|
- 2008/08/27 19:11ラブファクター 42
- 靖子はベッドの縁に座り、白いタイルの床を見つめているようで、見つめていない。 いつもならもっと心配して靖子のことを気遣う義之が側にいない情況は、靖子を不安にさせた。 『ワヤンとの関係に気付かれてしまったかもしれない』 靖子は、最悪の事態を思い浮かべていた。幸せな結婚生活が、この一瞬で終わってしまう可能性。 階段を上る足音が聞こえてきた。 靖子は顔を上げ、閉めきったカーテンを見つめた。『... [続きを読む]
|
- 2008/08/23 19:55ラブファクター 41
- 「大丈夫? 何かあたった?」「わからないけど、少し部屋で休みたい……」 ワヤンが何か言う前に、靖子は、フロントに向かって歩き始めた。『三人で食事をして、ワヤンが何か言いそうになれば誤魔化した方がいいのか、ワヤンを無視して夫と食事をした方がいいのか』 靖子の感情は入り乱れていた。これ以上義之の前でワヤンと会うことには耐え切れなかった。 義之は、靖子の背中を見つめていた。 ワヤンが何か声を出そうとし... [続きを読む]
|
- 2008/08/21 19:43ラブファクター 40
- 「ワヤンか 久しぶりだな……どうした?」 義之の低い声。 靖子は驚いて、義之の横顔を見つめた。『どうして義之がワヤンのことを知っているの?』 靖子の頭は激しく混乱した。遠くに飛んでいってしまいそうな気を離さないように、必死に耐えた。「ひさしぶり、偶然ここを通りかかって……ユウの姿が見えたから」 ワヤンは流暢な日本語で答えた。 靖子は、ワヤンと合った視線をすばやく逸らした。「ワヤン、紹介するよ、... [続きを読む]
|
- 2008/08/20 15:11ラブファクター 39
- 太陽が西の空に傾き、水を加えられたような薄青色に変わっている空の中を、白サギが家路を急ぐように飛んでいる。 フロントに鍵を預け、石畳の駐車場を並んで歩いている二人の視線に、白いTシャツにジーンズを履いたバリの男が映った。 褐色の顔にサングラス。深めに被ったベースボールキャップ。 靖子は目を疑いたくなった。心臓が飛び出してしまいそうなくらい激しく動悸している。気持ちを落ち着けようと思っても、音を... [続きを読む]
|
- 2008/08/19 15:51ラブファクター 38
- 「何の匂い? いい匂いがする」「ハイビスカスのオイルマッサージをしたの、美白効果があるんだって。その後、フラワーバスに入って……」 義之は、靖子の首筋にキスをしながら、本当にエステに行ったんだ、と、柔らかな耳たぶを噛んだ。『女の子たちと話をしているところを見られた罪悪感から、夫はこうして甘えているのらしら』 と、靖子は思った。 義之の濡れた舌が耳の中に入った時には、快楽に全身が包まれていた。 ... [続きを読む]
|
|
|
- 2008/08/18 10:41ラブファクター 37
- 夕方。 靖子が部屋に戻ると義之はいなかった。 テラスの竹のテーブルの上に紙切れが置かれ、風で飛ばないように石の灰皿が重石代わりに置かれている。『お帰り、プールにいます』 右上がりの字を読み終えた靖子は、敷地の中央部分にあるプールに向かった。 プールはバンガローに囲まれるようにある。ハイビスカスの赤い花に囲まれたバンガローを通り過ぎると、水が落ちる音が聞こえてきた。 義之がプールの縁に両手をつ... [続きを読む]
|
- 2008/08/17 09:05ラブファクター 36
- 義之と出会ってしばらく経った頃、冷静に考えれば、掲示板に書かれていたことは事実だったのだろう、と思うこともあった。 ワヤンのことを信じようという気持ちもあったが、さまざまな情報や中傷記事が載せられている掲示板を見ると、ワヤンの他にもさまざまなジゴロと呼ばれている人がいた。 だからと言って、靖子は、ワヤンのことを決して悪い人間だとは思っていない。 彼氏と別れ、落ち込んでいた靖子を助けてくれたのは... [続きを読む]
|
- 2008/08/16 09:11ラブファクター 35
- 一呼吸おいて、靖子が振り向くと、赤のクバヤ姿で店先に立っているバリの女性がいた。「アユ?」 目の前で微笑む女性の姿。記憶のパズルが埋まっていく。一つ一つの記憶に繋がっていく。四年前に比べ、すっかりおばさんになった「Jバンガロー」のオーナーであるアユの姿に、靖子は、驚きと時間の経過を覚え、まじまじとアユの顔を見た。「やっぱりそうだ、靖子じゃないかと思って」 アユは大きな目を細めている。 靖子は... [続きを読む]
|
- 2008/08/15 09:08ラブファクター 34
