汎武 さん プロフィール

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汎武さん: はなし汎武ん
ハンドル名汎武 さん
ブログタイトルはなし汎武ん
ブログURLhttp://hanbu-y.blog.so-net.ne.jp/
サイト紹介文日常のあれこれ、本の事、誰彼の事、合気道の事等々、諸事への思いを整列させることもなく書いております。
自由文写真やイラストなど殆どない、文字だけの地味なブログです。全体のトーンはエッセイ風でありましょうか。ま、ちょっと創作ものも入っていますし、批評めいたものも煩わしくない範囲で書いております。よろしければ覘いてみてください。
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供156回 / 365日(平均3.0回/週) - 参加 2009/02/10 14:27

汎武 さんのブログ記事

  • あなたのとりこ 79
  • 「殴られる?」 頑治さんはその言葉の不穏さに目を剥くのでありました。「刃葉さんが土師尾営業部長を気に障ったから殴る、或いは殴る素振りをすると云った事が前にあったのかな?」「いや、それは全然無いけど」「じゃあ、どうして土師尾営業部長は刃葉さんを恐れているのかな?」「土師尾営業部長は部長としてのプライドとかの点には執拗に拘る割に、実は全く肝っ玉の小さい臆病な人だからね。だから結局、一種の的外れの怖気と [続きを読む]
  • あなたのとりこ 78
  •  そう聞いて頑治さんは呆れ顔を均目さんに向けるのでありました。「実は今日の宇留斉製本所行きだけど、多分近道をしようと考えたのか羽葉さんが、池袋方面に向かう表街道じゃなくて裏道に途中でハンドルを切ったんだよ。すると進路に迷って街道を行くよりかなり無駄に時間が掛かって仕舞ったんだ」 均目さんは喋り始めた頑治さんの顔を上目に見ながら一つ頷くのでありました。「ああ、よくあるあの人の無意味な行動の一つだね。 [続きを読む]
  • あなたのとりこ 77
  •  片久那制作部長が頑治さんに訊くのでありました。「昼食に行かれました」「唐目君に納品書を渡して、自分は仕事完了の報告もしないでかい?」 はいそうですと応えるのも何となく憚られるので、頑治さんは頷かずに口元に笑いを作って返答の代わりとするのでありました。「相変わらず無責任だなあ」 片久那制作部長は舌打ちしてからまた弁当の方に取り掛かるのでありました。「昼飯は当然未だだろう?」 均目さんが立ち上がりな [続きを読む]
  • あなたのとりこ 76
  •  明らかに頑治さん意見の方に正統性があるのは刃葉さんも判るようで、早目の昼休みは諦めたようでありました。しかし車が白山通りに曲がって後楽園遊園地の道向かいで、壱岐坂を越えた直ぐの辺りで刃葉さんは車を路肩に寄せて停車させるのでありました。「ちょっと待っていてくれるかな」 刃葉さんはそう云い置いて車を降りるのでありました。見ていると道沿いの武道具店の看板の下の引き戸を開けてその中に姿を消すのでありまし [続きを読む]
  • あなたのとりこ 75
  •  刃葉さんが急ハンドルでまた、行きがけ同様横道に入るのでありました。帰りも道に迷って無意味な時間を潰す破目になるのかと思って頑治さんは溜息を吐くのでありました。頑治さんとしてはそう云う危惧があったので帰りは自分が運転しようかと申し出たのでありましたが、羽場さんは何故かそれを断って再び運転席に座ったのでありました。「まあ、パートの人も居なかったし仕事場が何時になくすっきりしていたから、丁度繁忙だった [続きを読む]
  • あなたのとりこ 74
  • 「専門学校、それとも大学?」「大学です」「態々大学出て最初にこの仕事に就いたの?」「ええそうです。ま、卒業したのは去年ですが」「最近は就職難だとテレビで云っていたけど、なかなか仕事が見つからないのかしら」 赤Tシャツはどこか頑治さんに同情するような気色を見せるのでありました。「選り好みしなければ何かしらの仕事は見つかります。それに僕はどちらかと云うと頭を使うより体を使う仕事の方が性に合っていますか [続きを読む]
  • あなたのとりこ 73
  •  一人は大柄で四角い顔に黒縁の、レンズの部分が細い眼鏡を掛けていて一番地味な服装をしていて、その故かこの三人の女性の中で一番年嵩に見えるのでありました。もう一人は最初に現れた女性に小柄で太りじしの体型も顔付きも歳頃も近似していて、この二人は如何にも姉妹であると明快に判る様相をしているのでありました。容貌にも年齢にも似合っていないと頑治さんには思われるのでありましたが、金赤色の地に大きなテディーベア [続きを読む]
  • あなたのとりこ 72
