- 2008/05/14 20:32出逢ったのは君?4
- 「その駄目になるってのは、潰れたって事か…?お前、何回会社を潰し…、変わった…?」拓海の様子は、太陽が厚い雲に覆われて辺りが急速に暗くなっていくのにも似ていた。顔は強張り、声は震え、口の端がヒクヒクしている。冷気すら漂っているような気がする…。「…三回、四回だったかしら…。だけど、その後ずっとバイトしていた喫茶店はとても繁盛していて、今も健在ですっ!私が潰したんじゃありませんよーっ!偶然ですーーっ [続きを読む]
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- 2008/05/11 11:17出逢ったのは君?3
- 「ここの方ですか?」「…そうだ。」「私、今日からお世話になる高瀬真沙美と言います。」真沙美はぺこりと頭を下げる。そんな名前だったと昨日の智弘との会話を拓海は思い出した。「お前の事は聞いている。」「そうですか、良かった〜。」そう言いながら、真沙美は胸の辺りで両手を合わせる。「私が早く来過ぎたようで、どうしようかと思っていました〜。」はしゃぎ気味の真沙美が、拓海には頭の軽い女に思えて、心の中で舌打ちを... [続きを読む]
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- 2008/05/09 12:58出逢ったのは君?2
- 「拓海は、何で面接に加わらなかったんです?」「俺は端からその気はなかったから、わざと当日に出張を入れてやった。」拓海はそう言って薄笑いを浮かべるが、智弘にはそれが子供染みた行為に思われた。「…それで社長は何も言わなかったんですか?」「?あらそう。だったら拓海所長抜きで決めちゃうわよ。?とあっさりしたものだった。予定をずらせとは言わなかったし、あれは邪魔者がいなくて清清するって顔だ。」「拓海がわざと邪... [続きを読む]
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- 2008/05/06 17:30出逢ったのは君?1
- 皆が出払った後の事務所に残っているのは、所長である宮崎拓海と副所長の桐村智弘だけ。できる事なら智弘も外へ出掛けたいと気は逸るのだが、誰かがやらなければならない仕事がすっかり溜まっていた。誰かに任せればいいのだが、その任せる誰かがここには不足している。否、その誰かを拓海は敢えて置こうとはしなかった。「これくらいは俺ができる。」そう言い張って、拓海は何でもかんでも自分で片付けようとする。自分の能力に自... [続きを読む]
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- 2008/05/03 13:31僕に届く声25
- 自社に戻った真琴は顰め面で、書類ばかりを相手に過ごしていた。いつも遅くまで残り、休みの日も閉じこもって仕事の事ばかり考え、いきなり出社しては一人で黙々と働いていた。「私には仕事しかないのよ。」「だからと言って、書類ばかり見ていてはいい仕事はできないよ。外からの刺激も必要だと思うし、市場リサーチだと思えばいいじゃない。」お小夜にあれこれしつこく粘られ、ついに根負けした真琴は、彼女とのデートを渋々承知... [続きを読む]
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- 2008/05/02 10:17僕の届く声24
- 「文哉さん。これから言う事は、真琴は文哉さんには、ううん、誰にも知られたくない事だと思う。だけど、何時までも一人で抱え込んでいては前には進めないと思うの。ひょっとするとアタシ、真琴に嫌われるかもしれないけど、それでもいい…。これからは文哉さんが真琴に付いていてくれればいいと思うし、文哉さんならそうしてくれると思う。文哉さんを信じて、文哉さんに賭ける…。」「俺とお前がまともに口を利いたのは今日が初め... [続きを読む]
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- 2008/05/01 10:48僕に届く声23
- 「すっかり逞しくなりました。田辺さんも、研修に出したかいがあったって、喜んでいます。でもね…。」そこでお小夜は隣を歩く文哉の横顔をちらりと見た。思わず溜め息が出るくらい綺麗な横顔ではあるが、それは人形のように感情を持たない、ただ綺麗なだけのものに見えた。だがこの雰囲気は、お小夜が最も大切に思う友とよく似ていた。感情がないのではなく、無理に押し殺しているんだと…。(不器用な二人…。)と思ったが、そん... [続きを読む]
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- 2008/04/30 15:50僕に届く声22
- この冬一番の冷え込みとなった夜、会社を出た文哉の前に、見覚えのある女が立ち塞がった。二人は暫く睨み合う。文哉が女を無視してその横を通り過ぎようとすると、女が文哉の服を掴んだ。「文哉さん。アタシ、文哉さんにお話しがあります。」真琴の友人のお小夜が、必死の形相で文哉に詰め寄る。「…俺にはない。」縁もゆかりもない女の顔が間近にあるのが不愉快で、文哉は顔を顰める。だが良く見れば、お小夜は歯をがちがちと鳴ら... [続きを読む]
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- 2008/04/29 13:03僕に届く声21
