國乃礎 さん プロフィール

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國乃礎さん: いしずえ
ハンドル名國乃礎 さん
ブログタイトルいしずえ
ブログURLhttp://kuninoishizue.blog.fc2.com/
サイト紹介文天地万物一体仁の心◎かんながらは世界の心◎人類の母◎地球の故郷
自由文國家は◎国本が守られて◎国体が固められ◎国業が栄えて◎国運が開けて行く

「陽明学勉強会」 参加希望の方は kuninoishizuehonbu@yahoo.co.jp まで御連絡ください
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供350回 / 365日(平均6.7回/週) - 参加 2012/04/26 09:36

國乃礎 さんのブログ記事

  • 第三巻激流の巻
  •  次に考えられることは、本田の再三にわたる皮肉である。わたくしがロシア文学や北欧文学に興味をもつことを、彼は国賊であるかのごとく非難したことがあった。わたくしはそれに反発し、屈服することなく読みつづけた。だが、死産のあと、去年の暮ごろから、彼のかたくなな感情は急に解けはじめたように見えた。すくなくとも、最近の本田には批判的な顔色はなかった。 とすると、次に思いあたるのは去年の秋の村上の豹変だ。崔承 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  次に憶測されることは、戸松が相当な金を妻のわたくしに与えているのではないかと彼らが考えているのではないかということである。堀下夫人が時々わたくしをまごつかせた事があった。牧谷さんの双子の赤ちゃんの宮詣りの着物何んとかしてやったら……赤ちゃんたちに風呂桶買ってあげた方がいいと思うわ……どうして知らん顔しているの……一切の経済的実験を篠原がにぎっていることをよく知っていながら、何回かそういうことを繰 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  彼は自身にみちた眼でいった。内地での決戦の渦巻にもまれてきた彼には、一人の女にむけられた数人の男の批判の嵐など、とるに足らぬ戯事だったのかもしれない。おそらく、彼は今後二度とこの問題を口にすることはあるまい。もし誰かが、再び蒸しかえすようなことがあれば、その時は、彼の癇癪が爆発するときである。 その夜、わたくしは何時までも寝つけなかった。自分の何が、彼らをそこまで憎悪せしめ、排斥せしめたかを考え [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  「せっかく忠告したのに、そんな風に蹴飛ばされては、牧谷さん不服だったでしょうね」 あっさりはねつけられて、牧谷の不満と反感はいよいよ執念化していくのではあるまいか……わたくしは不安であった。牛のように黙々と、鈍重なぐらいゆっくりとしている牧谷の内部に、このように強い反感が充満していたということは、なんとしても驚異であり恐るべきことに思われたのである。 「いや、牧谷はそこまで女々しい男ではない。わ [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  ところが、平素は何でもふんふんと大らかに聴き流している石井が、この時は怒ったんだねえ。社会的には妻は男の内面に属するからなあ。男の無能を嘲笑されたようなものだ。それから石井は牧谷をうるさがるようになった。 牧谷は正直な奴だ。けっして悪い人間ではない。理想ももっているし熱情ももっているいい男だ。だが長上の妻君を眼の敵にする、妙な癖をもっているようだなあ。 ぼくはこういう下らん事で、第二の石井になり [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  石井という人は、部下をよくかわいがった人でね。彼の家には入れ替り立ち替り、部下がおしかけていったものだ。ことに血気の若者がすきな人だったから、ずい分無作法な連中が出入りしたものだ。 石井も時にはうるさく思うこともあっただろう。しかし、それを絶対に顔色に出さない人だった。そこを奥さんが意をくんで、適当にあしらっていたものだと思うね。若い連中にとっては、この奥さんは少々気がねのいる苦手だったわけだよ [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  「あんたはここの寮母ではないからなあ、ぼくの女房だからねえ。牧谷や青年たちの条件や趣味にいちいち合わせているわけにはいかないよ。牧谷がぐちゃぐちゃいうから、『君はぼくを第二の石井にする気かっ』といってやった」 「第二の石井?……」 何のことかよくわからなかった。 「ああ、あなた方の話題になる奉天の鉄道局の総務部長をやっているとかいう石井さんでしょう」 「そうだ、その石井さんだよ。ぼく達の青春には [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  わたくしは無言のまま彼をみつめ、そして深く首肯いた。