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- 2008/08/29 21:23カフェテリア「ラパン」(2)
- 「最近、シファー部長が日本語覚えだしたと思わない?」 眼鏡を指先で押し上げながら、玲衣がこちらを見上げる。 開発部の紅一点の玲衣は、美人とまでは言わないが、中の上といったところ。好みは分かれるだろうな。 「そう言えばそうかも」 北浦は玲衣がストローでオレンジジュースを吸い上げるのを、金魚の口みたいだな、と思いながら眺めていた。 「機嫌もいいし、鼻歌なんかうたっちゃって、あれは絶対に恋よ、恋」 [続きを読む]
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- 2008/08/29 10:28第43話
- こうしてカフェテリアにいても、そこら辺にいる女子社員の視線がこちらを向いているようで、気分が悪かった。久しぶりに、北原以外の人間関係でヘコみそうになる。 自分がまわりからどう思われているかなんて、最近考えたことはなかった。 何もかもが目まぐるしく変化し続けて、今の自分が何をしているかなんて、冷静に考える余裕もなかった。 いや、考えすぎて立ち止まってしまうのも怖かった。 冷静になりすぎれば、何かに [続きを読む]
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- 2008/08/28 23:13第42話
- しばらくは北原に会えなかった。 本当のことを聞くのが、怖かったのかもしれない。でも、考える時間も欲しかった。 会えばうやむやになって、許してしまうのはわかっている。やっぱり一緒にいると安心してしまうから。 「何?その深刻な顔」 来栖が突然現れた。 久しぶりに一人で来たスペインバル。彼が隣の席に座る。 「部長、珍しいですね。一人でここに?」 「お前だって」 「たまには一人になるのもいいですよ」 「 [続きを読む]
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- 2008/08/27 23:38第41話
- 月が変わると、社内からマリアのポスターがすべて消えた。 あの素敵なリゾートCMも打ち切り、突然、今日から新しいものにすり替わっていた。おまけに、画面に現れたダンディな外国人、ひいき目に見て太めのジャン・レノっぽいその男は、ユーリ・シファーだった。 あの涼香の大きらいなエレベーター内で、アドゲート(つまりわが社の主力商品ね)の機能について英語で説明しまくるシーン。字幕付き。 やわらかなイメージから [続きを読む]
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- 2008/08/27 14:17第40話
- 「昨日はすっごくたのしかったな〜」 リナが椅子を漕ぎながら、こちらに寄ってきた。 「私、ユーリに惚れたわ」 「はああ?」 「彼も独身だって言ってたじゃない?忙しいから彼女もいないって」 「リナには彼がいるでしょ」 そう言ったそばから、過去の自分の失敗を思い出す。リナが後悔しないのなら、いいけれど。 リナは本当に上機嫌だった。肌の調子もよさそうだし、今日は一段ときれいに見えた。 「でさあ、朝のワイ [続きを読む]
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- 2008/08/26 23:03スカイダイニング「シエル」(1)
- 「あー腹減ったな」 慎二はナポリタンを山盛りした皿を片手に、もう一方でジンジャーエールをグラスに注いでいた。 同僚の誠太はそこら辺で立ったままクラブサンドに噛みついていた。 ビュッフェスタイルだから、といって、頑なにも立ったまま食うのが誠太流だ。 別に、日本人だし、もっといえば社員食堂だし、かっこつける必要もないし。 慎二は近くのテーブルにかけ、誠太を呼んだ。 「今日5時からのミーティングやだな [続きを読む]
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- 2008/08/26 07:05第39話
- 蛇口を閉め、バスタブからあふれ返るお湯を見て、再び涼香は大きくため息をついた。 とぼとぼとリビングに戻ってくる。 「では、じっくり話を聞かせてもらいます」 「君は信じてくれるだろ?」 「マリアさんと誤解されるような付き合い方をしてきた、あなたも悪いわ」 「もう過去のことだし、あえて彼女を避ける必要もなかったんだ」 彼のドライな部分、その、ちょっとした冷酷さに、マリアは気がつかなかった。 彼の変 [続きを読む]
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- 2008/08/25 22:25カフェテリア「ラパン」(1)
- 「英田主任が言ってたけどね、ここのコーヒーは3時が一番おいしいんだって」 「え?なんで?」 「時間帯によって豆が違うらしいんよ」 「ふうん?知らなかった」 で、現在午後2時57分。ウサギのシルエットの掛け時計が、今もう一分、針を進めたところ。 愛美は今日午後5時からの会議資料を開きながら、コーヒーを一口含む。 味音痴だから、何時のコーヒーでも構わない。 「だから英田主任はきっちり3時休憩」 と [続きを読む]
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- 2008/08/25 07:20第38話
