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- 2008/11/17 23:16人並みに、人混みを 第十九話
- 僕たち二人は現役合格者なのでもちろん未成年だったが、レジで年齢確認をされず無事に酒を購入した。その帰り道に、僕は奈美からつまらない話を聞く。今考えればつまらないというだけで、その時は驚き、興奮さえしたが。「あのさ、私ね、いつも講義中に坂本くんを探しているんだよ。でも面識ないし、坂本くんは男友達に囲まれているから、喋りかけられなかったんだ。午前中はよく寝ているでしょ、午後は漫画を読んでるか教室の外... [続きを読む]
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- 2008/11/16 22:57人並みに、人混みを 第十八話
- 僕と女—その名前を口にする度に痰を吐きたくなってしまうのだが、わかり易さには代えられないので名前を教えよう、奈美である—が出会ったのは大学一年生の秋だ。同学部、同学科の為、同じ講義を受講している場合が多く、顔だけは入学時から知っていた。今でも覚えている、その年の木枯らし一号が吹いた翌日、大学生特有の提案後即実行という機敏さで、寒さを吹き飛ばす鍋パーティーを行うことになったのだ。パーティと言っても... [続きを読む]
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- 2008/11/15 23:48人並みに、人混みを 第十七話
- 別れてから、いや、別れる数週間前から、僕はこの女が大嫌いになった。今でももちろん、一秒前まではすっかり忘れていたが、名前を見ただけで嫌悪感が溢れ出す。五センチの距離で嫌いだと公言して別れてから三年ほどが経ち、何の用事があるものか、連絡が来たのは初めてだった。晴天の朝を迎えて間もない街にある小さな城の一角にだけ降り注ぐシトシト雨。顔面には髪の毛が、太ももにはズボンが、服には臭いが、へばりついてはネ... [続きを読む]
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- 2008/11/14 23:24人並みに、人混みを 第十六話
- 目が覚めると全身が汗でビッショリと濡れていた。不快とまでは言わないが、それなりにゆっくりしたくなる目覚めである。体の左右バランスが崩れるために睡眠中も外さない腕時計で時間を確認すると十時で、意図していない割には、思わず頷いてしまう起床時間。気温はわからないが、太陽の笑顔から考えて、視覚的には良い天気に見舞われそうだった。青色のカーテンで締め切った部屋が赤白く見える。週末と呼ぶに相応しい陽気。ただ... [続きを読む]
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- 2008/11/13 23:03人並みに、人混みを 第十五話
- 静かになった耳元、布団の上、部屋、家。僕は先程届いたメールをやはり無視したまま携帯電話を放り投げると、反射的に金曜日の夜の僕に戻り、傍に転がったままのAVを人差し指の爪でトントンと叩いた。どうやら今日は見ないらしい。感謝の意味を込めて飲み干したマンゴージュースのパックを握りつぶす。炭酸飲料にしなくて正解だった。もし炭酸飲料を飲んでいたら、明日は屁を我慢し続けたせいで腹痛に見舞われていただろう。さ... [続きを読む]
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- 2008/11/12 13:30人並みに、人混みを 第十四話
- 甘いものは好きだが、わざわざ食べに行くものではない。林檎狩りとは違う。断る術を模索するのは当然だった。「それ、行列あり?」「わかんない。友達は並んでも食べる価値があるって言って—」「つまり行列だ。」「行こうよ。どうせ暇なんでしょ?」「失礼だな。四六時中暇だと思うなよ。僕にだって構築してきた貧弱な人間関係とプライベートの実績があるんだ。」「怖ーい。えっ、ごめんね、ダメ?」ここではっきりと断るには、... [続きを読む]
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- 2008/11/11 23:18人並みに、人混みを 第十三話
- ただ、完全二部制を布いている生活において、何度も言うように、今は社会人の僕ではない。特に金曜日の夜は特殊な傾向があり、メールを返さないどころか、十時には寝ていることになっているので、例え急用であってもそう、全ては翌日以降に繰り下げられるのがリズムだった。煙草をもみ消し、ポテトチップスを三枚方法頬張ると、背中から布団に倒れこんで額の中心を押さえた。過激派無差別スナイパーに狙撃されたのだ。弾が杏仁豆... [続きを読む]
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- 2008/11/10 22:54人並みに、人混みを 第十ニ話
- 部屋のどこかで腕時計のアラームが鳴った。確かに三つ、どこからか声を上げ、深夜一時を回ったと教えてくれたのだ。徐々に正確性を失いながら電池の寿命が訪れるまで、僕に時間を教えてくれる。悲しい話ではあるが、腕時計としては本望だと思う。僕と一緒に出かけたことがなくとも、どこかで規律正しい日々を送り、実際に僕は彼らの音で時間を認識することが多々あるのだから。僕はテレビのヴォリュームを下げて部屋を黙らせると... [続きを読む]
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- 2008/11/09 23:08人並みに、人混みを 第十一話