- 靖子は、義之とは反対方向に歩いた。 ワヤンのバイクの後部座席に乗り、何度も通ったモンキーフォーレスト通りを歩きながら、随分変わったなぁ、と思っていた。 ホテルから徒歩五分の場所にある観光地、モンキーフォーレスト、猿の森の駐車場には、観光バスが何台か止まっている。うっそうと茂った森から蝉の鳴き声が洪水のように聞こえてくる。 台湾人の団体客がバスから下りている様子を眺めながら、靖子は、大きく左に... [続きを読む]
|
- 2008/08/14 09:45ラブファクター 33
- デサがもう一度名前を呼んだ。 心の準備が整っていれば、慌てることはなかっただろうが、義之は、杭に打たれたような痛みを心臓に感じている。気持ちを落ち着ける間もなく、厨房から出てきた一人の女性を見つめた。『嘘……カデ?』 と、今度は心の中で叫んだ。 目の前のカデの姿を見た時、義之の心の中で、高まりすぎた感情と落胆する気持ちが複雑に絡み合った。 大きな目以外に、昔の義之が恋をしていた頃の面影を見... [続きを読む]
|
- 2008/08/13 09:43ラブファクター 32
- マホガニーのテーブルには見覚えがあった。ピンク色の壁は塗り重ねたばかりなのか真新しい。竹で組んだ天井はそのままだった。壁にかかっている風景画には見覚えがない。 義之は店内を見渡しながら、中央の席に座った。 バナナの木の皮をすいて作った表紙のメニューはそのままだったが、値段は四年前の倍だった。 側らに立っているウエイトレスに義之は、カプチーノを頼んだ。 食べものを勧められたが、お腹は空いていない。 [続きを読む]
|
- 2008/08/12 11:18ラブファクター 31
- 翌昼。真っ青な空の中には、雲一つ浮いていない。 遅い朝食を済ませ、一時間ほど、ダイヤモンドのように太陽の光を反射しているプールの側の白いビーチパラソルの下でのんびりと過ごした二人は、それぞれの目的の場所に出かけた。 義之は、つばのある白い帽子を被り、レイバンのサングラスをかけ、黄色のTシャツに白のコットンパンツを履き、モンキーフォーレスト通りを北に向かって歩いている。 右のポケットには、靖子が [続きを読む]
|
- 2008/08/11 16:15ラブファクター 30
- ガムランと義之の腰の動きに覚醒され、あっという間に果てた靖子は、義之の腕の中にいる。「明日の予定は?」 左耳には義之の体を伝わって、右耳には湿った空気を伝わって、至福感に浸っていた靖子の心の中に夫の優しい声が入り込む。「あなたはどうしたい?」「今更観光してもしょうがないし、僕はのんびりしたい。靖子がどこかに行きたいのなら、車をチャーターするけど、靖子はどうしたい?」「折角バリ島に来たのだから、 [続きを読む]
|
- 2008/08/11 14:23ラブファクター 29
- 言葉で抗いながらも、靖子は快楽に落ちていく。両手で義之の髪を掻き毟っている。 義之は右手をゆっくり動かしながら、唇を重ねた。左手は靖子の柔らかな腰を支えている。 一度性の営みが始まってしまうと、義之は言葉なく靖子の体を求め続ける。 靖子は洋画を見ながら、彫刻のような繊細な顔をしたハリウッド俳優が愛の言葉を囁き、女の体を愛撫するシーンを、素敵だと思っていた。自分もあんな風に愛されてみたい、という [続きを読む]
|
- 2008/08/11 14:15ラブファクター 28
- 靖子が短く吐息を吐き、顎を上げた。 汗ばんだ大腿部に右手を乗せたまま、義之は、靖子の首筋に唇をあてた。 肉体と肉体の重なり、愛のないセックスを繰り返してきた義之にとって、靖子の体を開発していくことは容易かった。 靖子が過去にどれだけの男と経験をしているか知らない。嫉妬しないと言えば、嘘になるが、嫉妬を乗り越えるくらいに靖子の体の隅々まで自分は開発した、という自身が義之にはある。 付き合った女の... [続きを読む]
|
- 2008/08/11 11:03ラブファクター 27
- 靖子は両手で髪を梳くように、義之の後頭部から首に向かって撫でている。 なかなか会えない恋人同士、愛人同士、新婚の旅であれば、旅先で毎日のようにセックスをするのは当然だろう。セックスのために旅行に来る場合もある。 いつも一緒の夫婦が、旅に来てまで毎夜セックスをするのは、他人から見れば、好きもの夫婦と見られるかもしれないし、羨ましがられるかもしれない。 どう見られようと、義之と靖子には関係の... [続きを読む]
|
- 2008/08/11 08:55ラブファクター 26
- ホテルに戻った二人は、部屋の前にあるテラスの竹椅子に座っている。 夜空には瞬く星の光り。家の軒先に吊らされているのであろう、真っ暗なスクリーンの中で裸電球の光りが揺れている。「何しているの?」「オーケストラの指揮者。観客はきみ。演奏者は名も知らない虫たち……あっ、今鼻で笑ったでしょう」 下ろした義之の右の肩に靖子は頭を預けた。 仕事のことを考えている時の顔、寛いでいる時の顔、少年のような心を... [続きを読む]