  •  結局車は、拓殖大学、跡見学園、お茶の水女子大学と大学巡りをした挙句に、当初のルートである春日通りに戻るのでありました。やれやれ、始めから素直に春日通りを進んでいれば無意味に時間を費やさなくとも済んだと云うものであります。漸くに宇留斉製本所に車が到着したのは通常の二倍近い時間を要して、と云う事になるのでありました。「お早うございます、贈答社です」 刃葉さんはそう家の中に声を掛けながら、宇留斉製本所 [続きを読む]
  • あなたのとりこ 71
  •  白山通りを北上し講道館横を左折して車は春日通りを直進するのでありました。その儘池袋六ッ又交差点を超えて川越街道を進めば、目指す池袋四丁目に在る宇留斉製本所へは簡単なルートと思われたのでありましたが、なかなかそうは上手く問屋が卸さないのでありました。勿論この場合の問屋と云うのは運転手の刃葉さんであります。 頑治さんは然程でもないと思ったのでありますが、刃葉さんは春日通りが渋滞していると感じたらしく [続きを読む]
  • あなたのとりこ 70
  •  夕美さんはまた一口ワインを飲むのでありました。「さっき食事していた時に頑ちゃんから、あたしの考古学に対する興味が少し薄れたんじゃないかって云われて、何かこのところずっと感じていた憂鬱の原因をはっきり言葉にされたような気がしたの。明らかに薄れたって実感する程の大きさじゃないんだけど、でも確かに前はウキウキして出掛けていた発掘助手の仕事も、何となく現場まで出かけるのが大儀に感じる場合もあったのね。そ [続きを読む]
  • あなたのとりこ 69
  •  頑治さんは三角形に加工してあるチーズを齧りながら云うのでありました。「錦華小学校の付属の幼稚園かしら」「多分そうだろう。いや俺も良くは知らないけど」 頑治さんはそこに何が建つのか殆ど興味が無いのでありました。「でも、そのために公園がちょっと狭くなるのは何となく残念かな」 錦華公園は平日の昼休み時間等、学生やら近所で働くサラリーマンなんかでなかなかに混み合っていて、空いているベンチが見付けられない [続きを読む]
  • あなたのとりこ 68
  •  懐かしい様々な話しに現を忘れていたら喫茶店に入って二時間近くが過ぎているのでありました。頑治さんにしたら久しぶりの心躍る二時間でありましたか。「せっかく逢えて、後は音沙汰無しと云うのも寂しいから、連絡先教えて置いてよ」 そろそろ席を立とうかと云う時に夕美さんが、兎の絵の描いてある白地に細かいピンクのチェックの入ったメモ帳を取り出しながら云うのでありました。頑治さんが電話番号を知らせると夕美さんは [続きを読む]
  • あなたのとりこ 67
  • 「押絵に強引に誘われて、あたしも参加したの」「そう云えばミッションの女子高生も何人か輪の中に居たような気がする」 頑治さんは遠くを見るような目付きをして往時を思い出すのでありました。「俺も剣道部の指令で参加していたんだ。学園祭が終わった後に運動部員は後片付けに駆り出されるんで、最後まで残っていなければならなかったからね」 頑治さんは夕美さんに目の焦点を合わせ直してから云うのでありました。すると今度 [続きを読む]
  • あなたのとりこ 66
  •  夕美さんは小さくてキュートな舌打ちの音を響かせるのでありました。勿論顔は笑っているからこれは一種の、決まり事としての合いの手みたいなものでありましょうか。「さて、何処か喫茶店にでも行くかい?」「そうね、コーヒー飲みながらこの六年半のお互いの出来事なんか話しましょうか」 夕美さんが同意したので、二人は本屋の書泉グランデ裏のラドリオと云うちょっと古風な雰囲気の喫茶店に向かうのでありました。「あんな一 [続きを読む]
  • あなたのとりこ 65
  • 「まあ、良いじゃないか。あの人は何を考えているのか窺い知れない人なんだから」 頑治さんがそう云うと夕美さんは「ふうん」と、何となく納得し難いような表情を浮かべるのでありました。しかし特段拘らない風に眉宇を広げて右手に持ったスーパーの紙袋を持ち直して、左手で頑治さんの右手の掌を握るのでありました。こういうところをうっかり刃葉さんに見付けられるのも詰まらないから、頑治さんは夕美さんの指に自分の指を絡め [続きを読む]
  • あなたのとりこ 64
  • 「そう。ここの三階が事務所で一階の駐車場奥が倉庫」 頑治さんは応えながら駐車場奥の倉庫の扉が少し開いていて、そこから灯りが漏れているのを見るのでありました。頑治さんが退社する時には製作部の山尾主任と均目さんが残っているだけで、倉庫の刃葉さんも他の社員も既に退社しているのでありました。山尾さんか均目さんが未だ残業していて倉庫で何か作業をしているのでありましょうか。「倉庫に未だ誰か居るみたいね」 夕美 [続きを読む]
  • あなたのとりこ 63