- 私から連絡するのは、とりあえず止めよう。 涼香は携帯電話をベッドの上に放り出し、風呂の蛇口をひねって、バスタブにお湯を落した。 入浴剤を入れようとして、やっぱりアロマオイルに切り替える。 “ラベンダーは精神を落ちつかせ、速やかな眠りにいざないます” 涼香は期待される効用と書かれた部分を読み上げた。 人によっては、香りの鋭さで眠れなくなるらしい。 お湯の中に、オイルを2,3滴落とすと、部屋の中まで [続きを読む]
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- 2008/08/24 19:33第37話
- 平静を装って、午後からの仕事に打ち込んだが、気を許すとあのマリアの映像が脳裏をかすめる。マリアと自分を比べるなんて馬鹿らしいし、それで自分が劣っているなんて思うのも、卑屈だけれど、やっぱり、心は悪い方向に沈んでいくものだ。 直接、北原に話を聞くまで真実はわからないのに、それでも、楽観することはできない。 「英田、ちょっと外回り付き合ってくれ」 来栖に声をかけられる。涼香はパソコンの画面を閉じな [続きを読む]
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- 2008/08/23 17:47第36話
- マリアの襲撃を受けてから、ひと月以上は過ぎた。 その頃には、言い知れない不安と後味の悪さはどこ吹く風だった。 時間が許す限り北原に会い、彼を「己月」と呼ぶことにも、「涼香」と呼ばれることにも違和感がなくなり、居心地のいい存在になっていた。だから、二人の信頼関係はおおむね良好だと、涼香は信じている。 昼休み、ラウンジで食事をとりながら、リナにだけは彼との進捗状況を報告しておいた。 トルコ料理店以降 [続きを読む]
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- 2008/08/23 10:53第35話
- 「あら、英田さんも一緒だったのね」 その声はマリアだった。彼の車を外で見かけ、来てみたのだという。 彼女の声色と表情から、友好的ではないことが分かる。以前のような余裕は無く、敵対心もあらわだった。 マリアは北原の隣に座り、こちらを牽制するかのように涼香を見た。 「本当に、あなたって変わってる。己月に見合う女性なら、もっと世の中にはたくさんいるわ。あなたの両親はどうかわからないけれど、北原の一族は [続きを読む]
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- 2008/08/22 22:24第34話
- 涼香は車の中で、くすくすわらった。 「ごめんね、びっくりしたろ?僕はね、家に帰るたびあの調子で『あの時の娘は』って責められるんだよね」 「分かります、何とかしたいって気持ち」 涼香はまだ笑いながら言った。 「そうだろ?」 「でも少し、悪い気がしました。だって、御家族が期待しているような関係じゃ……だから、騙しているみたいで」 涼香がそういうと、北原は少し間を置いて、言った。 「君は、まだ僕が苦手 [続きを読む]
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- 2008/08/22 00:08第33話
- 土曜日はとてもよく晴れていて、梅雨を一掃するさわやかな風が吹いていた。 何を着て行こうかとさんざん悩み、結局はありあわせの洋服で済ませてしまった。 変に気を遣いすぎても、普段とは違うことがばれてしまうだろうし。 それにしても、父の身体を慮って涼香を彼に合わせようという、北原の仏心なのだろうが、涼香としては、どういうポジションで彼の家族に面会すればいいのか、いまいちよくわからなかった。今のところ、 [続きを読む]
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- 2008/08/21 23:00やったー!金メダル〜
- 昨日に引き続き、ソフトボールネタですけど、ほんとに素晴らしかったなー♪表彰式もきっちり見届けました。昨日318球も投げ続けたというのに、上野投手、男前!いや女の子だけどね、かっこよすぎです。三度目の正直でアメリカを打ち破ってくれて。個人的には、アメリカのブストスさんが、すごーく大好きなんですけど(名前と、あのクールな表情が)今日もホームラン打たれちゃったしね。怖いよねー(^_^;)これでオリンピック公式 [続きを読む]
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- 2008/08/21 10:34第32話
- 「さすが英田さんの部屋だね。思ったとおりきれいに整頓されている」 でも社長を招き入れるにはお粗末だったかな。 涼香は紅茶をいれながら、少し後悔する。 「でも私の友達、この部屋は生活感ないって、嫌がるんですけど」 「そうかなあ」 北原はぐるり部屋を見渡す。 と、窓辺にあったピアノに興味を示したらしく、「弾くの?」といった。 「いいえ。自動演奏にしてBGMにしてるんです。生の音って素敵だから」 「そう [続きを読む]
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- 2008/08/20 22:41たまには息抜き。
- いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます!今日はオリンピックのソフトボールのおかげで、かなり心臓が痛くなりました。でもみごとな逆転勝利、安心して眠れそうです♪本当は、その後の番組を見ようと思ってたんですけど、疲れたのでやめました・・・ ・・・・・・・ここから、小説の話。ところで、「英田涼香 編」はそろそろ後半戦。特別な障害もなく、ゆるーく進展していく涼香と北原の今後に、乞うご期待?本 [続きを読む]
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- 2008/08/20 19:10第31話
- 帰り支度をしていた午後6時。 涼香はバッグの中の携帯が震える音に気づいた。 北原からの着信だ。涼香はつい微笑んでしまう。 「はい、英田です」 『今度は間違い電話じゃないよ』 お互いに少し笑った。 『今、帰るところなんだけれど、君は?』 「私も帰ります」 『じゃあ一緒にどうかな?』 もちろん喜んで! 涼香は携帯をバッグに押し込み、「お先に」と残業中の社員たちに声をかけた。 オフィス全体から、淀んだ... [続きを読む]
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- 2008/08/19 07:44第30話
- 朝のロビー。さわやかなモーツアルトの曲がBGMに流れていた。毎朝インフォメーション係の女性が選曲しているらしい。昨日は軽快なボサノヴァ調の曲で、その日の担当者により好みが分かれるところだ。 本日もなかなか素敵な曲だけれど、寝不足の涼香にはちょっと優しすぎる曲調だった。 うっかりあくびをしていると、懐かしい声に呼び止められて、涼香は振り替えった。 「おはよう〜涼香」 麻子が手を振りながら駆け寄って [続きを読む]
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- 2008/08/18 21:52第29話
- 「でも、私って意外と真面目で。その人のこと絶対、好きだってわかっていたけれど、当時の彼に遠慮して、必死で自分の本心を無視したんです」 それは間違ってはいないと思う。北原が言った。 「いろいろと理由をつけて。私、開発のSEとかプログラマーの人たちと、あんまり、うまくいってなかったんです。だから、彼もその一人だし……って、無理やり敵視していたんです。恥ずかしい話なんですけど」 『そうか。じゃあ、お互... [続きを読む]
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- 2008/08/17 22:35第28話
- 涼香はあわてて携帯を手に取る。 あせりすぎて、一度落としそうになりつつ、ボタンを押した。 「もしもし、英田ですが」 『あれ?……英田さん?』 「き、北原……社長?」 何?テレパシー?... [続きを読む]
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- 2008/08/16 22:27第27話
- ベッドの中で、いろいろ考えはじめたら、眠れなくなっていた。 ティーキャンドルの灯りが、天井に丸い影を描いて揺れている。 静かに流れるBGMはスムースジャズのオムニバスで、好きで毎日聞いていたけれど、最近はもう飽きてきた。 飽きてきたと言えば、今の自分の思考にも、飽き飽きしている。 日々のいろんな嫌なことが積み重なって、いつの間にか卑屈な事ばかり考えて、仕事以外の面倒なことは、なるべく避けようとす... [続きを読む]
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- 2008/08/16 09:07第26話
- 書類が出来上がったのは、ちょうど午後8時だった。 我ながら、やればできるものだと一人ごちる。 「お待たせしました。資料はサーバにあげておきますから確認お願いします」 「わかった、御苦労さん」 来栖がざっと資料に目を通し、「よしOK」と言ったとたんに、涼香は脱力した。 空腹が、もう限界だった。目も痛いし肩もガチガチだ。 ため息交じりに携帯のメールを確認していると、来栖が夕食に誘ってくれたので、二つ [続きを読む]
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- 2008/08/15 22:40第25話
- 半日パソコンとにらみ合ったドライアイと、キーを叩きまくった指が悲鳴を上げている。 涼香はゆらりと顔をあげ、ピントが合わない目を細めて、壁に貼ってあったカレンダーを見つめた。 週明けのプレゼンまでには、この資料も完成するだろう。 「英田!水谷電機のほうはどうなった?」 かなり遠くの席から、来栖が声をかけてくる。顔もぼやけて見えるくらいの場所だ。 「そっちは開発部のほうからボスに報告行く約束で [続きを読む]
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- 2008/08/15 06:53第24話
- 「えー、マジで?」 散々迷った挙句、リナに北原のことを打ち明けてみた。 もちろん、絶対、他言無用と念を押す。 口止め料として、今夜は涼香のおごりだ。 なぜかリナは、トルコ料理をご所望だった。 店内に流れる異国情緒たっぷりなBGMはとてもボリュームが高く、二人は、少し声が大きくなる。 「涼香って、ほんとにラッキーだよ!彼と付き合っちゃえばいいじゃん!」 「そう簡単に言わないでよ……。相談した甲斐が... [続きを読む]
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