- そんな僕もいずれは結婚して城を出るだろう—新しい城を建てることが望ましい。雨の日に行う薄暗くて質素な結婚式と披露宴、場所は目白のチャペル。比較的少数の人に見守られながら指輪を交換しても、「君は運命の人だ、アーメン」とは口にしない。鑑賞されるラブストリーなど経験したくないし、平等に与えられている—とされる—権利を行使して人生の伴侶を選ぶ。もちろん二人の間には愛があるだろう。しかし、それ以上は求めな... [続きを読む]
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- 2008/11/07 23:01人並みに、人混みを 第十話
- 夜は冷える。マンゴジュースを飲みながら車に乗り込むと、シートベルトもせずに急いで帰路についた。目的地、父名義のの小さな城。僕がこの街に越してきたのは小学校を卒業した数日後だった。マンションから一軒家に引っ越すというよくあるパターン。六年間付き合った友達の別れは寂しかったが、広い家が待っていると思うと、それほど名残惜しさもなく、薄情と言われればそれまで。しかし、引越しは不快だとすぐに気付いた。まず... [続きを読む]
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- 2008/11/06 23:16人並みに、人混みを 第九話
- 店員は露骨に面倒な表情を浮かべ、聞こえない程小さな声で会計を始めた。いつもと同じく限りないローテンション。僕が店長だとしたら、パワーシャベルを駐車場に待機させ、こいつが残業もせずに帰ろうとした瞬間、抉るようにバケットで殴ってやる。バイオレンスな想像を糧に、手の中で小銭をジャラジャラと鳴らしながら顔を睨んだが、見事にすり抜けていく威圧感。まったく気にならないらしい。こいつはまだ学生、割り切らなくて... [続きを読む]
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- 2008/11/05 23:53人並みに、人混みを 第八話
- それから、喧嘩をする外国人。白人二人組みがAVコーナーに入ってくると、始めは大声で楽しそうに喋っていたが—英語ではないとわかるものの、それが何語なのか、無知な僕には検討もつかなかった—、次第に言い争いになり、殴り合いにまで発展した。恰幅の良い二人のヘビー級の試合をリングサイドで呆然と眺めていると、その迫力に圧倒され、棚からAVが傾れ落ちようが、反則ギリギリの必殺技を掛けていようが、立ち尽くすしか... [続きを読む]
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- 2008/11/04 22:36人並みに、人混みを 第七話
- もしかしたら、この女もどこかのおっさん同様、毎週金曜日に顔を合わせることになるのだろうか。それは御免だ。もう一度言うと、レンタルビデオ屋限定の知り合いなど要らない。店内にいる間はずっと黙っていたので、ここに来れば誰かがいるという集合場所にしたくない。駐車場がテイルランプで赤く染まらない程、急いで車を発進させた。首を横に振りながら、ため息を吐いて。どうやら、金曜日の夜にレンタルビデオ屋に行く僕は、... [続きを読む]
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- 2008/11/03 23:03人並みに、人混みを 第六話
- パッケージから中身を抜いているので卑猥なシーンの写真は見られずに済んだが、タイトルと出演女優の裸姿を記したラベルははっきりと上を向いていて、拾う瞬間に女の体がザンッと硬直した。まさか床から微笑まれるとは思いもよらず、動揺したのだろう。同性に見えなかったはずだ。女はAVを拾うとラベルを下向きにして僕に渡し、再度「すみません」と言うと、軽蔑を含む困惑した表情を浮かべて恥ずかしそうに早足で去っていった。... [続きを読む]
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- 2008/11/02 23:32人並みに、人混みを 第五話
- 女は流行のシングルCDを十数枚、ランキング順に借りているようだった。好きで贔屓にしているミュージシャンの一人もおらず、こだわりと無縁、ある意味では寛大な耳の持ち主。この女は一人でカラオケに行くくせに、誰かと行った時には恥ずかしいという理由で一曲も歌わないタイプに違いない。僕からしてみれば、一人でカラオケに行く方が恥ずかしいと思うが。僕はこういう女が嫌いだ。せめて音楽くらいは自分の好みを貫いてほしい... [続きを読む]
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- 2008/11/01 23:43人並みに、人混みを 第四話
- もし本当に素人だとすれば、どうしても金が必要だとか、ただの小遣い稼ぎだとか、セックスが好きで日々悶々としているだとか、騙されただとか、そんな理由で出演しているのだろうが、果たしてそれは立派な理由と呼べるだろうか。それ程までに自分の現在を楽観視出来るとは、ある意味では羨ましい。この世にはやりたいことと出来ることに大きなギャップがある。一方ではそれを夢と呼び、もう一方で諦めや挫折や欠落と呼ぶ。双方共... [続きを読む]
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- 2008/10/31 22:27人並みに、人混みを 第三話
- 僕は再び物色を始める。見逃している作品はないか、納得がいくまで。どうしてそこまでアダルトDVDに固執するか、理由は三つ。一つ目は社会人になってから新たな出会いがいくらかあるものの、恋愛には縁がないということ。二つ目は性欲と自由の結合がスムーズであること。そして最後に、現実社会から解き放たれたナルシズムを満たす自己満足の最たる手段であること。この三つが重なった時、僕にとってアダルトDVDが必要不可欠なも... [続きを読む]
