花瀬実 さん プロフィール

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花瀬実さん: 2097
ハンドル名花瀬実 さん
ブログタイトル2097
ブログURLhttps://ameblo.jp/lanevoiv/
サイト紹介文今回の新作はSFです。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供69回 / 365日(平均1.3回/週) - 参加 2009/01/16 00:54

花瀬実 さんのブログ記事

  • クライシス2097 −30−
  •  −30− 垣内とマシュー博士は、日本でのスケジュールをすべて終えると、アメリカに戻る前に療養中の大塚を見舞うために彼の自宅を訪れた。 大塚は前年秋までに、地対連合大学学長の任を含めた全ての職を辞して、自宅で療養していた。 外科的治療は一切行わず、免疫療法とワクチン治療のみで対処していたそうだが、予想以上の治療効果がみられるたようで、思ったより元気そうな大塚を見て二人はとりあえず安心した。 「垣内 [続きを読む]
  • クライシス2097 −29−
  •  −29− だが、簡単に探査機を送り込むといっても、12光年もの彼方である。 つまり、光でもそこに到達するには12年という年月がかかるほど遠いのだ。 半端な速度では、それこそ何百年、あるいは何千年もかかってしまうから、それでは探査機の意味をなさない。 そこで注目されたのが、レーザー光を推進力として使う方法だった。 但し、これには技術的にも物理的にも多くの課題を抱えていたことも事実で、その解決に目処 [続きを読む]
  • クライシス2097 −28−
  •  −28− そこには太陽を中心にして、各惑星の軌道を表す同心円が幾重にも描かれていて、その円盤を斜め上から下に貫く別の線があった。 これがビジターの軌道であろう。 その線は地球の軌道円のすぐ外側を通って、下に抜けている。 そして最接近点と思われる個所にマークがついている。 ひとまず、これまで幾度となく見てきた図と大差はないように見える。 奈菜はそのマーク付近にカーソルを合わせると、その部分を拡大し [続きを読む]
  • クライシス2097 −27−
  •  −27− 梶岡は“やまと”のことをすっかり忘れていた。 もう何年も話題になることもなく、彼自身も地対連合のメンバーとして忙しく実務をこなしているうちに、やまとのことは記憶からすっかり抜け落ちていたのだ。 「やまとはひと通りのミッションが終わって、その後は衛星のタイタンを周回して、土星とタイタンの観測をしながらスタンバッてるけど、あれにはビジターの観測は無理だぞ」梶岡はすぐさま否定的な見解を示した [続きを読む]
  • クライシス2097 −26−
  •  −26− 「ソーラー・セイル。つまり、光ヨットだよ」鮎川は自らの説に自信があった。 「光ヨット?」梶岡は当然ソーラー・セイルのことは知っていたが、それがフロンティアと月とがどう結びつくのかは、ピンと来なかった。 「そう、光の圧力で推進するる例の技術だ」 「それは分かるけど、いったいどうやって・・・」 「おそらくレーザーだよ。それしかない。だから月面基地なんだ」 「・・ああ・・なるほど・・」梶岡は [続きを読む]
  • クライシス2097 −25−
  •  −25− 三階にある専用オフィスでマシュー博士は待っていた。 彼は嬉しそうに立ち上がって、大袈裟に二人の訪問を歓迎した。 「やあヨウスケ、コーチもよく来てくれた」彼は二人と交互にハグしてから、インターホンのボタンを押した。 「マナミを呼んでくれないか」と、大声でマイクに向かって言った。 「コーチ、マナミはすぐに来るよ」マシューは鮎川を振り返ってウインクした。 コーチとは鮎川のことだ。 浩一郎とい [続きを読む]
  • クライシス2097 −24−
  •  −24− 2037年8月 梶岡と鮎川はワシントンDCに来ていた。 地球危機対策連合本部を訪れて、最近決着がついたばかりのシャトル問題の結果報告と説明、スケジュールの打ち合わせと調整が主な目的だ。 鮎川が同行したのは、技術的見地からの調整を見越してのことだった。 しかし、鮎川の同行にはもう一つの理由があった。 それは彼の次女、愛美に逢うためだ。 彼女は現在、共同研究の日本人スタッフとして、マシュー博士 [続きを読む]
  • クライシス2097 −23−
  • −23− 藤縄の家を出て数分後、奈菜の部屋がある三階建ての集合住宅に着いた。 彼女の部屋は三階にある。 同じ建物に拓郎の部屋もあった筈だが記憶が定かでない。 二人は階段を上がってドアの前に立ち、奈菜が鍵を開けて中に入った。 浩一郎もそれに続いて玄関を上がった。 短い廊下を抜けると、広めのリビング・ダイニングがあり、シンクと冷蔵庫のある方と反対側の壁際には大きめのデスクが置かれているが、全体的にがら [続きを読む]
