寝てるときお腹が痛くなって目が覚めた。僕はジェットコースターに乗る夢を見ていた。ちょうど乗り込むところだった。そのときにお腹が痛くなった。 「あなた妊娠してるじゃないですか!」と係員は言った。「妊婦さんは乗れませんよ」 そこで目が覚めたのだ。僕はうつ伏せになって寝ていた。ベッドではなかった。枕元に誰かいた。「妊婦さんはうつ伏せで寝てはいけません」とその人は言った。 ...
寝てるときお腹が痛くなって目が覚めた。僕はジェットコースターに乗る夢を見ていた。ちょうど乗り込むところだった。そのときにお腹が痛くなった。 「あなた妊娠してるじゃないですか!」と係員は言った。「妊婦さんは乗れませんよ」 そこで目が覚めたのだ。僕はうつ伏せになって寝ていた。ベッドではなかった。枕元に誰かいた。「妊婦さんはうつ伏せで寝てはいけません」とその人は言った。 ...
台車に乗っていくことにした。制服を着た係員が押してくれる。僕は荷物のように運ばれていった。貨物用の巨大なエレベーターに乗って陸に上がった。 昨日の夢にも出てきた、とんがり帽子の少女が僕を待っていた。下着が見えるのも構わず地べたに座っている。そして聞いたことのない歌曲を口ずさんでいる。 「シューベルトとどっちが好き?」と訊いてくる、その少女が係員にチップを渡した。 ...
占い師は80歳の老婆だ。僕は頭を垂れた。だがその御神託を聞くのには体全体を地面と水平にしなければならない。床には布団が敷いてあり、僕は身を横たえた。しかし「顔をシーツにつけてはならない」、ほんの少しだけ顔を上げなければならなかった。 ...
1円玉が何枚か落ちているのはスルーした。しかし10円玉は無視できなかった。僕はそれを拾い、女の子に渡した。女の子は魔女のようなとんがり帽子をかぶっていて、裸足だ。女の子の手に10円玉を握らせた。だが女の子は足をまっすぐ伸ばして地べたに座ったまま、身動きしなかった。 ...
僕はしばらく1人で待った。彼女は織田信長の手を引いてその先まで送っていった。彼女と僕は裸足だった。そこに着くまでに鋭く尖った石を何度も踏んだ。きっと足の裏は血だらけだろう。信長だけが草履を履いていた。しかし信長は裸だった。体には無数の赤い切り傷があった。 ...
ゼリーを食べていると男の先輩が来て言った。「バラの世話をする時間だ」 僕はゼリーを急いで食べ先輩の後を追った。 庭には椿か牡丹のようにバラの花が落ちている‥‥ 先輩は手に持った鋏を何もない空中にかざした。 すると空からバラの花が降ってきた。まるでヒョウのように。「本降りだ」と先輩は言った。僕は傘を先輩に差しかけた。 ...
僕はベッドに寝ていた。病院のベッドだったが体調は全然悪くない。僕は健康である。 女のコが1人見舞い(?)に来ていた。彼女は僕の頬にキスして去って行った。 毎日目が覚めるとそんなことが起きた。 ベッドに寝ている〜また別の女のコがいる〜彼女は僕の頬にキスして去る。 だがついに事態は変化した。ベッドには僕ではなく女のコが寝ていた。病気で入院しているのだ。 僕は彼女の頬...
多言語を喋れる女生徒が、先生の代わりに授業をした。いろんな国の言葉で、簡単な自己紹介の挨拶をする。彼女が日本語を喋れるのを聞いて、僕は驚いた。この教室で日本語ができるのは、僕1人だと思っていた。 「今の、日本語でしょ?」と、隣の席の、クラス1番の美少女が、僕に話しかけてきた。そのコに話しかけられたのが嬉しかった。教壇の女生徒の日本語の挨拶を、そのコに繰り返した。教壇の女生徒は笑っている。...
休憩で立ち寄った食堂の中で僕は眠ってしまった。その間にバスは出てしまった。友人たちはどうして起こしてくれなかったのだろう。その時点では自分がわざと置き去りにされたことに気づかなかった。僕はイジメられていたのだった。 ポケットの中に映画の前売チケットがあった。この映画を観るためにバスに乗ったのだ。朝だった。食堂には誰もいない。僕は店を出て走った。全力疾走すればバスに追いつけるような気がし...
僕の服は僕の部屋にはなかった。隣の部屋にあった、そこには見知らぬ女が住んでいて、なかなか服を取りに行くことができなかった。 部屋に自分の服を取りに行くときには、いつも女の母親と一緒に行った。母親は茶色の大きな封筒を持って行く。 中身はわからない。中身なんかないのかも知れない。 その封筒を女が受け取ったのを見て、僕は部屋の中にある自分の服を探すのだ。 「たしかこの...
僕が浦島太郎のように亀を助けたと嘘をつきまくっていると竜宮城からお迎えが来た。「本当に助けたんだな」とみんなは言った。「嘘だと思っていたよ」 だが竜宮城の人たちは知っていたのだ。僕は半ば拉致された形だった。「許してください」と請う。「もう嘘はつきません、解放してください」 僕は例の箱を持たされて解放された。帰ったら必ずこの箱を開けろと言われて。もし開けなかったらひどいこと...
広大な空港の中を走るバスにもう何時間も乗っている。僕は席には着かずに立ったままずっとスマホをいじっていた。席は空いていて運転手も乗客も座るように勧めたが僕は聞かなかった。 いくら広いとは言っても空港だしこんな何時間も乗っているとは思わなかったからだ。やっと到着した。 しかし僕の乗る飛行機の出発時刻はとうの昔に過ぎていた。だめもとでカウンターに行って払い戻しを受けられるか訊いてみよ...
その絵に描かれていた鳥は動いた。 「目がおかしくなったのかと思った」と僕は言ったが、「本当に動いているのよ」と彼女が答えたので安心した。 鳥は絵の中から飛び出すと巨大な蚊になった。ドローンのように飛び回っていたがやがて僕の腕に止まった。 「これに刺されたらどうなるの?」と僕は不安になって訊いた‥‥ 「血がなくなって死ぬよ」 「でも刺したりはしないんだよね?」 「私、...
僕は持ち歩いていた鏡に、常に自分を映して見ていた。見ていないと僕は消えてしまうからだ。しかしふっと目を逸らしてしまった。僕は消えて、隣に若い男が現れた。それは若いころの僕だった。その隣には醜い老人がいた。老人は四つん這いになり、犬のように首にリードをつけられていた。 若いころの僕がそんなふうに老人を散歩させているのだとわかり、僕は僕を憎んだ。その老人と消えてしまった僕とは年は幾つも違わ...
僕の髪は、だんだん短くなっていった。せっかく伸ばした髪なのに。 それに気づいた友人の1人が、「そうか、死んだんだな」と言った。「死ぬと、髪は短くなっていくんだよ」 「爪もそうだ。切ってもないのに、短くなる。これ以上短くならないところまでいったら、そこで本当に死ぬ」 「まだ死にたくない」 「葬式をやってやる。成仏しろよ」 彼はそう言って、僕の頭をバリカンで刈った。ヒゲを...
