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- 2008/06/10 23:56過去九/惜別3(携帯版)
- 次の日に待ち合わせしたのは、映画を見に行ったときと同じ駅の同じ場所だが、待ち合わせの時刻は少し早めていた。 駅の隅にあるコインロッカーに荷物を預けて、前回の待ち合わせと同じ噴水の前に立つと、彩音はすぐにやって来た。「おまたせ」 カットソーにカットワークレースのスカートをはいた姿は、薄いベージュと白のカラーでコーディネートされていて、可愛らしくも清楚な大人の女性の雰囲気だ。ここ数日、家に来るとき... [続きを読む]
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- 2008/06/10 00:07今までで一番ためになった本
- 私は、仕事でライターもやっていますが、いわゆる作家とは異なり名前が出ることもなく、日の当たらない路地裏でせっせと文章を書いています。そんなしがない私ですが、今まで覚えてきたことや、普段気付いたことをダラダラと書いてみたいと思います。とりあえず、初回はベタにオススメ本を紹介してみたいと思いますが、あえて渋いところからまずはコレ。今までで一番ためになった本。新装版 日本語の作文技術/本多 勝一¥1,470Ama... [続きを読む]
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- 2008/06/09 00:18過去九/惜別2(携帯版)
- 次の日から、彩音は登校より少し遅目の時間に、家に来てくれた。夕方までのほとんどの時間、ダイニングテーブルで、お互い黙々と勉強した。ときどき僕が解けない数学の問題を教えてもらったり、彼女なりの効果的な勉強法を教えてもらったりもした。休憩時間には学校のことなども話したが、約束通り真面目に勉強した。約束を破って、この限られた時間を壊すのが嫌だったからだ。しかし、勉強している時間がこんなに楽しいと思え... [続きを読む]
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- 2008/06/09 00:17過去九/惜別1(携帯版)
- 残された時間はあっという間に過ぎてゆき、すぐに夏休みに入った。 彩音の家では、着々と引っ越しの準備が進んでいて、月末の日曜日には引っ越してしまうと電話で聞いた。「あと一週間ちょっとか……」「うん」 終業式の晩、僕は電話で、力なく舌縺れぎみに話していた。「彩音ちゃん、明日から予定ある?」「引っ越しの準備があるけど、大丈夫よ」 大丈夫ということが会ってくれるということなのは、鈍い僕にもわかった。「... [続きを読む]
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- 2008/06/08 23:51過去八/急転2(携帯版)
- 「どうすんだよ」 放課後、二人きりの屋上で、相葉が訊いてきた。その質問は、もう三度目ぐらいだが、僕が満足のいく答えを出さないと、いつまでも続くらしい。相葉は銀灰色のフェンスを鷲掴みにしながら、どこか遠くを睨んでいた。「どうもこうもな、仕方ないじゃん。どうにもできないよ」「せっかく、仲良くなれたんだろう。いいのか?」「だって、行くなって言っても、しょうがないだろう?」 僕もさすがに、イライラを隠せな [続きを読む]
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- 2008/06/07 02:53過去八/急転1(携帯版)
- 夏休みの一週間ほど前の夜。彩音から、携帯に電話がかかってきた。「熊さん……」 暗く、くぐもった声が、彼女の異変を知らせていた。最初は電話がおかしいのかと思った。「どうしたの? なにかあった?」「うん、それがね……」 声は続かなかった。泣いているのかもしれないと感づく。「なに? 大丈夫?」「うん……」息を整えるようにしばらく黙ったあと、彼女は言葉を続けた。「私ね、引っ越すことになったの」「えっ!... [続きを読む]
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- 2008/06/07 02:53過去七/進展1(携帯版)
- それから、僕たちの関係は、少しだけ変わった。人目を気にしないところなら、彩音と親しく話せるようになり、ときどき電話をかけ合うようになった。僕自身がきちんと告白していないせいもあり、彼氏彼女とは言えないのかもしれないが、友達以上恋人未満の関係だろうかと、勝手に思っていた。 七月が近づくと、彼女の誕生日プレゼントがときどき電話のネタになっていたが、ひょんな話の流れで、曲をプレゼントすることになって... [続きを読む]
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- 2008/06/06 00:23過去六/二人5(携帯版)
- 映画のあとは、なにをするか決めていなかったので、ショッピングモールを再び練り歩いた。土曜日の午後ともなると、モール内はかなりの人で溢れかえっていた。洋服のお店を覗いたり、ゲームセンターでぬいぐるみを取ろうと悪戦苦闘したり、ペットショップで子犬を眺めたり、そんなことをしているだけで、あっという間に時間が過ぎていった。「もう夕方になるけど、そろそろ帰る?」 僕は、何時に彼女を帰していいか分からなか... [続きを読む]
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- 2008/06/06 00:23過去六/二人4(携帯版)