|
- 2008/08/10 16:46ラブファクター 25
- まるで蟹を食べるように無言にさせてくれるアヒルの唐揚げにかぶりついた後、靖子は、名物のデザート、ココナッツクリームパイとカプチーノを、義之は、エスプレッソを頼んだ。 カスタードクリームの上に乗っているふわふわのココナツクリームをスプーンで崩しながら、満足そうに口に運んでいる靖子。「でも、住むとなるとあれかな?」 義之が思い出すように言った。 靖子は、スプーンを口に含んだまま、視線を義之に向け... [続きを読む]
|
- 2008/08/10 16:37ラブファクター 24
- 何かを話さなければ…… 義之は視線を空に向けた。「奇麗な星空だね、東京の空もこんなに星が瞬いていればなぁ」 うーん、と、口を閉じたまま喉で声を出して、靖子は頷いた。「靖子はさぁ……どう思う?」 声のトーンを落とした義之の問いに、靖子は短く、えっ、と答えた。「ウブドに住んでみたいと思う?」「あなたは? ウブドに住みたいと思う?」 義之は、カデと付き合っていた時、ウブドに住んでみたいと思っていた時... [続きを読む]
|
- 2008/08/09 09:11ラブファクター 23
- ホテルのシャトルバスで五分のところにある「ベベブンギル」は、ウブドで一番有名なレストラン。アヒルの唐揚げが名物料理。インドネシアの大統領も立ち寄るレストランは、さまざまな国の観光客で賑わっていた。 二人は、夜の帳に隠されたライステラスを見渡せる東小屋に座っている。あぜ道に立てられた松明の炎が風に揺れている。 東小屋は三畳程度の広さ。茣蓙が敷かれ、竹で組んだ屋根は藁で葺かれ、竹のテーブルの上... [続きを読む]
|
- 2008/08/08 17:26ラブファクター 22
- 「はいはい、さっさと浴びてくるから」 義之がバスルームに消えた。 服を脱ぎ終わった義之は、湯気で曇った鏡を拭いた。 鏡の中に映し出された義之の裸体。毎晩飲んでも、弛むことのない引き締まった体。 部屋から聞こえてくる靖子の鼻歌。義之は微笑みながら、背中から熱いシャワーを浴びた。鼻歌がシャワーの音に消され、カデのことを思う。『別れた女がどうなっているか、という興味だけなら、会わない方がいい。靖子が... [続きを読む]
|
- 2008/08/08 14:59ラブファクター 21
- 「お先に」 バスローブを羽織った素顔の靖子がバスルームから出てきた。 肩にかかった毛先が濡れている。 義之は、化粧を施した靖子の顔も好きだが、素顔だと四、五歳は若く見える靖子の顔も好きだった。「どうしたの?」 靖子は、化粧台の大きな鏡に映った義之の笑顔を見つめた。「靖子の化粧を落とした顔、かわいいと思って」 靖子は微笑みながら、鏡の中の自分を見つめ、右手で頬をつついた。「ほんと、かわいいと思... [続きを読む]
|
- 2008/08/08 13:16ラブファクター 20
- 大理石の洗面台の上に置かれているアメニティーグッズを確認して、靖子は全裸になり、大きな鏡の中に映っている自分自身の裸体を見つめた。 小ぶりながら形のいい乳房、くびれた腰、程度に肉のついた大腿部の付け根に見える黒々とした股間。「いつもと同じように、落ち着いて、落ち着いて」 靖子は小声で口ずさみ、白いバスタブの中に立った。ワヤンへの思いを消し去るように背中から熱いシャワーを浴びながら、サンダルウッド [続きを読む]
|
- 2008/08/08 11:48ラブファクター 19
- ウブドのメイン、モンキーフォーレスト通りの中心にある「ワカバロンホテル」は、買い物にも食事にも便がいい。道路に面して石畳の駐車場があり、階段を上ってフロント、奥に長い敷地が続いている。 一棟ごとに塀で囲まれたバンガローはプライベートな空間が保たれている。二人の泊まる部屋は二階で、部屋の前の石畳のテラスから、夜の帳の中に隠れつつある緑の絨毯が見渡せた。「夕食はどこで食べようか?」 ボーイが去った [続きを読む]
|
- 2008/08/08 10:29ラブファクター 18
- 車は木彫りの村、マスに入った。 建物の隙間に田園が見え始めた。緑色の絨毯。太陽の光の下で見るよりも濃い緑をしている。西の空に沈みかけた太陽の光りがぽっかりと浮いた雲をピンク色に染めている。 靖子は、五年前にウブドで知り合ったバリ舞踊を習っていた日本人女性のことを、思い浮かべた。 彼女は日本でお金を貯めては、ウブドで長期滞在をしていた。 彼女と同じようにバリ舞踊や絵画、彫刻を習っている日本 [続きを読む]
|