國乃礎 さん プロフィール

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國乃礎さん: いしずえ
ハンドル名國乃礎 さん
ブログタイトルいしずえ
ブログURLhttp://kuninoishizue.blog.fc2.com/
サイト紹介文天地万物一体仁の心◎かんながらは世界の心◎人類の母◎地球の故郷
自由文國家は◎国本が守られて◎国体が固められ◎国業が栄えて◎国運が開けて行く

「陽明学勉強会」 参加希望の方は kuninoishizuehonbu@yahoo.co.jp まで御連絡ください
参加カテゴリー
更新頻度(1年)情報提供355回 / 365日(平均6.8回/週) - 参加 2012/04/26 09:36

國乃礎 さんのブログ記事

  • 第三巻激流の巻
  •  戸松の明日からの運命は、まったく予測もゆるさないものである。南方前線にいくことはたしかであったが、どの方面にいくものか、アメリカ軍とたたかうのか、イギリス軍と戦うのか、かいもく解っていなかった。はっきりしていることは、今夕六時ごろ出発するということと、目的地にいくには、敵の手中におちて死の海と化してしまった南方太平洋をわたっていかねばならないということだけであった。 明日のことを話せば不安となる [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  次に戸松との結婚問題で、家族の意見が分裂したとき「神様のような安部磯雄ほどの人格者が、人物を保障するんだから、上海でも香港でも、どこへでもやったらいいじゃないか」と、最後の断を下したのもこの兄であった。 そして、今また、戸松に出動命令の下った日に、はからずして彼は面会にきたのである。 兄はわたくしたちに、ゆっくり話をさせようと思って先に帰ったのであろうが、二人きりでとくべつ話し合わねばならないこ [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  遠ざかっていく親子の後姿を、戸松はいつまでもじっと見送っていた。「義彰さんは、あんたの兄弟のなかでは一番情があるようだなあ。義理にもあつい人だ。あんたがくる一時間も前から来ていたんだよ。仕事が忙しくて面会にくるのがおくれたといって、ひどく恐縮していたよ」 営門を出るとき、兄はふりかえって、手をあげた。まるくふとった身体が、あたたかい印象を残した。 たしかに戸松のいうとおり、この兄は外の兄弟よりは [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  この時、今まで黙っていた兄が、子供の肩をひきよせながらいった。「それじゃ、僕はここらで失礼することにしましょう。朝飯をろくに食わずに出てきたものだから子供がどうやら腹をすかしているようだから……」 子供は大人たちの対談にあきあきして、さっきから、芝をちぎっては父親の衿首に入れたり、上衣の裾をひっぱったりして、しきりに父親の行動をうながしていた。 兄は立上ってズボンのくずれを直すと、「それじゃあ、 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  • 「それでは、わたしも直ぐ秋田に行って、両親に孝養することにしましょう」 彼の表情に呼応するかのごとく、わたくしも意思表示した。「うん、そうしてくれ」 ふたたび彼は柔和な表情にかえっていった。「父は若いときから病気ばかりしてきたから、孤独なんだよ。母は忙しいし、弟妹は話相手にはなれないし、とにかく淋しい人なんだ。上海での仕事のことなんかくわしく話してやってくれ、勇敢に社会活動するような話が大好きな人 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  • 「人を頼りにしたり苦悩したりするのは、客観的に自分の運命が右にも左にも、なんとか変る可能性があるときだ。 今日中に出動ときまったら、かえって心が落着いてきた。心がきまれば、それがどんな逆境であろうと、俺はただちに環境の主になれる人間だ。有能な兵隊となって、前線へ出動するよ。俺の人生には、そういう体験だって必要なのだ」 彼の頭からは、いつの間にか笑顔は消えていた。鼻尻から両顎にかけて、法令線が頬を劃 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  わたくしは腕時計をみた。まだ七時間余の余裕がある。「それでは、わたし、これから前田閣下のところへ行ってまいります。このことを閣下に報告して何とか善処していただきます」 わたくしの心は?ぶり、声はうわずっていた。自分の怠慢と惰弱が戸松を窮地におとしこんでしまったような、やりきれない悔恨と責任を感じていた。また、こういう衝撃と興奮のあとならば、どんな困難なことでもやりとげそうにおもわれた。「まあ、落 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  • 「びっくりする事はないよ。当然のことだ。いろいろ苦労をかけたね、感謝するよ」 戸松の声は平静でさりげなかった。