- 映画館のある異空間のフロアに戻るとき、エスカレーターで大勢の帰り客と入れ違いになった。ちょうど前の上映が終わったのだろう。僕は、その中に一人ぐらい知り合いがいそうな気がして、すれ違う人の視線が気になった。ときどきこっちを見る人がいたが、どうやら僕ではなく、彩音をチラ見しているだけの見知らぬ人だった。 入場しようとゲートに並びかけたら、彩音が再び僕のTシャツを引っ張った。「ねえ、なにか買っていこ... [続きを読む]
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- 2008/06/05 00:58過去六/二人3(携帯版)
- 下の階に降りると、ぶらぶらとお店を見て歩いた。夏物の可愛らしい服が並んだ女性服の店に、彩音は入っていくが、僕は、店先でちょっとたじろいでしまった。男家族だけの僕は、今まで入ったことのない空間だ。その様子に気付いたのか、彩音は戻ってきた。「どうしたの?」「俺、こういう女の子向けの店って、入ったことないんだよね」「そうなの? 苦手?」「うーん、ていうか慣れてない」「じゃあ、慣れなくちゃね」 そう言... [続きを読む]
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- 2008/06/05 00:57過去六/二人2(携帯版)
- 駅を出て、横断歩道を歩いていると、すぐに白銀の建物が見えてきた。五分ほどの道のりだが、彼女にどれぐらい近づいていいのか、離れた方がいいのか分からなかったので、距離を測りながら歩いていた。歩くだけでも疲れるものだと思った。途中見かけたカップルは、手を繋いでいたが、とてもそんなことができるとは思えなかった。 目的の映画館は、繁華街やオフィス街から離れた郊外の大型複合商業施設内にある。最近流行の「シ... [続きを読む]
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- 2008/06/04 00:01過去六/二人1(携帯版)
- 苦痛の数日間が終わり、待ちわびた土曜日がやってきた。 僕は、前の日に選んでいた比較的まともなジーンズにパンクデザインの黒いTシャツを着て、約束した十時の三十分前には、駅に立っていた。駅は新幹線も停まるターミナル駅で、構内が広いため、待ち合わせ場所は駅前広場の噴水にしていた。 同じような数人の待ち人に混じった僕は、慣れないせいかなんとなく居心地が悪く、落ち着かなかった。普段はあまりつけることのな... [続きを読む]
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- 2008/06/03 22:588過去五/承諾1
- 「映画? うん、いいよ」 恐る恐る訊いた問いへの返事は、意外にもあっさりとOKだった。休憩時間、たまたま近くに人がいないときに、彩音ができあがったばかりの図書室の広報誌を持ってきたので、緊張を隠しながら尋ねてみたのだった。もしかしたら、相葉がまた根回ししているのかもしれないと思ったが、そんなことは考えないことにした。 彩音は、チラッと周りを見渡すと、机の上の僕のシャープペンシルを取り、「図書室だ... [続きを読む]
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- 2008/06/03 00:00過去四/勇気7(携帯版)
- 「約束するよ」「よし。じゃあ、四月に俺が学級委員長になったときにさ、熊さんを無理やり図書委員に任命したよな」「ああ、任命されたさ」「その前の日にさ、俺、実は彩っぺにお願いしたんだ」「なんのことだ?」「俺、学級委員長になろうと思うけど、図書委員を頼んでもいいか?って」「ん? どういうこと?」 ますます、話が見えなくなってきた。「怒るなよ」「なにをだ?」「怒らない?」 またもや、しつこく念押ししてく... [続きを読む]
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- 2008/06/02 23:56過去四/勇気6(携帯版)
- 相槌を打ちながら、相葉は、おとなしく聞いていた。「そうかそうか。ふむふむ」「で、どうでしょうか? 名探偵?」「そうだな。嫌われていないのは確かだ」「それぐらいは、俺にもわかる」「まあ、そう急かすな。ところで熊さんの気持ちはどうなんだ? どうしたい?」 相葉は鋭く突っ込んでくる。「どうって? どうなんだろう。そりゃあ仲良くはなりたい、かな?」「告って、付き合って、彼氏彼女の関係になりたいか?」「... [続きを読む]
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- 2008/06/02 00:43過去四/勇気5(携帯版)
- バスを降り、住宅街にありふれた瓦屋根の木造二階建ての家に帰り着くと、鍵を開けて中に入った。築十五年の閉め切った室内に僅かなカビ臭さと男臭さを感じたが、かまわず二階へ上がり、自分の部屋にこもった。 アンプに繋ぐシールドを刺していないエレキギターを手に取ると、仰向けにベッドに横たわり、黒く擦り切れた弦に左手の指先を載せた。天井に貼ってある十年以上前のロックバンドのポスターが目に入る。平日の夕食は僕... [続きを読む]
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- 2008/06/02 00:38過去四/勇気4(携帯版)
- 再び帰り道を並んで緩歩するが、なんとなく話すきっかけを失っていた。彩音は、道沿いの桜並木を楽しそうに見上げながら歩いている。桜の樹枝に茂りきって間もない若葉は、まだ萌黄の色合いを残している。春には白に程近い優しいピンク色の花が、咲き溢れていた。 彩音が、不意に沈黙を破る。「そういえば熊さん、来月誕生日じゃない?」 視線は、まだ道沿いの木々を辿っている。「うん、六月三日。再来週かな」「もうすぐだ... [続きを読む]