目のない女がいた。彼女は僕を見つめていた。どうしてそんなことができるのだろう。僕は混乱したまま彼女に近づき、話しかけた。「えっと、1万ウォン貸してくれって言ったら驚くかな?」 「全然」と目のない女は答えた。 「えっと、僕は驚いているんだよ。えっと‥‥」 「何に?」 「えっと、それは言えない」よく見ると彼女には口もなかった。 「ムカつく」彼女はそう言って僕の首を締めた。 ...
海外で賞を獲った話題の映画を観るために、僕たちは並んだ。列は、映画館の外の、土手にまでできていた。そこに、有名な映画監督の、A氏の姿が見えた。「こんなところに‥‥」と僕は言った。独り言のつもりだったが、驚いたせいで、大声になってしまった。 「試写会に、招待してもらえなかったんですか?」僕は、声をかけた。「落ちぶれたもんでな」A氏は答えた。それで周囲の人々も、A氏に気づいたのだ。A氏は、彼...
この学校の女生徒には全員片足がない。男子生徒は僕しかいなかった。先生は耳の聞こえない年寄りのゾウガメだ。 今日先生が持ってきたカゴの底に、魚が一匹残っていた。切り身の魚だったが、ピチピチ跳ねている。僕はそれを先生に見せようと思ったが、先生はもういなかった。授業は終ったのだ。 女生徒はフラミンゴのように立ち、僕の前で義足を外し、足の付け根を掻く。学校にはその女生徒以外、誰も残ってな...
窓辺に炊飯器があった。ご飯が炊きあがっている。僕はそれを手でつかみ取り、窓の下の貧しい人たちに投げてやる。彼らは僕に気づかない。窓をそっと閉める。外は雨だ。 昼食の時間だった。僕は1人で食べるつもりだったが、裸の名前を知らない少年が僕の隣に座った。その子には体毛が全然なく、肌の色も真っ白だった。そのせいで年齢不詳だった。 ...
ピラミッドが崩れる。四角い大きな岩は消えてなくなる。数千年の時が流れた。 その跡地には丸い窓を持ったビルが建つ。ビルに出入口はない。窓は開かない。 ...
知られてないことだが、白黒のフィルムには音声が録音できるのだ。36枚撮りのフィルムに、およそ1時間の録音ができる。撮り終えたフィルムを、手動で、1時間かけて、ゆっくりと巻き戻す。そうすると、逆回しになった音声が聞こえてくる。現像するとその音声は消えてしまう。 ...
その軽トラはライトを点けたまま歩道に駐車していた。エンジンはかかってなかった。鍵はつけっぱなしだ。すぐにバッテリーがあがってしまうだろう。僕はライトを消そうと車内に乗り込んだ。決して車を盗むつもりではなかった。 若い母親の運転する車が後ろからついてきた。大きなペットショップの駐車場から出てきた車だ。助手席に小さな女の子が座って、何やらでたらめな歌を歌っている。ノロノロと走る僕を追い越し...
床にたくさんのガラケーが落ちていた。僕は全部拾った。バスの車内だった。「落しましたか?」と乗客1人ひとりに声をかけて回った。しかし落とし主は見つからなかった。 バスが停まった。その停留所で全員が降りた。もう誰も乗ってこなかった。僕は何台ものガラケーを抱えて、このバスはどこまで行くのだろう、と思っていた。 ...
僕が遅れて到着すると、みんなはもう食べ終えていた。予約していたレストランだった。奥に防音のカラオケルームがあった。何人かの仲間とそこへ移動した。食事は温め直してもらって、歌いながら取ることにした。 日本語の歌を探した。日本の歌はけっこうあったが、どれも歌詞が韓国語になっていた。僕はオリジナルの歌詞で歌おうとしたが、歌詞を忘れていた。 ...
例えば医者は医者と、消防士は消防士といった具合に、同じ職業の人としか結婚してはいけないという法律である。生まれてきた子供も同じ職業に就かなくてはならない。違反者には高額の罰金が課せられる。そういう法律があるんだよ、と彼らは言った。 黒いマントを羽織った偉い人と、その人のクローンが。彼らは結婚していた。そういうのが流行っていた。僕もいつか、いつか自分のクローンと結婚するのだ。 ...
僕は靴下を履いたまま風呂に入っていた。体を洗うとき靴下を濡らさないようにするのが大変だった。それで長風呂になってしまったのだ。2時間は入っていたと思う。 やっと風呂から上がった。女房が待っていた。彼女は僕の靴下に触れて「濡れているじゃない!」と非難した。「汗をかいたんだよ」と僕は言い返した。僕は靴下を脱ぎ、洗濯機の中へ放り込んだ。 ...
音の塊を撮影しようとしているカメラマンがいる。しかし上手くいかないので僕に頼む。その塊をスタジオの中に入れてくれと。外だからだめなんだ。 僕は音の塊をつかまえる。塊は鼻クソのように小さい。しかしどうして鼻クソを思い浮かべてしまったのだろう。 音の塊は目に見えないし匂いもないが、ばっちいもののように思えてきた。 ...
食料品店で絵画が売られている。タイトルは「熱中したもの」。2割引のシールが貼られて、食品と一緒に。 消費期限を見てみた。明日までだった。 何が描かれた絵なのだろう。僕には何も見えない。熱中したもの。 ‥‥僕が熱中したもの。 ...
ドアを開けるとセールスマンがいた。笑わない男のセールスマンが1人、ただ突っ立っていた。僕は鍵をかけず、そのまま出かけた。セールスマンは部屋の中に入るか、ためらっていた。 部屋にはとても大勢の人。話し声が、廊下に漏れてくる。血縁関係はないが、僕は彼らと一緒に住んでいた。マンションの、高い階にある、広いワンルームだ。 ...
引率の先生はもう来ている。生徒たちも制服のワイシャツを着て待っている。僕は何も着てなかったので、みんなが僕の周りで輪になって、通行人の目から僕を隠した。 そのようにして学校まで行った。1時間目は体育だった。みんなのロッカーには体操服が入っていた。みんなは下着まで全部着替えた。 僕のロッカーには体操服もなかった。その代わりアイスクリームが入っていた。僕はそれを食べ始める。半分ほど食...
電気屋に来た。家のテレビが壊れたのだ。これを期に薄型テレビに買い替えてもいいかも知れない。 しかしその店にはブラウン管テレビしかなかった。薄型の液晶はないんですか? 僕がそう訊くと、店主は小さな鍵を僕に渡した。それは寝室の鍵だった。ドアを開ける。僕の寝室だ。中に2台の薄型テレビが設置してある。値札はついたままだ。 ...
大根者のラブストーリーをテレビでやっている。あれは「だいこんもの」じゃないよ、「おおねもの」だよ、そう教えられた。それでも何のことかわからない。 君は「出かけましょ」と僕を誘う。何回目だろう。コマーシャルに入るのを待った。僕はわざとテレビのテイッチを切らずに出かける。 ...
