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Youtaful Days! https://pocari.hatenablog.com/

仙台在住のサラリーマンによる本と音楽の感想と2人との子どもの成長を綴った頁です。

自己紹介 松井秀喜世代のサラリーマンです。 ブログの内容 音楽関連では、オリジナル・ラヴとスガシカオの記事が多いです。 本は、吉田修一が若干多いかもしれません。 コメント 気軽にコメントください。特にオリジナル・ラヴファンの方大歓迎。

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2008/12/29

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  • 共感されない物語でいてほしい~図野象『おわりのそこみえ』

    おわりのそこみえ作者:図野 象河出書房新社Amazon ポップな表紙デザインとは対照的に不吉なタイトル。 よく見ると、フォントまで不吉さを増幅している。 で、タイトルが『おわりのそこみえ』 そこみえ? 底が見えたのか?見えているのか? いずれにしても、底まで行ってしまう話なんだろう。 実際読み始めてみると、語り手は、既に「底」にいるように見える。 コンビニに駆け込んでおろしたお金に、例えば消費者金融のマークが大きく書かれていたとしたら、ちょっとは借金のことを真剣に考えるのかもしれない。 あら、この子借金したお金でコンビニのおにぎり買ってるわ、若いのに恥ずかしくないのかしら、しかも女の子、いやあ…

  • 関心を持たざるを得なくなるドキュメンタリー映画~『ビヨンド・ユートピア 脱北』

    映画を観に行くシチュエーションというのは自分には2パターンあって、見る映画が完全に決まっている場合と、映画を観に行く日と時間だけ決まっている場合がある。 映画が決まっていない後者の場合でも、常に観たいストックはたくさん貯めているので、あまり迷うこともないのだが、今回は少し違った。 公開日で前評判の高い「52ヘルツのクジラたち」は当然候補に入っていたし、こちらも公開3週目で継続して評価の高い「夜明けのすべて」。気分次第ではこれらを選んだが、邦画を見る気分になれない。さらに、元々、本屋大賞関連作には警戒感があり、避けることに。 第一候補「ストップ・メイキング・センス」を観に行くなら時間的に渋谷のシ…

  • ミステリ要素の配合が巧い短編集~古矢永塔子『ずっとそこにいるつもり?』

    ずっとそこにいるつもり? (集英社文芸単行本)作者:古矢永塔子集英社Amazon 5編から成る短編集で、共通するのは、作中で伏せられていたことが、○○だと思っていたら実は××だった、という一種の叙述トリック。 ただ、どれも日常生活の中での人間関係を扱っており、事件要素、謎解き要素はゼロで、ミステリを読んでいる感じがしないまま、最後に種が明かされる。 先日読んだばかりの古谷田奈月『フィールダー』(傑作!)に続いて「こや」繋がりの著者は、『七度笑えば、恋の味』(文庫化の際に『初恋食堂』に改題)で小学館主催の第1回「日本おいしい小説大賞」受賞というミステリとは関係のない経歴をお持ちで、やっぱりミステ…

  • 「誰か」とは誰か?~宮部みゆき『誰か Somebody』

    誰か―Somebody (文春文庫)作者:みゆき, 宮部文藝春秋Amazon 菜穂子と結婚する条件として、義父であり財界の要人である今多コンツェルン会長の今多嘉親の命で、コンツェルンの広報室に勤めることになった杉村三郎。その義父の運転手だった梶田信夫が、暴走する自転車に撥ねられて死亡した。葬儀が終わってしばらくしてから、三郎は梶田の娘たちの相談を受ける。亡き父についての本を書きたいという姉妹の思いにほだされ、一見普通な梶田の人生をたどり始めた彼の前に、意外な情景が広がり始める――。稀代のストーリーテラーが丁寧に紡ぎだした、心揺るがすミステリー。 先日ビブリオバトルで、自分が川上未映子『黄色い家…

  • 2つのパープルと映画における「顔」問題~『カラーパープル』×『光る君へ』

    『カラーパープル』は公開初日に観たのだが、鑑賞前に、映画.comでの感想を流し見して「誰にも共感できなかった」と書いている人がいるのを目にした。黒人差別という、構造的にはわかりやすいはずの問題を扱っていて「共感できない」ということがあるのだろうか、と、そのときは思った。 大河ドラマ『光る君へ』 この前の土曜日に、NHKの土曜昼の番組「土スタ」を見た。 大河ドラマ『光る君へ』で紫式部を演じる吉高由里子がゲスト。番組進行役の近藤春奈とは十年来の親友ということで、とてもリラックスした雰囲気でいつも以上に楽しい回だった。ちなみに吉高由里子が紫式部につけたニックネームが「パープルちゃん」ということで、『…

  • ノンフィクション、エンタメ、文学の境界~齊藤彩『母という呪縛 娘という牢獄』×川上未映子『黄色い家』

    齊藤彩『母という呪縛 娘という牢獄』、川上未映子『黄色い家』という全くジャンルの異なる2冊の本を短い期間に連続して読んだ。 異なる、と書いたが、共通点もある。 『母という~』はタイトル通り、母が娘を拘束して、そこから逃げ出せないような「監禁」状態で過ごした二十数年間が描かれ、『黄色い家』は、冒頭で主要登場人物が若い女性の「監禁」で捕まる話が出てくる。 それもあって、順番的にあとに読んだ『黄色い家』は、『母という~』に似たような展開の可能性も予感しながら読み進めた。 結果的には、似たところは全くない二冊だったが、それらを読む中で、ノンフィクション、エンタメ、(純)文学というジャンル毎に自分が何を…

  • 社会派ミステリで描く安楽死問題~中山七里『ドクター・デスの遺産』

    ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人 「刑事犬養隼人」シリーズ (角川文庫)作者:中山 七里KADOKAWAAmazon先日久しぶりに会った2歳下の弟が、最近よく読んでいるということで中山七里を薦めてくれて、興味のある安楽死問題を扱った小説があるということで手に取った。 近年読んだ社会派ミステリとしては、相場英雄『アンダークラス』(外国人技能実習生問題)という傑作があり、脳内では常にこの本と闘わせながら読んだ。 新書『安楽死が合法の国で起こっていること』を読んだからこの小説に興味を持ったため仕方がないのだが、安楽死についてのリテラシーがかなり高い状態で臨んだことが災いして、その点では心に響かない…

  • 尋常じゃない「聡実くん」祭り~綾野剛・齋藤潤主演『カラオケ行こ!』

    チラシを見たときから「これは、あの漫画そのままでは?」と思っていた。漫画を読む前ではあったが、原作漫画の存在は知っており、和山やま作品も『夢中さ、きみに。』を読んだことがある。チラシの2人は漫画の2人にイメージ的にぴったりじゃないか。 実は初めて原作漫画を読んだのは映画を観に行った当日の朝。 頭の中に綾野剛と齋藤潤(岡聡実役)のイメージが入り込んでいたからかもしれないが、今思えば、その時点で、映画キャストに当てはめて漫画を読んでおり、すでに映画を観る前から漫画と映画が一体化していた。そして実際に観てみると、映画の感想はとても独特で、何というか「聡実くん祭り」という感じ。途中から、彼がどんな表情…

  • 植物状態の母との25年~朝比奈秋『植物少女』

    植物少女作者:朝比奈 秋朝日新聞出版Amazon 「図書館で借りて読んだ」と書くと申し訳ない気がしてあえて書かないが、買って読む本より借りて読む本が多い。 予約貸し出しの場合、ほとんどの場合は、何故この本を予約したのかを思い出せない頃になって本が手元に届く。 そんな風にして、偶然、児玉真美『安楽死が合法の国で起こっていること』のあと、問題意識が継続しているタイミングで、この小説を読むことになったのは本当に良かった。 美桜が生まれた時からずっと母は植物状態でベッドに寝たきりだった。小学生の頃も大人になっても母に会いに病室へ行く。動いている母の姿は想像ができなかった。美桜の成長を通して、親子の関係…

  • 「死にたい」という人を死なせてあげていいのか?~児玉真美『安楽死が合法の国で起こっていること』

    安楽死が合法の国で起こっていること (ちくま新書)作者:児玉真美筑摩書房Amazon昨年、興味はあったのに見逃した映画のひとつに『PLAN75』がある。 少子高齢化が一層進んだ近い将来の日本で、満75歳から生死の選択権を与える制度<プラン75>が国会で可決・施行されたら?という内容だ。happinet-phantom.com この『安楽死が合法の国で起こっていること』の序文では、この映画(2023)に加えて、相模原障害者施設殺傷事件(2016年7月)の植松聖の発言、直後の橋田壽賀子『安楽死で死なせてください』(2017)、NHKスペシャルでのスイスでの医師幇助自殺の密着取材(2019年6月)、…

  • 前澤友作の世界平和の語り方~『僕が宇宙に行った理由』

    映画を見るときにネタバレを避けるためレビューは読まないが、映画.comやFilmarksで、どの程度の人が観て、★5つを満点として何点くらいついているのか?というのはどうしても気にしてしまう。 本作『僕が宇宙に行った理由』は、『プペル』のように「信者」的なファンが付いているわけでもない中、両サイトで異常に高い点数が出ており、逆に興味を惹かれて2024年最初に観に行こうと決めた映画だ。 確かに、ZOZOTOWNの前澤友作氏が、大枚をはたいて宇宙旅行に行ったことは知っていた。しかし、そもそも自分は、前澤氏のことを、「一億円を配るほど、お金が余っているお金持ち」という程度にしか認識しておらず、この題…

  • 2023年下半期の振り返り(映画、本、音楽、そのほか)

    もう年が明けてしまったが、昨年同様、年間の振り返りを行おう。 pocari.hatenablog.com pocari.hatenablog.com 映画(下半期ベスト、年間ベスト) 映画については上半期のまとめを7月に行っていた。pocari.hatenablog.com下半期に見たのは以下の12作品。 7月:『君たちはどう生きるか』『イノセンツ』 8月:『RRR(吹替版)』『バービー』 9月:『オオカミの家』『福田村事件』 10月:『ゴジラ-1.0』 11月:『正欲』『燃えあがる女性記者たち』 12月:『窓ぎわのトットちゃん』『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』『PERFECT DAYS』 このうち…