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- 2008/10/31 00:07人並みに、人混みを 第二話
- 僕は気になるタイトルを片っ端からチェックした。手にとってパッケージの表で出演女優、裏でプレイ内容を確かめる。どうせ借りるならこの段階でまず納得しなくてはならない。何が納得いくかというと、それは僕のさじ加減なのだが、女性にはそのさじ加減すら何のことやらわからないかも知れない—わかっていてもわからないと言われるのだろう。今日は約三十本の作品をチェックしたが、これといってグッとくる作品がなかった。それ... [続きを読む]
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- 2008/10/29 23:09人並みに、人混みを 第一話
- ひょっとしたら僕の美学なんて、本当にどうしようもないものだったんじゃないか?皆は己の美学や価値観をどう判断する?闘えるか?今週も時計の短針が天辺を過ぎてから、母の車で近所のレンタルビデオ屋へ向かった。黒いニット帽を目深に被り、これまた黒の上下スウェット、牛皮のサンダル、寒いのでマフラーも巻く。もちろんマフラーも黒だ、長さは三メートル。不審者どころか、強盗に間違われても不思議ではない。暗闇に溶け込... [続きを読む]
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- 2008/10/28 21:12気取って歩く迷子
- 「やあやあ、僕に話しかけてきたのはあなたが三人目です。アルバイトの大学生に話しかけられたのは一時間五分前、千鳥柄のストールがよく似合う男性に話し掛けられたのは三七分前です。あなたはどういった御用件で?一七四日前に五歳になりました。今日は、二週間前からどうしてもバイキングに乗りたくて、我儘を言ってお父さんに連れてきてもらったんです。素晴らしい遊園地ですけど、身長が足りなくてバイキングには乗れないと... [続きを読む]
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- 2008/10/27 22:32脱出希望
- でかいバケツに閉じ込められる瞬間、目隠しの隙から僅かに見えたのはゴミ。漆黒の闇の中、周りに誰かがいる気配がしても見えず、音も聞こえない。きっと蓋を閉められ、脱出出来ないよう何重にもガムテープを貼られた。壁の感触が明らかに鉄なのに、叩いても鈍い響きしか返ってこないことを考えると、蓋の上に何かを覆いかぶせてさえいる。視覚を失っている上に見知らぬ場所へ放り投げられたせいで、周りにあるゴミの状況も一切つ... [続きを読む]
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- 2008/10/25 00:16予定変更
- 直接メッセージやメールにて「攻撃の逸脱」に関する様々な意見を寄せて頂き、ありがとうございます。どうぞこれからもご贔屓願います。ところで、10月25日(土)から新しい連載をスタートさせようと考えていたのですが、一身上の都合で明日は泊まりになってしまい、もう一日だけ休ませて頂きます。ご了承くださいませ。日曜日から連日更新していきますので、爆撃に乗り遅れぬよう、十分なご注意を。それでは、良い週末を。 ... [続きを読む]
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- 2008/10/21 22:16攻撃の逸脱を終えて
- 昨日、全二十八話にて「攻撃の逸脱」が終了しました。この物語は小説とは思えないほどストーリーに捻りを加えていません。息子が父を刺して逮捕される、それだけのシンプルな話だからこそ生まれる主人公による違和感だらけの見解を各所にちりばめることによって、不条理要素を高めています。言ってしまえば、個人の思想を述べているだけですので、主人公の見解を鵜呑みにすることだけはやめてください。有名な哲学者が「考えるこ... [続きを読む]
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- 2008/10/20 22:49攻撃の逸脱 第二十八話(最終話)
- 僕の得た実験結果はこうだ。まず、わかり易いところから述べると、僕の行為—攻撃なのか握手なのかは各々によって捉え方が異なってくるので、敢えて行為と呼ぶ—によって父が死んだ。それから、僕が逮捕された。母と智恵理はひどく驚き、深い悲しみに襲われている。これらはそれぞれの身に起こったことさ。これから述べるのが、およそ学問的な実験結果。まず、絶対的な役割は完璧に崩壊しないということ。幸せな家族は一瞬にして... [続きを読む]
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- 2008/10/19 22:29攻撃の逸脱 第二十七話
- 僕が家族を大事にしているのは確かだよ。好きなんだ。でも、父を刺したから、その言葉が真実に聞こえなくなってしまっているようだね。実を言うと、父を刺そうとしたのは、研究者の僕なんだ。研究者の僕はふいに現れ欲望を具現化する存在であって、それはやはり僕自信だと言える。幸せな環境に身を置いている僕だ。その実態はもう一人の僕と異ならない。やはり幸せとは反発しあうし、かといって家族の幸せは許せる。行動に矛盾が... [続きを読む]
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