届いた時には、既に閉館時間に近かった。もう一度通し練習をする時間は無い。「休みに練習するか…」ヴィオラの先輩がカレンダーを睨んでいる。本番までに残された時間は充分とは言えない。今は週末の休みも惜しいくらいだ。だからと言って休みに集まる訳にもいかない。「俺の家にゃピアノ無いからな」「それ以前に家が遠すぎるよ」「ピアノ以外は二人ずつで練習出来そうだけど」そうだった。友人に言われて思い出... [続きを読む]
|
- 2008/04/01 22:44After Concert -6-
- 通し練習、第一回。教室に入ると、先生が何やら準備をしていた。年季の入ったレコーダらしきものをセットしている。曰く、客観的に聞くには録音が一番、との事だ。傍らには人数分のカセットテープ。録音媒体はカセットしか無いらしい。少しばかり古めかしいが、仕方がない。「劣化はするが、テープが一番綺麗に録れるんだぞ」「初耳です」「簡単に言えばちょっと前のデジカメとフィルムカメラみたいなものだ」要領を得ない回答だ... [続きを読む]
|
- 2008/03/22 21:28After Concert -5-
- 演奏しては修正し、修正しては議論をする。僕らの曲作りはそんな調子で進んでいった。大幅な変更は無かったが、音やリズムの変更は頻繁にあった。そこに「満足」や「妥協」といった言葉は無い。この曲に完成があるとすれば、それは「一番納得の出来る妥協点」なのかもしれない。作った僕でさえも解らないゴール。それで良かったのかもしれない。これはもう僕の曲ではない。クインテットの曲だ。特に彼女は弦楽器パートの調整役と... [続きを読む]
|
- 2008/03/19 22:11After Concert -4-
- そもそも、僕には弦楽器の知識が無い。音域も解らない。ハ音記号なんて見たことも無ければ聞いたことも無い。仕方なく、ピアノと同じ雰囲気で弦楽器のパートを埋めていった。ヴィオラの先輩曰く、合唱と同じ雰囲気で良いとの話だった。つまり、ヴァイオリンをソプラノ、ヴィオラをアルト、チェロをテノールに見立てる。僕は練習している合唱曲とパッヘルベルのカノンを参考に、何とか形にしたのだった。出来は酷いだろう。後は、... [続きを読む]
|
- 2008/03/14 23:53After Concert -3-
- 話に花を咲かせるカルテット(改め親類縁者と愉快な友人)を尻目に、僕は練習の準備に入る。書き上げた曲にざっと目を通す。三分強の短い曲。今のところ、訂正箇所は見当たらない。このまま行けば良いのだけど、と譜面を広げる。「せ…先輩、手書きの譜面なんですか?」ぎょっとして振り向く。いつの間に来たのか、背後に彼女の妹が居た。「うん、自作だし」「自作…って、その、えっと、先輩が作られたんですか…?」「そうだよ」... [続きを読む]
|
|
|
- 2008/03/07 21:42After Concert -2-
- 「で、お前、そのカルテットと一緒に練習してる訳?」「うん」「へぇ…去年の変わり種二組がねぇ」一限目終了後、友人は呆れとも感心ともつかぬ声でそう言った。結局昨日は殆ど練習にならなかった。件のカルテットに気を取られていたのもあるし、あの時点では自分の演奏曲が未完成だったというのもあった。まだ誰にも伝えていないが、今年は自作曲を発表するつもりなのだ。昨日家に帰ってから、ようやく完成した。題名は、決まっ... [続きを読む]
|
- 2008/03/05 22:54After Concert -1-
- 鞄から楽譜を取り出し、セットする。ピアノと僕だけの時間。深呼吸を一つ、鍵盤に指を滑らせる。ドビュッシー「月の光」。練習前の指慣らしとして、飽きるくらい弾いている曲だ。放課後なのに、校内は賑やかだった。それというのも、迫っている文化祭の準備に追われているからだ。模擬店舗の打ち合わせや、各部活の出し物、気の合う連中と組んでやる出し物―――有志発表の練習がそこかしこで行われている。ただ、僕の居るこの音... [続きを読む]
|
- 2008/03/01 22:31After Concert〜静寂〜
- 終わりは始まりだと、人は言う。だが、終わりは終わりでしか無い。その先には、何も無い。誰が為に、と彼は思う。何の為に、と彼は問う。その一瞬が、その儚さが、永遠に変わる。永遠と言う名の、最果て。永遠と言う名の―――。 [続きを読む]
|
- 2008/02/29 23:55Blue Scraper〜碧海〜
- 碧。鏡の如き純粋と、深淵に等しき深さ。全てを包み、全てを飲み込む色。碧。それは静寂の色。全ての色。触れ合う色。水面を空に映し、白波の雲を引く。魂の紡ぐ絆。境界無き心。少年と少女の見つめる先、水面は何も答えない。その心を映し、ただあるがままに。 ... [続きを読む]