- 真琴と話す機会を待っていた文哉だったが、その後は擦れ違いばかりだった。真琴に避けられているとも言えるが…。話し掛けようとしても、それを察した真琴が、間に誰かを入れてしまう。こうなると、文哉の行動パターンを見抜いている真琴の方に利があった。それでも作業は順調に進み、文哉にはそれが皮肉だとしか思いようがなかった。二人で力を合わせたからここまで来れたはずが、ばらばらだって、同じ事だったんだと…。無事に初... [続きを読む]
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- 2008/04/28 12:40僕に届く声20
- 翌朝、身支度を終え、昨夜の礼を言って玄関まで進んだ文哉だが、いまひとつ覇気に欠けていた。マスターが文哉の背中を前に押すように軽くぽんとひとつ叩くと、引きつっていた文哉の顔が少しだけ緩む。「…餓鬼の頃、学校へ行くのが嫌で玄関でぐずぐずしていたら、お袋が今みたいにやってくれた。逃げていたら何時までもそれは追いかけてきて、自分を追い込むだけだよな。」「逃げるのが最良の方法って時もあります。でもね、今はそ... [続きを読む]
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- 2008/04/27 12:17僕に届く声19
- 店の営業を知らせる外灯は、まだ点いていた。これでは見落とされるのではないかと思われるくらい、その光は存在を誇示する事無く、ひっそりとそこにあった。控えめなその光に、高ぶっていた文哉の神経が、徐々に静まっていく。あの後、何も考えられなくなった文哉は、どうやって会社を出たか覚えていない。ただ後悔だけが押し寄せ、声にならない叫びを上げながら気が付いたらここに来ていた。どうしようかと躊躇していると、ドアが... [続きを読む]
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- 2008/04/26 14:53僕に届く声18
- (また裏切られた―――。)文哉を有らん限りの力で振り払い飛び出した真琴は、夜の街を無我夢中で走った。必死の形相で人波を縫って駆け抜けて行くその勢いに、人々は思わず道を開け、唖然として見送った。闇雲に走って、走って、走り続けたが、だんだんと息が苦しくなってきて、よろよろとした足取りになる。よろけながら、倒れ込むようにガードレールに手を置いて何とか体を支えると、はあはあと肩で息をする。暫くして呼吸が整... [続きを読む]
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- 2008/04/25 14:04僕に届く声17
- 「わあ〜、さっむ〜い!」人ごみの中、隣を歩いている真琴が、首を縮め、両手に息を吹きかける。文哉は真琴の肩を抱き寄せて暖めてやりたいとは思うが、人の目がどうしても気になり、手はポケットに収まったまま。「あっという間の二ヶ月でした。文哉さんには、本当にお世話になりました。」「まだ終わったわけじゃない。蓋を開ける…。」「…開けるまで何が起きるかわからない。気を抜くのは早いぞ、この馬鹿女…でしょう?」「ふ... [続きを読む]
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- 2008/04/24 09:41僕に届く声16
- 真琴は文哉と二人の時は冗談を言って笑うようになっていたが、文哉以外には余り笑う事はなかった。我が身を守る知恵として無愛想という仮面を被っているのかと思っていたが、実は逃げているのではないかと、近頃文哉は思うようになっていた。「僕、彼女を見ているといじらしくなってきて。無愛想という殻に閉じ込めている彼女の本当の姿を見てみたいなって思うんですよ。誰が彼女の殻を破るんでしょうね。隙間からちらちら外を覗い... [続きを読む]
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- 2008/04/23 14:25僕に届く声15
- 秀樹が半開きになったドアの前を通り過ぎようとした時、文哉の怒鳴り声が聞こえた。久しく聞いていなかったその怒鳴り声に秀樹は興味を持ち、足が止まった。立ち止まった秀樹の前でドアが勢いよく開かれ、数名が慌ただしく駆けて行く。もう少しでぶつかる所だったと苦笑いしながら彼等を見送った秀樹が、ひょいと中を覗き込むと、文哉は電話中。かなり抑えているようではあったが、それでも威圧的な物言いに、文哉がご機嫌斜めなの... [続きを読む]
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- 2008/04/22 16:41僕に届く声14
- 照明が落とされ、ひっそりと静まりかえった廊下に、文哉の靴音が響く。かつては不夜城と揶揄されていたここも、照明が早くから落とされるようになり、それが人々の帰宅を促すようになった。日が暮れるのが早く、日一日と冷え込みが強まるこの季節、尚更人々の帰宅は早まっていた。顔見知りの社員が一人やってきて、すれ違いざま、「お先。」と文哉に声を掛けて行った。「ああ。」と答えた文哉は、あいつはこれから家に帰るのだろう [続きを読む]
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- 2008/04/21 20:08僕に届く声13