  • 役所広司演じる「平山さん」の禅と欺瞞~ヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS』

    年末の帰省の際、名古屋駅周辺で時間を使う必要があり、上映時間スケジュールが、予定とぴったり合う、この映画を観に行った。自分の中ではディズニーのアニメ映画『ウィッシュ』が最有力候補だったが、一緒に観に行く息子に断られてこちらに。ヴィム・ヴェンダーズが監督を務め、役所広司が、カンヌで最優秀主演男優賞をもらった映画という程度の予備知識だったが、結果的に2023年の見納めにぴったりの作品だった。 今回はパンフレットの満足度がとても高く、その内容に沿って感想を書く。 監督や役所広司へのインタビューなどの全体を通じて、製作陣の熱が強く伝わってくるパンフレットとなっている。 プロデューサーに、ユニクロ柳井正…

  • 戦争ではなく現代日本の問題として〜『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』

    2023最後の映画鑑賞は『ゲゲゲの謎』。 あまりに評判が良い上に、 2回見た知人からも繰り返しオススメされたので行ってきた。 前評判の高さがハードルを上げた部分もあったが、 全体を通して見ると過剰に興奮するような場所はなく、 何となく聞いていたものから類推できる範囲内だった。 しかし、ラスト付近で不意に涙がこぼれてしまった。 涙の理由について、映画を簡単に振り返ってみる。 導入から盛り上げ、アクションのバランスが巧い映画で、 メイン2人のビジュアルも確かにカッコいい。 特に良かったのは、トンネルをくぐった先にありながら、海( 瀬戸内海?)を一望できる場所にある、村の景色と、 ゲゲ郎の1対多数の…

  • 平等、公平よりも大切なこと~佐々涼子『ボーダー 移民と難民』×映画『窓際のトットちゃん』

    佐々涼子『ボーダー 移民と難民』 ボーダー 移民と難民(集英社インターナショナル)作者:佐々涼子集英社Amazon佐々涼子さんの本は、昨年5月に『エンドオブライフ』を読んで非常に考えさせられたが、最近出た佐々涼子さんの最新刊『夜明けを待つ』のあとがきで、佐々さんの現在の状況を知り非常に驚いた。(これについてはここには書かない) そんな佐々さんが、今から一年前に、外国人労働者をテーマにした本を出していたことを知り、追われるようにして読んだ。 思えば今年は、このテーマの本に多く触れた。勿論、入管法改正関係でメディアで取り上げられることが多かったというのもあるが、昨年見た映画『マイスモールランド』の…

  • イスラエルは何故ガザ虐殺で正当性を主張できるのか?~ダニー・ネフセタイ『国のために死ぬのはすばらしい?』

    ここ最近は、イスラエル・パレスチナ関連のニュースが「酷い」。 停戦終了後、戦闘、というより、イスラエルによる一方的な攻撃の舞台はガザ地区北部から南部に移り、これまでの累計死者数は1万7千人を超えるという。ウクライナの戦争でもそういう側面はあったが、今回、報道やSNSで毎日のようにパレスチナ側の犠牲者の映像を目にする。 そんな中では、「イスラエルは、何をどう考えて、このジェノサイド*1を正当だと思っているのだろうか」と考えてしまう。 病院への攻撃も酷いし、公文書館の破壊も酷い。 そして何より、「ハマス戦闘員1名につき民間人2名を死亡させている巻き添え」を「良い割合」だと、人命というより工場での生…

  • 湘南は晴れているか(湘南国際マラソンレビュー)(その2)

    あらすじ(昨年までの湘南国際マラソンの成績) 前回書いた(1)は以下。 pocari.hatenablog.com さて、2022年に書いた(1)から1年間時間が空いてしまったが、あらすじは以下の通り。 湘南国際マラソンは、初参加での2015年のサブ4達成から2018年のサブ3.5達成まで順調に成績を伸ばした後、記録が伸びないままコロナに突入。 奮起して準備万端で臨んだ2022年は、何とかサブ4はできたが、2016-2018の記録に及ばない3時間50分台。 2022年の湘南は「晴れていたか?」と問われれば、曇天でした。 2015年:3時間57分台 2016年:3時間42分台 2017年:3時間…

  • 先の読めない超展開ミステリ!でもこれでいいの?~染井為人『悪い夏』

    悪い夏 (角川文庫)作者:染井 為人KADOKAWAAmazon 26歳の守は生活保護受給者のもとを回るケースワーカー。同僚が生活保護の打ち切りをチラつかせ、ケースの女性に肉体関係を迫っていると知った守は、真相を確かめようと女性の家を訪ねる。しかし、その出会いをきっかけに普通の世界から足を踏み外して――。生活保護を不正受給する小悪党、貧困にあえぐシングルマザー、東京進出を目論む地方ヤクザ。加速する負の連鎖が、守を凄絶な悲劇へ叩き堕とす! 第37回横溝ミステリ大賞優秀賞受賞作。 生活保護をめぐるミステリと聞けば社会派なのか、と思って読み始めるとすぐに違和感を覚えた。 今年は、相場英雄『アンダーク…

  • 「現実は変えられるんだ」という熱い確信に満ちた物語~『燃えあがる女性記者たち』

    ドキュメンタリー映画ではあるが、キャラクターが立っており、その特殊な状況から、メイン登場人物たちが、最後まで無事でいられるのか、ハラハラしながら観た。 映画で特にスポットが当たるのは、新聞社「カバル・ラハリヤ」のミーラ、スニータ、シャームカリの3人の女性記者。監督(インドの映画製作者リントゥ・トーマス&スシュミト・ゴーシュ:夫婦2名での共同監督)は、3人について独占的に撮影する契約を交わしてから、4年をかけて撮影をしている。 映画の実質的な主役であるミーラは、紙媒体からデジタルに移行するプロジェクトのリーダー役で、子育て、家事もこなしながら、あちこちを飛び回る。 スニータは有能な若手記者。他の…

  • 難しいテーマを扱う映画×さらに深いテーマを掘る原作小説~岸善幸監督『正欲』

    原作小説を読み返して 正欲(新潮文庫)作者:朝井リョウ新潮社Amazon今回は、映画公開に備えて原作小説を読み直して臨んだ。 読み返してみると大きな発見があった。 前回読んだときは、その後、ビブリオバトルで発表することも考慮して感想をまとめていたので、小説の「引き」の部分(冒頭の佐々木佳道による文章など)が物語の根幹だと勘違いしてしまっていた。 pocari.hatenablog.com確かにその部分は核にあるのだが、後半のクライマックスにある「小説的大逆転」こそが作者の伝えたいメッセージであることを理解し、全体として、朝井リョウがこう読ませたかった設計図が理解できた気がした。 この小説の「設…

  • 父はどうすれば?~河合香織『母は死ねない』

    母は死ねない (単行本)作者:河合 香織筑摩書房Amazon 河合香織さんは「この人の書く本はきっと自分にプラスになる」と信頼を置いている作家だ。 その信頼は、感性や能力的な部分だけでなく、人格的な部分にも及ぶ。「この人は誠実な人で、選んだテーマに安易な答えを出したりしない。また、取材する前から決めていた持論に取材内容を寄せるようなことは絶対にしない。」と自分は信じており、その信頼はいつも裏切られない。 1974年生まれで同い年である、という親近感もあるのかもしれない。 そんな彼女が今回選んだテーマは「母親」。 「母」の姿に正解なんてあるのだろうか。このテーマは、そのように疑問を立てた時点で、…

  • 怖い!楽しい!カッコいい!VFX技術ってすごい!山崎貴監督『ゴジラ-1.0』

    劇場公開初日に観てきました! 怖い!楽しい!カッコいい! 何度も乗りたくなるジェットコースター的な映像美に満ちた作品でした!ただ、不満点もありましたので、良かった点(ゴジラプラス)、悪かった点(ゴジラマイナス)とに分けて感想を書いてみました。 ゴジラプラス(特撮) とにかく想像していた以上にゴジラの登場回数が多く、それが今回の大大大満足な評価に繋がっている。 登場場面それぞれの感想を。 まずはオープニングの大戸島守備隊基地。 ゴジラと言っても『シン・ゴジラ』と『キング・オブ・モンスターズ』*1しか観たことのない自分が言っても説得力がないが、開始数分で全身を見せて大暴れさせてしまう大盤振る舞いに…

  • 「あしなが」の活動に携わる2つの団体について知るためブックレットを読んでみた

    大学生時代に所属していた運動部の行事の一環として、年に一回、街頭で「あしなが」の募金活動を手伝っていた。これが理由で、今も駅前などで募金を見かけると、あしなが学生募金には、絶対に協力する(と言っても少額)というマイルールを自分に課している。 ところが先日、募金箱を持っている人からパンフレットを手渡されたので読むと、「あしなが」の奨学金は、交通事故「以外」の理由で親を亡くした子どもを対象にしていることが分かり驚いた。学生時代に募金活動をしていたときの口上では絶対に「交通遺児」と言っていたはずなのに…。 少し調べてみると、もともと1つの団体だったものが、交通遺児を対象とした「交通遺児育英会」と、交…

  • 「なかったこと」にはできない思い~石井裕也監督『愛にイナズマ』

    終わってみれば王道の枠内だったが、内容を知らずに「高評価のコメディドラマ」だと思って観に行ったので、どう転がるのか分からないうちに一気にエンディングへ。 皆が嘘を抱えて生きている。 嫌なことは忘れ、世間の常識に自分を合わせて暮らしている。 それでも、イナズマのように、突然起こる予期せぬできごとの中で、本性が出たり、過去に向き合ったり、生き方が変わることもある。そんな映画。 テーマなど 「皆が嘘を抱えて」と書いたが、主人公の折村花子(松岡茉優)と舘正夫(窪田正孝)、そして落合(仲野太賀)は、嘘をつけない、生きづらいタイプの人たち。 嘘をつく、というのは、自分を殺して周りに合わせる、という意味と、…

  • 共感に流されないために必要なものは?~永井陽右『共感という病』

    共感という病作者:永井陽右かんき出版Amazonこんな本だ!>「永井陽右が、共感についての持論をまとめあげて、最終章で、ラスボス内田樹と対決したら、合気道の技に絡めとられて、何だかよくわからないうちに負けてしまった話。」 「ニュース23」に、ハンサムな若手コメンテーターが出ている、と思って名前を調べると、気になっていた『共感という病』の著者ということでさっそく読んでみた。 この本はとにかく最終章の内田樹との対談が読みどころだと思う。 途中に挟まる石川優実(#KuTooの活動で有名なフェミニスト)との対談も読みごたえがあるが、ここは想定の範囲内の内容。 内田樹との対談は、対談の枠をハミ出て一種の…

