- 2008/05/11 01:242-#17
- 「―……私のこと……知ったって……良いことなんか無いわ」 そう。だって私の過去は真っ暗だもの。良いことなんか無かった。 優しかった両親は共に私たちを残して自殺してしまった。 こんな暗い過去、私の大好きな翔太や麗奈に話すことなんて出来ない。「俺は、良いことなんか求めてない。ただ、美和が今どんなことで悩んでんのか、どんなことが嬉しいのか、どんなことに涙するのか……そういうことが知りたいんだ……。だ... [続きを読む]
|
- 2008/05/10 22:242-#16
- 「嘘、だよな? 美和……」 何でそんなこと言うのよ。翔太はどうせ私に恋愛感情なんて持ってないくせに。 そんなことを問いただしてどうするの。翔太は真意を知ってどうなるの「翔太、だからってどうなるわけじゃあ―……」「麗奈は黙っててくれ!」 始めて見る翔太の取り乱した様子。始めて聞く翔太の大声。 いつもなら麗奈は自分の言葉を遮られて怒るはずなのに、今回ばかりは素直に引き下がってしまう。 麗奈が言う「... [続きを読む]
|
- 2008/05/10 00:092-#15
- 「ねえ、美和?」 今は昼食中で翔太は生徒会役員の為いない。 こそっ、と耳打ちするように言う麗奈はいつもとは少し違う。只でさえ中庭や屋上で昼食をとる生徒が多く教室には私と麗奈を含め数人しかいないのに麗奈は私に小声で語りかけるのだ。「どうしたの?」 それに便乗して私も小声で返す。「うん……あの、美和はさあ……その、したことあるの?」 口を閉じると瞬時に麗奈は顔を赤くした。 初心(うぶ)だなあ……。... [続きを読む]
|
- 2008/05/09 17:432-#14
- 「いや〜ぁ、来たの〜?」「来ちゃ悪い」 語尾を上げない疑問文は始めて使ったし、それに付け加えて私の声はドスがきいていた。知らぬ間にお兄様の名を呼んでいた私に嫌悪しているからだ。「いいえーそういうわけじゃあ、ないんですけどね? まあ今日はてっきり翔太と添い寝して休むのかと思ったのー」 一瞬は私の反応に怯えてものの、いつもの冗談口調に麗奈は戻っていた。「なに言ってんのよ。訳分かんない」「あらら。訳... [続きを読む]
|
- 2008/05/07 22:482-#13
- 「は……っ」 むせ返るような思いでを振り払うように私は飛び上がった。 目覚めたところで普段と違うのは翔太の顔があったってことだ。「大丈夫か? 美和。頭抱え込んで倒れたんだぜお前」「あ―……そう」「覚えてないのか? まあ良いけど体は大丈夫なのかよ」「ああ、うん。平気。ごめんね迷惑かけちゃって―……って、ちょっと!」 私がいきなり翔太の胸ぐらを掴んだものだから翔太は驚いて顔を少し遠のけたが、それも... [続きを読む]
|
|
|
- 2008/05/06 07:222-#12
- 屋敷の中も大分落ち着いた母の葬儀から5日目の朝。 父は母の遺影の前で睡眠薬を多量に飲んで自殺した。 遺書ともとれる、メモともとれるものが近くにあって、 真白い紙に父の達筆でこう記されていた。 「都の所に行ってきます 太一」 なんとなく、 そんな気はしていたのだけど、 でも大切な人が立て続けに亡くなって そのときの私の心情はどうだったのだろう? でも、この人は私のお父様じゃないおんかも... [続きを読む]
|
- 2008/05/05 11:452-#11
- 「美和、遙、行くぞ」 魂の抜けたような顔、やつれた顔の上を行く。 父は母が死んだという現実を誰よりも早く受けとめて誰よりも大きなショックを受けていた。 葬儀場に着くと初めて見る母方の親戚が黒い布に包まれていた。 私を見かけると、自分を母の父母だと名乗る人物たちがそっと近寄って来た。「あなたが、美和ちゃんね?」 お祖母さんが私にそう言うと私は気の抜けた顔で静かに頷いた。「初めまして。私はあなたの... [続きを読む]
|
- 2008/05/04 21:292-#10
- その日から母は帰って来なかった。 次の日も、次の日も、また次の日も。 警察に捜索願を出したその夜、 母は遺体で見つかった 母の実家から歩いて数分の森林の奥地で首を吊って、 死んでいたそうだ。 自分の母なのに、 どこか他人事のような気がしてならなかった。 変わり果てた母の姿は、 別人のようで、 私のお母様じゃない、 その思いだけが私の頭の中で渦巻いて。 母はまだいる。 母はまだ生きている。 そう... [続きを読む]
|
- 2008/05/01 23:012-#09
