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- 2007/12/08 09:38Ordinary people
- 出会い系サイトで知り合った八歳年下のその男は、子持ちだった。「おかえり、パパ」とその少年は言った。「ただいま」と彼は言った。「こちら、パパの友達」「こんにちは」と俺は仕方なく言った。「こんばんは」と少年は言った。利口そうな子だ。「聞いてないぞ」 俺がそう言うと、彼は返事の代わりにライターを擦った。その足下で、少年は静かに寝息を立てている。確かに、こうしている時の彼は父親らしく見えた。女み ... [続きを読む]
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- 2007/10/14 19:30父の記憶
- 僕が覚えている一番古い記憶は、父の腕の温度だ。 たぶん僕が幼稚園の年長くらいの時、だいたい五年か六年くらい前のこと、場所はどこだろう……よくわからない。わかるのは、その心地よい暖かさと、身体全体が包まれるような力強さだ。やがて僕は父の腕の中でうとうとと眠りに誘われ、そこで記憶はぱたりと途絶える。 父の腕から、いろんなことが伝わる。優しさやら、愛情やら、そういう柔らかな感情、他にもたくさん。その... [続きを読む]
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- 2007/10/05 21:01 廻る世界
- 1 風が止み川辺の水が凪いだのを見計らって、僕は線香花火の最後の一本に火を点けた。花火は薄闇に一本の直線を描き、微動だにしない。やがて先端が弾ける。空中に花を描く。 ふと、気配を感じて振り向くと、そこに彼がいた。彼はこっちを不思議そうに見ていた。目が合うが、まるで僕のことなんか最初から見えていないみたいに、その表情にはささやかにも変化がなかった。僕は自分の手のひらをじっとみつめ、それがちゃん ... [続きを読む]
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- 2007/09/19 06:55 詩人
- 午後過ぎに予報通りの雨が降り出したので、僕たちは外へ出るのをやめ、彼女の部屋で抱き合った。雨は夏の名残に終止符を打つように、日曜日の世界を激しく叩き続けた。その音が渾然一体となって不規則なリズムを刻む。それを僕らは共に聴きながら、互いの温もりを分け合い、時間が過ぎるのを待った。 すべて終わった後で、彼女は心なしか憂鬱そうに起き上がり、何も言わず風呂場へ向かった。一人、薄暗い部屋に取り残された僕 ... [続きを読む]
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- 2007/09/15 09:02 四月 03
- 「家出しよう」と竜は唐突に言った。「……と急に言われても」と宗次郎は当然のように困惑して言った。「電車乗って」「僕、お金持ってないよ」「ええよ、俺が出すから」「でも家出する理由がないよ」「俺だってないよ」「どういうこと?」「いいからホラ」 半ば強引に手を引かれて、つい従ってしまう。断り方を知らないのだ。 それは金曜日の放課後のことで、四月も終わりに差し掛かったある午後のことだった ... [続きを読む]
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- 2007/09/04 18:59 僕らの時代 ある物語のための風景描写1
- それから僕は、近くに見つけたコーヒーショップに入った。高価で洗練された味のコーヒーと、値段相応とは言い難いサンドウィッチが食べられるような、例の店だ。床には塵一つ落ちていないが、代わりにそこにあるべきものまでが綺麗に取り払われている。古代的な言葉で表現するなら「ぬくもりが欠けている」ということになる。現代においてそんなものを求める人間は一人もいないのだ。ただそれなりの味のコーヒーを飲むことこそ... [続きを読む]
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- 2007/09/04 18:54 海に続いている
- 「次の電車の終点の近くに昔住んでたの」とミチが言う。「何にもないところでね。ただ広いだけの海があって、それでおしまい」 夜が世界に満ちている。充満している、と言ってもいいかもしれない。全ての音が、全ての光が、終わりのない黒に染まって、いびつに響く。遠くで電車の車輪が線路を叩く音が聞こえる。しかしそれが本物の音なのか、それともただの幻聴なのか、僕にはよくわからない。それは僕が十一歳の夏で、僕は世界 ... [続きを読む]
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- 2007/08/29 19:19 四月 02
- 竜が眠りから覚めたのは、夜中の三時だった。誰もが寝静まった暗闇の時間。聞こえるのは、枕元の目覚まし時計が刻む短針のリズムだけだ。母さんはもう眠ってしまったのだろうか? ベッドに備え付けた読書灯のスイッチを入れる。燃えるようなオレンジが暗闇に慣れた瞳を刺す。再び目を閉じ、瞼越しにその光を見つめながら、瞳の痛みが引くのをただ待った。このまま朝まで眠れればどれほど楽だろう。しかし、眠りはどれだけ待っ ... [続きを読む]
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- 2007/08/28 09:14 廻る世界
- 風が止み川辺の水が凪いだのを見計らって、僕は線香花火の最後の一本に火を点けた。花火は薄闇に一本の直線を描き、微動だにしない。やがて先端が弾ける。空中に花を描く。 ふと、気配を感じて振り向くと、そこに彼がいた。彼はこっちを不思議そうに見ていた。目が合うが、特に表情に変化はない。暗闇に目を凝らして少し観察する、年の功は九歳か、十歳というところだろう、心得のないものに切られたようなところどころで長さ ... [続きを読む]
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- 2007/08/28 09:14 蜃気楼の島
- 海。沖に浮かぶ蜃気楼の島 大人になると見えなくなるんだってそこに何があるのか、 どんな人が住んでいるのか、僕は、それが知りたくて 手を伸ばしたその手に触れるのは 夏の陽光だけ僕の、指先の、蜃気楼の島 夏の風に小さく揺らいでやがて、消えた。山路光 短編集 ... [続きを読む]
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- 2007/08/28 09:11 目次
- 廻る世界 ・ある青年と少年の夏の日々。 ... [続きを読む]
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- 2007/08/12 12:56 四月 01
- 両親が事故で死んだその時も、宗次郎は部屋に一人きりでいた。彼にとって孤独であるということはごく自然なことだった。 多忙な両親に代わって幼い彼の面倒を見てきたのは父方の祖母だったが、彼女が基本的に放任的な人間であったことが、宗次郎の人格形成に少なからず影響を与えた。やがて、孤独な子供の多くがそうであるように、彼は塞ぎがちな大人しい少年に成長した。声を荒げても誰にも聞こえない。誰にも聞こえないのは ... [続きを読む]
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