  • 騙されないための読書~井出智香恵『毒の恋-7500万円を奪われた「実録・国際ロマンス詐欺」』

    毒の恋 7500万円を奪われた「実録・国際ロマンス詐欺」作者:井出智香恵双葉社Amazon かつて「レディコミの女王」と呼ばれた漫画家のSNSに届いた、ハリウッドスターからのメッセージ。 当初はウソだと思い、相手にもしなかったが、ある日、ビデオ通話をすることに。そこに映し出されていたのは、まさに映画で見たあのスター俳優だった――。 70歳の女流漫画家が偽りの恋に落ち、借金をしてまで工面した7500万円を失った全記録、そして悪夢から目覚め、失意のどん底から立ち上がる女の意地と強さをここにすべて綴る。レディコミの女王が騙された国際ロマンス詐欺の全貌が明かされる。 「SNSなどで知り合った海外の異性…

  • 世界の終わりはきっとこんな感じ2~エルヴェ・ル・テリエ 『異常(アノマリー)』

    異常【アノマリー】作者:エルヴェ ル テリエ早川書房Amazon一週間くらい前に、奇妙な津波があった。通常は、地震発生⇒津波注意報⇒津波発生という流れになるはずが、地震発生の形跡がなく、いきなり津波が観測されて、それをもとに注意報が出される事態となったのだ。海底地すべりが原因かもしれない、という話も出てきているが、地震に慣れ過ぎているためか、「通常」と異なる流れに、そして、まだ未解明な地球の動きに「不安」を感じたし、より大きな災害の前兆ではないかと怖くなった。news.tv-asahi.co.jp このニュースと同様に「不安な感じ」「不穏な空気」が残るタイプの小説がある。 自分の場合は、圧倒的…

  • 「道徳」的な映画だろうと思って観たら今年ベスト~森達也監督『福田村事件』

    『福田村事件』は、公開初日に観に行こうかとも思っていた映画。 しかし、少しずつ行く機会を逃し、また、アトロクの映画評も聴いてしまったおかげで何となく観た気にもなったことに逆に不安を感じ、無理矢理予約を入れた。 結果として、今年ベスト1級の作品で、本当に観に行って良かった。 直後にTwitterにも書いた一言感想は もっと「日本人は観るべき映画」然とした映画を想像していたけど、そんなことは無かった。何が起きるかわかっていても、最初から最後まで画面に釘付けになるような映画だった。役者が魅力的な映画は良い映画、ということだと思う。キャスティングもことごとくハマってた。 本当に大満足。 そもそも、絶対…

  • シンプル・イズ・ベスト~チョン・ミョンソプ『記憶書店 殺人者を待つ空間』

    記憶書店 殺人者を待つ空間作者:Chung Myung Seob講談社Amazon韓国ミステリは、以前、キム・ヨンハ『殺人者の記憶法』を読んでおり、かなり良い印象を持っている。『殺人者の記憶法』は、いわゆる、「絶海の孤島」「雪山の山荘」的なミステリではなく、独白が多めの、私小説的、日記的なミステリで、『記憶書店』もそれに似る。今回、また「記憶」かよ…と思ってしまう部分もあったが、映画『殺人の追憶』*1から始まる、韓国ミステリの伝統なのか、もしくは翻訳タイトルとして「こっちが売れる」という判断なのかもしれない。ただ、読んでみれば、内容に沿った良いタイトル。 物語自体も、日本のミステリのように、こ…

  • 社会派ミステリの「失敗」~あさのあつこ『彼女が知らない隣人たち』

    彼女が知らない隣人たち (角川書店単行本)作者:あさの あつこKADOKAWAAmazon最近読んで最もガッカリした小説。 端的に言うと、社会問題を他人事ではなく、自分事として捉えてほしいという主旨で書かれたにもかかわらず、それが失敗した小説に思えた。現実離れした展開を避け、実際に読者の身の回りに起こりそうな話をミステリの枠に押し込もうとし、結果として、どっちつかずの話になってしまった。あさのあつこさんの小説なので期待し過ぎてしまったのかもしれない。 2つのタイプの「隣人」 あらすじは以下の通り。 地方都市で暮らす三上咏子は、縫製工場でパートとして働きながら、高校生の翔琉と小学生の紗希、夫の丈…

  • 俺か、俺以外か。~済東鉄腸『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』

    千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話作者:済東鉄腸左右社*Amazon 刺激的な本だった。 読後に、済東鉄腸さんは、一体どんな人なんだ、と検索して以下の記事を見つけた。 タイトルにもある、済東さんがルーマニアで小説家になった経緯は、記事の中にも書かれている。toyokeizai.net ルーマニアの映画作品との出会いから始まって、ルーマニア語を勉強しよう→Facebookでルーマニア人の友達をつくろう→小説を書いてみよう、ルーマニアの友達に読んでもらおう→文芸誌に掲載させてほしい、というわらしべ長者のような流れは、読んでいてとて…

  • 2人の邂逅と1891年の日英露~松岡圭祐『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』

    シャーロック・ホームズ対伊藤博文 (講談社文庫)作者:松岡圭祐講談社Amazonホームズがクトゥルーに立ち向かう『シャーロック・ホームズとシャドウウェルの影』を読み、さあ、聖典(コナン・ドイルによるホームズ本編)を読むぞ!と息巻いていたのが7月。 そんな自分だが、シャーロックホームズ本を狙って探していたわけではなく、図書館の返却本棚*1で偶然出会ったホームズのパスティーシュがこの本。 対「伊藤博文」! 作者が『千里眼』シリーズの売れっ子小説家の松岡圭祐! あまりに大きなフックに惹きつけられ、一気読みした。 なぜホームズと伊藤博文なのか? まず基本事項だが、タイトルとは異なり、伊藤博文とシャーロ…

  • 理想的なアイドルとファンの関係~モモコグミカンパニー『御伽の国のみくる』

    御伽の国のみくる作者:モモコグミカンパニー河出書房新社Amazon 2作目の小説『悪魔のコーラス』が話題になっていたことから作者に興味が湧き、1作目『御伽の国のみくる』を読んだ。 作者のモモコグミカンパニーさんは元BiSHのメンバー。 BiSHは色んなところで取り上げられていたので名前だけ知ってはいたが、実は聴いたことが無い。最近だと『水星の魔女』のエンディングで、アイナ・ジ・エンドの声を聴いて「フィロソフィーのダンス」の日向ハルだけじゃないんだ!ここまで特徴的な声で歌が上手いアイドルは!!」と感動したけれども、楽曲には手を出さず。 そんなときにBiSHに2作も小説を出す人がいたと知り、俄然興…

  • 目指したい「迷うフェミニズム」~ひらりさ『それでも女をやっていく』

    それでも女をやっていく作者:ひらりさワニブックスAmazonひらりささんは、オタク女子ユニット「劇団雌猫」を組んで、いくつか本を出しており、代表作『浪費図鑑』は昨年読んだ。 そんな彼女が30歳で仕事をやめてイギリス大学院に留学し、フェミニズムについて学んできて、この本(『それでも女をやっていく』)を出したという話を、いつものラジオ番組アフター6ジャンクション(アトロク)で聴き、オタク趣味本メインの人と思っていたらそんな本を…と興味が湧いた。 番組での印象から、ひらりささんがこれまでの人生を振り返りつつ、女性であるから苦労したこと(男性だったら苦労しなかったこと)について書かれた本だろうと思って…

  • 全然わかりませんでした…~グレタ・ガーウィグ監督『バービー』

    もともと、映画『バービー』は、予告編を何度も観たが興味が湧かず、スルーするつもりでいた。 それが、いわゆる「バーベンハイマー」*1での炎上騒ぎで悪い意味で注目される一方で絶賛評も多いことから、少しずつ気になっていったが、決め手は、もう一つの炎上騒ぎだった。漫画「GANTZ」の作者、奥浩哉氏がミソジニー批判に反論 映画「バービー」をめぐる議論で(日刊スポーツ) - Yahoo!ニュース 奥浩哉先生がどんな思想の持ち主かは知らなかったが、この騒ぎを見て「またアンチフェミが騒いでる」と思ってしまった。しかし、その後、奥先生は、騒動に乗っかり映画を観ないまま発言を叩く人が多いことに苦言を呈していて、ま…

  • 怖いムロツヨシを求めて~吉田恵輔監督『神は見返りを求める』

    今年のNHK[大河ドラマは『どうする家康』では、8/13放送回で小牧・長久手の戦いの前半部を放映。 ついに対決する徳川家康と豊臣秀吉。 その豊臣秀吉を演じているのがムロツヨシだ。これまでも怪演を見せていたムロツヨシの豊臣秀吉にさらに焦点が当たっていく、これからの展開に備えて、「怖いムロツヨシ」*1が堪能できる作品としてこの映画を観てみた。神は見返りを求めるムロツヨシAmazon ムロツヨシは、この映画では主役ということになる。 Amazonからあらすじを引用。 主人公・イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)は、合コンでYouTuber・ゆりちゃん(岸井ゆきの)に出会う。 田母神は、再生回数に…

  • 不安ばかりの「多文化共生」~安田峰俊『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』

    「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本 (角川書店単行本)作者:安田 峰俊KADOKAWAAmazon 安田峰俊さんは、Twitter上での、いわば「反」左翼的なスタンス(それは時に「右」的に映ることもある)に惹かれ、ずっと気になっていたが、最近のTwitter上でのお気に入りであるマライ・メントラインさんが、この本を薦めていたのを機に読んでみることにした。ここで注目すべきは安田峰俊さんのルポ『「低度」外国人材-移民焼き畑国家、日本』で、すでに「単純労働系でも良質な人材を確保しにくくなっている」日本の産業政策の構造的な問題が、適切かつ深く述べられていて超オススメです。https://t.co/…