|
- 2008/02/29 23:52Blue Scraper -13-
- 黄昏色の空が群青に変わる頃、僕らは出店から少し離れた堤防に腰掛けていた。活気と熱気から離れるだけで、風がこんなにも涼しくて気持ちが良い。「…良かったの?」「何が」「その、友達」彼女の言う友達とは、あの子の事だ。少し前、出店で逢ったのだ。一緒にいた相手は、先輩ではなく、クラスメート。女子グループで集まってここに来ていたのだ。何でも、近くのお祭りは来週だったらしい。それで僕から聞いていた花火大会に友... [続きを読む]
|
- 2008/02/26 22:41Blue Scraper -12-
- 電車がやってくる。レールを軋ませ、ゆっくりと。車両は、見る限り満席。ドアが開くとぞろぞろと客が降りてくる。夕方、六時を少し過ぎた頃。岬は賑やかだった。いつも岬に陣取っているカメラマンは姿も見えない。その代わりに家族連れやカップルが岬を埋め尽くしている。浴衣を着た女の子、甚平姿のおじさん、まだ歩き始めたばかりの小さな子供もいる。皆、今日の花火大会にやってきた人達だ。その人の流れに押し出されるように... [続きを読む]
|
- 2008/02/22 22:07Blue Scraper -11-
- 水平線の向こうから現れたそれは、最初は小さな点だった。空に穿たれた、針の穴のような点。それがみるみる大きくなる。ヒバリの様に高いところを舞うそれは、しかし美しい歌声ではなくジェットノイズを鳴り響かせる。甲高い音が激しく空気を震わせ、岬を、僕らを突き刺す。F-2、支援戦闘機。非公式の愛称を「VIPER ZERO」と言う。F-2は高度を取りながら向かってくる。僅かに機体を傾け、緩く旋回。機体に施された洋上迷彩と日の... [続きを読む]
|
- 2008/02/21 18:47Blue Scraper -10-
- 「そういえば、何でそんなに戦闘機が好きなのさ」僕がそう切り出したのは、無人の駅を二つ過ぎた頃だった。誰かが乗り込むこともなく、未だに僕ら二人きり。次の駅を知らせる車内アナウンスが、やけに大きく聞こえる。「何でって聞かれても…」彼女は少し困ったように沈黙する。「単純に格好いいとか、そういう理由?」「それもあるけど…」言葉を探すように、視線が流れる。その先の海が陽を浴びて、眩しく輝いている。「んー…... [続きを読む]
|
- 2008/02/16 12:32Blue Scraper -9-
- 補習最終日。テストが返ってきた。すっかり忘れていた先週のテストも一緒に。肝心の成績は、先週のテストの方が若干良かった。多分、見直す時間の違いだろう。先週は穴が空くほど見直したが、昨日は数回見直した程度だ。事実、昨日のテストは簡単なスペルミスで点を落としていた。あの子を待っていたことが、皮肉にも成績上昇に繋がっていた。そして当のあの子は、テストを頭から引っ被って凹んでいた。赤点では無いにしても良い... [続きを読む]
|
- 2008/02/04 22:04Blue Scraper -8-
- 補習を一日残しての総まとめテスト。明日はテストの返却とそれの補習ということらしい。「出来たら解散なー」前回より少しだけレベルアップしたテストだったが、割合早く仕上がった。隣のあの子は相変わらず苦戦しているようだった。それを横目に、僕は席を立つ。あの子は驚いたように僕を見て、小声で訊いてきた。「終わるの早くない?」「実力の差」僕も小声で返す。前回は単にあの子を待っただけだ。待つ必要がなければ、すぐ... [続きを読む]
|
- 2008/01/23 21:41Blue Scraper -7-
- 明日はまとめのテストだという担当先生の言葉を背に、僕はある場所へと急いだ。行く先は、美術室。全く縁のない場所なので、とりあえず職員室で場所を聞いてから向かう。駅に近い補習教室とは違い、美術室は最果てにあった。電車に乗り遅れるのも無理からぬことだ。美術室に近付くにつれ、油絵の具の匂いや造形に使う粘土の匂いがしてくる。美術室独特の匂いだ。廊下はしんと静まり返っている。本当に美術室に誰か居るのだろうか... [続きを読む]
|
- 2008/01/22 21:00Blue Scraper -6-
- ロクに眠れないまま翌日の補習を受けた。程よく調整された室温が、良い具合に眠気を誘う。寝る寸前で、隣から突かれて目を覚ます。昼休みまでに、それを四回は繰り返したと思う。「あんた、寝てないの?」昼休み、あの子は呆れた様子でそう言ってきた。「暑くてねぇ」「クーラーとか扇風機とか、タイマーにして寝ればいいじゃん」「僕はエコロジストなんだよ」持ってきたサンドイッチが喉を通らない。食欲もあまり無いのだ。「ホ... [続きを読む]
