幸田回生 さん プロフィール

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幸田回生さん: ブログ連載小説・幸田回生
ハンドル名幸田回生 さん
ブログタイトルブログ連載小説・幸田回生
ブログURLhttps://ameblo.jp/kodakaisei
サイト紹介文この度、ブログで連載小説をはじめます。 よろしかった、読んでみてください。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供53回 / 365日(平均1.0回/週) - 参加 2005/06/18 13:44

幸田回生 さんのブログ記事

  • 新高山登れ1(日本)14
  •  14  横浜港から清水港までの船内でダウンしたのが嘘のように、 渋谷ツヨシは気丈に踏ん張っていた。 零時を挟んで、仕事の切りがよいところを見計らって、 内田さんが食事にしてくれて、心も体もリフレッシュできた。 清水港から乗り込んだ仕事も折り返し点を過ぎて、 もうひと頑張りすれば、太陽が東の空に昇る頃までには神戸港に着く。 それで仕事が終わる。  食事が終わり、深夜の甲板で内田さんとフィリピン人の船 [続きを読む]
  • 新高山登れ1(日本)13
  •  13  周麗子が荼毘に付された翌日、 仕事帰りの中野ミドリが駅に向かう途中、携帯電話が鳴った。 「上野キミコです。 先日はお世話になりました。 ミドリさん、よろしかったら、 今度の日曜日に、中野のわたしの家まで遊びに来られませんか?」「はい、伺います」  ミドリはプライベートというより、ビジネス会話のように、 二つ返事で、キミコの誘いを了承した。   二人は出会ってから最初の日曜日に中野駅で待ち合わ [続きを読む]
  • 新高山登れ1(日本)12
  •  12  ツヨシとユウジはジミーに暫しの別れを告げた。 二人は船底のエンジンルームに潜り、 フィリピン人の船員は貨物船の業務に携わるのだが、 彼がどんな仕事をしているのか、とんと見当が付かなかったが、 神戸港に着く明日の朝にはまた会うことが出来るだろう。 「じゃ、ジミー」 ツヨシとユウジは言葉を揃えて階段を下りた。  作業着に着替えた二人がエンジンルームに着いた時、 内田と白井はこれから作業について軽 [続きを読む]
  • 新高山登れ1(日本)11
  •  11  中華会館で亡くなったのは中国人女性の周麗子、金美南、 台湾人男性の陳大全、葉資明の計4名で、 彼らの死因は死後3日目を迎えても依然として不明のままだった。 日本式にいえば成人になったばかりの若い彼らが如何なる理由で異国の地でこの世を去らなければならなかったのか、 生きるということはつくづく不条理なものだ。 彼らの遺体は司法解剖を終えると、警察から家族の元に戻される。  中野ミドリが勤める日 [続きを読む]
  • 新高山登れ1(日本)10
  •  10   午前8時前、二人はシャワーを浴びて、作業着から元の服に戻り、 ツヨシは辛子色のジーンズ、チェックのシャツと黒いジャケット、 ユウジはブルージーンズ、白いカットソーの上から紫の薄いパーカーを羽織り、清水港で船を降りた。  振り返ると、船内で彼らを揺らした名前も知らない貨物船は疾うに横浜から浦賀水道を過ぎ、相模灘を抜け、 伊豆半島を回り、見えない錨を降ろし、接岸していた。  ユウジと甲板から戻 [続きを読む]
  • 新高山登れ1(日本)9
  •  9  残り少ない春休み、上野キミコはふだん通りに7時前に目覚めた。 パジャマからジーンズとシャツに着替え、自分の部屋からトイレに行って用を足し、洗面台で顔をざっと洗い、ブラシで髪を整え、  2階から1階のリビングに降りた。 両親と祖母に「おはようございます」と挨拶を交わして、 上野家の朝食の定番であるトースト、スクランブルエッグ、 サラダを食べ終え、紅茶を飲んだ。  今朝はどういう風の吹き回しか [続きを読む]
  • 新高山登れ1(日本)8
  •  8   ツヨシとユウジはA4サイズにプリントした地図で場所を確認して、本牧の事務所で手続きを済ませ、午後6時半を待った。 太陽はすでに西の空に沈み、夜の帳はおりていたが、 それほどの暗さは感じられなかった。  貿易船というより何でも積み込むことから雑貨船と言われる船内に入るとまず、フィリピン人の姿がツヨシの目に飛び込んだ。 嫌な予感がした。 1人、2人、3人。  30歳くらいの小男の船員がツヨシに近 [続きを読む]
  • 新高山登れ1(日本)7