みんなさ。みんな、買ってるんだな。それだから、おれも買おうと思ったんだよ。で、買ったんだ。 何を? 僕は誰にも名を知られてない三流の小説家である。また詩人でもある。1冊の、ほとんど売れることのなかった詩集の作者として知られていた。 彼はやってきて僕の向いに腰掛け、その詩集だよと答えた。 ...
バスケの3点シュートの練習をしている。チームメートたちはバスケットボールの代わりにカボチャを使って練習している。 ‥‥理解し難い。 がぼっ、ぐちゃっ、と(不快な音)。 僕は食パンを使う。3点ラインの、さらに外側から次々とシュートを決める。 パフッ、パフッ。 「でもさ、食パンだろ?」とチームメイトは言う。 ...
僕は白ネギでライフル銃をつくろうとしていた。スーパーに行った。いろいろ探したが銃身に適したネギはなかった。(まっすぐなネギが欲しかったのだが。) 妥協して曲がったやつを3個買い、試作した。それを持って砂場に行き、子供を撃つマネをした。ただのネギですよと僕は言った。見ればわかる。子供の母親が怪訝そうにこちらを見た。 ...
「この世界に入ったばかりの自分を見ているようだ」と、そのベテランコーチは新人の僕にアドバイスをくれた。 「スポーツの世界で『人間』をやろうとしちゃだめだ。人間以外のものを目指せ」 「たとえば‥‥たとえばゴリラとか?」 「いいぞ、ゴリラ、お前はゴリラだ。戦うゴリラだ。ゴリラはどう戦う?」 「あぁ、コーチの言わんとするところがわかってきました」 役に立つアドバイスだなと僕は思...
立ち上がるとジーンズの尻ポケットに入れていたチケットがなかった。椅子の上に落ちていた。これで今日2回目だった。 これから3回目と4回目がある。僕はそれを「覚えていた」。なのに1回目のことを思い出せないのは不思議だ。 君のツアー・マネージャーが僕を呼んでいる。 チケット販売の窓口に君がいた。他にも窓口はあったが、そこにだけ長蛇の列が出来ていた。みんな直接君からチケット...
「別に何でもないです」と僕は答えた。何も訊かれてないのに。 バッグを何個も抱えたその人は僕の前に来た。バッグから「それ」を1つひとつ取り出して僕に見せた。全然知らない人だった。「それ」が何なのかもわからない。見たこともないものだ。 ...
その人の前に、たくさんの人が座った。ほとんどが、若い女性だった。全員が、黒いドレスを着ていた。長い、黒髪だった。彼らに向って、突然その人は言った。 「俺はオーケストラをつくるぞ」 「今ここで、オーディションをやるぞ」 女性たちは立ち上がって、バイオリンを取りに家に戻った。 僕1人だけが、その人の前に取り残された。「行くぞ」とその人は言った。 「ついて来い。お前...
今日パーティー会場で僕は、腕が3本ある女の人を見た。そのとき初めて、自分には腕が1本しかないことに気づいた。 僕は腕が3本ある女の人に近づき、彼女の名前を呼んだ。名前! 名前をなぜ知っていたのだろう。僕はもう、自分には名前がないことに気づいていた。 いつの間にか僕はバルコニーに出ていた。出てはいけないバルコニーに。誰が忠告してくれたのだっけ。そこに出てはいけないよと。そこには...
鏡には、黒いターバンを巻いた僕が映っていた。その上に僕は、黒い帽子をかぶった。マンションの一室だった。家具はほとんどない。広い。ただ部屋の真ん中に、丸いテーブルがある。テーブルの上には、どう調理したらいいのか悩むような食材がある。(しかしどのみちここには、調理器具もない。) 僕はテーブルの脇に、ノートパソコンが入ったバッグを置いた。 僕の父親だと名乗る若い男が、段ボール箱を何箱も...
僕がそれを眠らせると、それは眠りの中で、ポーという音を鳴らして、あぁ‥‥、うるさい。僕はそれから、逃れるようにして、目を覚ます。 どこか遠くで、汽笛が聞こえる。3時間しか寝てない。汽車が来る。僕は乗り込む。 (僕が眠らせたものは、僕の傍らで、眠りつづけている。) ...
僕は体を、ヘビのように細長くして、寝床に向った。太い木の幹に、巻きついて眠る。その様子を見て、みんな僕のことを、ヘビではなく、タイヤだと思う。 ...
バス停の横に、銭湯があった。バスを待つ間、風呂に入ろうと思った。僕の持ち物は、傘1つだった。今は、雨は降ってない。服を脱いで、ロッカーに入れた。傘は入らなかったので、持ったまま風呂に入った。 あぁ‥‥、しまった。次のバスは、何時だったか、時刻表を見るのを忘れた。僕は風呂を出て、裸のまま、バス停に戻った。体を隠すのには、タオルでなく、傘を使った。 ...
映画の中で、名前が呼ばれた。席に座って、鑑賞していた男性が、「はい」と返事して、立ち上がった。 また、違う名前が呼ばれた。1人、立ち上がった。次々に名前は呼ばれ、全員が立ち上がった。 そうすると、前で立っている人が邪魔で、スクリーンが、見えなくなった。早く、僕の名前も呼ばれないかな、と思った。 ...
泥の中を歩いていた。だが僕は汚れなかった。後ろからトラックが来て、泥を跳ねて行った。誰もが泥だらけになったが、僕の服はむしろ前よりも白くなった。 橋をつくろう、と言った。泥の海に橋を架けよう。僕は泥を捏ねて、橋をつくった。さっきのトラックが、その橋を渡って行った。 魚の呪いだ。中国人は非難された。オリンピックの観客は3人だけ。 ...
下りのエスカレーターに乗っている。もう24時間以上乗っているが、まだ下に着かない。後ろにいる女の人たちは、ずっとハワイの話をしている。24時間ずっとだ。振り返って顔を見てやろうか。何かがおかしいとは思わないのだろうか。 ...
205号室の前に立った。合鍵はもらっていた。自由に入っていいのだ。しかし僕は長い間ドアの前でためらっていた。 すると扉は開いた。若い娘たちがぞろぞろと出てきた。ばあさんの孫たちだろう。クラシックのコンサートに行くのだと言っている。 娘たちの母親らしき女性が、僕を招き入れた。お小遣いだと言って三万円を渡そうとする。 一万円札が2枚、残りの一万円は小銭で渡そうとする。ばあさんの...
椅子は小さすぎて座れなかった。体の小さい現地の人に合わせたものなののだろう。僕たちは巨人だ。そのバス停でバスを降りるとき、狭い降車口を破壊してしまった。 バスは走り去った。一緒にいた2人の友達は、左の道へ行った。僕は走り去ったバスの後を追いかけて、大股で歩いた。 ...
コンサートホールを出た。君と2人。僕たちが最後だった。ホールの照明が消えた。小さなホールだったが、暗がりで突然大きくなったように見える。 僕たちは駐車場に向った。車を停めたはずのところに、テーブルと椅子が「駐車」していた。向かい合って座る。インタビューが始まった。 ‥‥牛乳について君は語っている。小さいころ牛乳が嫌いだった。しかしある工夫をしたら飲めるようになった。何をしたのか...