  • クライシス2097 −22−
  • −22− 大塚名誉教授が心筋梗塞で病院に担ぎ込まれたのは、今年の年明け早々だった。 そして、それがきっかけでステージ3の肺がんが発見されたのだ。 大塚自身は以前から、自らの呼吸器に異常があることを自覚していたが、病院嫌いの彼は何かと理由を見つけて、結局医者には診せずにこれまで来ていたのだった。 したがって、なんとなく予想していた彼は癌を告げられても、案外冷静でいられたようだ。 十年前、妻に先立たれ [続きを読む]
  • クライシス2097 −21−
  •  −21− 藤縄と奈菜はオフィスの入るビルを出ると、八木山基地の広大な敷地の山沿いに造成された居住区域の一角にある藤縄の自宅に帰った。 先に藤縄が玄関をくぐって、それに奈菜が続いた。 集合住宅に居を構える身としては、一戸建ての玄関ホールの広さが羨ましくも思えた。 藤縄が靴を脱ぎ捨てて床に上がったところで、奈菜は脇に並んだ二足の革靴に気が付いた。 それは明らかに小柄な藤縄のものではなさそうだった。  [続きを読む]
  • クライシス2097 −20−
  •  −20− 今度は鮎川が尋ねて、梶岡が答える番だ。 「うん、実は鋼管の補給システムに問題があるらしくて、今は良くても先々建設ピッチが上がってくると、やがて補給が追いつかなくなるのは確実だそうだ」 「どこが問題だと?」 「麓の補給基点が一箇所に集中しているせいで、基点からロボットまでの補給ルートの一部がボトル・ネックになって、鋼管がスムーズに補給されない現象が時折見られるそうだ」 「そりゃ間違いなく [続きを読む]
  • クライシス2097 −19−
  • −19− 2030年4月 この年になって、これまでまだ手付かずだった残りのプロジェクト事業の建設が全て始まり、垣内総長をはじめとする関係者は、皆一様にひとまずほっとしていた。 前年夏、地下都市建設候補地の選定が終わり、全ての場所での掘削が始まっていたし、火星用のドーム建設の計画も、火星での候補地検討やライフ・ライン維持の具体的方法などの本格的な研究が始まっていた。 地球脱出コロニーの居住用セルの量 [続きを読む]
  • クライシス2097 −18−
  • −18− ブレッカー前米大統領は退任後、地球危機対策連邦連合の南北アメリカ・太平洋局長に就任し、同時に副総長も兼任して、垣内総長をサポートした。 もう一人いる副総長は、フランスの保守系与党筋のルメット元大統領だ。 彼もまたヨーロッパ・アフリカ局長を兼任している。 そんな状況で、ブレッカーはある構想を練っていた。 それは地対連合軍の創設だった。 現在、世界はビジター危機のきっかけにして、数年前から大 [続きを読む]
  • クライシス2097 −17−
  •  −17− “ビジター”は太陽の勢力圏内に入ってしばらくすると、時折新たな付帯物を取り込んで、それを自身の周回軌道に乗せて身にまとった。 それらはほとんどが氷の塊であり、これが太陽の近くまで落ち込めば彗星となるものだ。 つまり、これらは彗星の卵であり、それらが一説によれば太陽系の外縁部に数兆個はあると見積もられているそうだ。 とは言っても、その空間は想像を絶する広さがあるから、均してみればその数を [続きを読む]
  • クライシス2097 −16−
  •  −16− 2027年8月 ビジター発見から十年が過ぎた。 世界はこの十年で一見、表面的には殆ど変化が無いように見えるが、実際には深いところでは劇的な変化を遂げつつあった。 それは人心の変化であり、人々は言いようのない不安を抱えて、どう行動すべきなのか、誰もその答えを知らなかった。 精神的な病に罹る人も激増しているようだ。 国家単位で見ても、多くの国々は自発的な具体策を見出せず、大半が地球危機対策 [続きを読む]
  • クライシス2097 −15−
  • −15− 2023年7月  “九頭竜2号”は予定通り逆噴射による減速を終えて、1号機の更に内側のビジター周回軌道に乗った。 2号機に搭載されている各種観測機器は、どれも改良を受けて性能を向上させており、中でもカメラ類は大幅に感度アップされたものが搭載されている。 そして、その成果はすぐに現れた。 複数の帯域に分けられた赤外線画像を合成し、それに擬似カラーを施した写真は、1号機のものより格段に鮮明さ [続きを読む]
  • クライシス2097 −14−
