chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
BLOOD FLOWER (ブラッドフラワー) https://blog.goo.ne.jp/entame-syosetu

毎日更新の、中世西洋ファンタジー小説です。『狼と香辛料』を題材にした短編もあります。

毎日更新なんて……。「無理ですよっ!」と先輩に宣言したあの日から、誰にも期待されていないのに頑張る日々。そろそろ戦略的撤退でもしようか、と真剣に悩んだりして。

律氏
フォロー
住所
相模原市
出身
裾野市
ブログ村参加

2009/08/29

arrow_drop_down
  • 神国編 第二章

    それは黒い湿り気を帯びた風だった。夜の空気を溶かした陽炎だ。その中に人の目のようなものが二つ、並んで光っている。獣の匂い。それは一人の男らしかった。一閃。その剣戟はリアのものだった。躊躇のない一撃に、陽炎が揺らぐ。「面白いことを言う人だ」リアは冷徹な仮面をしっかりと装備し、その均整の取れた笑みを崩そうとしていなかった。柄にもなく怒っていたのだ。自分の歩みを阻まれたことが、なによりアリスを人質に取られたことが。彼には許せなかった。「人が、我らに対して意見を述べて良い場所は限られている。そして、それはここではない。退くがいい」「ユーキュリア様の命にてございます」黒い鎧の男が出した名前を聞いた途端、リアの笑みは崩れた。薄い月の光に青白い顔が浮かび上がる。「母様が?」「アリス様を連れ戻してこい、との仰せです」「そうか…...神国編第二章

  • 世界よりも信じるもの 2

    酒場の中ではランタンの光が暗闇を照らしていた。それでも比率としては暗闇の方が多い。隣の席に何人いるか分からないほどだった。三人掛けの卓が八つくらいしかない小さな酒場だ。皿に残った焼き豚の油を舐めるように平らげていたリリィは、今や夢の中だ。すーすーすーと嵐の後の静けさを醸し出していた。長い睫毛と、頬紅を付けたような桃色のほっぺたが、緩徐に動くたびにジルバは見とれてしまう。それをつまみに酒をあおることは格別だった。「ったく。この前の仕事で稼いだ金がちゃらだ」不満を漏らしながら、ジルバの瞳は微笑んでいた。長靴型をした木のジョッキを傾け、エールを飲み干していると、残っていた一脚にいきなり男が座った。ジルバは言葉より先に剣の柄に手をかける。「これは失礼。ちょっとお話を聞かせたくてね。うちの仲間は、ほれ、みんな潰れちまった...世界よりも信じるもの2

  • 世界よりも信じるもの 1

    世界を信じるより、傍にいる誰かを信じた方が簡単だ。と言う言葉は、とある修道会を訪れたときに耳にしたものだった。ジルバは、もっともだ、とその修道士の説法を聞いていたのだが、リリィの腹の虫が治まらなかったのを見て、早くここから立ち去ろうと重い腰を上げた。それは秋も深まったある日の出来事だった。刈られた稲穂の後が枯れ始めて田んぼにひびが入っていた。そんな村を見下ろしながら、ジルバ達は丘を上がっている。その丘を越えた向こうに町があるのだ。大荷物を積んだ行商人と数人とすれ違ったから、それなりに大きな町なのだろう。「まふぁなの?お腹ふぅいふぁ」「ものを食べながらいう台詞じゃないな」さっき行商人から譲ってもらった芋を口いっぱいに頬張りながら、リリィは口をもごつかせている。いい加減、この少女が死の精霊だという事実に懐疑になって...世界よりも信じるもの1

  • 神国編 第一章

    ――その青い一迅の風が、決闘の決着を暗示させた。草を刈る切っ先が、赤い花弁を巻きあげ、鈍い褐色の火花を散らす。影を背負うようにして佇む二人の剣士は、お互いの譲れぬ思いを、夜の帳を引き裂くようにして剣に乗せた。不意に風が去った。ジルバは下段を刈る。リアは直線に突いた。「ジルバ……」「兄様の勝ちです」膝から崩れ落ちるジルバに向かって、リリは駆け寄った。それは無意識であった。気付いた時には、リリはジルバに覆い被さっていたのである。リリは、自分がとったこの行動の意味を理解していた。いや、前々から知っていたのである。――この人間が他のどんなものよりも愛おしい、と。「……お願い。殺さないで……」「殺すな、と……。貴女は確かに、今、殺すなと言ったな。――これは、驚いた。死の精霊は、たとえ宿主が死んでも朽ちたりはしないのだが。...神国編第一章

  • 新年のご挨拶

    皆さま、新年あけましておめでとうございます。今年の抱負は、先のことを考えてクヨクヨしない、です。僕は、どこか卑屈になる節があり、自分でもなんとか直したいのですが、なかなかうまくいきません。ところで皆さんは、三が日などはどのようにして過ごしましたでしょうか?書き初めや、初詣などが定番でしょうか。なんといっても、お年玉は楽しみですね。この年になると、貰える額ではなく、貰えるかどうかの方が心配になります。では、こんな脈略もない話しをクドクド続ける気は、毛頭ございませんので、本題に移りたいと思います。――皆さま、バレンタインデーおめでとうございました……。いやはや、時が経つのは早い。光陰矢のごとし、とは誠でございますな。二月も中盤、そろそろ執筆再開の良い兆しと御思いまして、ここに記します。そろそろ布団を畳むぞ、と。アサ...新年のご挨拶