何か一言発言するたびに、僕の顔は大きくなった。風船のように、膨らんだ。喋らないように気をつけた。しかし喋らなくてはならない場面もあった。決して広くはない会議室の中だった。僕の顔はみんなを圧迫した。 ...
クイズは早押しだった。イントロを聞いて曲を当てる。全部日本の歌謡曲とポップスだった。僕たちは全問正解して優勝した。他の出場者たちは1問も答えられなかった。 クイズ番組に回答者として出演した。若い韓国人の友達とチームを組んだ。これは出来レースだと彼は漏らした。事前に回答を教えてもらっているやつらがいる。そいつらが必ず勝つ。そうなのかなと僕は思う。 ...
宝くじで1兆円ほど当たった少女がいた。彼女は全額を出身国の政府に寄付した。貧しいアフリカの国だった。彼女は祖国の英雄になった。そのニュースをテレビで見た。 僕も実は1億円が当たったのだ。その知らせを聞いて死んだ父が生き返った。父はとりあえず5千万円をドル建てで預金しておけとアドバイスしてきた。そして残りの5千万円をおれによこせ。おれが10倍にしてやると言った。 ...
お手伝いロボットに入力した。「食事」「入浴」「洗濯」の順でボタンを押すと、ロボットは食パンをトーストしてくれた。それは僕が期待していた夕食ではなかった。 「お風呂が沸きました」とロボットが言った。僕が服を着たまま入ると、ロボットは褒めた。「いいアイディアです」 ...
荒地にピクニックに行く。弁当を広げる。プラスチックのスプーンを持って来た人がいる。私服の警官が、それを見つける。 「このプラスチックは、あと80億年は分解しない」彼は言う。 「そのへんに捨てちゃだめだぞ。必ず持ち帰るんだ」 帰り僕たちはコンビニに寄る。プラスチックのスプーンを全部返す。たくさんもらい過ぎた。 ...
なぜか女の子の格好をさせられて、小学生のバレリーナたちと一緒に、白鳥の湖を踊ることになった。 舞台に出る直前まで、僕はリュックを背負っていた。大きなリュックだ。「何が入っているの?」と小学生の保護者たちは訊いた。「何も入ってません」 僕がリュックを下ろすと、保護者たちが集まってきて、中を覗き込む。 バレエは、無事に終わった。舞台裏に戻って、リュックを見ると、男物の服が入って...
王国は歩いて行ける距離にあった。 僕は王国にその女を連れていった。女は逃げることもできたはずだった。しかし黙って僕についてきた。そして僕の5番目の妻になることを承諾した。 彼女は他の妻たちよりも10歳以上年上だった。そして10kg以上太っていた。地下牢のような新居に、僕は彼女と一緒に入った。ハーレムの4人の妻たちが、僕たちを見に来た。「一緒に入るかい?」と僕は檻の外の妻たちに訊い...
午後3時、妹と母が僕の部屋の掃除にやってくる。彼女たちが床を雑巾掛けしている間、僕は下に下りて、用意されていたご飯を食べる。 頃合いを見て部屋に戻る。妹たちはいない。部屋の床には綺麗に畳まれた服が置いてある。窓の外には洗濯物が干してある。どれも僕の服ではない。もう乾いたようだ。僕はそれを取り込み、畳んで床に置く。そしてしばらく何もせずに待つ。でも何も起こらない。 ...
高級レストランでお食事。終る。テーブルで会計。僕は床に落ちていた二つ折りの財布を拾い、その中から支払う。 財布にはまだ紙幣が残っている。僕はその財布を、隣のテーブルの下に投げる。 ...
窓の外に貧しい身なりの母娘が立って食事する僕を見ている。 食べ終わり歯を磨きに洗面所へ行くとそこにも貧しい娘は立っている。洗面台の中に頭を突っ込み、口を大きく開けてこちらを見上げた。僕が口を濯いだ水を飲むつもりなのだ。 彼女の母親が見ている前で、僕は先程の食事で歯に詰まった食べカスと共に、娘の口の中に吐き出す。 ...
七回表の攻撃の前、円陣を組んだ。ふつうの、丸い円陣だ。その回の裏、相手チームも円陣を組んだ。四角い円陣だった。そんなの見たことがない。 その次の回の裏、相手チームはまた円陣を組んだ。今度は星型の円陣だった。観客がざわめいた。 ...
連中の言うとおりだった。 地球は平らだった。全人類が端っこから落ちそうになっている。 僕は双子の妹の片割れを見つけた。引っ張り上げる。 彼女の夫もついでに助けた。もう1人の妹を探したが見つからない。 おまえの分身はどこにいるんだ? と訊いたが妹は何のことかわからない様子。 わざと僕の目の前でタバコを吸い始めた。僕を怒らせようとしているんだ。 ...
起きているときに見た、怖いぐらいはっきりとした夢だった。幻覚を見ているように感じられた。僕は飛行機に乗っていたのだが、突然その幻覚の中に落ちていった。君がエッセイ本を出版したのだ。その本の中に僕のことが書いてある。「彼は私にとっていちばん大切な友人だった」と。 「彼が生きている間に、そのことを充分に伝えられなかった」 どうやら僕は死んだらしい。いや死んだのは間違いない。もう僕は飛行...
その女性はエレプと名乗った。本名エレン・プなんとか。エレンと呼ぶことにする。 僕は訪ねていった。エレンのブースを。彼女は自分で書いた小説をそこで売っていた。「立ち読みしていい?」と僕は訊いた。 「立ち読みって言い方、あまり好きじゃなかったな‥‥ 」 エレンはいつも過去形で話した。私はエレプと呼ばれていたのよ。 彼女をエレプと呼ぶ人はなかった‥‥ ...
僕の右半身と左半身は別の夢を見ていた。それぞれ夜の間別の場所に行ってきたのだ。朝になって2人は帰ってきた。僕にはよくわからない言葉でお互いにどこで何をしてきたのか報告しあっている。「わかるように話してくれよ」と僕は請うた。しかし彼らは僕を無視していた。顕在意識というものを完全に見下しているようだった。「あんたの見たという夢をときどき聞かせてもらっているよ」と彼らの1人は言う。「オレらにはちと...
みんな「魔王がいる」と言った。そのとおり、さっきまではいた。でも今はもういない。 みんなは引き止めたけど僕は魔王がいた場所に歩いていく。そこは都会の一角だったが野生の動物がいた。 魔王がいなくなったので動物たちも戻ってきたのだ。 僕は動物たちに訊いてまわった。「魔王なんかいないよね?」答えはなかった。 大型のネコ科の肉食獣が僕を襲おうとした。そいつにも訊いた。「魔王な...
喫茶店でコーヒーを注文したが出された飲み物は水だった。水の入ったコップが2つ。僕が座る席を探していると同じく水の入ったコップを2つ持った女と目が合った。 女は自分にコーヒーを出さなかった店に傷つけられたふりをしていた‥‥ 店内にやけに細長いポスターが貼ってあった。小さい文字でびっしりと何か書いてある。僕は女と一緒に書いてある文章を読む。背の低い女は下から、僕はポスターの上の方から...