  •  −14− 「やっぱり、そうなんだ。よかったらその惑星のことを聞かせてもらえないかな」 「OK、まず場所だが、カシオペア座方向約12光年の位置にある単独の主系列に属する星です」 「ビジターのいる方向に近いですね」星座の位置を思い浮かべながら梶岡は呟くように言った。 「そう、たまたまの偶然だったが、それを知って、日本の計画を耳にしたときはついてると思ったよ」 「渡りに舟だったね」 「まあね」マシュー博 [続きを読む]
  • クライシス2097 −13−
  •  −13−  「アメリカは何かを隠していますね、恐らく・・・」鮎川は断言するように言った。 「そうかなぁ、隠してるとしても、それは探査計画そのものを知られたくないだけじゃないか。本気で隠すんなら、他国の計画に便乗なんて考えられないだろ」 「うーん、そう言われればそうかなぁ。てっきり宇宙人でも見つかったのかとか想像してたんだけど・・」鮎川はふふと笑った。 「ま、真の意図は分からないけど、彼らが目をつ [続きを読む]
  • クライシス2097 −12−
  •  −12−  「そうでしたか・・・」垣内は深く頷いた。 垣内総理は梶岡と鮎川の言葉を頼もしく思った。 二人以外の学者や技術者も、かなり前向きに取り組んでもらっているようで、大概の困難も、彼らに任せておけば何とかなるのではと、以前に増してそう思えてきた。 彼らを信じるしかないのだ。 「それで・・このコロニーを、一基だけでなく複数造る必要性も感じております」梶岡が総理の様子を窺いながら、おもむろに言っ [続きを読む]
  • クライシス2097 −11−
  •  −11−  「バベルの塔って、あのバベルの塔だよな?」鮎川も梶岡が言わんとすることが、完全には理解できなかった。 しかし、意味は分かる。 「そう、そのバベルの塔さ」梶岡は挑むような視線を鮎川に向けて微笑んだ。 あまりにも発想が突飛で、俄かには信じられなかったが、やはり自分の考えに間違いは無さそうだった。 「考え方自体は簡単だ。高い塔を建てて、エレベータを使って資材を上空に運ぶんだ」 「なるほど、 [続きを読む]
  • クライシス2097 −10−
  •  −10−  会議室は微妙な緊張感に包まれていた。 「総理、質問があります。もうすぐ総裁選挙が行なわれるようですが、今回も立候補されるのですか」鮎川は巷で取りざたされている垣内の進退について、ズバリ訊いた。 5年に渡る長期政権を築いている垣内が、そろそろ身を引くのではとの憶測が、マスコミを中心にして連日のように賑わしていたからだ。 全員が一斉に垣内総理に注目した。 「・・実は・・わたしも今季限りで [続きを読む]
  • クライシス2097 −9−
  •  −9−  「ここ、これは衛星じゃないかな」大塚は指差して言った。 彼はビジターのすぐ脇、リングの影を延長した辺りの、微かな灰色の点を見逃さなかった。 「あっ、本当ですね・・・これは間違いなく衛星でしょう」梶岡もモニターに顔を寄せて凝視すると、すぐに確信できた。 「この大きさからしてかなり大きな衛星ですね」大塚は木星の画像を思い浮かべていた。 「直径が1000キロを越えるのは間違いなさそうですね」 [続きを読む]
  • クライシス2097 −8−
  •  −8−  2019年7月  地球から離れて460日目が過ぎたこの日、冷たく真っ暗な宇宙空間で“九頭竜”は静かに噴射を止めた。 太陽からおよそ170億km、太陽地球間の距離の113倍以上の彼方を、ビジターに向けて毎秒800kmという猛スピードで進んでいる。 背後にはひと際明るい星が輝いているが、これが太陽だった。 ここまで離れると、太陽と言えども単に星のひとつでしかなく、地球で見る太陽のおよそ15000 [続きを読む]
  • クライシス2097 −7−
  •  −7−  “九頭竜”が無事に地球の重力圏を離れたという一報を、種子島に滞在している鮎川から受けた梶岡は、早速垣内総理に報告した。 それから急いで大塚のオフィスに出向いた。 「遂に賽は投げられましたね」大塚は梶岡の顔を見るなりそう言った。 「はい、後はサイコロの目がどう出るかです」 「うん・・」大塚は微かに頷いた。 「慣性航行に入る460日後から観測が始まりますから、それまでがいかにも待ち遠しい気 [続きを読む]
  • クライシス2097 −6−
  •  −6−  2018年 1月  “ビジター”に送り込む探査機の名は“九頭竜”と付けられた。 発見のきっかけになった場所の名にちなんだものだが、探査機が九つの頭を持つ竜のごとく、多くの観測機器を積み込み、最新の画期的な推進装置で旅立つ姿を象徴した名でもある。 その打ち上げは3月に決まった。 鮎川と藤縄は、年末年始関係なく“九頭竜”の製作に没頭している。 そのお陰なのか、驚異的とも思えるスピードで組み上 [続きを読む]