  •  7  昨年の夏、渋谷で上野キミコの腕時計が止まってから気節は移り、 正月の三箇日が過ぎ、平成22年が世間が動き出すと、成人式が待っていた。  たたでさえ、人付き合いが苦手で、 一人でピアノを弾いているのが好きな彼女には鬱陶しかった。 それでも両親に勧められると嫌とは言えないキミコに今回は二人の祖母も加わった。  いやいやながらも、まるで中学受験の当日のように区役所が催す成人式に出席することにした。  [続きを読む]
  • 新高山登れ1(日本)6
  •  6  中野ミドリは都内の一軒屋に赤の他人と住んでいる。 彼女は東京へ移り住むことを決意していたものの、  引っ越しの初期費用を抑えるために苦心した。  昨年の3月、会社に辞表を出す3週間前、 富山の寮からノートパソコンでネットサーフィンのあげく、  ようやく安上がりなシェアハウスのサイトを見つけた。「急遽、欠員が生じるため、シェアメイトを募集します」 ミドリは思い切ってメールを出した。  翌日、ミ [続きを読む]
  • 新高山登れ1(日本)5
  •  5  渋谷ツヨシは子供の頃からの友人のユウジに誘われ、 彼の住む川崎市の丘陵地帯に出向いた。 アパートのある立川からJRの南武線に乗り、 シートに腰掛けていると、見るからに労働者風の中高年や若者が入れ替わり立ち替わり、電車に乗っては降りた。  この沿線には日本を代表する大企業の工場とそれを支える中小の工場が多摩川を挟んでいる。 彼らの発する標準語的な労働者風の言葉尻を捕らえると、 工場勤めなのだろ [続きを読む]
  • 新高山登れ1(日本)4
  •  4  明治以来、上野家は百四十年余り東京に住んでいる。 父方も母方も元を辿れば薩摩出身でともに下級武士の元士族だが、 平成生まれのキミコの代ともなると、薩摩は遠くなって、 彼女が小学生の頃、両親に連れられてご先祖のお墓まりをしたきり、それ以来、家族の誰もが鹿児島にも九州にも足を向けていなかった。  幕末維新の戦、日清日露戦争、大東亜戦争と戦に続く戦で先祖の何人もがお国のために命を落としていたが、 [続きを読む]
  • 新高山登れ1(日本)3
  •  3  中野ミドリは今風の派遣でもなく、フリーターでもなく、 歴っきとした正社員で日本人学校で事務をしている。 仕事は学生の管理で、その半数を占めるのが中国人だ。  ミドリは富山県の出身で生まれ育った山間地には一人の中国人もいなかった。 外国人の姿もなかった。 在日といわれる外国籍の人もいなかった。 生まれてこのかた、ミドリは高校を卒業するまでの18年間、 富山の田舎で先祖代々から引き継がれた、 雪 [続きを読む]
  • 新高山登れ1(日本)2
  •  2  ベッドから起き上がり、 テーブルの上の飲みかけのミネラルウォーターを飲み干すと、 寝起きのツヨシの胃袋の中にすっーと入り込んだ。 ねむけ眼で正味期限に目を留めると、民国百年一月一日と黒く印字してある。  それが何を意味するのか容易に理解はできなかった。『民国百年一月一日』=(2011年1月1日) これは想像に過ぎないのだが、 これまでの20年の人生経験や知識から、 民国とは中国か台湾の年号の [続きを読む]
  • 新高山登れ1(日本) 1
  •  1                  幸田回生                                    深夜の静まり帰ったアパートで、 シングルベッドに横になりながら、 渋谷ツヨシは太宰治の小説を読んでいた。  大学近くの古本屋で手に入れたまま、約半年間、 本棚の上に積まれていた2編の中編からなる文庫本で、 悲 [続きを読む]
  • 小さな島の行きつく先は4 30
  •  30  宝ヶ池で電車を下りて、 バス停で時間を確認すると、10分の間があった。 定村が辺りを見渡すと、公衆電話が然も語り掛けているかのようだった。  ナップザックから財布を取り出し、  テレホンカードを抜いて電話機に挿入し、 その時、思い付いたただ一人の人に電話すると、「弟くん、ちょうどよかった」  中島さんの声だ。「これから、デートに出掛けるところでした。 というのは嘘で、大晦日の今日も彼女は仕事で [続きを読む]
  • 小さな島の行きつく先は4 29
  •  29  ゆりの目覚めはいつもよりずっと遅く朝8時を過ぎていた。 部屋に籠もっていると気分がめげそうで、レストランで食事をすることにした。  洗面台の鏡の前で髪を解かす間に、 肝心の定村は部屋に戻ったのだろうかと、心に浮かんだ。 間髪を入れず、ゆりは部屋の電話で唐人ハウスに掛けた。  待つこと数十秒。 受話器を取ったフランス訛りの日本語で、「トムですか、少し、待ってください」 オルゴールの音楽もない静 [続きを読む]
  • 小さな島の行きつく先は4 28