僕が赤い花を描きたいと言うとその白い花は血を流して自らを赤く染めた。逆だったかも知れない。白い花が突然血を流したりするので僕はそんな夢を見たのだ。 僕は赤い絵の具を持ってなかった。誰もその色の絵の具は持っていなかったので白い花の子供たちももう安心である。 ...
その黒い帽子をかぶると、人間でもフクロウのように首を360度回すことができる。帽子は世界中で流行している。着用率は8割を超えている。僕はかぶってない。 下りのエスカレーターである。後ろに立った人が悪戯で僕にその帽子をかぶせる。そして僕の頭をつかんでクルクルと何回転もさせる。 ...
昨日まであった店が、今日はなかった。すると何の店だったか、もう思い出せない。店のあった場所を通り過ぎて、振り返った。しかし、振り向いてはいけないのだった。 空気にまでモザイクがかけられている。モザイクをかけられた人たちが、お互いの中を出たり入ったりしていた。 ...
毒矢を持ち、地面に掘られた穴の中に身を潜めた。頭上を象が通りかかるのを待った。象の足の裏に矢を刺すのだ。しかし今日も象はやって来なかった。僕は穴から出た。 ...
大量の洗濯物が洗濯機の中で回っていた。これが本当に全部僕の洗濯物なのだろうか。白いシャツはまだ生きていたみたいで、洗濯槽から袖を出し僕に助けを求めた。手を伸ばすと、ゾンビになった他の洗濯物たちが僕を掴み、中に引きずり込もうとしてきた。 ...
東大出身者専用の入口から入った。そこから入ったのは僕1人だった。中でその他の大学出身者と一緒になり、彼らとは出口も同じだった。何だったのかよくわからない。 帰りはみんなと同じところから入って、1人東大出身者専用口に向った。すると行きはいなかった職員が立っている。彼は「留学先はどこですか?」と質問してきた。 ...
廊下にはステンレスの流し台があって温水が出た。そこで僕はポケットの中のものを洗った。それが何だったのかわからない。汚れは落ちたのか? タオルで拭いてまたポケットに戻した。 それから鏡を見た。美が映っていた。僕は美しかった。髪が長かった。目が黒かった。鏡に顔を近づけた。近づけば近づくほど僕は美しくなった。美しくないものは鏡から遠ざかっていった。 ...
黄色い犬。ライオンのように黄色い、僕の大好きな犬。大きさもライオンくらい。「おんぶしてあげるよ」と言った。「僕はお前が好きだから」 「ボクは重いよ」と犬は答えた。 「平気だよ、お前が好きなんだ」 犬は僕の背中に乗って、ウンコをした。 「どうしてウンコするの?」 「ボクは重たいから、体重を軽くしようと思った」 「こんなちっちゃいウンコ1つじゃ、変わらないよ」 「も...
ホテルの部屋で寝ているところに清掃の人が入ってきて枕カバーを交換した。僕は目を覚まさなかった。 清掃の人がしたのは「あなたは夢を見ているんですからね」と言いながら枕カバーを交換することだけだった。足をくすぐられたような気もするがわからない。ゴミは残ったままだ。 ...
扉が開いた。僕は降車した。背後で扉が閉まった瞬間、本を忘れたことに気づいた。本は座席の上にあった。 「焦ることないよ」と友達は言った。「また扉が開くのを待てばいいよ」 そのとおりだった。電車は出発せず、いつまでもホームに停まっている。僕は待った。 ...
そこは原宿のピテカンだった。もうなくなったはずなのにまだあった。しかし僕の目の前で店の明かりは消えていった。また入れなかったのだ。 僕は尻ポケットの、お札でパンパンに膨れた財布に触れた。 物置小屋のようなプレハブが僕の部屋だった。窓にはガラスも嵌まってなかった。電気も来てない。木の机の引き出しに財布を入れ、床で眠った。 そうすると夢の中で僕はピテカンの前に戻っていた...
学校の教室のようなところだった。夜も遅く次々と明かりは消えていった。僕はお札でパンパンに膨れた財布を尻ポケットに入れ、廊下を歩いた。 物置小屋のような一室が僕の部屋だった。窓にはガラスも嵌まってなかった。電気も来てない。 木の机の引き出しに財布を入れ、また教室に戻った。 しかしもう授業は終っていた。男が1人残って教室の掃除をしていた。 「手伝いましょうか?」と僕は声をか...
大きな水色の封筒を持って銀行の窓口に並んでいる。封筒の中には白い紙が1枚入っている。何か書いてあるはずだが僕には白紙にしか見えない。 窓口の人がその紙を見る。裏にも何か書いてあるみたいでじっくりと時間をかけて読んでいる(僕には裏と表の区別もつかないのだが)。彼は「わかりました」と一言。僕に札束を渡した。 ...
何もかもが石でできた部屋に大男が何人も泊まっていた。朝のシャワーを浴びながら歯を磨き柔軟体操をしている。部屋には扉がないので廊下から中の様子が見えた。僕は部屋の前をウロウロして男たちの様子を窺っている。早くチェックアウトしないかな。どうなってるのか部屋の中をじっくり見てみたい。 ...
君は僕に言った。お揃いの刺青を入れよう。痛そうだから厭。痛くなんかないよ。 君はもう入れていた。私を見て。 これと同じ刺青を入れてきて。 僕は袖を捲った。二の腕に入れようかな。あなた、何言ってるの? 私と同じ場所に入れてくるのよ。 ...
僕の隣にいる男性は業界の有名人だ。うどんを食べ終わって出て行く。立ち上がると天井に頭がつきそうなくらい背が高かった。驚異の座高の低さだ。 僕の注文していたうどんが来た。食べようとすると年配の女性が僕の向いに座った。彼女は仕事の依頼をしてきた。それは僕が昔していた仕事だった。今はもうしてない。だが断る前に話を聞いた。彼女はその業界にいた頃の僕をよく知っているようだった。 ...
君は自分のピアノの調律をして。それはすぐに終った。 僕の胸を開け、その中にも入っていたピアノを弾いた。調律のためというより、音楽のために、手は僕の中のヘンなところに入ってきた。 ...
アリスは歩きながら練習していた。学校まで歩いて行く練習だ。歩くことはできても「学校まで歩く」ことは難しいらしいのだ。 学校嫌いのアリス。いろんな建物を学校に見立てて練習している。 ...
何かで教室のみんなが笑った。1人だけ笑わなかった者がいた。彼はみんなが笑い終わった後で、1人笑った。するとそれを見て、先生が笑った。 ...
僕は地下で、スペースを借りていた。「さて」といった。スペース「さて」 地下に下りる前に、いろんなチラシをもらった。音楽や、アートのイベントのチラシ。チラシを「さて」に持ち込んで‥‥ どうもしなかった。 「さて」には段ボール箱が届いていた。 中身は絵の具のこびりついたままのパレット。たくさんのパレットだ。 ...