|
- 2008/01/19 23:14Blue Scraper -5-
- 土日にしていたことと言えば、昼くらいまでだらだらして、夜は夜でだらだらして、夏休みの暑さ生活を満喫していたことくらいだ。復習がどうとか担当の先生が言っていたような気がするが、真面目にやっているはずがない。多分、僕以外でも同じことだろう。あの子は、もしかしたらやっているかもしれない。恋っていうのは、そういうものだろう。メールでからかってやろうとも思ったけれど、止めた。残念ながら、傷はまだ癒えていな... [続きを読む]
|
- 2008/01/17 21:00Blue Scraper -4-
- 帰りに聞き出す、と意気込んでいたからか、授業中は落ち着かなかった。焦っていたのかもしれない。隣のあの子に「何か必死そうな顔してるー」とまで言われてしまったくらいだからだ。トドメは、担当先生の一言。「まぁ、今日で半分だからな。中間テスト代わりにちょっとやるぞー」えぇーっというブーイングに構わず、用紙を配り始める先生。そりゃ無いよ、と僕も肩を落とした。焦りに拍車が掛かる。「まー、終わった者から提出し... [続きを読む]
|
- 2008/01/16 21:09Blue Scraper -3-
- 何故か、駅には僕を含めて三人の待ち人。僕と、自称美術部の彼女と、そして僕の女友達。「ああもう最っ低!何であたしが電車に乗り遅れんのよ!!」大人しい彼女と比べ、この子はとてつもなく騒がしい。まぁ、目の前でドアが閉まれば、叫びたくなるのも解る。「乗り遅れるなんて珍しいな」「全くよ!」彼女とこの子は対照的だ。如何にも文化系な彼女に比べ、この子は体育会系の部活に入っている。女子バレー部員が、何故部活を休... [続きを読む]
|
- 2008/01/14 20:00Blue Scraper -2-
- 翌日、薄曇り。それが涼しさとは無関係なことは、暑さの代わりに増えた湿気が証明してくれる。蒸し暑い。快適とは程遠い。それでも敢えて良いところを挙げろと言われれば、直射日光が無いくらいのものだ。鬱陶しいを通り越して不快な感触は、夕立の気配を感じさせてくれる。事実、遠くに見えるのはどす黒い雨雲だ。あと十分もすれば、土砂降りの雨になる。湿気た空気を掻き乱して、今日も戦闘機は飛んでいく。そして、それを目で... [続きを読む]
|
- 2008/01/05 23:10Blue Scraper -1-
- うだる様な暑さ。「じゃーな、また明日」「ほいよ」目の前を、電車と友人達が通り過ぎて行く。僕が乗る電車まで、まだ時間がある。小さな駅に、待合室なんて気の利いた場所は無い。とりあえず、日陰に腰掛ける。これで少しは涼しいはずだ。同じく日陰を求めてふらふら歩く奴らが居る。この駅に住み着いて居る二匹の猫だ。誰が名付けたのか、並の体型を「トム」、巨体を「ボム」という。二匹ともだるそうに伸びている。夏毛とはい... [続きを読む]
|
- 2007/12/22 12:32Blue Scraper〜蒼空〜
- 蒼。永遠に近く、果て無き情景。何処までも透き通り、何処までも染み渡る色。 蒼。それは空の色。自由の色。決して届かない色。天翔る翼が、白く細く削り取っていく。銀色の翼。鋼鉄の鳥の群れ。少年と少女の見上げる果て、翼達は輪舞する。蒼を切り取り、軌跡を描きながら。 ... [続きを読む]
|
- 2007/12/18 01:31Cherry Blossom〜再会〜
- 薄くほころんだ蕾が、開いていく。それは、果たされた証。「約束」という名の、絆。結ばれた証が空に舞う。それは、季節を告げる風。「再会」という名の、花。彼は何を望んだのか。彼女は何を願ったのか。知るのはただ、消えていった花びらだけ。再会の時は流れる。それは、儚い夢ではない、確かな約束。 ... [続きを読む]
|
- 2007/12/16 23:45Cherry Blossom -16-
- 卒業式までに咲いたのは、三割にも満たなかった。それでも桜が見られて良かったと彼女は言った。最後の登校。馬鹿騒ぎした連中とも、学校で会うことは無くなる訳だ。長い長い祝辞の間、考えていたのは色んなこと。俺や、連中や、彼女のこと。今までと、これからと、変わることと変わらないこと。世話になったようななってないような担任と記念撮影したり、それなりに仲良かったクラスメイトに引っ張り回されたり、俺にとっては最... [続きを読む]
|