彼があらたまって「感謝するよ」といったのは、おそらく結婚いらいはじめての事かもしれなかった。彼はその言葉を照れもせず、何気なくいってのけたのである。「いつ……いつ、出発ですの?」 時間があるならば、戸松のために何かを為さねばならない---ぼう然と自失していたわたくしの頭脳も、すばやく廻転を開 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  戸松はにやにや笑いながら、腰の手拭をはずしてぽんと投げてよこした。わたくしはそれをハンケチと並べてしいて、その上にそっと腰をおろした。「とうとう出動命令が出たんだよ」「ええっ!」 居合抜きに、ぱっといきなり切りつけてきたような戸松の言葉であった。不意をくらって、わたくしの心は真っ二つに切りさかれてしまった。今朝からの決意も期待も闘志も、血潮がどっとほとばしり流れていくように、さっと崩れ去っていっ [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  一足先に、わたくしの三番目の兄義彰が、六つになる長男をつれて、面会にきていたのである。なるほど、今日は日曜日であった。面会の人の多いのもその為である。 戸松はにこにこ笑いながら、わたくしの近づくのを待っていた。何か嬉しいことでもおこったのかな---わたくしは或期待を覚えた。 しかし兄の顔は暗くむっつりとしていて、「やあ……」と、みじかく声をかけただけであった。不安そうな眼をいそがしくまたたいていた [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  この着物を身につけると、きみょうに超越的な高貴な気分となり、気弱さや卑屈さを克服することができるのである。わたくしは自らをいじらしく思うほど、一つの決意をもって家を出た。 部隊についたのは、十時ちょっとすぎであった。営門を入ると前庭の芝生に、兵隊をとりまく面会人が、それぞれグループをなして一面にちらばっているのが目に入った。 兵舎にむかって、まっすぐに歩いていくと、横手の面会群の中から、「おいお [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  今日こそ、きっと解決してみせる---わたくしは自らの心に言明した。 まず最初に、戸松の了解をえ、その足で荻窪の前田邸をたづねてみよう。そして、戸松が反国家的な反戦主義者ではないということ、彼のように中国の民心に通じている人間を、中国からひきぬくということは、国家の損失であるということなどを詳しく手紙にしたためてもらおう。閣下が手紙を書いている間待っていて、今日の中にかならず手に入れ、明日早朝、半田 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  武蔵野の空はからりと晴れ上り、空気はすがすがしい活力にあふれていた。大地は生命的エネルギーにみちみちていて、庭の一点をみつめていると、只それだけで其処からむくむくと何かが萠え出してくるように思われた。 手入れのゆきとどいている草花も、むしり残された雑草も、太陽の光のもとに、ひとしくみずみずしい緑の美しさにあふえていた。刻々の変化が感じとられるような、生々とした生の美しさであった。それは一瞬一瞬、 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •   出 動  動員令 もはや五月であった。 能代にかえった鈴木二郎氏からは、一週間たっても何の音沙汰もなかった。 疲れがよほどひどかったのか、それとも、家族にひきとめられているのか、四、五日したら必ず又出てきますと云った彼の言葉は、強硬に云いはっていただけに、腹立たしい失望を感じさせた。 肺病患者を当にしていつまでも待ってはいられない。前田中将がまだ歩けないようであれば、手紙を書いてもらって、半田 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  そのうえに、何とかして生活が立つようにしてやりたいといって、家内にミシンを買いそれで内職するようにすすめてくれたり、色々世話をやいてくれました。戸松さんは、わたしの生涯の唯一の生きる希望なんだ。日本にとっても、あの人は希望となる人だ。ほんとうですよ、奥さん……とにかく、わたしはもう一ぺん、東京にかならず出てきます」 電車がつぎつぎと、ものすごい轟音をたてて入ってきては出ていった。鈴木氏はいつまで [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  • 「奥さん、あんたは御存知ないかもしらんが、わたしは戸松さんには並々ならぬ友情をうけているんですよ。 わたしの子供が、立って歩き出したころ、足がひどく蟹股だということがわかって、今の中になおさないと一生本人が苦しむだろうというので、わたしも家内も気が気ではなかったんです。丁度わたしが発病したころだしね。子供の足のことにまで金がまわらなかったんですよ。 その時、戸松さんが有り金をなげ出して、先ずこれで [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  • 「いえ、もう出ていらっしゃらなくても結構ですわ。