未来から来た男が少女に未来のニュースを語った。少女は黙って聞いていたがその内に泣き出した。涙が溢れ出る前に少女は逆立ちをした。少女の涙はオデコの上に流れた。 そこで少女は逆立ちをやめた。だが少女の流した涙は彼女の瞳には戻らず、空高く昇って、雲になった。黒雲は白く明るい雲になり、やがて空に溶けた。 ...
僕はその俳優からの依頼で絵を描いた。彼が出演した映画の様々な場面を1枚の絵にしてほしいというものだ。描き上がった絵を見て彼は文句を言った。なんで女優たちとのラブシーンがないんだ? おれに嫉妬しているのか? それはそうかも知れない、と僕は思った。彼とリムジンに乗っていた。リムジンにはコタツが設置してあった。すごくいい趣味だねと僕は褒める。絵は描き直すことも捨てることも可能だった。 ...
時間が逆に流れた。だが君の流した涙は君の瞳には帰らず、空高く昇って、雲になった。黒雲は白く明るい雲になり、やがて空に溶けた。その限りなく透明に近い何かの残りが、強く輝き出すまで、君は泣いていた。 ...
ベッドの足元に大きな窓があり、そこから熱帯の木々が見える。中途半端に文明化された原住民が住んでいる。ラジカセで日本のフォークソングを聴く半裸の人たちだ。いちおう電化はしているのだ。 子供たちが窓から僕の部屋に入ってきて、ビールは要らないかと言う。ラジカセを抱えた大人たちもやってきて、日本語の歌詞の意味を教えてくれと僕に請う。僕は「政治的なメッセージだよ」と答えるに留めた。 タイミ...
青い錠剤の瓶を渡された。僕は病気なのだと女は言う。 「僕は何の病気なの?」 「それは言えない。でも重い病気よ」 青い錠剤は薬なのだ。 「これを飲めば治るの?」 「そう。でも気をつけて。飲み過ぎると死ぬから。少なすぎても死ぬ。病気が悪化して」 「何錠飲めばいいの?」 「それも教えられないわ。あなたが必要と思う分を飲みなさい」 病気が悪化するなんて耐え...
その間中ずっと列車はトンネルの中を走っていた。窓際の席に座った君にとっては気の毒だった。もうすぐ目的地だった。君はトイレに行くと言い席を立った。 君はトイレで着替えをしてきた。短パンをはいている。僕はその服と足を褒めた。真っ黒いフルフェースのヘルメットをかぶっていた。紫外線対策だと言った。僕が訊く前にそう答えた。列車はトンネルを抜けた。 ...
スーパーに、あのお年寄りが来ていた。よぼよぼの老人で、買い物中によく床で寝ている。小一時間寝て起きた後で、店員が呼ばれた。いちど横になってしまうと、自力では起き上がれないのである。何かの動物みたいだ。店員が二人掛かりで起こしている。 ...
制服を渡された。赤い半袖のシャツだ。それを着て仕事をするのだ。シャツの胸ポケには1万円札が何枚か入っていた。今日の給料だ。 一緒に入った新人のバイトがいた。彼は赤い制服を着ていない。彼の制服のシャツには胸ポケットがなかった。ただ働きなんだろう。悲しいことだ。 僕たちは改めて挨拶をした。よろしくお願いします。僕はアニメオタクです、と自己紹介した。それを聞くと彼は笑った。彼はゲーマー...
小さな男の子がいた。父が子供のときの姿になって夢に出てきたのだ。どうして僕はそんなことをしたのかわからない。男の子に「おじいちゃん」と声をかけた。何も反応がなくてよかった。彼の耳は聞こえないことを思い出した。でも僕がもういちど声をかけると、彼は走ってどこかに行ってしまった。 ...
待ち合わせ場所に着いた。大学の構内である。友人はそこでビラ配りをしていた。彼がその仕事を終えるのを待っている。 トイレに行った。そこには小さな子供しかいない。間違えて入ってしまったようだ。小便器がずいぶんと低い。大学に子供用のトイレがあるとは思わなかった。 ...
二階建てのバスは五階建てのビルくらいの高さ。僕以外の乗客はみんな「上」に上がった。乗車すること自体をためらっていた僕に運転手が声をかけた。 「料金は無料」 それでも僕は乗らなかった。何だか気味が悪い。15分後に出るはずの次のバスがもう来ていた。 ...
海には一隻の船も浮かんでなかった。そんな大海を見たのは初めてだった。僕は少し不安になった。港から船に乗ったはずだった。今日の正午に。船はどうしたんだろう。海はどうしたんだろう。僕の顔の周りでバブルが弾けた。 僕は浜辺にいた。浜辺の砂は極度に乾燥していた。波が何度押し寄せても濡れることがなかった。日差しは強かったが少し寒かった。僕は君が脱いだ服を拾って着た。長袖のシャツが1枚。それは浜辺...
空気中に泡が生まれた。まるで水中のようだった。そこかしこに大きな泡がある。それがゆっくりと上空へ昇っていく。 行く手にまた突然の泡が生まれた。僕は目を閉じて頭から泡に突っ込んだ。そこはまったくの無音の世界だった。目を開けると光に目が眩んだ。 ...
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寝てるときお腹が痛くなって目が覚めた。僕はジェットコースターに乗る夢を見ていた。ちょうど乗り込むところだった。そのときにお腹が痛くなった。 「あなた妊娠してるじゃないですか!」と係員は言った。「妊婦さんは乗れませんよ」 そこで目が覚めたのだ。僕はうつ伏せになって寝ていた。ベッドではなかった。枕元に誰かいた。「妊婦さんはうつ伏せで寝てはいけません」とその人は言った。 ...
台車に乗っていくことにした。制服を着た係員が押してくれる。僕は荷物のように運ばれていった。貨物用の巨大なエレベーターに乗って陸に上がった。 昨日の夢にも出てきた、とんがり帽子の少女が僕を待っていた。下着が見えるのも構わず地べたに座っている。そして聞いたことのない歌曲を口ずさんでいる。 「シューベルトとどっちが好き?」と訊いてくる、その少女が係員にチップを渡した。 ...
占い師は80歳の老婆だ。僕は頭を垂れた。だがその御神託を聞くのには体全体を地面と水平にしなければならない。床には布団が敷いてあり、僕は身を横たえた。しかし「顔をシーツにつけてはならない」、ほんの少しだけ顔を上げなければならなかった。 ...
1円玉が何枚か落ちているのはスルーした。しかし10円玉は無視できなかった。僕はそれを拾い、女の子に渡した。女の子は魔女のようなとんがり帽子をかぶっていて、裸足だ。女の子の手に10円玉を握らせた。だが女の子は足をまっすぐ伸ばして地べたに座ったまま、身動きしなかった。 ...
僕はしばらく1人で待った。彼女は織田信長の手を引いてその先まで送っていった。彼女と僕は裸足だった。そこに着くまでに鋭く尖った石を何度も踏んだ。きっと足の裏は血だらけだろう。信長だけが草履を履いていた。しかし信長は裸だった。体には無数の赤い切り傷があった。 ...