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- 2008/06/01 00:08あとがき
- あとがき最後までお付き合いいただいて、ありがとうございます。ひたすら感謝です。(._.)私は、普段文章を書いたり直したりという仕事もしていますが、なかなか自分が書きたいように書けないんですよね。たぶん、その反動で書いたのがこの作品です。情景や心情を丁寧に描写して、じーっくりと好きに書きたかったんですね。きっと。自己満足で書き始めたようなものですが、当初からこだわっていたことがあります。一つは、この作品... [続きを読む]
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- 2008/06/01 00:07未来 ─ 結末 ─
- 久しぶりにゆっくりとした休日を過ごしていた。 ここ最近は、仕事でまともに休みが取れていなかったが、初めて任せられた小さなプロジェクトが、先週無事終了していた。来週は、彩音の七回忌だった。 そこで僕らは、ドライブがてら、久しぶりに遠出をしていた。海に突き出た岬の上でのんびりとした時間を過ごし、僕は彼女が作ってきたお弁当を食べた。 緑野(りょくや)を冠(かん)する岬の先には、発電用の巨大な白い風車が立... [続きを読む]
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- 2008/06/01 00:07現在 十四 ─ 決意 ─ 3/3
- 僕らは、観客が引き上げていった会場の中に残っていた。今日は、猛(たけ)る気持ちがなかなか静まらなかった。「熊さんさっきの話のつづきだけど……」相葉が、唐突(とうとつ)に言った。「なんだったっけ?」「結果は付いてこないみたいな、またネガティブなこと言ってなかったか?」「ああ、それか。べつに否定的な意味じゃないよ。『結果は付いてくる』って言うけど、努力すれば必ず報われるってことはないと思うんだ。人間に... [続きを読む]
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- 2008/06/01 00:06現在 十四 ─ 決意 ─ 2/3
- 静かなピアノの前奏から、曲は始まった。 あの浜辺を並んで歩こう もう一度あの日のように 二人の足跡が付いて離れて 寄せては返す波のように 一緒に紡(つむ)いだ言葉たちに 久遠(くおん)の時を感じたね 風が聞いた二人の秘密 いつまでも温めてるよ もうすぐ君が去っていき 明日は暗くなるけれど 眩(まぶ)しかった君の思い出が いつも僕を照らしてくれる さよならなんて言わないし 涙も君には見せ... [続きを読む]
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- 2008/06/01 00:06現在 十四 ─ 決意 ─ 1/3
- お盆が過ぎ、九月も終わりに近づいたころ、ラブティのライブに招待された。大学はまだ夏休みらしいが、前回よりも観客が多く、ライブハウスは混み合っていた。 この日のライブは、全体としての演奏のクオリティもさることながら、その熱いパフォーマンスに圧倒された。どこかすかしている詩音も、いつもとは違う迫力を感じさせていた。今回は、相葉と美雪さんが早く来て、前の方を陣取っていたので、余計にそう感じたのかもし... [続きを読む]
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- 2008/06/01 00:05現在 十三 ─ 永別 ─ 2/2
- 喪服に強い日差しを受け、ジリジリとした暑さに汗をかきながら漫然(まんぜん)と時間を過ごしていると、詩音がやってきた。「もうめんどくさいから、抜けて来ちゃった。親戚のおばちゃんたちと話すのも大変よ」 そう言いながら、缶コーヒーを三本テーブルに置いて、空いた席に座った。「おつかれさん」 僕がそう言うと、黙っているのに飽きたのか、相葉が缶コーヒーのプルトップを起こしながら喋(しゃべ)り出した。「こんなとき [続きを読む]
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- 2008/06/01 00:05現在 十三 ─ 永別 ─ 1/2
- お通夜とお葬式は、葬祭場で行われた。僕は親父の喪服で、相葉と式に参列した。喪服は、親父の葬儀のときに、サイズを直してあった。 以前からわかっていたためか、ひどく取り乱す人もなく、一連の行事は粛々(しゅくしゅく)と進められた。式は、ごく近い身内を中心に、こぢんまりとしたものだった。その中で詩音は、平静と変わらぬ様子で、受け付け等の仕事をこなしていった。お葬式には、ラブティのメンバーと美雪さん、僕が... [続きを読む]
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- 2008/06/01 00:05現在 十二 ─ 通夜 ─ 5/5
- 「この絵は……」「あの海だよね」 僕の呟(つぶや)きに詩音が答える。 描かれていたのは、紛(まぎ)れもなく二人で行った海浜公園の風景だった。波打ち際(ぎわ)を歩く男女が、緻密な筆運びと優しい色使いで描かれている。あのときの光景を、僕が書いた詩(うた)と同じ情景を描いたものだった。彩音は、僕との思い出を絵にして残してくれていた。筆の跡の一つ一つから、彼女の息遣(づか)いが感じられる。 僕は、スケッチブックを手 [続きを読む]
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