- 真琴は文哉を傷付けるような事を言ってしまったと思いしょげてしまったが、文哉はそんな姿さえも独り占めしたい欲望をもてあましていた。「気にするな。親がどうのこうのいう年でもない。もっと食え。…お前も、お前の作ったもの食ってくれる野郎に、会えなくて寂しいだろうが、もう少し我慢してもらってくれ…。」真琴の作る弁当をいつも見ていて、これを当たり前のように食べている奴がいるんだろうと文哉は嫉妬していた。「ご心... [続きを読む]
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- 2008/04/20 12:40僕に届く声12
- 「あの、そう思って下さるのは嬉しいんですが、私度胸なんてないですよ、気も強くないし、どちらかと言うと臆病な方…。」「あん?猫を苛めているような野郎に食って掛かったんだぜ。しかも酒の入っていた男だ。自分に危害が加えられるとは考えなかったのか?」「あの時は、私もちょっとお酒が入っていて、気が大きくなっていただけです。何かされそうになったら、大声を出すか、力いっぱい蹴り上げてやるか…、あっ…。」真琴は慌 [続きを読む]
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- 2008/04/19 18:35僕に届く声11
- (プリン?文哉さんとプリン…?)妙な違和感を覚えて、真琴はようやく文哉に顔を向けた。真琴の目は赤く、顔も少しむくんでいる。それを見た文哉の胸にずきりとした痛みが走ったが、顔は不機嫌を貫き通した。「食うのか食わねぇのか?」「…これ文哉さんのじゃ…?」と、鼻を啜りながら言った。酷く遠慮しているような真琴に、女はこういうのを喜ぶんじゃないのかと、望んだ反応をしてくれない真琴に心の中で舌打ちをする。そして... [続きを読む]
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- 2008/04/18 14:45僕に届く声10
- ?文ちゃん?(あの声が耳に残っている。もう一度会いたくて、あの声が聞きたくて、ずっと捜していた。あいつが抱いた猫を俺も抱いた。柔らかくて、温かくて、力を込めたら壊れてしまいそうにか弱くて、そっと抱いた小さな体。あいつの体もこんなだろうか。確かめたいと思った。知りたいと思った。女と肌を重ね合わせたいと、俺は初めて女の体が欲しくなった。)俯き何かに怯えている真琴を見つめたまま、文哉はどうしたものかと困っ... [続きを読む]
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- 2008/04/17 14:02僕に届く声9
- (文哉さんか…。)?てっめぇ〜、人の名前を気安く呼ぶんじゃねぇぞ!?(あの時は何を言っているのかと思ったけど、そういう事だったのね。)?文ちゃん。?(あの猫ちゃん、どうしているのかしら?まさかこんな形でまた会って、おまけに一緒に仕事をするようになるなんて思いもしなかったわ。あんな小さな猫を苛めるなんて、大人気ない事をする人だと思ったけど、何か理由があったのかもね。今ならそう思えるわ。あの夜の文哉さんだ [続きを読む]
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- 2008/04/16 16:35僕に届く声8
- 「ここだ。」と文哉は一室に真琴を案内した。「リタイアした元担当者がここを使っていたんで、そのまま使う事にした。何せここには、俺にとってありがたいものが付いている。」そう言って文哉は換気扇を回すと、その下で煙草を吸い始めた。「お前、煙草は嫌いか?」たとえ嫌いだろうが遠慮する気はない文哉だが、ジト目でそれを見ている真琴に一応訊いておく。「…赤い箱…。それだったら我慢します。駱駝の箱じゃないから…。」「 [続きを読む]
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- 2008/04/16 12:43引越し先でトラブル続出
- 引越し先ブログのトラブルの多さに困り果て、見切りをつけて戻りました。また更新していきます。 [続きを読む]
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- 2008/04/16 12:43僕に届く声7
- 「文哉さん。お客さんが見えてます。」朝から既に一箇所顔出しを済ませ、始業時刻を過ぎてから出社した文哉に、受付嬢が声を掛けた。「俺に客だと。誰だ?」今日は誰とも約束した覚えのない文哉は、飛び入りの訪問者に時間を割かれる事を煩わしく思い、迷惑そうな顔をして受付け嬢を睨み付けた。「早川真琴さんという方です。文哉さんがまだ出社していないのは確認したんですが、田辺さんからの紹介状がありましたので、部屋にお通... [続きを読む]
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- 2008/04/16 12:39僕に届く声6
- 時間を無駄にしたくはない文哉は、普段は会議に使われている静かな部屋に通されたのを幸いに、一人でにこれからの日程を組んでいた。時々手元の企画書を見ながら、時間的にゆとりがあったら、こいつと仕事がしてみたかったと考えない事もなかった。だが今回はアイデアだけ頂いて、自分一人で進めようと決めていた。その方が絶対にスムーズに進むと決め込んでいて、その了解も強引に取り付けてしまおうと、文哉はその時までは考えて... [続きを読む]
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