  • キリアド王国編 あとがき

    ~時間稼ぎのためのあとがきコーナー~こんにちわ。作者の律氏です。お読み頂きありがとうございます。『キリアド王国編』がようやく終わりました。ああ長かった。ひどいですねー。我ながら、ひどいもんだと思います。こんなの人様に見せるというのはどうなんでしょうか?――バカヤロ。コンナノ、ショウセツジャネエ。シュギョウシナオシテコイ。まぁ何はともあれ、やっと終わったーという達成感……なんて無い。毎日更新だから書かなきゃいけないんです。いや、いけないわけじゃないんですよ。なんせ自己義務だから。さて、次回からは『青き花と孤城編』が始まろうとしているのですが、プロットが完成しておりません。どんな話しになるのかなんて、作者も予想しきれない。きっと超展開が待っているだろうということを信じています。……信じています。尚、作者行方不明中に...キリアド王国編あとがき

  • キリアド王国 真章九十三章

    ハルカはジルバの気迫に押されて、じりっと後ずさりする。緊張が走った。しかし、その時、「ジルバっ。今日は肉よ。にくぅ!ちょっと聞いてる、のー」と、リリが間の抜けた寝言を言った。ハルカはくすりと笑い。ジルバはため息をついた。「知っていますか。ジルバさん。赤き花の悪魔は、冷徹無比に残虐の限りを尽くし、人殺しを働くそうなのです」ジルバはジョッキを置いて、テーブルの中央に屹立する蝋燭の火を見つめる。ハルカは、柔らかな笑みで続けた。「あの騒動で、誰も殺されてはいませんでした」ジルバは無言である。ハルカはリリとアリスを見つめた。「お二人にもよろしくお伝えください。またお会いしましょう」戸口が開かれ、雨の音が一瞬だけ大きくなった。ハルカは戸口に向かい、その前からジルバへ、両手でローブの裾をつまみ上げ上品に頭を下げた。頭を上げる...キリアド王国真章九十三章

  • キリアド王国 真章九十二章

    「では私達はこれで。あの、この度は色々とありがとうございました。ジルバさん達がいなければ今頃どうなっていたか。これはほんのお礼です。どうぞ御納めください」ハルカは懐から金貨の入った袋を出してテーブルの上に置く。目配せてお辞儀をする。ジルバは呻くように、ああと言っただけで袋に手をつけない。「もう国を発たれてしまうのですか」「用事を済ませたらな」ジルバは、先程届いた一通の文を見る。テーブルの上に置かれたそれには、達筆な走り書きで『リア・フォーリーツ』と差出人の名前が書かれていた。「そうですか。残念です。皆さんには、本当に感謝しきれぬ思いです」ハルカは名残惜しそうに微笑む。「お嬢様っ」ユザはすでに宿屋の戸口まで行っており、そこからハルカに声を掛ける。「分かったわ。少し待って」ハルカは答えた。ジルバはジョッキを傾けなが...キリアド王国真章九十二章

  • キリアド王国 真章九十一章

    染み付いた雨と酒の匂い。喜怒哀楽雑じりの想いがそこには詰まっている。どんなに時が経ろうと変わらない。もう一度その匂いを嗅げば、思い出せる。それはあたかも世界に記憶された物語の断片のようであった。リリはすでにテーブルに突っ伏して眠っていた。とても気持ちよさそうな寝顔である。ジルバは目尻で微笑した。「お嬢様。そろそろ」ユザはハルカに言った。ハルカは若干酔って潤んだ目をユザに向ける。「そうね。お城の宴会もそろそろお開きになる頃かしら」「お嬢様が城を抜けた事が知れれば、また親衛兵が乗り込んできますよ」「分かったわ」笑いながら頷いてみせるハルカ。二人は席を立つ。「ん。お帰りですか?」アリスは、目を擦りながら席を立った二人を見つける。「ええ」「そうですか。お気をつけ――」急に眠気が襲ってきたのか、卓の上にばたりと倒れるアリ...キリアド王国真章九十一章

  • キリアド王国 真章九十章

    「それから、もう一つ気になっていることが……」ハルカはそう言って、困惑した表情を浮かべた。しかし、それをすぐに打ち消し、口を開く。「マルコの尋問には私と父上が立ち会いましたが、その際にマルコがうわ言のように呟いたのです。……白き神、白き神、白き神と何度も何度も繰り返して。その意味を尋問官が問うても、一向に喋ろうとしませんでした」ジルバは、一瞬険しい表情を湛えて、やがて口元を自然に曲げる。「ただ……祈っていただけだろう」「しかし、私共は祀ろわぬ神に祈る風習は無いのです。おかしいではないですか」ハルカは食い下がって言う。ジルバが何か知っていると思ったのか、語気を荒げた。だが、ジルバは暗い眼光でハルカの目を睨むと、それっきり口を閉ざした。ハルカは渋々諦めた。「さあ暗い話しはこのぐらいにしましょう。今日は祝い酒よ」リリ...キリアド王国真章九十章

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、律氏さんをフォローしませんか?

ハンドル名
律氏さん
ブログタイトル
BLOOD FLOWER (ブラッドフラワー)
フォロー
BLOOD FLOWER (ブラッドフラワー)

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用