  • ノルウェーの団地×少年少女×超能力~エスキル・フォクト監督『イノセンツ』

    公開初日に観に行った! 大大大満足! 事前に予告編等は見ていなかったが、『わたしは最悪。』の脚本を手掛けたエスキル・フォクト監督の作品であることに加え、団地×超能力×少年少女というキーワードで既にノックアウト。さらには、「ある日本漫画」にインスピレーションを得た作品と知り、絶対に観に行かなくてはいけない映画となった。 僕自身、小学校時代に団地に囲まれた公園で遊ぶことが多く、自転車でどこかに出かけるときも団地の中を通り抜ける必要があるなど、(引越しも一度経験しているが)常に生活圏に団地があった。その中で読んだ大友克洋『童夢』は、ストーリー以前に団地描写だけで、自分の心に強く残る作品となった。 勿…

  • 2023年上半期の振り返り(映画)

    あっという間に7月も下旬に入ってしまったので、2023年上半期に見た映画のベストを。 なお、去年は上半期、下半期とも振り返りを行っていましたので、今後も半年ごとに継続したい。 pocari.hatenablog.com pocari.hatenablog.com 上半期に見た映画は以下の通り。 1月:『かがみの孤城』『そばかす』『エンドロールのつづき』 2月:『エゴイスト』 3月:『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』『BLUE GIANT』『シン・仮面ライダー』 4月:『グリッドマン・ユニバース』『聖地には蜘蛛が巣を張る』『サーチ2』『名探偵コナン 黒鉄の魚影』 5月:(なし…

  • 君たちはどう生きるか~竹田ダニエル『世界と私のA to Z』

    世界と私のAtоZ作者:竹田ダニエル講談社Amazon『世界と私のA to Z』。 話題になっていた本で、タイトルがキャッチー。Amazon評価も高い。 読み始めてみると、確かに今の若者、特に言葉としてよく聞く「Z世代」について触れるのにはちょうど良さそうな本だ。 しかし読み進めると、「思っていたのと違う」感が積もっていった。その理由はいくつかある。 結局、アメリカ一国の話に終始しており、日本(や他国)のZ世代がアメリカとどのように違うのかが書かれない。 価値観の変化について「流行」「SNS」の観点からの切り口が多く、社会の変化に直接影響を与えるような「運動」や「政治」についてあまり触れられて…

  • ホームズ、クトゥルーをまとめて履修(開始)できる~ジェイムズ・ラヴグローヴ『シャーロック・ホームズとシャドウウェルの影』

    シャーロック・ホームズとシャドウェルの影 クトゥルー・ケースブック (ハヤカワ文庫FT)作者:ジェイムズ ラヴグローヴ早川書房Amazon先日、DCユニバースに疎い自分でも映画『フラッシュ』を楽しめたという話を書いたが、マーベルにしろ、スター・ウォーズにしろシリーズが多過ぎて、途中から入るには躊躇するような作品群がある。 シャーロック・ホームズもドラマ・映画も含めてほとんど馴染みがなく、小学生のときに少年探偵団シリーズの隣にあったポプラ社の全集の数冊を読んだだけだ。 だから、ホームズ関連作品が出ても、特に「読みたい」という欲は湧いて来ることなく、自分とは別世界だと感じていたし、今さら本編を読む…

  • 全く異なる魅力の2作~『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』VS『フラッシュ』

    6/6(金)公開の2つの映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』、『フラッシュ』は両方ともアメコミ原作ということで、公開前から何となく比較してしまっていたが、実際に見るとテーマの共通点・相違点がはっきりしており、両方見て良かった。 『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』 前作『イントゥ・ザ・スパイダーバース』を直前に配信で復習し準備万端で公開初日に挑んだ本作。期待度MAXで観に行き、そのMAXがさらに割り増して返って来る、「やっぱり」大傑作だった。 新キャラクターも多く、訪れる世界も多い。それなのに迷子にならない物語づくりが素晴らしい。今期のアニメで1,2を争う話題作…

  • 高千穂先生、やり過ぎです~高千穂遙『ペダリング・ハイ』

    ペダリング・ハイ (小学館文庫)作者:高千穂遙小学館Amazon高千穂遙の自転車関連本は、ちょうど一年前の2022年7月に『ヒルクライマー』を読んだのが初めて。その後、新書で自身のロードバイク生活を語った『ヒルクライマー宣言』を読み、『自転車の教科書』を読んだら解説で名前をお見掛けするなど、1年前には全く思いもしなかったが、完全に「自転車」の人だ。 そして、僕自身にも変化があった。50歳でロードバイクを始めた高千穂先生(今は71歳)に倣って、ではないが、ちょうど僕自身も今年、49歳になってからロードバイクを購入。今は週一回走っている。 走り始めると、『ヒルクライマー』が読みたくなった。確かに、…

  • 「サービス終了」に町長が立ち向かう~夏海公司『はじまりの町がはじまらない』

    はじまりの町がはじまらない (ハヤカワ文庫JA)作者:夏海 公司早川書房Amazon娯楽小説に限っても読まなくちゃいけない本がたくさんある。*1 それにもかかわらず、何故読むことになったのか辿れない本が時々ある。これもそんな本だ。 (あらすじ) 世界(サービス)終了を、止められますか? MMORPG「アクトロギア」のサービス終了が決定。そんななかゲーム世界の〈はじまりの町〉で町長を務めるオトマルは、唐突に自我を獲得する。同じく覚醒した毒舌秘書官のパブリナの説明で、世界の終わりを阻止するためには冒険者たちの満足度向上が必須と理解した町の住人たち。ショップやクエストの最適化、近隣国との交易。NPC…

  • 2023年上半期の振り返り(音楽)

    今年上半期はCDもいくつか買ったのですが、直近聞いていたプレイリストの印象が強過ぎて全部吹っ飛んでしまいました。 なお、サブスクをしていないので、プレイリストは1曲ずつ購入して繋げています。テープとかMDに録音していた時の感じに近いので好きです。 買ったアルバム BLUE GIANT (オリジナル・サウンドトラック)(SHM-CD)アーティスト:上原ひろみUniversal MusicAmazon映画の感想を書いていなかったけど、やっぱり楽曲の良さが際立つ映画だったのですぐにサントラを購入。一時期はこればっかり聴いてました。一曲選ぶなら「FIRST NOTE」でしょうか。 イノセント [初回限…

  • 「共感しかない」漫画の読み解き~野原広子『妻が口をきいてくれません』

    妻が口をきいてくれません作者:野原広子集英社Amazon数年前から「○○しかない」という褒め言葉が跋扈している。 それほど違和感なく使える言葉だが、あまりにも多く耳にし過ぎるので、自分からは極力使わないようにしている。 この漫画はタイトルに惹かれて読んだが、読後感としては、(プラスもあるが)「期待していたのと違っていた」「しっくり来なかった」という気持ちも大きい。 一方で、この漫画は多くの読者の共感を呼び支持されている。そんなとき、この漫画を評価するフレーズとして「共感しかない」という言葉が思い浮かんだ。 オチもない。 教訓もない。 論理性もない。 共感しかない。 という悪い意味での言葉だ。 …

  • 村田作品に触れる意味~村田沙耶香『丸の内魔法少女ミラクリーナ』

    丸の内魔法少女ミラクリーナ (角川文庫)作者:村田 沙耶香KADOKAWAAmazon4作が入った中編集ということになるが、収録順に、「丸の内魔法少女ミラクリーナ」、「秘密の花園」を読み、3話目の「無性教室」の途中まで読んで、「あれ、これは自分の思っている村田沙耶香に、とても似てるけど、どこか違う?」と思ってしまった。 個人の好みの話で恐縮だが、『PARADE』(7thアルバム)あたりで、「あれ、スガシカオのひねくれ度が減った気がする。スガシカオ、幸せになったか?」と勝手に感じ取ってしまったことを思い出した。 そもそも村田沙耶香は、これまで7~8冊近く読んでいるが、共通して、SF一歩手前の特殊…

  • 反省と今後の読書計画~芦花公園『ほねがらみ』

    ほねがらみ (幻冬舎文庫)作者:芦花公園幻冬舎AmazonAmazonのおすすめでこの本の存在を知り、何より(京王線沿線の駅名でもある)芦花公園という作家名に惹かれて、夢中になって一気に読み終えたのが2週間くらい前。 実はその時の印象はあまり良くなかった。 ただ、今回、時間が経ってから改めてラストや各話をピンポイントで読み返してみると、「これはかなり良い本では?」となった。 あらすじは以下の通り。 「今回ここに書き起こしたものには全て奇妙な符合が見られる。読者の皆さんとこの感覚を共有したい」――大学病院勤めの「私」の趣味は、怪談の収集だ。知人のメール、民俗学者の手記、インタビューの文字起こし。…

  • ラストを除いて大満足~『M3GAN』

    最初に予告編を観たときから数か月、映画館で毎回予告編を見て、「これは絶対に行く!」と決めていた 『M3GAN』を公開初日に観てきました! ラストの違和感を除けば、最高に面白い映画でした。 ケイディとミーガン とにかく、ミーガンの相手役のケイディが素晴らし過ぎる。 上白石萌音に似ていて日本人に親しみやすい顔だちというところもあるかもしれないが、一番は、その表情。ここまで「つまらなそうな顔」を前面に押し出す映画もないのではないか?と思うほどに笑顔が少なく、だからこそ、ミーガンと遊ぶときの楽しそうな表情が際立つ。 場合によっては、ミーガンの表情ばかりに釘付けになり、相手役は覚えていない…となりかねな…

  • 悲観的、でも現実的な日本の未来~相場英雄『アンダークラス』

    アンダークラス (小学館文庫)作者:相場英雄小学館Amazonいわゆる社会派ミステリというジャンルになるのだろう。テーマとなるのは、外国人技能実習生問題で、このテーマに惹かれて読むのを決めた。 文庫巻末解説で藻谷浩介さんが「誰が下層(アンダークラス)なのか」と問いかける通り、タイトルについては「怪物だーれだ」と同様に考えながら読むべき作品ということになる。 あらすじは以下の通り。 秋田県能代市で、老人施設入居者85歳の死体が近隣の水路から発見された。雪荒ぶ現場、容疑者として浮上したのは、施設で働くベトナム人アインである。 外国人技能実習生のアインは、神戸の縫製工場で働きながら、僅かな収入を母国…

