雑踏のなかを独り歩くのが好きだ。大勢で歩くのでもなくふたりで歩くのでもなく、独りで歩く。かといって、ぼくがふだん住んでいる場所のように、外を歩いてもめったに人と出会うことがないようなところで、ひとり歩くのは好きではない。だいいち、それが夜の闇のなかともなれば、何が出てくるかわからず、独りでは怖くて歩けたものではない。何よりも雑踏、人ごみというのがよいのである。そしてそのときぼくは、決まって何かを考えながら歩いている。その何かの基となる対象は、そこで目に映るものであってもよいし、まったくちがうどこかの誰かのことでもよい。とにもかくにも、「独り」と「雑踏」という絶対条件の環境で「歩く」のである。逆に誰かと会話をしながらでは、そのたのしみがなくなってしまうし、独りであっても、周りが静かすぎるとたのしみは半減して...独り歩く