このばあい「ええ」などという、やすっぽい発生はふさわしくなかった。無言の首肯きは感銘のふかさをしめすものである。 それにしても、戸松がわたくし達の未来に、そのような深遠な理想をえがいていたとは、わたくしの想像をこえたものであった。 そういう夫婦観にたってみれば、牧谷や青年達の中傷は雲か霞のように、稀薄で気まぐれで無責任なものでしかない。山は雲霧 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  「いま拝めというのではない。自然にそういう形がとれるようになるのは、遠い将来のことかもしれない。そこまで互いに精神的に深まっていきたいものだというわけだ。その時には、ぼくもあんたが台所に立っている姿を拝んでいるかも知れないよ。夫婦というものは、相対的に深まりながら一つになっていくものだからねえ。 ビスマークの妻がなくなったのは、あれはたしか、彼が八十一、二の頃だったんじゃないかなあ。もちろん妻も [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  「どうだ、いやか……」 「ううん」 わたくしは慌ててかぶりをふった。夫を拝むということは、今のわたくしには出来そうには思えなかったが、いやだとはいえなかった。   (43 43' 23)にほんブログ村FC2 Blog Ranking [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  あんたはぼくの妻だ、先ずぼくという人間を早く理解してくれ。牧谷や青年たちの機嫌とりに気をとられるよりは、まず第一に自分の夫を研究することだ。そして、深く信じることだ。ぼくの後姿に、そっと手を合わせて拝むところまで、妻として深まってもらいたい」 彼の言葉は、わたくしの心をひっぱって、深い深い山奥のような夫婦の結びの奥底にひきずりこんでいくようであった。そこでは夫がすべてであり、夫の中に神をみること [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  面白いものだよ、人間というものは愛情をもってみれば、善人すぎるぐらいお人よしだし、敵意をもってみれば、すべてが作為と欺瞞にみちて見えるのだ。 ぼくがやかましくいうまでもなく、黙っていても、あんたはこれから色々の面で人にもまれて丁度よくなっていくと思う。しかし、もまれて卑屈になったり低俗化していってはいけない。もまれながらも、超然として生きていくことだ。 あんたがみんなから、憎まれていることを気づ [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  断固とした口調でいってやったのだが、牧谷もしつこく、なんやかんやといっていた。青年たちが快く思っていないばかりでなく、引越していった花野の細君までが、たしなみのない女だといっているというのだ。牧谷は、運動の将来のため、黙視できないから忠告するというのだよ。 今まであんたと一緒に生活してきたところでは、むしろぼくは潔癖すぎるぐらいの善良さに困っていたぐらいだ。病的なほど人に迷惑をかけることをきらっ [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  『性格的なことだ』というのだ。そこでぼくはいった。 『女房の性格的なことについて、君からとやかくいわれる必要はない。それは俺自身の問題だ。女房の教育は俺自身の責任においてすることだ。君たちの眼には未熟にみえても、俺自身にとっては未完成の方が都合がいい場合もある。俺たちは今夫婦としての人生をはじめたばかりだ。一対の人格として完成していくのはこれからだ。君たちの感情的なおせっかいは御免だ。もっとも、 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  『女房がなにか過ちをおかしたというのか。姦通でもしたというのか。』 と、せきこんで聴いた。すると、牧谷は出鼻をくじかれたように眼を落して、 『いや、そういう事ではないが……』と口ごもっていうのだ。 『そういう事でなかったら、どういう事だというのだ』と畳込んでいうと、   (43 43' 23)にほんブログ村FC2 Blog Ranking [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  わたくしは、天井にむいた彼の鼻を、横からじっとみつめていた。寝てみる彼の鼻は、思ったよりは高かった。小鼻は自信にみちて隆起し、鼻先は自尊心にそびえ立っていた。 彼は自分の体温と寝床の温度が調和するのを待っているのか、仰むいたままじっとしていた。あるいは……沈黙のうちに、わたくしの思いを計っていたのかもしれなかった。やがてのこと、彼はいい出した。 「あんたが下に降りていくと、牧谷がいきなり『君の細 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  妻と同志の位置は、いったいどういう関係におかれるべきものなのであろうか。