  • 「怪物だーれだ」と幸せについて~是枝裕和監督・坂元裕二脚本『怪物』

    是枝監督作品はそれほど見ていない。 それでも今作のタイトルにはとにかく惹きつけられたし、少年2人が楽しそうな予告編との「怪物だーれだ」という言葉の組合せはインパクトがあった。 残念だったのは、実際に見る前に「文脈」を意識せざるを得ないキーワードを耳にしてしまったことだ。最初は、Twitter上の誰かの言葉として。その後、カンヌ映画祭のニュースで大々的に…。 そんな風にして、物語の持つ強い「文脈」に触れてしまうと、そこから逃れるのが難しくなる。今回、パンフレットも購入したが、まずはそれを読まずに感想を書き、そのあとで改めてパンフレットを読むことにした。 「羅生門」形式の3部構成による「真実」への…

  • 日米の多数の関係者への取材から事実を読み解く~堀越豊裕『日航機123便墜落最後の証言』

    新書885日航機123便墜落 最後の証言 (平凡社新書)作者:豊裕, 堀越平凡社Amazon これまで、青山透子『日航123便 墜落の新事実』(以下、青山本)で衝撃を受け、日航機墜落の原因について「ミサイルによる撃墜」という陰謀論に傾きかけ、これを否定する杉江弘『JAL123便墜落事故 自衛隊&米軍陰謀説の真相』(以下、杉江本)を読み、「青山本は妄想」という杉江氏の主張に納得した。そして、今回読んだのが日航機墜落に関する3冊目の本となる。 米国関係者への取材 この本は、青山本、杉江本と比べると大きな特徴があり、それは米国関係者への取材の量が圧倒的に多いことである。 以下に、本書に名前を出して登…

  • 陰謀論を乗り越えたい~杉江弘『JAL123便墜落事故 自衛隊&米軍陰謀説の真相』

    青山透子『日航123便 墜落の新事実』(以下、青山本)の感想をまとめてから比較的早い時期に、「冷静になってみれば、やはり結論が”ミサイルによる撃墜”というのはさすがにないだろう」と思い始めた。そもそも、自分は、子宮頸がんワクチン関連本*1を読んで、一度は「ワクチン・ビジネスけしからん。政府は信じられない。」と怒っていた人間。その後、総合的に判断して、自分の娘にもワクチンを打たせるまで変わったのだが、「政府が隠している!」系の陰謀論に嵌まりやすいタイプの人間だと自覚している。そのような自分の考え方を糺す意味でも他の本も読んで勉強しようと思い、手に取ったのが、青山本よりも後に出ている2冊だった。 …

  • 文章からも挿絵からもカヨへの愛が溢れる~内澤旬子『カヨと私』

    カヨと私作者:内澤旬子本の雑誌社Amazonこの本には下心(邪念)があって読み始めた。内澤旬子さんの著作で読んだことがあるのは『飼い喰い』という、三匹の豚と半年間一緒に暮らしたあとで食べてしまう実話。その人がヤギと暮らす、その距離感に興味があった。 ちょうど『ヤギと大吾』と言うテレビ番組*1もあるし、「リアリティ番組」風な、「突撃取材」風な、それでいてテレビとは違って自己言及、自己分析が多めなエンタメノンフを予想していた。 さらに言えば、(この本を読んでいて気付いたが)ここで書かれている時期は、もしかしたら『ストーカーとの七〇〇日戦争』の時期と重なるのではないだろうか。本は2部構成で、第二部は…

  • 個人的好みから外れた「絶対安全コナン」~『名探偵コナン 黒鉄の魚影』

    公開時期から少し遅れて4/29に観てきました! 総評 展開が早く、隙なくまとまって面白かった。登場人物の豪華さとテンポだけで言えば、コナン映画の中でもベストと言えるかもしれない。 灰原がさらわれて本題に入るのも早く、映画恒例の「楽しく華やかな部分」がホエールウォッチングくらいに抑えられていた。(博士のクイズも早かった) この結果、灰原救出という、わかりやすい最終ゴールが早期に提示され、ストーリーを追いやすい映画になった。 一方、救出の是非にかかわらず敵の手に渡ればゲームエンドの「老若認証」システムも、これまでのコナン作品に親しんだことのある誰もが、その危険性(コナンと灰原の正体を知られてしまう…

  • 陸自ヘリ墜落と陰謀論~青山透子『日航123便 墜落の新事実』

    日航123便 墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る (河出文庫)作者:青山透子河出書房新社Amazon宮古島沖での陸自ヘリの墜落事故が起きたのは4月6日で、まだ一か月も経っていないが、新しい事実が出ないからか報道はすでに下火のように感じる。 事故の原因については、中国の関与の話なども出ているが、「そういう陰謀論を信じたがる人いるよね」と一笑に付していた。 ところが、この話題についてTwitterを見ていたら、陰謀論も捨て置けないというニュアンスで、「日航機の事故も色々あるみたいだし」と、青山透子さんの名前を出している人がいて、この本のことを知った。 読んでみて これまで、日航機墜落事故について…

  • 終わらせ方への違和感と「犯人の動機を報じるな」問題~ダニエルズ脚本・監督『EVERYTHING EVRYWHERE ALL AT ONCE』

    経営するコインランドリーは破産寸前で、ボケているのに頑固な父親と、いつまでも反抗期が終わらない娘、優しいだけで頼りにならない夫に囲まれ、頭の痛い問題だらけのエヴリン。 いっぱいっぱいの日々を送る彼女の前に、突如として「別の宇宙(ユニバース)から来た」という夫のウェイモンドが現れる。 混乱するエヴリンに、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と驚きの使命を背負わせるウェイモンド。そんな“別の宇宙の夫”に言われるがまま、ワケも分からずマルチバース(並行世界)に飛び込んだ彼女は、カンフーマスターばりの身体能力を手に入れ、全人類の命運をかけた戦いに身を投じることになる。 最高に面白か…

  • 「所有」しない=縛られない生き方~伊藤雄馬『ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと』

    ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと作者:伊藤 雄馬集英社インターナショナルAmazon 就活から逃げ出した言語学徒の青年は、美しい言語を話す少数民族・ムラブリと出会った。文字のないムラブリ語を研究し、自由を愛するムラブリと暮らすうち、日本で培った常識は剥がれ、身体感覚までもが変わっていく……。 言葉とはなにか? そして幸福、自由とはなにか? ムラブリ語研究をとおしてたどり着いた答えとは……? 人間と言葉の新たな可能性を拓く、斬新極まる言語学ノンフィクション。 今まであまり読んでこなかったジャンルだが、ニッチな学問の紹介をベースとしつつ、その本を書いた学者自身のキャ…

  • イランとトー横と境界線~アリ・アッバシ監督『聖地には蜘蛛が巣を張る』

    聖地マシュハドで起きた娼婦連続殺人事件。「街を浄化する」という犯行声明のもと殺人を繰り返す“スパイダー・キラー”に街は震撼していた。だが一部の市民は犯人を英雄視していく。事件を覆い隠そうとする不穏な圧力のもと、女性ジャーナリストのラヒミは危険を顧みずに果敢に事件を追う。ある夜、彼女は、家族と暮らす平凡な一人の男の心の深淵に潜んでいた狂気を目撃し、戦慄する——。 楽しみにしていた毎年恒例のコナン(映画を観に行った前日の4月14日公開)は、家族で観に行くので、少し先延ばしにして、こちらの映画を。 いや、実を言うと、観たい映画がかなり詰まっており、その中でこの映画を選んだのは、アリ・アッバシ監督の前…

  • 何度聴いても飽きないUNION~『SSSS.DYNAZENON』全12話×『SSSS.GRIDMAN』全12話の感想

    大好きだったグリッドマンの劇場版。 当初は続編の『ダイナゼノン』を観ていないのでパスするか…と思っていたが、あまりに評判が良いので、『ダイナゼノン』全12話を見て、さらに全部見るつもりのなかった『グリッドマン』全12話を見返し、劇場版に備えた。その感想メモ。 SSSS.DYNAZENON(ダイナゼノン)全12話 特徴的な瞳(虹彩)の描き方を見て、この感じだよ!とすぐにアクセルがかかり、楽しく鑑賞。全体を通した感想としては、グリッドマンに比べると、破天荒な盛り上がり方には欠けるが、うまくまとまった話だった。例えば、ゴルドバーン登場回(第9話)では、話数的にも話が展開するタイミングだったので、ゴル…

  • 「空気」をめぐる希望と絶望~朝比奈あすか『君たちは今が世界』

    君たちは今が世界 (角川文庫)作者:朝比奈 あすかKADOKAWAAmazon 2020年、難関中学の入試で出題多数!教室で渦巻く、悪意と希望の物語。「文ちん、やれるよな?」人気者とつるむようになってから、文也は自分がクラスの中心にいるような気分がする。担任の幾田先生は地味で怖くないし、友達と認定してくれるみんなと一緒にいるのが一番大切だ。ある日、クラスを崩壊させる大事件に関わってしまうまでは――。(「みんなといたいみんな」)今の自分は仮の姿だ。六年生の杏美は、おとなしい友人の間で息をひそめて学級崩壊したクラスをやりすごし、私立中学に進学する日を心待ちにしている。宿題を写したいときだけ都合よく…

  • この種の連作短編集では近年ベスト~松井玲奈『累々』

    累々作者:松井 玲奈集英社Amazon 本当の私は誰。結婚、セフレ、パパ活、トラウマ……。不穏さで繋がる全5編。大きな話題となったデビュー作『カモフラージュ』の衝撃を超える、著者の新境地といえる意欲作。人間の多面性を切り取る、たくらみに満ちた自身初の連作短編集。今作は、日本での発売と同時に、台湾の出版社・尖端出版より、中国語繁体字版も発売。 タイトルと表紙(有持有百さん)が既に面白そうな松井玲奈さんの本。タレント活動がメインの人の書く本には興味があって、最近では、NEWSの加藤シゲアキと元SKE48の松井玲奈が双璧、でも未読、という状態が長く続いていた。 が、ちょうど最近、アトロクの松井玲奈登…