あとは運にまかせるより仕方がありませんもの。それよりも、今度は御自分の身体を大切にして下さい」 わたくしは、もう彼には上京を思いとどまってもらいたかった。この上彼の病気を悪化させるようなことになったら、彼の療養のためにぎせいを払っている家族の人々にすまないと思ったからである。「そういうわけにはいきませんよ。わたくしと戸松さんの間柄は、そういうわけには [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  わたくしは彼をいたわってやりたかった。長い療養生活で体力が衰えているにもかかわらず、神経をつかいながら毎日活動しつづけたのである。「苦しいんですよ。もう気胸をしてもらう時期なんです。それで、よけい苦しいんです」 彼は眼をつむって、胸をぐっとはるようにした。わたくしには肺患者の苦痛はわからない。おそらく、胸のつまるような息苦しさではあるまいかと察した。「奥さん、わたしは一度秋田に帰ってきます。気胸 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  外に出ると二郎氏は、「ちえっ、来なければよかった。戸松さんの運勢と俺の運勢が逆だなんて、そんな馬鹿なことがあるもんか。ヘボ易者めが……」とぶつぶつ不平をこぼしながら歩いた。 飯田橋駅のプラットホームに出ると、二郎氏は少し休みたいといって、ベンチにどっかと腰をおろしてしまった。顔色が青ざめ、眼がしょぼしょぼと力なくまたたいていた。「疲れたでしょう」   (43 43' 23)にほんブログ村FC2 Blog Ranking [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  わたくしはすっかりしょげこんでしまった二郎氏をうながして、これからの運勢を見てもらうようにすすめた。二郎氏の手相、人相をくわしくしらべていた易者は、「あんたの病気は長びくがなおりますよ。長生きするよ、あんたは。仕事は建築業なんかがむいていますねえ。 ああそう、満州で建築をやっていたんですか。それじゃ、病気がなおったらそれをやりなさい。一番むいていますよ。 あんたは親分肌の気の大きなところがあるが [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  しばらくの間、筮竹をかぞえては算木を動かしたりひっくり返したりしていたが、「これは、ちょっとむずかしいなあ、この人は前線へ行くようになるなあ。先輩や友達のたすけはこの人の場合役にたたないですねえ」といった。そういう解答は、時局がら誰にも考えられる常識論だ。わざわざ易をたてて判断するまでもないことだと、わたくしは腹立たしさを感じた。「そうですか……」 二郎氏はがっくりとうなだれてしまった。「この方 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  • 「じつは、わたしは今友人のことで、いろいろ奔走しているのですが……はっきりいいますと、その友人は憲兵に誤解されまして、反戦運動をしたというので召集されて、上官からも注意人物扱いされているのです。 彼をよく知っているある有名な高級将校が、彼を弁護するために、聯隊へ行ってやるというのですが、今足に怪我をして、しばらく動けそうにないんです。これは成り行きをじっと待っていても、希いどおりになるもんでしょう [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  二郎氏は、戸松の顔さえ見ておれば機嫌がよかった。戸松のそばにいると、彼自身の内部から自然と希望がわいてくるらしい。「なに、閣下の足が四、五日たってもよくならなかったら、わたしがおんぶしてでも連れて来ますよ」と力んでみせた。 とにかく、この問題は四、五日停滞状態にはいってしまったのだ。二郎氏は帰りに易者によって、この問題がどうなるか、又自分の病気はなおるかどうか、見てもらいたいと云った。戸松は彼の [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  • 「前田さんの足のなおるのが長びくと困るなあ。何時ごろになったらなおるかなあ……」 歩きながら、時々ぼそぼそとつぶやいていた。 翌朝、わたくしたちは、又聨隊に行った。戸松に事情を一時も早く知らせてやらねばならないと思ったからである。「やっぱりそうだろう。何か突発事故がおきたのだろうと思っていたよ。仕方がないさ。運命というものは、そうしたものさ。しかし、閣下には気の毒だったなあ」 戸松はがっかりした様 [続きを読む]
  • 第三巻激流の巻
  •  わたくしたちは、云うべき言葉もなかった。自分が怪我をさせたように、ただ「すみませんでした」とくりかえすだけであった。「三、四日待ってくれよ、な……」 べそをかいたように恐縮しきっている二郎氏に、気合をいれるかのごとく、中将は明るく闊達な声でいった。 二郎氏は、ひどく神経質になっていた。 夕食の時間は大分すぎているのに、腹がすいたということを一言もいわない。何事かをくよくよと思いまどっている風であ [続きを読む]