妻もまた同志であるべきではないのか……もしそうだとすれば、同志に排斥される妻は許されるべきではあるまいか。あんたは今までどうり、超然としていたらいいではないか、この話は忘れてしまえ……という戸松の言葉はおかしい。その場かぎりの空虚な慰めだ。みんながわたくしを排斥しているときいた以上、超然としていられるべきものではあるまい。政 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  「この部屋は寒いなあ、風をひくぞ。早く寝なさい」 急に寒さに気づいたものか、すばやく寝巻に着替え、あわてたように蒲団の中にもぐりこんでしまった。 わたくしも横にはなったが、スタンドの火は消さずにおいた。彼からきき出したい事がまだ沢山あるような気がした。しかし、どういう風に問いかけていいものかわからなかった。戸松と牧谷や本田たちのあいだに、自分の位置をどう点在させて話していいのか、見当がつかなかっ [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  「あんたは牧谷から席をはずすようにいわれて、素直に立って行った。そればかりではなく、牧谷に何の疑いも猜疑心も持たなかった。立派なことだよ。 牧谷や本田は、あんたを批判し、非難した。しかしあんたは今まで彼らにたいする非難や不満は一言もいわなかった。これも立派だよ。だから、ぼくはさっき、あんたの勝ちだといったのだ。 あんたは今まで牧谷や本田の非難の眼の前に、何の疑いももたず超然としていられたのだ。そ [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  今度は言葉に出していった。わたくしの顎に手をかけ、ぐいっと自分の方に向かせながら、彼ははじめてほほえんで見せた。不快なものを処分したあとのような、さっぱりした顔色であった。何のこだわりもない笑顔であった。 しかし、わたくしはこだわった。彼がいいすてた不快な言葉は、そのままわたくしの胸の中にずっしりと移されたままになっていた。わたくしにはそれを投げ付けるべき人も、投げ捨てるべき場所もなかった。それ [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •   夫婦の道 「びっくりしたようだなあ、すっかり眼がさめただろう」 戸松は蒲団の下から、ぐいと丹膳をひきぬき、ふわりとわたくしの肩にかけると、その手でばあんと背中をたたいた。 気にするな……大ざっぱで単純な感情のひびきが、背骨に心地よい震動をつたえた。心の衝撃を、ゆさぶりほぐすような温かさがあった。 「気にするな」   (43 43' 23)にほんブログ村FC2 Blog Ranking [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  「わたしが勝ったというのは、何のことですの?一体、何に勝ったというのですか……」 「そんなに驚くな、大したことではない。つまりね、牧谷があんたを排斥しているんだよ。あんたがいては同志の団結の邪魔になるというのだ」 わたくしはぽかんとしたまま、いうべき言葉をしらなかった。 彼ははじめてゆったりとした笑いを見せた。   (43 43' 23)にほんブログ村FC2 Blog Ranking [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  当ったらしい……わたくしは思った。それにしても、今夜の戸松はおかしい。牧谷と三十分ほど話しただけで、なぜこんなに神妙な顔をしなければならないのだろう。 「何か、困った事件でも起きたんですの?」 わたくしは不安げに彼を見上げた。 「いや……」 彼は何かを振り切るように、ぐっと上体をのばした。しばし沈黙の後、彼はいった。 「あんたにはいわないでおこうかと思ったんだが、しかし、いっておこう。あんたの勝 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  出しぬけな質問であった。牧谷から席をはずすように求められても、彼の話の内容までおくそくしてみる気はおこらなかった。男が秘密に語りたいといえば、まず仕事のことか、自分の一身上のことにきまっていると思っていたから、それ程意に止めていなかったのである。 「さあ……何の話だったのかしら……」 一寸考えてから、 「わからないわ……」と、逃げてしまった。ひょっとしたら、長崎の女から来た手紙の事件を話したのか [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  彼はベッドにちかづくと、立ったままじっとわたくしの顔を見下した。心もち硬張った表情であった。 「どうしたんですの?寒いでしょう。早くおやすみになったら……」 もしかしたら、先に寝てしまったことを怒っているのかも知れない……という思いが、ちらっと浮んだ。 だが、彼の顔は怒っていなかった。ひどく神妙なものであった。彼はだまったまま、わたくしの枕元に腰をかけた。そして、おもむろにいった。 「牧谷がどん [続きを読む]