|
- 2008/07/02 18:00虹の青 <5>
- きみの声(二) 駅前でコーヒーが飲めるのは、ハンバーガー屋とシアトル系のコーヒー・チェーンくらいだった。引っ越してきた頃は魅力だと思っていた、この町のほどよい田舎加減が、今日ばかりはうらめしい。とはいえ、朝のコーヒーのためだけに都内に行くという気にはならなかった。 私は、駅の改札から少し離れたところにある掲示板の横に立ち、行き交う人の流れをぼんやりと眺めていた。私に会うために、彼がこの町に来... [続きを読む]
|
- 2008/06/30 18:00虹の青 <4>
- 僕の声(三) あの夜の彼女とのやりとりが鮮明によみがえっていた。ふと気づけば、どこをどう歩いたのか、いつの間にか中華街を抜けていた。レトロな雰囲気のホテルの横を通り過ぎると、目の前の信号の先に、海に面した大きな公園が広がっている。僕は公園に入り、海を眺めるように幾つも設置されているベンチのひとつに腰をおろした。海風が肌に心地いい。強い陽射しが乱反射している海面は、きらきらと輝いている。そのきら... [続きを読む]
|
- 2008/06/27 18:00虹の青 <3>
- 僕の声(二) 中学時代の友人に触発されて始めたギターに、僕は夢中だった。朝から晩まで弾き続けても、飽きることがなかった。弾けば弾くほど、ギターの魅力にとりつかれた。そしていつしか僕は、音楽の世界で生きていこうと決めていた。KIDに初めて足を踏み入れたのは、高校生の頃だ。同じ軽音部の友人に連れられてやって来た。ライブハウス自体が初めてだった僕は、緊張しすぎて妙にはしゃいでいた。ギターを背負っていた... [続きを読む]
|
- 2008/06/25 18:00虹の青 <2>
- きみの声(一) 緑がかった青い羽を持つ蝶が、私のまわりで踊っていた。その羽の色は、太陽の光と溶けあい、次々に変化していく。あまりの美しさに、蝶の姿を目で追い続けた私は、気がつくと蝶と同じようにゆらゆらと踊っていた。誘うような蝶の動きに、思わず右手を伸ばして捕まえようとしたそのとき、不意に目が醒めた。 蝶がいない――伸ばした右手の先に、見慣れた部屋の景色が見えてもなお、私はあの蝶を探していた。... [続きを読む]
|
- 2008/06/23 18:00虹の青 <1>
- 雨のにおいを運んできた冷たい風が、少し気の早い半袖を着た僕の腕をなでていった。こんなに肌寒くなるなら、パーカーをはおってくるべきだったな。季節の変わり目は、先が読めないんだから。生まれて初めて感じる衝撃を受け止めながら、僕は意外なほど冷静にそんなことを考えていた。きみと出会ったこの午後のことを、未来の僕はどんなふうに思い出すんだろう。色をなくしたような空の下で、たしかに時間が止まった今日の午後... [続きを読む]
|
|
|