  • 軽く読むべきだった芥川賞候補作~安堂ホセ『ジャクソンひとり』

    ジャクソンひとり作者:安堂ホセ河出書房新社Amazon芥川賞候補作が発表になり、一番気になった作品はこの本。 しかも装丁も良く、字も小さい。 これは絶対に自分に合うやつだ!と思って読みだすと、冒頭が既にカッコ良過ぎる。 ココアを混ぜたような肌、ぱっちりしすぎて悪魔じみた目、黒豹みたいな手足の彼は、ベッドに磔にされていた。そのビデオを見てすぐに、ジャクソンはそれが自分だと察した。その時のことは覚えていないし、似ている男なんて世界中に何人もいると思う。だけど、ここは日本で、この外見でこんなふうに扱われるのは、ジャクソンひとり。 ちょうど、session22で特集があったので、ジャクソンに対する 「…

  • 文庫解説に2度救われる~白井智之『お前の彼女は二階で茹で死に』×小野一光『冷酷 座間9人殺害事件』

    2冊の文庫本を平行して読んだ。 端的に言うと、救いがなく、途方に暮れるような終わり方をする2冊だったが、どちらも解説に救われてやっと戻ってこられたという感じ。 しかも、読み終えてみれば、2冊をまとめて読むべきではない「混ぜるな危険」案件だったように思う。たまたまだったのだが、何故この2冊だったのか…。 白井智之『お前の彼女は二階で茹で死に』 お前の彼女は二階で茹で死に (実業之日本社文庫)作者:白井 智之実業之日本社Amazon 天才女子高生(ミミズ人間)が謎を解き明かす! 著者史上最強! 衝撃のスラッシャー小説×本格ミステリ!!「読まないと損するレベルで優れている」 乾くるみ(小説家)絶賛!…

  • ポジティブさに引き込まれる~井戸川射子『この世の喜びよ』

    この世の喜びよ作者:井戸川射子講談社Amazon 娘たちが幼い頃、よく一緒に過ごした近所のショッピングセンター。その喪服売り場で働く「あなた」は、フードコートの常連の少女と知り合う。言葉にならない感情を呼びさましていく芥川賞受賞作「この世の喜びよ」をはじめとした作品集。 これぞ純文学、という感じの何も起こらない系*1の第168回芥川賞受賞作。 「この世の喜び」とは そこで描かれるのが日常の風景だからこそ、主人公の、自分の人生を振り返りながらも「今を生きること」に対する、ある種ポジティブな感情が、「この世の喜び」というタイトルに表現されている。 この小説は、膨らんだ風船のようだ。 彼女が思いを馳…

  • 淡々と体験談~奥野修司『死者の告白 30人に憑依された女性の記録』

    死者の告白 30人に憑依された女性の記録作者:奥野修司講談社Amazon よく聞く「震災の怪談」に興味があった。 それは、残された者がどう心を癒すのか、死者を弔うとはどういうことなのか、という心の問題として、災害とどう向き合うのか、について知りたい気持ちがあったからだ。もちろん、折に触れて災害そのものや被災者の方たちのことを考えたかったということもある。 この本は、殺人事件で長男を奪われた家族を追ったノンフィクション『心にナイフをしのばせて』を読んで興味を持った奥野修司の著作として知った。今から思えば、同じ奥野修司の作品では、『魂でもいいから、そばにいてー3・11後の霊体験を聞く』の方が、自分…

  • 「可哀想」を超えるには~山本おさむ『遥かなる甲子園』

    遥かなる甲子園 : 1 (アクションコミックス)作者:山本おさむ,戸部良也双葉社Amazon 前回読んだのは大学生くらいのときだと思う。 調布の図書館は漫画が充実していることもあり、借りて途中巻までは読んでいたが、何かのタイミングで最後まで読み終えることが出来なかった。 そういう意味ではリベンジだが、読み直そうと思ったのは、『僕らには僕らの言葉がある』を読んだから。この漫画では、ろう学校には軟式野球部しかないことから、甲子園を目指す主人公(ろう者)が進学先の高校として普通学校を選択するところからスタートする。僕らには僕らの言葉がある作者:詠里KADOKAWAAmazon この前提部分から思い出…

  • 心に貯まる風景・言葉~映画『エンドロールのつづき』×井戸川射子『ここはとても速い川』

    『エンドロールのつづき』 インドのチャイ売りの少年が映画監督の夢へ向かって走り出す姿を、同国出身のパン・ナリン監督自身の実話をもとに描いたヒューマンドラマ。 平日に映画を観に行く場合は、作品以上に上映開始・終了時間が重要で、3つくらいの候補の中で最も行きやすいものを選んでこれを観に行くことになった。メモしておかないと忘れてしまうので、今回、迷った相手は『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』と『ヒトラーのための虐殺会議』。全く異なる映画とはいえ、インドという括りでは同じ『RRR』の印象と、その高い前評判から、(アクションはないだろうから)ストーリーが緻密で面白い話だと思い込んで観に行っ…

  • 新年の抱負代わりに2冊を読む~三浦知良『カズのまま死にたい』×益田ミリ『永遠のおでかけ』

    カズのまま死にたい (新潮新書)作者:三浦知良新潮社Amazon永遠のおでかけ(毎日文庫) (毎日文庫 ま 1-1)作者:益田 ミリ毎日新聞出版Amazon2つの本の共通点は何か。 両方の本のタイトルからイメージされる「死」という答えはハズレ。 正解は、どちらも著者の48歳の時の話が書いてあるエッセイ。 自分は今48歳(今年49歳になる)。 とてもそんな風には思えないけれど、もう50歳がすぐそこだ。 このくらい年を重ねると、年の取り方は多様過ぎて、他の人とは比較ができないなと思う。 30歳くらいのときは「標準的な30歳」があると何となく思っていたし、そう思う人が今も大勢いるから、あれだけ30歳…

  • 三浦透子の横顔が印象に残る~玉田真也監督『そばかす』

    前向きになれる映画だった。 事前情報としては、主人公がアセクシュアルであるということ以外は、アトロクの年末映画特集(放課後ポッドキャスト)で名前が挙がったことくらいしか知らず、その意味では色んな映画に出ずっぱり*1の三浦透子を見るのが一番の目的だった。 三浦透子 『ドライブ・マイ・カー』を見てないこともあり、自分にとって 三浦透子はドラマ『エルピス』に出ていた人。ただ、存在感が大きい人であるということは感じていた。 実際、この映画も、煙草をくわえる彼女のポスターのビジュアルにはずっと惹きつけられるものがあった。企画・原作・脚本のアサダアツシさんが、パンフレットで彼女について次のように書いている…

  • 子どもからみる親権~榊原富士子・池田清貴『親権と子ども』

    親権と子ども (岩波新書)作者:榊原 富士子,池田 清貴岩波書店Amazonいわゆる「共同親権」の問題に関心があり読んでみた一冊。 元々は将棋の橋本崇載八段(ハッシーと言われて親しまれていた)が、2021年の4月に突然、引退を発表し、その後、原因が「子どもの連れ去り」(親権をめぐるトラブル)だとわかってから、この問題に特に興味を持ってはいた。 「子どもの連れ去り」と書くと、善悪が明確な問題のように見えるが、「連れ去られた側」(大抵は夫)が「共同親権」を求める構図は、DVから避難した妻子を父親が再び支配下に入れようとする構図とも重なる。第三者からはどちらが正しいか見分けられない上に、法律上のテク…

  • スラムの子どもたちの中に見た希望~熊谷はるか『JK、インドで常識ぶっ壊される』

    JK、インドで常識ぶっ壊される作者:熊谷はるか河出書房新社Amazon 朝日新聞元旦紙面での川崎レナさん 我が家は新聞を購読していないが、1月1日は、いつもと同じ価格で拡大版が買えてお得なので、朝日新聞を購入した。 11面のオピニオン欄は「『覚悟』の時代に」と題されて、山折哲雄(宗教学者)と並んで川崎レナさん(国際NGOアース・ガーディアンズ・ジャパン代表)のインタビュー記事が紙面を飾っていた。 www.asahi.com これまで知らなかったが、川崎レナさんは2005年生まれの17歳。15歳からユーグレナのCFOも務めていたという。 自ら活動として立ち上げた「政治家と話してみようの会」では、…

  • 2023不満初め~原恵一監督『かがみの孤城』

    最初、『かがみの孤城』をアニメ映画でやるというのを知ったとき、「本屋大賞を取っているし、辻村深月作品はよく映画化されるね」と思った程度で関心は薄かった。絵柄を見ても、全く惹かれない。 ところが、アトロクでアニメ評論家の藤津亮太さんが激賞しており、そのタイミングで原恵一監督作品であることを知った。 自分にとって原恵一監督は、クレヨンしんちゃん映画の名作を作った監督ではない。何といっても2019年に見た映画で圧倒的に不満が大きかった『バースデー・ワンダーランド』の監督だ。今回、むしろそのリベンジを果たす意味でも観に行くべきだろうという気になった。 映画.comの星を見ても、公開から2週間以上経って…

  • 2022年下半期の振り返り(自転車関連、ドラマ、映画、音楽)

    2022年上半期はまとめをしたので下半期もまとめをしようと思います。 下半期は大きな傾向がいくつかあります。 自転車関連マイブーム(本) 引き続きフェミニズム関連(本) ドラマを多めに見た 映画をたくさん見た pocari.hatenablog.com 自転車関連ベスト そもそもきっかけは、7月に行われたビブリオバトルのテーマに合っていたという理由から読み直した近藤史恵『エデン』でした。 その後、ツール・ド・フランスをはじめとした実レース、そして『弱虫ペダル』を読んだことで、マイブームは一気に加速。 そんな中でベストに選ぶのは高千穂遙『ヒルクライマー』です。自転車の「競技」としての側面ではなく…

  • 岸井ゆきのとガラーン感~三宅唱監督『ケイコ 目を澄ませて』

    生まれつきの聴覚障害で両耳とも聞こえないケイコは、再開発が進む下町の小さなボクシングジムで鍛錬を重ね、プロボクサーとしてリングに立ち続ける。嘘がつけず愛想笑いも苦手な彼女には悩みが尽きず、言葉にできない思いが心の中に溜まっていく。ジムの会長宛てに休会を願う手紙を綴るも、出すことができない。そんなある日、ケイコはジムが閉鎖されることを知る。 今年最後の映画は、映画『LOVELIFE』→ドラマ『silent』からの流れで必然的にこの映画に。見た感想として、確実に言えることは「ストーリーが面白い作品ではない」ということ。戦後すぐにできた古いボクシングジムと周辺の町を舞台にとにかく淡々と時間が流れる。…