ゼリーを食べていると男の先輩が来て言った。「バラの世話をする時間だ」 僕はゼリーを急いで食べ先輩の後を追った。 庭には椿か牡丹のようにバラの花が落ちている‥‥ 先輩は手に持った鋏を何もない空中にかざした。 すると空からバラの花が降ってきた。まるでヒョウのように。「本降りだ」と先輩は言った。僕は傘を先輩に差しかけた。 ...
僕はベッドに寝ていた。病院のベッドだったが体調は全然悪くない。僕は健康である。 女のコが1人見舞い(?)に来ていた。彼女は僕の頬にキスして去って行った。 毎日目が覚めるとそんなことが起きた。 ベッドに寝ている〜また別の女のコがいる〜彼女は僕の頬にキスして去る。 だがついに事態は変化した。ベッドには僕ではなく女のコが寝ていた。病気で入院しているのだ。 僕は彼女の頬...
多言語を喋れる女生徒が、先生の代わりに授業をした。いろんな国の言葉で、簡単な自己紹介の挨拶をする。彼女が日本語を喋れるのを聞いて、僕は驚いた。この教室で日本語ができるのは、僕1人だと思っていた。 「今の、日本語でしょ?」と、隣の席の、クラス1番の美少女が、僕に話しかけてきた。そのコに話しかけられたのが嬉しかった。教壇の女生徒の日本語の挨拶を、そのコに繰り返した。教壇の女生徒は笑っている。...
休憩で立ち寄った食堂の中で僕は眠ってしまった。その間にバスは出てしまった。友人たちはどうして起こしてくれなかったのだろう。その時点では自分がわざと置き去りにされたことに気づかなかった。僕はイジメられていたのだった。 ポケットの中に映画の前売チケットがあった。この映画を観るためにバスに乗ったのだ。朝だった。食堂には誰もいない。僕は店を出て走った。全力疾走すればバスに追いつけるような気がし...
僕の服は僕の部屋にはなかった。隣の部屋にあった、そこには見知らぬ女が住んでいて、なかなか服を取りに行くことができなかった。 部屋に自分の服を取りに行くときには、いつも女の母親と一緒に行った。母親は茶色の大きな封筒を持って行く。 中身はわからない。中身なんかないのかも知れない。 その封筒を女が受け取ったのを見て、僕は部屋の中にある自分の服を探すのだ。 「たしかこの...
僕が浦島太郎のように亀を助けたと嘘をつきまくっていると竜宮城からお迎えが来た。「本当に助けたんだな」とみんなは言った。「嘘だと思っていたよ」 だが竜宮城の人たちは知っていたのだ。僕は半ば拉致された形だった。「許してください」と請う。「もう嘘はつきません、解放してください」 僕は例の箱を持たされて解放された。帰ったら必ずこの箱を開けろと言われて。もし開けなかったらひどいこと...
広大な空港の中を走るバスにもう何時間も乗っている。僕は席には着かずに立ったままずっとスマホをいじっていた。席は空いていて運転手も乗客も座るように勧めたが僕は聞かなかった。 いくら広いとは言っても空港だしこんな何時間も乗っているとは思わなかったからだ。やっと到着した。 しかし僕の乗る飛行機の出発時刻はとうの昔に過ぎていた。だめもとでカウンターに行って払い戻しを受けられるか訊いてみよ...
その絵に描かれていた鳥は動いた。 「目がおかしくなったのかと思った」と僕は言ったが、「本当に動いているのよ」と彼女が答えたので安心した。 鳥は絵の中から飛び出すと巨大な蚊になった。ドローンのように飛び回っていたがやがて僕の腕に止まった。 「これに刺されたらどうなるの?」と僕は不安になって訊いた‥‥ 「血がなくなって死ぬよ」 「でも刺したりはしないんだよね?」 「私、...
僕は持ち歩いていた鏡に、常に自分を映して見ていた。見ていないと僕は消えてしまうからだ。しかしふっと目を逸らしてしまった。僕は消えて、隣に若い男が現れた。それは若いころの僕だった。その隣には醜い老人がいた。老人は四つん這いになり、犬のように首にリードをつけられていた。 若いころの僕がそんなふうに老人を散歩させているのだとわかり、僕は僕を憎んだ。その老人と消えてしまった僕とは年は幾つも違わ...
僕の髪は、だんだん短くなっていった。せっかく伸ばした髪なのに。 それに気づいた友人の1人が、「そうか、死んだんだな」と言った。「死ぬと、髪は短くなっていくんだよ」 「爪もそうだ。切ってもないのに、短くなる。これ以上短くならないところまでいったら、そこで本当に死ぬ」 「まだ死にたくない」 「葬式をやってやる。成仏しろよ」 彼はそう言って、僕の頭をバリカンで刈った。ヒゲを...
目のない女がいた。彼女は僕を見つめていた。どうしてそんなことができるのだろう。僕は混乱したまま彼女に近づき、話しかけた。「えっと、1万ウォン貸してくれって言ったら驚くかな?」 「全然」と目のない女は答えた。 「えっと、僕は驚いているんだよ。えっと‥‥」 「何に?」 「えっと、それは言えない」よく見ると彼女には口もなかった。 「ムカつく」彼女はそう言って僕の首を締めた。 ...
海外で賞を獲った話題の映画を観るために、僕たちは並んだ。列は、映画館の外の、土手にまでできていた。そこに、有名な映画監督の、A氏の姿が見えた。「こんなところに‥‥」と僕は言った。独り言のつもりだったが、驚いたせいで、大声になってしまった。 「試写会に、招待してもらえなかったんですか?」僕は、声をかけた。「落ちぶれたもんでな」A氏は答えた。それで周囲の人々も、A氏に気づいたのだ。A氏は、彼...
この学校の女生徒には全員片足がない。男子生徒は僕しかいなかった。先生は耳の聞こえない年寄りのゾウガメだ。 今日先生が持ってきたカゴの底に、魚が一匹残っていた。切り身の魚だったが、ピチピチ跳ねている。僕はそれを先生に見せようと思ったが、先生はもういなかった。授業は終ったのだ。 女生徒はフラミンゴのように立ち、僕の前で義足を外し、足の付け根を掻く。学校にはその女生徒以外、誰も残ってな...
窓辺に炊飯器があった。ご飯が炊きあがっている。僕はそれを手でつかみ取り、窓の下の貧しい人たちに投げてやる。彼らは僕に気づかない。窓をそっと閉める。外は雨だ。 昼食の時間だった。僕は1人で食べるつもりだったが、裸の名前を知らない少年が僕の隣に座った。その子には体毛が全然なく、肌の色も真っ白だった。そのせいで年齢不詳だった。 ...
ピラミッドが崩れる。四角い大きな岩は消えてなくなる。数千年の時が流れた。 その跡地には丸い窓を持ったビルが建つ。ビルに出入口はない。窓は開かない。 ...
高校の校舎がホテルになっていた。僕は3年2組の教室に1人で泊まった。広すぎるシングル・ルーム、でも部屋にはトイレもなかったし、手を洗う場所もなかった。 緑色のシーツを持って、係の人がやってきた。とても大きなシーツ、そのシーツで彼は、教室の机と椅子と黒板と壁を全部覆った。僕は窓際の席に座って、その様子を見ていた。 ...