  •  28  大晦日の朝、眠気まなこに豆電球の橙色がぼんやりと透けて見えた。 想いのほか、定村は早く目覚めた。 温泉の効能か祇園から大原、鞍馬までの強行軍の疲れもすっかり取れて、体の節々も足の痛みもない。 想いもよらずの小旅行による軽い興奮のためか目が冴えた。  思い切って床から抜け出すと、 付けっぱなしのエアコンのおかげで寒くなく、 垂れた紐を引いて蛍光灯の明かりを点し、リモコンに触ると、 テレビの文 [続きを読む]
  • 小さな島の行きつく先は4 27
  •  27  ゆりが唐人ハウスを出たのは深夜12時を過ぎていた。 タクシーでホテルに戻り、 彼女はフロントでもう一泊することを申し出た。  エレベーターで部屋に戻り、 バスタブにお湯を張っていたら、条件反射のようにお腹が鳴った。 この部屋でカレーを食べて以来何も食べていなかった。 お昼は過ぎていたはずだ。  時間の観念が希薄になっていたが、冷静になって思い返してみると、京都駅からホテルに着くなり、 定村の住 [続きを読む]
  • 小さな島の行きつく先は4 26
  • 26  定村は貴船神社奥宮から駆け下りた。 鞍馬の里に辿り着いた安堵感から、 背負っていたナップザックを降ろして、ガイドブックを出した。 そういえば、鞍馬寺からの下り道で、由岐神社の側を過ぎた。  ガイドブックに収められた小さな写真の下の簡単な走り書きで、  由岐神社が鞍馬寺の氏神に当たるというのが、 どうにも腑に落ちなかった。  しかしながら、日本津々浦々を回った経験がなく、 宗教知識が乏しくとも [続きを読む]
  • 小さな島の行きつく先は4 25
  •  25  トムから聞くだけのことは聞いた。 陽暮れまでに、定村は戻ってくるだろう。 その時に合わせ、ゆりは京都の色町の一角に忘れたように佇むこのアパートにもう一度戻ってくればいい。  トムからゆりの訪問を伝え聞いて、定村がどう反応し、 どう行動するかの仮定には、彼女の心は微塵だにしなかった。 一途な思いで京都までやって来たゆりにはとって今更、 気の迷いなどなかった。 あるのは、定村に会えるという確信だ [続きを読む]
  • 小さな島の行きつく先は4 24
  •  24  鞍馬寺の境内を抜け、鞍馬山に向けて、定村は歩き出した。 機転を利かせ、ケーブルカーを使って体力を温存したせいもあり、 少々のことでは呼吸の乱れもなかった。  とはいっても、薄曇りの冬の木立から漏れる陽射しが山道に入り、 息も上がり、体が熱く、仄かに脇の下に汗が滲んでくる。 今朝、トムに一声掛けて、唐人ハウスを出た時は、 まさか山に登るとは夢想だにしなかった。  鞍馬山に登らんとするこの日の出 [続きを読む]
  • 小さな島の行きつく先は4 23
  •  23  ゆりを乗せた新幹線はトンネルを抜けて近江の国から山城の国に入った。  彼女が京都行きを決断したのは2日前の仕事納め。 いつものように美術館からまっすぐ家に戻ると、 ポストには郵便局からの不在通知が届いていた。  手に取ると、書留め速達で、 差出人は先だって訪れた新宿の街外れの探偵社だった。 ゆりは通知はがきを玄関先で破り捨ててやろうかと思った。 が、万が一、定村の居所がわかったのであれば。 [続きを読む]
  • 小さな島の行きつく先は4 22
  •  22  中年カップルと運転手は拝観料を払い寂光院の中に入った。 もう一方のカップルと運転手も続いた。 彼らを見送り、門前でためらっていた定村に里の老人らしき男性が声を掛けた。 「どこに行かれます?」 言葉に詰まった。  老人は言葉を続けた。「この先の右手に神社がありますが、土地の者の社ですので、 お兄さんには遠慮してもらいましょう。 ただ、左手の山を登っていくと、2時間、3時間も歩けば鞍馬に辿り着き [続きを読む]
  • 小さな島の行きつく先は4 21
  •  21  今年も残すところ二日。 定村は念願だった、兄が命を落とした郊外の大原に向かうため、 賀茂川沿いの停留所で大原行きのバスを待った。  先月、兄の親友だった中島と四条大橋で偶然出会って以来、 東京と京都間での手紙のやりとりを通して、 中学1年の夏以来15年の長きにわたって、 川面の藻屑のように心に浮かんでは消える兄への思いが、 ウズラの卵ほどに小さかった炎が、 胸の奥底で封印していたはず兄の死の [続きを読む]
  • 小さな島の行きつく先は4 20
  •  20  同じ頃、恵美子と婚約者の岩村は地元のプラットフォームに降り立った。 電車の中では1泊2日の京都への小旅行の話題に花が咲いた。  岩村にとって京都は4年間の学生時代を過ごした思い出の地。 三男の彼は跡継ぎの長男、秀才の次男の二人の兄たちと違って、 父にそれほど期待されていないのはわかっていた。  それでも、父の強い勧めもあって、京都の仏教系の大学に進んだ。        父に引かれたレールとは [続きを読む]