  • 「音のない世界」とか言われても困る~好井裕明『「感動ポルノ」と向き合う』

    「感動ポルノ」と向き合う: 障害者像にひそむ差別と排除 (岩波ブックレット NO. 1058)作者:好井 裕明岩波書店Amazon 今回読んだ好井裕明さんのブックレットは、タイトルに書かれている『「感動ポルノ」と向き合う』という主旨が独特で、そこに自分はとても共感しました。 例えば『24時間テレビ』のような番組や映画などの作品を「感動ポルノ」と断罪するのは簡単ですが、それだけで終わっていいのでしょうか? 単純にレッテルを貼って終わりにせず、そこからもう少し考えてみようというのがこの本の基本スタンスです。 以下では、前半で、今後、映画やドラマ鑑賞をする際の「手引き」として使えるよう、ブックレット…

  • 「THE FIRST」なアニメ体験~『THE FIRST SLAM DUNK』

    「井上雄彦の絵がそのまま動いているアニメ」そうなんだろうな、と思って、わかって見に行って、まさにそうとしか形容のできない映画が出て来た。 実際に見るとしょっぱなから心を奪われ、手書きキャラクター5名が向こうから歩いて来て勢ぞろいし、色がついていくオープニング映像を目の当たりにし既に涙していた。 そんな映画。 大谷が160㎞/h投げるとわかって、実際にバッターボックスに立ってそれを見た感じとでも言えるだろうか。 それは絵が綺麗ということだけではない。 映像がCGということでヌルヌルして不自然なのかと思ったら、不自然なのは(最もデフォルメの効いた)安西先生くらいで、それ以外のキャラクターは、実物と…

  • ドラマ『silent』最終回とこれから

    いろいろと結びつけて書きたい作品や本もあるけれど、まずはシンプルに感想を。 最終回の感想 最終回は、求めるハードルが低かったこともあり満足しました。(ハードルが低くなったのは前回までで、前半で提示した全部を解決する気はないんだな、ということがわかったからです)前回(第10話)が、想のウジウジしたところがMAXになって終わりましたが、ラストでは想が、紬の声に固執せず、自分の声を出すことへの恐怖感を脱し、つまりは今の自分自身を受け入れ一歩先に進むことが出来た、という流れとして見ました。長い年月が過ぎているにもかかわらず、紬に理不尽な態度を取った第9話の想に苛々した部分もありましたが、青春時代を音楽…

  • 湘南は晴れているか(2022湘南国際マラソンレビュー)(その1)

    湘南国際マラソンこれまでのあらすじ 湘南国際マラソンは2015年以降、毎年参加している思い入れのある大会。 その足跡を簡単に辿ると、初参加かつ自身初のサブ4達成の2015年大会以来、順調にタイムを伸ばして2018年に待望のサブ3.5を達成。 しかし、かすみがうら(4月)、湘南、さいたまの3レースともサブ4を達成できないという悔いの残る2019年シーズンの後、2年間、大会自体が行われず。 再リセットの2022年は改めてサブ4を目指すというのが3年ぶりの湘南国際マラソンの目標タイムだった。 2015:3時間57分台(念願のサブ4達成) 2016:3時間42分台 2017:3時間39分台 2018:…

  • 1960年代のフランス×現代日本~オードレイ・ディヴァン『あのこと』

    『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー賞®4冠に輝いたポン・ジュノ監督が、審査員長を務めた2021年ヴェネチア国際映画祭での最高賞受賞を皮切りに、世界の映画賞を席巻。決して見逃せない傑作が、ついに日本にも衝撃の嵐を送りこむ!舞台は1960年代、法律で中絶が禁止されていたフランス。望まぬ妊娠をした大学生のアンヌが、自らが願う未来をつかむために、たった一人で戦う12週間が描かれる。この作品の特別なところは、本作と対峙した観客が、「観た」ではなく「体験した」と、語ること。全編アンヌの目線で描かれる本作は、特別なカメラワークもあり、観ている者の主観がバグるほどの没入感をもたらし、溺れるほどの臨場感で…

  • 中絶のスティグマを減らす方向に舵を取らない日本~塚原久美『日本の中絶』

    日本の中絶 (ちくま新書 1677)作者:塚原 久美筑摩書房Amazon小説『僕の狂ったフェミ彼女』で取り上げられていて気になった「中絶」の問題。 もう少ししっかり勉強したいと思って読んでみたのが、今年8月に出た本書。目次は以下の通り。 第1章 なぜ中絶はタブー視されるのか 補論1 刑法堕胎罪と母体保護法 第2章 日本の中絶医療 補論2 日本の中絶方法の特殊さ 第3章 中絶とはどういう経験か 第4章 安全な中絶 補論3 中期中絶とはなにか 第5章 性と生殖の権利 補論4 経口中絶薬をめぐる情報 第6章 これからの中絶 補論5 不妊治療の保険適用 著者の塚原久美さんについては、Amazonに説明…

  • 再読時の感動が深い歴史ミステリ~深緑野分『ベルリンは晴れているか』

    ベルリンは晴れているか (ちくま文庫)作者:深緑野分筑摩書房Amazon 1945年7月、ナチス・ドイツの敗戦で米ソ英仏の4カ国統治下におかれたベルリン。ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が米国製の歯磨き粉に含まれた毒による不審死を遂げる。米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、なぜか陽気な泥棒を道連れに彼の甥に訃報を伝えに旅出つ――。 ざっくり言えば、1945年7月のベルリンを舞台にしたロードノベル。 メインは17歳少女+成人男性のコンビというと『すずめの戸締まり』と似ているが、『すずめの戸締まり』のような長距離ではなく、ベルリン中心部からポツダムのバーベルスベルクまでの…

  • 戸惑いの先にあった共感~新海誠監督『すずめの戸締まり』

    今回、どの程度がオープンになっているのかあまり理解していないが、話題作は徐々にネタバレOK圧が高くなっていくので、早く行っておきたいと思っていた。 結局公開1週後に観たが、初日に行けばよかったと思ったのは「震災の映画」ということを聞いたため。 その一言以降、それこそ厳重に心の「戸を締め」て、それ以外の情報が入らないようにした。以下、実際に観たときに感じたことを列記していく。 物語の始まりは宮崎県。 東北ではなく、しかも十分遠いことに安心する。 その後、緊急地震速報と「みみず」の登場に、そうか、「東日本大震災ではない地震」の話なのだと改めて安心する。 そして、舞台は愛媛、兵庫へと移り変わっていく…

  • 人口減少と「男性の育児休業取得」~メアリー・C・ブリントン『縛られる日本人』

    縛られる日本人 人口減少をもたらす「規範」を打ち破れるか (中公新書)作者:メアリー・C・ブリントン中央公論新社Amazon 人口減少が進む日本。なぜ出生率も幸福度も低いのか。日本、アメリカ、スウェーデンで子育て世代にインタビュー調査を行いデータとあわせて分析すると、「規範」に縛られる日本の若い男女の姿が見えてきた。日本人は家族を大切にしているのか、日本の男性はなぜ育児休業をとらないのか、日本の職場のなにが問題か、スウェーデンとアメリカに学べることは――。アメリカを代表する日本専門家による緊急書き下ろし。 狙いを広げ過ぎず、メッセージはシンプル。 人口減少への危機感からスタートする話なのに、こ…

  • 山に挑む人たち~NHK『激走!日本アルプス大縦断』×ドニ―・アイカー『死に山』

    「トランス・ジャパン・アルプス・レース(TJAR)」 日本海(富山県)をスタートし、日本アルプスを縦断して太平洋(静岡県)のゴール地点を目指す山岳レースで、全長415km、標高差27,000m、8日以内というレースだが、これまでの実績と実技選考(テントの技術、地図読み等)も含めて選ばれた人のみが出場できる。この過酷なレースのことはビブリオバトルで関連本が紹介されていて知った。 紹介されたのは3~4年くらい前だが、ずっと気になっていたのだろう。CMで見かけて、「これはあの時の!」と2週にわたるドキュメンタリー番組『激走!日本アルプス大縦断』を見てみた。実際に見てみると、見る前はイメージできていな…

  • 被害者家族の思いと少年Aの「更生」~奥野修司『心にナイフをしのばせて』

    心にナイフをしのばせて (文春文庫)作者:奥野 修司文藝春秋Amazonこの表紙とタイトルが ずっと以前から気になっていた本。その印象から小説だと思い込んでおり、改めて手に取って初めて、ルポルタージュだと気がついた。 ましてや題材としている事件が自分の生まれる前、1969年の事件に起きた(酒鬼薔薇事件を思い起こさせる)凄惨な事件とは想像もしなかった。 (事件については、Wikipediaを参照→高校生首切り殺人事件 - Wikipedia)そして読み進めるほどに、想像の枠から外れていく不思議な読書体験。 少年のイラストが描かれた表紙とタイトルからは、加害者少年の「心の闇」に迫る内容を想定したが…

  • 友情!ダンス!アクション!インド独立!~S・S・ラージャマウリ監督『RRR』

    ワクチン接種後に観る映画探し 今日は東京都庁に4回目のワクチン接種に行ってきた。 予約するタイミングではオミクロン対応のワクチンは人気のため直近の土日は枠が埋まっており、それならばということで、飛び石連休の中日の平日を予約した。新宿でワクチン接種後、90分くらいの映画を観て、ついでに花園神社(酉の市)に行って帰ろうと思っていたものの、ワクチン接種後の10時台でちょうど良い映画が無い。 第一候補として挙がった『線は、僕を描く』(106分)も『犯罪都市』(105分)も12時少し前の回で少し待つ。『アフターヤン』(96分)は新宿では上映が無い。『パラレルマザーズ』(123分)は10時開始で間に合わな…

  • サザエさん症候群から抜け出したい~竹林亮監督『MONDAYS』

    とある小さな広告代理店で働く主人公・吉川朱海(円井わん)は、「この仕事が終わったら、憧れの人がいる大手広告代理店へ転職する」と燃え上がる野心を持って仕事に取り組んでいた。しかし、次から次に降ってくる仕事で、余裕はゼロ。プライベートも後回し。月火水木金土日、休みなく働き続けていた、ある月曜日の朝。後輩2人組から、こう告げられる。「僕たち、同じ一週間を繰り返しています!このタイムループを、夢の出来事だと思って忘れないために、合図を覚えてください。鳩です…」。ひとり、またひとりと、「白い鳩」の合図に導かれ、タイムループの中に閉じ込められているのを確信する社員たち。だが、その脱出の鍵を握る永久部長(マ…