警戒怠りなく眠る僕の隣に、まったく無警戒に起きている君がいる。見て。君は完全にリラックスして、空中浮揚し始める。風船のように、天井まで行く。その後ゆっくり落ちてきて、僕の隣に。 ...
トンネルを抜けると終着の駅だった。料金は駅の改札を出るときに現金で払った。連れの女性が細かい小銭を出してくれた。日本円にすると1円にも満たないコインを。 その女性は野球選手だった。ポジションはセカンド。「また2軍に落ちた」「もう引退しようかな」そんな話をしながら駅構内を歩く。 「諦めるのは早い」 だって彼女はまだ10歳かそこらだ。僕の前を月面を歩く人のようにぴょんぴょん飛び跳...
僕たちが乗っている路面電車の床は透明だった。電車が走っている地面も透明で、地下の様子が見えた。 地下の人間は1人で行動していた。家族連れやカップルはいなかった。全員がお1人様だった。 僕もいつか地下に行くときは1人で行かねばならないだろう‥‥ あぁバスが停車している。バス停でもないところで。それは僕のためである。礼を言って乗り込んだ。 バス...
夜は自分こそが夜だと信じている人を一緒につれてきた。 その人は女だった。若い女だった。彼女は何も食べなかった。 トイレにも行かなかった。いつも寝ているか、寝ているふりをしているかどちらかだった。 僕は彼女とずっと一緒に過ごしたが1人きりでいるようなものだった。 この間の夜がまたきた。 夜は自分こそが夜だと信じている女をまた1人つれてきた。 彼女たち...
日本への留学は延期しろと父は言った。どうしてと私は訊いたが答えはなかった。日本人のボーイフレンドを父に紹介した直後だ。父は私たちの交際は認めてくれた。それどころかいずれ結婚するんだろうとまで言った。彼の実家のある和歌山のことを訊いていた。彼は片言の韓国語でみかんのことなどを話していた。 台風がよく来るんです。ソウルにも台風は来ますか? 来るよ。でもあんまり大きなのは来ないな。...
君に似た人を町で見かけるたび、僕の胸は高鳴る。君に似た人は、そこら中にいる。だから僕は、その中でも特に君にそっくりな顔を探した。 あまりにも似た人を見つけたので、本人じゃないかと思い声をかけてみる。君の名を呼んだのだ。そうすると、僕の周囲にいた女性全員が振り返ってこちらを見た。僕は愛に取り囲まれた。 ...
超能力のある連中が集団で僕を襲った。まず心が読めるやつが僕の心を秘密を覗いた。念力のあるやつや瞬間移動ができるやつにされたことよりも、それがいちばんキツくて、僕は動揺した。 ...
その部屋の中には歌を歌っている人たちがいたが、彼らはまるで労働する者のように疲れていた。僕は冗談で歌に加わった。歌詞はドイツ語か、オランダ語のように思えたけどよくわからない。歌詞を英語に訳したものをもらった。 ...
空き缶や、ペットボトル、ヤクルトの容器などのゴミが、レジ前の床に散乱していた。買い物客が会計を待っていたが、レジには誰もいない。僕は自分の買い物を諦め、代わりにレジに立った。 客がカゴを置く台の上も、ゴミでいっぱいだった。買い物カゴの中身も、ゴミが半分だった。僕は商品と区別せず、すべてをレジに通した。機械的に作業した。 最後に「これはサービスです」と言い、消毒液の入ったスプレー容...
僕は君の家で、君のお母さんと一緒に、君の帰りを待っている。木のテーブル、大きすぎる木の椅子、木の皿に、サラダが盛りつけてある。僕はそれを、手づかみでときどき食べる。 誰も見ていないテレビがつけっぱなし(消しましょう、とは言い出せない)。君は今、どこで何をしているんだろう? そんな僕の心の声に、テレビが返事をする。 ...
黄色いコートを着た。黄色い腕時計をした。あと僕に足りないのは黄色い花束だけだったが、それは君が買ってくれた。「あなたは金持ちになるのよ」と君は言った。「黄色は金持ちの色」 僕はその花束を持って、午後の教会に行った。「僕は金持ちになるんです」「黄色は金持ちの色なんです」。教会にはたくさんの人がいて、僕はその1人ひとりに花の名前を教わった。でも結局自分が手にしているこの花が、何という花なの...
部屋に入った。ベッドメイクはまだできてなかった。畳まれたシーツが置いてあって、それは太陽の匂いがした。乾燥機ではなく、屋外に干して乾かしたものだ。 自分でベッドメイクをした。部屋にはテレビがなかった。CDラジカセが置いてあった。アンテナを伸ばして、ラジオを聴いた。隣の部屋の人も、同じ番組を聴いていた。古い歌が流れた。部屋の壁は薄かった。 ...
貧乏な村人たちが集まり、お金を出し合った。じゃんけんをして勝った男が、その金で都会のソープに行った。しかしあまりにも身なりが悪いので、入店を断られた。「ダニやノミのいるような男は、お断りだよ」と店の支配人は言った。 ...
僕は買ってきたお土産をてるてる坊主のように窓際に吊るし、それが揺れるところを君に見せた。外はもう晴れていた。君は「あれは食べるものなんでしょう?」と訊いた。「てるてる坊主を食べる人はいないよ」と僕は答えた。「あれはてるてる坊主なの?」「違うよ、お土産の饅頭だよ」 ...
部屋の隅にいて動かない白い蛇を見つめていると、その背中に羽根が生えてきた。蛇はその羽根で羽ばたき、部屋の反対側の隅に移動して、また動かなくなった。 ...
君は宇宙旅行から帰ってくると、真っ先に僕の家の台所へ向い、何かつくり始めた。宇宙で覚えてきたレシピだろうか。2人でそれを食べた後、性交しているところに、宇宙人がやって来た。行為を中断し、僕は台所に立った。そこでさっき食べたものと同じものをつくっている間、君は宇宙人に何度かお礼を言った。 ...
朝起きて、まず最初にしたことは、「勉強」だった。歯も磨かず、トイレにも行かず、机に向った。文章にはならない文字を紙に書きつづけた。その紙を小さく畳み、封筒に入れた。自分には読めない文字で、ずいぶんと長い宛名を書いた。 ...
買い物袋を抱えて坂を上る老人が、10歩ごとに立ち止まって息を吐いていた。正確に10歩だった。クロールで泳ぐときの息継ぎみたいだ。 ...
台所で料理をしていると、クー・クラックス・クランのような白装束の小人が何人か入ってきた。 「大丈夫」と君は言うのだが、少し心配になった。何か、盗まれたりしないだろうか。「うちには盗むものなんか何もないよ」と僕は小人たちに話しかけた。 彼らは何も答えず、ただ僕の家をいろいろと見て回っていた。美術館で美術作品を鑑賞しているような感じで、静かに。 「ゴミを捨ててもいい?」と彼らの1人...