  •  頑治さんは高校生の頃から小説本を読むのが好きなのでありました。人間心理の探究とか異世界の風物に憧れるとか、或いはグッと実用本位のところで語彙の収集とか作文能力や文意理解能力の鍛錬とかそう云った向上心タップリの意識は更々無く、敢えて云えば、頁上に物語られる日本語の流れに自分の心の流れを同調させている時間がこよなく好きなのでありました。自分である事からの解放、等と云えば何とも大袈裟でありますが。 し [続きを読む]
  • あなたのとりこ 62
  • 「本当?」、 夕美さんは如何にも大袈裟に嬉しそうな顔をして見せるのでありましたが、これは嬉しさの度合に於いてこの表情程の歓喜は無いのでありましょう。一般的に女性が無意識裡に放つ特有の、時として男を惑わし得るところの、科、と云うものでありましょうか。「俺もこの儘さようならするのは何となく心残りだし」 とは判っているものの頑治さんは思わず頬の筋肉が緩むのでありました。「一時間半くらいなら三省堂にでも行 [続きを読む]
  • あなたのとりこ 61
  • 「まあ、一面でそう云えなくはないわね」「一面で、かい?」「だって考古学専攻の学生では女子はあたし一人なのよ」「良いじゃないか、男に囲まれてちやほやされて」「誰もちやほやなんかしてくれないわ」 いやそうでも無かろうと頑治さんは思うのでありました。夕美さんなら小煩く感じるくらい男達にモテるに違いないでありましょう。しかも紅一点となれば、余計周りの男共が夕美さんを放って置く筈がないと思われるのであります [続きを読む]
  • あなたのとりこ 60
  •  夕美さんはその時引率した、担任でもある社会科の先生に、お前は発掘の名人かも知れない、と褒められたのでありました。クラスの他の生徒は土器の一片も石器の欠片も見つけられない者も居ると云うのに、由美さんときたら誰よりも多くの石鏃や骨鏃、それに弥生土器片を発見し、その時代の人の骨まで見付け出したのでありました。「左手示指の中節骨だったの」「何だいそれは?」「人差し指の真ん中の骨よ」 夕美さんは自分の左手 [続きを読む]
  • あなたのとりこ 59
  •  夕美さんは目を頑治さんから逸らして少し考えるような表情をするのでありました。それから少し長く沈黙するのでありました。と云ってもほんの四五秒ではありますが。「そうね、そう云う事なのかも知れないわね」「倦む前は頭の中が考古学一辺倒だったからそんなに気にしなかったけど、ほんの少しだけでも気持ちが冷えてみると自分の立っている周りの様子に目線が移り出して、自分の不調和性と云うのか、ここは自分の居るべき場所 [続きを読む]
  • あなたのとりこ 58
  • 「羽場の事だから間違い無く大丈夫だと思うよ」 別に自分の軽はずみなお墨付きなんぞは何の保証にもならないし何の安心にもならないとは思うのでありましたが、頑治さんはそう力強く請け合うのでありました。「有難う。唐目君にそう云われると何だか大丈夫なような気がしてくるわ」 夕美さんは如何にも嬉しそうに頑治さんに笑いかけるのでありましたが、これは夕美さんの頑治さんの気遣いに対する儀礼的愛想でありましょう。丁度 [続きを読む]
  • あなたのとりこ 57
  • 「もう十月の終わりだと云うのに?」「九月の解禁以来、会社訪問も一社も行っていないもの」「へえ。随分悠長に構えているのね」 夕美さんは少し呆れるのでありました。「就職希望なんでしょう?」「ま、一応は」「今年は只でさえ厳しいって云われているのに、そんなに呑気にしていて良いの?」「本当はいけないんだろうけどね」 頑治さんの云い草はどこか他人事のようでありました。「ちっとも焦ってないみたいね」「まあ、成る [続きを読む]
  • あなたのとりこ 56
  • 「でも、株式会社なんでしょう?」「資本の形式としてはね。まあ、株式会社たって色々あるよ」「それはそうだろうけど」 夕美さんはカップに残ったコーヒーを飲み干すのでありました。「それはそうと、ぼちぼち何処かに食事に行かない? 就職お祝い第一弾として奢ってあげるわ」 第一弾と断るところを見ると第二弾もあるのでありましょうか。「それは有難いけど、でも考えてみたら夕美は未だ学生の身分で、俺の方が働いていると [続きを読む]
  • あなたのとりこ 55
  • 「へえ。じゃあこれから一緒に仕事をしていく間柄になるの?」「いや、後二か月程で会社を辞めるんだよ。その後釜として俺が雇われた事になる」「ああそう云う経緯なの」 夕美さんは刃葉さんがもうすぐ会社を辞めるのだと云う話しを聞いて、何故か少しがっかりしたような云い草をするのでありました。自分と同姓の人が頑治さんとこれから先も一緒に働く訳ではないと云う事に、全く大した意味も無くではありましょうが、何となくち [続きを読む]