- 私の心配とは反対にお母様は帰って来た。満面の笑顔を浮かべて。よほど、その場所が良かったのか、そこにいた人が良かったのか。どちらにしても母が帰って来て、そして笑顔を浮かべていて本当に良かった。 その場所で何があったのか分からなくても、私は良かった。 だってその時はお母様の笑顔を見ること。それだけが私の喜びだったから。 理由は分からなくても。その時は―……。 もう夜半で睡魔が襲って来た私は、明日... [続きを読む]
|
- 2008/04/27 22:492-#08
- その翌日の朝、母は久し振りに笑顔を向けて。 朝食が済むと出かけてくると言い残しどこかへと行った。その姿が一瞬ぼやけて見えたのは私の気のせい? その日は丁度休日で、茶道の手解きを久し振りに休暇を貰ったという私の父ではないかもしれない戸籍上の父に兄と一緒にされていた。 1時間に及ぶ茶道の指導の後、私は父に尋ねた。「―……お母様……どこに行ったか、ご存知ありませんか……」 語尾は上がらなかった。「お... [続きを読む]
|
- 2008/04/25 23:542-#07
- その後は何が何だか分からなくて、多分節さんが何か言っていてお母様が息を飲んだらしいことは何となく分かったのだけど。やはり、私は何が何だか分からなかった。 つまり、私はお母様の子ではあるけどお父様の子ではない、ということか―……? では私の実の父は誰? いや、それよりお兄様の実の母は私のお母様ではない? それではお兄様の実の母というのは―……。 え―……? じゃあ、お母様とお兄様はどうして結婚を... [続きを読む]
|
- 2008/04/25 19:552-#06
- 夜中にふと目覚めると、いつものような節さんの嫌味が聞こえて来た。 こんなことで夜起こされることは始めてだ。いつもは声を抑える。しかし今日は違った。何故かと言えば、今日は先代の奥方の命日であり椿家総出で墓参りに出かけたのだが、節さんは母が行くのは先代の奥様に失礼だ、と言うのである。故に節さんは今日一日お母様に嫌味ばかりを言っている。「あなたのような方が奥様だと私は決して認めません! あなたのよう... [続きを読む]
|
- 2008/04/22 19:322-#05
- 物心付いた時には、優しい母にその母を愛してやまない父、そして私に無関心な兄がいた。 小さい頃から礼法を叩き込まれ、窮屈な着物に幼い心ながら、私は椿の人間なんだ、と思っていた。 既に先代の当主は亡くなっており、事実椿家を管理していたのは今は亡き「節」(せち)という年老いた女中だった。 まだあの頃は良かった。 常に私を気にかけてくれる優しい母に加え、今の椿家では信じられない場を和ます天才の気さくな... [続きを読む]
|
- 2008/04/21 19:502-#04
- 「―……離してよ」 そう言っているのに、翔太は無言で私を抱き締めたままだ。昨日の「抱擁」とは違う。何か別の意味がある。それは分かる。「離してっていってるでしょ!」 突き放そうとするのに、やはり男の力に女は勝てないのか、翔太はびくともしない。腹が立ってくる。翔太は何も知らないのに。私のこと、何にも知らないのに―……何で、こんなに、こんなに―!!「もう、やめてよ……私に関わるの、もうやめて」 泣き... [続きを読む]
|
- 2008/04/19 16:232-#03
- 「―……え? な、にそれ……」 思う節があるって、まるで、まるでそれは―……。「思う節? 何があるっていうの」 翔太が私とお兄様の関係を知っているみたいじゃない―……。「翔太は、何を知ってるっていうの?」 翔太に詰め寄ると、翔太は慌てるどころか、真顔で私を見返して来た。いつもはこういうところで、ふざける翔太が私を真剣に見返してくる。これは、真剣な話しをしようという前置き。何年も友だちをやってき... [続きを読む]
|
- 2008/04/19 15:422-#02
- 「美和? どうした?」 翔太の声が耳に入らない。 だって、私自身、分からない。 椿の人間との関わりがあることは確か。だけど、果たして私は椿の血を引いているのか……。「おい、美和?」 肩を揺すられ、ようやくはっとして、翔太を見上げた。自分自身でも今私の顔が青白いのが分かる。「顔、青白いぜ」「う、ん……」 どうなのだろう……私と椿家はー……そして私とお兄様は……?? 何となく予想していたのはお兄様... [続きを読む]
|
- 2008/04/17 22:552-#01
- 「美和」 後ろから声をかけられる。声の主は勿論翔太だ。昨夜のこともあって、少し気まずくなるかと不安だったが相手が気にしていないのだ。私が気にする必要はない。「おはよう」 やっぱり翔太はかっこいい。微笑みがさわやかというか、癒しの対象で、いつも私は翔太に救われていることを思い出す。「おはよう」 満面の笑みで返すと、翔太もそれに微笑み返した。 ふ、と思ってしまう。私はこんな綺麗な男の子と一緒に歩い... [続きを読む]