  • 小説⇔ドラマの往復感想(ネタバレあり)~相沢沙呼『medium』×ドラマ『霊媒探偵・城塚翡翠』

    medium 霊媒探偵城塚翡翠 (講談社文庫)作者:相沢沙呼講談社Amazonもちろん書店で何度も見かけていたし、ミステリとしての評判も聞いていたので、その名は知っていましたが、清原果耶が主演、と聞き、ドラマを見てみよう、それなら小説も読んでおこう! と思っていたらドラマ初回を迎えてしまいました。 ドラマ初回 そうして見たドラマ初回はとても良く、大満足でした。 霊媒・翡翠役の清原果耶が可愛い。ミステリアス、でもドジっ子という漫画のようなキャラクター。 推理作家・香月役の瀬戸康史がカッコいい。グレーテルのかまど、鎌倉殿の13人のトキューサ(北条時房)役からは想像できないほどカッコいい。 あれ?目…

  • 差別のない社会づくりには法制度の充実が必要~神谷悠一『差別は思いやりでは解決しない』

    差別は思いやりでは解決しない ジェンダーやLGBTQから考える (集英社新書)作者:神谷悠一集英社Amazon 「ジェンダー平等」がSDGsの目標に掲げられる現在、大学では関連の授業に人気が集中し企業では研修が盛んに行われているテーマであるにもかかわらず、いまだ差別については「思いやりが大事」という心の問題として捉えられることが多い。なぜ差別は「思いやり」の問題に回収され、その先の議論に進めないのか?女性差別と性的少数者差別をめぐる現状に目を向け、その構造を理解し、制度について考察。「思いやり」から脱して社会を変えていくために、いま必要な一冊。 自分にとって興味のある事項が整理されていたため読…

  • 自分のtwitterアイコンはあり?なし?~井上拓『SNS別最新著作権入門』

    SNS別 最新 著作権入門: 「これって違法!?」の心配が消える ITリテラシーを高める基礎知識作者:井上 拓誠文堂新光社Amazon著作権の話は定期的に最新情報を確認しておきたいと思っている。「違反しているけど黙認されている場合」というグレーゾーンが非常に多く、全く他人事ではない内容だからだ。(SNSではワンクリックでいくらでも違反できる「便利」な世の中になってしまった…) そんな中、この本は、”「これって違法!?」の心配が消える ITリテラシーを高める基礎知識”という副題通り、著作権に関する基礎応用がともに学べるとても良い本だった。目次は以下の3章構成。 巻頭 著作権を学ぶための基礎知識 …

  • 19世紀のスイス、ドイツに思いを馳せる~『図説 アルプスの少女ハイジ 増補改訂版』

    図説 アルプスの少女ハイジ 増補改訂版: ハイジでよみとく19世紀スイス (ふくろうの本)作者:ちば かおり,川島 隆河出書房新社Amazon読みたくなる本(小説以外)の条件として、自分は以前から「読みやすい・読み通せそう」という点を重視していた。さらに最近は、歴史(日本史・世界史問わず)に興味関心が高いことから、「歴史・地理について触れている」本は優先度が上がる。そして何より、タイトルやテーマに魅力を感じる本が良い。 この本は、そのすべてを満たした本。メインの1章(『ハイジ』という物語)では、ハイジの話を、当時の本の挿絵を複数種並べながら振り返る。表紙もその一部ということになるが、挿絵に加え…

  • オリジナル・ラブ20枚目のアルバム『MUSIC, DANCE & LOVE』と積み減らし

    【Amazon.co.jp限定】MUSIC, DANCE & LOVE [完全生産限定盤] [CD + DVD] (Amazon.co.jp限定特典 : メガジャケ 付)アーティスト:Original LoveビクターエンタテインメントAmazon当初、9/21に発売を予定していたが、発売が11/16に延期となっていたオリジナル・ラブの20thアルバム『MUSIC, DANCE & LOVE』のジャケットと曲目が発表になった。 1 侵略 2 Music, Dance & Love 3 優しい手 - Gentle Hands 4 フェイバリット 5 ソングライン 6 接吻 (M.D.L. Ver…

  • ドラマ『silent』、映画『LOVE LIFE』と当事者キャスティング

    今年は、アカデミー賞受賞作品の『コーダ あいのうた』が当事者キャスティングで注目されたのと対照的に、ノミネートで話題になった邦画『ドライブ・マイ・カー』では、手話(韓国手話)を使う役を聴者が演じていて悪い意味で話題になり、「当事者キャスティング」が注目される年だったように思う。そんな中で10月に始まったばかりのドラマ『silent』は、メインの男性とそれをサポートする女性の二人のろう者を、目黒蓮(Snow Man)と夏帆が演じる。これはどうなのだろうか、という問題意識もありながらドラマを見始めた。 silent - フジテレビ1話を見たが、とても面白い。中途失聴者役の目黒蓮の演技も、感情の起伏…

  • どんなに離れていても愛することはできる~深田晃司監督『LOVE LIFE』

    深田晃司監督は、『よこがお』を結局観に行けなかったのが心残りだったので、今回、他の映画と迷った挙句、上映時間や劇場*1も吟味して観に行くことに。 敬太君 この映画で「序盤に起きる出来事」の破壊力は本当に凄まじい。 公式HPのあらすじで書かれている「悲しい出来事」のことだ。 妙子(木村文乃)が暮らす部屋からは、集合住宅の中央にある広場が⼀望できる。向かいの棟には、再婚した夫・⼆郎(永山絢斗)の両親が住んでいる。小さな問題を抱えつつも、愛する夫と愛する息子・敬太とのかけがえのない幸せな日々。しかし、結婚して1年が経とうとするある日、夫婦を悲しい出来事が襲う。哀しみに打ち沈む妙⼦の前に⼀⼈の男が現れ…

  • 記憶の中の小説VS映画~蜷川幸雄監督『青の炎』

    青の炎二宮和也Amazonこの映画は、ずっとPrimeVideoのウォッチリストに入っていたが、そうなってしまったら、よほどの機会がないと観ないことになる。というのがパターンだ。(本は図書館の者は読むが、買ったら読まないのと似ている) しかし、Twitter上で邦画オールタイムベスト10で、この作品を挙げている人がいて、半分アイドル映画と思っていた自分を恥じて、ちゃんと見てみることにした。 青の炎 (角川文庫)作者:貴志 祐介KADOKAWAAmazon月と蟹作者:道尾 秀介文藝春秋Amazon原作の貴志祐介『青の炎』は、読んだのが昔過ぎて、 「貴志祐介の初期の作品は名作ばかり 」という印象の…

  • 紀元前から現代までを18の漫画でつなぐ~茂木誠・大久保ヤマト 『バトルマンガで歴史が超わかる本』

    バトルマンガで歴史が超わかる本作者:茂木誠,大久保ヤマト飛鳥新社Amazon本を実際に見ての印象は悪かった。 18章あるので仕方ないとはいえ、漫画は戦争シーンのみ7~8ページで短い。 前後に「小太郎」(中1)と「つきじい」(2500年前から来た古代ギリシアの歴史家トゥキディデス)の会話が挟まるだけで、突っ込んだ解説がない。 これでは、18個の戦争イベントの不十分な解説を「一見わかりやすく」読ませられるだけではないかと考えた。 しかし、読んでみると、バトル01~バトル18までは、紀元前から現代まで数珠繋ぎのように時系列に上手く繋がっており、宗教的な対立や民主主義と専制主義の流れを理解するのにとて…

  • 「叱られる小説」と思って読んだら「呆れられる小説」~ミン・ジヒョン『僕の狂ったフェミ彼女』

    僕の狂ったフェミ彼女作者:ミン・ジヒョンイースト・プレスAmazon 以前「狂ったフェミ彼女」の本を読んだことがある。 pocari.hatenablog.com この本の衝撃はとにかく大きく、そのせいもあり、「叱られ好きな自分」でも、身構えるようにして、この本を読み始めた。 (あらすじ) 就活を前に不安な僕を癒してくれた、愛らしい僕の彼女。毎日のようにベッタリで、付き合って1周年を迎えた。そんなとき僕は、1年間の海外インターンシップに行くことに。遠距離は不安だけど、彼女なら安心だ、待っていてくれるはず――。しかし、出国当日。空港にいたのは、涙ぐむ彼女を抱きしめる僕ではなく、別れのメールをもら…

  • 作品テーマを見抜けなかった~ジョーダン・ピール『NOPE』

    今回、事前情報を出来るだけ遮断して観に行き、「UFOの映画らしい」程度のことしか知らなかった。そのことで逆に、映画館に入ってからもっと知っておくべきだったのでは?と不安になったが、広い牧場と空が絵的に美しい映画で、内容も、ホラーというかパニックものとしてとても楽しめた。 パニックものとしては、「敵」の性質・弱点、勝つための「ルール」が上手く示されていることで、「攻略」の仕方が理解しやすいのが良かった。(ジョジョで言うと3部のスタンド) 空に浮かぶ「ずっと動かない雲」に敵は隠れている。(これも『ジョジョの奇妙な冒険』っぽい設定でドキドキする!) 音楽をきっかけに敵はコチラに近づいてくるが、周囲に…

  • あみ子は可哀想?~今村夏子『こちらあみ子』

    こちらあみ子 (ちくま文庫)作者:今村夏子筑摩書房Amazon今村夏子『星の子』のラストは、自分にとって衝撃だった。物語のセオリー通りに進まない話だったからだ。 pocari.hatenablog.com しかし、その後、映画を観て改めて考え、読者の押し付けた幸福の物語に逆らって生きる、主人公ちひろの選択に納得した。 pocari.hatenablog.com …という風に、『星の子』に何とかケリを付けた直後に新たな敵が現れた。その名は「あみ子」。 『こちらあみ子』の基本情報をおさらいする。 主人公あみ子の小学生時代~中学3年生までの出来事がメイン 基本的には、あみ子の一人称視点で物語が進む …

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