|
- 2008/04/11 20:121-#33
- ―私は信じぬ― その言葉にどんな意味が込められているのか私は勿論知る由もない。お兄様に尋ねることは出来ない。それを知ってお兄様も私に何も言わない。この妙な沈黙した関係が終わることはあるのだろうか? 分からない。ただ、少し変わったのはお兄様に対する恐怖心が少しだけ、ほんの少しだけ和らいだ。これだけだ。「どうしたのですか? ぼんやりとして」 梢さんが私の寝間着をたたみながら話しかけてくる。梢さんは... [続きを読む]
|
- 2008/04/06 00:161-#32
- 「美和です」 あの夜以来だろうか。こんなにも何かを待ち望んであの人のことを呼んだのは。あの人と一緒に寝ることを望んでいるわけではなく、ただ、お兄様が私に対してー……。「入れ」 例のようにあいつに手をついてお辞儀をする。あいつは静かに頷いた。今夜がいままでの夜と少し違うことはなんとなく予想は出来ていた。普段は私に見向きもしないこの人が私に頷き返すのだから。「お兄様。私はここに寝ても宜しいものでし... [続きを読む]
|
- 2008/04/05 09:071-#31
- 「ほん、とうなのか……?」 信じられない、といった顔つきをしている。 本当じゃない。だけど、ここは嘘をつきたい。「本当です!」 全くのない嘘の映っていない目。嘘をついていることに罪悪感はない。 普段は表情を表に出さないお兄様もこのことばかりは驚きの表情を隠さない。「ー……」 開いた口が塞がらないのか、中々お兄様は表情を隠そうとしない。そんなに驚くことだろうか。お兄様は私になどに興味もないはずな... [続きを読む]
|
- 2008/04/05 00:041-#30
- 「美和を出せと言っている」「さっきから何度言えば分かるんだよ! 美和はいねえっつの」「しらばくれるな。家の者がお前と美和がここに行くのを見たと言っている」「知らねえっつってんだろ」 陰からお兄様と翔太のやり取りを伺うが、果たして私はここにいていいものか、と思う。翔太にどれだけ迷惑をかければすむのだろう……、と。「椿の一人娘を何だと思っている。お前などには任せられぬ」「何だよ、それ! お前、美和... [続きを読む]
|
- 2008/04/04 19:571-#29
- 今、翔太は入浴中。先に入れ、と言われたけどやはりここは遠慮しておこう。 それより私はこれからどうしよう……。このままこの家にお世話になるわけには勿論いかないが、椿に帰ってから私はどうすれば……。梢さんがいるといっても……。もうお兄様には関わりたくないのは本心。だが、お兄様でなければダメなこともある、らしい。 どうすれば良いのだろう……。どうすれば……。 お兄様に正してもらった帯を、そっと触る。... [続きを読む]
|
- 2008/04/04 00:501-#28
- 「美和が嫌だって言うなら別に良いんだ。でも、そのー……つらそうだったから……」「ー……ありがとう」 翔太はここまで私に優しくしてくれる。この優しさの申し付けを断ることなんてできない。私は意のままに頷いた。それを見た翔太の表情は私は俯いてしまって分からないけれど、右手を握られた。「行こう!」「ー……うん!」 梢さん……心配するかもしれない。だけど、もう仕様がない。この家が本当に嫌なんです。 気づ... [続きを読む]
|
- 2008/04/03 20:111-#27
- 「うん、好き」 口から出たものは呆気ないものだった。だけど「確かなもの」でもあった。だから、この言葉は「確か」なものだ。「ほんと?」 おずおずと尋ねる翔太は震える子犬みたいで何か可愛らしい。私の背中に回した腕も少し震えているようだ。そんなに心配しなくても良いのに。だから私は翔太の不安を取り去るように、そして諭すように静かな声だけどはっきりこう言った。「好き。翔太が好き」 その言葉が終わると同時... [続きを読む]
|
- 2008/04/03 01:251-#26
- 私が呆然としているにも関わらず、お兄様はそれだけ言うと立ち去った。 麗奈が後を追いかけようとするが、踏み止まって私を見た。「美和……」 肩に手を置く麗奈の温もりが着物の絹ごしに伝わるが、何も感じない。 どうせ、麗奈だって……。「美和のこと心配してるのよ、遙さん」「何よそれ!!」 肩に当てた麗奈の手を思い切り振り払う。驚いた麗奈が一歩後退するのと同様に私もお兄様に習って麗奈に一歩前進する。その怒... [続きを読む]
|